朝 許都 晋国総会
元は玉座の間といわれた許都の城の一室で、元三国の主要メンバー(文官)が集まっていた。
議題は最近の政から治安について、はたまたガールズトークも混じるが今回はそれだけではなくある問題が彼女らの中で浮き上がっていた。
「北平で反乱の兆し、ねぇ・・・どう思う?冥琳」
「さぁな、しかし敵とみなされる人物が1人だけだったというのも気味の悪い話だ」
「それについては、凪達から報告があったけど、敵・・・この人物は兵を1人も傷つけずに去っていったそうよ」
桂花の指示で、全員に人相書きが配られる。
それは、黒い仮面をつけ、黒髪に黒いマントといった黒一色の男だった。
真桜が一刀から得た知識で作った「えんぴつ」で描いたため、より精巧な姿形となっている。
「へぇ~結構カッコいいかもね」
「と、桃香様!いきなり不謹慎ですよ!」
「しかし愛紗?こういう男がお前の好みではないのか?」
「せ、星まで・・・!」
「はいはい、ほんわか話はそれくらいにして先に進みましょー」
「こ、これは風殿。すまない」
ゴホンと一呼吸をし、話を進める桂花。
「とにかく、明日は年に1度の三国統一記念日。まだ2度目とは言え大陸全土ででお祭りをする。ましてやこの許都は晋の首都、一番大きなお祭りになるわ・・・もし謀反や乱があるとするならこの騒ぎに乗じてくるはずよ。それが積極的であれ消極的であれ、ね」
「それはありますね、朱里さんと雛里さんはどう捉えますか?」
稟にいきなり話を振られて朱里は飲んでいたお茶を噴出しそうになった。
「はわっ!・・・え、えーっと、私も同じだと思います。そういう不穏分子の存在は聞いたことはありませんけど・・・」
「あわわ、報告には上がってきてない、でし、あぅぅ噛んじゃった・・・」
魔女帽がふるふると揺れる。
「じゃあ稟、風、あとはよろしくね」
「解りました。では、明日の祭りの警備は北郷隊を中心に呉蜀の方々にもにも協力を仰ぎましょう」
「なら呉からは思春と明命を参加させましょう。城の警備に回していいかしら?」
「お願いします、蓮華さんに指揮をとってもらいましょう」
「承知した」
「では次、街には地区によって重装軽装を分けましょうー」
「なるほど、我らが蜀の兵も喜んで参加しよう」
祭りの最終調整のために席を立った桂花の代わりに、稟と風が警備担当となった。
配置などの取り決めのために部屋に入ってきた凪達3人とすれ違いながら、桂花は物思いに耽っていた。
(明日は、華琳様の命日でもあるのよ・・・あと、あの馬鹿のね・・・)
クッと下唇を噛み、廊下の壁を叩く桂花。
警備兵や給仕の人達が振り向くが意に介さない。
祭りは、今始まろうとしていた。
翌日
この日は成都での最終決戦のあった日である。
大陸の人々は統一した魏を崇め、新国家晋の誕生を祝いその繁栄を願いお祭りをする。
今、大陸各地の都市や村で賑わっていない所は無いほどであった。
許都は首都だけあって、無論他には無い熱狂的な盛り上がりを見せている。
街道には出店が並び、パレード的なものが練り歩いているて、それに加えて大道芸人や武道家達を各国から募って大会も開いていた。
そして何より、数え役萬☆姉妹(シスターズ)のライブが、一番この許都を熱気の渦中に巻き込んでいた。
しかし、祭りには喧嘩やよからぬことも多々あり、それを防ぐのが北郷隊と蜀の衛兵である。
見通しが良く比較的警備しやすい場所は蜀の兵が、裏路地や見通しが悪い場所は地理に明るい北郷隊が警備をしている。
城の中は普段の倍の人数の警備を回し、裏の部分は蓮華の指揮の下思春と明命をはじめとする忍部隊が警備していた。
(先週のうちに各都市には警戒を怠らないよう注意をしてあるが・・・果たしてこれで大丈夫なのだろうか)
魏の将夏侯淵こと秋蘭が喧騒に沸く街を城から眺めながら考え込んでいた。手には昨日渡された人相書きがある。
(真桜が言うにはこの男、数百の兵士の中を潜り抜けて城門にたどり着いたらしいが・・・そのような者がいるとしたらこの警備も・・・)
「おーい秋蘭ー!祭り行かないのか?」
姉の春蘭に呼ばれ、我に返る。
「ん、ああ・・・それじゃ、行こうか姉者」
「おう!今日は武道大会があるからな!優勝した奴と戦うのが楽しみだ!!」
春蘭の明るさは大抵の悩みなど吹き飛ばしてしまうほどに陽気なものだ。しかし、秋蘭のこの懸念だけは、この太陽でも拭うことが出来ていなかった。
大通り
三国会議への出席のためとは言え、許都は観光地だ。
桃香は姉妹2人を連れて一番賑わっている大通りを護衛も付けずに歩いていた。
「しかし、星も来ればよかったのにな」
「仕方ないよー警備隊に行っちゃったんだし」
「星が率先して警備に回るなんておかしいのだ!普通だったら祭りを楽しむ側に回るはずなのだ!」
話題はここにはいない蜀の仲間の話だった。
「あの星が急に真面目になるとは思えんが・・・ん?」
「どしたの?愛紗ちゃん」
「はーーーーっはっはっはっは!」
愛紗の視線の先には屋根の上を駆ける白い姿があった。
「我こそは華蝶仮面!さぁ、祭りを邪魔する阿呆共を探し出して成敗してくれよう!!」
「おおー!華蝶仮面だ!」
「あの華蝶仮面だって!」
「すげー!本物だー!」
華蝶仮面の立っている屋根の下に人々が殺到する。
「キャー!華蝶仮面様ー!!」
無論それは桃香も同じであった。
「ちょ、桃香様!」
「おねーちゃんが人の波に飲まれていったのだ!」
鈴々が桃香を追って人ごみに飛び込む。
ため息をついて愛紗もそこに行こうとした瞬間、自分の肩に誰かがぶつかるのを感じた。
「あ、すまない・・・ん?」
肩にぶつかった人物は愛紗より頭ひとつ分ほど高かった。
顔は見えなかったが黒髪に、黒いマントと異様な服装だ。
傍らには、愛紗より低い、呉の亞莎ほどの身長の少女。
彼女はマントではなく、キョンシーのような中華服に身を包み、薄い桃色の紙を腰まで下げている。
「今の御仁は・・・?」
その問いに誰も答えることは無く、愛紗の呟きもまた人ごみの中へ消えていった。
とある路地裏
そこには6人の灰色のローブと、1人の白いローブの男がいた。
足元には兵士と思われる鎧がまた7人分転がっている。
「時は来たり・・・今こそ我らの本懐を見せるぞ」
「「「「「「ハッ!!」」」」」」
許都城 正門
黒いマントの男とその隣に居る少女が兵士に止められていた。
「何だ貴様は、ここは関係者以外立ち入り禁止だ。祭りなら他でやってこい」
「待てよ、この男・・・人相書きの・・・!」
その瞬間、2人の兵士が硬直した。
1人は目の前の男にされたことによって、
そしてもう1人はその光景に唖然としてであった。
男の手には、30cmほどの剣の柄が握られている。
剣では無い。柄だけなのだ。
マントの隙間から伸びた光は片方の兵士の喉を貫いていた。
その光源は男の持つ棒。それはまるで光の刃であった。
「こ、コイツ!敵襲ー!敵襲だーーー!!」
兵士の発した大声に、城の中から数人の兵士達が出てくる。
男は仮面の下の目を光らせながら少女に言った。
「時間が無い、正面突破だ・・・行くぞ」
その言葉に少女もまたコクリと頷く。
2人はゆっくりと、兵士達に向かっていったのだった。
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誰が喋ってるかわかりにくいかもしれませんが頑張ってください!