真恋姫無双 幻夢伝 小ネタ 3 『その頃 徐州の場合』
新領主に代わってから徐州は平和になった。
以前までは青洲などからあふれ出た黄巾族が暴れていたが、黄巾族鎮圧に大貢献した劉備が太守になってから、その名声を恐れてか息をひそめるようになった。何も無い日常に徐州の民はつかの間の平穏を取り戻していた。
勿論彼女一人のおかげではない。一騎当千の関羽・張飛姉妹。すでに名高い名軍師の孔明。そして天の御使いと噂されている北郷一刀。この全員の力・権威を恐れてのことだろう。
しかし安穏無事な徐州に一通の書状が届く。歴史は彼らを放ってはおかなかった。なぜなら彼らはすでにこの時代の主役たちであったから……。
「皇帝の密書?」
「はい。今日の未明に届きました」
朱里の小さい両手に収まっている手紙を、一刀は片手で何気なしに受け取った。“皇帝の手紙”に何の権威も感じていない。やはり天の国から来たんだなあ、と朱里や傍にいた桃香は驚きを交えてそう思った。愛紗に至っては尊敬すら抱く出来事だった。…何もリアクションしない鈴々は特殊例だ。
「………」
「ご、ご主人さま?」
「読めない」
ガクッと拍子抜けする桃香たち。達筆すぎる筆跡はまだこの時代に来て間もない彼には厳しかった。すでに簡単な字が読めるだけでもすごいと褒めるべきだろう。
代わりに受け取った桃香がその手紙を読む。
「桃香様、どういう内容ですか?」
「ん~とね。董卓っていう人が都で悪さしていうから、追い払ってほしいって」
あまりに軽い説明に愛紗は「はあ」と曖昧に返事しかできなかった。しかたなく朱里を見た。彼女は頷いた。どうやら本当にそういう内容らしい。
「それで…どうしようか?」
「どうしようかって?」
「ご主人様。桃香さまがおっしゃりたいのは、董卓討伐の兵を挙げるかどうかということでしょう」
愛紗のセリフに乗っかるように、桃香は大きく頷いた。“董卓”このワードを聞いた瞬間、一刀の考えはもう決まっていた。
「倒そう!董卓を!」
「ま、待ってください、ご主人様!?」
「はわわ」と慌てる軍師が制止した。勿論この先の歴史を知っている一刀には“董卓討伐軍”の文字が頭に浮かんでいる。劉備軍がもっと拡大するチャンス。彼はそう捉えていた。
しかし“この時代の”軍師はある疑問を持っていた。
「董卓さんが悪い人だって言うことが、その、あまり信じられなくって…」
朱里の言葉に愛紗は反論する。
「しかし都で権力を笠に悪事を働いているとは、最近もっぱらの噂だぞ?」
「鈴々もすっごい悪い奴だって聞いたことがあるのだ!」
鈴々は机に乗り出すように意見を述べる。正義感から湧いてくる怒りと共に。しかし朱里はあくまで冷静だった。
「でも……そういう噂が出てきたのは本当に最近なんですよ。誰かが広めたかもしれません」
「それに徐州は平和になったばっかりだよ?兵を挙げたらみんなに迷惑なんじゃないかな」
「でも!いま兵を挙げないと!」
朱里や桃香の消極的意見に一刀は声を荒げる。だが、いきなり議論は打ち切られた。どこかから鳴る「グゥ」という音に皆の緊張の糸が切れる。
「お兄ちゃん、それよりも鈴々はお腹が減ったのだ」
そういえば、朝起きてすぐ集められたから朝食はまだだった。愛紗はため息をつき、朱里や桃香は笑い声を漏らした。一刀も思わず笑ってしまう。
「鈴々!重要なこ「まあまあ、確かにお腹減ったね」桃香さま!?」
「続きは朝食を食べてからでいいかな」
「はい」
三人の言葉に、愛紗はさっきよりももっと大きなため息をついた。仕方なく席を立って四人について行く。鈴々を先頭にして一行は会議場を出た。
朝日が注ぎ込む廊下を五人が歩いていると、「あっ」と朱里が声を上げた。
「はわわ、ごめんなさい!今日、朝から使用人部屋が工事でした!それで、今日は料理人さん、いないです…」
「えー!お腹、ペコペコなのだ!」
「仕方ない。じゃあ朝飯は外で食べようか」
「そうですね、ご主人様」
「あの」
全員が愛紗の方を向いた。
「もし良かったら作りましょうか?」
「誰が?」
「私が」
「何を?」
「朝食を」
一刀の顔を見ながら顔を赤らめる愛紗を後目に、この時、全員の気持ちが一致した。
(それは嫌だ)
(それはちょっと…)
(あう…嫌です)
「それは嫌なのだ」
「「「口に出したら駄目だろ(だよ/ですよ)!!」」」
バッと三人が振り向いた。そこには穏やかな朝の光とは全く似合わない、表情が消えた愛紗がいた。三人の顔が思わず引きつった。
「…ほう」
「だって愛紗の料理はマズイの「バ、バカ!」
鈴々の口を慌ててふさいだ一刀は、その時、ブチッと何かが切れる音が聞いたような気がした。一刀が見た先には……
一刀はこの後のことを“惨劇”と表現したとだけ言っておこう。これはあまりにも悲惨な事件であった。それを表現するには、申し訳ないが作者の技量はその域に達していない。本当に残念だ。後は読者の想像にお任せしよう。
余談になるが、愛紗がこの後作った朝飯も、その惨劇の中に含まれるそうだ。
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小ネタ第三弾。一応次の本編に繋がった内容です。