No.545268

真・恋姫†無双 ~雲と蓮と御遣いと~ 1-34

全体的な更新間隔で言えば一週間。
しかし!この作品だけの更新間隔で言えば、なんと一週間と6日!
開け過ぎた……と思う反面、2週間にならないで良かった、と安堵する作者がいます。

殆んど2週間と同じようなもんだって?

続きを表示

2013-02-17 02:05:18 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:7975   閲覧ユーザー数:6066

 

 

 

 

 

翌日

 

 

洛陽にて一夜を過ごした反董卓連合一行。

 

朝の大分早い時間だというのに、辺りは既に喧騒に包まれていた。

 

昨日に引き続き炊き出しを行う桃香達と、一部の公孫賛軍の面々。

 

 

そんな中、一刀はというと――

 

 

「いててて……昨日は酷い目にあったな」

 

 

肩や腰を擦りながら街の中をぶらついていた。というより、ふらついていた。

 

 

擦ったり揉んだりして痛みを和らげようとしながら、昨日のことを思い出す。

 

 

愛紗と馬超に理不尽な理由で追い掛けられ、無理をし脚を捻って捻挫。

その拍子に近くにあった木造りの今にも倒れそうな廃屋にダイブ。大怪我こそはしなかったものの、打ち身やら捻挫やら、おまけに微妙に傷が開きかけたりと踏んだり蹴ったりの有様だった。

 

まあその後、さすがにやりすぎたと謝罪をした愛紗と馬超に手当てをしてもらったから、それはそれで嬉しかったけど。というかその過程で何故か馬超に真名を預けられてしまうし。

 

 

 

――い、いやほら。こんな怪我させといて手当てだけじゃ割が合わないだろ?――

 

 

 

別にそんなことはないと伝えたにも関わらず、馬超は頑なに譲らなかった。

最初は俺の胸から滲み出た血を自分のせいで怪我をしたものだと勘違いしていたらしい。

 

後でそれに気付いて複雑な顔をしていたが、どうやらそれは真名を預けたことと別問題だったらしい。

 

一応、蒲公英が真名を許しているからとも言っていたが。

 

そも、この世界で真名は大切なものである、ということは明白なのだが、同様に一度真名を呼ぶことを許した相手に対しそれを取り消したり、自分から呼ばないように言うのは礼を失するという行為を越えた話であるらしい。

 

それらの行為はその相手と決別したり、二度と顔も見たくないという意思表示とのことだ。

 

そりゃあ確かに無闇やたらに預けた真名を取り消せもしないわけだ。

 

 

 

――と、そんなことを考えながら歩いていると、一際大きい音が響いている通りに差し掛かる。

 

街の中心部から外れ、ここは街の端の方。建物の損傷状態が激しい地域だった。

 

そんな建物を、屋根に乗ったり柱を押さえたりして修繕する紺色の一団。

 

 

「……曹操軍か」

 

 

 

「あら、確か北郷だったかしら?」

 

「ん、曹操」

 

 

後ろから掛けられた声に振り向くとそこには小柄なツインドリルの少女。

 

その後ろには背後霊のようにピッタリと、夏候姉妹が張り付いていた。

 

一応言っとくけどあくまで例え。物理的にピッタリと張り付いてるわけじゃない。

 

なんとなく、この姉妹なら張り付きかねない気はするけど。

 

 

「なんだ貴様その気の抜けた反応は!華琳様がわざわざ気に掛けて――」

 

「そんなことで一々声を荒げるのは止めなさい春蘭。無視されたわけでもあるまいし」

 

「む、むぅ……。それはそうですがぁ……」

 

「まあまあ、惇ちゃん。そうカッカしてもええことあらへんで?」

 

 

にかっ、と無邪気な笑顔を浮かべて夏候惇の肩を叩く、胸にサラシを巻いた少女。

 

なんとなく賭博場や酒が似合いそうな雰囲気を感じた。

 

 

「あれ?その娘は初めて見るけど」

 

「ウチ?ウチは張遼言うもんやけど白い兄ちゃん。知っとる?」

 

「いやいや、知らないほうがおかしいだろ。そっか、そういや曹操の軍門に降ったんだっけか。つーか白い兄ちゃんって」

 

「あら、名前を聞いていないのだからその辺りが妥当じゃない?あなたの言う通り、我が軍門に降った、神速を謡われる張文遠よ」

 

 

自慢げな顔を向ける曹操を見て純粋に、意外だな、と感想を抱く。

なんとなくだがこの少女はあまりこういう表情をしないだろうと漠然と思っていたから。

 

とはいえ、自身のやったことを自慢げに語ることはあまりないのだろう、という考えはそのまま残ったが。

 

 

「そういう異名も結構重いんやけどなー。まあ期待されとる内は気張るで?」

 

「そう。それはあなた次第よ張遼。無能には興味無いもの」

 

「キッツイお言葉で」

 

「あまり褒められたものではないわね、その解答は」

 

 

曹操の視線が俺の言葉を受けて若干冷やかなものに変わる。

 

 

「それは自分を無能だと認めている者の答えよ。そして部下の無能は大将の無能とも結びつく。……公孫賛の名をを貶めたくないのであれば自重したほうが賢明よ」

 

「……どっちにしろキツイ言葉だな。でもサンキュ、それは嫌だからな。気を付けるよ」

 

「さんきゅ?」

 

「そうだそうだ!華琳様の有り難い言葉に感謝するのだぞ!」

 

 

曹操の疑問の声が夏候惇によって掻き消された。

 

 

「姉者も張遼に引けを取らぬよう頑張らなくてはな」

 

「無論だ、秋蘭!華琳様との閨を独占するくらいの勢いで活躍するつもりだからな!」

 

「それは私も困るからほどほどにな、姉者」

 

「あー、なるほどね。やっぱそういう関係なのか」

 

「興味があるのかしら?」

 

「さあ、どうかな?まあそれ自体を否定する気はないよ。好きな人は好きでいいんじゃないか?趣味嗜好は人それぞれ。それを肯定する権利も否定する権利も他人には無いからな」

 

 

曹操の挑み掛けるような、それでいて愉しんでいるような問い掛けに肩を竦めて答えた。

 

 

「あら、大分考えが柔軟ね」

 

「どっちつかずって言ってくれても構わないけど。……ああ、そんなことより夏候惇。左目は大丈夫なのか?」

「む、知っているのか」

 

 

ここに来て初めて夏候惇が警戒以外の関心を一刀に示した。

 

 

「知ってるも何もその眼帯、汜水関の時には付けて無かったろ。負傷したって聞いたけどそれってやっぱり……」

 

「……ああ。この左目だ」

 

 

そう言って夏候惇は悔しそうに下唇を噛んだ。同様に、張遼も。

 

 

「ウチとの戦いの時に、な。ウチも惇ちゃんも目の前の相手で手一杯やったからそんなとこまで意識が向かへんかった。今となっては誰が射ったんかも分からへん」

 

「張遼と夏候惇……虎牢関。やっぱりおかしいよな……」

 

「おかしい?貴様……秋蘭から貰ったこの蝶の眼帯を愚弄するかぁぁぁぁ!!!!」

 

「そんなん一言も言ってませんけど!?ちょ、ま、物を投げるな!痛い!マジ痛いから!」

 

 

なぜか勘違いした夏候惇が怒りで顔を赤くし、辺りに置かれていた補修用の木材を一刀に投げつけ始めた。

 

大小様々な木材達の乱舞に、絶賛負傷中の一刀は反応しきれない。

 

とはいえ大怪我だけは避けねばと、大きい木材だけは命懸けで回避する。

 

その弊害で小さな木材や木端はちょいちょいヒットしていた。

 

 

「はあ……それぐらいにしておけ姉者。働いている者達に迷惑だ。これ以上やると姉者がその遅れた分を取り戻さなくてはならなくなるぞ?」

 

「む、それは不味い。華琳様と共にいる時間が少なくなるのは嫌だ」

 

「なら、その両手で抱えた物を降ろしてくれ。それは流石に洒落にならないだろう?」

 

「秋蘭が言うなら仕方あるまい。おい、良かったな北郷とやら」

 

「なんも良くねえ……」

 

 

大小様々な木材の下敷きになっている状態のままで、一刀は恨みの言葉を呟いていた。

 

そんな状態の一刀の前に曹操がしゃがみ込む。

 

 

「楽しそうね」

 

「……お前がな。だいぶ楽しそうな顔してんぞ」

 

「無論、楽しいけれど?」

 

「もうなんでもいいです……」

 

 

一刀は半泣きのまま、ガクリと顔を伏せた。そこに――

 

 

 

ダンッ!

 

 

 

「ぐおっ!」

 

 

突然上から飛来した圧迫感に一刀は堪らず呻き声を上げた。

だが悲しいかな。今、一刀の視界は前にしか開けていない。

 

何が起こっているのかを確認するのは不可能だった。上から圧迫されているのなら尚更。

 

 

「華琳さん!私に無断で何をやってらっしゃいますの!?」

 

 

「踏んでるっ……踏んでるってぇ……!」

 

 

ちょうど埋もれた一刀が見えない位置から現れた袁紹が、木材の山(※注※ 下に一刀がいます)を再びダンッ!と踏みつけた。

 

 

名族の意地なのだろうか?少しでも高いところに立ちたいらしい。

 

 

少なくとも今は止めて欲しいものだ。だって、死んじゃう。

 

 

「そーなのじゃ!妾達に無断で事を進めるとは、ごんごどーだんなのじゃ!」

 

 

「さすが美羽様、そんな難しい言葉を使えるなんてー!」

 

「当たり前なのじゃ!妾は名門袁家の袁公路なるぞー!」

 

「……また鬱陶しくて頭の痛くなるのがぞろぞろと」

 

袁紹、袁術、張勲の三人を見て、曹操はこめかみを押さえた。ただでさえ袁家は嫌いだというのにこの三人を一気に相手するのは疲れるのだろう。本気で嫌そうな顔を隠しもしなかった。

 

「聞いていますの華琳さん!?」

 

「聞いているわよ。何をやっているか、だったわね。見て分からない?街の修繕をしているのだけれど」

 

「そこは問題ではありませんわ!私が言っているのは盟主である私に無断で――!」

 

 

「ああ、許可なら貰ったわよ。陛下に」

 

「陛下より私に――陛下ですってぇぇぇ!?」

 

 

袁紹が驚愕の声を上げて仰け反る。同時に脚に力が加わった。

ミシミシと木材が音を立てる。ついでに一刀の身体もミシミシと音を立てていた。

 

 

「なんで曹操如きが陛下の許可を貰っておるのじゃ!?」

 

「……如きと言った件については後回しにしておきましょうか。陛下の元に直接私と繋がりのある者が居てね。大長秋を経由して許可は既に貰っているのよ」

 

「だ、大長秋ですって!?なんでそんな方と貴女が繋がっていますの!?」

 

「だ……だいちょうしゅうってなに……?」

 

「皇后府を取り仕切る宦官の最高位。華琳様の祖父が何代か前の大長秋でな、その繋がりがあったからこそ陛下に許可を貰ったのだ。……大丈夫か?」

 

「あんまり大丈夫じゃないかも……。教えてくれてありがと、夏候淵っ……」

 

「あ、ああ」

 

 

律儀に答えた夏候淵が若干引き気味に安否を気遣うが、一刀は殆ど限界に近かった。

 

 

やべ、死ぬ?これ死ぬ?

 

 

「きーっ!それを言うなら私も三公を輩出した袁家の長!貴女なんかに負けてはおれませんわ!」

 

「妾もそうなのじゃー!七乃、急ぐぞよ!」

 

「あらほらさっさー」

 

 

ふっ、と上から重さが消えると共に遠ざかって行く足音。

 

袁紹と袁術、そして張勲は脱兎の如く駈け出した。

しかし、なぜかピタリと袁紹の足が止まる。充分距離を取ったところで振り向き、そして。

 

 

「この、タマなしーっ!!」

 

 

「……」

 

 

女の子がセレクトする罵倒のチョイスとしてそれはどうか、という暴言を残し、去って行った。その場に残された曹操一行は何とも微妙な表情を互いに浮かべていた。

 

 

「……そりゃあタマは無いでしょうよ」

 

「……」

 

「おーい大将?この白い兄ちゃん息してへんで?」

 

 

曹操の表情が一瞬固まった。

 

 

「え?……春蘭、霞!い、急いで引っ張り出しなさい!」

 

「気乗りはしませんが……華琳様の命とあらば」

 

「仕方あらへんなあ」

 

 

こうして、三途の川の淵を彷徨っていた一刀は無事救出されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いててて……さっきは酷い目にあったな」

 

 

あれ?これなんてデジャヴ?そう思いながら身体の節々が痛いことに首を捻る。

 

なんか少しだけ記憶が飛んでる気がした。

夏候惇と張遼に木材の山から引っ張り出されたらしい。

 

なぜ俺はそんなところで寝ていたのか?まったく見当も着かなかった。

 

 

確か昨日は愛紗と翠に追い掛けられて怪我して、そのまま安静にしてろって言われて隔離されていた筈だ。

 

隔離の首謀者は白蓮と星、燕璃と舞流と雛里。おまけに月と詠。

要は公孫賛軍の全員だ。捻挫と打ち身で上手く動けないのを良いことにしばらく動くなとのお達し。

 

普段なら無理してでも手伝おうと思うのだが、どうにも心配そうな表情には弱い。

 

まあ、有り難かったけど。

 

実際、呂布から受けた傷はそこまで深くない。だけど同じように決して浅くも無かった。

 

ぼろい廃屋にダイブしたくらいで傷が開くんだから当たり前と言えば当たり前だ。

 

なんか原因が他にあるような気がしないでもないけど。

 

 

あの天下無双の呂奉先に斬られて生きている方が不思議なのだから、これだけで済んだのは僥倖だろう。

 

今のところ皆に気付かれていないのが唯一、幸いだった。

 

 

身体の節々の痛みを無しにしても時々胸の傷が疼く。

そんなことを言ったらそれこそ入院――とまではいかないけど、皆のことだ絶対安静を言い渡されるに違いない。

 

 

「心配してくれること自体は有り難いんだけどな……っと」

 

 

路地の外に一歩足を踏み出そうとして上がっていた足をゆっくりと戻す。

路地の先、路地から出て左に曲がった先の方から漏れ聞こえる声があった。

 

 

「これは……光……」

 

「おそらく……玉璽……」

 

 

単語に反応し、口が勝手に言葉を漏らした。

 

 

「……玉璽?」

 

「――!!誰だっ!」

 

 

やべっ!見つかった!

 

 

見えていないにも関わらず、声の方向から殺気が放たれる。

別に疚しいことしてたわけでもないし大丈夫だよな。どっちにしても選択肢はひとつしかないけど。

 

 

「あー……こんちわ」

 

「なんだ、北郷か。驚かせるな」

 

 

手を軽く上げて出てきた俺に、周喩が抗議の眼を向ける。

そこには小量の疑いの色と、珍しく安堵の色が見て取れた。

 

見れば周喩だけではなく孫策、そして銀色の髪をした女性の計三人がその場にある井戸を囲んでいた。

 

 

「北郷、盗み聞きって趣味悪いわよ?」

 

 

非難する言葉とは裏腹に、どこかからかうような笑みを向けてくる孫策。

 

 

そんな様子に少し安堵しつつ、俺は肩を竦めた。

 

 

「俺も今ここに来たばっかだし、盗み聞きってほど何かを聞いたわけじゃないよ。だからその評価は取り下げてくれると有り難いんだけど」

 

「ふーん……そっか。何か聞いた?」

 

「いんや、何も。耳に入った単語で気になったのって言えば“玉璽”ぐらいかな」

 

 

 

ふと先刻耳に入った単語を口にし、改めてそのことについて考える機会を得た。

 

 

いくつかの符号。孫家、玉璽、そしてここにある井戸。

 

どことなく隠し事をしているかのような雰囲気。

 

そこから導き出される答え。三国志の歴史、というか知識を脳内で紐解いていけば明らかだった。

 

 

「ああ、玉璽って“伝国の玉璽”のことか」

 

「――!!……北郷。何も聞いていないのでは無かったのか?」

 

 

周喩の眼がスッと細められる。

同時に孫策と銀髪の女性から、警戒の色が強くなった。

 

 

美人には笑顔でいて欲しいんだけどね、極力。

 

 

だってこの世界の娘達って凄んだりすると結構威圧感あるんだよ。美人揃いだから特に。

 

 

「玉璽って言ったらそれぐらいしか思いつかなかっただけだ。というか周喩。その聞き方じゃ、聞かれたくないことを聞かれたって言ってるのと同じじゃないか?」

 

「む……」

 

「あはは!冥琳が失敗するなんて珍しいわね?」

 

「五月蠅いぞ、伯符。私とて万能ではない。……たまにはこういうこともある」

 

「かっかっか!冥琳をやり込めるとは中々見どころのある童じゃのう」

 

 

渋い顔をした周喩を見て、銀の髪色をした女性が愉快そうに笑う。

だがそれは嘲りの類では無く、ただただ純粋に笑っているだけだと感じた。

 

しかしそれが癇に障ったのか、はたまた機嫌を損ねたのかは分からないが、周喩は益々渋い表情を濃くしていった。

 

 

「……悪い。なんか余計なこと言っちゃったみたいで」

 

「北郷は気にしなくていい。私の落ち度だからな」

 

「そうそう!冥琳がこんな表情するの滅多に無いんだから。北郷のお陰で珍しい物見せてもらっちゃった」

 

「伯符……後で覚えておけよ」

 

 

周喩は恨みがましい視線を一瞬だけ孫策に向けると、改めて俺に相対した。

 

周喩の真面目な表情に、首を傾げる。

 

 

「北郷。先刻の玉璽の件、他言しないでいて貰えるだろうか」

 

「いいよ」

 

「……なに?」

 

 

周喩が即答に面食らった。

 

 

「あら、即答?」

 

 

意外そうに眼を見張った孫策に対し、再び肩を竦める。

 

 

「正直な話、これ以上の面倒事は御免でね。この件がうち――公孫賛軍に関わることだったら見過ごせないけど、今のところ干渉する気は無いよ。一応、洛陽潜入で協力した仲だし」

 

「そ、ありがと。信じてもいいのかしら?」

 

「誰かに言わないかってこと?そんな器用な人間に見えるか?」

 

「見える」

 

 

周喩が即答した。

 

 

 

「え」

 

 

 

予想外の返答に一瞬呆ける。

 

 

「というのは冗談だ。確かにそう器用でもないだろう。お前のところの、お人好しな公孫賛と同じでな」

 

「……そりゃどうも」

 

 

褒められてんだか貶されてんだか。ともかく俺は孫策一行に背を向け歩き出した。

 

 

「あれ、北郷。もう行くの?」

 

「ああ、俺も案外暇じゃないんでね。ま、そっちも頑張ってな。独立、頑張れよー」

 

 

ひらひらと手を振りながら遠ざかって行く一刀。

 

 

 

「……油断ならんな」

 

 

その背を見つめながら周喩が呟く。その眼は鋭い光を湛えていた。

 

 

「そうね。誰にも言ってないはずなのに私達の目的見抜かれてるみたいだし」

 

「だがまあ心配はあるまい。あの童は言葉の通り他言はしまいて」

 

「うん。私もそう思う」

 

「なぜだ?一応理由を聞いておくが」

 

 

周喩の当たり前と言えば当たり前の問い掛け。

 

 

その問いに孫家の長、孫策。

そして銀髪の女性――孫家の宿将、黄蓋は声を揃えてこう答えた。

 

 

 

 

「「勘」」

 

 

 

 

「聞いた私が馬鹿だった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殿ー!!」

 

「おー、舞流」

 

 

べしっ!

 

 

あ、転んだ。何も無いとこで。

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

「……うう、いひゃいでごじゃる」

 

「そりゃ痛いだろうよ、転んだんだからな。立てるか?」

 

「かひゃじけない……」

 

 

舌でも噛んだらしい。

舌を噛むことにかけては右に出るものはいない二人が、なぜか脳裏をよぎった。

 

転んだままの舞流に手を貸し、引っ張り上げる。

 

流石というかなんというか。怪我らしい怪我はひとつもしていなかった。

擦り傷も無い。なんだろう。この娘はご飯にボンドでも掛けて食べているのだろうか。

 

 

結構派手に転んだように見えたんだけど。だから一応念の為。

 

 

 

「怪我無いか?」

 

「は!某は丈夫なのが取り柄にござる故!」

 

「その様子じゃ本当に大丈夫そうだな。良かったよ」

 

「お見苦しいところを見せてしまい申し訳ないでござる!ここは責任を取って腹を――!」

 

「ちょっと待てそういうのはいいから!!そんなことより俺に用事あったんじゃないのかな?!」

 

「おお、そうでござった!――殿が眼を覚ましたでござる!」

 

 

一転して、一刀の表情が真面目なものに変わった。

 

 

「……そっか。月と詠は?」

 

「既に大殿と共に」

 

「分かった。じゃあ行こうか」

 

「はっ!」

 

「ついでにこれ、没収な」

 

「あっ!某の短剣がぁ……」

 

 

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
45
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択