No.544927

【小説】しあわせの魔法使いシイナ 『子猫のしてほしいこと』

YO2さん

普通の女の子・綾と、魔法使いの女の子・シイナは仲良し同士。
何事もマイペースなシイナを心配して、綾はいつもやきもき。
でも、シイナは綾に笑顔をくれる素敵な魔法使いなんです。

今日は、綾とシイナがちょっと変わった子猫に会うお話です。

2013-02-16 09:40:03 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:427   閲覧ユーザー数:425

 

綾の住む「央野区」は、普通の街と少し違っています。

 

街の中央には「魔法学園」があり、街には魔法使いが住んでいます。

綾の家にホームステイしているシイナも、そんな魔法使いの一人です。

 

今日は土曜日。

シイナも綾も学校は休みです。

 

今は昼下がり。

二人は中庭に出て、庭の草花に水をやっていました。

 

シイナの持つホースの先から、しゃらしゃらと水しぶきが飛びます。

ぱらぱらと水滴が草花にかかって、草花を潤していきます。

 

「るるる~ ららら~」

でたらめな鼻唄を歌いながら、シイナはホースの先をあちこちに向けます。

 

「ん?」

シイナが何か気付きました。

視線の先は塀の上へ。

 

「ミャ~オ」

塀の上に、ちょこんと小さな子猫がいました。

 

「おや、君、どこから来たの?」

シイナは子猫に話しかけました。

 

「ミャ~オ」

すとっ、と子猫は塀から中庭に下りてきました。

 

「シイナ、どうしたの?」

綾がシイナに声をかけました。

 

「この子が家に入ってきちゃった」

子猫の頭を優しく撫でるシイナ。

 

「あら、猫ちゃん」

綾は子猫をまじまじと見つめました。

 

「野良かしら、この子」

綾が言いました。

 

「首輪してないし、そうじゃない?」

シイナが答えました。

 

「どこから来たの、君?」

シイナが子猫に向かって言いました。

 

「ミャ~オ」

子猫は鳴き声で答えるだけです。

 

「どこかから迷い込んできたのかな」

綾が言いました。

 

「ミャ~オ」

子猫が二人に向かって、甘えるような鳴き声をあげました。

 

「あ、もしかしてお腹が空いてるのかな? ちょっと待ってて」

シイナはガラス戸を開けて、キッチンへ行きました。

 

「ほら、お食べ」

シイナはチーズを一切れ、子猫の前に差し出しました。

 

子猫はくんくんとチーズの匂いを嗅いだあと、

「ミャ~ン」と鳴いただけでした。

 

「食べないねえ」

「お腹が空いてないのかしら」

子猫はチーズを食べようとはせず、何かをおねだりするように、

「ミャ~ン」と鳴きました。

 

「何か違うものが欲しいのかしら」

綾が言いました。

「喉が渇いてるのかな?」

シイナが言いました。

 

シイナはお皿にミルクを注いで、子猫の前に出してやりました。

子猫はやっぱりミルクをくんくんと嗅いだあと、

「ミャ~ン」と鳴くだけでした。

 

「喉が渇いてるのでもないか」

シイナが腕組みをしながら言いました。

「そうみたいね」

綾も同意しました。

 

「ミャ~ン」

子猫がシイナの足にじゃれついて、甘えた声で鳴きます。

 

「う~ん、君は何をして欲しいの~?」

シイナは子猫の腋の下に手を伸ばして、子猫を抱っこして持ち上げました。

 

すると、

「ミャ~ン、ミャ~ン」

と、子猫が嬉しそうな声で鳴きました。

 

「おや?」

シイナが意外そうに言いました。

「高い高いされるのが好きなのかな?」

シイナは、自分の頭より高く子猫を持ち上げました。

 

「ミャオ~ン、ミャオ~ン!」

子猫は嬉しそうに鳴き声をあげました。

 

「喜んでるみたいね」

綾が言いました。

「高いところが好きなのかな? そぉーれっ!」

シイナは子猫を頭上に投げ上げました。

 

「ちょ、ちょっとシイナ、大丈夫なの?」

「平気、平気。ちゃんと受け止めるから」

ひょいひょいと投げ上げられると、子猫はご機嫌で、

「ミャオォォ~~ン!」

と鳴きました。

 

「ミャッ!ミャア、ミャア!」

子猫が興奮してシイナに甘えます。

 

「もっと高く飛びたいの? じゃあ、特別だよ?」

シイナは笑って、

「風よ、巻きおこれー!」と魔法の言葉を唱えました。

 

ごうごうっ、とシイナたちの足元から急に風が巻き起こりました。

風は勢いを増していきます。

 

ふわり、とシイナと綾の体が宙に浮かびます。

 

シイナは子猫から、ゆっくり手を離します。

子猫も、ふわりと宙に浮きます。

 

「ミャンミャン、ミャオ~ン!」

子猫は大喜びです。

 

「さあ、空の散歩だよ!」

シイナが元気よく言うと、二人と一匹は、空へ舞い上がりました。

 

しゅごおおおぅ!

耳元を風が通り抜けていきます。

 

「ミャオオ~ン! ミャオオ~ン!」

子猫は興奮して、足をぱたぱたさせて喜びます。

 

二人と一匹は、空の散歩を存分に楽しみました。

 

空から見ると地上の家々が、マッチ箱のように小さく見えます。

 

白い雲を通り抜けるのは、とてもいい気分です。

 

空中をくるくる回転しながら上昇したり下降したり、自由自在に飛び回ります。

 

「ミャオオ~~ン! ミャオオ~~ン!」

子猫はもう大興奮です。

 

風の気持ちよさを心ゆくまで味わったあと、二人と一匹は、ふわりと地上に舞い降りました。

 

「あー、楽しかった」

シイナが笑顔で言いました。

 

「ミャオ~ン、ミャオ~ン」

子猫が満足そうな鳴き声をあげます。

 

「この子は、空のお散歩がしたかったんだね」

シイナが納得したように言いました。

 

「変わった猫ねえ」

綾がつぶやきました。

 

「空が大好きなんだから、この子の名前はソラだね」

シイナが言いました。

 

「ふふっ、いい名前ね」

綾が言いました。

 

空の散歩に満足したソラは、そのあとチーズとミルクをペロリとたいらげました。

 

「ソラ、また遊びにおいで」

シイナがソラに言いました。

 

「ミャオオ~~~ン!」

ソラが嬉しそうに鳴きました。

 

―END―


 
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