No.528289

【小説】しあわせの魔法使いシイナ 『暑い日曜日』

YO2さん

普通の女の子・綾と、魔法使いの女の子・シイナは仲良し同士。
何事もマイペースなシイナを心配して、綾はいつもやきもき。
でも、シイナは綾に笑顔をくれる素敵な魔法使いなんです。

2013-01-05 23:00:31 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:434   閲覧ユーザー数:434

 

綾の住む「央野区」は、普通の街と少し違っています。

 

街の中央には「魔法学園」があり、街には魔法使いが住んでいます。

綾の家にホームステイしているシイナも、そんな魔法使いの一人です。

 

今日は、夏真っ盛りの日曜日。

折から暑い日が続いていましたが、今日の日差しの強さは格別です。

 

「ひゃあー、あっついねー!!」

中庭で、シイナが暑さに悲鳴を上げます。

 

「本当ね、今日は特に暑いわ」

綾も汗びっしょりです。

 

二人は中庭の花に水をやっているところです。

 

でも、ここ数日の猛烈な暑さのせいで、花たちもなんだか色があせたようにくたびれて、元気がありません。

 

「暑さのせいで、水をやっても花が元気にならないみたい」

綾は困ったようにつぶやきました。

 

「もー!ほんと暑過ぎ!! 加減ってものを知らないのかしら!?」

シイナはぷんぷん怒っています。

 

「自然現象に文句を言っても始まらないわ」

綾は諦めたように言いました。

 

「いーや! こんなに暑いとみんなが迷惑だよ! 太陽に一言文句を言ってやらなきゃ!」

シイナは腹立ちを隠さずに言いました。

 

シイナはしばらく黙って考えこんでいましたが、ふと決心したように言いました。

「よーし、太陽に会いに行こう! 綾ちゃん!」

シイナは綾に言いました。

 

綾は、何を言っているのだろう、と不思議に思いました。

「太陽に?」

綾は問いかけました。

 

「行くよ! 綾ちゃん!」

シイナは言いました。

 

綾は、いったい何が始まるのだろう、とシイナのやることを黙って見つめました。

 

シイナは大声で空に向かって叫びました。

「風よ!! 私たちを太陽まで運んで!!」

 

すると、シイナと綾の足元からみるみる風が巻き起こりました。

風はあっという間にシイナと綾を包み込み、二人の体をふわりと宙に舞い上げました。

 

「このまま太陽のいるところまでいくよ! 綾ちゃん!」

シイナは綾に告げました。

 

綾はやっと自体が飲み込めてきましたが、ちょっと心配になりました。

「太陽に会いに行くなんて、本当にできるの?」

綾はシイナに聞きました。

 

「大丈夫、大丈夫! 魔法を使えばひとっ飛びだよ!」

シイナは明るい声で断言しました。

 

風が大きくたなびいて、二人はすごい勢いで空へ飛び上がりました。

 

びゅううう、ごおおおおお!!

シイナと綾の耳元で風が大きなうなりを上げます。

 

二人の体の周りを風が吹き抜けるので、とても涼しいです。

 

『あら、思ったより涼しくて快適だわ』

綾は心配していたほど無茶な旅ではないかも、と思いました。

 

しかし、だんだん太陽に近づくにつれ、じりじりと暑くなってきました。

 

「シイナ、暑いわ。まだ着かないの?」

綾はシイナに聞きました。

 

「うーん、もう少しなんだけど…」

だんだん暑さが増していきます。

 

照りつける暑さで肌がヒリヒリと痛み、まるで炙り焼きにされているような気分です。

 

「ひえー、あっつい!!」

「シイナ、もう我慢できないわ!」

二人は悲鳴を上げました。

 

すると、空の向こうにぎらぎらと輝く光が見えてきました。

近づいていくと、光はどんどん大きくなりました。

 

真っ白く燃えるその光は、まぎれもなく天空に輝く太陽でした。

 

「やっと着いたあ。 おーい、太陽ー!!」

シイナは太陽に呼びかけました。

 

「わしを呼ぶのは誰じゃ?」

太陽はそう言って、二人の方を振り向きました。

 

綾は初めて太陽を間近で見ました。

丸い火の玉の真ん中に大きな顔があり、髪の毛も眉毛も髭も、白い炎の塊で出来ています。

目はぎらぎらと燃えさかり、しゃべると口から勢いよく炎が飛び出します。

 

こちらを向いた太陽はものすごい熱さです。

二人は熱さで気を失いそうになりましたが、なんとか気持ちを保ちました。

 

「ねえ太陽、今日の日差しは暑すぎるよ! ちょっと日差しを緩めて!」

シイナは太陽に頼みました。

 

「ふーむ、しかし、夏は暑くするのがわしの仕事だからなあ」

太陽は言いました。

 

「暑過ぎて庭の花が弱ってるんです。 どうかお願いします」

綾は太陽に向かって丁寧に頼みました。

 

「ふむ、では特別に少しだけ涼しくしてやろう」

太陽は言いました。

 

「ありがとう、太陽!!」

二人は太陽にお礼を言いました。

 

そして、すぐにその場を離れて家へ飛び帰りました。

なぜなら、もう我慢できないほど熱かったからです。

 

二人は無事に庭へ降り立ちました。

 

しばらくすると、一陣の風が吹いて、小さな雲が綾の庭の上にやってきました。

 

「あっ、日陰になったわ」

綾の言う通り、庭は雲に覆われて日差しから遮られました。

 

「涼しくなったね、綾ちゃん」

シイナがほっとしたように言いました。

 

「そうね、良かった」

綾は安心して言いました。

 

涼しくて快適になった庭にテーブルと椅子を用意して、二人は紅茶を飲んでくつろぎました。

 

そうしているうちに綾の庭に、野良猫やツバメやシジュウカラがやって来ました。

 

それからまたしばらくすると、カマキリやトンボやキリギリスといった虫たちがやって来ました。

 

「みんな暑かったんだね」

動物や虫に囲まれながら、シイナが言いました。

 

「今日は庭でゆっくりしましょうか」

綾が言いました。

 

やがて、鳥たちと虫たちの合唱が始まりました。

 

綾とシイナはきれいな音色に耳をすませながら、午後のお茶を楽しみました。

 

心なしか庭の花たちも生気を取り戻したようで、花びらも葉も茎も、ぴんと空に向かって元気よく伸びていました。

 

綾とシイナはそれを飽きずにずっと眺めながら、動物たちの奏でる音色に包まれて楽しい午後を過ごしました。

 

―END―

 


 
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