綾の住む「央野区」は、普通の街と少し違っています。
街の中央には「魔法学園」があり、街には魔法使いが住んでいます。
綾の家にホームステイしているシイナも、そんな魔法使いの一人です。
今日は、夏真っ盛りの日曜日。
折から暑い日が続いていましたが、今日の日差しの強さは格別です。
「ひゃあー、あっついねー!!」
中庭で、シイナが暑さに悲鳴を上げます。
「本当ね、今日は特に暑いわ」
綾も汗びっしょりです。
二人は中庭の花に水をやっているところです。
でも、ここ数日の猛烈な暑さのせいで、花たちもなんだか色があせたようにくたびれて、元気がありません。
「暑さのせいで、水をやっても花が元気にならないみたい」
綾は困ったようにつぶやきました。
「もー!ほんと暑過ぎ!! 加減ってものを知らないのかしら!?」
シイナはぷんぷん怒っています。
「自然現象に文句を言っても始まらないわ」
綾は諦めたように言いました。
「いーや! こんなに暑いとみんなが迷惑だよ! 太陽に一言文句を言ってやらなきゃ!」
シイナは腹立ちを隠さずに言いました。
シイナはしばらく黙って考えこんでいましたが、ふと決心したように言いました。
「よーし、太陽に会いに行こう! 綾ちゃん!」
シイナは綾に言いました。
綾は、何を言っているのだろう、と不思議に思いました。
「太陽に?」
綾は問いかけました。
「行くよ! 綾ちゃん!」
シイナは言いました。
綾は、いったい何が始まるのだろう、とシイナのやることを黙って見つめました。
シイナは大声で空に向かって叫びました。
「風よ!! 私たちを太陽まで運んで!!」
すると、シイナと綾の足元からみるみる風が巻き起こりました。
風はあっという間にシイナと綾を包み込み、二人の体をふわりと宙に舞い上げました。
「このまま太陽のいるところまでいくよ! 綾ちゃん!」
シイナは綾に告げました。
綾はやっと自体が飲み込めてきましたが、ちょっと心配になりました。
「太陽に会いに行くなんて、本当にできるの?」
綾はシイナに聞きました。
「大丈夫、大丈夫! 魔法を使えばひとっ飛びだよ!」
シイナは明るい声で断言しました。
風が大きくたなびいて、二人はすごい勢いで空へ飛び上がりました。
びゅううう、ごおおおおお!!
シイナと綾の耳元で風が大きなうなりを上げます。
二人の体の周りを風が吹き抜けるので、とても涼しいです。
『あら、思ったより涼しくて快適だわ』
綾は心配していたほど無茶な旅ではないかも、と思いました。
しかし、だんだん太陽に近づくにつれ、じりじりと暑くなってきました。
「シイナ、暑いわ。まだ着かないの?」
綾はシイナに聞きました。
「うーん、もう少しなんだけど…」
だんだん暑さが増していきます。
照りつける暑さで肌がヒリヒリと痛み、まるで炙り焼きにされているような気分です。
「ひえー、あっつい!!」
「シイナ、もう我慢できないわ!」
二人は悲鳴を上げました。
すると、空の向こうにぎらぎらと輝く光が見えてきました。
近づいていくと、光はどんどん大きくなりました。
真っ白く燃えるその光は、まぎれもなく天空に輝く太陽でした。
「やっと着いたあ。 おーい、太陽ー!!」
シイナは太陽に呼びかけました。
「わしを呼ぶのは誰じゃ?」
太陽はそう言って、二人の方を振り向きました。
綾は初めて太陽を間近で見ました。
丸い火の玉の真ん中に大きな顔があり、髪の毛も眉毛も髭も、白い炎の塊で出来ています。
目はぎらぎらと燃えさかり、しゃべると口から勢いよく炎が飛び出します。
こちらを向いた太陽はものすごい熱さです。
二人は熱さで気を失いそうになりましたが、なんとか気持ちを保ちました。
「ねえ太陽、今日の日差しは暑すぎるよ! ちょっと日差しを緩めて!」
シイナは太陽に頼みました。
「ふーむ、しかし、夏は暑くするのがわしの仕事だからなあ」
太陽は言いました。
「暑過ぎて庭の花が弱ってるんです。 どうかお願いします」
綾は太陽に向かって丁寧に頼みました。
「ふむ、では特別に少しだけ涼しくしてやろう」
太陽は言いました。
「ありがとう、太陽!!」
二人は太陽にお礼を言いました。
そして、すぐにその場を離れて家へ飛び帰りました。
なぜなら、もう我慢できないほど熱かったからです。
二人は無事に庭へ降り立ちました。
しばらくすると、一陣の風が吹いて、小さな雲が綾の庭の上にやってきました。
「あっ、日陰になったわ」
綾の言う通り、庭は雲に覆われて日差しから遮られました。
「涼しくなったね、綾ちゃん」
シイナがほっとしたように言いました。
「そうね、良かった」
綾は安心して言いました。
涼しくて快適になった庭にテーブルと椅子を用意して、二人は紅茶を飲んでくつろぎました。
そうしているうちに綾の庭に、野良猫やツバメやシジュウカラがやって来ました。
それからまたしばらくすると、カマキリやトンボやキリギリスといった虫たちがやって来ました。
「みんな暑かったんだね」
動物や虫に囲まれながら、シイナが言いました。
「今日は庭でゆっくりしましょうか」
綾が言いました。
やがて、鳥たちと虫たちの合唱が始まりました。
綾とシイナはきれいな音色に耳をすませながら、午後のお茶を楽しみました。
心なしか庭の花たちも生気を取り戻したようで、花びらも葉も茎も、ぴんと空に向かって元気よく伸びていました。
綾とシイナはそれを飽きずにずっと眺めながら、動物たちの奏でる音色に包まれて楽しい午後を過ごしました。
―END―
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普通の女の子・綾と、魔法使いの女の子・シイナは仲良し同士。
何事もマイペースなシイナを心配して、綾はいつもやきもき。
でも、シイナは綾に笑顔をくれる素敵な魔法使いなんです。