No.543128

世界を渡る転生物語 影技19 【力の意味】

丘騎士さん

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2013-02-11 22:53:46 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2942   閲覧ユーザー数:2767

 ──殺気が、殺意が交錯し、睨み合う二人の視線が、その周囲が圧倒的な気迫のぶつかり合いによって重圧となり、威圧感が弾けて空間が震えている第二修練場内。

 

 そんな中でジンの呪符の効果で瀕死の状態から脱したものの、今だ重体な傭兵達がその鬼気迫るプレッシャーを動けない体に感じ、恐怖と息苦しさに浅い息をつきながら冷汗を全身から噴出させ、体を小刻みに震わせ、あるいは気絶していく中─

 

「だ、駄目だよ、ゴホッ……ジンちゃん! 君がいくら強くても……この間のエレとは訳が違うんだ! 本気の【修練闘士(セヴァール)】には勝てっこないッ!」

 

「ぬ、ゲボッ! う、動け俺の体ぁ! 今動けずに何が【闘士(ヴァール)】かぁ! 何が力かぁ! 俺の【闘士(ヴァール)】としての意味がなくなっちまうだろうがよぉ!」

 

 睨み合いを続けるジンの背中を見つめながら必死でその身を起こそうとするグォルボとリムル。

 

 この死地へとやってきてしまったジンの盾になる為に。

 

 あるいはカインの気を引いておとりになる為に。

 

 懸命に動かなくなってしまった体を動かそうともがくものの……ジンの呪符の効果でどうにか傷口が癒着した程度のその体は、二人のその意思を伝えて動く事もなく……二人の表情の必死さとは裏腹に、血を吐き出してその体を地面に縛りつける。

 

(……ちくしょう……! なんで、なんでジンちゃんがっ!)

 

(ぐ、グオオオオォォ、あの優男を助けたのがジンちゃんだったって事かいぃ!)

 

 必死に動こうとする二人の脳裏によぎるのは……嫌な予感を伴う走馬灯のように過ぎるジンとの思い出であり、いつも派手に怪我をしてジンを困らせていたとはいえ……この第二修練場で修業をしている事、修行内容や世話話など、いつものジンの身近にいる存在として定着してきた不器用で豪快なグォルボと、器用で軽快な姉さん肌のリムル。

 

 笑いの絶えない二人との会話は、エレ達とはまた違った人間関係をジンに齎していた。

 

 それ故……二人がこの第二修練場で窮地に陥り、瀕死の状態にあると察した時。

 

 二人を助ける為とあらば、たとえ相手がこのクルダ最強と謳われる【修練闘士(セヴァール)】と対峙する事になるであろう、この死地となった第二修練場に飛びこむこともいとわなかったのである。

 

 地面に倒れ伏す二人は、そんなジンの二人の背を見て自分達を助けにきてくれたジンに嬉しさと……こんな死地に来させてしまった自分達の弱さに激しい後悔と怒りを感じていた。

 

「──大丈夫だよ、リムルさん、グォルボさん。後でちゃんと治療するから、待っててね?」

ー『ッ!!!』ー

 

 そんな二人の後悔を、憤りを察し、一瞬だけカインから視線をそらしたジンが肩越しに二人に、そして背後に見え怪我をした傭兵達に向け、こんな殺伐とした空気にはそぐわぬほど、優しく慈愛あふれた笑顔を浮かべる。

 

 その笑顔はまるで包み込むかのようであり、鬼気ともいえる圧力から傭兵達を解放し、息苦しさを無くして治療を促進させ、死地から戦士を救い上げる戦女神のようであった。

 

 そんなジンに見惚れるリムル・グォルボを含む傭兵達が息を飲んで見つめる中、再びその視線をカインへと向けるジン。

 

「クク、ククク! いい、いいぞ貴様! この俺を【修練闘士(セヴァール)】と知り、相対しても尚、他人の心配ごととは……随分な余裕だな?」

「……余裕、はないですけど……でも、助けるって決めたから」

 

 悪鬼のような形相に笑みを浮かべて哂いかけるカインに、憮然とした顔に怒りを滲ませて言葉を返す。

 

「──自らの命を守れぬのに、その命を賭しても他人を助けようとするのか? 理解出来んな」

「……他人じゃない。俺と一緒に同じ時間を共有してくれた仲間だ。仲間を救う為なら、国を、王を守る為に命を賭ける。それがクルダ【闘士(ヴァール)】の流儀でしょう? 【修練闘士(セヴァール)】の貴方が何故それを理解出来ないんだ」

ー『じ、ジンちゃん……!』ー

 

 譲らぬ意見がぶつかりあい、張り詰めた空気が一瞬の静寂を生み出す。

 

 ジンの言葉を受け、自分達が仲間と認識されていたことに喜びを滲ませるグォルボとリムルが声を上げる。

 

「──くだらん。そんな世迷言を俺の前で吐くな。この場の雑魚の誰よりも強い貴様が、この俺の目の前に立つに相応しい実力を、力を持つ貴様が……他者をいい訳に使うな。俺達のこの()は……ただ強くなる為だけにある! 他者を打倒する為だけに存在する!」

「……そうやって、たった一人で、ただ強くなった先に……貴方は何を見ようっていうんですか」

「何を、だと? 【闘士(ヴァール)】が、【修練闘士(セヴァール)】が、そしてクルダが! 今まで積み上げてきた不敗伝説が求め続けたのは【最強】という栄誉だろう! より高みを目指し、眼前の敵全てを打破し、俺は……この【(シンボル)】に掲げた【G(最強)】の字名にかけて、それを証明する。そして貴様は─」

 

 譲らぬ思いは交わることなく。

 

 交わす言葉は互いの心に届かない。 

 

「この俺の【G(最強)】を彩る……糧となれ!」

ー剛 拳 強 襲ー

「?! ッお断りだっ!」

 

 そして……互いの信念は言葉ではなく、拳のぶつかり合いで語られる事となる。

 

 カインが猛禽のような笑みを深くしてそう言い放った瞬間、踏み込みと同時に離れた間合いを一気に詰め、右拳を振り下ろす。

 

 その圧倒的速度、威力を持ってジンの顔面をぶち抜かんと迫る剛拳を咄嗟に【腕受け(アーム・ブロック)】で受け止めたジンではあったが─ 

 

(ぐっ……重い!)

 

 その威力は想像以上であり、後方に吹き飛ばされそうになる自身を両脚を踏ん張り、受け止めから無理やり受け流す事によってどうにか致命的なスキが生まれる事を阻止する。

 

 自分の一撃を止められた事に一瞬だけ驚愕の色を浮かべたカインではあったが、それはやがて獲物を見つけた肉食獣のような凶悪な笑みと化し、ジン目掛けて猛攻をかける。

 

 受け流された右拳の勢いを回転に流用し、左肘がジンの顔面目掛けて繰り出され、それをしゃがむ事で避けたジンに対し、右足の蹴りが掬いあげるかのように放たれ、その風圧に体を流し気味にしつつも横にスライドする事でどうにか避ける。

 

 そこにすかさず地面スレスレの位置からジンの右回転足払いがカインの左足を刈り取ろうと放たれるが、トンと地面を蹴って空中に浮かび上がる事によりあっさりとそれは避けられる。

 

「はっ!」

「温い!」

ー打 撃 破 音ー

ー『フッ』ー

 

 それならばとさらに回転を加速させ、ブレイクダンスを思わせる独楽の動きで落下するカインを蹴り飛ばそうとするジンではあったが、落下する勢いを加えたカインの踵落としがその回転するジンの蹴りと激突し、打撃音にしてはあまりにも重い音を立てて弾け、バランスを崩したジンが地面を転がって後退。

 

 カインは弾かれた勢いを利用し、空中で後方宙返りをして着地。

 

 着地と同時にジンに振り向くと地面を蹴って間合いを詰め、ジンに追撃の左蹴りを放つ。

 

 それをどうにか転がり避けて起き上ったジンに、右足のミドルキック、そして勢いを利用した左足の回転蹴り、右足の足払いと、回転した勢いに任せた刈り取るような蹴りの連撃がジンに襲い掛かる。

 

 しゃがみ、受け流し、足払いのカインの足を踏み台にして後方へと飛びあがり、その勢いのまま間合いを広げるジン。

 

 再び開いた間合い。

 

 両者譲らず、戦意衰えず再び睨み合うと、今度は両者が同時に動く。

 

 互いに踏み込み、間合いを詰め、自分の間合いに入った瞬間、振りかぶった右拳を振り下ろすカインと、その圧倒的なリーチ差を埋めようと右飛び蹴りをカインの顔面目掛けて放つジン。 

 

 ぶつかった瞬間、大きな破裂音が修練場に響き……カインの拳を包み込むように両手で受け止めるジンと、左手でジンの蹴りを受け止めるカインの姿がそこにあった。

 

「──いい蹴りだ。だが……まだ足りん!」

「だろうなっと!」

 

 左手で蹴りを受け止め、その蹴りの威力に笑みを深くしたカインがそう言い放つのと同時にジンの蹴りを跳ね除けるが……ジンは弾かれた勢いを利用し、カインの拳を掴んで支えにし、体を捻じり回転させてコマのように遠心力を利用し、足りない威力を補う為、全身に気力を巡らせ、強化した延髄蹴りを放つ。

 

「フン!」

「ッ!」

 

 それを悟ったカインが、ジンが支点にしていた左腕を振い、ジンを振り払って吹き飛ばすことにより、回転バランスを崩させてジンの蹴りを避ける。

 

 振り払われた事により、回転したまま吹き飛ばされたジンではあったが……回転する視界の中でバランスを取り、壁に叩きつけられそうになった瞬間、壁に吸いつくような感じで両腕・両脚の四肢を壁につき、腕や膝を折り曲げる事によって衝撃を吸収させ、吸いつくかのように、まるで壁に着地するかのようにして激突を避ける。

 

 しかし─

 

「ッ!!」

「ふん!!」

ー壁 蹴 粉 砕ー

 

 吹き飛ばされたジンを追って追撃してきたカインの右蹴りが壁ごとジンを粉砕せんと放たれ、それを察したジンが、衝撃を吸収するために縮めていた両手両脚を無理やり伸ばし、壁を蹴ることによって跳躍。

 

 ジンが避けた為に目標を見失ったカインの蹴りが壁と激突。

 

 分厚い石造りの壁を粉砕・崩落させ、壁に大穴が空き、土埃が舞う。

 

 ふわりと地面に着地したジンがカインに振り返りながらバックステップをし、土埃の向こうにいるカインに向き直って重心を落とし、カインの攻撃に備える。

 

「──……その体のキレ、貴様本当に【呪符魔術士(スイレーム)】か? それに……何故呪符を使わん? よもや……使うまでもない、などとほざかんだろうな?」

「──……そんな事を言える実力者だったらよかったんだけどね……残念ながら、クルダ国内で【修練闘士(セヴァール)】と対峙する事は想定してなかったから準備不足なだけだよ。最近は治療呪符師モドキだったから持ち運ぶその関係の呪符しかもっていないんだ。……なんなら取りに戻ってもいい?」

「──ほざくか!!」

「っと!」

 

 そんなジンに土埃の向こうから、先ほど治癒符による【呪符魔術士(スイレーム)】としての圧倒的な腕前を見せていたジンが呪符を使わない事に疑問を投げかけるカイン。

 

 それに対し、言葉通り治療と補助用の呪符しかもっていなかったジンが冗談半分・本気半分でそう言葉を返すが、それを侮辱と取ったカインが再び悪鬼の形相となってジンに襲い掛かる。

 

 先ほどよりも尚早く。

 

 一瞬で間合いを詰め、ジンの顔面を粉砕せんと左拳を振り抜くカイン。

 

 その速度に対応しきれず、ギリギリで避けたことによってジンの髪の数筋がカインの拳によって持っていかれ、ちぎれた髪が拳圧によって散らされる。

 

 そのまま突きだした拳を裏拳にして薙ぎ払い、それをしゃがんで避けるジンに対して右拳が振り下ろされる。

 

 ジンはそれを後転する事によって回避し、地面に突き刺さるカインの拳が地面を粉砕する。

 

 逃さないとばかりに地面に突き刺さったその右手を開いて地面を掴み、支点とする事によってコンパスのように体を回転させたカインが、薙ぎ払うように右足での蹴りを放ち、それを【両手交差受け(クロスアーム・ブロック)】で腕を伸ばして受け止め、腕を縮める動きで打撃を吸収しつつ、蹴りの威力を使って後方に飛び、間合いを離すジン。

 

 それを見て腕一本で地面を突き放すように宙を舞ってその体を起こすカインと、離れた位置に対峙するジン。 

 

 そして……地面に転がりつつも、そんな両者の闘いを見て息を飲む……未だに意識のある【闘士(ヴァール)】達。 

 

(すごい、あの【G】相手にここまで戦えるだなんて……でも─)

 

(ジンちゃんには有効な攻撃手段(武器)がないって訳かい。さっきから守勢に回っているのもその所為か。グゥウ、この体がこの一瞬だけでも交換できりゃあなあ)

 

 どうにか壁を背にして上体を起こし、ジンとカインの闘いを観ていたリムルとグォルボの二人は、目まぐるしく交差する二人の動きから戦況を理解し、圧倒的に不利なジンの身を案じていた。

 

 そしてジン自身もまた、目の前に聳える【修練闘士(セヴァール)】という圧倒的に高く分厚い壁との差に、内心の焦燥を抑えながら闘っていたのである。

 

(くっ……今ある手持ちの技術じゃ……力じゃ足りないっ!)  

 

 再び自分の体を抉るように掠めていく攻撃に冷汗をかきつつも、それを出さないように必死に攻撃を捌くジン。   

 

 ──最初から、この第二修練場に入る時から……この戦いが絶望的な戦いである事は分かっていたはずだった。

 

 しかしジン自身、この世界における強者……カイラ然り、フォウリィー然り、ポレロ然り、ザキューレ然り。

 

 そんな超一流の強者によって技術を伝授され、技を磨き、絶えず己の技を磨きあげてきたという自負があった。

 

 そんな一流の師に鍛え上げられたという誇りがあった。

 

 家族とも呼べるような人達とのかけがえのない心の、精神の支えがその胸の中にあったのだ。

 

 さらにはエレとの修練、そして【流()法】からの手合わせで、多少なりとも【修練闘士(セヴァール)】に渡り合えるという観点から、ガウが王城に呼びに行ったエレを迎えに行くまでの時間稼ぎならば出来る、そう踏んで挑んだカインとの勝負ではあったが……本気で殺意を持って襲い掛かる【修練闘士(セヴァール)】・カイン・【G】・ファランクスに相対するには圧倒的に力不足であった。 

   

 【進化細胞(ラーニング)】・【解析眼(アナライズ・アイ)】・【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】という、成長速度に加速度をつけるような能力を宿すジンではあったが……如何せん実戦、特に自身よりも格上との相手との命のやり取りをするのは獣以外では初めてである。

 

 無論、超一流の師匠達との命を賭けた修行はあったものの、それはあくまでも修行であり、死合ではない。

 

 手合わせも当たり所が悪ければ死ぬとはいえど、傍には常にそれを監視し、治療できる人がいる修行の一環。

 

 どんなに真剣に手合わせするにしても、ジンを本気で殺そう、害そうという意思を込めて戦いに臨んだものなど、獣や盗賊・山賊連中といった連中だけだったのである。

 

 修練では勝率が高く、その技術をほめられ、その行く末も明るいと表されるジンではあるが……この先は別としても、今現在で純粋に師匠達と実戦・殺し合いをするとなるとその勝率は大きく変化する。

 

 その能力により、驚くほど短期間で瞬く間に様々な流派の技術・集大成たる【奥義】を習得したジンではあるが、如何に凄まじい成長力があるジンとはいえ、積み重ねてきた年月・戦闘経験からくる技術・戦術の幅。

 

 そしてそこからくる精神面での強さ。

 

 己の意思を貫くその魂。

 

 長年その研鑽を積み、習得した技術をその状況に合わせて完全に使いこなすという点に置いては、師匠となった者たちやカインに遠く及ばない。

 

 使える事と、使いこなす事。

 

 それは似ているようで決定的に違うのだ。    

 

 そんな経験不足なジンに対し、【クルダ流交殺法】、そして己の肉体の限界を極めるとされる【修練闘士(セヴァール)】という強大な壁が立ちはだかったのである。  

 

 狂気と殺気を織り交ぜた鬼気。

 

 突きぬけて純粋なまでに力を求め、【闘士(ヴァール)】から【修練闘士(セヴァール)】へと上り詰めたその修練量と力量。

 

 そしてその結果、強くなる為に己の理性を切り捨て、手当たりしだいに強者を食い散らかし、人の心を無くした……獣。

 

 鍛え上げられた鋼の肉体を武器とし、一撃で喉笛に食らいつく獣の如き俊敏さで人間の明確な意思を持って相手を仕留めるその戦いかたから、【獣の闘法】と称されるカインが、敵となったジンに対して明確な殺意を持って襲い掛かり、圧倒的な暴威をもって防戦一方のジンを容赦なく攻め立てる。

      

 ──積み重ねてきた戦闘経験が足りない。

 

 これは仕方のない事。

 

 この【影技世界】に転生して二年弱。

 

 子供の身としてはすでに異常なほどに戦闘を経験し、修行を重ねてきたジンではあるが、生粋の【闘士(ヴァール)】であるカインにそれが及ぶはずもない。

 

 ──肉体強度・重さ・リーチが足りない。

 

 これもまた、大人と子供の体の差である。

 

 カインの拳に対して、こちらの蹴りが当たるかどうかというリーチ差。

 

 そして筋肉の量からくる肉体の強さと、重さ。

 

 これは成長を持ってしか埋める事の出来ない差であり、戦力差のある今のジンにとっては、自らの間合いである懐に入り込む技術も足りなかった。 

 

 ──手札が足りない。

 

 問題はこれだ。

 

 ジンは、今までにこの聖王国アシュリアーナにおいて、【四天滅殺】二流派、そして【呪符魔術士(スイレーム)】・【魔導士(ラザレーム)】という技術形態を習得している。

 

 しかしながら【四天滅殺】である【リキトア流皇牙王殺法】は、国内は元より人の身であるジンが使えるはずもないとされる技術であり、【キシュラナ流剛剣()術】もまた、獲物たる士剣がない事いより使えない。

 

 ジンの手札の中で、いわば死蔵技能と化してしまっているのだ。

 

 当然、【魔導士(ラザレーム)】もまた、己の正体を隠す為には使用できず、今現在、ジンが自分の技術の中で切れる手札は【呪符魔術士(スイレーム)】のみ。

 

 しかし……前述のカインとの会話であった通り、今のジンが持ち合わせているのは大量に使い、残り少ない回復用の呪符と、不審者を捕える為の捕縛用の呪符だけであり、クルダ国内であれば知り合いの【闘士(ヴァール)】も多いし、エレ達もいるから安全だという甘い認識が、攻撃呪符系を部屋にまとめ置きしてしまっているという現状を生み出していたのである。

 

 唯一、今現在の手札として切れる、カインと対抗出来る手札はといえば─

 

「──ほう、体捌きもさることながら……貴様の力の扱い、見事なものだな」

「そりゃ、どうもっ!」

ー拳 蹴 交 撃ー

 

 ──習得して以降、毎朝欠かさず行ってきた【流()法】によって鍛え上げられ、尋常ではないほどの量になった【気力】や【魔力】、そしてその流用法から来た肉体を【気力】の内圧で満たし、活性・強化する【内気功】、肉体の外側をコーティングするかのように、薄い膜で覆って強化する【外気功】を合わせた【身体強化法】を持って肉体能力を底上げし、強度を増し、どうにか足りない戦力を補って戦っていたジン。

 

 これによりどうにか撃ち合えたカインの拳と、ジンの左ハイキックがぶつかりあい、破裂音が響いて両者の間合いが放される。

 

 深く息を吐き出し、呼吸を整え、先ほどから圧倒的速度で行われていたカインとの戦闘の中で、【解析(アナライズ)】と【進化細胞(ラーニング)】がジンの戦闘経験と実力差を急速に埋めようとしている中─

 

「──そろそろか。肩慣らしには十分だったな。礼を言うぞ? 小娘」

「ッ……!」

 

 そんなジンに、体は十分に温まったと拳を握り、開いたカインが凶悪な笑みを浮かべる。

 

 小娘と言われた事を否定する間もなく、カインから立ち上る狂気がその濃度を増し、ジンが警戒の度合いを深めたその時。 

 

「遊びは終わりだ……この俺の真の闘法……この俺の【G(最強)】を……見せてやろうッ!!」

❛一❜

ー剛 拳 瞬 爆ー

「っ?! かっひゅッ」

 

 カインが右手の【(シンボル)】を掲げ、拳を握った瞬間、強烈な悪寒がジンの背筋を駆けまわる。

 

 咄嗟に両手を強化し、【両手交差受け(クロスアーム・ブロック)】の体勢を取ったジンではあったが……その体は爆発するような衝撃と共に、突然後方へと吹き飛ぶ。

 

 強化により、鉄の強度と化していたはずの両手……特に直に攻撃と思われる一撃を受けた左手は骨が砕け、凹み、あらぬ方向へと曲がりながら血を流し、ガードしてもなお体への衝撃が肺の空気を推し出して呼吸を止める。

 

(何が─?!)  

「ッ!!!」

❛二❜

 

 遅れてきた激痛に顔を顰め、息苦しさにどうにか呼吸をしようとしてバランスを取り、どうにか地面に着地したジンではあったが……次の行動を起こそうとした瞬間、修行と鍛錬の日々で培った戦闘経験が最大限の警鐘を鳴らす。

 

 濃密で濃厚な死の暴威を察し、ジンはなりふり構わず地面に張り付くように倒れ込む。

 

 すると、地面に張り付いたジンの目の前にはカインの踏み込んだ左足が存在しており、カインのミドルキックが頭上を掠め、遅れて後から破裂音が響いてジンの全身を風圧が襲う。

 

「ぁぁあああ!」

❛三❜

 

 そんなジンに対し、右足のミドルを振り抜いた回転を加速させたカインの掬いあげるような蹴りが、地面を抉りながら放たれ、危険を察知してどうにか転がって避けようとしたジンの体を土埃と共に掠り、服を破り、肉体を抉って吹き飛ばす。

 

❛四❜

「ぐぅ……ああ!」

 

 どうにかバランスを立て直し、着地を試みようとしたジンにさらなるカインの追撃の左ストレートが迫る。

 

 その動きだけで土埃が弾け飛んで視界がクリアになり、【解析(アナライズ)】がそんなカインの動きを明確に捕え……ジンは咄嗟に左蹴りを放つ事によってその拳を迎え撃つが─

 

「ぁっ……」

ー爆 壊 壁 砕ー

「ガッ……」

 

 ジンの足がその拳を蹴った瞬間、ジンの足は鈍く明確な音を響かせて……折れ、砕ける。

 

 その威力はそれだけにとどまらず……地面に叩きつけられ、バウンドし、地面を凹まし、修練場の壁へと激突する。

 

 人型に壁を壊してようやく止まり、その衝撃に壁に埋まったジンが、鮮血を吐き出す。

 

 十数メートルを吹き飛ばされ、はるか間合いの外に見えるカイン。

 

 しかし、そんなジンの目にカインが前傾姿勢で地面を踏み込んだのが映った瞬間。

 

❛五❜

「?! ッがっ……あぁ……」

ー剛 蹴 破 打ー

 

 ──その間合いを一瞬で詰めたカインが、目の前で右足を蹴り上げ、壁ごとジンの脇腹を粉砕しながら、空へと打ち上げたのだ。  

 

 その衝撃と激痛に意識を無くしかけるジンではあったが、その激痛により意識を取り戻すという矛盾を味わう事となり、全身を駆け抜けたその破壊力は、ジンの体の自由を完全に奪っていた。

 

 壁のがれきや欠片と一緒に錐揉みに空中を舞い、自由落下するジン。

 

 血塗れで頭から落ようとしたそのジンを─ 

 

❛六❜

ー刀 手 貫 通ー

「……ごふっ」

 

 カインの駄目押しの抜き手が……ジンの胸を貫いた。

 

❛我が闘争は狂気也❜

 

 雨のように粉砕された壁の破片やがれきが振りそぐ中。

 

 カインの【(シンボル)】が赤く鮮やかな色合いに染まる。

 

「──六撃か。惜しいものだ。後一撃だったものを。しかし、確かに貴様は強者だった。貴様を糧に……俺は王を殺る」 

「ッ……」

ー『じ、ジンちゃんんんんん!』ー

ー『じ、ジーーーーーーン!!!』ー

 

 ジンの胸を貫くカインの手が引き抜かれ、その瞬間鮮血が吹き出し、ジンを、そしてカインを赤く染める。

 

 朦朧とした意識で地面に落ち、自らの血に染まっていくジンの耳に届くのは……悲痛そうなリムルとグォルボ、そして─

 

「て、めぇ……手前ェ、カイン! ぜってえ……ぜってえ許さねえ! 手前の何もかもをぶっ潰し、ぶっ壊してやる!」

「ゆ、るさない! 絶対に! 許さないぃいい!」

「……貴方……欠片も残さない。確実に殺すわ!!」

「ちっ……また増えたか。しかし……貴様、若手最強の名を持った【修練闘士(セヴァール)】……【影技(シャドウ・スキル)】だな? ふん……気に入らない(・・・・・)な、その名前……!」

 

 怒りにまみれ、怨嗟の叫びを持ってカインの眼前に立ちふさがる、ジンの仲間達の声と、そんなエレ達に向けて放たれる……カインの挑発だった。 

 

 

 

 

 

 ──これより少し前。

 

 惨劇が行われた第二修練場から、ジンの指示によって城に救援を、エレに助けを求めに全速力で駆け抜けたガウ。

 

 『止まれ、何者か』という門番の誰何に息を乱しながらも、緊急の用件であり、自分がエレの関係者である事を告げ、取り次ぎを願うガウ。

 

 ガウの様子に尋常ではないものを感じた門番が、駆け足で城の中に消えていくのを見届けつつも、刻一刻と過ぎる時間に苛立ちを隠せず、落ち着かない様子で第二修練場を睨みつける。  

 

 数分遅れた後、再び駆け足で返ってきた門番が、『王が直接話を聞きたがっている』とガウに背を向け、駆けだす門番に慌ててついていき……そして向かった先は……地下にある王城・王の間ではなく、上り階段を上った屋上であった。

 

 そこは第一修練場でもあり、クルダが誇る闘技場であり、そこに……見知った姉の姿と─

 

「王、お連れしました!」

「うむ、御苦労。下がってよし」

「はっ!」

 

 汗だくで地面に胡坐をかくエレの前で、悠然とたたずむ威厳あるその姿。

 

 イバ=ストラ王その人が、そこにいたのである。

 

「エレ姉! じ、ジンが……!」

「落ち着けってガウ! 王の御前だぞ!」

「あっ……も、申し訳ありません!」

「よい。して……火急の用件という事じゃったが、一体どういう事じゃ?」

 

 エレが膝をついて礼をするのを真似つつ、焦る心を抑えてストラ王の問いに出来るだけ正確に、要点を伝えようと必死に話すガウ。

 

 話を聞くにつれて、エレの顔が険しさを増し、ストラ王は瞑目して沈黙する。 

 

「エレ姉!!」

「わかってる!──王!」

「落ち着け。わかっておる……これは、考えうる限り最悪の惨事といえるじゃろう。クルダの誇り、クルダの力の象徴、クルダの栄誉たる【修練闘士(セヴァール)】が……まさか自国の国崩しとはな。……カインめ、戦いに、強さに飢えるあまりに獣になったか」

 

 エレの服を掴み、いち早く救援へ向かうようにと訴えるガウと、それに頷き、鎮圧の許可を求めるエレ。

 

 そんな二人を制し、苦々しい表情で言葉を零すストラ王。 

 

 既に被害が出てしまっている以上、それを速やかに制圧し、事を納めるのは当然ではあるのだが……よりにもよって事を起こしたのが【修練闘士(セヴァール)】であるカインとなるとそれは国家を揺るがすような未曾有の大問題である。

 

 まして、【修練闘士(セヴァール)】同士の争いとなれば、その破壊と闘争が齎す副産物が、どの程度まで広がるのかが予測がつかなくなる。

 

 さらに、これでカインだけならまだしも、エレまで倒れる事になれば……クルダとしても大幅な戦力ダウンであり、国家防衛にとって大きな痛手となるのだ。

 

(……そうも言ってられんな。この手の問題は速やかに片付け、処理せねばならん。まして、カインを王城まで来させてしまえば……事の内容が公となり、隠しだても難しくなろう。出来れば第二修練場内で事を納めたい)

 

 早くジンを救いに行きたいと焦れる二人を前に、眉間にしわを寄せて考え込むストラ王が、やがてその顔をあげて─

 

「──あらら、お取り込み中ですかね? 何やら騒がしいみたいですけど」

ー『?! 誰だ!!』ー

「──お主か。まったく……事情は把握しておるか?」

「なんとなくは。お二人ははじめましてですね、私、【片目(ワンアイ)】というしがない狩人です。どうぞお見知りおきを」

 

 二人にカイン討伐を言い渡そうとした瞬間、その背後から投げかけられる声。

 

 今の今までその気配に気がつかなかったガウとエレが驚愕した後、最大限の警戒を持って見つめる中、暗がりから出てきたその男は……旅をする為の外套、そして動きやすい服を身に纏った、旅人風の外見。

 

 特徴的な浅黒い、典型的なクルディアス人であり、最も特徴的なのは、左頬から左目を覆う包帯。

 

 尋常じゃない身のこなしから、唯ものではない事は理解できたエレとガウではあったが─

 

「……王、お知り合いですか?」

「……まあのう。じゃが……これならば問題あるまい。ヴ……【片目(ワンアイ)】、エレ=ラグとガウ=バン、両名を連れて第二修練場へと向かい、事を終息させよ」

「仰せのままに」

ー『はっ!!』ー

 

 何か別の名前をいいかけて、慌てて呼び直したストラ王がそう三人に声をかけると、膝をついてその王命を了承した三人が弾けるように駆けだし、闘技場から出ていく。

 

 あっという間に遠ざかっていく気配を感じ、そっと溜息を吐きながら─

 

「カインよ……お主は闘争の狂気の果てに……何を見るのだ」 

   

 闘技場から見上げる空は現状に不釣り合いなほど澄んでいて、ストラ王の言葉を霧散させる。

 

 一足飛びで客席へと登った王は、そのまま階段を駆けあがって城壁まで辿りつき、事の起こっている第二修練場を見下ろす。 

 

 遠く見える第二修練場の喧騒を見ながら、憂鬱そうな王の表情は晴れる事はなかった。

 

 

 

 

 

 ──王命を受け、闘技場を駆けだし、門番に声をかけながら城を飛び出した三人は、尋常じゃない速度で街を駆け、一直線に第二修練場を目指す。

 

 逸る気持ちが脚に伝わり、通常では考えられない速度を叩きだしている中─

 

「大丈夫ですか? 若いからってあんまり無理してると……壊れ(・・)ちゃいますよ? ガウ君、徐々に遅れてきてますし」

「ッ……あ、ああ……そうだな、悪ぃ。ガウ! 大丈夫か!」

「う、うん! 大丈夫! 急ごう、エレ姉!」

「ああ!」

「……やれやれ、まあ、仕方ないか」

 

 【片目(ワンアイ)】と名乗った得体の知れない男が、二人を気遣うように声をかける。

 

 ガウが息を切らし、汗を浮かべる中で、汗一つ、息も乱さずエレについていくその力量。

 

 エレは王が信頼を置く人間であると分かってはいるものの……警戒せずにはいられなかった。

 

 やがて、第二修練場が近くなるにつれ、肌を刺すような闘争の気配が感じられるようになり……闇夜に青白く輝く呪符の軌跡が目に入る。 

 

「フォウリィー!」

「エレ! よかった。ジンが第二修練場に!」

「わーってる! お前のほうは終わったか?」

「ええ、後は運ぶだけなのだけど……」

 

 そこには、大まかな治療を終え、並べられた怪我人達の姿があった。

 

 ジンが抑えているとはいえ、いつ何時第二修練場からカインが出てくるのかが分からない現状、速めにここから患者を引き離し、安静にしてもらいたいというのがフォウリィーの心情ではあったが、第二修練場へと飛び込んでいったジンの姿に後ろ髪を引かれていた。

 

「運ぶだけなら男手のほうがいいでしょう。ここは私に任せて、貴方達は第二修練場へ」

「……え? でも─」

 

 そんなフォウリィーを察したように、怪我人の元へ屈みこみ、抱き上げる【片目(ワンアイ)】。

 

 自己紹介も無しに突然そんな事を言われ、困惑していたフォウリィーではあったが─

 

「──急いだほうがいいでしょう。……血の匂いが濃くなってきた。治療の出来ない私よりも、【呪符魔術士(スイレーム)】である貴方が向かったほうが、遥かに有用でしょうしね」

「ッ!! 分かったわ。ごめんなさい、後は任せるわね!」

「悪ぃな、頼んだ!」

「すいません!」

「いえいえ、むしろ危険なのはそちらのほう。……十分に気をつけて」

 

 第二修練場を見据え、顔を曇らせる【片目(ワンアイ)】の言葉に息を飲み、駆けだす三人の背に【片目(ワンアイ)】の言葉が投げかけられる。

 

 破裂音、破壊音が響く第二修練場へと入っていく三人を見ていた【片目(ワンアイ)】が、怪我人を肩に担ぎつつも、滑らかな動きで怪我人に負担をかけないように走り出す中─

 

「──カイン……何を焦ってるんだ? なぜ結果を急ぐ……なぜ、生き急ぐんだ─」

 

 つぶやく言葉は風に乗り、先ほどまでの飄々とした態度とは裏腹に、愁いを帯びた光を瞳に称えていた。

 

 一方、ジンを救う為に第二修練場へと向かった三人は、入口に近づくにつれて激しくなる戦闘音、そして第二修練場に充満する濃密な血の匂いに言い知れぬ不安を抱えて顔をしかめる。

 

 その足は唯真っ直ぐに修練場の入口を目指し、その体はすでに臨戦態勢を整え、どんな状況においても対応できるように、後ろに並ぶガウ、フォウリィーに目配せをするエレ。

 

 頷く二人を視界に入れた後、もうすぐ修練場に入るという所で……強烈な血の匂いが三人の鼻腔を満たし、思わず息をとめるほどのその匂いに─

 

「──命が吼える音がする。この血の匂い……まさか……!」   

「ッ!!」

「まて、ガウ!」

「ガウ君!」

 

 思わず立ち止まってしまったエレの脳裏に浮かぶのは……ジンの死。

 

 顔面蒼白で震えるフォウリィーもまた、同じ結末に至ったのか、唇を強く噛みしめていた。

 

 そんな二人を見て、色を無くした表情をしたガウが、二人の制止を振り切って第二修練場へと飛び込んでいく。

  

 慌ててその後に続いた二人の目に飛び込んできたのは─

 

ー『──…………』ー

 

 がれきや破片が雨のように降り注ぐ第二修練場中央にて、血塗れの金髪の男、カインによって胸を貫かれ、まるで天に掲げられるように持ちあげられていたジンの姿だった。

 

 瞬間、真っ白になる思考は停止し、カインがその腕を引き抜いた事で鮮血が飛び散る。

 

 まるでスローモーションのように地面に落ちたジンの胸の穴から血が吹きだし、地面に血溜を広げていく。

 

 呆然とした意識の中、必死に這いながらジンに手を伸ばし、悲痛な叫び声をあげるのはリムルとグォルボ。

 

 やがて、ジンの血に塗れたカインが振りかえり、こちらを見て哂った瞬間─

 

「て、めえ……手前ぇ、カイン─」

 

 唯一兄を助けられるかもしれない【魔導士(ラザレーム)】を、それ以前に、共に切磋琢磨出来る存在である、友、ジンが傷つけられ、倒れ伏す姿に思考が、体が、血が沸騰したような錯覚と共に怒りに満ちる。

 

 何もかもが赤く染まるような第二修練場で、叩きつけられた殺気に鼻を鳴らし、こちらを不快そうに見返すカインに、全身が悲鳴をあげるほど筋肉で盛り上がらせ、眼前のカインを粉砕せんと憤るエレ。

 

 同じく犬歯をむき出しにして唇から血を流し、めきめきと音を立てて肉体を限界以上に行使しながら今にも襲いかかろうとするガウ。

 

 そして、冷静を装っているものの、呪符を掴むその掌から血を流し、射殺さんばかりの殺気の籠った視線で呪符に魔力を通すフォウリィー。

 

 カインの挑発の言葉に、今まさに殺気が弾け、戦いが始まろうとした瞬間─

 

ー『──……?!』ー

「ん? 貴様ら、何を見て──!!!」

 

 三人の視界に、映ったのは……血塗れの体を、震える体を起こし、立ち上がろうとするジンの姿であった。

 

 左腕は折れているのであろう、あらぬ方向へと曲がり、力のない左足もまた、頼りなく支えとしては不十分であった。

 

 動くたびに血を吐き出しながらも、確かに、ジンは起き上る。

 

「じ、ジンちゃん?!」 

「ぐ、ぐぉお……駄目だ、立っちゃ! もう良いだろうがよぉ!」

「ゴホッ……まだ、まだだよ、リムルさん、グォルボさん」

「ば、馬鹿野郎ジン! あとはあたしがやる! お前は休め! フォウリィー! ジンを!」

「はっ?! え、ええ! わかったわ!」

「ジン、今いくから!」

 

 ──ジンが生きていた。

 

 血塗れで、自分の血に沈むジンが立ちあがった姿を見て、怒りにのまれていた三人は正気に戻り、当初の予定通り、ジンを救うべくカインをけん制するエレと、ジンの元へと向かおうとするガウとフォウリィーの二人が行動を起こそうとしたその時。  

 

「──ジン、お前……」

「ジン?!」

「ジン、貴方……」

「じ、ジンちゃん?! まだやろうっていうのかい?!」

「お、俺達の事なら十分だ! だから─」

 

 折れた左手を握ってバキっという音と共に骨をはめたジンが、ゆっくりとその手を上げて広げる。

 

 それは制止。

 

 来るなという意思の表れであった。

 

 ポーチから右手で治癒の呪符を取り出して体に張り付け、発動させて【進化細胞(ラーニング)】を促進させる中、もう一枚、取り出そうとした呪符が、【魔力】を流されつつも手からこぼれおち、地面に落ちる。

 

 それをじっと見詰めつつも、拾う事をせずにカインに再び視線を向けるジン。

 

 グォルボとリムルの言葉を背に、そしてカインを挟み、エレ達の言葉を受けながらもジンは、真っ直ぐにカインを見つめる。

 

「──貴様……なぜ、立てる」

「さあ、なんでだろうね? プッ、男の子、だからかな」

ー『ッ…………』ー

 

 呆然とした表情で、立ち上がるジンを見つめるカインが、つぶやくようにそう言葉を零す。

 

 敵を斃す為の武器もなく、大地を駆ける為の手段もない。

 

 カインの攻撃に六度耐えた体は死に体で、立ち上がる体は紅に染まり、震える体は今にも崩れ落ちそうだった。

 

 ──ただ。

 

 唯、その深く緑色に輝く瞳は、その意思の強さに輝きを増し、倒れる事を拒絶する。

 

 眠る事を拒絶していた。

 

 口の中に残った血を吐き出し、軽口を叩きながらその顔に笑みを浮かべるその姿に、その意思に。

 

 リムル達やエレ達が息を飲む中。 

 

(もう、あちこち痛すぎてなんだかわからないや。でも─)

 

 ジンの背には、背負うべきものがあった。

 

 ジンの心には、譲られ、鍛え上げられる(刃金)が、誇りが確かにあった。

 

 ここで倒れる事は、そんな師匠達の教えに反する事であり、そう簡単に潰れてやるもんか、という意地も確かにあった。

 

 何よりも、前へ。

 

 生きるという意思が、そこにあったのだ。

 

 そしてそれは─

 

『俺はまだ生きている、立っている。立って、お前の前に立ちはだかっているぞ』

 

 叩きつけられるジンの戦意は、カインにそう語りかける。

 

 俺はまだ折れない。

 

 俺が折れる時は、眠る時は、死ぬ時だけだと、死を拒絶した生きた瞳で、そういう意思を叩きつけていたのだ。 

 

 それは─

 

 どれほどの意思で成し得ているものなのか。

 

 どれほどの誇りで、その意思を支えているのか。

 

 どれほどの想いで、限界を超えた体を動かしているのか。

 

 目の前の(ジン)こそ、自分が超えるべき存在なのではないのか。

 

 ──カインはこの時初めて、ジンを自分が斃すべき敵である、と認識した。 

 

「──…………そうか、分かった。俺はまだ……貴様の事を子供だと思って舐めている節があったらしい。──貴公は、敬意を示すに値する【闘士(ヴァール)】のようだ。……俺は、第58代、【修練闘士(セヴァール)】。カイン=【G】=ファランクス。俺の()たる、貴公の名を聞いておきたい」

「……()は、こう名乗るよ。──【呪符魔術士(スイレーム)】・ジン=ソウエン」

「そうか──」

 

 肩越しに振り向いていた体をジンに向け、眼前に掲げるのは【修練闘士(セヴァール)】の【(シンボル)】。

 

 ──もはやカインの目には(ジン)しか映っていない。

 

「ジンッ!」

「エレ、放して!」

「駄目だ、我慢しろ! ガウ、フォウリィー!」

 

 カインと対峙する、血塗れのジンに駆け寄ろうとする二人の肩をつかみ、止めるエレ。

 

 ガウの非難するような視線と、何故、と問いかけるフォウリィーの視線がエレを責める中─

 

「これは、もうジンの闘いなんだ。ジンは、自分の意思で、誇りでカインとの戦いを選んだ。【闘士(ヴァール)】であるあたし達は……この戦いを見守る義務がある」

「でもっ!」

「エレっ!」

「駄目だっ!」

 

『それだと、ジンが死んでしまう!』その思いがガウとフォウリィーの中に駆け廻り、エレに訴えかけるが……エレが【修練闘士(セヴァール)】の本気を持って二人を抑制する。

 

「ジンの【闘士(ヴァール)】としての誇りを汚すなッ! あいつは……今、初めて自分の意思で戦いを選んでいるんだ。襲われるのでもない、流されるのでもない。あいつは、あいつ自身に宿った(刃金)で、自分の体を支えてるんだよっ! それをあたしたちが折る訳にはいかない。邪魔する訳にはいかないんだっ! 信じてやれよガウ、フォウリィー。あたし達の友は、ジンはやれるって! ──頼むよぉ」

「ッ……エレ、姉」

「貴女……も……ええ、そうね……貴女だけに我慢させる(・・・・・)訳には、いかないわよね……ごめんなさい、エレ」

 

 烈火の勢いで二人を抑制するエレの声が第二修練場に響き渡り、それを聞くガウとフォウリィーがエレを見つめる中、俯いてそう話していたエレの語尾が弱々しく、懇願したようなものになったのにハッとする二人。

 

 俯いたままのエレの顔からこぼれおちるのは……涙。

 

 食いしばった口元から流れるのは……血潮。

 

 誰よりもその拳に命をかけ、誰よりもその力を誇り、誰よりもその生き方を貫く、【修練闘士(セヴァール)】。

 

 それ故、誰よりも止めたいこの戦いを見届けねばならないエレこそ、誰よりもその身を抑制し、我慢していたのである。

 

 よく見れば、よく感じれば。

 

 二人を掴むその手は最初よりも弱く、弱々しく。

 

 不安に震えているのが分かった。

 

 そんなエレの心を感じたガウとフォウリィーが、その手に自分の手を重ね、じっと二人の闘いを見つめる中、口を結んだエレもまた、顔を振ったあとでその顔をあげる。

 

「──見極め人はこのあたし、第59代【修練闘士(セヴァール)】。【影技(シャドウ・スキル)】・エレ=ラグが務める。異存はないな?」

「無論だ」

「ああ。……エレ……ありがとう─」

「ッ……」

 

 凛とした表情で、この戦いの見極め人の役を買って出たエレがそう告げると、後姿のカインが頷き、同じく頷いたジンが、カインの背越しに……酷く優しく微笑みを浮かべて礼を言う。

 

 その顔を見たエレが、凛とした表情を崩しかけてぐっとこらえ、泣きそうになる顔を目を伏せ、自分を落ち着かせる事で防ぐ。 

 

 ──見届ける。

 

 ジンの背後のグォルボとリムル。

 

 エレとガウ、フォウリィーが見つめる中。

 

「──どの道、貴公は立っているのがやっとなのだろう。この俺の六撃を受け、生きている事こそが奇跡なのだからな」

「ああ、そうだな。正直、指一本動かすのも億劫だよ」

 

 冷静にジンの体の状態を見極め、そう声をかけるカインに、なんの偽りもなくそう答えるジン。

 

「俺が貴公の間合い外から貴公を嬲れば、それで貴公は終わるだろう。しかし、俺は貴公を敵と見定めた。俺の前に立ちふさがる壁だとな。故に俺は……最後の一撃。渾身の七撃目を持って貴公を屠る。この【(シンボル)】にかけてな」

「ああ─」

 

 メキっと拳を握りしめ、【(シンボル)】をジンに突きだすカイン。

  

 その拳に込められた意思。

 

 誇りを感じて頷くジン。

 

 やがてカインが右腕を引き、力を貯め、重心を落とし、体全体の筋肉が張り詰めていく。 

 

 対するジンは、ゆっくりと両手を掲げ、深呼吸を繰り返して待ち構える。

 

 息苦しいほどの静寂が場を支配し、張り詰めた緊張感が高まる。 

 

「──いくぞジン。この俺の一撃……この俺の【(シンボル)】。止められるなら、超えられるなら……超えて、見せろォオオ!」

❛七❜

 

 カインが吼えるのと同時に、踏み込んだ地面が爆発する。

 

 爆音、土埃を後方に置き去りにして、唯の一挙動ですでにカインの拳がジンの眼前に迫っていた。

 

 ──カインの【獣の闘法】は、人が突きつめた力の流動、その到達地点のようなものである。

 

 どんな動きでも、力を伝えるのにも、順序があり、無駄がある。

 

 拳を振うにしても、拳を振り抜く動作、腰を回す動作、踏み込む動作といった、足元から発する力を拳に伝えるまでのロスがあり、練り上げられた力が拳に到達するまで、かなりの量の力がその無駄によってそぎ落とされるのだ。

 

 それは動作による速さにも言える事であり、それにより速度もまた落ちる事になる。

 

 カインは、それを極めんとしたものだ。

 

 元々【クルダ流交殺法】・【表技】を得意としていたカインは、【刃拳(ハーケン)】や【滅刺(メイス)】といった技による強化をよしとせず、唯の一撃を技以上の威力に押し上げる為の鍛錬に明け暮れた人物である。

 

 歴代の【修練闘士(セヴァール)】の中でも、誰よりも基礎に撃ちこみ、誰よりも自分のスタイルを見直し、誰よりも拳の速さと威力を求めたもの。

 

 それがカインであり、そして、そのカインが到達したのが、この一撃。

 

 踏み込み・重心移動・腰の回転・肩の回転・腕の突きだしという拍子を、ただ一点に集約。

 

 一拍子で全てを連動させる事により、その速度、その威力においても最高の一撃を繰り出せるようになったのだ。

 

 奇しくも、それはジンが毎朝繰り返す【流()法】、力の無駄を極限まで削り、流動を極めるというものと同じであり、その点でもカインはジンの先にあった。

 

 それを用い、己が肉体の限界を理解し、連続で撃ちこめる攻撃を七撃と定め、そこに自分の全力を注ぎこむ。 

 

 ─【七撃必殺】。

 

 これこそがカインの真の闘法、その呼び名である。

 

 【解析(アナライズ)】により、その眼にカインの動きを捕えられるようになったジンは、素直に感嘆していた。

 

 その動き、その速度、その威力。

 

 自分が目指すものが目の前に居たのだから。

 

 今の自分と、カインとの力量を察しながらも、ジンは、動かなくなった左足で、地面に落してしまった呪符を踏む。

 

 すると、呪符が発動して地面からわき出した木の根がジンの左足を地面に縛りつけ、ジンを地面に固定する。

 

 これにより脚が安定したジンは、右足で大地を踏みしめ、唸りをあげるカインの全力の右拳を、左手で受け止めようとするのだが……その威力は今までの比ではなく、受け止めた掌は砕け、折れた腕もまた、その衝撃によって次々と折れ曲がり、砕けていく。

 

 血が吹きだし、まるで蛇腹のようにたたまれていくジンの左腕。

 

 そして、それでもなお、全く衰えぬカインの一撃がジンの顔面を捕えようと迫る中。 

 

 ──ジンは、掲げていた右手を振う。

 

 腰と肩を回し、地面を踏みしめたその一撃。

 

 受け止めた左手がぐちゃぐちゃになる中、左手につけていた【世界樹(ユグドラシル)】の腕環によって止められていたカインの拳を受け流す。

 

 一撃が避けられた事に驚きを隠せないカインではあったが、構わずそのまま加速し、ジン目掛けて体当たりを慣行する。

 

 音を置き去りにする速度での体当たり。

 

 しかも、呪符で脚を地面に縫いとめてしまったジンにとって、それは体を粉砕されるだけでは済まないほどの衝撃となる。

 

(【(シンボル)】たる右手で仕留められなかった事は残念だが……もらったっ!)

 

 腕輪を破壊出来なかった事に疑念を抱きつつも、自分の拳がジンの肩を抉り、顔を掠めて血の筋を空中に描きながらも後方に抜けていく姿を見ても尚、自分の勝利は揺るがないと勝利を確信し、カインは肉体を引き締め、鋼の塊と化してジンに突進する。 

 

 そんな自分の脇腹に当たるジンの右拳の感触を感じつつも、それがどうしたとそれすらも粉砕してみせんと突き進み─

 

「──ゴッ」

 

 ──それは、強引に止められる事となる。

 

 脇腹に押し当てられただけだったはずのジンの右手。

 

 左手のようにボロボロに打ち砕かれるはずだったその手は、何故かその硬度を維持したままカインの脇腹を直撃。

 

 鉄の鎧すら凌駕するはずのカインの肉体に突き刺さっていく。

 

 右足を後方に引き、右手と一直線に繋がった一本のライン。

 

 そのラインにジンは、自分の全力で【身体強化法】を施し、一点に集約された(刃金)の杭と化して踏ん張っていたのだ。

 

 唯一勝っていた内在する力を全力で使い、ジンは足りない攻撃力を、自分を地面に縛りつける事によって地面の力、そして突進してくるカインの凶悪な一撃の力を利用する事によって補ったのである。

 

 スローモーションのように徐々にカインの脇腹にめり込んでいく自分の拳。

 

「……ゴフッ」

 

 しかし、カインの最高の一撃の威力は、ジンにも当然フィードバックする。

 

 右腕を介して突きぬける圧倒的破壊力の衝撃が、全身をくまなく突きぬけ、その意識を持っていこうとする。

 

 勢いに押され、地面を抉り、埋まる右足と、地面に縛られた左足の拘束が引きちぎれる。

 

 内側に走り抜けた衝撃が、内部から肉体を裂いて、所々から血を吹きだす中。

 

「ぁ、ぁああ、ぁああああああああ!」

ー螺 旋 相 乗ー

 

 それは脇腹に刺さった右手に注がれる、力。

 

 自分の腕を現代の銃の砲身に見立て、【流()法】の操作を持って打ち出される、【気力】と【魔力】の二色の螺旋。

 

 それはカインからのフィードバックで時折制御出来ずにぶつかり合い、ジンの右手を内側から破壊して裂き、血を吹きださせながらもカインの脇腹に放出される。

 

 ─そう、かつてカイラの説明にもあった通り、【気力】と【魔力】は反発する。

 

 ならば、その一撃を敵対するものに注ぎこみ、その体内で混合させるとどうなるか─

 

「あああああああああああ!!」

「──ごっ、ぐ、がぁあああ!」

ー重 爆 音 響ー 

 

 めり込む拳からカインの体内へと注がれたソレは、注ぎこむ際の反発でジンの右手を。

 

 そして、皮肉にもカインの肉体の頑健さが仇となり、外に発散される事なくカイン内部で爆発する事となる。

 

 ズドン、という凶悪な音をたて、炸裂した一撃。

 

 それは、カインの内側から破壊し、全身がピシリ、という音を立てて裂け、血を吹きださせる。

 

 その一撃で白目をむき、口から鮮血を飛び散らせたカインが─

 

「ぁああああああああ!!」

ー轟 音 吹 飛ー

 

 二人の力の均衡が崩れる事により、ジンの右拳が突き刺さった脇腹を起点にしてくの字に体を折り曲げる。 

 

 やがて限界まで体を折り曲げると、限界までひかれたゴムが手を離されて戻るかのように。

 

 引金を引いた銃が、引金に叩かれて砲身から銃弾を吐き出すように。

 

 爆発するように弾け飛んだカインの体が、凄まじい勢いで第二修練場の壁に激突し、壁を粉砕し、貫通し、それでも尚勢いを止めずに吹き飛んでいく。 

 

 やがてそれは闘技場……第一修練場の分厚い城壁へとめり込んで止まり、人型の穴があいて埋まる事によって停止し……カインが崩れ落ちる。

 

「ッガハァアアア」

ー『じ、ジン!!』ー

 

 そして、ジンもまた、カインを吹き飛ばすのと同じフィードバックを全身に食らい、天を仰いで血を吐き出してその身を傾けていくが、地面に固定された左足と、地面に埋まった右足がそれを許さず、強制的に立ったままの姿勢に固定される。

 

「はぁ、はぁ、ごふっ、はぁ、はぁ」

「ジン! しっかりして! 今治療するからね!」 

「ジン、死んじゃだめだよ!!」

 

 泣きだしそうな顔で駆けよったガウとフォウリィーが、慌ててジンの体を引き上げ、脚の呪符を解除して治療呪符を施す中。

 

「──か、カイン、は?」

「──思いっきり吹き飛んだよ。連行の必要もないほどにな。城壁にぶち当たってたから……今ごろ城の衛兵に拘束されてるって」

「そ、っか」

 

 地面に横たわったジンは、今にも閉じそうな瞳を懸命に開き、泣きそうな顔で自分を見つめるエレにカインがどうなったのかを確認すると、無理やり笑みを作ったエレによってそう告げられ、ほっと安心したように息を吐く。

 

「──お前の勝ちだ。ジン。お前は、お前の力で確かに、【修練闘士(セヴァール)】という伝説を打ち破って見せたんだ。誇っていいぞ…………っとに、心配させやがって……ッ、馬鹿野郎!」

「あはは……ごめん、ね」

 

 くしゃくしゃと頭を乱暴に撫でるエレの顔から、今まで我慢していた分の涙があふれ出し、伝う涙がジンの顔へと落ちて弾ける。

 

 それにつられるかのようにガウとフォウリィーが涙を流す中。

 

 自分を心配してくれる仲間がいる。

 

 自分の為に涙を流し、怒ってくれる友がいる。

 

 それは、転生し、孤独なジンにとって何よりもその心を救ってくれる支えであった。

 

(きっと、こんな無茶をしたって知れたら……カイラやオキトさん、ザキューレさん達も、怒るんだろうなぁ……)

 

 目を三角にして怒るカイラや、懇々とジンを諭すように怒るオキト、無言で威圧するであろうザキューレを想像し、痛みで引きつる顔に笑みを浮かべるジン。

 

「馬鹿! 何笑ってやがるんだ! 心配かけた分、ベッドの横でたっぷり説教してやるからなっ!」

「うぇえええ?!」

「当たり前だよジン! どれだけ心配したと思ってるのさ! ……本当に、無事で、よがっだ……」

「まったくよ。……お願い、ジン。私達より先に逝かないで。私達に、貴方の死を看取らせるような真似は……二度としないで頂戴。……お願いよ」

「ごめん……いや……ありがとう……」

 

 フォウリィーの使う、呪符の柔らかな光が自分の傷を癒す中、そんな三人の気持ちが嬉しくて、心配をかけるのが申し訳なくて。

 

 眉を寄せて謝罪と、礼を口にする。 

 

「そう、いえば……リムルさん、と、グォルボ、さんは?」  

「ああ、あいつら……ジンに近づきすぎた見たいでな。ジンとカインが衝突した余波をまともに受けて吹き飛んで気ぃ失っちまったみてえだ」

「そ、っか。無事なら、いいんだ。ぐっ!」

 

 第二修練場に入って以降、ずっと自分を心配してくれた二人の様子を確認し、無事である事に安心すると、今度は横たえられた自分の状態を確認しようと頭を起こすジン。

 

「……うわぁ」

 

 ──その視界に映るのは、非常にグロイ描写になるであろう左手と右手。

 

 そしてどこのスプラッターだというレベルで血塗れの体であった。

 

 自分の体を【解析(アナライズ)】するも……【進化細胞(ラーニング)】は間違いなく働いているものの、重要個所を治す事に手いっぱいであり、どこの部位も【危険領域(レッド・アラート)】を鳴らし、無事な部位が一つもない事を【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】が警告するほどである。

 

(……これは、一気に治さないと駄目かなあ。【進化細胞(ラーニング)】の効果で治る事は治るんだけど……それじゃ不自然だし……あ、そうだ、それなら今、自分の体を実験台にして─)

 

 そんな重体の自分の体を見てぼやくジンではあったが、唐突に閃いた事を実行しようと、行動を起こす。

 

「だ、だめよジン! 動いていい体じゃないのよ?」

「今じゃないと駄目なんだよ。エレ、ガウ、この第二修練場にいる人は……俺達以外起きてない、よね?」

「え? う、うん。大丈夫だよ」

「ああ、問題ねえよ……ん、ああ、そうか……ソレじゃないともう、無理か」

「なるほど。でも、大丈夫なの? 確かに、もう呪符では治療出来なさそうなレベルではあるのだけれど……」

「え? どうしたの? エレ姉、フォウリィーさん」

 

 この場にいる三人以外、意識がある人がいない事を念入りに確認するジン。

 

 周囲を警戒したガウとエレが頷くのを見て、何をするのかを大体悟ったエレとフォウリィーが頷く中、取り残されたガウが何事かと右往左往する。

 

「とりあえず、ガウ。あんまり意味はねえと思うけど、ジンの姿を隠すようにするぞ」

「え? あ、うん」

「ごめんねガウ君。今はジンの怪我を治すのが最優先だから」

「わかりました、フォウリィーさん」

 

 そう言ってジンを囲むように三方に陣取る三人。

 

 今一理解していないガウではあったが、ジンの怪我が治るならと頷く。

 

 そして─

 

「──【世界樹(ユグドラシル)】、力を貸して─」

❝【神力魔導】❞

「えっ?!」

「し~、静かに、ガウ君」

「驚いたか? まあ、見てろって」

 

 ジンがそうつぶやくと同時に、その触媒たる【世界樹の腕輪】が緑色の輝きを放つ。

 

 【神力魔導】という言葉に驚愕して声をあげるガウに、人差し指を口に当てて静かにするように諭すフォウリィーと、何故か自慢げにガウに笑いかけるエレ。  

 

(──ありがとう、【世界樹(ユグドラシル)】。──周囲の【魔力】の使用を最小限に。【神力魔導】を目くらましに、自分の【魔力】で【進化細胞(ラーニング)】を活性化させ、その治療工程を【解析(アナライズ)】する) 

 

 腕輪から全身に満たされる【自然力(神力)】が、【進化細胞(ラーニング)】を活性化させるのを皮切りにして、ジンの自身を実験台とした試みが始まる。

 

 それは、【進化細胞(ラーニング)】の特性。

 

 ジンを健康体の状態に保つために、自己再生を行うという点だ。

 

 と、言う事は【進化細胞(ラーニング)】の過程を紐解けば、どんな状態の人間も健常者へと導く事が出来るという事であり、それは今まで治療方法すら思い浮かばなかったエレの兄、ディアス=ラグを救う糸口になるのではないかと考えたからである。  

 

 そんな思考をしている間にも、【進化細胞(ラーニング)】によって再生する肉体の、再生過程が【解析(アナライズ)】されていく。

 

 まずは中心となる骨子を再生する為、健常な部分からまるで磁石で砂鉄を集めるかのように、バラバラに砕かれた骨が引き寄せられる。

 

 それは、ジンの【健常】状態を設計図とし、バキバキという音を立てながら折れた骨の中心を【魔力】の糸のようなもので連結・縫合して接着。

 

 またたく間に骨が再生されると、後はその周囲の神経内部・筋肉繊維内部を【魔力】の極細な糸が駆け廻り、出口……まったく同じ役目を持つ部分へと導き、バイパスを作っていく。 

 

 こうしてすべての神経がバイパスを作り、繋がり、神経系・筋肉系の動き、働きを確認。

 

 最後に外見である皮膚をコーティングするかのように【魔力】の微細糸が包み込み、再生する。

 

 やがてそれらは砕けた右手、左足と続き、全身の神経という神経、筋肉繊維、骨格、骨子に至るまでを隈なく捜索する。

 

 それにより、全身が【魔力】によって輝かせたジンが眩い輝きを放ち……やがて腕輪がその輝きを失うのと同時にその光も止む。

 

 そしてそこには─

 

「す、ごい……すごい、すごいよジン! ま、まさか【神力魔導】、【魔導士(ラザレーム)】だなんて!」

「……やっぱジンはすげえな。こんなのカイ様も出来なかったぞ」

「そうね、私の知る人も、ここまでの再生をするのには森に入り込み、森全体の力を借りなければならなかったわ」

「ふぅ~……どうにか、なったかな……あ、れ?」

ー『ジン!』ー

 

 外見上、怪我一つなく再生したジンの姿があった。

 

 初めてみる【神力魔導】に興奮気味のガウが嬉しそうにはしゃぎ、エレがその力に感心し、フォウリィーが旦那様であるポレロと見比べてジンの腕前に頷いて見せる。

 

 ゆっくりと起き上り、両手・両脚の感覚、そして体全体の様子を確認した後、起き上ったジンではあったが、何故か強烈なめまいに襲われ、倒れこんでしまう。

 

 慌ててエレが支え、心配そうにガウがジンを覗きこみ、フォウリィーが脈拍や体長を確認する中。

 

「……なるほど、貧血ね。肉体は再生するけれど、流れ出した血までは再生しないんだわ。エレ、悪いんだけどジンを運んで頂戴」

「そっか……よかった。ったく、無理するんじゃねえよジン。ま、おとなしくベットの上で飯食って血を増やせよな」

「う~……わかったよ」

「でも、本当に良かった。あのままじゃ……両手や左足は使えそうにないと思ってたから……本当に【神力魔導】ってすごいんだね」

 

 診察結果にほっと一息ついたフォウリィーが、ジンをエレの背中に乗せておぶってもらい、安堵のため息を吐いたエレとガウがジンの無事を、治癒を喜ぶ。

 

「──こちらです、お願いします!」

ー『はっ!』ー

 

 それと同時に、【片目(ワンアイ)】が呼んできたのであろう、治療専門の城付き【呪符魔術士(スイレーム)】部隊が第二修練場へとやって来る。

 

 ジンの処置と、呪符の効果によって危険領域を抜けた【闘士(ヴァール)】達が、新たに治療呪符を追加されながらも次々と運ばれていく中。

 

「リムルさん、グォルボさん……」

「あいつらも……本当に無事でよかった。まったく……無茶しやがって」

 

 気絶したまま、運ばれていくリムルさん達を視線で追いながら、安堵のため息を零すエレが微笑みを浮かべる。 

 

「後で事情聴取があるかもだけど……今は家に帰りましょ? さすがに疲れたわ~」

「ああ、そっちはジンを送り届けたらあたしがひとっ走りして王に報告しとく。緊急派遣とはいえ、王直々の依頼だからな。ガウ、お前はジンの世話をしてやれよ」

「うん、任せてよ!」

「あ~、ごめんな、ガウ」

「ううん、いつも世話になってばっかりだから、お返しが出来て嬉しいよ」

 

 う~んと伸びをするフォウリィーと会話をしながら通り過ぎる人たちに目礼を交わすエレ達が、運ばれていく人々を、そして後始末に追われる人々を横目に第二修練場を後にする。

 

 ──長い闘争の夜の終わり。

 

 再び日常の喧騒が戻った瞬間であった。

 

 こうして、自分の家に戻ったジン達。

 

 当然の如く血塗れの服を脱がされたジンが、怪我の確認と称してフォウリィーと一緒にお風呂に入る事となり、フォウリィーに血の汚れなどを丸洗いされている間、ガウが夜食の下ごしらえを始めた頃。  

 

「いやあ、どうも。お疲れ様でした」

「あ?! 【片目(ワンアイ)】じゃねえか。悪ぃな、後片付けとか任せっきりで。今王に報告に行こうと思ってたんだ」

 

 家を出て、王城に報告に向かおうとしていたエレに声をかけてきたのは【片目(ワンアイ)】であった。

 

 飄々とした様子で微笑みを浮かべながらも、今夜の働きを労う【片目(ワンアイ)】。

 

 後始末そっちのけで、ジンが心配だからと真っ先に家に帰って来た事をエレがわびると、手をひらひらとふって了承する。

 

「──で、ジン君の具合はどうですか?」

「ああ、まあ治療はうまくいったが……血が足りてねえんだ。しばらく様子を見ないとなんとも言えねえ」

「そう、ですか。いや~、よかった。あんなに小さい子が戦いに巻き込まれたと聞いて、心配していたんです。大事がなくて何よりですよ」

「そうだな……本当に……そう思うよ」

 

 城に向かう道すがら、並んで歩く二人がジンの容体について言葉を交わす。

 

 無事だという言葉に心底安堵する【片目(ワンアイ)】の様子に、本当に心配していたんだなと先ほどまでの警戒のレベルを下げるエレ。 

 

「なあ、【片目(ワンアイ)】」

「なんですか?」

 

 深夜になった事もあり、人のまばらな通りを歩く二人。 

 

「カインは─」

「おっと。その話はちょっと待ってください。少々事情が込み入ってましてね」 

 

 そう言えばと、ジンに敗れ、城に埋まったカインがどうなったかを尋ねようとしたエレであったが、【片目(ワンアイ)】がその言葉を遮り、口元に人差し指を当てて沈黙を指示する。

 

 油断なく周囲に気を配り、裏通りへとエレを誘う【片目(ワンアイ)】に従い、ついていくエレ。 

 

 やがて、第二修練場へと向かう街道へと出ると、そこはすでに事後処理を行い撤収された後であり、まるでカインの襲撃が無かった(・・・・)かのようであった。

 

 そんな街道の脇、塀に背を預けながら休憩する二人が、先ほどの続きの会話を始める。

 

「失礼。それで……カイン=【G】=ファランクス殿の件、でしたね」

「──ああ。奴は……どうなった?」

 

 事後処理に尽力していた【片目(ワンアイ)】ならばと話を振ると、【片目(ワンアイ)】は眉を顰め、どう言葉にしようかと悩んでいるようだった。

 

「……まあ、容体だけでいえば瀕死の重体、ですね。正直、【修練闘士(セヴァール)】じゃなければ死んでいるぐらい大怪我ですよ。脇腹の拳大の一撃から内部に奔ったと思われる力の流れが、カインの全身をボロボロに破壊しています。未だに意識も戻っていませんしね」

「?! せ、【修練闘士(セヴァール)】がそこまでヤラれる一撃だったってのか?!」

「静かにっ!」

「あ?! わ、悪ぃ」

 

 確かにカウンターで入った一撃だったとはいえ、クルダの国家最高戦力である【修練闘士(セヴァール)】が、一撃で戦闘不能になったと知って驚愕するエレが叫び声をあげるが、【片目(ワンアイ)】が叱責したことによって口を噤み、小さくなる。

 

「──カインに襲われた奴らは?」

「とりあえず全員無事ですよ。カイン殿はあまりに戦力差がある相手は本気で相手をしませんし、怪我の度合いに差はあれど、大体一週間程度で復帰すると思います」

「……良かった。へへ、まあクルダ【闘士(ヴァール)】が、このぐらいで死ぬ訳ねえしな!」

「ええ、本当に、よかった。……死人が出てしまえば、今回の件の収まりも悪くなりますしね」

 

 さらに突っ込んで治療の為に運ばれていった【闘士(ヴァール)】達の容体を訪ね、無事であることに喜びを露わにし、その口元に笑みを浮かべるエレではあったが……煮え切らない言葉を零す【片目(ワンアイ)】の言葉に眉をひそめ─

 

「──と、言う事は……今回の件、やっぱもみ消す事になんのか?」

「……お察しの通りです。流石に【修練闘士(セヴァール)】が自国を攻めたなど、国外に向けて公表出来ませんからね。【仕事斡旋所(ギルド)】や【呪符魔術士(スイレーム)協会】、今回の件に関わった【闘士(ヴァール)】達全員に口外しないように厳重に口止めをしてあります。それに─」

「最年少、わずか8歳の少年が、【修練闘士(セヴァール)】を打倒した。という件を広める訳にはいかない、か」

「ええ、まあ……それに、あの少年、少々特殊な(・・・)背景があるのでしょう? どうも聖王女様から釘を刺されたらしくて。まあ、こちらとしても都合がよかったので、それに乗って情報封鎖したという訳です」

「なるほど、な」

 

 言葉を濁していた【片目(ワンアイ)】から察してそう言葉にすると、それに深く頷いてその理由を語りだす。

 

 それは確かに必要な事であり、必然ともいえる事であった。

 

 特に、ジンは【魔導士(ラザレーム)】という件を隠したい背景がある。

 

 それなのにここで【修練闘士(セヴァール)】を倒したなどと公になれば、最年少であるジンを倒し、名声を得ようとする馬鹿や、ジンの背景を探り、利用とする馬鹿が後を立たなくなるだろう。

 

 ジンを守る為にも、これは必須ともいえる事なのだ。 

 

「──とはいえ、カイン殿に襲われた【闘士(ヴァール)】達がその命を拾ったのは、ジン殿が尽力してくれたお陰。カイン殿との戦闘を抜きにしても、字名ぐらいはついてもおかしくないですがね」

「まあな。でもよぉ、そうすると今回の襲撃、どういう内容に差し変わるんだ?」

「まあ、内容はほとんど変わりませんよ。ただ、カイン殿が少々訓練(・・)に力を入れすぎて(・・・・・)怪我人を多く出してしまい、謹慎処分になった、という感じです」

「まあ……間違っちゃいねえ、んだよなあ。【修練闘士(セヴァール)】と死合った訳だしよお」

「大分こじつけですがね。後日、正式な発表があると思いますので、ご家族やお仲間にはそうお伝えください」

 

 そういって背を預けていた塀から身を離し、再び城を目指そうとするエレと【片目(ワンアイ)】ではあったが─

 

「ああ、ここまでで結構ですよ。まあ、無いとは思いますが、今回の件を探ろうとする輩もいないとも限りません。ジン殿が復帰するまでの間、家の警護を頼むとの事です」

「そっか、わかった。『委細承知しました』って、伝えといてくれ」

「わかりました。それでは」

 

 手をひらひらと振った【片目(ワンアイ)】が王の指示を伝え、エレはそれにまじめな顔で頷いて去っていく。

 

 それに一礼してその背を見送る【片目(ワンアイ)】が─

 

「──あ~、このしゃべり方は肩が凝るねぇ。素直に最初から名乗っておけばよかったか? でも、ここぞという時に登場してこそ、ありがたみがあるよなあ」

 

 首を回し、バキバキと音をたてて歩き出しながらもぼやき、顔の包帯を外し出す。

 

 外された包帯の下から現れた目は潰れているわけでもなく、怪我があるわけでもない。

 

 問題なのは……頬に斜めに走る、傷。

 

「しかし……あのカインが敗れるとはな。聖王女様のお気に入り、13番目の【魔導士(ラザレーム)】殿、か。まさかカイの最年少記録を破る奴が出るとは予想外だったが……カインを倒したあの一撃。【神力魔導】でもぶち込んだのかねえ?」

 

 飄々とした態度の中にも、【闘士(ヴァール)】の風格と威圧感を漂わせるその姿。

 

「まあいいか。これからお前がどういう道を歩むのか……見定めさせてもらうぞ? 少年」

 

 ニヤリと笑みを浮かべてジンが帰ったエレの家に視線を送り、背を向けるこの男こそ、クルダの歴史の中でも『最強』と謳われる、生きた伝説。

 

 【闘士(ヴァール)】の目標であり、頬に斜めの血のラインを引く風習を作る原因になったもの。

 

 クルダの英雄。

 

 【真修練闘士(ハイ・セヴァール)】・【刀傷(スカー・フェイス)】・ヴァイ=ローであった。

 

 

 

  

 

 そして、家に帰ったエレ達はと言えば─

 

「ほら、詰めて詰めて。せっかくベットをくっつけたんだから」

「い、いや、ちょ! わざわざ四人で寝なくてもッ!」

「そ、そうだよ! ぼ、僕は一人で寝るから」

「──逃がすかぁ!」

「?! は、放してよジン! 僕は別に怪我も何もしてないんだからぁ!」

 

 ジンが心配だからというフォウリィーの言葉で、何故か四人で寝る事になるという、何とも言えない展開になっていた。

 

 当然の如く拒否するジンとガウではあったが……未だにふらつくジンではフォウリィーを引きはがす事も出来ず、せめてもとガウを巻き込んで放さないジン。 

 

「何恥ずかしがってんだよ、ガウ。昔は一緒に寝たじゃねえか。夜も遅えし、近所迷惑だ。さっさと寝るぞ」

「フフッ、いいわね。こうして皆で寝るのって。……エレ? 蹴っ飛ばして落とさないでよね?」

「ばっ! するか!」

「……するんだよ、実は」

「え、マジで?!」

「──いいから寝ろ! ったく」

 

 戻った日常にほっとしながらも─

 

「Zzzz……ん、ぐぅ……ガウゥ……」

「ぐ、ぇえええ……え、エレ姉、エレ姉! は、入ってる、首入ってるから!」

 

「もう……心配……かけるんだ、から……んむう」

「もぶぐがぁ、ふぉ、ふぉうりいひゃん、息、息!」

 

ー『ね、寝れない……』ー 

 

 チョークされるガウと、胸元に挟まれて呼吸困難に陥るジン。

 

 こうして心休まらない夜が過ぎていくのだった。

 

 

 

 

 

登録名【蒼焔 刃】

 

生年月日  6月1日(前世標準時間)

年齢    8歳

種族    人間?

性別    男

身長    131cm

体重    31kg

 

【師匠】

カイラ=ル=ルカ 

フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザー 

ワークス=F=ポレロ 

ザル=ザキューレ 

 

【基本能力】

 

筋力    AA+    

耐久力   B⇒A+ 

速力    AA+ 

知力    S 

精神力   SS+   

魔力    SS+ 【世界樹】  

気力    SS+ 【世界樹】

幸運    B

魅力    S+  【男の娘】

 

【固有スキル】

 

解析眼   S

無限の書庫 EX

進化細胞  A+

 

【知識系スキル】

 

現代知識   C

自然知識   S 

罠知識    A

狩人知識   S    

地理知識   S  

医術知識   S⇒S+   

剣術知識   A

 

【運動系スキル】

 

水泳     A 

 

【探索系スキル】

 

気配感知   A

気配遮断   A

罠感知    A- 

足跡捜索   A

 

【作成系スキル】

 

料理     A+   

家事全般   A  

皮加工    A

骨加工    A

木材加工   B

罠作成    B

薬草調合   S  

呪符作成   S

農耕知識   S  

 

【操作系スキル】 

 

魔力操作   S   

気力操作   S 

流動変換   C  

 

【戦闘系スキル】

 

格闘            A 

弓             S  【正射必中】

剣術            A

リキトア流皇牙王殺法     A+

キシュラナ流剛剣()術 S 

 

【魔術系スキル】

 

呪符魔術士  S   

魔導士    EX (【世界樹】との契約にてEX・【神力魔導】の真実を知る)

 

【補正系スキル】

 

男の娘    S (魅力に補正)

正射必中   S (射撃に補正)

世界樹の御子 S (魔力・気力に補正) 

 

【特殊称号】

 

真名【ルーナ】⇒【呪符魔術士(スイレーム)】の真名。 

 自分で呪符を作成する過程における【魔力文字】を形どる為のキーワード。

左武頼(さぶらい)⇒【キシュラナ流剛剣()術】を収めた証

 

【ランク説明】

 

超人   EX⇒EXD⇒EXT⇒EXS 

達人   S⇒SS⇒SSS⇒EX-  

最優   A⇒AA⇒AAA⇒S-   

優秀   B⇒BB⇒BBB⇒A- 

普通   C⇒CC⇒CCC⇒B- 

やや劣る D⇒DD⇒DDD⇒C- 

劣る   E⇒EE⇒EEE⇒D-

悪い   F⇒FF⇒FFF⇒E- 

 

※+はランク×1.25補正、-はランク×0.75補正

 

【所持品】

 

呪符作成道具一式 

白紙呪符     

自作呪符     

蒼焔呪符     

お手製弓矢一式

世界樹の腕輪 

衣服一式

簡易調理器具一式 

調合道具一式

薬草一式       

皮素材

骨素材

聖王女公式身分書 

革張りの財布

折れた士剣


 
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