No.540476

天使と悪魔の代理戦争 第一話

夜の魔王さん

天使と悪魔の戦争の代行人となった少年たちは、それに一切構わず生きていく。

2013-02-05 21:26:47 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:896   閲覧ユーザー数:864

 一月の修行期間を終えて生まれ変わってから数年が経った。

 まぶたを開くと今ではすっかり見慣れた天井が目に入った。

『おはようございます。マスター』

 すっかり聞き慣れた合成音声を聞いて体を起こし、ベッドの側のサイドテーブルを向くと、そこには鎖が通してある緑色の宝石の付いた金色の指輪――僕のデバイスのエルディナの待機形態があった。

「おはようディナ」

『はい。今は午前7時13分です。朝食の支度も出来ているようですので、もう着替えた方がいいかと』

「うん」

 相変わらず厳しいディナに言われてベッドから出てパジャマから着替える。最初の頃は着替えるのにも母さんの手を借りていたが、五歳になった今では自分ですぐに着替えられるようになった。

 

 エルディナを首から下げ、リビングに行くとそこには父さんが椅子に座って新聞を読んでいた。

「父さん、おはよう」

 挨拶をすると父さんは新聞から顔を上げて、そこで始めて僕に気付いたようだ。

「ああ、おはよう弥雲(やくも)

 ちなみに、弥雲というのが今の僕の名前であり、フルネームは水無神(みなかみ)弥雲だ。

「全く、弥雲はもう起きたのに、水面(みなも)はまだ起きないのか?」

 父さんがそう言った時、扉の開く音がした。

「おっ、噂をすればなんとやらだな」

 扉が開き、背中の中程まである緑色の髪が寝癖でボサボサになった中学生くらいの女の子と、腰まである翠色の髪を寝起きなのにしっかりと三つ編みにした僕よりも小さな女の子が入って来た。

「ふわぁぁぁ……おはようございます」

「おはよう」

「水面……お前が一番お姉さんなのに一番寝坊助(ねぼすけ)でどうする」

「朝は弱いんだから仕方ないじゃない。ふぁぁぁ」

 呆れた父さんに、姉である水面はあくび混じりに答える。

「全く。弥雲と紗良(さら)はこんなにも早起きなのに、なんで姉であるお前はそうなんだ」

 父さんが嘆かわしいと首を振った。

「三人とも、朝ごはん出来る前に顔洗って来なさい」

「「はーい」」

 キッチンからかけられた母さんの声に僕と水面が返事をし、妹である紗良はコクリと頷いた。

 

 

 顔を洗って戻ると、父さんと母さんが何故か深刻そうな顔をして座っていた。

「と、父さん? 母さん? どうしたの?」

 水面もそれが分かったようで、少し緊張した様子で話しかけた。

「……まずは朝飯を食べよう。話はそれからだ」

 父さんのその言葉に従って朝ご飯を食べたが、味がいまいち分からなかった。

 そして、食べるのが一番遅い紗良が食べ終わったのを確認すると、父さんが静かに口を開いた。

「……実はな、父さん、昇進したんだ」

「それは、いいことじゃないの?」

「……問題は、父さんの役職なんだ」

 そう言って父さんがテーブルの上に置いた紙には、父さんをとある地方の支店長にすると書かれていた。だけど、その店がある場所は、この海鳴市からかなり遠かった。

「しかもその近くには空いている土地がなくてな。会社が用意してくれた小さなマンションの一室に住むことになってるんだが、そこではとても、家族全員で住めそうにないんだ」

 父さんの言うことが理解できて、その意味に愕然(がくぜん)とする。それは、つまり。

「父さん、死ぬの?」

 水面も同じ考えに至ったようだ。

「ちょっと待て。その反応はおかしいだろう」

「だって、父さん生活能力0じゃない」

「いや、だから俺と一緒に母さんも行くけど大丈夫か? って話だよ!」

「え? そこは普通父さんが単身赴任する流れでしょう? 分かった許すよ。母さん持って行っていいよ」

「……ああ、うん。ありがとう。弥雲もそれでいいか?」

 水面と話をするのは無意味と分かった父さんがボクに話を振った。紗良に聞かないのは紗良は僕の言うことに同意するからだ。

「うん、いいよ。父さんを一人にはしておけないし。家のことは水面姉がいれば大丈夫だし」

 水面はこれでも家事万能なのだ。

「情けない父さんでスマン」

「年末年始とか入学式とかには帰って来るからね」

 こうして、僕たち三人暮らしが始まる事になった。

「驚きましたね。まさかこんな形で自由に動けるようになるなんて」

 その後部屋に戻ると、部屋に水面と紗良が入って来た。

「家の中では敬語使わないでくれる?」

「それは失礼しました、主」

「その呼び方も止めてよ」

 水面は僕のユニゾンデバイスであり、どういう仕組みか分からないけど人と同じように成長している。

 ちなみに僕たちがこの家の子供になった理由は、まだ小さかった僕たちを抱えていた水面が父さんに拾われたからなのだ。

 それと、紗良は僕の使い魔で、見た目は人間と同じ速度で成長するように制御してるらしい。

「こう言っては父さん母さんに失礼ですが、これで自由に動ける様になりますね」

「自由といっても、まだ何をしていいかは分からないけどね」

 僕は同じ立場である少年のいった『魔法少女リリカルなのは』というものと『とらいあんぐるハート』というものも知らないから、何をしていいのかがさっぱりなのだ。

『私にも世界観やそれに伴う知識はインプットされてますけど、この先何が起きるかは分かりません』

「なるようにしかならないってことなのかな。でも、これでもしもの時は父さん母さんを心配させないで済むね」

 腹を痛めて生んでくれた親ではないとは言え、ここまで育ててくれた両親なのだ。感謝の気持ちは多大にある。

「つまり、結局は良いことなのでは?」

 水面はそう言うが、それは否定しなければならない。

「そうでもないよ。家事が唯一できる水面が朝に弱いんだから。僕、朝ごはん抜きは嫌だよ?」

「ど、努力します……」


 
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