No.540084

天使と悪魔の代理戦争 プロローグ

夜の魔王さん

古来より、天使と悪魔は仲が悪かった。しかし、度重なる戦闘によって同胞の数が少なくなったことで、天使と悪魔は今までとは違う手法を取るようになった。それは、年若くして死んだ者を代役として戦わせることだった……。

2013-02-04 21:50:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1049   閲覧ユーザー数:1009

 

 何もない。

 そう表現するしかない場所に、四人の少年たちいた。

 その四人はそんな不可思議な場所にいるにも拘わらず、誰も何も言わずそこに黙って立っていた。

「少年たちよ」

 そこに、高い所から女性の声がした。

 それをきっかけとして、黙って立っていた少年たちが目が覚めたように飛び跳ね、上を見上げる。するとそこには白いヒラヒラした服を着た女性と、黒い軍服のような物を着た男性がいた。

「だ、誰だあんたらは!?」

 少年の一人が動揺しながらも気丈に声を張る。

「私は、あなた方の言う、天使と呼ばれる存在です」

「そして、俺様は悪魔と呼ばれる存在。その中でも一番偉い奴さ」

「天使と、悪魔?」

 その珍しい組み合わせに、少年の内の一人が不思議そうな声を出す。

「そう。俺様とこの姉さんは悪魔と天使。お前ら人間にとっての上位存在さ」

「その天使と悪魔が一体何の用だ!」

 少年の叫びを聞いて、悪魔と名乗った男はニヤリと笑った。

「俺様たちがお前ら人間をここへ読んだ理由はな、お前らにちょっと競い合ってもらうためさ」

「競い合うってなんで?」

「それは、私たちと彼らが何故戦っているのかを――」

「あー待った待った。天使の姉さんの話は長いんだから、説明は俺に任せといてくれよ」

「……しっかりとお願いしますよ」

「ハハハ、分かってるって」

 天使の言葉を遮った悪魔は、天使から少年たちに向き合う。

「お前らに分かりやすく説明するとだな、俺たち悪魔と姉さんら天使は仲が悪くて争ってんだ。だけどそのせいでお互いの同胞が死に過ぎてな、代わりに人間どもに戦わせようって事になったんだよ」

「あなたは、もう少し言い方を選べないのですか?」

「どう言い繕った所でやる事には代わりないだろうがよ」

 天使が悪魔のざっくばらんな言い方に眉を(ひそ)めたが、悪魔はそれを気にせずに笑う。

「つまり、自分たちが死にたくないから、代わりに俺たちにやらせるって事ですか?」

「ザッツライト! その通りだ。察しがよくて助かるぜ」

 悪魔が肯定した事を理解した少年の内二人が騒ぎ出した。

「ふざけんな! 俺たちをなんだと思ってんだ!」

「そうだ! 俺たちはお前らのおもちゃじゃねえぞ!」

「シャラップ!」

 騒いだ少年たちを悪魔が一喝して黙らせる。

「ボーイズ、お前らが何でここにいるか、分かってねえのか?」

 それを聞いた少年たちが黙り込み、思い出そうと考えた。しかし、それを思い出すことは叶わなかった。

「思い出せねえだろ? そりゃそうだ。お前らは死んでここにいる。死んだ時の事を思い出せないのは、死んだ瞬間を覚えてるのは精神に多大な影響を与えるからな。無意識の内に忘れちまうんだよ」

 絶句する少年たちを天使は悲しそうに見下ろす。

「私たちがあなたたちを私たちの代理に選んだ理由の一つはそれです」

「ま、使い切れてねえ魂の再利用(リサイクル)って所だ。人間よろしくエコってやつだな」

「あなたは、もう少し言葉を選べないのですか?」

「選ぶ必要を感じねえだけさ。契約を結ぶ時なら巧みな話術を使って騙すけどな」

「やはり悪魔は……」

「おっと、その続きはナシだぜ。それを決めるために今こうしてるんだからな」

 悪魔のその言葉に天使は渋々と黙った。

 

「さて、これからお前らには競い合って貰うわけだが、そのためには舞台(ステージ)が必要になるわけだ」

「ステージ?」

「イエス。お前らが競い合うための舞台ってわけだ。希望があるなら聞いとくぜ?」

「だったら、『リリカルなのは』がいい!」

「んん? ちょっと待て」

 とある少年が叫んだ言葉を聞いて、悪魔はしばらく黙り込んだ。

「……なるほど、フィクションの一つか。流石は日本だ。他とは一風変わってやがる」

「他?」

「お前らは全員日本人でな。他の国・土地でも似たような事やってんだよ。だけど、それはお前らには関係ないことだ。じゃ、早い者勝ちって事でメインはそれにしてやろう。他になんか無いか?」

「なんでだよ。それだけじゃダメだけなのかよ!」

「それだと、知らない奴にとってアンフェアだろ? お前ら全員から一つずつ聞いた方が公平じゃねえか」

 それもそうかと思い、リリカルなのはと言った少年以外の三人が考え始める。

「……学園物ってのは?」

 少年の一人が発言に悪魔はうんと頷く。

「ちょっくらアバウトだが、なかなかにナイスだな。さっきの世界観と合わせると……そうだな、中学校が舞台になるな」

「ちょっと待て、それじゃあ――」

 最初に意見を出した少年が騒ぎ出すも、悪魔が手を突き出して黙らせる。

「お前の言いたいことは分かっけどよ、そこは自分で何とかしな。俺たちが干渉できるのはお前らだけ。他の事は管轄外だ」

 騒ぎ出した少年はそれを聞いて黙り込んだ。

「さて、残りの二人はどうだい?」

「ん、と……ええ、ああ、うー……」

 悩んでいた少年がうなり始めた。

「どうかされましたか?」

「ここまで出てんだけど……ああ、なんて言ったらいいか分かんねえ!」

「では、私がその内容を読み取りましょうか?」

「……頼む」

 天使が少年に手をかざす。

「なるほど。リリカルなのはという世界でいう、使い魔か欲しいのですね」

「そう。それだ!」

「これで三人分出たな。最後に残ったあんちゃんは何か無いか?」

 悪魔に直接話しかけられて、少年はボソッと口を開いた。

「……とらいあんぐるハート」

「オーケーオーケー。中々いいチョイスじゃねえか。了承したぜ。それじゃあ、まずは使い魔(ファミリア)からだな」

 悪魔が手をかざすと、少年たちの目の前に卵が現れる。

「そこからお前らのファミリアが産まれる。何が産まれるかは産まれてみてのお楽しみってな!」

 少年たちは目の前に浮かぶ卵を手にとる。

「他に必要なのは……デバイスってやつだな。これはお前らの意思で形状・機能をある程度決められるようにしといてやるぜ」

「後は……」

「どっちに付くのか、だな」

 天使と悪魔が顔を見合わせる。

「ここで、お前らには天使側か悪魔側、どちらに付くか選んでもらう」

「どちらに付くかで何か違うのか?」

 少年の内の一人がそう尋ねる。

「どちらかに付くかによって、与えられる能力の性質が違います。私たちに付けば、最初は大したものではありませんが、鍛えることによって成長する、『才能』と呼べる能力です」

「俺らに付くと単純な『力』だな。強力な分それ以外に悪影響が出たりするがな。そこんとこよく考えて選んでくれよ」

 悪魔がそう言うと、天使と悪魔を分かつように線が引かれる。考えるためしばらくの間間が空き、少年たちは二人ずつに分かれた。

「おっ、丁度いい感じに分かれたな。それじゃあ、今から能力の付与に移るぜ」

 

 それから、個別に希望を聞かれ、それに沿った能力が与えられた。

 

「それでは、早速送りますか?」

 能力が与えられた後、天使が早速そう言った。

「おいおい、そう慌てなさんな。その前に卵を(かえ)す必要はあるし、与えられた能力の練習も必要だろうが」

「そうですね。それでは、内部時間は一年。体感時間は一ヶ月少々でどうでしょうか?」

「それなら卵は一週間くらいで孵化するだろうから、ちょうどいいな」

 天使と悪魔は頷き合うと、少年たちに最後の言葉をかけた。

「これから、お前らにはとある空間で一ヶ月ほど過ごしてもらう。それが済んだら『魔法少女リリカルなのは』って世界に転生して貰うぜ」

「その世界で必須となる知識は、あなた方に与えられた『デバイス』に与えられてありますので、それを参考にしてください」

「ま、不慮の事故なんかじゃ死なないようにしてやっから、せいぜい精一杯生きるこった」

「最後に、何か質問はありますか?」

 天使の言葉に、少年の一人が手を挙げた。

「向こうの世界での名前はどうなるんですか? 今までと同じなんですか?」

「今と同じ名前ではありません。それは今まで生きてきたあなたたちの名前であり、これから生まれるあなたがたの名前ではないのです」

 それを聞いて、質問した少年が軽く頭を下げ、他の少年が代わりに手を挙げた。

「これはあなた方の代理戦争ということでしたが、具体的には何で決着が着くのですか?」

 その質問に、悪魔が指を振りながら答える。

「お前たちはそんな事を気にしなくていいんだよ。お前らは与えられた力を持って、思うがままに生きればいい。それを見て俺たちが一喜一憂する。ただそれだけのことだ」

「つまり、私たちは向こうの世界では特に何かを考えずに生きていいと?」

「それが、俺たちの都合にお前らを巻き込んだ、対価ってやつさ」

 その言葉を聞いた少年たちは、それっきり黙り込んだ。

「それでは、よい人生を」

 天使のその言葉を最後に、四人の少年たちは何もない空間からいなくなった。

 

 

 
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