#19
そんなこんなで、黄巾の乱も終決した。聞いたところによれば、曹操軍の夏候惇が張『三兄弟』を捕らえたらしい。手配書によく似た、毛深い大男だったとか。流石に腕は2本しかないだろうが。
「そんな偶然もあるのね」
「あ、それで済ませちゃうんだ」
「済ませるもなにも、これで憂いは絶てたでしょ?」
「まぁなー」
事実、張角が死んだ事になるのは、俺たちにとってはありがたかった。天和たちの危険は去るし、張三姉妹を匿ってくれる雪蓮たちにも迷惑とはならないからだ。
「そうそう、一刀」
「なに?」
隣で馬に揺られながら、雪蓮が声を掛けてくる。
「これからどうするの?」
「これから?」
「えぇ。店に戻るのか、軍に残るのか。私としては、そのまま将軍として働いて欲しいんだけど……ま、決まってるわよね」
「あぁ、悪いな。また妹たちが増えたからな。目の届く場所で働くよ。ただ、理由によってはまた手伝うからさ」
「ありがと。期待してるわ」
「しばらくはまた焼鳥屋で金稼ぎだ。休みの日は飲みに来な」
「そっちも期待してる。……あ、そうだ!」
そんな話をしていれば、雪蓮が何かを思いついたらしい。ちょいと嫌な予感がするが。
「天和たちの事について、条件出していい?」
「聞きたくないけど、聞かなきゃいけないんだろ?言ってくれ」
「簡単よ。こっちの仕事が落ち着いたら、私たちを招待してよ。貸切で」
「なんだ、そんな事か。……って、待て。『招待』って事は、俺の奢りか?」
「もち」
おぅまぃがっ。
という訳で、長沙帰還。
「あー、疲れたー」
「そうだな。今日は部隊状況の最終確認を終えたら休んでいいぞ」
開口一番、雪蓮ちゃんが伸びをし、冥琳が仕事を与える。
「えっ、ホント?やったー!」
「その代わり、明日から溜まっている仕事が待っているからな。ゆっくり休んでおけ」
「冥琳が冷たい!なにヤダ悲しい!助けて一刀!」
「あ、僕もう一般人なんで」
「一刀も冷たい!なにヤダ寂しい!癒して雛里ん!」
「あわわっ!?」
「雛りーん」
おい、そこの痴女。うちの妹を撫でくり回すな。
「少しくらいいいじゃない。一刀も、部隊の調整とかお願いね。今日くらいは泊まっていくんでしょ?」
「そうだな。時間的にも、家の掃除は難しそうだ。明日までは居させてもらうよ」
そんな感じで帰還後の作業も終わり、俺は城内の自室でゆったりと過ごしていた。天和たちも、別室で休んでいる。
だいぶ味に慣れてきた酒をちびちびと飲みながら、寝台に座って窓から月を眺めていると、部屋の扉がノックされる。さて、誰だろう。
「開いてるよ」
「入りますよ、一刀さん」
「失礼しまぁす」
入ってきたのは、第1期と第2期の妹たちだった。天和達は3クール目な。
「亞莎と雛里か。どうした、こんな時間に。明日から店を再稼働する準備が始まるんだから、早めに休んでおけよ」
そんな風に声を掛ければ、いつもはツーカーなツッコミが入ってこない。真面目な話のようだ。
俺が人を手招きすると、2人はトコトコと部屋を進み、俺を挟むように寝台に腰を下ろした。
雛里の頭を撫で、亞莎の髪を指で梳く。2人とも気持ちよさそうに、俺にもたれ掛って目を閉じていた。
ずっとこうしていたいが、俺には言わなければならない事がある。悲しく、そして寂しくはあるが、これもこの娘達の為だ。俺は、その言葉を口にする。
「――――城に、残るか」
「はい…」
「……うん」
問うてみれば、予想通りの答え。いや、期待通りと形容した方が正しい。雛里は元々軍師として働く為に旅に出ていた訳だし、亞莎もその為に、邑から街へと連れ出し、鍛えてきたのだから。
「雛里は最初からそう言ってたもんな」
「うん……でも、今回の乱でわかったの。やっぱり私は、自分の力をもっと沢山の人の為に使いたい。お兄ちゃんや亞莎さんと一緒にお店で働くのも好きだけど……こうして機会をくれた雪蓮様たちと頑張って行こうと思う」
「亞莎もか」
「……はい。最初は強くなるのが楽しくて、色んな事を学ぶのが嬉しくて、自分を鍛え、勉強してきました。でも、こうしてそれを活かす事の出来る場を与えられ、実行してきて……私の場所は…ここなんだと気付きました」
亞莎の声が濡れている。雛里もその事には気づいたようで。つられて涙を浮かべていた。
「お姉ちゃんの下から旅立ち、一刀さんにずっと守ってもらっていました。……でも、私だって、一刀さんから自立しなくちゃいけないんです」
言葉を紡ぐ亞莎は、最後に、濡れた瞳で俺を見つめ、そして宣言した。
「……一刀さんの隣に立つ為に」
「亞莎…」
「私もっ、お兄ちゃん!」
「雛里?」
「私も、お兄ちゃんの隣に居たい。お兄ちゃんの妹っていうのも好きだけど、その、それだけじゃいやなの……」
雛里も言い切り、抱き着いてきた。
「一刀さんは、城には残らないのでしょう?でしたら、餞別が欲しいです…離れていても、一緒だという証が……」
「……」
亞莎は俺の両肩に手を置くと、ゆっくりとそこに力を籠める。雛里も顔を上げ、俺の胸を押してきた。
「いいんだな?」
「…はぃ」
「……うん」
これで最後だと確認をすれば、顔を真っ赤にしながらも、頷く2人。
俺も、覚悟を決めるしかないようだ。
「じゃぁ、おいで――――」
「かっずとぉ!お酒飲みましょー!」
「邪魔するぞっ!」
仰向けに寝転んだ俺の傍に手を着く2人を引き寄せようとしたその瞬間、破壊されかねない程の衝撃で部屋の扉が開け放たれた。入ってきたのは、飲兵衛2人。声の調子とテンションで、既に酔っ払っている事が理解出来る。
「あら、亞莎と雛里もいたのね。じゃぁ2人も一緒に飲むわよ!やっと長い賊討伐が終わったん、だ、し……」
「儂も秘蔵の酒を出したぞ。一刀の店のツマミが欲しいところじゃが、まぁ、それは今度で、も……」
そしてベラベラと好き勝手喋っていた2人の声が次第に小さくなる。状況を理解したらしい。
「はゃ、はやややややや……」
「あわわわわわわ……」
2人の視線の先には、寝台に寝ころぶ俺と、そこに覆い被さろうとしている、羞恥に顔を真っ赤にした亞莎と雛里。
「あ、あはは…あははははは……」
「あー…なんというか、あれじゃな。うむ。策殿」
「な、なぁに、祭?」
雪蓮は乾いた笑みを浮かべ、祭は誤魔化すかのように頭をガシガシと掻く。
「撤退じゃ!」
「了解!」
次の瞬間、開いたままの扉から2人は飛び出した。
「ば、馬鹿ぁあああああ!今日だけはっ、今日だけは許しません!」
「雪蓮様も祭様も酷いですっ!」
寂しさと悲しさに羞恥と怒りが入り混じった表情の少女2人に追われながら。
「……」
俺はといえば、布団に転がったままだ。
「亞莎はともかく、雛里は体型的に大丈夫なのか?」
そんな事を考えながら、俺は眠りにつく。
さぁ、明日から本業に戻るぜ。
――城門。
「それじゃ、時間が出来たら飲みにいくわ」
「あぁ、その頃には新作の料理も出来てるかもな」
翌朝、俺と三姉妹は、雪蓮をはじめとした城の重鎮たち、そして妹2人に見送られる。
雪蓮が挨拶をくれるが、その眼は赤く、眼の舌は黒い。昨日夜中に厠へ行った時に、正座で亞莎と雛里の説教を受けてる姿は見かけたが、朝まで続いたんだろうか。
「また勝負をしに行くぞ」
「いいけど、また店の壁壊さないでよ?」
同じく祭さんも寝不足のようだ。いつもの豪快な雰囲気は、いまはなりを潜めている。
「亞莎、雛里。いつでも遊びにおいで。あそこはお前達の家だ」
「はい!」
「うんっ」
妹たちは仲良く手を繋いでいる。不安そうな面影など、微塵もない。
「お兄ちゃんこそ、あんまり遊び過ぎちゃダメだよ?」
「天和さん達がいるのだから、あまり家を空け過ぎないように」
「大丈夫だよ、雛里ちゃん。雛里ちゃん達がくれた、この『お兄ちゃん対策
雛里んはもう使わないかもしれないしな。
「それに、雛里たちが返ってくる頃にはちぃ達が新しい項目を追加してるかもね」
なんでやる気なんだよ。
「なんだかんだで軟禁状態だったし、これからの生活が楽しみ……だと思う」
「あー、なるほど」
人和が補足してくれた。ま、自分の飯は自分で稼いでもらうがな。
「それじゃ、そろそろ行くよ。みんなも仕事の時間だろ」
「えー、もうちょっといいじゃない」
「ダメだ。お前には目を通して貰う書類がたくさんあるのだからな」
「冥琳ちゃんも、相変わらず手厳しいね」
「私が雪蓮の手綱を握らずに、誰が出来るというのだ」
「そりゃそうだ」
そんな訳で、いざ我が家へ。
あとがき
えっちなのはいけないと思います!><
という訳で、#19でした。
亞莎と雛里んが頑張ったけど、酔っ払いに邪魔されたので、特に何もしてません。
残念だったな!
次回でエピローグ?的なものを書いて、第2部は終わらせようと思います。
ではまた次回。
バイバイ。
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そんなこんなで、第2部も残り2回。
どぞ。