No.537557

真・恋姫†無双 想伝  ~魏†残想~  其ノ三

しばらくぶりの更新。
月末は忙しいよー(泣)

そういえば私26日、誕生日でしたー!
祝って祝ってー!

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2013-01-29 16:09:28 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:11327   閲覧ユーザー数:7915

 

 

 

それから数日。

一刀は瓦礫の撤去や建物の修繕、負傷者の手当てに勤しんでいた。

 

小さな街にとってそういう存在は貴重。

一刀の精力的な行動に感化されたかのように街は元の様相を取り戻しつつあった。

 

元々小さな街だけあって修繕にそこまでの時間を要さなかった、と言うのが実際の理由ではあるが。

 

 

他にも街の元締め――太守の元へ足を運び、話を付けて根回しをしたりもしている。

 

余談ではあるが太守との面会を済ませた一刀は戻ってくるなり、珍しく愚痴を零していた。

 

「あの野郎には死んでも仕えたくない」と言っていたらしい。

 

それも当たり前かもしれない。

この街の太守を一言で言い表すならば『日和見』、もしくは『風見鶏』。

 

つまり悪い意味で優柔不断なのだ。

 

北郷一刀は『信賞必罰』を掲げる曹孟徳の厳格な統治の元で警備隊長を務めた男。

 

相容れないのはある種、必然だった。

 

しかしそれから更に数日経った今、愚痴を零した様子など毛ほども見せずに一刀は街中を駆け回る。

 

 

『おーい北さん!あとでこっちにも手え貸してくんないか!』

 

「了解!今やってる仕事が片付いたら行くよー!」

 

 

走ったまま掛けられた声に応答する。今や一刀はこの小さな街の中心人物になりつつあった。

 

この街に来てからまだ間もないというのに、住人からの好評価。

 

下手をすれば街の太守より人気が高いという始末だった。

 

それは、ひとえに彼の人柄と行動によるものだろう。

 

この時代、普通なら訪れたばかりの街にここまで関わるということはしない。

 

賊からの襲撃を受けた街なら尚更だ。

 

君子危うきに近寄らず。そんな言葉もある。

自分からトラブルに巻き込まれに行く人間はそういないだろう。

 

昨日再建したばかりの酒家の軒下から、走る一刀を目で追う黄忠。

 

彼女も未だここに滞在していた。

 

本来であれば彼女にはここに留まる理由が無い。彼女の目的地は益州。

 

昔馴染みである厳顔という女性の元だった。

 

とはいえ未だに劉表の元から離れた、という連絡すらしていないのだが。

 

 

 

ただの旅人と言うには異質な服装。

 

上等なのかどうか定かではないものの、ただの庶民が着ているような服では無い。

 

陽光に反射して白く輝く服など、黄忠は見たことが無かった。

 

そして建物の修繕する際の指揮や太守との交渉。そして根回しや商人との交渉。

 

必要とあらば迷い無く頭を下げて頼みこむ器の広さ。

それらは間違いなく、普通の旅人が出来るものではない。

 

黄忠の目から見ても素人とはおよそ呼べないその全ては、斑が目立っていたものの的確だった。

 

どこかの軍に所属していたのか?と尋ねたものの、曖昧な笑いではぐらかされる。

その時の表情はどこか寂しそうで、それ以来、黄忠はその件に関しての質問を止めた。

 

そして特筆すべきはその人柄。一見温和に見えるが、しっかりと芯が通った心。

 

誰かれ構わず平等に接し、仕事の選り好みをしない。璃々が懐いた少し変わり者の青年。

 

そんな一刀に、黄忠は改めて興味を抱いていた。

 

 

『へい、黄忠様。頼まれてた干し肉と酒です』

 

 

と、一刀を眼で追っていた黄忠は掛けられた声で我に返る。

 

 

「ありがとうございます。店主さんも私のことは様付けで呼ばなくてもいいのですよ?」

 

『そんな滅相もねえ!黄忠将軍と言えば俺達にとって雲の上のお方ですから!』

 

「もう私は将軍でもなんでもないのだけれど……」

 

 

店主の言葉に少し困った笑みを浮かべながら差し出された干し肉と酒を受け取る黄忠。

 

北端とはいえ荊州領内ということもあり、自分のことを知っている人間が少なからずいた。

 

そう畏まられると逆に困るのだが、どうもその辺りの認識は根深いらしい。

 

現将軍で無くとも元将軍というだけで見る目は大分違うようだ。

 

まあ最も、威張り散らしていたりする好感度ゼロの将軍や、誰とは言わないが日和見で風見鶏などこかの太守とかであれば、また対応も違うのだろうが。

 

 

『にしても……北さんはよく働きますねえ』

 

「ええ、本当に。街の子供たちにも好かれているし」

 

 

店主と黄忠。二人の視線の先には道の真ん中で子供たちに抱きつかれて微妙に困り顔の一刀の姿。

 

その微笑ましい光景に自然と笑みが零れる。

 

太陽に反射する服を纏う青年は一人づつ優しく、子供達を引き剥がしに掛かっていた。

 

 

『天の御遣い、でしたっけね?そんな噂が流れた時は何をそんなものと思ってましたが……最近じゃあながち噂じゃなく思いますよ。北さんが着てるあの白い服を見ていると、ね』

 

「そういえば北郷さんが現れる少し前だったかしら?この辺りの空を流星が飛んだのは」

 

『ああー……そういやそうですね。昼間だってのに急に辺りが明るくなったと思ったら空を流星が飛んで行くから吃驚したもんでしたよ。まああのすぐ後に街が襲撃されたもんだから皆は“凶兆だった“なんて言ったりもしてますがね』

 

「もしかしたら北郷さんが噂の御遣い様かもしれないわね?」

 

『それなら大歓迎でさあ!もうそう決めつけちまってもいいじゃんないかと思うくらいですよ』

 

 

声を出して笑う店主。冗談とも本気とも取れるその台詞に黄忠は人知れず微笑みを浮かべた。

 

彼女は結構本気で思っていたのだ、彼が“天の御遣い”かもしれない――と。

 

 

『そういや黄忠様、それだけで酒は足りますかい?』

 

「え?ええ、多分足ります」

 

『いやー、北さんがどれだけ飲むか分かりませんからねえ』

 

「あら、お見通し?」

 

 

それは少女のような表情。黄忠の表情が悪戯っぽい笑みへと変わった。

 

 

『一人で飲むより二人の方が楽しいでしょう?一人で飲む量じゃないですし、それ』

 

「いえ、飲めなくはないのだけれど……」

 

『おお、黄忠様が酒豪という噂は本当だったんですねえ……あ、間違っても娘さんに飲ませたりしたら駄目ですからね!』

 

 

結構本気で言っている店主を軽くいなし、黄忠は礼を言って店を後にした。

 

通りで黄忠を見掛けた者は口々に声を揃えたという。

 

とても楽しそうな、何かを期待するような笑顔を浮かべていた、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふい~やっと終わった……」

 

 

言って額の汗を拭う。今日の日中だけで数十件もの仕事を終わらせた。

 

一つ一つはそう大変でも無いのだが、やはり数が重なると同時に疲労も蓄積しているわけで。

 

現代で毎日身体を動かしていたのが唯一の救い。

 

そうでなければ間違いなく過労死していたんじゃないか、と思う今日この頃だった。

 

同時に、俺は何をしているんだろう、と思わないことも無い。

やはり同時に、俺に何をしろと?とも思う。今の俺には明確な指針が無かった。

 

この街の件が一段落ついたら旅に出ようとは思ってる。行き先は、陳留。

 

行ってから決めることだが、俺はまた曹孟徳という存在に仕えるつもりだった。

 

……だけどそこにいるのは多分、俺の知っている曹操――華琳じゃない。

 

この世界の曹操や他の娘達に会えば間違いなく俺は自分の知っている人達と重ねるだろう。

 

それはこの世界を生きている人達に失礼ではあるし、変な固定観念で見てしまいかねない。

 

何より魏の面々に関しては――俺の心が痛い。

 

 

 

そこまで考えて、よく分からない自己嫌悪に陥ったりする。今の俺はハツカネズミ状態だった。

 

尻尾を追い掛けてグルグルと回り続ける、そこから一歩も動けていない哀れなネズミ。

 

 

「はあ……とはいえ勝手にこの街を出てもいけないしな」

 

 

この街は荊州にありながら州牧である劉表の支配を受けていないらしい。

 

やはりというか、この時代。

地方豪族や流れ者が城を奪い合い、その結果で城主もしくは太守が変わるなんてことはざららしい。

 

この街の太守もその口。

争いに勝って城と街を手に入れたのはいいが、その過程で率いていた軍がほぼ壊滅。

 

街に招き入れられたのも、前任の太守より幾分かマシだから、というのが街の人の感想だった。

 

真実、面会した時に受けた印象はろくなもんじゃ無く、俺のこの街における自由行動を許可したのも後になって思えば、自分の手を煩わすのが嫌だったから、という理由だろう。

 

華琳の配下に居たら間違いなく斬首だと思う辺り、未だにあの世界の教訓や経験は生きているようで有り難みを感じてはいるのだが。

 

 

そんな不安定な街を見捨てて置けるほど薄情じゃ無い自分の性分に半ば呆れつつ、やはり自分の出来る限界にイラついてもいたりするわけだった。

 

メモ帳とボールペンを片手に思案を始める。

 

 

辺境とはいえ荊州の北端。

 

蕹州と益州に面し、少し北西に行けば司州もそれなりに近いこの街。

物流ルートだけで言えばそれなりに良い位置で、そこそこの頻度で旅の商人が訪れる。

 

時に物々交換、時に街の商家と商人の間を取り持ったりと、そっち方面でもそれなりに忙しい。

 

しかし、それに関してはこの街への利益だけではなく俺への利益も作っている。

 

それは無論、というかやっぱり情報。

 

商人というのは物のレートや物流だけを考えているわけではない。

 

この危険な時代を旅するに当たって、情報は必須なのだ。

 

だから俺はそれを有り難く頂戴する。

 

……たまに金銭を要求されることもあるけれど、その時はその時。

 

ちゃんと自分の取り分から金を出して情報を買っている。

 

その得た情報の大半がもう知っていること――というか、前の外史と同じ内容だったりするのだが。

 

例えば現皇帝は霊帝、とか。袁紹が河北の雄だとか。

 

そういう類いの情報については完全に答え合わせというか、一致するものとしないものの仕分け状態。

 

先はそれなりに長そうだった。

 

 

短い時間の中で様々な事を考える一刀。

 

メモ帳に書かれた一つの文にジッと目を凝らす。そこには記されていたのは。

 

 

 

 

 

――陳留の刺史と曹家について――

 

 

 

 

 

 

 

 

【あとがき】

 

 

今回は説明的な物が多かったです。

次に繋げる話ですからね、一応。身入りが多いかは別にして。

どちらに致しましても『自分のペースでのんびりと』を信条に書かせていただいています。

 

そういえばこの間、【其ノニ】のコメントへの返事として書かせていただきましたが、本作の一刀くんは魏√終了後、そしてその後に現代で約一年近くを過ごした強化版です。

 

性格は魏√後ですので結構強(したた)か。優しくはありますが少なからず魏勢力という組織の影響は受けていますので、考え方は結構シビアです。

頭の回転に関しては言わずもがな。知識や武の実力に関しては現代で培ったものが上乗せされています。とはいえチートにはなりませんけどね。

 

※余談ではありますが、一応彼は武の才に関して『修練すればモノになる』的なことは言われてるんですよね。潜在能力は高いんでしょうね、きっと。

そう考えるとあら不思議。彼が孫○飯くんに見えてきます。……嘘です。

 

それでは~

 

 

 


 
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