「本当に有り難え!!助かった!!」
いちおう、昔応急処置の方法を深く教わった事があり、包帯と、消毒液もそれなりに持っていたのででかい切り傷に処置を施す事が出来た。
いやまあ、わざわざ盗賊助けてどうすんのって言われるかもしれんけど・・・・
性分なんで。
「マジ死ぬかと思ったぜ!!」
「いや、そのままだと死ぬよ?」
「がはは!!大丈夫だ!!ねぐらに帰るくらいは出来らあな!!そこに薬がある!!」
こいつらを引き連れていたであろう大将らしき男は言う。結構髭面ででかい。偉丈夫って奴だ。
「アンタ、名前は?」
「ん?俺?俺は一二三四五六七(ひふみよいつむな)五六七が名前だ。よろしく」
「ほぉ〜変な名前だな!!だが覚えやすそうだ!」
「よく言われるよ。アンタは?」
「ん?俺か!!俺は馬元義だ!!呼び捨てで構わねえぜ、よろしく!!」
「・・・・ああ(おいおい、随分と有名な賊が来たな)」
馬元義と言えば、後漢末期の人物で黄巾党の武将。張角の腹心でもあった男。
しかし・・・頭にも体に黄巾巻いてねえ。どういうこった?
しかも賊っていうか、何つうか一昔前の豪快な魚屋のおっちゃんを思い出す。
(・・・・・・いや、まだ黄巾党が結成される前に来ちまったって話しか?しかし、何でこうなったんだろうな)
思考してみる。
俺が死んだのは、あの制服に突き殺された時で間違いない。
ならなんで俺は時空を超えてこんな所で賊達と談笑してるのか。
(・・・そう言えば、あいつなんか持ってたな)
よくよく思い返してみると、制服の方は何か持ってた様な・・・・
(それでなんかされたと考えるのが普通か?いや、普通じゃねえよ異常だよ。この考えは)
いろいろと考えてみたが、分からん物は分からんので、この問題は放っておく物とする。
そんな訳で思考を手放し、馬元義に意識を向ける。とりあえずは確認を取っておこう。
「馬元義」
「ん?どうしたい」
「今、ここを治めてんのは、何王朝だ」
「ああ、何言ってんだおめえ。漢王朝に決まってんだろう!!」
ハイ確認とれましたー!!後漢時代確定!!
全く、時空を超えるにしてももうちょい平和な時代に飛びたかった・・・・・
「そういやぁよ」
「ん?どうした?」
「ん、いやお前さんの服、見た事の無い服だなあ・・・・・・って思ってよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。
(しまったー!!この格好をどう説明するのかを考えてなかった!!)
今の俺の格好はリーマンが着用する黒い背広にネクタイ、そしてズボンだ。
無論こんな物この時代にはねえし・・・・・・・・・・・・あー、どうしよ!?
「い、いや。これは、その・・・・・・・」
「・・・なあ、お前さんここの人間か?」
どっきーん!?
ちょ、ちょっと待ってよ展開急すぎだろ何時だって!?何でそんなピンポイントな疑いをしてくるの!?
「え、な」
「なんつーか、昔っから勘はいい方でよ。お前さんの格好とか雰囲気とかを見てると、もっと平和なとこから来たんじゃねーかな・・・なんて思ってさ」
またまたどっきーん!?
落ち着け、落ち着くんだ五六七。まだばれては居ない。疑いの段階だ・・・・・・
つーか馬元義!!勘佳過ぎだろ!?お前其の勘を生かして生き残れなかったのか!?
「そ、そんな」
「でも今のご時世にこんな服が出回る程南蛮は進んでねーし・・・・・あ!!」
「な、なに?」
「もしかして、未来から来たとか!?」
・・・・・・・もうダメだ諦めよう、隠し通せる気がしない。
「なんつってな!全部じょうだ「・・・・はい」・・・・はい?」
「私は、未来の別の国から参りました。はい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさかの当たりか」
「はい・・・・・・・・・・」
「・・・・おいマジか、とんでもねえ奴に助けられちまったな・・・・」
まさか自分の予想が当たってたとは思わなかったのか。つーか冗談かよ!!今までの全部!!冗談で俺素性を言い当てられたの!?
「・・・・まあいいやな。とりあえず、話を聞かせてくれねえか?こんな突拍子もねえ冗談が事実を言い当てちまったんなら、その場所の話が聞きてえ」
・・・・・こいつ、頭の柔らかさはエリート現代人並みだな。こんな突拍子もない話を、いったん事実として認めて、確かめようとしてる。マジで賊か?こいつ?
「分かった」
それから、俺は未来の政治の仕組みや、貿易の仕方。そういったことをつらつらとはなしていった。(ちょうどあったでかい紙に書き連ねながら)
「・・・・・こいつぁ、とんでもねえなおい」
「え、分かるのか?これの凄さが」
「おお。俺は賊だが、趣味は読書でね。いろいろな本を読みあさってるうちに、そう言う政治の事とかもあらかた理解できる様になって来てな。いまじゃ、この国の膿がしっかりと見える様になったのさ。だがこの内容を見る限り、お前マジで未来から来たんだな・・・びっくりだ。今の漢王朝じゃ、腐ってもこんな画期的な案は出ねえぜ」
・・・・こりゃ驚いた。こいつ、頭の柔らかさだけじゃなく見かけ以上に頭が切れる奴なんだな。
俺の知ってる馬元義とは大違いだ。
「・・・アンタ頭良いんだな。賊ってみんなこうなのか?」
「いや?こんなへんてこな賊は俺くらいなもんだろ!!大体、賊が政治知ってどうするかって言えば、その膿共に踊らされているクソ官軍共を潰す事しかしねえしな!!がはは!!」
「そうか。でも、その考えは正しいと思うぜ。馬元義」
俺は心からそう思う。
「ん?そう言ってくれるか。アリガトよ!!」
「いや、俺は俺の考えを率直に言ったまでだぜ」
「がははっ!!いいねえいいねえ!!気に入ったぞ!!五六七、俺はお前が気に入ったぜ!!」
「俺もだよ。アンタ良い人そうだし」
そんな訳で、この後行く宛も無いので馬元義達に同行すると言う事になり、それを祝う形で、起きて来た馬元義の部下達と、馬元義が官軍から奪ったと言う酒で宴になった。
・・・・・今夜は満月か。月が綺麗だ。
俺は、皆が酔いつぶれて眠る中、夜空を見ていた。
「・・・月見酒か。風流、ではないか。乙なもんだ」
「確かにな」
ふと後ろから声が聞こえた。
「馬元義」
「よっ」
馬元義が起きてこちらに来ていた。
「なあ、馬元義」
「なんだ」
「・・・俺さ、此処に来る前にいっぺん死んでるんだ」
「へえ」
「でも、今こうして生きてるだろ。だから死んだって言う実感が湧かなくて」
「ま、おいおいそんときの事を思い出せばその時の恐怖も蘇ってくるだろ。覚悟しとけよ」
「おう」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・で、本当は何が言いたいんだ。五六七」
「・・・お前に隠し事できねえな。何でだろ、出会ったばっかりなのに」
「本当に何でだろうな」
「・・・・俺、元の時代に帰っても居場所無いんだよ。死んじゃってるから」
「そうか」
「だから、せめてここで精一杯生きてこうと思ったんだけど」
「・・・・・・こええのか。人を切るのが」
「おう。こええさ」
「平和なとこから来たんだもんな。そりゃそうか」
「・・・それに、不安なんだ。俺はこの時代で生き残れるのかって。怖いんだ」
「そりゃ死と隣り合わせの世界だからな。怖くて当たり前だ」
「・・・・・・だからどうしようもなく不安でさ。ははっ。情けねえよな男のくせに」
「・・・俺だって人を初めて切ったときは、びびりもしたし、吐いた。それに生き残れんのか不安だったよ。でもお前は、それを少しも外に出そうとしねえ。その鉄壁の心はすげえと思うぞ」
「そうか」
「ああ」
「・・・・」
「・・・・」
「なあ、馬元義」
「おう?」
「ありがと。すっきりした」
「おう。それからよ」
「なんだ」
「お前に真名を預ける事にした」
「・・・真名ってさっき言ってた、すんげえ大事な名前か。信頼した相手にしか渡さないって言う」
「おう。おまえは、何となく信用できるからよ」
「そうか」
「俺の真名は、斬梅だ。お前に預ける」
「俺は、真名が無いからな。代わりにお前に命、預けるぜ」
「おう。じゃ、」
「ああ」
翌朝、馬元義達は自分たちのねぐらに戻る準備を始めた。
俺もそれについて行ってそのねぐらで、残りの奴らに顔を合わせる事になっている。
「よしっ。準備完了。じゃ、いくぜ?」
「おう。改めてよろしくな斬梅」
「こちらこそ、ってな」
そんな訳で、俺はこの地で生きて行く第一歩を踏み出した訳だ。
「そういえば、五六七」
「どうした、斬梅」
「お前、未来から来た訳だろ?どうすんだよ、服の事とか」
「あ・・・・・・・・・・・」
(ちなみに、そのねぐらにつく前に服を買ってもらいました。ありがとう、斬梅)
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第一話ですね。プロローグとは違います。