No.53448

お帰りなさい、一刀!

DTKさん

『華琳さまの はっぴー……』
の後の、魏EDアフターストーリーです

一応、前作を見なくても楽しめるようにはなってると思いますが、前作を読んでからの方が、楽しめると思います^^

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2009-01-21 23:57:43 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:39787   閲覧ユーザー数:22403

「………………ん」

 

窓からは日差しが差し込み、スズメなどが鳴いている。

 

「朝か……」

 

今日も晴れらしい。

 

………………

…………

……

 

「って!ヤバイ、今日は軍議がっ……」

 

俺は布団を跳ね除け、飛び起きる。

早くしないと華琳に怒られるっ……

 

 

 

「…………ここは?」

 

今自分が跳ね飛ばした、汚い布団。

机にクローゼット、そしてテレビ……

 

「テレビっ!?」

 

テレビなんかこの時代にあるはずないだろう?

まさか、真桜の技術力はそこまで…

 

……

…………

………………

 

いや、違う。

ここは、今までいた俺の部屋ではない。

テレビもさることながら、あの鉄の扉は、今までの部屋のものとは似ても似つかない。

 

その扉が、ゴンゴン、と鳴る。

 

『かずピー!おはようさ~~ん!!はよ、学校行こうや~』

 

この声は…ずいぶん久しぶりに聞いた気がするが間違いない。

俺の、聖フランチェスカ学園の友人、及川の声だ。

と言うことは俺……戻って、きたのか?

 

『お~い、まだ寝とんのか~い。せやったら強硬手段にでるで~……って、ドア開いとるやん!』

 

呆然としている俺の前で、ドアが勢いよく開く。

 

「かずピー、はよ起きんか~い!……って、自分起きてるんかい」

「あ、あぁ……」

「なんや、制服しわしわやないか。もしかして、制服のまま寝たんか?」

「あ、あぁ……」

 

状況がさっぱり分からない……

俺は華琳や魏のみんなと戦って…蜀と呉に勝って…

みんなで手を取り合って、大陸を平和にしていこう、ってなって……

そして、華琳と二人っきりになって……

 

「おーい、かずピー?顔色悪いで。体調でも悪いんか?」

 

そうだ!俺が向こうに行っていた間、こっちがどうなっていたか、及川に聞いてみよう!

 

「おいっ及川!俺はどれだけいなかったんだ?その間、こっちで何か変ったことはなかったか?それから、それから……」

「お、おい、落ち着けや。自分、何言っとんの?」

「はぁ!?何を言ってるって、俺は…!」

「いなくなったも何も、昨日も普通に学校にいたやん」

「なん……だと?」

 

意味が、分からない

 

俺は陳留の近くで華琳に拾われて…

黄巾党や反董卓連合とかを通じて、仲間がだんだん増えて……

呉や蜀と戦って、分かり合って、やっと平和な時代を築いていこうって………

 

春蘭や秋蘭、季衣に流琉

凪、沙和、真桜

桂花、稟に風

霞に張三姉妹

 

そして、華琳……

みんなと過ごした、あの日々は……一体?

 

 

「おいかずピー、どしたん?なんか悪い夢でも見たんか?」

 

 

そのとき、カ琳と初めて出会ったときの話を、思い出した

 

『胡蝶の夢』

 

我、夢にテ胡蝶なるか

胡蝶、夢にて我なルか

 

 

 

アレは、全て、俺ノ、夢…?

 

華リンも、春ランもシュウ蘭も…

みんな……みンな!

ミんなと過ごした、アの日々モ!

全テ、夢……なノ、カ……っ!

 

 

 

俺は、泣いた。

涙があふれて、止まらない。

 

「か、かずピー…?」

 

全身の力が抜け、膝から崩れ落ちる。

うずくまり、両手で顔を押さえ、泣いた。吼えた。

 

「おい、おいっ!ちょっとどないしたんやて?」

 

 

 

 

 

 

何も、聞こえない。

何も、見えない。

 

俺は…俺は……

 

絶望の淵に追いやられた俺は、あらゆる感覚を閉ざした。

これが一番、楽だから…

 

 

 

 

が、そのとき、頬に当たる、硬い感触を覚えた。

 

「これ、はっ……」

 

華琳の誕生日パーティーから数日。

華琳が俺の部屋を訪ねてきた。

 

コンコン

 

「一刀。いる?」

「華琳か?開いてるから、勝手に入っていいよー」

「相変わらず不用心ね…」

 

小言を言いながら、部屋に入ってくる。

 

「で、なんの用?」

 

今日は特別、何かあったわけじゃないと思うけど……

 

「えーと…そ、そのね」

「?」

 

華琳にしては、やけに歯切れが悪い。

何か言いにくそうに、手を胸の前でモジモジしている。

と、

 

「あ、指輪してくれてるんだね」

 

華琳の左薬指には俺があげた指輪が、木製なのでキラッと言うわけにはいかないが、あった。

 

「あ、当たり前でしょ!あれ以来、片時も外してないんだからっ」

 

照れながら左手を俺の前に突き出し、アピールする華琳。

すごく、素直に嬉しかったりする。

と、指輪の他に、彼女の白い手には不似合いなものを見つけた。

 

「あれ?華琳、その傷は……」

「こっ、これは!」

 

華琳はあわてて手を隠す。

華琳が手に傷なんて珍しい。春蘭との手合わせのときとかに付いたのかな?

…そっか。やっぱり女の子だから、手の傷とか見られたくないよな…

 

「いや、華琳。悪かっ……」

「そ、そうよ!私もあなたのために指輪を作ってきたのよっ!なにか悪い!?」

「へっ?」

 

指輪?華琳が、俺に?

 

「へっ?ってあなた、この傷を見て気づいたんじゃないの!?」

「いや、俺はてっきり、春蘭との手合わせの時とかにでも付いたのかと……」

「……あ、あきれた思考回路ね」

「ご、ごめん…」

「とにかく!これ、一刀へのぷれぜんと、だから」

 

華琳が俺の胸に押し込むように差し出したのは、俺があげたときと同じような白木の箱。

 

「これ、開けていいの?」

「か、勝手にすれば!?」

「それじゃ、勝手に開けさせてもらうよ」

「あっ…」

 

開けてみると、これまた中には同じように指輪が入っていた。

違うところと言えば、俺があげた指輪は模様など入っていない全くの無地なのに対し、華琳がくれた指輪には、細やかな模様が施されていた。

凝り性の華琳らしいといえば華琳らしい。

恐ろしいのは、あれから数日しか経っていないこと。

俺、職人さんに教えてもらいながらで、ようやくあれだったんだけどなぁ……

 

そしてやはり、ここは同じくしてくれていた。

指輪の内側には『華琳から一刀へ』と彫りこんであった。

 

「ど、どう?気に入ったかしら?」

「ああ、そりゃあもう!」

 

少し興奮した俺は、指輪を手に取り、自分の左手の薬指へ……

 

「あーーーー!!!」

「ど、どうした華琳?」

 

俺、何か悪いことした?

 

「あなたねぇ!私がぷれぜんとした指輪を、勝手にはめるつもり!?」

「は?」

「それは、あなたが私のものである証なのよ?私がつけなきゃ、意味が、ないじゃない」

「あぁ、そういうことか」

 

変な所でこだわるんだなぁ…

華琳の理論で言うなら、俺が華琳に指輪をはめたんだから、華琳は俺のものなんだろうけど…

これを言うと間違いなく怒られるので、言わないでおこう。

 

「それでは華琳さま。是非私めに、指輪をはめてください」

 

華琳に指輪を渡してから、俺は跪き、少しオーバーに左手を差し出した。

 

「まったく…初めからそうしていればいいのよ」

 

ぶつぶつと言いながら、華琳は俺の手をそっと取り、薬指に指輪を滑るようにはめる。

びっくりする位にサイズがピッタリだ。

 

「これで名実共に、あなたは私のものよ、一刀」

「ああ、俺はお前のものだ、華琳」

「あら、今日はずいぶんと素直ね。何かご褒美でもあげようかしら?」

 

華琳はSッ気たっぷりに、俺に微笑みかける。

こ、こんなこと言われちゃ…我慢できない!

 

「か、華琳…っ」

「でも残念、今日はダメよ。これから私は仕事なの」

 

俺の両手は空を切り、間を縫うようにして華琳は俺の脇を抜ける。

 

「それじゃあね、一刀」

「か、華琳~……」

「そんな声を出しても、ダメなものはダ~メ」

「そんなぁ~……」

「これからずっと私の側にいるのでしょう?焦らなくても、いくらでも可愛がってあげるんだから」

 

クスッ、と最後は少女のような微笑むを残し、華琳は去っていった。

 

「……そうだよな。ずっと、華琳と一緒にいるんだから、焦る必要はない、か」

 

ふと、自分の左手で存在感を放つ指輪を眺める。

俺は、頬がにやけるのを止めることが出来なかった……

 

 

俺の左薬指には、指輪があった。

 

これは……これは、これはこれはっ!!

 

外見は、それこそ穴が開くまで眺めた意匠!

 

「ごめん華琳。ちょっと外すよ」

 

俺は心の中で華琳に頭を下げ、ゆっくりと指輪を外す。

指輪を外して、その内側を見ると、そこには……

 

 

 

『華琳から一刀へ』

 

 

 

「あぁ……ああああぁ………っ!」

 

違う!夢なんかじゃ、なかった!!

 

華琳は…いるんだ!

みんなは……いるんだっ!!

あの日々は、夢なんかじゃ、なかったんだっ………

 

 

 

また、目から涙があふれた。

だが、これは先ほどの涙とは違う。

この涙は歓喜の…そして決意の、涙。

 

 

 

俺は絶対みんなのところへ……華琳のところへ『帰る』んだ!!

 

 

それからしばらく、こっちの世界での生活が続いた。

 

 

 

久しぶりの学校。

 

及川が、バカなことするのに付き合ったり

 

クラスの娘からは「何か急にカッコよくなった」とか言われて、悪い気はしなかったり

 

部活では初めて、剣道部主将の不動さんから一本取ったり

 

それなりに、真新しい生活を送ってた。

 

 

しかし、普段から警備隊の隊長として、多くの人を指揮してきた俺にとって、こちらの世界での日常生活の、何と楽なことか。

春蘭や霞といった、名だたる武将と手合わせしてきた俺にとって、無敵と思えた不動さんも、それこそ動きが止まっているように見えた。

 

 

 

普通の学園生活を過ごしながら、今の自分の主たる目的は、華琳たちの元に戻る方法を探すことだった。

 

まず図書館に行き、三国志の時代の文献を調べる。

黄巾党から反董卓連合はある。

官渡の戦いもあるが、赤壁の戦いでは魏は敗れ、定軍山の戦いでは夏侯淵が戦死している。

そしてどこにも『北郷一刀』の名前は出てこない。

どうやらこっちの世界で、俺が『元々』知っていた歴史は変っていないらしい。

 

では、華琳たちのもとに戻る方法は?

三国志関係の本は、端から読み潰していった。

それでも手がかりが掴めないとなると、科学関係の文献。

果てはファンタジー小説の類まで、少しでも手がかりになりそうなものは片っ端から目を通した。

 

が、めぼしい手がかりは、なかなか見つからなかった……

 

 

 

「………………」

 

調査に行き詰ると、俺はよく、誰もいない道場で瞑想に耽った。

俺は右手で、左手をギュッと握る。

この世界で唯一、華琳の存在を感じられる方法だ。

 

「…………華琳」

 

一体どうすれば、俺はあの世界へ帰れるのか?

それこそ、あらゆる本を読み漁り、インターネットなどでも、バカらしい与太話の類まで目を通した。

しかしそもそも、最初にあの世界へ行ったきっかけも分からないのだ。

 

………………

…………

……

 

爺ちゃんが言っていた。

『道にぶつかった時こそ、深く己を見つめなおせ』と

ちょうどいい具合に、道場には俺一人。

他に人が来る気配もない。

ここは一つ、己を省みてみるか。

 

 

 

……

…………

………………

 

 

 

…………みんな、今頃どうしてるかな…

春蘭と季衣は、秋蘭と流琉をあまり困らせてなければいいけど…

 

凪に沙和に真桜は、ちゃんと仕事をしてるかな。

…………沙和に真桜、凪を怒らせてないといいんだが……

 

霞は、仕事サボったりして、飲みすぎてなければいいんだけど…

 

桂花と風は……相変わらずかな?

稟は……鉄分を多めに採ってればいいんだけど…

 

天和、地和、人和は、今どのあたりを周ってるのかな。

俺が帰ったときには、大陸中で知らないものはいない、スーパーアイドルになってるかもしれないな

 

 

 

華琳……

 

華琳は、平和になったからって、無理して仕事してないかな…

華琳のことだから、どうせまた張り切りすぎて、寝る間も削って仕事してるんだろうな…

やっぱり俺が、支えてやらなくちゃ……

 

……でも、今は桃香さんに雪連さんがいる。

他にいくらでも、支えてくれる人がいるんだよな…

ははっ、俺なんか、案外必要じゃなかったりして、な……

 

 

 

…華琳

……華琳っ

…………華琳!

 

会いたい!華琳に!会いたいっ!!

例え華琳が俺のことを必要じゃなくても、俺には華琳が必要なんだ!

 

会いたい!華琳に!

華琳に…会いたい!!

 

 

 

俺は強く、強く心で念じた。

 

華琳に会いたい、と

 

 

 

そのとき、俺の視界に一筋の白い光が…

その光は次第に大きくなり、俺を、包んだ……

 

 

――汝、外史への帰還を望む者か…

 

誰だ?

 

――汝、外史への帰還を望む者か…

 

この声はどこから聞こえてくるのか…

直接頭の中に聞こえてくるようでもあり、ものすごく遠くから聞こえてくるようでもある。

 

「おいっ、お前は一体何者だ!?」

 

――我が名は許子将。我は天命を授けるものなり…

 

「許子将!?あの占い師か!」

 

――汝は我が忠告を聞き入れぬ者。外史での汝の天命は、既に終わった…

 

「お前か…お前が俺をこの世界に戻したのか!?」

 

――左様。汝は外史での天命を終え、正史にてその生を続くべき者…

 

何を言ってるんだこいつは?

外史?正史?

意味が分からない…

 

――だが、汝は正史にて外史を肯定せし者。汝は、新たなる外史を開く資格を有する…

 

「新たなる…外史?」

 

――左様。汝が描きし想念にて、如何様にも姿を変える外史を、汝は新生させる資格を有する…

 

いまいち良く分からないが、今いるこの世界が正史で、華琳たちのいる世界が外史、と言うわけか…?

それなら、俺にその外史を開く資格があるのだとすれば…っ

 

「おい許子将!俺がその外史を開けば、俺はまたみんなに…華琳に会えるのか!」

 

――如何にも。外史は汝が想念にて決まる。汝が望めば、望むものに会えるであろう…

 

やった…それならっ……

 

――だが、汝が帰還を望みし外史は、汝が天命にて既にその扉を閉ざしている。汝が真に望みし外史に手が届くことはない…

 

……はっ?そ、それって……

 

「俺の知ってる華琳には、会えないって、ことかよ?」

 

――新たなる外史の、かの者の姿形は汝が知る者であろう。だが、かの者が汝を知ることは決して、無い…

 

「そ、そんな……」

 

それじゃ…意味が、ない…

……いや、意味がないわけは無い。

華琳は華琳なんだ……また…また一から、やり直せば……

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

ダメだ!

俺はその『華琳』と、また新たに関係を築き、幸せに過ごせるかもしれない。

だが……『俺が指輪をあげた華琳』は、一体どうなるんだ……

 

「っく…そ……」

 

――さあ選べ。外史を開く資格を有するものよ。正史か、外……………

 

 

 

「?……おい、どうした」

 

 

…?

許子将の様子がおかしい…

急に黙り込んでしまった。

 

――…………分かった。後はあなたに任せよう…

 

なんだ?…誰に言ってるんだ?

 

 

 

――北郷、一刀と言ったかしら?

 

「あ、あぁ…」

 

誰だ?許子将じゃ、ない…

 

――私の問いに答えなさい、北郷一刀。

 

「お、おう!」

 

有無を言わせぬその口調は、どこか華琳めいたものを感じさせる。

彼女(?)は、いったい?

 

――あなたにとって曹操……華琳とは何?

 

「はぁ!?…ずいぶんと抽象的で……ずいぶんと簡単な問いかけだな」

 

――ならば答えなさい北郷一刀。あなたにとって華琳は…

 

「華琳は、俺の大切な人だ」

 

そう、いつからだったか忘れるくらい前から、揺るがない心。

俺の全ての、気持ち。

 

――大切な人、とは、また抽象的な答えですね。

 

「なんだ、もっと具体的に言って欲しいのか?」

 

――えぇ、是非とも具体的にお願いしたいものです。

 

「華琳は俺の全てだ。華琳は誰よりも強く、そして、誰よりも弱い女の子…………そんな華琳を、俺は生涯を懸けて支え、常に隣にいることを命を賭けて約束した。俺は華琳のものであり、華琳は俺のものでもある。その証が、この指輪だ!」

 

俺は高々と左手を天に掲げる。

この声の主がどこにいるかは分からないが、例えどこから見ていても見えるように。

 

「っていうかさー、早く帰らないと俺、華琳に首を刎ねられちゃうんだよなぁ~」

 

ちょっと茶目っ気をこめて、声の主に話しかける。

いや、今思い出したけど、俺って戻ってもピンチなんだなぁ……

 

 

 

――ふふっ…あはははっ………なるほど、華琳の言っていた通りの人物のようですね。

 

「えっ…それってどういう……」

 

――北郷一刀。先ほど許子将が申していた通り、あなたには外史を新生する資格があります。

 

「あ、あぁ…」

 

――許子将は、あのように申しておりましたが、あなたの知る華琳を、新たなる外史に呼び込むことは可能なのです。

 

「何だって!それじゃあ…」

 

――しかしその外史には、あなたと華琳しか存在出来ません。

 

「っ!……」

 

――あなたは華琳を大切な人と言いました。全てとも言いました。それが真であるならば、その外史を……

 

「ダメだな」

 

――えっ?

 

「ダメだダメだ。論外だよ、あんた」

 

そう、それじゃダメなんだ。

それじゃ全く、意味がないんだ。

 

「華琳と二人っきり、と言うのは魅力的な提案だが、それは違うぜ。俺が愛する華琳は、周りに春蘭や秋蘭、季衣に流琉。桂花に稟に風。凪、沙和、真桜に霞。張三姉妹。そして、桃香さんたちの蜀。雪連さんたちの呉があってこそ、華琳足りえるんだ。どれか一つでも欠ける世界なら、俺は要らないっ!俺がいた『世界』に戻る方法を、また探すだけさ」

 

 

 

――………………

 

「悪いな。あんたなりの道を示してくれただろうに…」

 

――いえ、私の問いが愚問でした…………さすがは、華琳が認めた人だけあります。

 

「なぁ、さっきから気になってるんだが、あんたは…」

 

――あなたでしたら試す価値があるかもしれません。

 

「試す?いったい何を?」

 

――あなたの、その指輪を依り代にすれば、閉じてしまった外史の扉を、再び開くことが出来るかもしれません。

 

「それは……本当か?」

 

――ええ……しかし、あなたが望む真の外史に辿り着く確率は高くは無いでしょう。そして失敗してしまうと、外史の狭間に閉じ込められ、二度と出られなくなるかもしれません。

 

「…………」

 

――あなたに、その覚悟はありますか?また、外史の人間として生き、正史を捨てる覚悟も、ありますか?

 

 

 

正史を捨てる、覚悟…

 

今まで育ててくれた親父、お袋

厳しかったけど優しかった、爺ちゃん

 

楽しかった学園生活

バカな友人、切磋琢磨しあった部員

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

…………みんな

 

 

 

……華琳

 

 

そっか、華琳の存在って、こんなに大きくなってたんだなぁ……

今までは、気づいてる振りをしていただけだったんだな。

華琳は全てだとか言っておいて、恥ずかしい限りだ…

 

 

 

「悪いな、返事待たせちまった!」

 

――して、あなたの答えを聞きましょう。

 

「……ああ、覚悟は出来た。だが、外史も正史も関係ない!俺は、華琳たちと生きるんだ!!」

 

――分かりました。あなたの覚悟、しかと受け止めました。ならばあなたは、強く願っていてください。あちらの世界の人・風景・空気……あなたが望むものを、人を、強く願っていてください。こちらから伸ばす手が、あちらから伸ばす手に届いたとき、あなたは『元の世界』へ戻れるでしょう。

 

「…分かった」

 

 

 

 

 

感じるんだ

あの城壁から眺めた風景を…

荒野を駆け抜ける風を…

愛すべき、仲間を…

 

そして、華琳を!

 

 

 

――あなたたちの絆の力。信じていますよ…

 

華琳を、よろしくお願いしますね。……北郷、一刀さん

 

 

一刀がいなくなってから、早一年近く。

魏・蜀・呉の三国同盟は順調に、機能していた。

 

桃香の蜀は、かねてからの構想通りに『学校』を作った。

大陸各地より、学ぶ意欲のあるものを募り、授業を行っている。

魏からも多くの人間が学校に通っているので、物質的にはもちろん、人材も派遣しなければならなくなった。

が、魏には少々の問題があった。

 

人にものを教えるからには、やはり軍師が良いだろう。

だが、魏の軍師は……

 

桂花…男嫌い

稟…鼻血癖

風…居眠り癖

 

…………はぁ~

とりあえず、一番問題が無さそうな稟を派遣することにした。

まぁ、蜀には優秀な将が多いし、呉からも穏あたりが派遣されるのだろうから、問題はないだろう

……多分

 

 

雪連の呉は、真桜の協力によって作られた工作設備を中心として、一刀の言うところの『工業』に力を入れている。

そういったこともあり、真桜はほとんど呉に出払っている。

今は、長江の水を利用した『水車』と言う技術を応用して、より鋳造などの精度を上げる研究をしているらしい。

 

 

我が曹魏も負けてはいない。

魏は、より一層の街道・宿場の整備、治水・屯田、治安向上を目指している。

みんなには、それこそ東奔西走してもらっている。

 

そして、魏から離れるものがいれば入ってくるものもいる。

今は弓兵強化期間中で、蜀からは紫苑と璃々。呉からは小蓮が来てもらった。

 

「良く来てくれたわね、紫苑、小蓮」

 

私は秋蘭を連れて、二人を出迎えた。

 

「ええ、大陸の平和と安寧のためならば、喜んで力をお貸ししますよ。ほら、璃々もご挨拶なさい」

「は~い!華琳おねえちゃん、秋蘭おねえちゃん、こんにちわ~♪」

「水臭いわよ華琳!呉だって真桜を借りてるんだし、私に出来ることをするまでよ!」

 

かつての敵同士も、今やこうやって手を取り合える。

素晴らしいと思わない?一刀…

……おねえちゃんは、ちょっと恥ずかしいけどね?

 

 

 

「あなたたちの弓の才能。存分に揮って、兵たちをビシビシしごいてあげて頂戴ね」

「まっかせなさい!この弓腰姫・シャオ様の祭仕込みの弓さばき、見せてあげるんだから!」

「――っ!」

 

祭…黄公覆

武士の名誉のためとはいえ、彼女を手にかけた秋蘭は、未だそれを引きずっているのでしょうね…

 

「小蓮殿……今更ではありますが、黄蓋殿のこと、誠に申し訳ありませんでした…」

「…………」

 

深々と頭を下げる秋蘭。

頭を下げてどうにかなるものではないが、それでも下げずにはいられないのだろう…

 

「……頭を上げなさい、秋蘭」

「小蓮殿…」

「あれは、武人・黄公覆が望んだことよ。それをあなたが恥じたり悔いたりするのは、彼女に対する侮辱になるわ」

「…………」

「もう私も、雪連姉様も蓮華姉様も、呉のみんなも、気にしてなんかないわよっ。どうしても踏ん切りがつかないって言うなら、これで勝負しましょ!」

 

そう言って、小蓮は腰の弓を手に取った。

 

「祭仕込みの弓術。秋蘭なんかに負けたりしないんだから!モチロン、紫苑にもねっ!」

「あらあら、だったら私も頑張らなければいけないわね。私も、秋蘭との決着をつけなければいけないし、ね♪」

「あぁ………あぁ!私も、華琳さまの御前で無様な格好をさらすわけにはいないからな」

 

「ふふっ」

「「「あははははははっ……」」」

 

誰ともなく笑い始め、それが全員へと伝わる。

 

「こらこら、個人的な勝負も良いけれど、弓兵の調練もしっかりと頼むわよ?」

「「「御意!」」」

 

敵も味方もない。

全ての人が笑い合い、幸福を享受できる…

 

どう?

あなたがここにいないことが悔しいんじゃない?一刀……

 

 

 

あまり最近は、誰かを夜伽に呼ぶことはなくなった。

春蘭や桂花にはよく不満を言われるが、気分が乗らないことにはどうしようもない。

 

「一刀……」

 

この世界に、私の隣に、間違いなく一刀がいたという、唯一の形ある『証』

左の薬指にある、一刀がくれた指輪。

いつもは自らの左手を抱くようにして、眠る。

少しでも確かに、一刀を感じられるように……

 

それでもたまに、ごくたまに、堪らなく寂しくなってしまったときには、布団の中で一刀に語りかけるの…

 

 

 

あのね、一刀。

一刀は一番心配しているでしょうけど、春蘭は相変わらずよ。

相も変らず、武官一直線。

一時期、道化になる!とか言っていた時期もあったけど、強引にやめさせたわ…

まぁ、春蘭の力は街道整備や屯田などにも発揮してくれるから、とても助かってるの。

 

秋蘭も、相変わらず武官と文官の両方を掛け持ちしてるわ。

そして、やっぱり暴走する春蘭の止め役で、苦労しているわ…

 

そうそう、季衣と流琉は私の親衛隊を辞めてもらったわ……

落ち着いて、クビって意味じゃないのよ。

そろそろあの子達にも一軍の将になってもらいたくて、隊を預けてみたのよ。

まだ間もないけど、一刀、あなたよりも二人とも見所があるわね。

 

 

桂花は……やっぱり相変わらずね。

あなたがいなくなって清々した、って言ってるけど、喧嘩相手がいなくなってと言う理由なのか。たまに寂しそうよ。

 

そう言えば、この前は参ったわね…

稟が学校に行ってしまってからは、必然的に桂花の仕事が増えてね。

その労をねぎらおうと、贈り物を贈ったのよ。

それが、私もそのときはうっかりしていて、中身を入れずに箱だけ桂花に贈ってしまったのよ。

そしたら

「華琳さま~~!私は不要なのですか~~!!」

って泣きつかれちゃってね…

その晩はさすがに、一晩可愛がってあげたわ。

私がどれだけ桂花を必要としてるかを、その身に刻むためにね…

 

それにしても、何をどう解釈したらこうなるのか…

頭が良すぎると言うのも、考え物ね

 

 

警備隊は、あなたの後は凪が引き継いだわ。

彼女は真面目だし、誰よりも近くであなたの仕事を見ていただけあって、素晴らしい仕事振りよ。

もしかしたら、あなたよりも隊長に向いているかもね?

 

沙和には新兵教育の専門に回ってもらったわ。

彼女の教育した兵士は、指示にも的確に応えるし、士気も高いのよ。

ただこの前、新兵の前で訓辞をしたんだけど、ことあるごとに

『さーいえっさー!』

って言うんだけど、あれは一体何なの?

 

 

張三姉妹は、今や大陸では、もしかしたら私たち王より有名かもね。

大陸各地を回っては、興行を成功させているそうよ。

興行の入場券を手に入れるには、それこそ前の日の夜から並ばないといけないとか…

 

そうそう、春蘭ったらおかしいのよ!

お茶菓子を買うために、早朝に並びに行ったらしいのよ。

菓子にしてはずいぶん並んでいるなぁ、と思って並んでいたら、実は彼女たちの入場券の列だったんですって!

入場券を三枚持ってお茶の席に来た春蘭ったら、本当になかったわね。

 

 

稟と真桜は、まだ蜀と呉に行ったっきりね。

まぁ、おいそれと帰ってこられるような仕事はしていないんだけどね。

たまに便りをよこすけど、二人とも壮健だそうよ。

 

この前、稟の様子を見に行ったら、桃香に強引に私にも何か授業をしろって言われてね。

仕方ないから詩の構成方法を、少し体系的に話してきたわ。

かなり好評だったのよ?

授業と言うのも、なかなか面白いものだったわ。

 

 

で、風と霞は……

この二人が今は一番深刻ね…

仕事をサボっては、霞は酒盛り、風は昼寝と洒落込んでるわ。

「こないに平和になってもーたら、飲むしかないやないかっ!」

「そうですねー。お日様ピカピカで気持ちがいいのですー」

とか何とか…

ただ、サボっているにもかかわらず、決められた仕事はこなしているので、文句は言えないのよねぇ……

 

 

 

私?

バカね、私はいつもどおりよ。

思ったとおり、戦っているときよりも仕事は増えたけど、それでもたまに出る視察では、今まで以上に民の顔は輝いているし、やりがいは以前とは比べ物にならないもの。

視察名義で、呉や蜀をゆっくり周ったりもしたわね…

 

えぇ、あなたのことなんか考える暇もないくらい、充実した生活を送っているわよ。

 

 

 

………………

…………

……

 

「少し、長く話しすぎちゃったわね…」

 

ふと頭を起こすと、心地よい眠気が襲ってくる…

 

「それじゃあ、おやすみ、一刀…」

 

私は、指輪に軽く口付けをする。

 

 

 

 

 

でも……でもね?

 

この私でも少し……ほんの少しだけ、寂しくなる夜も…あるんだから……ねっ

 

今日くらいは……夢の中でもいいから、一刀に…会いたい、な………

 

 

――……琳…華琳…

 

「んん…誰よ。人が気持ちよく寝てるのに…」

 

私は目をこすりながら、体を起こす。

開けた目に飛び込んできた光景に、思わず言葉を呑む。

広いか狭いかも分からない……ただ白く、何もない場所だった。

 

――目覚めましたか、華琳。

 

「誰っ!?」

 

不意にかけられる声に、私は戦闘態勢をとる。

『絶』もなく、何もないこの場所では、八方を警戒しなくてはならない……

 

――警戒する必要はありません。私はあなたに、あることを伝えにきたのです。

 

「ある、事?」

 

これは夢?それとも幻?

確か…寝室で布団に入っていたことは覚えているから……これは、夢ね。

しかし、この声……どこかで…?

 

――あなたが想いし白き太陽が、あなたを必要としています。

 

「私が想いし、白き太陽……まさか、一刀!?」

 

――あなた方の絆の証、その指輪の力を用い、かの者は再びこの外史への扉を開こうと、手を伸ばしています。

 

「な、なんですって!?」

 

何を言ってるの、この者は?

 

――しかしこのままでは、その手は決してこちらへ届くことはありません。もし、あなたがかの者を望むなら、こちらからも手を伸ばし、かの者の手を掴まなければなりません…

 

何?この者が言っている事は……もしかしてっ!

 

「つまり、あなたはこう言っているわけね……私からも手を伸ばせば、一刀はまた、この世界に戻ってこられるわけね?」

 

――その通りです。

 

「で、その方法は?」

 

――かの者との出会いの地にて、かの者が望むものと共に、かの者のことを強く、念じなさい。

 

「なるほど……で、私はこの夢を信じて良いわけ?」

 

――信じる信じないは、あなたの自由です…

 

「生憎だけど、私、夢や占いは信じない性質なの……それが例え、一刀に関することでも、ね……」

 

そう…不確かなものを頼りにして、裏切られたくはないから…

それは軍事も政治も……恋事も、同じ…

 

 

………………

…………

……

 

 

――ふふっ……相変わらずですね、華琳。

 

「え?」

 

――占いは信じずとも、私の言にならって許子将に人物評を聞き、その通りの乱世の奸雄となり、大陸に安寧を生み出したあなたには、幸せになる権利があります。

 

そんな……そんなことって…!

 

――しかし、この私の言すら、信じるも信じないも、やはりあなた次第…

 

「まさか…あなたはっ!」

 

――私に会うのは、まだまだ先の話……それまでは、あなたの想う人と、たくさん幸せにおなりなさい…

 

今度会える時を楽しみにしていますよ

その時は、あなたの幸せに満ちたお話を、聞かせてくださいね……華琳

 

「待って!あなたは……あなたさまはっ……」

 

 

「――――さま!」

 

…………

目に映るのは見慣れた部屋。

 

「あれは…やっぱり、夢、だったの…?」

 

夢にしてはハッキリと覚えている内容。

あれは……

 

…………

……

 

気持ち悪いと思ったら、寝間着が汗でびしょびしょだった。

普段着に着替えると、私はすぐに風を呼んだ。

 

 

 

しばらくすると、風がやってきた。

 

「華琳さまー、お呼びですかー」

「えぇ、あなたに聞きたいことがあるの」

「私に答えられることなら、何なりとー」

 

そう、風に聞きたいこと。

今確認しておきたいことは……

 

「あなたは一度改名しているのよね?それは、何故?」

「前にもお話したと思いますが、夢を見たのですー」

「それは、どんな夢?」

「大きな日輪を、風が支えて立つ夢なのです」

「そうだったわね。その日輪が、風は私だと思ったのよね」

「はいー。大きな日輪は、遂に大陸の隅々まで暖かな光を届けたのです」

 

そう。風は夢を信じ、夢が示すままに行動し、その夢は叶った。

 

「風は、あなたは、夢を信じる?」

 

しばらく首をかしげていた風だが、私が言わんとしている事を汲んでくれたようだ。

 

「夢と言うのは、確かに自分の経験や欲望が反映されたものと言われます。でも、華琳さまがその『夢』を信じられるのであれば、夢は叶うかもしれませんよー。お好きになさるといいでしょう」

 

そう。私はこれを言って欲しかったのだ。

誰かに、信じたい夢を信じても良いと、言ってほしかったのだ…

 

「結構よ、風。それじゃ、今から言う命令を実行なさい。それは……」

 

 

兗州は陳留郡の、とある城の城壁の上。

 

「そういえば、あの時も、こんな風に蒼天の空だったわね」

 

私たちが一刀と初めて出会った場所、陳留。

私は、ここに立っていた。

 

「華琳さま、華琳さまー!」

「こちらへおいででしたか、華琳さま」

 

あのとき一緒にいた春蘭と秋蘭。

 

「華琳さま、先ほど全員の着到の報告を受けました」

「いかがなさいましょうか」

「そうね……全員、ここに集めなさい」

 

「「御意!!」」

 

しばらくして、城壁の上、私の前に集められたのは…

 

「よく集まってくれたわね、みんな」

 

 

 

私が風に命じた内容は、こうだった

 

「各地で任務に当たっているもの。また、他国で仕事をしているものを、全て呼び返しなさい!」

「了解ですー。他に、誰か呼びますか?」

「後ついでに、桃香と雪蓮も呼んでおきなさい」

「分かりましたー。それで、集合場所はここでいいですかー?」

「そうね……いえ、ここはやめましょう。集合場所は……陳留よ!」

 

 

 

「よく集まってくれたわね、じゃないわよ…いきなり理由も言わずに、陳留に来いだなんて…」

「本当ですよ。これでも一応、暇じゃないんですからねっ」

 

呉王・蜀王が、それぞれに愚痴を漏らす。

 

「そうですよ華琳さま。せめて、何故集められたかくらいは、教えていただかないと…」

「せやで…ウチらは他所の国に出とるんやから」

 

稟と真桜も、消極的ながら愚痴を口にする。

 

「私たちも、これから興行があるんだけどな~」

「そうですよ。たまたま近くを通りかかってたから良かったですけど…」

「興行を中止にした場合、それで生じる損失は、かなり大きなものになります」

 

張三姉妹も、しぶしぶ、と言ったところだ。

 

 

「別に隠すつもりはなかったのだけれど……いいでしょう。理由を説明しましょう」

 

今まで騒がしかった場が、一斉に静まる。

みなを招集した風にすら、理由はハッキリとは言っていない。

全員の耳目が、私に集まる。

 

「私は……一刀をもう一度呼ぼうと思うの。そのために、みなの力を貸してほしい」

 

みんなが固まる。

…まぁ、無理もないか…

 

「か、華琳さま!兄ちゃんをもう一度呼べるんですか!?」

「兄様のためなら、私の力ならいくらでも貸します!」

 

季衣と流琉が真っ先に我に帰る。

 

「隊長が、隊長が戻ってくるの~!凪ちゃん!」

「あ、あぁ……!」

 

沙和と凪も、嬉しそうだ。

 

「でも華琳さまー。一つ質問がー」

「なに?」

「その、あいつを呼び戻せるとお考えになる、その根拠は?」

 

さすがは私の軍師たち。良いところに目をつける。

 

「この前、私は夢を見たのよ。その夢で、私たちが一刀を想えば、一刀は帰ってくると…」

「夢って……華琳、あんなー…」

 

夢と聞き、霞も呆れ顔だ。

 

「華琳さま……いくらなんでも、それは…」

「うむ……」

 

春蘭と秋蘭ですら、厳しい顔だ。

 

 

 

どうしよう……みんなが一刀を想ってくれないと…きっと一刀は戻って来れない…

こればかりは……命令じゃ、意味が、ないの…

 

 

 

「みんな聞いて!」

 

私は声を張り上げ、再びみなの注目を集める。

 

「夢が根拠と聞き呆れる気持ちも分かる。ただ…今私は、一刀が消えて以来、一番強く一刀を感じられる!」

 

…………

 

「予感の域を出ないけど…けど、私を信じてほしい!一刀を、強く想ってほしい!!」

 

…………

 

「私一人じゃダメなの……みんなの力が、必要なのよ…」

 

ポロリと、私の頬を一筋の涙が伝う。

私が臣下の前で流した、初めての涙。

 

…………

 

 

「ふぅ……こりゃ敵わないわね」

「雪、蓮?」

「いいわよ。あんたに乗ってあげるわ」

「うんうん!華琳さん、女の子してるんだね♪」

「桃香…」

「ねっ、みんなも、いいよね!」

 

桃香が、魏のみんなに問う。

 

…………

 

「い、いやなぁ、ウチかて一刀に会いたくなかったわけやないねん…ただ」

「期待して、それが裏切られたときには辛いだけ…か」

「しかし北郷め!華琳さまを泣かせおって…これで帰ってこなかったら許さんぞ!」

 

霞…秋蘭…春蘭…

 

「せや、隊長にはさっさと戻ってきてもらわんとな!」

「そうなのー。凪ちゃんが一人で寂しいって泣いてるのを何とかしてもらうの~!」

「ばっ……沙~和~…お前~~!」

 

真桜、沙和、凪…

 

「ふんっ!あんな奴いなくなってせーせーしてたんだけど…」

「でも、お兄さんがいないと、やっぱり面白くないですよー」

「ふふっ、そうですね。それに一刀殿には、天界の知識を学校で教えていただかねば…」

 

桂花、風、稟!

 

「さあ、華琳さま!」

「兄様のことを強く、想いましょう!」

「季衣…流琉……」

 

そうなんだ

やっぱりみんな、一刀のことを想っていたんだ!

私は目に溜まった涙を拭って

 

「…えぇ!みんなで想って、あのバカを引きずり出しましょう!」

「「「応っ!!!」」」

 

 

 

この場にいる全員が、胸の前で手を組み、祈りの体勢を取る。

そして思い思いに、一刀のことを思い浮かべる…

 

「一刀っ!」  「兄様!」  「一刀…」   「北郷!」

 

  「隊長~!」 「一刀さん…」   「お兄さ~ん」 「一刀!」

 

 「…北郷っ」 「隊長!」 「兄ちゃん!!」  「…一刀殿っ」

 

「一刀」  「一刀!!」   「…隊長っ」 「一刀っ」

 

 

……一刀

 

一刀、一刀っ!

 

「一刀ーーーー!!!」

 

 

 

その時

空に一筋、流れ星が落ちた。

 

 

「――っ!あれは…」

 

これも、あのときと同じ…

 

「行ってみましょう!」

 

全員が、流れ星の後を追った。

 

 

流れ星が落ちたと思われた地点に、一刀はいなかった。

だが、その中空。

弱々しい白い光が、そこにはあった。

風が吹けば消えてしまいそうなその光。

 

まだ……まだ一刀には、届かないの…?

 

 

 

「一刀!一刀なんでしょう!?ねぇ、何とか言いなさいよ!」

 

私が呼びかけると、その光は少し、強くなった気がした。

 

 

「兄ちゃ~ん!!早く、早く帰ってきてよ~!!」

「兄様ーー!!みんな、みんな待っているんですよ!」

 

季衣と流琉の言葉に、少しずつ光が大きくなった。

 

 

「一刀ー!私たち、一刀がいなくなってからも頑張ったんだよ~!」

「バカ一刀っ!早く帰ってこないと、巡業に行ってあげないんだから!!」

「一刀さん…成長した私たちの歌を、早く聴いてください!」

 

天和、地和、人和の明るさが、光に加わる。

 

 

「北郷……癪だけど、華琳さまがお待ちよ!早く降りてきなさいっ!!」

「お兄さん。こっちへ来て、一緒にお昼寝しましょうー。きっと気持ちいいですよー?」

「一刀殿…この平和な今こそ、あなたの力が必要なのです…一刀殿!」

「か~ずと~!一緒に酒飲む約束しとったやろ~!酒が腐ってまうで~!!」

 

桂花、風、稟、霞の個性が、光を徐々に人の形に変える。

 

 

「隊長~!ウチ、からくり華琳さまを超える発明したんや。はよ見に来てや~!」

「隊長!この間新しい服を買ったの~♪似合ってるか見てほしいの~」

「…隊長。やはり自分にはまだ隊長が必要なのです…帰ってきてください、隊長!!」

 

真桜、沙和、凪。一刀と多くの時間を過ごした彼女らの声は、確実に一刀を引き寄せる。

 

 

「北ごっ……一刀!何をしている!華琳さまの呼びかけには、疾く応えんかっ!」

「一刀…姉者も早く会いたいといっているのだ。もちろん私もだがな…」

「しゅ、秋蘭~」

 

春蘭と秋蘭の力強さで、光は一つになりつつある。

もう、少しだ!

 

 

「一刀さ~ん!華琳さんが待っています!早くこちらへ~!」

「コラ一刀!華琳みたいないい女待たせて、バチが当たっても知らないわよ!!」

 

桃香…雪蓮…

 

「ほ~ら、華琳さん♪」

「後は、あなた次第みたいよ」

 

ポンポンッと両肩を叩かれ、みんなの前に…

目の前には白い、光……

 

 

 

一刀…

 

……一刀っ!

 

「バカ一刀!早く、帰ってきなさいよ!!早く私に、あなたの顔を見せてよ…」

 

光が…徐々に大きくなり、光量を、増して…

 

「一刀……私を、一人にしないでっ!……ずっと側にいるって、言ったじゃない…」

 

その光は、辺り一帯を、包んで……

 

「その手で、早く私を抱きしめて!そして二度と私を離さないで……一刀………一刀ーーーー!!!」

 

 

「いててて……っつー!……もうちょっと、優しく手を引っ張っちゃくれないかね……」

 

そこには、煌めく白い服を着た……そう、見間違うはずがない

 

「一、刀……?」

「あぁ、俺だよ、華琳」

「一刀………一刀、一刀、一刀っ!」

 

周りなど省みず、私は目の前の愛しい人に胸に、飛び込んだ。

 

 

 

「うぇっ…一刀…ばか、一刀……ずっと側にいるって、いったのにぃ……」

 

俺の胸に飛び込んできた、愛しい人、華琳。

俺は優しく、彼女を抱きしめる。

 

「悪かったな、華琳……だからまた約束だ。これからは、ずっと一緒だ。今度こそ絶対に、何があろうと、華琳を離しやしない!」

「うっ……うわぁぁあぁあぁ~~~~ん!!!」

 

人目もはばからず泣き叫ぶ華琳を、俺は子供をあやすように優しく、優しくなでる。

そんな光景を見て、周りの子達は(一部を除いて)祝福してくれてるようだ。

 

しばらくすると、華琳も落ち着いたようだ。

 

「もう大丈夫か、華琳?」

「え、えぇ、もう全然、平気よ」

 

ははっ、この強がりも、相変わらずだな。

 

「それじゃあ、ちょっといいか?この世界に帰ってこられたら、言いたいことがあったんだ」

「な、何よ」

 

俺は、この前とは違い、華琳の目を見つめる。

 

 

 

ただいま、誇り高き王…

 

ただいま、寂しがり屋の女の子……

 

ただいま、俺の最愛の人………

 

「ただいま、華琳!」

 

 

 

一刀が、私に微笑みかけてくれる。

夢でも幻でもない、真…

 

そんな一刀に負けないくらい、私も精一杯の笑顔で……

 

「お帰りなさい、一刀!」

 


 
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