出発まであと四日
「みんなお待たせ~~!今日の一曲目!行くわよ~~!!」
「「「ホアアアアアアアア!!」」」
一刀は現在、張三姉妹のステージを見に来ていた。
「更に磨きがかかったなあ・・・・・・」
周りがホアア!!と熱狂し続ける中、一刀は腕を組んでじっと三姉妹の舞台を見ていた。
「・・・・・・で、どうよ?三姉妹の歌の感想は?」
「・・・・・・周りがうるさくてよく聞こえんのじゃ」
一刀の隣にいた美羽は、顔をしかめながらそう言った。
一刀は部屋からここに来る途中で暇そうにしていた美羽と鉢合わせし、そのままここまで連れてきたのである。
「まあ、慣れれば聞こえてくるさ」
「むう・・・・・・それにしても、凄い人じゃのう」
「まあ、人気あるからなあ。あいつらは」
「人気なのかえ?」
「ああ。容姿もさることながら、あいつらの歌は俺ですら敗北したほどだからな」
「ほう。一刀も歌には自信があるのじゃのう」
「おう。俺も歌で稼いでた時期があったんでな。まああいつらとは二回勝負して一勝一敗だからな。次の対決までに俺も鍛えとかねえと・・・・・・」
「なるほどのう。実は、わらわも歌には自信があるのじゃが・・・・・・」
「・・・・・・ほう」
キュピーン☆
一瞬、一刀の目が光った。
「それは興味深々だ。良かったら舞台が終わった後、帰りにでも話を聞かせてくれよ」
「む?別に構わんがの・・・・・・」
「よし!じゃあ今は、このステージを楽しむとするか!ホアアアアアアアア!!」
一刀は三姉妹に向けて大音量のホアアを送った。
それに気づいた三姉妹はそれぞれ、天和は手を振り、地和はVサイン、人和はウインクを一刀に返した。
「ほれ。せっかくだから美羽もやってみ?」
「できる訳ないじゃろう。恥ずかしい・・・・・・」
「郷に入っては郷に従えと言うし、やり始めれば楽しくなってくるぞ?」
「お・こ・と・わ・り・じゃ!」
プイとそっぽを向く美羽。
一刀はやれやれと肩を竦めると、再びホアアを始めるのだった・・・・・・
ステージ終了後の帰り道
「・・・・・・」
美羽は機嫌が悪いようで、顔をしかめながら帰り道を歩いていた。
「んな顔すんなよ。しわが増えるぞ?」
「・・・・・・ふん」
一刀の言葉に、美羽はぷいと顔を逸らした。
どうしてこんなに美羽の機嫌が悪いかというと、張三姉妹のステージが終わり、一刀は美羽と三姉妹の下へ向かったのだが・・・・・・
「わらわが舞台に立てば、もっと盛り上がったじゃろうがな!」
と、余計な一言を美羽が三姉妹の前で言ってしまったからさあ大変。
「寝ぼけてんじゃないわよ!あんたなんかがあたしたちに勝てる訳ないじゃない!」
地和が激昂して言い争いになり、
「どっちが上か!勝負よ!」
「望むところじゃ!!」
地和VS美羽のガチンコ対決に発展してしまったのである。
そして、半ば無理やり一刀が審査員にされて始まった勝負の結果は・・・・・・いわずもがな、地和の勝利で幕を閉じたのだった・・・・・・
「一刀の感性はずれておる。絶対にわらわの勝ちじゃったのに・・・・・・」
ふてくされながら言う美羽に一刀は、
「いや、断言する。完全にお前の負けだった」
きっぱりとそう言い切った。
「どこが負けたと言うのじゃ!」
「んじゃ言うけど、息継ぎのタイミング早いところなかったか?」
「む・・・・・・」
「肺活量が足りてないんだよ。それが原因で歌の所々で違和感感じたぞ?」
「むぐう・・・・・・」
的確な指摘に顔を伏せてしまう美羽。
「まあ他の細かい事を言い出せばきりがないけどよ、玄人を舐めるなよ?あいつらはずっと努力してきたんだ。一朝一夕で超えられるもんじゃねえんだよ」」
「うう・・・・・・では、わらわはあやつらより明らかに格下だというのかえ?」
「うむ」
一刀はまたもやきっぱりと言い放った。
「くうう・・・・・・」
美羽は悔しそうに唇を噛んだ。
「悔しいか?」
「当然じゃ・・・・・・グスッ・・・・・・」
美羽は目に涙を浮かべていた。
よっぽど自信があったのだろう。
「そうか・・・・・・」
そう言うと、一刀は美羽の頭にポンと手をのせた。
「だったらよお、頂点目指して見ねえか?」
「・・・・・・頂点・・・・・・じゃと?」
伏せていた顔を上げ、一刀の顔を見る美羽。
「おうよ。美羽。お前は今は三姉妹には遠く及ばない。だが、お前には確かな才能を感じた。お前なら三姉妹を超える歌姫になれるかもしれん。どうだ?本気でやってみる気はないか?」
「むう・・・・・・じゃがのう・・・・・・」
美羽は悩んだ。
自信を粉々に打ち砕かれた悔しさは確かにあるが、頂点を目指してみようなどとは考えてもいなかったからだ。
そんな美羽に、一刀はこう言った。
「美羽、お前は今まで何をやってきた?」
「?」
「今まで、自分の力で何かを成し遂げた事があるのかって聞いてんだよ」
「それは・・・・・・」
一刀の質問に、美羽は答えられなかった。
身の回りの事は全て七乃や侍女たちがやってきたし、国主としての仕事も全て七乃たちに任せてきた。
美羽自身はただ、何も考えずにきらびやかな生活を送ってきただけだったのだから・・・・・・
「美羽、お前は人形のままでいいのか?」
「人形・・・・・・わらわが・・・・・・」
「そうだ。このままじゃあ、お前はお飾りの、ただの人形なんだぞ?」
一刀の自分に対する人形発言に、美羽は呆然とするしかなかった・・・・・・
「・・・・・・」
美羽は固まったまま動かなかった。
一刀の人形発言に反論しようと今までの自分を思い返してみて、反論できる材料が何一つなかった事に気づいてしまったのだから。
「・・・・・・ふう」
一刀は一息つくと、美羽の顔を覗き込み、そのまま・・・・・・
コツン・・・・・・と
自分の額を美羽の額に触れ合わせた。
「・・・・・・ふえ!?」
呆然としていた美羽は、真近に迫った一刀の顔に、思わず声を上げた。
「美羽。今回の提案は、俺の希望をただお前に押し付けてるだけだ。お前が乗り気じゃないなら、この提案は蹴ってくれて全然構わねえ。ただ、これだけは覚えておいてくれ。何か一つでいい。目標を持て。んで、それを自分の力で達成するために本気で努力するんだ。たとえ達成できなかったとしても、お前が自分で考えて、自分の力で目標に向かって努力したなら、お前はもう人形なんかじゃねえんだからな・・・・・・」
一刀は美羽の瞳を見つめながら、静かにそう言った。
「・・・・・・一刀」
美羽も、瞳を逸らさずにまっすぐ、一刀の瞳を見ていた。
「・・・・・・なんてな」
そう言うと、一刀はゆっくりと美羽から顔を離した。
「いやあ、自分で言っててなんだが、すっげえキザな事言っちまったなあ。うわ、思い出したら恥ずかしくなってきた」
ナハハと笑いながら、一刀は頭を掻いた。
「まあ、俺の言いたい事は全部言ったからな。提案の返事はいつでもいいからな。考えといてくれや」
そう言って、一刀は帰路につこうとした・・・・・・が、
キュッ
「んあ?」
一刀の服の袖を、美羽が掴んでいた。
「・・・・・・みる」
「何?」
「頂点を・・・・・・目指して見ると言ったのじゃ・・・・・・」
美羽は顔を伏せながら、一刀に向かって細々とそう言った。
「・・・・・・そうか」
一刀は再び美羽の頭に手を置いて、こう続けた。
「じゃあ、まずは三姉妹に勝つことだな。道は険しいが、頑張ろうぜ」
「・・・・・・コクッ」
美羽は顔を伏せたまま、首を縦に振った。
その伏せた顔は少し朱に染まっていて、
そして
二人はゆっくりと
城へ向かって歩いていったのだった・・・・・・
おまけ
その翌日の事である。
「と、いう訳で美羽。お前の先生を紹介しよう!先生頼みます!」
「うっふ~~ん!任せておいてご主人様!このアタシが、美羽ちゃんを立派なアイドルにしてみせるわん!」
一刀が美羽の先生に選んだのは、何と貂蝉だった。
「か、一刀!なぜこんな化け物にわらわが教えを乞わねばならんのじゃ!?」
「だ~れが!見るもおぞましい人外の生物ですってーーーーー!!」
「ぴいっ!だ、誰もそこまで言ってないのじゃ・・・・・・」
貂蝉の怒りの咆哮に涙目になる美羽。
「フー・・・・・・フー・・・・・・」
「どうどう。落ち着け貂蝉」
一刀は貂蝉をなだめながら、美羽に説明を始めた。
「美羽よ。見かけで判断するんじゃねえ。貂蝉はこうみえて歌も踊りも玄人真っ青の腕前なんだぜ」
「伊達に踊り子を名乗ってはいないわん♪」
貂蝉はそのたくましい胸を張った。
「・・・・・・もっとも、地声の問題と容姿の問題を除けばの話だがな・・・・・・」
ぼそっと呟く一刀。
「何かいったかしらん?」
「いや何も。とにかく、貂蝉の指導は厳しいかもしれない!だが美羽。これも試練だ!頑張るんだぞ!」
「い、嫌じゃ・・・・・・」
「目指せ!アイドルマスター!!」
「嫌じゃああああああああ!!」
美羽の悲しい叫びは
青空へと吸い込まれていったのであった・・・・・・
どうもみなさんおひさしぶりです。
アキナスです。
また随分更新が遅れてしまいましたが、何とか投稿する事が出来ました。
もっとも、今は家がバタバタしていて更に書く時間が減ってしまっているんですがね(泣)
モチベーションは上がってるんで、何とか時間作って書きたい所ですね・・・・・・
さて、美羽のアイドル計画がスタートしました。
師匠があの人なので、美羽が成長するのかどうか分かりかねますが・・・・・・
そんなわけで次回に・・・・・・
「ファラオスフィンクス奥義!イシュタールの暁星!!」
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ある少女の転機が・・・・・・