No.530511

真・恋姫†無双 想伝 ~魏†残想~ 其ノ一

どうもこんにちはー!
裏の作品、本編更新第一回目です!
……なんか裏の作品って言うとヤバく聞こえますね(笑)


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2013-01-11 17:20:51 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:12777   閲覧ユーザー数:8650

 

 

 

 

 

北郷一刀は結構本気で悩んでいた。

 

「う~ん……」

 

眉間に皺を寄せ、眼を瞑り、両腕を組んで首を傾げながら唸っていた。

 

その足元には人相の悪い、三人の中年男性。

 

元から人相が悪かったというのにそれに拍車を掛けて更に人相が悪くなっているのは

 

顔の色々な箇所が腫れていたり、血を流していたり、鼻がひしゃげたりしているからに他ならない。

 

状況が表している通り、一刀が暴力を行使した結果である。

 

自分から手を出した手前、正当防衛にはならない。

 

しかし、幸いにもこの世界にそんな法律は存在しない。

 

それになにより女の子が襲われそうになっている場面に出くわしたのだ。

 

その時点で法律うんぬんは一刀にとっては関係の無いことだった。

 

そんな少なくとも普通の青年が滅多に遭遇しないだろう状況の中で、一刀は結構本気で悩んでいた。

 

「う~ん……もしかして厄年とかか……?」

 

ある種、不幸体質と呼べなくもない自分のスキルに。

 

唸り続けている一刀の背後の茂みが唐突にガサリと揺れた。

 

全ての始まりは十数分前にさかのぼる――

 

 

 

 

 

 

「おいおい……よりにもよってここかよ。恨むぜ、左慈」

 

 

 

眼を開けた瞬間。そこはもうフランチェスカの資料館では無かった。

無機質な壁やショーケースの代わりに風の吹く音や木がざわめく音。

太陽の眩しい光に、聞き覚えのある小川のせせらぎ。

 

自分の立っている場所がどこなのか、一刀にはすぐにわかった。そこは紛れもなく別れの場所。

 

記憶に刻まれた夜の場所。一瞬、あの夜の情景が見ている景色に重なった。

 

改めて自分が女々しいことを理解しながら、鬱屈とした感情に辟易する。

 

 

「嫌がらせで無いことを祈るしかないか……はあ」

 

(……にしても、ここがあの場所だとするとだ)

 

「成都の近くってことか?いやでもあの外史とまったく同じとも言いきれないだろうしな……」

 

 

左慈から受け取った刀を腰に挿しながら、自分の今後を考え始める。

 

あの外史で得た知識や地形などが完全には役に立たないということを冷静に知覚し、結果一つの結論に行き着く。

 

 

「とにかくまずは情報を得ないとどうにもならないか。人里探して、今がいつなのか確認して、旅の準備も出来れば言うこと無し、と」

 

 

ポン、と手を打って頭を切り替えた一刀は、記憶に残る道を探して歩き始める。

 

少し歩いた先に舗装された(現代の道とは比べるべくもないが)道を見つけ、道なりに進む。

 

やはりというかなんというか、辺りの景色が見たことのある景色とは少し違うことを確認しつつ歩を進め続ける――と

 

 

「おいおい早速ですか」

 

 

ふと視線を横に移した一刀の眼に、身なりの悪い一見して山賊風な方々が三人ほど、少し奥まった場所にいるのが映り込む。

 

そしてその三人に気付かないまま襲われそうになっていると見受ける少女、というか幼女?も一人映り込んだ。

 

悪い意味でこの世界らしい光景に溜息を吐きつつも、その足は迷いなく動いていた。

 

その足捌きは迅速に、最小限の音を立てて近付いて行く。

 

どんどん一刀の速度は上がり、その身体が宙に浮いた。そしてそのまま飛び蹴りの体勢に移行する。

 

走った勢いそのままの飛び蹴りで事態に突っ込む。それはつまり――

 

 

「ダァァイナミックエントリーィィィィィ!!!!!」

 

 

半分本気で半分悪ふざけ。某忍者アニメで眉の濃い人がやっていた必殺技だった。

 

 

 

 

 

 

 

『あ?――ぶべっ!!??』

 

 

暴漢の一人が音と雄叫びに気付いて振り向く。だが時すでに遅し。

 

振り向いた瞬間、目の前にあったのはドアップなったに足の裏。

 

それが男の見た、意識のあるうちの最後の光景になった。

 

その蹴りが顔面に減り込んだ勢いのまま、男の身体が宙に浮き、前方――いや正確には後方にあった大木に叩きつけられた。

 

 

 

いきなりの事態に目を白黒させる暴漢二人と幼女一人。

 

もくもくと上がる土煙の中から、陽光に反射する服を着込んだ青年がゆっくりと立ち上がった。

 

その足元には気絶した中年男性が一人。男達にとっては仲間の一人だ。

 

 

『て、てめえ!いきなり何しやがる!』

 

 

その看過できない光景に我に返った男の一人が唾を飛ばして叫ぶ。

 

だが一刀の関心は暴漢達には無い。事態を把握できずに眼を白黒させたままの幼女に近付いてしゃがみ込む。

 

一瞬ビクッと怯えるような反応を見せた幼女。

 

だが同じ目線の高さになった一刀に少し安心したのか、しっかりと一刀の目を見た。

 

その様子を見て一刀はニコッと笑う。警戒する心を溶かすような笑顔。

 

幼女の目から怯えは消えていた。一刀はその頭をくしゃりと撫でる。

 

 

「少しだけ隠れてな、危ないから」

 

 

そう言って後ろの茂みを指差す。事態を把握できたのか、戸惑いながらも幼女は頷き、そそくさと一刀の背後にある茂みに姿を消した。

 

 

「よっ……と」

 

 

それを確認した一刀は笑みを消し、小さい掛け声と共に立ち上がる。

 

刀を抜くことはせず、喧嘩の前のように首に手を当て、億劫そうにコキリと鳴らした。

 

それだけで幼女に向けていた穏やかな雰囲気が一変する。

 

 

「さて、気を使ってくれてありがとう。待っててくれたのか?」

 

『ああ!?おいガキ!てめえ覚悟は出来てんだろうなぁ!せっかくあの小娘を売って金にしようと思ってたってのに全部パアじゃあねえか!』

 

「パアはあんたらの頭だろ。恥ずかしいとは思わないのか?」

 

『へへ、ガキの癖に生意気言いやがって。説教なんざ聞きたくねえんだよ!』

 

「もう少し自分に誇れることで生計立てろよ。この時代、それぞれ事情はあるだろうけどさ。小さい子を売って、金にして、うまい酒が飲める?腕っ節があるならどこかの太守さんや州牧の徴兵を受ければいいだろ」

 

『へっ!自分の命を危険に晒さなくても金を得る方法はあるだろ!だから俺達は人を売ったり、略奪したりすんだよ。その方が楽だからなあ!』

 

「……救いようないな。ま、元からタダで済ます気も無いけど」

 

『言ってろガキが!!』

 

 

交渉にもなっていない会話が終わる。残った二人の暴漢が剣を抜いて一刀に襲い掛かった。

 

それを見て一刀は、あの外史に初めて降り立った時のことを思い出す。

 

たった三人の賊に歯が立たなかった自分。ひどく自分が矮小に思えたあの時。

 

……あの時は趙雲さんに助けられたんだっけ。一緒にいた凛と風を思い出す。あの時は程立に戯志才だったけど。

 

気付けばクスリと笑みを浮かべていた。

 

今の自分は少なくともこの状況に、男達の持つ本物の剣に怯えることは無い。

それがたとえ人を殺せる道具だったとしても。今の北郷一刀に迷いは無かった。

 

振り下ろされた剣。それを身を引くことで難なく避け、一本足のステップで男の懐に入り込む。

 

「舌、危ないぞ?」

 

そして身を低くした体勢から男の顎目掛けて掌底を打ち込んだ。

 

『ぶあっ!?』

 

真下からの痛烈な衝撃。顎を撃ち抜かれ、脳にまでダメージが達した男は、強烈な顎の痛みと共に意識を失った。

 

一刀はそのまま気を失った男の身体を肩で前方に押し込む。

 

 

『な、なっ!?』

 

 

気絶した男の陰からうろたえる声。今の彼からは一刀の姿は死角になっており見えない。

 

剣を振り上げた腕が宙で止まっている男の様子が手に取る様に分かった。

それを見逃す手は無い。スッ、と気絶した男の陰から前に出る。

 

そこには案の定、剣を振り上げたまま固まった男の姿。一刀の目は男の硬直と欠点を見逃さない。

 

 

「握りが甘い」

 

 

間髪いれずに男が剣を持つ方の手を下から蹴り上げる。

宣言した通り、握りが甘かったのか男の手から空中に剣がすっぽ抜けていった。

 

蹴りの威力は小。故に何が起こったのか分からない男は、一瞬遅れて自分の手に剣が握られていないことに気付く。

 

そして空中から落ちてきた剣を無造作にキャッチした一刀はそのまま、剣を男の首に向かって突きつけた。……その場に静寂が戻る。

 

 

初めに一刀の蹴りを受け、気絶したままの男。

顎に掌底を喰らい、白目を剥いて気絶している男。

そして今まさに、一刀に剣を突きつけられ冷や汗を掻いている男。

 

 

ここまで僅か数分に満たない出来事だった。

 

ただ一刀自身も、様々な要因が合わさってこの状況に持っていけた、ということは理解している。

自分が強いとは間違っても錯覚しないように。

 

 

「ガキで悪かったね。でもさ、ガキでもオッサン達よりはマシなガキだと俺は自負しているよ」

 

 

あくまでにこやかに対応する一刀。だがその眼は笑っていない。

 

 

『こ、殺さないでくれ……』

 

「殺さないでくれ、か。もしあんたらがあの娘を売ってたら、あの娘は売られた先でそれ以上の思いをしたかもな。死んだ方がマシだと思うくらいの」

 

『あ、謝る!謝るよ!だから命だけは――』

 

「――冗談言うなよ」

 

 

一刀の眼が細められ、その声色も冷たいものに変わった。

 

 

『ひっ……!』

 

「そりゃ我が儘以外のなにものでもないだろ。あんたらは謝って済む問題じゃないことをしてるんだ。今まで何人の人間をそうやって扱ってきた?」

 

『……』

 

「答えろ」

 

 

剣先が男の首に少し近付く。

 

 

『ひいっ……!じゅ、十人くらいだ!!それだけしか扱ってねえ!本当だ!』

 

「……予想以上だな。しかも“それだけ”ときたか。駄目だな、こりゃ」

 

 

無造作に剣が振り上げられる。それを見た男の喉が、ひうっ……と鳴った。

風切り音と共に振り下ろされる剣。男は目を瞑って、自らに訪れる死を待つしかなかった。

だが――

 

 

「なーんてな。俺に無抵抗の人間を殺す趣味は無いよ」

 

『へっ?うぐっ……!!』

 

 

暗くなった視界のまま、首筋に強い痛み。そのまま男は意識を失った。

一刀は男の首筋に柄を打ち付けた剣をポイと放り投げる。

 

剣が地面に落ちる乾いた音と、人間が地面に倒れる重い音。

それを聞き、自分の言動というか行動を振り返りながら思った。

 

 

「はぁ……俺、性格悪くなってないか?華琳達にはあんまり見られたくないなぁ……こういうの」

 

 

剣と人間が出す対照的な二つの音を聞きながら、一刀は大分深刻な顔で溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

そして話は冒頭。

自分の性格とか、厄年疑惑に悩んでいる一刀の背後にある茂みが揺れる場面に時は戻る。

 

ああ、とその存在を思い出し茂みに目を向ける一刀。

然程待たぬうちに茂みの中から幼女がピョコンと顔を出した。視線が交錯する。

 

 

「怖いおじさん達いなくなった?」

 

「ああ、まあいなくなったっていうか……うん。怖くなくなりはしたかな」

 

「助けてくれてありがとうお兄ちゃん!」

 

 

向日葵のような笑顔。その笑顔に一刀も自然と笑顔になる。というか

 

 

「俺のこと怖かったりしない?」

 

「なんで?お兄ちゃんは璃々のこと助けてくれたんでしょ?」

 

「ああ、うん」

 

「じゃあお兄ちゃんいい人だよ。璃々のお母さんがね『人にお世話になったらお礼を言わなくては駄目よ?』っていつも言ってるもん!」

 

 

見た感じ小学生か幼稚園年長くらいに見える幼女。そんな歳の子が現状を把握できているのだ。驚かないわけがない。

 

しかしこの世界というかこの時代。あのような暴漢もしくは賊が当たり前の時代だ。無理もないのかもしれない。

 

だがこの歳でこの落ち着き。目の前に居る幼女の胆力に素直に感心してしまう一刀だった。

 

 

「そっか。璃々ちゃんは偉いな――あ」

 

「……?どうしたの?お兄ちゃん」

 

 

つい口にしてしまった幼女の名。自分の浅はかさに心中で舌を打つ。

この娘の名前、真名では無いのだろうか?一刀は恐る恐るといった様子で幼女――もとい璃々に問い掛けた。

 

 

「あのさ、俺もしかして今、君の真名呼んじゃった?」

 

「……?ううん。えっとね、璃々の名前はね。えーっと……ようみょう?ってやつなんだってお母さんが言ってた!真名じゃないから呼んでも大丈夫だよ?」

 

「そ、そっか!ホッ……よかったぁ。じゃあ璃々ちゃん、今更だけど名前呼んでもいいかな?」

 

「うん!お兄ちゃんは璃々のおんじんだもん!」

 

 

ニコッと笑う璃々を抱きしめたくなった一刀だったが流石に自重する。

そしてふと、あることに思い当たって一刀は辺りをきょろきょろと見回し始めた。

 

 

「そういや……璃々ちゃん一人?お母さんは?」

 

「そうだ!璃々早くお家に帰らないと!」

 

「ちょっ、ちょっと待った!」

 

 

今にも駆けだしていきそうな璃々を引きとめる一刀。どうにも事情が飲み込めない。

だがどうやら切羽詰まっているようだということは分かった。

 

璃々の表情はそれまでと打って変わって真剣――もとい、何かを心配するようなものに変わっていた。

 

 

「何か困り事か?俺でよかったら力になるけど」

 

「ケガしてる人がいるの!だからケガに効く草を探しに来たんだけど……璃々、お母さんに黙って来ちゃったから」

 

「怪我に効く草……薬草ってことか。見つからないのか?というか黙ってって……」

 

 

それはかなり不味いのではないのだろうか。

 

見つからないのか?という一刀の問いに一拍遅れて頷く璃々。

俯いた表情は目に涙を溜めているようにも見えた。母親と離れているのは不安なのだろう。

 

一瞬の思案の後、一刀は璃々の手を取った。璃々の顔が上がる。

自分のことを不思議そうに見つめる眼。一刀はそれを元気づけるように笑った。

 

 

「よし、じゃあ俺も一緒に探そう」

 

「いいの!?」

 

「ああ、一人より二人だ。璃々ちゃんも早くお母さんの顔見て安心したいだろ?」

 

「う、うん。でも……お兄ちゃん、めいわくじゃない?」

 

「ったく子供が遠慮すんなって。迷惑なんかじゃないよ」

 

「お兄ちゃん……あ、あのね!ありがとう!」

 

「それを聞くのは薬草を見つけてからかな。さて、然は急げだ。行こうか、璃々ちゃん」

 

「うんっ!……あ」

 

 

一刀と共に勇んで歩き出そうとした璃々が声を漏らし、足が止まる。

ただ、その声には不安やそういった色は無く、ただ純粋に疑問の声だった。

 

 

「ん?どうした?」

 

「璃々、まだお兄ちゃんのなまえ聞いてなかった!」

 

「そういやそうだ。あー……こんなとこ見られたら華琳にどやされかねないな」

 

 

名を尋ねる時はまず自分から――

なんとなくそんなことを言われそうで、一刀は苦笑しながら頭を掻いた。

 

改めて璃々に向き直り、しゃがみ込んで同じ目線になる。

とても大切な事を伝えるように、一刀はゆっくりと口を開いた。

 

 

「俺の名前は北郷一刀。好きなように呼んでくれ。よろしくな、璃々ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

「これじゃなくて……これでもなくて……」

 

草が生い茂る地面に四つん這いになりながら一生懸命に薬草を探す璃々を横目で見つつ、一刀は

 

 

(薬草とかそういう方面の知識も仕入れとけばよかったな……)

 

 

などと後悔をしていた。そしてそれ以外に関心があることが一つ。

 

 

(気のせいかな……)

 

 

改めて璃々を見ていると、その姿に見覚えがあるように思えていることだった。

 

現代の幼稚園児っぽい制服。そこまで長く無い紫の髪を頭の両側で縛っている。

その後姿というか、雰囲気というか、なんとなく見覚えがある気がした。

 

 

「あのさ璃々ちゃん」

 

「おくすりのくさ見つかった?」

 

 

パッとこっちを向いた璃々に、誤魔化すような曖昧な笑いを浮かべた一刀は首を横に振る。

一瞬、その顔が曇ったものの「よーし!」と気を取り直して、璃々は薬草探しを再開する。

 

それを微笑ましげに見ながらも、手を動かしたままで改めて璃々に問い掛ける。

 

 

「璃々ちゃんって前に俺とどこかで会ったこと無い?」

 

「……?ううん。お兄ちゃんと会ったのは今日が初めてだと思うよ?だって璃々、一回会った人の顔忘れないもん」

 

 

……それはある意味凄いことなのではないのだろうか。

 

 

「そうだよなあ……俺の勘違いかな?」

 

 

改めて自分の記憶を疑う一刀だったが、ふと一つの可能性に思い当たった。

 

 

「そういや璃々ちゃんのお母さんってなんていう名前なんだ?いやまあ、無理に聞く気はないけど」

 

「悪い人には教えないけど、お兄ちゃんにだったら良いと思うよ?ええとね……璃々のお母さんは黄忠っていうお名前だよ?」

 

 

――黄忠。

その名前を聞いて思い出す。

 

最後の夜、成都で行われた乱世終結の宴。

魏、呉、蜀の主だった人間が一堂に会したその中に、確か黄忠さんもいたはずだ。

 

ピースが填まれば自然と記憶は出て来るらしい。

一刀の脳裏には、璃々と同じように艶やかな紫色の髪をした美人さんが浮かび上がっていた。

 

とは言っても、その黄忠さんはともかくとして。

少なくとも【黄忠】という名前には複雑な思いがあるのだが。

 

 

――黄漢升。

定軍山の戦いで魏の将軍、夏候淵を討った蜀軍の将。

 

 

思い返せば、俺が倒れている間に秋蘭が窮地に陥っていた定軍山での出来事は黄忠さんも密接に関わっていた筈だ。

 

だが、しかし。この世界の黄忠さんはあの外史の黄忠さんと何の関わりも無いわけで。

秋蘭には少し悪いと思うけれども、その辺りの遺恨は綺麗さっぱり水に流すことにした。

この世界でそんなこと考えていても独りよがり以外の何物でもないからな。

 

 

「ああそっか」

 

 

そのついでに思い出す。

黄忠さんと同じく、璃々ちゃんのことも俺はあの宴の席で見掛けていた。

残念ながら機会は無く、会話はしなかったけど。見覚えがあるのも当然だった。

 

そして今の俺にはそれが有り難いと思う。

 

あの外史で密接に関わった人ほど、この世界では関わりにくいと思うから。

自戒していても、おそらく俺は重ねてしまう。あの外史の人々とこの外史の人々とを。

 

 

「そういやこの外史の華琳――いや、曹操達はどういう人間なんだろう。……案外変わんないのかな」

 

 

でも、変わらなければ変わらないほど――

 

 

「見つけたっ!お兄ちゃん!おくすりのくさあったよ!!」

 

 

その声が、一刀を思考の世界から現実に引き戻した。

 

 

「お、おう。見つかったか!これで一安心だな。つーか俺何の役にも立ってねえ……」

 

「ううん!お兄ちゃんが一緒に探してくれなかったらこんなに早く見つからなかったもん!だからお兄ちゃんは役立たずなんかじゃないよ?」

 

「……そっか、そう言ってくれると助かる。ありがとな、璃々ちゃん」

 

「……」

 

「璃々ちゃん?」

 

 

反応が無かったのが気になり、もう一度呼び掛ける。

なぜだか璃々のほっぺが膨らんでいた。こう……ぷくっと。人は其れを脹れっ面と言う。

 

 

「あのね、お兄ちゃん」

 

「は、はい」

 

「璃々はもう子供じゃないんだよ?」

 

「……」

 

 

唐突な真実と異なる発言に対し、コメントに困る一刀。

だって間違いなく子供なんだ。困惑するのも仕方が無い。

 

 

「“おとなのおんな”のことは“ちゃん”って付けないでしっかり名前で呼ばないと駄目なんだってお母さんが言ってた!」

 

「……」

 

 

もの凄く対応に困った。お母さん、子供になに教えてんですか。

確かに女性の方が男性より精神年齢が高いってのは知っていますけれども。

 

まだ璃々ちゃん年長か小一くらいだよな。……まあしかし。

ここはその意見を尊重しておいた方が無難だろう。おませさんということで納得できないわけでもないし。

 

 

「んじゃ璃々ちゃんって呼ぶのは止めて、璃々って呼ぶけど本当に良いのか?」

 

「うん!」

 

 

満面の笑みで答えた璃々に、一刀も自然と笑顔になる。

 

 

(……まあいいか。黄忠さんに会ったら改めて呼んでいいか聞こう)

 

 

親としてその辺は気になるだろうし、と結論付けた一刀はそれに関する思考を一旦締め切った。

なぜなら、今の最優先事項は別にある。

 

 

「それより璃々。薬草見つけたんなら急いだ方が良くないか?絶対お母さん心配してるぞ」

 

「そうだ早く帰らないと怒られちゃう!あとお兄ちゃん、ちゃんと名前で呼んでくれてありがと!」

 

「おう。ん……あ、そうだ。気にしないついでに提案が一つあるんだけど」

 

「ていあん?」

 

「璃々はここからお母さんがいる所までの道って分かるよな?」

 

 

一刀の質問にきょろきょろと辺りを見回す璃々だったが、少し経って一刀に向き直る。

その顔は自身に満ちていた。そして胸を逸らす。

 

 

「うん!」

 

「よし。なら俺の背中に乗るんだ」

 

「お兄ちゃんの背中に?」

 

「そう、背中。つまり俺が璃々をおんぶするわけだ。俺と璃々を比べれば間違いなく俺の方が足が早い。だから俺が璃々をおんぶして走る。璃々は俺の背中から道を教えてくれればいい」

 

 

不思議そうに話を聞いていた璃々の眼に、好奇心と遠慮の光が灯る。

おんぶといえば童心的には喜ぶべきものだろう。童心的と言うのも、小一か年長ぐらいの子に失礼かもしれないが。

 

しかし、殆どさっき会ったばかりの人の背に乗って迷惑では無いか?という璃々の迷いが、一刀には手に取るように分かった。

だからこそ彼は行動で示す。一刀は璃々の前に背を向けてしゃがみ込んだ。

 

 

「遠慮すんなって。璃々もお母さんのとこに早く行きたいだろ?」

 

「で、でも璃々、重いよ」

 

 

一瞬、何を言われたか理解できず硬直する。

 

 

「ぶっ!」

 

 

そして、一刀は吹き出した。璃々の表情が遠慮からキョトンした表情に変わる。

 

 

「あ……いや悪い。そっか、小さくても女の子だもんな。ああ、大丈夫だよ。伊達に鍛えてないから」

 

「じゃ、じゃあお願いしますっ!」

 

 

気負い込みつつ一礼して、璃々は一刀の背中にしがみ付く。

 

なぜ敬語になったんだろう、と素朴な疑問を抱えつつ、一刀はしっかりとしがみ付く璃々の感触を背中に感じながら、落ちないように押さえた。

 

そのまま肩越しに背中を覗き込む。そこにはなぜか満面の笑みを浮かべている璃々。

 

 

「うし、じゃあ璃々。案内は頼んだぞ?」

 

「うんっ!しゅっぱーつ!」

 

 

その掛け声と同時に、一刀は璃々の指差す方向へと駈け出した。その足並みは軽やか。

殆ど背中に重みを感じていない状態で一刀は、現代でやった古風すぎる鍛錬を思い出していた。

 

 

(思い返してみれば重りを付けたアンクルとかリストバンドとか、恥ずかしすぎる……まあ、それが役に立ってるからいいけどな)

 

 

 

そして、一刀と璃々の姿は森の中へ消えていった。

 

 

――ここから、北郷一刀の新たな物語が始まる――

 

 

 

 

 

 

 

 

【 あとがき 】

 

 

うす!ごっつあんです!

……ツッコミとかいらないんで生温かくお願いします。

 

新たな外史、一刀の降り立った場所は世界が違えど、あの夜の場所でした。

いやはや、傷を抉りに行くといいますか。

作者の性格の悪いところが出てしまいましたねー。←(確信犯)

 

ホントは原作と同じように陳留に近い場所にしようかとも思ったのですが、それも面白味がないかな、と。はたして、一刀が降り立った場所は成都の近くなのか?

 

そして璃々の母親が怪我!?

璃々の母親と言えばあの方!年齢を聞くと街が半壊する熟jサクサクサクッ!!

 

 

 

 

(しばらくおまちください)

 

 

 

 

 

……はい。余計な事を言うと命が危ないのでこれぐらいで。

え?血が出てるって?はっはっはっ、これはトマトジュースですよ!

え?トマトジュースが後頭部から吹き出してる?

……作者の身体の構成成分の半分はトマトジュースで出来ているんです。

そういうことにしといてください。大人の事情です。じゃないとまた射られます。

 

 

……そういえばどっかに紫苑の年齢が29とか書いてあったような気がするんですよね。

事実ならば全然イケると思いません?で、璃々が6~7歳だったかな。

 

というか璃々のキャラを捉えきれてない……泣けるぜ。

 

ともかく、もし真実というか年齢の設定を知っている方がおりましたらコメントまで。

 

※「18禁が原作だから全員18、もしくはそれ以上だよボケが!!」っていう答えはNGです。……振りじゃないからね?書くなよ!絶対書くなよ!

 

 

 

あ、もう一つ捕捉を。

一刀が暴漢三人を瞬く間に制圧した描写ですが、作中にも書いてある通り、状況を最大限に利用して初めて勝利を収めたわけです。とはいえ一刀も現代でただ腑抜けていたわけではないので、その辺りは今後書いていきます。ではでは~。

 

 


 
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