この作品は【 恋姫†無双 】【 真・恋姫†無双 】の二次創作です。
三国志の二次創作である物に、さらに作者が創作を加えたものであるため
人物設定の違いや時系列の違い。時代背景的な変更もありますので
その辺りは、なにとぞご容赦をお願いいたします。
上記をご理解の上、興味をお持ちの方はそのままお進み下さい。
洛陽、路地裏にて。対峙する二人の少女。
片や高貴な雰囲気を纏う少女。片や冷たさを感じさせる、無表情の公孫賛軍の将、裴元紹。
その場にはどこか戦場にも似た空気が漂っていた。とはいえ
「董仲穎って……董卓?」
この事態の第三者である一刀は、漂う空気が気にならなくなるくらいの驚きの中にいたのだが。
その呟きを捉えたのか、高貴な雰囲気を纏う少女――董卓が、あっと小さい悲鳴を上げる。
同時に眼鏡の少女――賈駆と周囲にいた兵士の表情が強張った。
その手が腰の剣に掛かる。驚きの中にいたものの、一刀の目はそれを見逃さない。
「待った。出来れば剣を抜かないでくれ。抜かれたらこっちも事を大きくせざるを得なくなる」
「くっ……!」
殆ど無意識に場の状況を把握した一刀の言葉の意味を瞬時に悟り、賈駆は悔しげな表情で兵士達を手で制す。
それを見て、一刀もホッと息を吐いた。
「ありがとう。……それで、君が本当に董卓?」
「……はい。私が董仲穎、です」
「月!」
沈んだ顔であさっさりと自白した親友に、賈駆が非難の声を上げる。
董卓は申し訳なさそうな表情で賈駆に振り返った。
「……ごめんね、詠ちゃん。でももう逃げられないよ……」
「それはそうだけど……!」
賈駆にも分かっているのだ。名前を呼ばれて振り返った時点で殆ど言い逃れが出来ない状況であると。
そして事態はもっと悪い。あろうことか連合軍の中に董仲穎という少女の知り合いがいて、尚且つ姿を見られたのだから。
「女の子だったのか……」
一刀がポツリと零した言葉。今度は誰の耳にも入ることは無かった。
董卓と言えば正に悪逆非道の代名詞。ビジュアル的に言えば最もポピュラーなのは脂ぎった豚のオッサンだろう。
しかし目の前にいる少女はそれと似ても似つかない。
……どういうことなんだ?考えながら一刀は董卓を見つめていた。そこに――
「なにを舐めまわすように見ているんですか?ああ、あれですか。妾にでもする気ですか」
さっきまで黙っていた燕璃の遠慮無用、というかこの場の空気をもぶち壊すような発言が投下された。
結構真面目に悩んでいた一刀に向かって。
「めかっ――!?」
「妾だぁ!?」
賈駆の悲鳴に近い声と一刀の叫び?が重なる。
賈駆は驚きの早さで、自分の手の中に董卓を庇っていた。
その眼から一刀に向けられる敵意が濃くなる。一方、一刀は。
「んなわけないだろ!?なに急におかしな発言してんの燕璃!」
「おや違いましたか。これは失敬。私の勘違いでした」
「もう勘違いとかで済まなくなってる気がするんだけど!ほら見てあの警戒ぶり!」
一刀の指差す先には敵意剥き出しの賈駆の姿。その手の中には董卓が抱かれている。
聞こえていなかったのか、董卓は目を白黒させながら状況の把握に努めていた。
不思議とその眼に警戒心は無い。ただ、もう後が無い者特有の覚悟が宿っていた。
「というか燕璃。董卓と知り合いだったのか?」
「ええ、まあ。……昔の話です」
一瞬、燕璃の目に暗い影が差す。それはともすれば目の錯覚かと思うくらいの一瞬。
「事情は……聞かないほうがよさそうだな」
「はい。話すことなどありませんから」
「分かった。気長に待つとするよ」
「……」
一刀に対し微妙に非難の目を向ける燕璃。
話すことなど無いと言っているのに……、と口が動いていた。
「さて」
「あ、あんた何する気よ!言っとくけど月を妾になんてさせないからね!舌噛んで死ぬわよ!」
「ええ!?ま、待った!そんな気ないから!いや、ホントに!」
「……嘘じゃないでしょうね」
「つーか初めて会った娘をいきなり妾にするとか常識的に考えてありえないだろ?君達に危害を加える気は無い。……だからとりあえずこっちの話を聞いてくれ。」
「……なんかアンタはその常識を覆す気がするわ」
「なんで!?」
言われの無い言い掛かりに悲鳴というか抗議の声というか、とにかくリアルに傷ついていく一刀。
警戒の色は薄まったものの、依然として賈駆は胡散臭いものを見るような眼をしたままだった。
それを見た燕璃が、はあ……、と溜息を吐く。
「董卓の軍師、賈駆とお見受けします。聡明な貴方なら分かるとは思いますが、実際あなた方に選択肢は無いんですよ。今のところ、あなた方の選べる道は二つ。この北郷さんの話を聞くか……ここで我々、反董卓連合軍の討伐対象として死ぬか、です」
「――!」
「ちょ、燕璃!」
「冷たいと思われても結構ですよ。ですが我々は正規軍。そして目的は董卓の討伐。それを忘れないでいただきたい」
燕璃の正論にグッと言葉に詰まる。
董卓と燕璃の関係性は知らない。だが少なくとも燕璃は間違った事を言っていない。
どちらかと言えば間違っていることをしようとしているのは俺の方。
寧ろ、その判断は本来、俺がしなければならないことだ。
「ごめん、燕璃。本当ならそれは俺が言わなきゃいけないことだった」
「……ですから、北郷さんはそれでいいんですよ」
「え?」
「とにかく、時間も多くあるわけではありません。さっさと話を進めて下さい」
「ん、ああ。分かってる。ってことで話進めるけど、良いか?」
「……分かったわよ。ボク達には拒否権どころか選択権もないみたいだし」
渋々と、しかし毅然とした態度で賈駆は一刀の問いに応えた。
その腕の中にいる董卓も同様に。準備が出来た様子の少女二人に一刀は頷き、口を開いた。
「時間も無いことだし直球で行かせてもらうよ。まず、洛陽で悪政を敷いているっていうのは本当?」
「……そういうことになってるんならそうなんでしょ」
「いいや、そうじゃない。俺は、君達の口からそれが真実かを聞いてるんだ。噂とかじゃなく、君達自身から、君達の言葉で」
真摯な瞳で一刀は少女二人を射抜く。
そこには、噂や人伝に聞いた言葉を鵜呑みにしない、ある意味この世界を詳しく知らない者特有の真剣さがあった。
正に、百聞は一見に如かず。その真剣さに、隣に立つ燕璃は少なからず驚きの表情を浮かべていた。
「……私は、悪政を敷いたりはしていません」
「月の言う通りよ。月は、ボク達は悪政を敷いたりはしてない。何進の馬鹿と宦官達の政争に巻き込まれたの」
「政争に巻き込まれた、ですか」
「……はい。そしていつの間にか私が悪政を敷いているという噂が流れてて……」
「その噂の出所を探してるうちに、反董卓連合なんてものが出来上がってたわけ。手を拱いている内に何進は十常侍に殺されて、挙句の果てに一部の宦官は逃げ出すし――」
董卓と賈駆の話を交互に聞き、顎に手を当てながら一刀は思案に耽る。
「……動きが早すぎますね」
「あ、燕璃もそう思った?俺もだよ。噂が流れてから反董卓連合が結成されるまでの時間が短すぎる。賈駆さん、結局その噂の出所は分かったのか?」
「……なんかアンタに“賈駆さん”って呼ばれると寒気がするわね。いいえ、噂の出所を特定する前に反董卓連合が洛陽に向かってるって情報が入ったからそっちは中断したわ。あんた達を迎え撃つ為に防備を固めなきゃいけなかったしね。……ていうか信じるの?」
「ん、なにが?」
「ボク達の話。普通は討伐対象の、しかもその最優先対象とその軍師の言葉なんて誰も信じないわよ」
「ああ、この人は普通じゃありませんから」
「否定できないのがなんとも、だな。……信じるよ。洛陽に悪政が敷かれている様子も無い。なんで大事になる前に自分達から“違う”って名乗り出なかったのか不思議だったけど、大事になるのが早すぎたんならそれも理解できるし。それに何より、真剣だからね、君達の眼が」
一刀はそう言ってニカッと笑う。
隣では燕璃がやれやれと頭を押さえ、董卓は不思議そうな表情を浮かべ、賈駆に至っては呆気に取られていた。
「それにしても完全にこりゃ誰かの思惑だな。一連の流れがあまりも良過ぎる」
「悪事に関して人間という生き物は驚くほど頭が回りますからね。ほら、例えば北郷さんとか」
「はいはい、どうせ俺のやってることは悪事ですよーだ。……ん、そういや燕璃。今回の反董卓連合の件、うちに檄文回してきたのって袁紹だったよな?」
「回してきたと言いますか、ほぼ全ての諸侯に檄文を回したのが袁紹の筈です。……む?」
「しかも袁紹に協力的な諸侯も関わってそうな臭いがする――ってどうした燕璃?」
小さく疑問の声を上げた燕璃が、焦点の合っていない眼をキョロキョロと宙や周辺に向けるのを見て、一刀が言葉を切る。
賈駆を見れば、彼女もまた燕璃と同じような行動を取っていた。
「……いえ、何か騒がしくありませんか?」
「ボクもそう思う……これは足音と……?」
そう二方向から言われて一刀も耳を澄ます。
感覚を研ぎ澄ますと、確かに先刻より辺りが騒がしいことが分かった。
万が一を考えて燕璃に監視を任せ、路地の陰からそっと身を乗り出す。
その眼は自然と洛陽の正門前に吸い寄せられていた。
そこには、我先にと圧し合う二つの影。金色の鎧と銀色の鎧。つまり袁紹軍と袁術軍。
「……くそ、時間切れか」
言って開けた路地に戻ろうとする一刀の眼に共に潜入した公孫賛軍兵士の姿が映り込んだ。
小さく声を出しながら手招きで呼ぶと、一刀に気付いた兵士は小走りで駆け寄ってくる。
『北郷様!袁紹軍と袁術軍が門で――』
「分かってる。今、俺も見たところだ。手筈通り公孫賛様か趙雲将軍に現状を報告してくれ」
『はっ!』
「それともう一つ。少し事情があって俺と裴元紹はこの路地の奥に潜伏する。公孫賛様と趙雲将軍に現状を伝えたらここに案内して来てくれるか。あ、あと俺の荷物も忘れずに持って来てって」
『了解しました!』
「ああ、頼んだ」
肩を叩いて兵士を送り出し、一刀は路地を引き返す。戻ったそこには警戒の表情を浮かべた面々。
「洛陽に袁紹軍と袁術軍が入ろうとしてる」
その言葉に、董卓と賈駆の表情が強張る。反面、燕璃は呆れの表情を浮かべた。
「そろそろだとは思いましたが……我慢の効かない方々ですね」
「ホントにな。ええと……あそこがいいか」
燕璃の台詞に相槌を打ちながら周囲を見回す。やがてその眼が、一見して廃屋と分かる建物を捉えた。
扉を開いて中を覗き込む。舞い上がった埃に少し咽ながら誰もいないことをを確認し、頷いた。
扉に手を掛けたまま、振り返り手招きをする。
「一旦、ここに隠れるぞ」
「……埃が凄いんですが」
「贅沢言ってる場合でも無いだろ?董卓さん、賈駆さん、とりあえず俺達の仲間が来るまでここに隠れようと思うんだけど……いいかな?」
「はい、私は構いません」
「月が良いならボクも構わないけど……くしゅんっ!ホントに凄い埃ね……」
「はは、少しの辛抱ってことで一つ頼むよ」
「……まあいいけど。それよりその仲間ってのは大丈夫なんでしょうね?仲間が合流した途端、相談の結果で殺されることにでもなったら笑えないわよ」
「ああ、それは大丈夫。うちの大将は俺よりお人よしだからさ」
「それホントに大丈夫なの……?」
殆ど諦めたような表情で部屋の隅に座り込む賈駆。
もう若干捨て鉢で、どうにでもなれといった様子だった。
それを見て苦笑しながら一刀は、董卓と燕璃の方を見る。
小声で話しているようで内容はまったく聞き取れなかったが一つ、燕璃の声で耳に届いた単語があった。
「――因果応報――」
それ即ち
“過去の善悪の行為が因となり、その報いとして現在に善悪の結果がもたらされる”
そんなことを表す言葉――
「――ってことなんだ」
「なるほど。これで色々と合点がいきましたな」
埃っぽい部屋の中、一刀の一連の説明に星が頷いた。
部屋の中には一刀と星、白蓮、雛里、そして董卓と賈駆の計六人。
董卓は顔を俯かせ、賈駆は新たな面々に警戒を向け
雛里は帽子に手を当て熟考、白蓮は目を瞑って両腕を組みながら話を聞いていた。
あれから然程時を待たず、兵に連れられて来た白蓮達を廃屋に招き入れた。
それと入れ替えに燕璃、そして舞流は周辺の警戒。
公孫賛軍の兵達は袁紹軍と袁術軍が無理やり洛陽に入った時に生じた混乱を収拾している。
当初は董卓のビジュアルに少なからず驚いていた面々だったが
一刀の話を聞く内、驚いている暇は無いと悟ったのか、徐々に真面目な表情に変わっていった。
「……確かに早すぎますね。確かに噂とは語られ始めてから時を待たずに回るものですけど……」
「ふむ、檄文を送ったのが袁紹。自身を盟主にと推したのが袁紹。そして軍義にいた他の諸侯が二つ返事で袁紹の盟主就任を了解したとなると……完全に黒とは言い難いですが、この件に関わっているのは間違いないでしょうな」
冷静な雛里と星の見解。それに一刀は頷く。
自分達の言い分が理解されたのを感じたのか、董卓と賈駆の表情が微妙に和らいだ。
とはいえ完全に安心は出来ていない。それは何故か?
未だに、公孫賛軍の大将である白蓮がここに来てから一言も言葉を口にしていないからだ。
正確には、ここに来て一刀の話を聞いてから、だが。
――と、唐突に白蓮の眼が開き、組んでいた両腕も解かれた。
そして静かにその眼が董卓と賈駆を見据える。賈駆はそこに、北郷一刀と同じ何かを見た。
「董卓、賈駆」
「はい」
「な、なによ」
「二度手間になっちゃうけど、一刀と同じく私も聞きたい。この件は本当にお前達が引き起こしたものじゃないんだな」
この件――それはつまり董卓が悪政を敷いているという噂。
洛陽の現状を見ればそれが真実かどうかは明らかなのだが。
本当に、の部分をことさら強調する白蓮。
董卓は不思議とその言葉に疑いの色を感じなかった。故に董卓も真実を告げる。
「はい。私は悪政を敷いたり、民の皆さんを苦しめたりはしていません」
「当たり前でしょ。月がそんなことするわけないじゃない」
その答えを聞き、白蓮の表情がふっと緩んだ。
「ありがとうな。董卓、賈駆。噂を鵜呑みにしたまま動いていたら、取り返しのつかないことをするところだったよ」
「ふっ、白蓮殿も大概お人好しですな」
「……でも白蓮様らしいです」
「茶化すなよ二人とも。あ、そうだ。星、雛里、一刀、少しの間ここを任せていいか?」
「……?ああ、別に構わないけど、どこ行くんだ?」
扉に手を掛けた白蓮の手が、一刀の問いにピタリと止まる。
一拍遅れて
「……本初のところだよ」
先刻とは違った声のトーンで答えた白蓮は振り返りもせずにその場を後にした。
妙な静寂が場を支配する中で、星だけがしたり顔で笑んでいた。
「ね、ねえ」
「うん?」
裾が引かれるのと、遠慮がちな誰かの声に気付き、一刀は少し視線を下に下げる。
すると賈駆が心配そうな表情でこちらを見上げていた。
「大丈夫なんでしょうね、公孫賛は」
「大丈夫って……何が?」
「本初って確か袁紹の字でしょ?それってボク達にとっては敵の大将じゃない!そんなのに会いに行ったってことは――」
「ふっ……賈駆とやら。心配せずとも最悪の事態にはならんよ」
「……盗み聞き?趣味悪いわよ」
「え、詠ちゃん失礼だよぅ……」
「なに、少し声が大きかったものでな、自然と耳に入って来たまでのことだ。もう一度だけ言うが、その心配は杞憂に過ぎん」
余裕の笑みで状況を楽しんでいるかのように星は笑みを濃くした。
このまま行けば声を出して笑い始めるのではないか、と思うくらいに。
「なんで分かるのよ」
「私は公孫賛という人間をよく知っている。それなりに付き合いは長いからな。私が心配しているのは寧ろ袁紹の方だ」
「袁紹の?それってどういうことなんだ?」
「……?」
星の言葉に、一刀と雛里でさえも疑問符を浮かべる。
もしこの場に舞流や燕璃もいたならば、同じように釈然としない顔をしていただろう。
「ふふ、世の中には怒らせるべきではない者が少なからずいる、ということだ」
星は、自分の知っている公孫賛という人間を思いながら独り言のように呟いた。
【 あとがき 】
へい!
あとがきと言うか捕捉のコーナーだぜ!
この間、恋姫好きの知人にこれを読むように進めたら中々の好感触。
だが、そこには落とし穴が……なんと、知人は白蓮と雛里が大好きだったのです!
読み終わった後、笑顔の知人に言われました。
「うん、結構良いんじゃない?でもさ……白蓮と雛里の出番少ねえよ。特に雛里」
……いやー、久しぶりに笑顔が怖かった。
ちなみに女性の知人でございます。そして酒を奢らさせられました……くっ!
そして更に、誓わさせられました。今後、ちゃんと出番を作ります、と。
……まあ、とは言え今は反董卓連合編なのでこうなっているだけなんですけどね。
ちゃんと幽州に帰れば公孫賛軍にスポットが当たりまくります。
そして反董卓連合の後、公孫賛が直面する戦と言えば――おおっと危ない。
出来るだけ気長に待っとって下さい。ではでは~
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一週間以内には更新するつもりが一日遅れ……うん、雪のせいということにしておこうか。
大体こんな感じで緩く更新して行きますので!
……タイトルって必要なのかな、と思う今日この頃。
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