東倣葵童詩 ~ The Ballad of East and West.
青い瞳の巫女と今どきの妖怪による些細な話。
最終話
神は消え、神社の主もいなくなった。
私は神社とその主に恩を返す為、この神社を守ると決めた。
この神社は常識と非常識、幻想と現実の狭間にある。
神も主もいなくなった今、神社を繋ぎとめる物が無くなろうとしていた。
すでに幻想の生き物となっている妖怪の力では、
神社をこの世界に維持する事はできないだろう。
私はこの神社を現実のものとして認識してくれる人間さえいれば、
神社は現実のものとしてここに存在させる事ができると思った。
その為に私は神社に人間を呼んだ。
こちらの世界の人間であれば誰でも良かったのだ。
しかし、彼女が妖怪の事を認識できたのは想定外だった。
その上で彼女をこの神社に置いてしまったのは私のミスだ。
日に日に弱くなっていく結界を見て、焦っていたのかもしれない。
昔、神社の主は言っていた。
幻想のものと共に生き、それを信じる人間もやがては幻想のものとなり
共にこの世界から消え去って行く。 それが今のこの世界の姿なのだ。
あの結界を張った者は、昔のように人間と妖怪と神を
共存させる方法を探していたのだと。
彼女は我々のように幻想のものになりかけている。
じきに結界は完全に現実から切り離され、神社はそこに生きる者ごと
幻想の中に消え去るだろう。
もうこの神社で妖怪と人間が共存する事は無い。
すでに幻想の生き物であるはずの私に出来る事はわずかだ。
ここに残った最後の妖怪として、神社だけでもその存在を残してみせる。
この神社に妖怪がいた事、妖怪と共存しようとした人間がいた事を
完全に消し去りたくは無かった。
たった一人でも良い。 人間が、彼女がこの記憶を繋いでくれるなら。
あの神社には妖怪が棲んでいる。
私は何故あの時、彼女を妖怪だと言ったのだろう。
普通の人にそんな事を言ったらきっと怒られる。
でもわかったんだ。 目の前にいるのは妖怪だって。
淀と一緒にいるのは楽しい。
仕事は手伝ってくれないし、あまり構ってはくれないけど・・・
淀は不思議な力を持っている。 私の知らない昔話もたくさん知っている。
妖怪はどうしていなくなってしまったのだろう。
私はもっと妖怪の事が知りたい。 もっと多くの妖怪と知り合いになりたい。
あの神社にいれば、それができるんじゃないかって思った。
私がここに来て1年が経つ。
そろそろ、神社の裏のハイビスカスが咲く頃。
この時の為に、私は植物の事を勉強した。
去年とは違う所を淀に見せてあげるんだ。
そう思いながら、私はいつものように神社の鳥居をくぐる。
ビルの間から覗く眩しい朝日に包まれて。
その光の中に、見慣れた姿の妖怪が歩いていた。
私はその背中を追いかけようとした。
でも、どんなに歩いても追いつく事はなかった。
カタリナ 「ヨド? ヨド! どうしたの、ヨド!」
淀 「やあ、突然だがお別れだ。」
私には淀が何を言っているのかわからなかった。
淀は私に背を向けたまま話を続ける。
淀 「お前は私という妖怪の事を知ってしまった。
私は幻想の生き物だ。 そして、幻想の生き物の存在を
認識してしまったお前も、この神社も、幻想のものとなる日が来る。
お前は神社を守るため私を祓い、その存在を抹消しなければならない。
幻想のものを排除し、結界を破り、神社を現実のものに戻すのだ。
この神社の巫女として!」
カタリナ 「何言ってるの・・・? ヨド! わたしは・・・」
淀 「私にはこの神社を守る事ができなかった。
でも、巫女である今のお前にならできる。」
カタリナ 「私はミコなんかじゃ無い!」
私は巫女にはなれない。 そんな事は初めからわかっていた。
でも私は、私が好きなこの国の文化に触れてみたかった。
真似事でも良い。 それを続けていれば、育ってきた国や文化の違う私にも
いつかこの国の本当の姿が見えると思ったんだ。 だから・・・
淀 「そうか、そうだったな。
それでも、お前は巫女なのだ。」
カタリナ 「どうして? 私はもっとヨドと仲良くなりたい!
私はヨドの事を友達だと思ってる!
ヨドは・・・違うの?」
淀 「お前は妖怪を、鬼をそのような存在だと思うのか? 巫女であるお前が。
巫女は悪さをした妖怪を退治する。
そう言っていたのはお前ではないか。
鬼は人間を攫う。
人を幻想の中に閉じ込めるのだ。
・・・悪さをした妖怪がいま目の前にいる。」
カタリナ 「そんなんじゃ無い! 妖怪じゃなくたって・・・私は!
私は淀と一緒に神社を守る!」
淀 「・・・」
もうすぐ結界は消える。
これ以上彼女がこちら側に近づいてしまえば、彼女共々消え去る事になりかねない。
そうなる前に私諸共結界を崩壊させる事。 それが私の最後の仕事だ。
淀 「よく聞けカタリナ。
瀬田崎淀という鬼は巫女によって祓われた。
そして、今この時をもって模倣の巫女も消える。
お前は、カタリナはこの神社の巫女。 本物の巫女となる。
そして、これからは――」
光の中、彼女が私の腕を掴んだ。
そんな気がした。
カタリナと一緒にいる時間は嫌いでは無かった。
私も彼女と一緒に、妖怪ではなく管理人として神社を守っていく事を
望んでいたのかもしれない。でもそれは叶わなかった。
私は幻想の生き物なのだから・・・
辺りを包む光はいっそう強くなり、全てが光の中に消え去った。
大都会の片隅に位置する名も無い神社。
以前とはうって変わって、最近は参拝客もそこそこやって来るようになっていた。
針葉樹ばかりで、紅葉や桜が楽しめないのは相変わらずだが
裏庭に咲いた真っ青なハイビスカスの花が話題を呼んだのだろう。
管理人と外国人の巫女の二人が運営するこの神社は、
その青色のアオイ科の植物にちなんで青衣神社と呼ばれるようになった。
カタリナ 「前から気になってたけど、このハイビスカスって
去年は赤い花だったよね?」
淀 「不思議な事もあるのねぇ。」
私は幻想の生き物となり、ここから消え去ったはずだった。
常識に縛られない人間がそれを覆したのだろうか。
私は幻想を超え、現実の生き物としてここにいる。
神社を繋ぎとめていた結界は消え去り、
もう幻想と現実の狭間でゆらぐ事は無い。
神社も私と同じく、現実のものとしてここにある。
妖怪としての力は失ってしまったが、些細な問題だ。
この神社にはもう妖怪など必要無いのだから。
この神社は非常識である
この神社にいる人間達もまた、非常識の人間である
真っ青な花に包まれた神社
私はいつものようにそこにいた
青い瞳の不思議な巫女と共に
名も無い神社のはぐれ鬼
○瀬田崎 淀(Setazaki Yodo)
神社に棲んでいた妖怪。
分身する程度の能力を持つ。
元々は付近を荒らしまわっていた鬼。
ある時、彼女は小さな人間の法師に喧嘩を売って返り討ちに会ってしまった。
プライドの高かった彼女は、鬼の里に帰ることが出来ず
人目を避けてひっそりと暮らしていた。
長い年月を経て気の変わった彼女は故郷に帰ろうとするが、
目の前に広がる世界にはもう鬼の棲む場所など無く
当ても無くフラフラとしていた彼女は、やがて妖怪達の棲む神社に流れ着いた。
青い瞳の巫女
○カタリナ・メイシー・キップリング(Katharina Macy Kipling)
西方の国の留学生。
ひょんな事から無名の神社で巫女のアルバイトを始める事に。
彼女の格好は用意された物ではなく、自前のコスプレ衣装。
日本の文化が大好きなのだが、間違った知識も多い。
絵本の収集が趣味で、日本の昔話がお気に入り。
今どきの仙人
○葛城 小鹿(Katsuragi no Koroku)
山の麓にあった村に住んでいた人間。
その昔、とある仙人に村と自分の命を助けられたのだが
その仙人は持っていた瓢箪を残して姿を消してしまう。
彼女は、仙人に恩と忘れ物を返す為に修行して自分も仙人となった。
恩人の名を名乗り、ずっと村を守ってきたが恩人が帰ってくる事は無かった。
滝桜の妖怪
○逢瀬 彌春(Ouse Miharu)
春になると全国を飛び回る妖怪。
桜を開花させる程度の能力を持つ。
桜前線にのって全国を飛び回る。
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・オリキャラしかいない東方project系二次創作のようなものです。