No.522234

東倣葵童詩 5

huyusilverさん

・オリキャラしかいない東方project系二次創作のようなものです。

2012-12-24 01:17:04 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:642   閲覧ユーザー数:622

東倣葵童詩 ~ The Ballad of East and West.

青い瞳の巫女と今どきの妖怪による些細な話。

 

5話

 

冬も終わりを告げ、世の中は桜の季節だというのに

神社の境内は特に彩りの無い地味な色に包まれている。

それもそのはず、この神社には桜の樹など生えていないのだ。

 

紅葉も無ければ桜も無い。 それが参拝客不足にさらなる拍車をかける。

今日も巫女の掃除を眺めていると、彼女は突然箒を放り投げ、

目をこすりながらこちらへ向かってきた。

 

 カタリナ 「ごめんヨド。 ちょっと休んでいい?」

 淀 「かまわないよ。」

 

奥でカタリナのくしゃみと鼻をすする音が聞こえる。

どうやら花粉症らしい。 こう針葉樹ばかりでは無理も無いか。

たまには私が掃除をするかと箒を拾いに行くと、上空から声が聞こえた。

 

 ? 「何よこの神社! 桜が無いんじゃ仕事にならないわ!」

 

桜を咲かせに来た妖怪だろうか。

実体を持つような妖怪が来るのは何時以来だろう。

とりあえず珍しいので声をかけてみる事にした。

 

 淀 「おーい。 こんな所に珍しいじゃないか。 どうだいお茶でも。」

 ? 「ゲッ!? おっ、鬼!?」

 淀 「ほほう、私をまだ鬼と呼ぶのかね。」

 ? 「わ、私は桜を咲かせに来たのでして、ここには桜が生えてないので・・・

    さようなら!」

 

 

妖怪は物凄いスピードで飛び去っていった。

鬼という種族だけで驚くような古い妖怪がこんな所にやって来たとは

・・・これも結界の影響なのだろうか?

 

 カタリナ 「ごめん、掃除してくれてたのね。 ありがとうヨド。」

 

カタリナが戻ってきたので、掃除を交代して私はお茶の準備でもすることにした。

急いで戻って来たのか、居間には彼女の荷物が散乱している。

 

 淀 「あいつが片付けをしないのは珍しいな。

    ・・・そんな気を使う事は無いのに。

    では私はこの荷物を片付けてやろう。

    お前の気遣いは逆効果になったのだ。」

 

そんなわけで荷物を片付けていると、カタリナの鞄の中にある絵本が目についた。

どうやら日本の昔話のようだ。

今の人間が書いた昔話とはどのようなものなのか、興味がわいたので

ページをめくってみることにした。

 

その中には自分もよく知る内容の話もあったが、昔の物とは大分違う。

人間にとって妖怪といえば、畏怖と信仰の対象であったと記憶している。

絵本に描かれた妖怪は人間にいたずらをしては退治される

威厳の欠片も無いものばかりだ。

 

今の人間にとって妖怪とは何なのか? 彼女の想い描く妖怪とは何なのか。

これではまるで・・・

 

 カタリナ 「あっ、ごめんヨド。 片付けるのわすれた。」

 

掃除を終えたカタリナが戻ってきた。

 

 カタリナ 「ん?ああそれ昔話がいっぱい書いてある絵本。すごいでしょ。」

 淀 「・・・」

 カタリナ 「ヨド? どうしたの?」

 淀 「ああ何でも無い。 待っててくれ、お茶を用意するよ。」

 

仙人に妖怪・・・こんな短期間に次々と現れたのは偶然なのか。

安定した結界が非常識の存在を引き寄せたのか?

 

結界は非常識の存在である我々と、常識の存在である人間との

バランスで成り立っている。

神社を常識と非常識の狭間に置き、両者を共存させている。

 

その結界の影響で非常識の存在が活動的になるのは何故なのか。

彼女の力が弱かったのか? そんな事は無いはずなのだ。

彼女が常識の世界の人間であるなら。

 

 淀 「いや待て。 あいつは・・・」

 

 

カタリナは妖怪としての我々を知りすぎていた。

そんな非常識的な人間など、もういないと思っていた。

 

・・・いないはずだった。

もうそんな人間が現れる事など無いと思っていた。

しかし彼女は現れた。

目の前にそんな人間がいたのに、私は気づかなかったのか。

それとも最初から・・・

 

ともかく、カタリナはこちら側に近づきすぎている。

彼女がそうなってしまえば、もうこの神社を常識のものとして

認識できる者はいなくなる。 そうなれば、神社も彼女も私も・・・

 

カタリナ以外の人間が神社に来る事が無かったのも、

もう普通の人間には認識できないからなのか?

これは私の誤算であった

私はこの神社を、カタリナを守らなくてはならない

決して幻想のものになどさせはしない


 
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