No.523891

中二病でも恋がしたい! 眠れる森のくみん先輩

中二病でも恋がしたい! 完結したので、こっちで発表していない作品を色々公開
書いた時期は丹生谷さん話とほぼ同時期

コラボ作品
http://www.tinami.com/view/515430   

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2012-12-27 18:20:55 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:4100   閲覧ユーザー数:4039

中二病でも恋がしたい! 眠れる森のくみん先輩

 

 五月七日(つゆり)くみん先輩はとても不思議な人だ。

 いつも寝ている。

 うん。この言い方だと語弊があるかもしれないけれど、とにかく先輩は寝るのが好きだ。

 昼寝部を作ろうと活動していたぐらいに寝るのが好きだ。

 先輩の昼寝部の夢は六花の立ち上げた『極東魔術結社』との合併によって果たされた。

 凸守と丹生谷が加わり『共闘魔術昼寝結社の夏』となった正体不明の謎の同好会。

 その謎の同好会を先輩は『昼寝部』と呼び、活動内容を『昼寝』と定義して憚らない。

 そして今日もくみん先輩は部活を“実践中”だった。

 

「むにゃむにゃ~。もう食べられないよ~」

 

 7月初旬。来週の期末試験さえ乗り切れば夏休みはもう少しという嬉しくもあり大変でもある時期。

 畳敷きの部室で、マイ枕を抱きしめながらベタ過ぎる寝言を発しながら眠る先輩。

「六花ちゃんのほっぺはデコちゃんのほっぺよりプニプニして美味しいねえ~♪」

「カーニバリズムかよ~っ!」

 先輩は可愛い寝顔を見せながら、何か恐ろしい夢を見ているようだ。

「「ひぃいいいいいいぃっ!?」」

 同好会の邪気眼系中二病兼小動物担当の2人は部室の隅でガタガタと体を震わせている。

「モリサマーちゃんのおっぱいも柔らかくて美味しいね~♪」

「その話はもっと詳しく教えて下さいっ!!」

 先輩に向かって思わず身を乗り出してしまう。

「サイテェっ」

 丹生谷がとても、とてもとても冷たい瞳で俺を睨んでいる。

「勇太……おっぱい星人」

「ダークフレイムマスターはエロスの権化なのデス」

 六花と凸守は自分たちの小さな胸を両手で押さえながら恨みを篭めた瞳で見ている。

「しまった。先輩の寝言は孔明の罠だったかっ!」

 策士くみん先輩の姦計に嵌ってしまった。

ジェントル富樫として俺が部内で築いてきた地位が……orz

 

「とにかく、くみん先輩って寝るのが本当に好きだよな」

 慌てて話題を逸らしにかかる。

「勇太……誤魔化そうとしている」

「凸守は今日という屈辱を一生忘れないのデ~ス。やはり……牛乳を克服するしか」

 女性陣の信頼を俺はあの一言で随分失ってしまったようだった。

「そうね。顔を踏んでもちっとも起きないし」

 丹生谷は靴下でグリグリと先輩のほっぺを踏んでいる。

 羨ましい。俺も踏んでもらいたい。

 じゃなくてっ!

「俺もその足で思い切り踏んでくれ、丹生谷~~っ!!」

 あっ。

「勇太……言うべき台詞をきっと間違えている」

「ダークフレイムマスターは踏まれるのが趣味の変態でもあったのデスね」

 六花と凸守の視線が果てしなく冷たい。

「さぶっ」

 そして丹生谷の絶対零度の視線。

「どうして、どうしてこうなったぁ~~っ!!」

 再びガックリと崩れ落ちる。

 

「勇太……そんなに踏んで欲しいのなら私が」

「この凸守が特別にお前を踏んでやるのデ~ス」

「「ムムっ!」」

 落ち込む俺の隣で火花を散らす六花と凸守。

 今日も今日とてこの2人の戦いは飽きずによく続いている。

「凸守……退きなさい」

「断固拒否なのデ~ス」

 けれど、以前よりも何ていうのかより必死なバトルが繰り広げられることが増えた気がする。

 

『『爆ぜろリアルっ! 弾けろシナプスっ! ヴァニッシュメント・ディス・ワールドッ!!』』

 

 以前は掛け声とか設定とかそんなものに非常に拘っていた。でも今は……。

「勇太を踏むのは私の役目。凸守は引っ込んでいて」

「否、なのデ~ス。ダークフレイムマスターはこの凸守が踏みつけてやるのデ~ス」

 主張のぶつかり合いがメインになっている場合が多い。

 中二バトルというか女同士の修羅場を連想させるバトルに見える。

 見ていて前とは別の意味で心臓に悪い。

 

「まあ、どうしてもって言うのなら、私が特別に富樫くんの顔を踏んであげるけど? ハイヒールで」

「丹生谷がハイヒールで俺の顔をっ!」

 丹生谷の提案に恐怖する。ハイヒールで人の顔を踏むなんてまるっきり女王様のすることじゃないか。

 そんなことをされたら俺は、俺は……俺はぁっ!!

「ハァハァ。魅力的な提案だが。ハァハァ。俺はドMの変態ではないので。ハァハァ。断る」

 俺は一般人としての生をまっとうするんだ!

「この変態。魅力的な提案とか認めてやがるのデス」

「勇太はおっぱい星人の上にドM……治療が必要。私色に染めないと」

「本当、最低な男ね」

「断ったのに……何故なんだぁああああああああぁっ!?」

 絶叫して嘆く。

 だから俺にはやっぱり話題を変える必要があった。

 

「くみん先輩っていつも昼寝しているけど、もしかして家で寝てないとかあるのかな?」

 これだけ昼寝が好きなのは逆に言えば家で寝てないからじゃないかと思う。

「眠り女が家で寝てないなんて話は聞いたことないわよ」

「私も、聞いてない」

「凸守も聞いてないのデス」

 3人の女性陣は否定的。

「けど、昼も夜も寝てじゃ逆に疲れるだろう」

 俺にはやっぱりくみん先輩が何か夜通しでしているような気がしてならない。

「じゃあ、勇太は何だと思う?」

「そうだな。高校生の夜更かしと言えば……ネトゲとか?」

 思い付いたものをパッと述べてみる。

「くみんはネトゲしない」

「そう言えばネコ探していた時のポスターも手書きっていうアナログだったわね」

「ネットサーフィンや動画鑑賞で夜更かししている線もなさそうなのデ~ス」

 パソコン、ネットという最もありそうな線は消えてしまった。

「なら、読書とか趣味……って線もないよな」

 先輩が本を読んでいる姿を見たことがない。

 それに夜通しで熱中する趣味があるのなら、昼寝部設立の為に活動したりしないだろう。

 

「じゃあ、バイト、かなあ?」

 くみん先輩がアルバイトしているという話は聞いていない。

 でも、そう考えるのが一番説明がつきやすい。

「高校生の深夜就業は禁止されている」

 六花がごく正論で反駁した。

「なら、正規じゃないバイト、とか……」

 口にしてから考える。

 正規じゃない、高校生が夜にするバイト……。

 

『勇太くんは……こういうことするの、初めてかなあ? だったらぁ~いっぱい、サービスしちゃうよぉ~♪』

『くみん先輩っ! そ、そんな、自分を安売りしちゃうようなことをしてはダメですっ! そういうことをするのはせめて俺だけにぃ~~っ!』

 

「先輩っ! 夜のバイトなんてもう止めてくださいっ! お金が必要だって言うんなら俺が働いて先輩を一生養いますからぁ~~~~っ!!」

 先輩が夜のバイトなんてしちゃいけない。そんなことをさせるぐらいなら、俺が、俺がぁ~~っ!

「富樫くんは今一体何を想像したのかしら? サイッテ~ね」

「富樫勇太は破廉恥極まりない妄想をして許し難い奴なのデス。エロい妄想をするのは凸守だけにするのデス。まったく、隠れ巨乳がそんなにいいデスか?」

「勇太は……くみんの面倒を一生見るつもりなの? 私じゃなくて?」

 気が付くと丹生谷と凸守と六花が凄い形相で俺を睨んでいた。

「くみん先輩の昼寝の謎を解き明かせなかったのが人生での唯一の心残りだったな」

 自分の死期を悟って遺言を述べる。

 俺の予想は外れていて欲しい。

 くみん先輩がそんなエッチなお仕事をしちゃいけない。

 でも、本当にそうなら……俺もドキドキ体験をしてみたかった。

「お祈りも済んだようだし、そろそろお仕置きして良いかしら?」

 丹生谷はとても生き生きした表情で尋ねてくる。ドSの本領発揮という感じだ。

 凸守はツインテールを振り回し、六花は傘を構えている。2人ともやる気満々だ。

「ヤレヤレだぜ」

 対する俺は格好付けて返答するのが精々だった。

 俺がリタイヤするのはそれからすぐのことだった。

 

 To Be Continued

 

 

 

幕間劇場 くみん先輩の昼寝道1

 

 五月七日くみんには高校入学以来の大きな夢があった。

『昼寝部ぅ~~クゥ~』

 昼寝部の創設がそれだった。

 大好きな昼寝を部活動として正式に楽しみたい。

 昼寝を学校に普及させたい。みんなで一緒に昼寝を楽しみたい。

 そんな彼女の想いは1年越しに成し遂げられた。

 同好会『極東魔術”昼寝”結社の夏』として学校に認可されて、部室も手に入った。

 ようやく願いを叶えることができた。

 くみんはそう考えていた。

 けれど、現実は彼女が思うとおりには運んでくれなかった。

 

「どうしたらみんなぁ~昼寝部の活動をしてくれるかなぁ~?」

 昼寝部なのに部員たちが昼寝をしてくれない。

 くみんの目下の悩みだった。

「チャンバラ研究もツッコミ研究もSM研究も面白いけど~本業は~昼寝部なんだけどなぁ」

 部長である小鳥遊六花と中学生部員である凸守早苗は毎日チャンバラ遊びに夢中。

 副部長である富樫勇太は生き甲斐であるツッコミを入れるのに忙しい毎日。

 最後に加わった丹生谷森夏はドSな本領を発揮して、部員たちの顔を踏み付けたり罵倒しては悦に浸っている。

 各自が好きな活動を満喫しているのは良い。

 けれど、昼寝部なのだから部員たちには昼寝もちゃんとして欲しい。

 それはくみんの切なる願いだった。

 けれど、部員の中でくみんを除いた誰1人として部室で昼寝を実践する者がいなかった。

「由々しき事態だよねぇ~これはぁ~。人生の先輩として~後輩を導かなくちゃ~」

 両手に力を込めながら部室に入る。

 

「革命の時は~来たんだよぉ~」

 強い決意をノンビリした声で発しながらくみんは部室へと入っていく。

 すると、部室の中では普段とは異なる光景が広がっていた。

「むにゃむにゃ~デス。ダークフレイムマスターも邪王真眼も大したことないのデ~ス。闇の世界の支配者は凸守で決まりなのデ~ス。むにゃむにゃ~」

 凸守が魔法陣の中心でくみんが置いていった枕を抱きしめながら寝ていた。

「ダークフレイムマスターは凸守の眷属になったのデ~ス。だから、凸守の面倒を一生見るが良いのデ~ス♪」

 凸守はとても嬉しそうな表情を浮かべながら眠っている。

「デコちゃんも遂に昼寝の楽しさに目覚めたんだね~♪」

 後輩が昼寝に目覚めたことに感動する。

「富樫勇太は凸守のモノなのデ~ス。でへへへ。なのデス」

「デコちゃんの寝顔……可愛いなあ」

 初めて見る後輩の寝顔はとても可愛らしかった。

 くみんは心が高揚するのを感じていた。

「昼寝の先輩として~デコちゃんに何か良いことをしてあげたいな~」

 昼寝部の精神に目覚めた後輩に何かしてあげたいと思った。

「デコちゃんは~強くなりたいんだよね~」

 先ほどの寝言を思い出しながら後輩少女の願望を推測する。

「イメージするのは常に最強の自分。なんだよね~」

 どうすれば凸守が強くなれるのか考える。

より正確には強くなったように感じられるのかを。

「やっぱり~最強といえば超人だよね~♪」

 くみんの頭に浮かんだのは人を超えた力を持つ超人の存在。その中でも最強の超人。

「デコちゃんも最強の超人そっくりになれればきっと喜ぶよね~♪」

 くみんは鞄の中から油性マジックペンを取り出した。

 そして──

 

 

「ひっ、ひどいのデ~スっ! 凸守が昼寝している間に額に『肉』って書いたのは一体誰なのデスか? 屈辱なのデス。最低なのデ~ス」

「いや、俺達3人が部室に来た時には既に凸守のおでこに肉の文字が書かれていたわけで。外部の人の仕業なんじゃ?」

「嘘なのデ~ス。この部室にはくみんも一緒に寝ているのデ~ス。でも、くみんは何も落書きされてないのデ~ス。だからきっと、これは凸守に恨みを持つ内部犯の仕業なのデス」

「じゃあ私は関係ないわね。私はアンタをいじめるのに、落書きなんてセコい方法は取らないもの。さっきみたいに寝顔を思い切り踏みつけるだけよ」

「より凶悪な手段を選択したのにこの女、まるで悪びれていないのデス」

「私も関係ない。凸守に恨みなんかない」

「嘘なのデス。きっとマスターは凸守に富樫勇太を寝取られたことを恨みに思って……」

「勇太を寝取られてなんかないっ!」

「じゃあ、俺も無関係だな。女子中学生にいちいち悪戯したいなんて思わないから」

「お前が一番怪しいのデスっ! きっと、凸守の美貌を独占しようとして、他の部員に敢えて滑稽な姿を見せるようにしたに違いないのデスっ! 責任取って凸守を一生幸せにしやがれ、なのデス」

「意味分かんないっての!」

 

「むにゃむにゃ~。見てぇ~。人がゴミのようだよぉ~♪」

 部室内で騒ぎが続く中、くみんはひとりやり遂げた表情で眠り続けていた。

 

 

「くみん先輩がよく眠るのは、楽しい夢を見たいからじゃないかな?」

 凸守のおでこに『肉』騒動の翌日、俺はひとつの仮説をみんなで披露してみた。

「疲労回復じゃなくて夢を見たいから寝ているってこと?」

 丹生谷が解説し直してくれた。

「うん。くみん先輩ってよく寝言を喋ってることからも、夢を見る比率が高いっていうか、夢を自由に操れるんじゃないかと思ってね」

 先輩が草原の夢を見れる枕を紹介して本当に草原にいる夢を見ていたことを思い出す。

「確かに、好きな夢が見られるのなら、寝てばっかりなのも楽しいかも知れないわね」

 丹生谷が同意する。

 俺はこの仮説に少し自信を持った。

 

「いや、その理屈はおかしい」

 だが、俺の説に待ったを掛けたのは六花だった。

「凸守も異議ありなのデ~ス」

 凸守も反対に回った。

「反対の根拠は?」

「夢を見るなら、寝ていない方が思い通りに描けるから」

 六花はドヤ顔で答えた。

「寝てしまえば設定が不完全になってしまい、子どもの戯言と同じになってしまうのデ~ス」

 凸守もドヤ顔だった。

「実に重度の中二病患者らしい答えだな」

 起きながらドリームの世界にいるコイツらにとっては確かに寝てからの世界など不必要だろう。

「爆ぜろリアルっ!」

「弾けろシナプスっ!」

「「ヴァニッシュメント・ディス・ワールドっ!!」」

 そして言っているそばから六花と凸守は自分達の世界に入ってしまっていた。

 それぞれモップを手にとってチャンバラを始めている。

「今日こそマスターを倒してDFMをいただくのデ~ス」

「サーヴァント如きに譲るDFMはない」

 畳の上に寝転がってゴロゴロ転がりながら激しい打ち合いをしている。

 ちなみにDFMとは、近頃アイツら2人が賭けの対象にしているものの略称。聖杯とか7つのオレンジ色の玉とかに相当するもので2人とも絶対に入手したいらしい。

 

「まあ、中二病患者は放っておいて俺は自説の立証に入ろう」

 くみん先輩に近付いて寝言を拾うことにする。

「寝ている女の子の顔を覗き込むって最低の趣味ね」

 丹生谷の非難の言葉が胸にザクッとくる。けれど、今はくみん先輩の謎を解き明かす方が先だった。そして……先輩の寝顔を見ていると癒されるのも確かだった。

 先輩の可愛い寝顔をジッと見る。

「勇太。寝顔が見たいのなら私のを見れば良い。いっ、一緒に寝れば見放題……ポッ」

「変態趣味の富樫勇太が警察に捕まらないように、特別に凸守の寝顔を見せてやるのデス。だ、だから、一緒に寝てやっても良いのデス。もっ、勿論一緒に寝るだけなのデスよ!」

「お前らの中二話は今良いから……」

 六花と凸守の話を無視する。

「「せっかく勇気を振り絞ったのにぃ~~っ!」」

「富樫くんってさ。時々私より遥かにドSよねって思う時があるわ」

 3人の少女が何かネガティブな反応を示しているがこれも無視。くみん先輩に集中する。

 するとタイミングを計ったように寝言を披露し始めてくれた。

 

「昼寝部連続殺人事件の犯人が、まさかあなただったなんてぇ~悲しいよぉ~」

「「「「えっ?」」」」

 くみん先輩の涙ながらの語りに部員一同驚いた。

 このかなりふざけた部を舞台にくみん先輩の夢の中では大変なことが起きているらしい。

「第一の被害者はデコちゃん。苦手な牛乳を無理やり飲まされたことによるショック死だった」

「ひっ、ひどい殺され方なのデス……」

 ないとは言い切れない死因だった。凸守はやたら落ち込んでいる。

「第二の被害者はモリサマーちゃん。マビノギオンを餌に屋上に呼び出され、ファイルを抱えたまま墜落死」

「私の弱点を突いてくるなんてえげつない殺し方ね」

 これもないとは言い切れない死因だった。丹生谷は眉をしかめて悔しそうな表情を浮かべている。

「第三の被害者は勇太くん。包丁で666箇所刺されるというごく普通の殺し方だった」

「いや、俺の殺され方が一番ひどいでしょっ!」

 666回って、どんだけ恨まれているいるんだよ、俺っ!?

 

「デコちゃんやモリサマーちゃんの殺害方法、そして勇太くんに対する強い怨恨から見ても内部犯の犯行であることは明白っ!」

 くみん先輩が寝言ではいつもより強い口調で訴えている。

 しかも探偵モノとしては何となくそれらしいことを言っている気がする。

「そして、私は探偵役。となると犯人役は六花ちゃんかキメラのどちらかになるよね~」

 信頼度が下がった。でも……。

「なっ、何でみんな私の方を見る?」

 小動物六花がビクッと体を震わせた。

「そしてキメラには犯行時間のアリバイがある。私と一緒にお茶を飲んでいたというアリバイが」

 猫のアリバイを真剣に語る先輩。

 ていうか、猫が人の弱みを突いて連続殺人起こしたらすごく嫌だ。

 となると、やっぱり犯人は……。

「ちっ、違うっ! 私は殺人事件なんて起こしてない。私にはそんな動機なんかないっ!」

 六花は必死に自分の無実を訴える。

 

「動機なら……あるでしょ」

 先輩の寝言が六花の弁明にリンクした。

「六花ちゃんは勇太くんにちょっかいを出してくるデコちゃんとモリサマちゃんが、邪魔になったんだよね」

 くみん先輩が鋭い声で告げた。

「ちっ、違うっ!」

 六花が激しく首を横に振りながら否定する。

「私はヤキモチなんか焼かないし、そんなことで大切な部活仲間を殺したりしないっ!」

「気持ちは分かるよ、六花ちゃん。恋する乙女だもんね。好きな男の子が他の女の子と仲良くしていたら嫉妬の炎に身を焦がして最悪な選択をしちゃう場合もあるよね」

「私はそんなことしな~~~~いっ!」

 六花が叫んだ。

「私は、そんなこと、そんなこと……」

 そして今度は怯えた声を出す。

 

「そして、その嫉妬の炎はやがて勇太くんにも向けられてしまった。勇太くんが、私を愛してしまったから」

「ええぇっ!? ここで俺っすかぁっ!?」

 もう死体役とはいえ、重要な役を担うことになってしまった。

「勇太くんがこの部で一番の美人である私を好きになってしまったのは仕方のないこと」

「眠り女ったら、いっつもニコニコしながら腹の底ではそんなことを考えていたのね」

「パネェのです。この女」

 くみん先輩の言葉に対して女子2人がとても白い目を向けた。

「勇太くんの毎日の熱烈なラブコールに私も交際しても良いかな~ってちょっと思っちゃったぐらい」

「くみん先輩の中の俺って、どんだけ情熱的なんだ!?」

 ていうか、部員2人が殺された状態で毎日先輩を熱愛して追いかけるって、どんだけ節操ないんだ、俺?

 

「愛しい人が自分を振り向いてくれない悲しい現実に耐えられずに……勇太くんを殺害するしかなかったんだよね、六花ちゃん」

 先輩の声は悲しみに満ちていた。

「わっ、私は、勇太を……」

 膝をついて畳の上に崩れ落ちる勇太。

「わっ、私は、私は勇太を殺したくなんてなかった。でも、だけど、勇太は……私のことを……うっうっうっ」

 急に自白し始めた六花。中二病患者だけあって、この手のシチュエーションには乗りやすいらしい。

 

「分かるよ、六花ちゃん。悪いのはみんな、他の女の子のお尻ばかり追いかけた勇太くんだよね」

「えっ?」

 3人を殺めた連続殺人犯六花よりも、浮気性という設定にされている俺の方が悪いの?

 そうなの?

「富樫くん、サイッテェ~」

「まったく、富樫勇太がエロ男だったせいで凸守まで殺されるなんて。不幸の限りデス」

「アレッ?」

 何か、とても旗色が悪い。

「でも、私はどんな理由があるにしろ3人を殺めてしまった。それは許されないこと」

「うん。捕まったら死刑は確定だね~」

「うっ!」

 ビクッと震える六花。先輩も相当えげつない。

「でも、私はお金で雇われた探偵だから六花ちゃんをしっかり捕まえて報酬をいただくことにするね~。ほらっ、さっさとお縄について~」

 先輩は意外とドライらしい。

「勇太……生まれ変わったら今度こそ私と……」

「これにて一件落着だよ~~♪」

 六花に最後まで語らせずに事件を終わらせてしまった先輩。本当にえげつない。

「凸守は殺され損だったのデス。エロ男の富樫勇太にもてあそばれるだけあそばれて…」

「私も同じよ。富樫くんさえいなければ殺されずに済んだのに」

「2人を殺したのは私が悪い。でも、勇太がもっと私に優しくしてくれていればこんな事件は起きなかった……」

「勇太くんの女癖の悪さが~今回の事件の全ての元凶だよね~」

 すやすや眠り続けるくみん先輩が余計な一言を述べてくれる。

 それを聞いて、3人の少女の俺を見る瞳が一気に殺気を帯びる。

「ヤレヤレだぜ」

 対する俺はまた格好付けて返答するのが精々だった。

 俺がリタイヤするのはそれからすぐのことだった。

 

 To Be Continued

 

 

幕間劇場 くみん先輩の昼寝道2

 

「もっと寝心地が良い枕が昼寝発展の為には必要だよね~」

 五月七日くみんは昼寝大好きという表の顔の他に、現状を改善しようという意欲に常に溢れる進取の精神を持ち合わせていた。

 即ち、より良き昼寝を求めて止まないスピリットに溢れていた。

「そう言えばこの間~クラスの子が~男の人の腕枕で寝るとすっごく気持ち良いって言っていたよね~」

 クラスの中でも派手めな少女たちが集まってそんな話をしていたのを思い出す。

「男の人の腕枕か~」

 数々の安眠枕を収集してきたくみんにとっても腕枕の経験はなかった。

 昼寝愛好家として賞賛される枕を試さないでいるのはプライドが許さなかった。

「男の人、男の人……勇太くんに頼めば良いよね~」

 同じ昼寝部員である勇太にお願いするのが妥当という結論に落ち着く。言い直せば他の候補は思い浮かばなかった。

 

「勇太く~ん。お願いがあるんだけど~」

 部室に入りながら声を掛ける。

 すると、くみんの目の前には思ってもみないラッキーな光景が広がっていた。

「むにゃむにゃ~。闇の炎に抱かれて消えろ~。むにゃむにゃ~」

 部室には勇太が1人だけ。しかも疲れていたのか魔法陣の上に仰向けに寝そべって寝ていた。

「勇太くんも遂に昼寝の素晴らしさに気付いてくれたんだね~♪」

 嬉しくなって勇太の顔を覗き込む。

「勇太くんの寝顔~可愛いねえ~♪」

 初めて見た勇太の寝顔。普段ツッコミばかり貪欲に狙っている少年の鋭い顔とはまた違っていた。

「確かにこんな可愛い顔を見ながら寝たら~普段より良い夢を見られそうだよね~♪」

 くみんは早速勇太の顔を見ながら寝ることにする。

「あっ。そうだ~。せっかくだから腕枕も試してみよう~」

 勇太の右手を慎重に動かして腕枕用のスペースを作る。

「今日は勇太くんの腕枕に挑戦だよ~♪」

 勇太の腕に頭を載せる。

 夏服なので、薄いワイシャツ越しに勇太の筋肉の感触を感じる。

 そして勇太の匂いが周りに立ち込めていた。

「やっぱり、男の人の香りって女の子とは違うんだね~」

 くみんが嗅いだ事のない匂い。けれど、嫌ではなかった。

 むしろとても安心する香り。

「それじゃあ早速昼寝の時間だよ~」

 目を瞑って寝に入る。普段なら10秒もしないで眠れる。

 けれど、今日に限っては何故か眠れない。

 体中が火照って熱を持っていた。気のせいか心臓の鼓動も普段よりうるさい。

「えっと~。今日は暑いからだよね~?」

 昨日昼寝していた時には抱かなかった感覚に戸惑いを覚える。

 けれども、せっかくの腕枕チャンスを不意にするわけにはいかない。

「脱げば涼しくなるよね~♪」

 くみんは制服のニットセーターを脱いだ。そして、更に涼を取るためにシャツのボタンを上から3つと下から2つ分外して風通しを良くした。

「改めて……おやすみなさい、勇太くん」

 くみんはまだ胸がドキドキするのを感じながらも目を閉じる。そして、時が過ぎて眠くなるのを静かに待った。

 

 

「ゆっ、勇太っ!? 何でくみんと一緒に寝ているのっ!? そ、それに、くみんのそのはだけた格好はぁ~~っ!?」

「あ~あ。これ、完璧に事後だわね。スカートの裾もこんなに乱しちゃってさ。結局、富樫くんはチンチクリンなアンタ達よりも、この胸の誘惑に負けたってことなんでしょ」

「中等部一の美少女である凸守のアタックを拒み続けたのは……結局おっぱいだったということなのデスか!? 屈辱なのデスっ! 凸守も2年すればきっと巨乳なのにぃ~~」

「勇太っ! 起きてっ! くみんと何があったのかちゃんと説明して! でも、エッチ過ぎる話は恥ずかしいから聞けない!」

「へっ? えっ? 何だこれ? いや、俺は全然知らないって! 何でくみん先輩が腕枕しているのか全然身に覚えがないんだってば!」

「こんな決定的な構図を見せておきながら何もないなんて通じると本気で思っているの? ちゃんと責任取りなさいよ。それはともかく……サイッテェ~ね。とりあえず蹴らせて」

「いや。だから、俺は何にも知らなく……ブホッ!?」

「富樫勇太……乙女の純情を踏みにじった罪。死にさらせなのデス。ミョルニルハンマーっ!!」

「俺、動けないんだからその攻撃は……痛い、痛い、痛いってぇっ!? せっ、先輩、起きてコイツらに俺の無実を証明してくださいってば~っ!」

「むにゃむにゃ~。勇太くんの腕って意外と筋肉質なんだね~。それに男の人の匂いって今日初めて嗅いだけど~とっても素敵だね~。私、癖になっちゃうかも~♪」

「へっ?」

「「「天誅っ!!」」」

「ぎゃぁあああああああああああああぁっ!!」

 部室の騒乱が続く中、くみんは夢の世界で勇太と楽しく過ごしていた。

 

 

 気が付くとくみん先輩に腕枕していて、3人の女子部員からキツいお仕置きを食らった翌日の放課後。

「勇太は今日もまたくみんとエッチなことをするつもりなの?」

「このエロ野郎を去勢してやらないと世の為にならないのデ~ス」

「去勢するなら特別に私がただで麻酔なしで行ってあげるわよ」

 3人の表情がダークネスだった。ToLOVEるってダークネスだった。

 今ならこの3人の誰が殺人犯になっても納得してしまう。そして被害者は俺に違いなかった。

「くみん先輩。昨日の件をコイツらにちゃんと説明してやってください。でないと、俺が殺されます」

 枕を抱えて寝ようとしていた先輩は振り返った。

「説明って何を~?」

「だから、昨日のことです。俺と先輩がエッチしたって誤解しているんですよ、コイツら」

 先輩は首を捻りながら不思議そうに答えた。

「昨日は勇太くんに腕枕してもらって寝てただけだよ~」

 先輩のその一言を聞いて俺は安堵した。

「本当に勇太とエッチしてないの?」

「してないよ~」

「富樫くんに脅されてそう言わされてるって線は?」

「勇太くんはそんなことしないよ~」

「じゃあ、ニットを脱いで、シャツのボタンを開けていたのは何故なのデスか?」

「暑かったからだよぉ~」

 先輩が質問に答えてくれるおかげで俺の疑いがどんどん晴れていく。助かった。

「じゃあ、くみんは勇太とエッチなことはしなかったと」

「う~ん。でもぉ~」

 先輩はもう1度大きく首を捻った。

「勇太くんがお嫁さんにもらってくれると約束してくれるなら~その時はその時なんじゃないかな~?」

 くみん先輩は照れ笑いを浮かべた。

「是非っ! 俺の嫁さんになってくださいっ! 今すぐにでもっ! ………………あっ」

「「「殺スっ!!」」」

「ヤレヤレだぜ」

 俺はまた格好付けて返答するのが精々だった。

 俺がリタイヤするのはそれからすぐのことだった。

 

 To Be Continued

 

 

 4人の少女達は気絶した勇太を見下ろしている。

「じゃあ私は~勇太くんに腕枕してもらって寝るね~」

 言うが早いかくみんは勇太の右手を取ると枕にして寝てしまった。

 10秒後にはとても気持ち良さそうに眠りに就いてしまった。

 

「くみんは……危険」

 六花は勇太に顔を寄せて眠るくみんを見ながら呟いた。鋭い視線ながら勇太に腕枕してもらっているくみんを羨ましそうに見ている。

「確かにこの女は危ないのデ~ス。結婚を条件に富樫勇太を泥棒猫しかねないのデ~ス」

 凸守もくみんをキツい瞳で見ている。でも、とても羨ましそうな視線は同じだった。

「だったら、寝取られる前に寝取ってしまえば良いんじゃないの?」

 対して森夏は挑発的な物言いをして2人の喚起を促した。

「「寝取られる前に寝取る……っ」」

 2人の少女は空いている勇太の左手を凝視していた。

「私は、この部の部長として、くみんが日々精進している昼寝というものがどんなものであるのか確かめる必要がある。よって、くみんと同じ眠り方を実践したいと思う」

 六花は頬を紅く染めながら勇太の隣に寝ようとする。

「ちょっと待つのデ~ス!」

 だが、それを凸守に阻止されてしまった。

「ここは部の最年少である凸守が勇太と寝て、その際の体験レポートを学校の正式サイトの掲示板にアップしておくのデス。2人の仲が誤解されるのは覚悟しているのデス」

「その誤解される役目は部長である私が引き受けるっ!」

 睨み合う六花と凸守。

「2人とも、譲る気はないの?」

 森夏は面倒くさそうに2人に尋ねる。

「ないっ!」

「ないデスっ!」

 2人は即答してみせた。

「じゃあ、間を取るしかないわね」

 森夏はそそくさと勇太の隣に寝転んでその左腕を枕にした。

「「えっ?」」

 驚きの声を上げる2人。

「睡眠を妨害したり、私の顔に落書きなんかしたりしたら……殺すから」

「「ヒィイイイイイイィっ!?!?」」

 怯える2人を見ながら森夏は安心して目を閉じた。

「男の子に慣れておくのも一般人として必要な修行の一つよね。ほんと、嫌になるわね」

 森夏は何かぶつぶつと言い訳しながらすぐに眠りに入ってしまった。

「「絶対嘘だ」」

 六花と凸守は指を咥えながら羨ましそうに森夏とくみんを見ていた。

 

 

幕間劇場 くみん先輩の昼寝道3

 

「勇太くんの腕枕~。最高の寝心地だったよぉ~」

 遂に最高の安眠枕をみつけた。

 くみんの心は感動でいっぱいだった。

 けれど、人間とは欲深き存在。

 最高の枕をみつけても、最高を越える最高を更に探したくなっていた。

「私が勇太くんのお嫁さんになればあの枕を毎日使えるんだけど~……他の枕も一応探さないとダメだよね~」

 指を頬に当てながら考え込む。

 すると、教室内でちょっとエッチな男達が話している内容を思い出した。

『おっぱいを枕にして寝たら最高の気分になれると思わねえか?』

 男子生徒たちは女子の胸談義に熱くなっていた。女子生徒に白い目で見られながら。

「おっぱい枕か~」

 くみんは自分の胸を眺めてみた。高校生としては立派な膨らみがそこには存在する。

 けれど、その胸を後頭部に乗せて眠ることはどんなに頑張ってもできなかった。

「となると、おっぱい枕はモリサマーちゃんに頼むしかないよね~」

 くみんは部に所属する他の女子2人を選択肢から削除した。

 くみんよりも胸の大きな彼女に枕になってもらおうとウキウキ気分で部室に入る。

 すると、くみんにとっては幸運すぎる光景が広がっていた。

 

「むにゃむにゃ~。富樫くん、顔を思い切り踏みつけてあげるから感謝しなさい。お尻も蹴ってあげるわ。一生側でいじめてあげるわよ~。むにゃむにゃ~」

 丹生谷森夏が魔方陣の上で仰向けになって昼寝中だった。

「わ~これでおっぱい枕の夢を叶えられるよ~」

 くみんは小さく拍手しながら森夏の元へと近付いていく。

「改めて見てみると……大っきいよねぇ~」

 森夏の胸の大きさは、寝ている状態でもとても強調されていた。

 少しドキドキしながら触ってみる。

「うん。これは枕として最上級の素材かも」

 柔らかさは半端ではない。

 勇太の腕が、ゴツゴツした固さという安心感を提供してくれるものなら、森夏の胸は、どこまでも沈みこんでしまうような蕩ける柔らかさをくれた。

「うん。早速お昼寝だよぉ~」

 くみんは森夏の胸を枕にしながら天井を見上げた。

「う~ん。これはちょっと柔らかすぎるかも~」

 勇太の腕枕というハードタイプに慣れてきたので、森夏の胸は柔らかすぎた。

「そうだ。角度を変えれば良いんだ~」

 横ばい状態になってみる。

 でも、まだしっくり来ない。

 それでうつ伏せになってみた。

 顔全体がずっぷりと沈み込む感覚。

 でも、それがとても気持ちが良かった。

「うん。これでバッチリだよ~」

 くみんは安心して眠りに就いた。

 

 

「うおおおぉっ!? 何でくみん先輩が丹生谷の胸に顔をうずめて眠っているんだぁ~っ!? うっ、羨ましすぎるぅ~~っ!」

「勇太がそんなにも女性の胸に顔をうずめて寝たいと言うのなら……部長である私が、特別に叶えてやっても良い」

「マスターがそんなことをする必要はないのデス。この凸守が嫌で嫌で仕方ないですが、特別に胸を貸してやっても良いのデス」

「凸守……退きなさい。勇太は私の胸で寝るの!」

「凸守の胸なのデス!」

「いや、お前らじゃ、洗濯板にしかならないだろ。おっぱい枕を申し出るなら、そんな小学生体型じゃなくて、くみん先輩や丹生谷みたいにボンキュボンッって感じでだな……うん?」

「勇太、覚悟は良いの?」

「Death!! Death!! Death!!」

「女性のおっぱいは男の夢だからつい我を忘れて語りすぎてしまったぜ……ぎゃぁあああああああああああぁっ!!」

「牛乳をいっぱい飲んで、1年後には勇太を見返してやるんだからっ!」

「凸守も牛乳を克服してみせるのデ~ス」

 

「モリサマーちゃんのおっぱいの感触も……勇太くんの腕枕の次に最高だよ~♪」

 2人の少女が決意を固める中、くみんはスヤスヤと眠り続けたのだった。

 

 

 

 先輩が丹生谷のおっぱいに顔を埋もれているのを見て何かの扉を開き始めてしまった翌日。

 俺は大変な騒動に巻き込まれることになった。

「勇太くんに腕枕してもらいながら眠るとね~最高に気持ち良いんだよぉ~~」

 くみん先輩は遂に会得したという昼寝の極意を学校中で触れ回った。

 悪意なくいつもの癒し系の表情で。

 くみん先輩としては、文字通り腕枕してもらうと気持ち良いという意味での発言だった。

 でも、聞いている方にとっては腕枕に至る過程をとても重視した。

 即ち、俺と先輩が男と女の関係であると。

 そんな風に噂を立てられているとも知らない先輩は、更に天然な発言を続けて結果的に俺を窮地に追いやった。

「私と勇太くんは別にお付き合いしてないよ~。勇太くんが~私のことをお嫁さんにもらってくれて~一生面倒を見てくれるのなら~考えるけど~」

 くみん先輩的には俺との交際疑惑を否定したつもりだったのだろう。

 でも、その返答はあまりにも逆効果だった。

「つまり、富樫は先輩の身体をもてあそびながら、付き合う気も責任を取る気も一切ないと?」

「う~ん。私と勇太くんは一緒に寝ることを中心にした関係だよ~」

「富樫はくみん先輩と身体だけの関係を築いてやがるぅ~~~~っ!!」

 俺は瞬く間に最低男のレッテルを張られるようになった。

 ダーク鬼畜マスター。それが高校での俺の蔑称となった。

 

 でも、クラスで白い目で見られるぐらいは何ていうことはなかった。

「勇太……まだ生きてたの? 早く不可視境界線を越えて旅立ったら?」

「おっぱい星人はお呼びじゃねえのデスよ。円盤ごと墜落死しやがれなのデス」

「何でもいいから、いっぺん死んでくれない?」

 部室内にいると、より立場がないです。3人の少女が…すごく怖いです。

「何か最近。六花ちゃんたち、怒っていることが多いよね~?」

 不思議そうに首を捻る先輩。

 自分の発言が原因だとは微塵も思っていないらしい。

「みんなカルシウムが足りてないのかも知れないね~」

 カルシウム以前に苛立たせる原因がこの部室内に存在するのだと気付いてください。

「まあ~六花ちゃんたちも敏感なお年頃だもんね~。苛立っちゃう時もあるよね~」

 先輩にこれ以上天然を続けられると俺の命が危ないです。

「六花ちゃんたちは時間が経てば機嫌も直るだろうから~一緒に寝ようよ、勇太くん♪」

 先輩は俺の首の後ろに手を回すと楽しそうに自分の身体を畳の上へと落とした。

 

「危ないっ」

 先輩の体が勢いよく叩きつけられるのを防ぐ為に首と背中に手を回しながら軟着陸させる。

「えへへへへ~♪」

 先輩はとても嬉しそう。形的には腕枕しているような構図になったからか。

「それじゃあ~おやすみ~♪ …………クゥ~」

 そして瞬間芸的な素早さで寝に入ってしまった。

「あの、先輩っ!? このタイミングで、この格好で寝られてしまうと……」

 背中に猛烈な殺気を感じて冷や汗が止まらない。

「勇太く~ん……大好きだよぉ~~♪ むにゃむにゃ~♪」

 幸せそうな寝言を述べるくみん。

「先輩っ! そこでは腕枕。腕枕って言葉を付けてくれないと…………っ」

 ビクビクしながら振り返る。

「「「死」」」

 そこには予想通り、外れて欲しかったと切に願ってしまうぐらいに思った通りに夜叉と化した3人の少女が立っていた。

 

「ゆっ、許してくれないかな? これはくみん先輩が勝手にやったことだろ? 俺が先輩と一緒に寝ようとしているわけじゃない。 なっ、許して。ねっねっね」

 六花達に必死に許しを請う。

 だってくみん先輩は俺を一方的に腕枕しているだけで、これは俺の意思じゃ……。

 いや、先輩の可愛い寝顔を見ていると、ついつい、起きるまで腕枕しちゃったりもする。けれど、それは男なら仕方がないわけで。だって、先輩はこんなに可愛いんだから。

「許すか許さないかは、ダークフレイムマスターが私達の心の中を読んでみればいい」

 ダークフレイムマスターにならずとも分かる。

 彼女達の心の声が聞こえてくる。

 No! NO! NO! NO! NO!

 全会一致で拒否を叫んでいる。

「ひっ、ひぃいいいいぃっ!?」

 六花たちの迫力に逃げ出したい。今すぐ全速力で逃げ出したい。

 でも、くみん先輩に両腕を下敷きにされてしまっているので動けない。

「質問デ~ス。右のハンマーで殴るデスか? 左のハンマーで殴るデスか? 当ててみやがれなのデス」

 凸守の隣では六花も丹生谷も指をバキバキ鳴らしている。3人で攻撃するつもりに違いなかった。

「ひっ、ひと思いに……右でやってくれ!」

 その時また、3人の心の声が聞こえてきた。

 No! NO! NO! NO! NO!

「ひっ、左か?」

 No! NO! NO! NO! NO!

「りょっ、両方なんですかぁ~~っ!?」

 YES! YES! YES! YES! YES!

「もしかして……ヴァニッシュメント・ディス・ワールドですか~~っ!?」

「「「YES! YES! YES!」」」

「爆ぜろっ、リアルっ!」

「弾けろっ、シナプスっ!」

「「「ヴァニッシュメント・ディス・ワールドっ!!」」」

 3人はお怒りを爆発されました。

「ヤレヤレだぜ」

 俺は今回もまた格好付けて返答するのが精々だった。

 俺がリタイヤするのはそれからすぐのことだった。

 

 To Be Continued

 

 

 

 くみん先輩の昼寝道4

 

 五月七日くみんは癒し系少女として広く知られ渡っている。

「マイナスイオンはいいよねぇ~♪」

 くみんはそんな自身の生き方を肯定的に捉えていた。

「勇太くんの腕枕も~モリサマちゃんのおっぱい枕も素敵だよね~」

 そして、どんなに熱い欲望を抱いても天然癒し系としか思われることはなかった。

 割と得な性格だった。

「今日はどんな素敵枕が待っているのかな~?」

 楽しみにしながら部室へと足を運び入れる。

 するとまた、思ってもみない光景に出くわすことになった。

 

「パパ……どうして私を置いて行っちゃうの? ママ……私はここにいるよ。六花は……ここにいるんだよ」

 涙を流しながら魔方陣の上で横ばいになって眠っている六花の姿だった。

 くみんは六花の後ろから抱きつくようにして寝そべった。

「大丈夫、だよ」

 くみんは左手で六花を抱き締めながら右手で彼女の頭を撫で続けた。

 

 

「くみん先輩。六花のお母さんみたいだ」

「マスターのこんな表情を初めて見たのデ~ス」

「何か、絡み辛いわね。2人を踏みつけられない代わりに富樫くんを踏むわね」

「何でそんな結論になるっ!? ぎゃぁああああぁ……あっ♪ 未知なる快感が♪」

「ムムッ! 凸守にも踏ませるのデス。富樫勇太は凸守の足の感触だけ知っていれば良いのデ~ス!」

「ふっ、2人の美少女に顔面を踏まれまくるなんて……ゆっ、ゆっ、ユニバ~~スっ!!」

 

「六花ちゃんには私も勇太くんもデコちゃんもモリサマちゃんもみんな付いているからねぇ~」

 くみんは六花を優しく抱き締め続けながら眠り続けたのだった。

 

 

 了

 

 


 
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