No.521501

ねこねこシンドローム:Introduction

佐倉羽織さん

ここは新丸子とよく似ているけれども新丸子ではない街。街の小さな同人印刷所「ねこのしっぽ」看板娘のねこねえさんとねこいもうとの周りはいつも賑やか。ちょっとほろっとする話しも入っています。
……多分。
佐倉羽織が同人誌印刷会社イメージキャラクターの小説本に挑戦した意欲作。
【コミックマーケット83 1日目にて頒布予定短編集より一編公開します】本篇は頒布物での公開のみになります。ご了承ください。

2012-12-22 16:19:18 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:587   閲覧ユーザー数:585

ねこねこシンドローム:Introduction

一次創作「ねこのしっぽイメージキャラクター」

※作中に登場するプラン/割引等は架空のモノです。

○入稿者の憂鬱

 

今日もいつも通り、お昼から開店予定のねこのしっぽですよ。ねこ姉妹は入稿締め切り予定表を見ていますね。大きなイベントの締め切り日はお客様でごった返しますからね。

「えーと今日は特に締め切り日はなしっと」

ねこねえさん、ほっとします。今日は比較的平和な日になりそうですね

 

と、そのとき。

からんからん

と、音を立てて、入り口から、いつもの宅配便のお兄さんが顔を出しましたよ?いつも夕方くらいに来るのに、今日は珍しいですね。

 

「こんちわー、クール宅配便です!」

お、なんかお仕事関係ではない予感。なにが届いたんでしょう?

 

「あ、それ、わたし」

と、いもうと。

「いもうとちゃん?」

ねこねえは不思議そうに聞き返します。いもうとちゃんはぷぃっとねこ姉さんの方を振り向いて、相変わらず無表情に宣言しました。

「プリン、取り寄せ」

「なんですと!」

あ、ねこねえから集中線が出てる!お蝶婦人の様だ!どれどれ……たしかに有名プリン店取り寄せ限定高級プリンセットですね、これは。そりゃさすがのねこ姉さんもたじろぎますよね。

とか、盛り上がっていないで、とっとと荷物を受け取ってくださいね。お兄さんずっと待ってますよ。

「ここにサインをお願いします」

「ねこねえさん……っと」

「まいどどーもー」

お兄さんお疲れさまでしたー。っていうか夕方には集荷にくる気はしますけれど。っていうか、ねこねえさんって有効な本名だったんですね。さすが新丸子によく似たどこかの街。

 

というわけで、受付カウンターには小降りの宅配箱が残りました。

「いもうとちゃん、これ何個入りなの?冷蔵庫にこんなには入らないよ?」

まあ、事務所の冷蔵庫、中身のほとんどはねこねえのおやつなんですけれどね……。って、いもうとさん、その場でベリベリ梱包あけちゃだめでしょ!ここ受付カウンターなんですから。せめて事務机に移動してからですね……。

「大丈夫。半分は今すぐ食べる」

半分はって、これ三六個入りじゃないですかヤダー。

「そうなんだ、ははは……って、このプリン、ストローがついてる?」

お、めざとくねこねえが見つけましたね。

「ストローですうために開発された特別なプリン」

「……世の中進みすぎて、おねえちゃんにはついていけないわ……」

天の声にもついていけません。

「特別にねこねえにもあげる」

「あら、珍しい。ありがとう」

本当に珍しいです。買収するでもなくプリンを分けるだなんて。それだけテンションがあがってるんでしょう……っていうか、受付カウンターで食べるのはだなあ……。

「でもなんかうれしいようなそうでもないような不思議な気分ね……ってスプーンはなくて、ストローしかないのね、このプリン……」

「当たり前。吸うプリンだから」

そりゃ取り寄せじゃないと手に入らないかもですね。っていうか売ってるのかよ、吸うプリン。っていうか、カウンターで食うなよ、ねこねえも。

「ではいただき……ぶちゅーーーーーー」

「ぶちゅーーーーーーーーーーーーーー」

「ぶちゅちゅーーーーーーーーーーーー」

「ぶちゅちゅちゅーーーーーーーーずず」

 

からんからん

 

「すみません、入校お願いしま、うぉあ?」

「……ずず」

ほら、お客さん引いてるよ、引いちゃってるよ……。

あわててプリンを一つ吸いきって、梱包箱をとりあえず事務卓に移して、やっと受け付け業務開始です。

「ねこねえさん、プリンをストローで食べる人だったんですね」

お客さんが関心半分驚き半分で話題を降ります。天の声だって入校にいったらカウンターで仲良くプリン吸ってる女の子がいたら驚きますけどね。感心どころではなく。

「え?!いえ、これは、その、ねこいもうとが……」

「人のせいにするのよくない」

「えええ?」

あっさりいもうとさんに裏切られました。あ、でもお客さんは幸いなことに好感を持ったようですよ。

「いえいえ、かわいいですよ。惚れ直しました」

惚れ直したって……。まあ、ねこのしっぽのアイドル窓口嬢ですが。

「惚れ直しただなんて!きゃきゃっ///」

おまえも喜ぶなよ。

「ねこねえ、仕事しろ」

まったくだ。

「こほん。そうでした。まずは、メディアはこれですね。確認させていただいますね。いもうとちゃん、おねがい」

「ガッテン」

今日は確認オペレーター担当のいもうとさんにメディアを渡しますよ。

「あ、申込書も事前に書いてきました」

さすがお客さんも用意がいいですね。

「では、確認の間に申し込み内容を確認させていただきます」

「はい」

 

 

「確認は以上です。データーの確認が終わるまで少々おまちください」

「はい、ありがとうございます」

お客さん、ちょっとほっとしてます。気をつけてても記載漏れとかあるんですよね。え?それは天の声だけ?そうかなあ……。

あ、ねこねえ、雑談モードに入りましたよ。お客様をただお待たせしないのはいい心がけですよね。好感度アップです。

「こちらの作品、好きなんですか?」

「あ、はい」

「私も好きなんですよ。なんだか心がほわっとしますよね」

魔法少女ものですからね。一次創作は。

「……えっと、はい、ははは……」

なんか、こう、もやもやした反応ですね。まあお客さんが持ち込んだ二次創作は……。

「○手○辱本」

「え、いもうとちゃんなんか言った?」

「言ってない」

「え、だっていま触○陵○本って……」

「言ってない」

「んー、空耳かな?」

といいつつ、ねこねえ、『私気になります!』モードに秒読みですよ。っとそこであわててお客さんが話題そらしです。

「えっとえっと、あの、えっと、ちかみちゃんかわいいですよね!僕も大好きなんですよ!」

「お客様、なにをあわててらっしゃるんですか?」

ねこねえ……天然だからしょうがないけど、ざくざく切り込みますね。

「確かにいっぱい。アレで」

「アレ?」

アレだよアレ。アレまみれだよ。

「あーあーあー、ちかみちゃんツンデレで、以外とひづきちゃんといいコンビですよね!」

お客様は何とか話題を逸らそうとがんばってます。っていうか、同人印刷所なんだからそんなごまかさなくてもいいと思うんですけどね。

「それで、ひづ×ちか」

いもうと、カップリングを暴露。

「ひづ×ちかいいですよねー」

「え、え、ええと」

っていうか、カップリングを聞いてねこねえの目の色が変わったような……。おろおろするお客様を置き去りにして、語り始めましたよ、この娘は……。

「最初の一クールの、ちかみちゃんが友達になりたいのに意地張ってつんつんしてるのがまたほわほわしますよね。あ、でも、ひづ×はお もけっこういいですよ。幼稚園のころからの親友ってあこがれますよね、あ、四話のエピソードの……」

「あ、あの、ねこねえさん?」

「ねこねえは語り始めると止まらなくなるので気にしないで」

お客さん、ねこねえさんに語りかけますが、すでに自分の世界にトリップしているので全く反応がありません。いや、反応はあるな。演説が止まらないと言うべきか……。

「あ、そうですか……」

お客様、本日二回目のどん引き。と、そのとき、お客様の袖口を、いもうとちゃんが引っ張って、声をかけます。

「それよりお客様。八ページ目のケシが足りない」

「あれ、そうですか。作業ぬけかな……って!君何歳ですか!」

ナイスなノリつっこみですね。まあ、いもうとちゃん、ロリな容姿ですからね……。

「一五」

そうです、一五歳ですよ。

「なぜその年で入校データチェックを!」

「わたしはもう大人だから大丈夫」

そうなんだよね。

「え?ああ、この小説の登場人物は一八歳以上だよ、お兄ちゃん!ってやつですね!」

いやそれはエアコン壊れゲーのやりすぎでは?

「ちがう、歳はちゃんと15」

お客さんは理解できずに、腕を組んでうなり始めましたよ?

「うーーん?」

「ねこ人間だから人間とは成人年齢が違う」

まあ、いもうとちゃんはストレートに答えますよね。そうなんです。ねこの人なんで、計算が違うんですね。

「え、そうなの?っていうか人間で言うと大体いくつなの?」

まあ聞きたくなるよね。この流れだとふつう。

「概算では人の年齢とねこの人間換算年齢を足して二で割った値」

「ねこのの人間換算年齢といわれても……」

そうそう。普通の人はそんなの知らないって。

「一五年いきると九〇歳相当」

まあ、実は計算法は諸説あるんですけどね。とりあえず、この作品ではこの換算で進めますよー。

「え?」

お客さん、思いの外大きな数字がでて来てビビってますね。

「九〇歳相当」

大事なことなので二回言いました。さあ、二つを足して二で割ってみよう!

「は、はは、そうなんだ。四〇越えなんだ。全く問題ないぐらいにものすごい年上だね……ってちょっと待って?待って?待って?ねこねえさんも同じ計算なの?」

いいところに気がつきました。

「もちろん」

「……」

お客さんはおそるおそる、ねこ姉さんの方に顔を向けますよ。ああ、まだ自分の世界に入ったままのねこ姉さん。演説は続いているようです。

「…………で、一七話でひづきちゃんがユンと喧嘩して家を飛び出したときに、秘密の場所を知っていて一番初めにに駆けつけたのがはおりちゃんなのが私キュンキュンしちゃいまして……」

お客さんは思いきって大きな声で話しかけます。

「あ、あの、盛り上がっているところ申し訳ありません」

あ、ねこ姉さんが気がついて、こちらを向きました。お客さんは続けます。

「女性に年齢を聞くのはなんなんですが、ねこねえさんはおいくつですか」

「え?年齢ですか?一九ですけど?」

「一九年は一〇二歳」

すかさず、補足を入れるいもうと。さあ計算してみましょうかね。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー」

あああ、耐えきれなかったようですね。まあ、あこがれのアイドルですからねぇ……同情しますよ、まったく。あ、倒れた。

「お客様、お客様どうなさいました!しっかりしてください、お客様!お客様ぁぁぁ」

白目むいてる……。だいぶショックだったみたいだな……。

ねこねえといもうとちゃんは、意気消沈したお客様を何とか送り出して、

一息ついたところですよ。

「いやはや、今日の最初のお客様は大変だったね」

あんまり口調は大変そうじゃないですけどね、ねこねえ。

「ぜんぜん肝が据わってない。年の差なんて関係ないぐらいの勢いが必要」

新しいプリンのふたをぱっかんとあけていもうとちゃんがつぶやいてます。

「え?年の差?」

ああ、ねこねえは自覚がないのでアレですよね。

「プリンうめぇ」

「またそうやってごまかすぅ。いもうとちゃんお仕事中にプリン食べちゃだめだよー」

ねこねえ怒り顔。さすが年長者ですね。天の声もお仕事中、適度な休憩は必要だと思いますよ、でも、いもうとさんは常にプリン吸ってますからね。喫プリン所とか作った方がいいんじゃないかってくらいに吸ってますからね……。

「やむをえない、これ口止め料」

あ、それはねこねえの好物!

「わーい、バームクーヘンだ!っじゃなくてぇ!」

一応最後取り繕ってますけど、年長者の威厳まつるぶれですよ。

「といいつつすでに、ねこねえバームクーヘンの皮をはがしてる」

そうそう。っていうかバームクーヘンむいて食べる人だったんですね、ねこねえ。

「わ、わ、無意識に!」

無意識かよ!

「ニヤソ」

「あうう、これで私も共犯に……」

といいつつ、うれしそうですけどね、ねこねえ。

 

そんな感じで二人がばたばたやっているときですよ。からんからんと音とがして、本日二人目のお客様ですよ、早くご挨拶ご挨拶。

 

「いらっしゃいませ……!」

と、事務席から立ち上がって窓口の方を見た瞬間、ねこねえ、びっくりして引っ込んじゃいました。

「いもうとちゃん大変だ!伝説の作家Aが!」

「ねこねえおちつけ」

伝説の作家Aっていうのは、コミコミマーケット外周常連、会場直後には待機列が東館を取り巻き、新刊既刊、お詫びペーパーすら即時完売。書店委託は、あまりのオーダーの集中でシステムダウンをおこしたという。別名『コミコミの完売を願いに契約した永遠の魔法少女』。魔法少女っていうぐらいですから女性ですよね。童顔だけど(ぴー)歳ですよ。あ、ジャンルは男性成人ね。

「あああ、私の対応で、私の対応で、印刷依頼が来るかどうかが決まっちゃう!決まっちゃう!」

「ねこねえ、おちつけ、接客しろ」

そうですよ。おろおろしてたって、作家Aさん帰っちゃいますよ。

「あのーだれかいませんかぁ?」

ほら、しびれを切らして呼んでますよ?

「はっ!わ、わかった、行ってくる」

決死の表情のねこねえ……。いや別にとって食われる訳ではないと思うけど……。

 

「い、いらっしゃいませ。こちらにお座りください。きょ、今日はご入稿ですか?」

作家A様。ご着席。

「ん、今日は本の仕様の相談と見積もりを」

(やっぱり!やっぱり相見積もりなんだわ!比べられちゃうんだわ!がんばれ!がんばれ私!)

いや、ねこねえががんばっても、結局プランに沿った提案しかできないけどな。

「えっと大体どんな感じの本をお考えですか?」

そうそう、それが大事よ。

「版形はB5、ページは60。とりあえず部数は六〇〇〇部。遊び紙をグッピーラップ前のみ、表紙に銀箔押し、ぐらいで良いかな?」

おお、魔術の詠唱のようにすらすらと!さすが魔法少女。

「それでしたら、ボスねこパック、遊び紙、箔押し追加になりますね」

お、まけじとコースを即時提案。いいねいいね。

「そのコースだといくらぐらいになるの」

「ええと、大体七〇万ぐらいです」

作家A様、微妙な表情。

「やっぱ、そうなるかぁ。もう一声割り引けないかなあ」

ねこねえ、明らかに動揺してるぞ。落ち着け落ち着け。フェアとか思い出せ。

(え、どうしよどうしよ、うわ、何だっけ今のフェアって何だっけ?)

だめだ、ねこねえパニック。もうおしまいか!

 

と、

そのとき!

 

事務所の席からすっくと立って、窓口に現れる姿が一人!

「お客様、ご入稿予定はいつ頃ですか?」

いつものぶっきらぼうな言葉遣いではなく、きちんと接客用語じゃないですか、いもうとさん!

「いもうとちゃん!」

ねこねえも驚いていますよ!

「入稿?んー、来週頭ぐらいかなぁ」

「差し支えなければどんな感じの原稿かお聞かせいただいてもいいですか?」

押しますね。

「他社で刷った本の再録に加筆の予定」

「加筆量は何割くらいですか?」

「一、二割ぐらいになるかなあ」

いま、いもうとちゃんが、にやっとほくそ笑みましたよみなさん!

「来週頭と言うことは、コミコミマーケット合わせですか?」

「うん、そうそう。コミコミは並ぶからさ。個別に再版かけないで、値段抑えたまとめ本でだしたいんだよ。個別本の在庫は書店から取り寄せるし」

「でしたら、再録割を今やっておりまして、全ページ弊社仕様のデータで入稿していただく必要はありますが、こちらですとセット料金の四〇%引きになります」

淀みのない提案!

「おお、安いね」

作家A様も目の色が変わった!

というわけで、一通り説明が終わって、見積もりを出したところでいったん持ち帰って検討になりました。好感触ですよ。

 

ねこねえで出口でお見送りです。

「ありがとうございました。ご検討よろしくお願いします」

深々と頭を下げますよ。作家Aは駅の方に歩いていって、見えなくなりました。

 

ねこねえ、すっと息を吐いて、あわてて入り口を開け、事務机に戻ります。毛が逆立つほど大興奮ですよ!

「いもうとちゃんすごいね!びっくりだね!って、梱包箱に入って寝てる!」

いもうとちゃんは手直にあった梱包箱の中で体を丸めてうとうとしています。

「……今日の分のやる気全部使った」

半分夢うつつですね、これは。

「え!まだ一四時なのに……。でもいっか。ありがと。助かったよ、いもうとちゃん」

ねこねえさんがお礼を言っている間に、いもうとさんはすっかり眠りに入ってしまいました。

「Zzzz……」

かわいい寝息のいもうとさんに、そっとブランケットを掛けて、自分は事務処理に戻るねこねえでした。あと営業時間は五時間。まあ、一人でも何とかなるでしょう。今日は締め切り無い日だしね……。

いもうとさん、おつかれさまでした。

 

【他の収録短編は頒布版にて】

 

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コミックマーケット83 1日目(29日) 東5ホール ハ13a 「マドカミ町奇譚」にて頒布します。


 
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