No.517950

魔法少女リリカルなのはStrikerS00(仮)--25 過去へ--

ケイさん

再び魔法少女の世界へ降り立ったガンダムマイスター刹那・F・セイエイ。刹那の説得によりなのははティアナと話し合う決意をする。それは過去への誘い。魔法少女リリカルなのはA's00~とある日常~(仮)の設定を踏まえたクロスオーバー作品です。読みづらい、誤字脱字等の至らないところが多々あると思います。作者の原作知識は、それほど高くありません。また、オリジナル設定が含まれておりますので、原作を大切にされている方はご注意ください。

2012-12-13 00:17:29 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:15315   閲覧ユーザー数:14115

やっと、更新できました。

本編13話目です。

--過去へ--

 

なのはが落ち着いてから、刹那達は一度隊舎へと戻った。

隊舎へ戻り、刹那はデバイスルームへと向かった。

事前に調整を行っていたとはいえ、実際に起動させ戦闘行為を行ったのは初めてだった。

そのため、エクシアへの影響を考慮して状態確認を行うためだ。

デバイスルームへ向かう刹那にフェイトが「一緒に行く」と言った。

刹那は「好きにすればいい」と言って、デバイスルームへ歩き出し、フェイトはその後を静かに追った。

一方、なのはは医務室を訪れた。

自分が撃墜したティアナの様子を見る為に。

扉をノックすると「は~い」と明るい声が聞こえた。

機動六課の医療担当にして守護騎士の一人シャマル。

扉を開けると、陸士隊の制服の上に白衣を着たシャマルが椅子に座ったままなのはの方を向いた。

「ティアナの様子を見に来たの?」

「はい」

なのはは医務室に入ると、カーテンの閉まっている一番奥のスペースへ歩みを進める。

するとカーテンが少し開き、そこからスバルが出て来た。

スバルはまだ防護服(バリアジャケット)を解除していなかった。

「なのはさん。……あの……」

スバルは俯いて、何とか言葉を絞り出す。

「ごめんね」

「え?」

なのはが突然謝ったため、スバルは勢いよく顔を上げた。

「怖い思いをさせちゃった」

「そ、そんなこと。……なのはさんが謝ることなんて!」

スバルが声を上げる。

「スバル」

シャマルが人差し指を唇に当てた。

寝ているティアナが目を覚まさない様に静かにするように促した。

「シャマルさん」

「ティアナに外傷はないわ、寝ているだけ。ここ最近、きちんと休んでいなかったのかもしれないわね」

「はい。私の訓練以外にも自主訓練をしていたみたいです。……そうでしょ?」

なのはがスバルの方を向いた。

「……はい。でも、どうして……」

俯いて、スバルは小さく答えた。

「刹那君が教えてくれたんだよ」

「刹那さんが?」

スバルの問いになのはが肯いた。

「私は知らなかったんだけどね。刹那君はああ見えて、皆を心配してくれているんだね」

私よりもよっぽども先生らしいかも。

なのはがそんな事を考えているとシャマルが声をかけた。

「私が見ているからなのはちゃんとスバルは戻って少し休むといいわ。ティアナが目を覚ましたら連絡するから」

「お願いします。行こう、スバル」

「はい……」

なのははスバルを伴って、医務室を後にした。

 

廊下を歩くなのはとスバル。

先を歩くなのは背中を見つめがら、スバルが躊躇いがちに話しかけた。

「あの……なのはさん……」

スバルの声になのはが立ち止まり振り返った。

その瞬間、スバルが体を硬くした。

怒られると思ったのだろう。

しかし、なのは微笑んでいた。

「とりあえず、防護服(ジャケット)を解除してシャワーを浴びてくるといいよ」

「え……」

「制服に着替えたら、事務仕事ね」

「あの……」

「お話はティアナの目が覚めたらしよう?……ね?」

「……はい。わかりました」

スバルは一礼して、シャワールームへ向かって行った。

 

デバイスルームでモニターを見つめながら刹那はパネルを叩いていた。

「どうだ?」

《……問題ありません。全て許容範囲内ですから自己修復で大丈夫です》

「そうか」

エクシアとの会話を終えたのを見計らって、フェイトが刹那に声をかけた。

「刹那」

「なんだ?」

「えっと……」

「?」

「なのはとの模擬戦の時に送られてきたデータ。内容はよくわからなかったんだけど、GNソードⅡって文字が見えて……その、やっぱり……」

躊躇(ためら)いがちに聞いてきたフェイトの様子を見る限り、本来聞きたい質問ではないと刹那は思った。

それでも聞かれた以上は、答えたられる範囲で答える。

「……名前が示すとおりだ。GNソードの発展形だな。刀身の小型化により間合いは狭まるが小回りは利く。二振りにすることで、片方のみをソードモードにしておけば、懐に飛び込まれても接近戦にも対応しやすい」

「そう……」

「もう、いいのか?」

「……うん。私、仕事に戻るね」

「ああ」

デバイスルームを退室するフェイトの背中を見届けて、刹那は再びモニターに向き直った。

《マスター、フェイトさんは……》

「わかっている」

フェイトが聞きたいこと。

それは、自分のこと。

エクシアのこと。

その全て。

 

「目が覚めたようね」

「……シャマル先生。私は……」

「模擬戦でなのはちゃんに撃墜されて、今までずっと眠っていたわ」

体を起こして窓の外を見たことで、まだ少しまどろみの中にいる意識が覚醒していく。

ティアナが目を覚ましたのは日が沈んだ――午後7時を過ぎた頃だった。

「夜……」

「疲れが溜まっていたのよ。ちゃんと休んでいなかったんでしょ?」

「はい。……スバルに聞いたんですか?」

「刹那君よ」

「え?」

意外な人物の名前が出てきたため、ティアナは勢いよくシャマルの顔を見た。

「意外? そう思うのもわかる気がするけど事実よ」

そう言って、シャマルはニッコリ微笑んだ。

「はい。スバルが持って来てくれた着替えね」

ティアナに差し出したの陸士隊の制服。

制服を受け取り、視線を落とすとティアナの顔が少し赤くなった。

今のティアナは訓練時に着るシャツと下着だけだった。

「あ、ごめんなさいね。申し訳ないとは思ったのだけれど、楽な格好の方が寝やすいし疲れもとれるから」

「い、いえ」

直ぐに冷静になりティアナは着替え始めた。

シャマルはティアナに背を向けて自分のデスクへ向かい連絡を入れ始めた。

きっと、なのはさんのところだ。

シャマルの会話は聞こえないが、ティアナはそう思った。

 

ティアナが着替えを済ませてベッドに腰掛けていると医務室の扉が開いた。

そこに立っていたのは、ティアナが思ったとおりの人物。

航空戦技教導隊の白い制服に身を包んだなのはだった。

ティナナがベッドから降りて、ゆっくりとなのはに向かう。

「大丈夫?」

「はい」

「じゃあ、ちょっと一緒に来てもらえるかな?」

「はい。シャマル先生、ありがとうございました」

 

廊下を歩きながらなのはが後ろを歩くティアナの方を見て声をかけた。

「ティアナ、お腹減ってない?」

「え? あ、少し……」

「それじゃあ、食堂でお夕飯にしよっか。私もまだだから一緒に食べよう?」

「……はい」

ティアナの胸中は複雑だった。

ホテルでの戦闘の後、なのはには二度と無茶なことはしないと約束をし、それを破って模擬戦で特攻紛いの攻撃。

なのはの言葉を無視して更に戦闘を継続しようとして撃墜。

怒っているはず。

失望しているはず。

咎めや苦言がティアナを待っていると思っていた。

しかし、なのは優しい。

あれから、一切自分を責めてこない。

どうして……。

食事をしながらティアナの思考はそれだけが支配していた。

 

夕食を終えて、再びなのはさんの後をついて行く形で通路を歩く。

向かった先は会議室。

部屋の中央に長方形の机が一つ。

その周りに椅子が10脚。

スバル、エリオ、キャロの三人は席に着いていた。

それに、刹那さん。

スバルが立ち上がって、心配そうな表情で歩み寄って来た。

「ティア……」

スバルは私の名前を呼ぶだけだった。

多分、大丈夫?とか言いたいのかもしれないけど……。

それが適切な言葉なのかわからないから、それ以上は言えないんだと思う。

少しだけ表情を緩めてスバルに小さく肯いた。

「とりあえず、座って」

「「はい」」

なのはさんに促されて、空いている席に座る。

私達が席に着いたことを確認する様に、なのはさんは一度見渡してから目を閉じて話し始めた。

「皆に集まってもらったのは、私の過去について話しておこうと思ったの」

なのはさんの過去?

私と同じことを思ったのか、スバル達が顔を見合わせた。

なのはさんが空間パネルを操作すると、テーブル中央にモニターが現れる。

そこに映し出されたのは一人の少女。

栗色の髪と白い服……鞄を背負っているところから学校の制服だと思う。

「この女の子……」

キャロが私の代弁をしてくれた。

そう、面影がある。

私達を指導してくれている目の前の人に。

「これは十年前の私。まだ、魔法に出会う前の」

なのはさんの言葉に私達が一斉になのはさんの方を向く。

「前に少しだけ話したけど、私が魔法と出会ったのは偶然だった……」

なのはさんは、モニターに映し出される映像とともに話をしてくれた。

魔法との出会いといきなりの実戦。

ジュエルシードと呼ばれる古代遺失物(ロストロギア)を巡るフェイトさんとの戦い。

イメージトレーニングと実戦を繰り返して……集束魔法の習得と使用。

約半年後には、練習中にヴィータ副隊長に襲撃され撃墜未遂。

限界を超えるカートリッジシステムの使用。

闇の書の防衛プログラムとの死闘。

どれも9歳の女の子には過酷すぎる。

正直、目を背けたくなるような内容だった。

そして……

「ある日、私はヴィータ副隊長と任務に出たの。その任務中、正体不明の敵に襲われて……撃墜された」

撃墜された。

あの(・・)なのはさんが……。

耳を疑いたくなるような言葉とは裏腹に、映像は凄惨なものだった。

なのはさんの愛機である(レイジングハート)は壊れ、雪の積もった白い大地は血液で赤く染まっていた。

病院に運ばれたなのはさんには、酸素吸入機が取り付けられているほどの重傷。

重体という表現の方が合っているかもしれない。

「無理をして……無茶をして、その結果がこれ。お医者さんからは普通に立つことすら出来ないかもしなれいって言われた」

「!!」

「でも諦めることが出来なくて……リハビリは凄く大変だったけど、今はこうしていられる」

言葉が見つからない。

何も言えない。

私のしていたことは……。

「話が脱線しちゃったけど……」

なのはさんはモニターを閉じて、もう一度私達を見渡した。

「無茶をすると危ないってこと」

 

私の話を聞いた皆は押し黙って俯いてしまった。

当然だよね。

誰も人が傷ついた姿なんか見たくないし、見たあと反応に困るよね。

でも、ただ一人だけ私を見据えている人がいた。

その人の視線に答えるように、その人に視線を合わせた。

これで良いんだよね。

刹那君。

 

「私の話はこれでお終いなんだけど……」

なのはが一旦話しを区切ったところで通信が入った。

先程までと同じ様にテーブルに空間モニターが開く。

シャーリーだった。

『会議中失礼します』

「どうかしたの?」

『海上にガジェットⅡ型が現れました。ただ、レリックの反応は確認されていません』

「レリックが無いのにガジェットが?」

おかしい。

ガジェットはレリックやそれに似た反応を持つものに集まるということだった。

ならば……。

『部隊長に代わります』

画面が切り替わり、はやてが映し出される。

「部隊長はどう思いますか?」

『海上で旋回飛行だけをしているところを見ると、性能実験という線が濃厚やね。周辺に被害が出ておらへんから無視することも可能やけど……』

「被害が出てからだと遅い……ですね?」

『そ、なのは隊長。出動をお願いします』

「了解」

立ち上がって、軍隊式の敬礼を行うなのは。

モニターが閉じるとFW(フォワード)の4人も立ち上がる。

「ガジェットⅡ型が相手だから、皆はこっちで待機ね」

「はい」

スバルが力なく答える。

「俺も行こう」

「刹那君」

「戦力は多い方がいいだろう?」

「うん。お願い」

 

隊舎のヘリポートにはフェイトとシグナム、ヴィータの3人が既に集まっていた。

「お前も出るのか?」

「ああ。早めに叩いた方がいいだろう」

シグナムの問いに刹那が簡潔に答える。

「なら、早くいこうぜ」

ヴィータが促し、出撃するメンバーが肯く。

ヘリに乗り込む前になのはが一度立ち止まった。

なのはが振り向いた先には、FW4人が立っていた。

待機命令が出たといっても隊長達の見送りに来たようだった。

「ティアナ」

「は、はい」

突然なのはに声をかけられて、ティアナは慌てて返事をした。

「直ぐに戻ってくるから、またお話しよう?」

「……はい。お気をつけて」

「ありがとう」

ティアナの言葉に満足したのか、なのはは微笑んだ。

 

「話したのか?」

なのはの隣に座っていたヴィータが問いかけた。

「うん。話さないと駄目だと思ったから」

「そっか」

「刹那も聞いたの?」

「ああ」

フェイトも刹那に問いかけた。

「なのはが基本を繰り返し教える理由に確信が持てた。そして、山岳地帯で俺が一人で前に出た時に不安そうにした意味もな」

「あう」

刹那の言葉になのはが少し顔を赤らめた。

「刹那が帰ってから二年後、なのはは大怪我をした。だから……」

「自分と同じ様な辛い思いをしてほしくない……か」

「そうだね」

フェイトの言葉を引き継いだ刹那になのはが肯いた。

暫くヘリの中が静寂を包んだ。

それを破ったのはヴァイスの通信だった。

『もうすぐポイントに到着しますぜ』

「出るか」

「そうだな」

ヴァイスの言葉を受けてシグナムが立ち上がりそれに続く。

「刹那、あの状態は……」

フェイトが言った言葉の意味は【ダブルオー】を意味する。

しかし……。

「ガジェットの性能実験だけとは思っていない。今までどおり、エクシアで行く」

ジェイル・スカリエッティが背後にいるのであれば、こちらのデータ収集も目的のはず。

まだ、ダブルオーを見せるわけにはいかない。

「この戦力ならエクシアで十分だ」

「何の話だ?」

ダブルオーを見ていないシグナムが不思議そうな顔をした。

「あ~、シグナムは知らないんだったな」

ヴィータが後頭部を掻いてから、どうしたものかと難しそうな顔をした。

詳しく知らないから説明が出来ないというのもあるだろうが、ダブルオーのことをシグナムが知れば嬉々として模擬戦を申し出る可能性が高いからだ。

「近いうちに話す」

ヘリの後部ハッチが開き、エクシアを身に纏う。

「ガンダムエクシア、刹那・F・セイエイ。目標を駆逐する」

先陣を切って、夜空を飛翔する。

 

「ほう。改良したガジェットは以前と比較にならないほどのスピードだというのに、それをものともせず正確に撃ち落とすとは、やはり彼は優秀なようだ」

海上で遊ばせている(・・・・・・)ガジェットが刹那の射撃によって破壊される映像を見て、白衣を着た男――ジェイル・スカリエッティは口の端を持ち上げた。

刹那達が考えているとおり、スカリエッティの狙いは機動六課の戦闘能力の収集。

「今日は剣士も一緒か」

シグナムが長剣を振るう姿を見て、ますます口元が歪む。

「ただ斬るだけではデータ収集にはならないが……まあいい、向こうもこちらの意図には気付いているだろうしね」

と、別のモニターが開いた。

そこに映しだされた人物を見て、少し表情を和らげた。

「おや、君の方から連絡をくれるとは……どうかしたのかな? ルーテシア」

フードを深く被った少女。ルーテシアだった。

『ドクターのおもちゃが壊されてるよ。いいの?』

「ああ、そのことかね。いいんだよ、改良型の性能テストとデータ収集が目的だからね。それに、ガジェットなどいくらでも造ることが出来る」

『レリックじゃないんだね……』

「ああ、すまないね。それより、君一人かね?」

『うん。ゼストもアギトも今は別行動』

「なるほど」

『ドクター』

「何かな?」

『この前は、おいしいお菓子とお茶をありがとう』

「無理なお願いを聞いてくれたささやかな礼だ。気にしないでくれたまえ」

『それじゃあ、ドクター。ご機嫌よう』

「ああ」

モニターが閉じると、スカリエッティが俯いてくつくつと笑い出した。

「やはり、素晴らしい」

顔を上げると、視線の先にはガジェットが全機撃破されたモニターが映っていた。

 

ガジェットを全て撃破し、六課の隊舎へと戻って来た刹那達。

ヴァイスがヘリのエンジンを切ったことを確認して、隊舎の中へ入ろうとした時、FWの4人が扉を開けて出てきた。

「「お疲れさまでした」」

「みんな?」

「自室じゃなかったの?」

なのはとフェイトがFW4人に歩み寄った。

「ロビーで待機していました」

「みなさんが帰って来るとシャーリーさんから教えていただいて」

「それで、皆で出迎えをと」

エリオ、キャロ、スバルが言葉を繋いでいく。

「そう……ありがとう」

部下達の労いの言葉と気遣いにフェイトが微笑んだ。

フェイトの隣に立ったなのはがティアナに声をかけた。

「ティアナ、少しお話しよっか」

「はい」

「他の皆はもう休んでいいよ」

「「はい」」

なのはとFWが隊舎の中へ入ったのを見送ってから、シグナムが口を開いた。

「私はヴィータから話しを聞いただけだが……高町は少々甘いな」

「シグナム」

シグナムの言葉にフェイトが困ったような顔をした。

なのはとティアナは上司と部下。

上司の言葉を無視した模擬戦での無茶な行動に対しての制裁措置のことを言っていた。

シグナムの言いたいことはわかる。

しかし……。

「言葉で解決出来るのであれば、それに越したことはない。尤も組織の人間として、上下関係のあるお前達には難しい問題だろうがな」

刹那の言葉にその場に残っていた全員が刹那を見ていた。

 

なのはと夜風に当たりながら海沿いの道路を歩いていた。

少し歩いてから道路に腰を下ろして足を投げ出す。

夜の闇で深く暗い海は少し怖いけど、海面は穏やかで静かだった。

「あの、なのはさん」

「うん?」

「すみませんでした」

「……うん。わかってくれて良かった」

なのはさんが微笑んだ。

「でも、少しだけお説教ね」

そう言うと、なのはさんは前を向いた。

「『強くなりたい』とか『力が欲しい』とかそういう気持ちはわかるよ。特にティアナは、その気持ちが強いよね。『自分は凡人だから』って……」

なのはさんの言うとおり、私は凡人。

なのはさんの言葉に俯くしか出来なかった。

そんな私の心情を汲み取ったのか「でもね」となのはさんは続けた。

「でもね、それは間違い。ティアナは勿論、スバルもエリオもキャロもまだまだ原石。いきなり何でも出来る人なんていないんだよ」

尤も刹那君はちょっとわからないけどね。となのはさんは小さく笑った。

再びなのはさんが私の方を向く。

「どうしても比較しがちだけど、異なる分野の人と自分を比べても意味がないでしょう?私だって砲撃魔法には自信はあるけど、接近戦じゃフェイトちゃん達には敵わない。自分の得意分野を見つけて、そこを磨き上げて初めて宝石になるんだよ。スバルはクロスレンジ。エリオはスピード。キャロは支援魔法。そして、ティアナは射撃と幻術。みんなでカバーし合って、どんな困難状況でも乗り越えられるチームが理想の形」

「なのはさん……」

「自分の得意分野を蔑ろにして、慣れないことをするから危なっかしくなっちゃう。でも、ティアナの考えは間違ってもいない」

「え?」

「クロスミラージュ、持ってる?」

「はい」

「ちょっと貸してくれる?」

「はい」

上着のポケットから待機(カード)状態のクロスミラージュを取りだしてなのはさんに渡す。

クロスミラージュがカードから銃形態に変わる。

両手に持つと何かを命じた。

「テストモード。リミット・リリース」

《了解》

クロスミラージュがなのはさんの言葉に応じた。

「モードⅡ……命じてみて」

「はい」

クロスミラージュを受け取って腕を伸ばす。

「モードⅡ」

《了解。ダガーモード》

クロスミラージュが光ると、銃身の角度が少し上を向き、銃口から私の魔力光と同じオレンジ色の刃が現れる。

グリップ部分から銃身の下の部分まで輪を形成するように光の刃が繋がる。

「これ……」

それは私が自己訓練で編み出したものと同じだった。

――違う。

同じじゃない(・・・・・・)

「将来、ティアナが執務官になればどうしても個人活動になっちゃうからね。一応、準備だけはしておいたんだ」

「なのはさん」

その言葉に胸が一杯になる。

なのはさんは私の事を……私達の事をこんなにも想ってくれているのに。

それなのに、私は自分のことばかり。

涙が溢れてくる。

「私の教導は基本の繰り返しで地味だから、成果が出てない様に感じて……自分が取り残されているのような感じで……辛くて、苦しかったんだよね」

俯いて泣く私をなのはさんが優しく抱き寄せた。

「ごめんね」

その言葉に顔を上げて、なのはさんを見つめる。

優しくて。

暖かくて。

「なのはさんは悪くないです! 私が!」

「ティアナ……」

「ごめんなさい!」

やっと言えた。

本当に……心からの謝罪。

 

なのはとティアナを身守る影が四つあった。

スバル、エリオ、キャロ、フリード。

ホテルでの攻防戦から今日の模擬戦までのことでなのはとティアナの関係を心配していたために、悪いこととは思いつつも茂みに身を隠して事態を見守っていた。

「盗み聞きとは感心しないな」

「!」

背後から急に声がしたため、スバル達が勢いよく振り返る。

「せ、刹那さん。驚かさないでくださいよ~」

スバルが小声で抗議をしたが、刹那は全く意に介さなかった。

「もういいだろう。自室に戻って休め」

「「……はい」」

「きゅう~」

刹那の反論を言わせない雰囲気に三人と一匹は大人しく寮へと向かった。

刹那はほんの少し視線をなのはとティアナに向けてから踵を返して歩き始めた。

 

刹那は自室に戻らず寮の屋上に居た。

上着を脱いで無造作に手摺に引っ掛けた。

「データの構築はどうだ?」

《完了しています》

「そうか」

ネクタイを緩めて、Yシャツの襟首のボタンを外す。

《しかし、マスター。本当にこれを?》

「必要なことだ」

空を見上げると無数の星々が見える。

軽く目を閉じて、暫く物思いに耽った。

――僕たちは……わかり合う必要がある――

戦友(とも)の言葉が脳裏に蘇る。

十年前に出会った頃から、なのは達は自分を信頼してくれた。

何も話さないにも関わらず。

子供故の純真さか、それとも別の何かがあるのか……。

考えても答えが出るはずもない。

だが、これからもなのは達と共に戦うためにも対話が必要なことは明白だ。

ダブルオーを見せ、なのはに対話の必要性を説いたのは自分だ。

その自分が何一つ対話を成していない。

だから……。

 

シャワーを浴びて休もうと思い、自室に戻ろうと上着を手に取ったところで背後から声をかけられた。

「刹那君」

「なのは、どうした?」

「少し……お話がしたくて。部屋に行ったんだけど居なかったから、レイジングハートにトレースしてもらったんだ」

白い制服を着たなのはが歩み寄ってくる。

「隣……いいかな?」

「ああ」

 

刹那君の了承を得て隣に並ぶ。

手摺に両手を置いて、さっきまで刹那君がしていた様に空を見上げる。

「それで、話というのは?」

ちらりと隣を見ると、私と同じ様に空を見上げていた。

 

「ありがとう」

「?」

何故、礼を言われたのかわからなかった。

「俺は礼を言われる様な事をした覚えはないが?」

「そんな事ないよ。刹那君のおかげで、ティアナときちんと話をすることが出来た」

そのことか。

「元から俺が口を挟むことではなかった。俺がどうこう言わなくとも、お前達ならわかり合えただろう」

「そうかな?」

「ああ」

「そっか」

短い返答だったが、なのはを見ると穏やかな表情をしていた。

視線を感じたのか、なのはがをこちらを向いた。

「でも、やっぱり刹那君のおかげだよ。だから、ありがとう」

正直、面と向かって言われるとどう返答すべきか困った。

軽く溜息だけをすると、なのははクスクスと小さく笑った。

「用はそれだけか?」

「ううん。……刹那君」

「なんだ?」

「私は刹那君のことが知りたい」

「……」

「無理を承知で言っているのはわかってる。刹那君から話してくれるまで待つとも言った。でも、話し合う事でお互いが理解し合えることを刹那君は教えてくれた。だから、私は刹那君のことが知りたい」

真っ直ぐに見据えてくる。

今までとは違った。

視線を逸らさず。

真っ直ぐに……。

「話してほしい刹那君のこと」

「……」

 

暫くお互い黙って、ただ視線を交えるだけだった。

時間にして1分あったかどうか。

でも、酷く長く感じた。

やっぱり無理かな。

そう思った時だった。

「わかった。いいだろう」

刹那君が静かに答えた。

「……本当?」

「ああ」

自分から聞いておいてなんだけど……。

まさか、了承してくれるとは思わなかった。

今日は何が何でも聞くつもりでいたけど、いざ刹那君を前にすると決意が揺らいでしまって、断られたら大人しく引こうと思ってしまった。

でも……。

やっと、聞けるんだ。

知ることができるんだ。

読了お疲れ様でした。

落ち着いてきたとはいえ……まだ忙しいです。

 

さて、今回からは……まぁ、そんなに面白くないです。

色々TVとは違いますが、そこはやはりそのままやっても……ねぇ(^^;

 

シグナム姐さんの鉄拳を省略

別にあのシーンが嫌いというわけではないです。

ただ、この小説では殴らなかったというだけです。

刹那は鉄拳制裁に対して否定的ではないと思います。

ロックオンにも殴られていますし、きっと少年兵時代にも色々あったと思います。

 

では、次回に。


 
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