No.51763

冷たい愛情

ファンディスク、謝々無双の時に投稿した物です。
せっかくの発表できる機会なので、再投稿させて頂きました。

2009-01-12 16:18:06 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:12013   閲覧ユーザー数:8156

 「へぅ~」

 街の通りを、月がゆらゆら揺れながら歩いている。

 赤く染まった頬、潤んだ瞳が俺のせいなら嬉しいんだが……

 「この暑さだしなぁ」

 メイドの仕事とはいえ、この夏の日差しの中、買出しはつらい物があるだろう。しかも結構な大荷物だ。

 俺の隣を歩いている、普段は少しでも気に入らない事があると額をつついて来る詠でさえ、

 「この暑苦しい中、あんたなんかに触ったらもっと暑苦しいわよ」と呟いたきり、黙々と荷物を運んでいる。

 その不機嫌そうな表情は「さっさと仕事を終わらせたい」と、何よりも雄弁に語っていた。

 暑い中、部屋に篭っての書類仕事が嫌だったので抜け出し……もとい、月と詠が心配だったので付き添ってみたが、少し後悔している俺だった。

 手にした木箱がずしりと重い。これ、四十kgはあるよな? 塩や油は必需品として理解できるぞ。でも、メンマが大瓶で二つ入っているのはどういう訳だ?

 「はあ、アイスが恋しいな」

 「あいす? あんた、またどっかで女でも作ったわけ? さすがち●この遣いね」

 思わず漏れた呟きに、途端に噛み付いてくる詠。うん、そのひんやりした目つきは、ちょっとだけ気持ちいいよ。

 「違う違う、アイスというのは、天界にあった冷たいお菓子の事だよ。こんな日に食べると、本当に美味しいんだ」

 「冷たいお菓子ですか?」

 月の目に生気が戻った。なによりも「冷たい」の一言が利いたのだろう。女の子だから「お菓子」にも反応したのかもしれないが。

 アイスクリーム協会のサイトを見て昔の作り方は知っているし、少しアレンジを加えればこの世界でも作れそうな気がする。なにより月が喜んでくれるなら、やってみる価値があるじゃないか。

 「じゃあ、これから三人で作ってみようか?」

 「はい、ご主人様!」

 「ちょっと、なんでボクまで頭数に入ってるのよ? ……そりゃ月がやるなら、やるけどさ」

 本当に嬉しそうな月の笑顔に押し切られ、詠の不機嫌そうな呟きも消えていく。

 月の笑顔を見ているうち、俺のやる気も盛り上がってきた。もっと月を喜ばせたい! 

 それに華淋も「一流の菓子職人には敬意を払うべき」と言っていた。ここで美味しいアイスを作れれば、俺の株も急上昇じゃないか? 「素晴らしいわ、一刀!」そんな台詞を華淋から聞ける機会なんて、そうはないぞ?

 「よし、まずは材料集めだ!」

 夏の日差しよりも熱い俺の叫びが、街中に響いた。

 

 「硝石ですか? ございますが、何にお使いになるんですの?」

 大急ぎで城に戻り、備蓄品に最も詳しいであろう紫苑に質問する。困惑しながらも丁寧に答えてくれる辺りは、さすが紫苑だ。

 「ああ、お菓子作りにちょっとね」

 中国の乾燥地帯では、地表から硝石が採集できると聞いた事がある。案の定、この世界でも火種の一種として硝石は用いられているらしい。ひょっとしたら、人為的に作っているのかもしれないが、その可能性はあえて考えないようにしよう。方法が方法だしね。

 「お菓子」と言った瞬間、ただでさえ不機嫌そうだった愛紗の目が、更に吊り上がったのも見なかった事にしておこう(ガクブル)。

 「そうだ。紫苑なら食品の入手経路にも詳しいかな。牛乳って、どこかで手に入らないか?」

 「牛乳でしたら、近くで知人が牧場を経営していますので、簡単に手に入りますわ」

 え、牧場? この時代の中国人って、牛乳を飲む習慣は無かったんじゃないか? やはり、ここはパラレルワールドなのか? だけど、入手が簡単なのはありがたい。

 「じゃあ、ちょっと紹介状を書いてくれないかな。あと、帰るまでに硝石と卵と塩。水と桃、大小の鍋を二つとヘラを、どこか涼しい部屋に運んでおいてくれると助かる」

 「かしこまりました、ご主人様。少々手狭ではありますが、薬草の保管庫ならご希望に添えると思いますわ」

 「やったぞ、月! 思ったよりも簡単に出来そうだ」

 「はい、ご主人様が私の為に作って下さるお菓子、とても楽しみです。頑張ろうね、詠ちゃん」

 「……あの? ……うん」

 何か納得の行かない素振りの詠だったが、月の笑顔に押されて頷いてしまう。詠は、本当に月の事が大好きなんだな。

 「ほお、侍女を連れてお菓子作りの旅ですか。優雅な事ですね、ご主人様」

 ……マズイ、ちょっと浮かれ過ぎたみたいだ。愛紗の目と声が怖い。

 「ええ、ええ。ご主人様が抜け出された政務の穴を埋めるべく、誰が頑張ったかなど、ご主人様の関心の埒外なのでしょうとも」

 本気でマズイ。めちゃくちゃ怒ってる。なんとかフォローを入れねば。

 「あらあら、愛紗ちゃんてば。ヤキモチはもっと可愛らしく焼かないと、ご主人様に嫌われてしまうわよ」

 「しししし、紫苑! 誰がヤキモチなど! ただ私は、ご主人様に君主としての心構えをだな!」

 でかしたぞ、紫苑! 慌てた愛紗の矛先が紫苑に向かったお陰で、説得の材料が見つかった。

 「待ってくれ、愛紗。俺は何も遊びに行こうというんじゃない。この街をもっと発展させる為に、お菓子が必要なんだ」

 「はあ?」

 「あらあら、そうなんですの?」

 心底分からないという表情の愛紗と対照的に、紫苑は「どんな言い訳を考えられたのか、楽しみですわ」とでも言いたげだ。

 「一つの街の中で経済を活性化させようとしても、それには限界がある。じゃあ、どうすれば良いか。それは他の街から人を呼び込める何かを用意する事だ。お菓子なんて、ぴったりだと思わないか? 人が集まればお金も集まる。それに何より、お菓子のために人が集まるなんて、平和な証じゃないか」

 「う、それは……確かに」

 勢いに負けたのか、頷く愛紗。よし、この機を逃す手は無い。

 「ありがとう、愛紗なら分かってくれると思っていたよ。じゃあ行って来る」

 「いや、ですが、ご主人様?」

 「行ってらっしゃいませ、ご主人様」

 まだ立ち直れていない愛紗と、イタズラっ子に向けるような笑みの紫苑に見送られ、俺たちは牧場へと向かった。

 

 モォ~~~~。

 多くの牛達が、ゆっくり歩き回り草を食んでいる。とてものどかな光景だ。日差しのきつさは相変わらずだが、穏やかな気持ちになれるなぁ。

 「これは太守様。ようこそお越し下さいました」

 出迎えてくれたのは、髭を生やした男性だ。どうやら、この人が紫苑の知り合いの牧場主らしい。

 「この紹介状にもあると思うけど、牛乳を分けて欲しいんだ」

 「ええ、かしこまりました。そうだ、太守様。ご自分で乳をお絞りになるのは如何でしょうか? 当牧場自慢の牛乳、また格別の味がすると思いますが」

 「面白そうだな、やってみようかな」

 きゅっきゅっきゅっ。ブモォ~~~~ッ。

 牛を抑えた牧場主さんにコツを教えてもらい、リズム良く乳を絞る。月の為に牛乳を手に入れていると思うと、これは何物にも変えられない満足感がある。

 「…………」

 「……………………」

 後ろから、じとっとした目で見ている月と詠が気になるが。

 「ど、どうかしたかな?」

 「ご主人様、やっぱり胸は大きいほうがお好きなんですね。牛さんのおっぱい、そんなに楽しそうに揉んでいます」

 「違うわ、月。あいつは胸の大きいのが好きなだけじゃない。獣姦趣味のある変態なのよ」

 悲しそうに自分の(あまりない)胸を押さえる月に、軽蔑しきった眼差しの詠。ちょっと待ってくれ。このままじゃ、俺は変態の烙印を押されてしまう。

 「聞いてくれ、二人とも」

 乳搾りを一時中断して二人の手を取り、じっと目を見つめる。

 「は、はい」

 「なによ?」

 俺は真剣に、正直に、自分の想いを口にした。でなければ二人の心を動かし、偏見を拭い去る事は出来ないだろう。

 「俺は確かに大きい胸が好きだ。でも、月のような控えめな胸も大好きだぞ?」

 「へぅ~」

 「それは単に節操なしって言うのよ、このち●こ野郎!」

 月の悲しそうな表情で心が、詠に蹴られたせいで脚が痛い俺だった。

 ともあれ、こうして新鮮な牛乳が手に入った。

 

 「では、私は失礼させて頂きますわ。頑張ってね、月ちゃん、詠ちゃん」

 月と一緒にいられるように気を遣ったのか、政務が忙しいのか、紫苑は手伝ってくれるつもりはないようだ。俺に一礼すると、静かに部屋を出て行った。

 牛乳と一緒に馬車に載せてもらい城に戻った俺達は、紫苑の手配してくれた部屋でアイス作りを始める事にした。確かに壁際の棚に薬草が積み重ねられていて手狭だが、中央で作業する分には何の支障もない。

 「……って、セキト? 何を咥えているっ!?」

 床に置かれた材料の数々。そのうちの一つである、桃の入った小さな籠をセキトが咥えていた。そもそも、どうやって部屋に入ったんだ?

 「わんっ!?」

 「ま、待て。逃げるな~」

 思わずあげてしまった声に驚き、飛び跳ねるように逃げ出すセキト。籠はしっかり咥えたままというのが、友達の恋に似て食い意地の張った証拠だろう。

 「あ~、もう。なんで面倒ごとばかり増えるのよっ!」

 「詠ちゃん、それよりも早く追いかけないと」

 二人は大慌てで振り返り、駆け出そうとする。だが慌てた為に互いの足を絡ませ、凄い勢いでうつ伏せに転倒してしまう。当然、ふわりと翻るスカート。

 「「きゃあっ」」

 「おおっ!」

 俺はその深奥を見逃さなかった。月は紫のレース付きで、詠は緑のスポーツショーツ。偶然に見えてしまう、普段とは違う下着。俺の興奮は一瞬でMAXゲージだ。

 「へぅ~~」

 「あんたっ! ボク達を視姦してないで、さっさとセキトを追いかけなさいよ!」

 倒れた痛みなのか、下着を見られた恥ずかしさなのか、涙を滲ませる月を置いていくのは心が痛むが、一度見失ってしまえばセキトを捕まえるのは困難だろう。

 「すまん詠! 月のことは頼む!」

 倒れたままの二人に言いつつ、全力疾走。ただでさえ人間と犬の脚力のハンデは埋めがたいというのに、食べ物が絡んだ時のセキトは速度が三割増しだ。その上、セキトが桃を食べてしまわない内に追いつかねばならない。

 つらい競争になりそうな予感がひしひしとした。

 

 「……た、ただいま」

 疲れ果てた体を引き摺り、俺が二人の元へ帰ってきたのは、およそ四十分後の事だった。

 あちこちを走り回り、一度は見失ってしまったセキトを再発見。恋に籠を差し出し、一緒に桃を食べようとしているのを止めたのが、つい先程の事だ。

 食い意地の張った恋も、俺から許可無く持ってきた物だと分かると、すんなり桃を返してくれた。恋に悲しそうな顔を向けられたのが、セキトには何より堪えたようだ。

 「悪いことしたから、ご主人様がお仕置きする」と恋は言っていたが、もう罰を与える必要は無いと判断し、桃を受け取って帰ってきた。

 「お疲れ様でした、ご主人様」

 「うん、本当に疲れたよ」

 見栄を張る余裕も無く、迎えてくれた月に正直に答えてしまう俺。つらそうな様子がない所を見ると、月は転んだ事で怪我はしなかったらしい。桃を取り返すという目的を達成したこともあり、ほっと一安心だ。

 しかし、アイス作りはここからが本番。気合を入れ直さねばならない。桃を詠に手渡して指示を出し、自分の作業へと入る。

 使う調理器具がボウルではなく、中華鍋なのはご愛嬌だ。

 「まず氷水を作ろうか」

 水に硝石を大量に溶かし込む事で、溶解熱により吸熱する。これで氷の完成だ。

 「凄いです、ご主人様。石を入れただけで、水を凍らせちゃいました。まるで仙人様みたいです!」

 驚く月の純粋さが可愛らしい。

 微笑みを浮かべて月に応え、続いてその氷をかち割る。中華鍋の水に浮かべて氷水の出来上がりだ。温度が上がらないよう、塩を入れるのも忘れない。これでアイスを冷凍する環境が整った。

 その中華鍋の上に小さめの鍋を浮かべ、牛乳を注ぐ。牧場から運び出す前に、殺菌は済ませてあるので安心だ。現代で行われている低温殺菌みたいな繊細な事は出来ないから、沸騰させるくらい熱しての殺菌になる。そして自然に冷ましていくことで、牛乳の上に脂分が分離してくる。この脂分が生クリームの代役を果たしてくれるのだ。

 「はい、桃の皮剥きと磨り潰し終わったわよ。ったく、なんでボクがこんな侍女みたいな事を」

 いいタイミングで、詠が頼んでいた作業を終わらせてくれたみたいだ。

 「ありがとう、詠。でも侍女じゃなくて、メイドだぞ。重要な所だから間違えるな?」

 「だから、なんなのよ、メイドって? ……いや、いいわ。なんか聞いたら疲れそうな気がする」

 本当はバニラアイスが作りたかったのだが、誰もバニラの存在を知らず入手が困難と分かった(バニラって、和名もバニラなんだよな)。そこで初球から変化球になってしまうが、季節柄入手しやすい桃でアイスを作る事にした。美味しいアイスを食べてもらうのが目的なんだ。朱里を始めとして桃好きは多いし、かえってこちらの方が喜んでもらえるかもしれない。

 「よし、もうじき完成だぞ」

 仕上げに入る。鍋の中へさらに砂糖、卵、そして詠の磨り潰してくれた桃を入れ、ヘラでじっくりと混ぜ合わせる。冷えて固まるまでは混ぜ続けねばならない。

 「くっ、これは結構力がいるな」

 数人分の量がある粘性の材料を、空気を含ませつつ、同じ速度でかき回し続けるのはかなりの重労働だ。あっという間に汗が噴出し、思わず声を漏らしてしまう。

 「頑張って下さい、ご主人様」

 「男でしょ、力仕事でくらい役に立つ所を見せなさいよ」

 そんな俺に、実に二人らしい応援(?)の声がかかった。

 現代なら、混ぜ合わせるのはミキサーを使えば、固めるのは冷凍庫を使えば済むだろう。でも、この世界にはそんな物は存在しない。何かを成し遂げたいと思うのなら、全て自分の手でしなければならないのだ。

 「月の、為だ、もんな!」

 月に喜んでもらう為と再び気合を入れ直し、冷やしつつ混ぜ合わせる事、数十分。腕が筋肉痛になる直前に、ようやくアイスは完成した。

 

 「やっぱり外は暑いな~」

 庭に卓を持ち出し、作るのに協力してくれた皆でアイスを食べる事にする。本当なら華淋も呼びたい所だが、出来栄えを確認しないうちに呼ぶのは危険だろう。

 恋も誘ったものの「あの桃を使ったなら食べられない」と、断られてしまった。これは俺なりの想像だが、セキトが迷惑をかけた事を反省しているのかもしれない。無口な上にサボリ癖があるせいで誤解されがちだが、恋は決して悪い子じゃない。とても素直な良い子なのだ。

 「……あのね」

 俺に向かい詠が何か言いかけたが、月と愛紗と紫苑は興味深そうにアイスを覗き込んでいる。氷水入り中華鍋に浮かべてあるとはいえ、この熱気ではあっという間に溶けてしまうだろう。

 「すまん、詠。ちょっと待ってくれ、食べ終わったら聞くから」

 不満げだが詠が引き下がってくれたことを確認すると、手早く人数分の小皿にアイスを取り分ける。

 「さあ、溶けないうちに食べてみてくれ」

 「「「「いたただきます」」」」

 木の匙でアイスを口に運ぶ。熱が伝わりにくく、金属ほど硬くない木は、口の中に冷たく硬い感触を残さない。アイスを食べるのには、銀のスプーンより木の匙が向いているかもしれない。

 さて、肝心なのは味だ。現代で食べていたアイスに比べれば、べっとりと粘りが強すぎ、牛乳の臭みも出てしまっている。だが、素材の質は現代とは段違いだ。この桃の甘さと香りの芳醇さは、決して現代では味わえないだろう。なにより、苦労してゼロから自分の手で作り上げたアイスは、甘くて幸せの味がした。

 「はぁ、まさかこの世にこれ程の美味があろうとは」

 「あらあら、これは本当に観光客の呼び込みに使えるかもしれませんわ」

 口に含むなり恍惚の表情を浮かべる愛紗と、驚いたような紫苑。表現の仕方こそ違え、二人とも喜んでくれたようだ。

 「……」

 「…………」

 そこへ行くと、黙り込んでいる二人が気になる。

 「あの、もしかして不味かったかな?」

 「そ、そんな事ありません、ご主人様!」

 「あんたが作ったにしちゃ、上出来の味だから驚いただけよ。べ、別に美味しいなんて思っちゃいないんだからね!」

 二人とも一口ずつ、愛しむように食べていく。月の小さな口がむにゅむにゅ動くのを見て、俺の中でイタズラ心がムクムクと湧き上がって来た。

 「はい、あ~ん!」

 「ええっ?」

 「これは天界での恋人同士の食べ方なんだ。はい、口を開けて~」

 「へぅ~。恋人だなんて、そんな。でも、ご主人様のご命令なら」

 もじもじとしていた月だが、すぐに受け入れてくれた。俺の差し出した匙を、遠慮がちに咥える姿が可愛らしい。ちょっと嬉しそうに見えるのは、俺の気のせいかな。

 紫苑が羨ましそうに、詠と愛紗が睨むように見ているのも気のせいさ。

 「ご馳走様でした。こんなに冷たくて、こんなに美味しい物を食べたのは初めてです。ありがとうございました、ご主人様」

 アイスを食べ終えた月は、本当に嬉しそうだ。

 「月が喜んでくれて、俺も嬉しいよ。今度はまた別の果物で作ろうか」

 こうして俺の冷たい愛情の結晶は、月の笑顔という最高の形で報われるのだった。

 

 「どうしたんだ、詠。こんな所に呼び出して?」

 アイスを食べ終え片付けも済んだ頃、不機嫌そうな詠の手招きに気付いた俺は、庭の隅へとやってきた。

 「……あんた、気付いてないの? 最初から、あいすってのを作った部屋に篭っていれば、避暑になったのよ?」

 「あ!」

 迂闊だった、そんな事にも気付かなかったなんて。

 「月が、あんたと一緒に何か出来るって嬉しそうだったから、指摘しなかったけどね。月の事を想うなら、ちったぁ頭使いなさいよ、このち●こ太守!」

 こうして、詠にひたすら額を突かれる俺だった。

 ……なんて締まらないオチなんだ。

 


 
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