~聖side~
カン!!キン!!ガキン!!
辺りは喧騒に包まれているのに、お互いの声は驚くほどはっきりと聞こえる。
「やれやれ…。せっかく組んだ防御陣形がバラバラじゃないか…。 やったのは、君で間違いないね??」
「…。(コクン)」
「君は、太史慈かな??」
「…。(コクン)」
「じゃあ、悪いんだけど討たせてもらうよ…。」
「…来い。」
走り出し、抜刀しながらの勢いで切りつける。
何も無ければ、これで勝負がつくんだが…。
ジャリジャリジャリ!!!
「っ!!」
やはり、何かで俺の攻撃が防がれている…。
「……次は、こっちん番。 んっ!!」
彼女は俺の刀を弾き飛ばし、拳を振るう。
……ん?? 今、何か違和感が…。
彼女の拳を避けて、その勢いのまま体を回転。
勢いを乗せた一撃が、彼女のがら空きの腹部に迫る。
「もらった!!」
彼女の拳は確かに避けた…が。
ブシュッ!!
「うっ!!」
右肩の辺りが何かで切れ、そこから出血する。
切り口を見れば、まるで鋭い刃物で切ったような跡が……。
「何だと!?」
「ふっ!! はっ!!」
「くそっ!!」
バックステップで何とか彼女の攻撃をかわしきり距離をとる。
「はぁ…いててっ…。やっかいだね…君の武器は…。」
「……。」
「鉄線か…。まさか、それを武器にするとは思わなかったよ…。」
「ん……見破られたん初めてばい…。」
「っ!! その言葉遣い…!!」
「あぁ!! ん~~~死ね!!」
「おっと!! 危ない危ない…。」
先ほどまでと違い、武器が分かっていればそれなりに対処は出来る。
それに何故か焦っているようで、攻撃が単調になって避けやすくなっている。
「死ね死ね死ね~!!!!」
「ひょい、ひょい、ひょいっと!! 武器が分かれば、簡単に避けられるぞ??」
「くそっ!! てぇぇい!!!」
「ほらほら、そんな攻撃じゃ当たらないぞ?? 俺を殺すんだろ??」
「そうやけん。うちん秘密ば知ったからには、生かしておけなか!!」
「秘密って…その言葉遣いの事か…??」
「~~~~っ!!!! また言うてしもた…。もう、あんだば、殺すしかなか!!」
「何でそんなに気にするのかな…。その言葉遣い可愛いのに…。」
「………えっ…!??」
「こんな可愛いのに、何をそんなに卑下してるのか…。」
「かか…可愛いなんて…そんな…。」
太史慈は、顔を真っ赤にして、両手を頬に当てるようにして照れている。そんな姿も可愛くて良いね…。
「さて、もっと君のその言葉を聞いていたかったんだけどね…。今はそうも言ってられそうに無いから、次で終わらせるよ。」
そう言って、腰を落とし、剣を鞘に納めて、居合いの構えを取る。
俺の雰囲気の変化に気付いたのだろう……彼女はさっきまでの顔を直ぐに切り替え、真剣な面持ちでこちらを睨みつける。
二人の間には、数秒の沈黙が流れる。
次の瞬間、二人同時に動き出した。
「はぁぁぁああああああ!!!!!!!」
「うりゃぁぁあああああ!!!!!!!」
ガキン!!!!!!!! ブチッ!!
一瞬の甲高い音の後、何かの切れる音がして、二人の距離が近付き…。
磁刀が、太史慈の首筋に突きつけられた。
「俺の勝ちだ…。」
「……負けた…。」
「悪いな…。 誰かある!!」
「はっ!!」
「この娘を連れて行け!! 但し、大事なお客さんだ。失礼のないように丁寧にな。」
「御意!!」
彼女を連れた兵の後姿を見送りながら、磁刀をしまう。
「ふぅ~…。俺の役目はこれで終わったな…。 後は、みんなが上手くやってくれれば…。」
俺は、視線を尚も戦闘が続いている前線に向けた。
~張超side~
「え~い!! 何をやっておるか!! さっさと奴らを蹴散らしてしまえ!!」
「で…ですが、奴ら中々手強く…。」
「そんな報告などいらん!! さっさと首を取って来い!!」
「前線で動きがありました!!」
「おおっ!! 奴らの前線が崩れたか??」
「いえっ…それが…。」
「なんじゃ!? 早く言わんか!!」
「た…太史慈様が、相手に捕らえられたとの報告が…。」
「なんだと?! あの太史慈が敗れたと言うのか!?」
「はっ…。 どうも敵の大将と一騎打ちで敗れた模様です。」
「ぬぬぬ…。あの青二才が…。 それで、他はどうなっておるのじゃ!?」
「前線は、太史慈様が討ち取られたことで混乱していますので、崩壊寸前です。また、両翼は相手の突撃を受けるので手一杯、とてもじゃありませんが、前線を支えることは出来ません。」
「むむむっ…。」
「ほ…報告!!!!」
「今度はなんじゃ!?」
「う…右翼が突破されました!! 敵は、その勢いのまま城に向かってきています!!」
「何っ!?」
「さ…左翼も突破されました!! 同じく、敵はこの城に向かってきています。」
「な…何故じゃ…何故、ワシがこんな目に合わんといかんのじゃ!!」
「張超様!! お早くお逃げください!!」
「ここは我々が時間を稼ぎますので、お早く!!」
「分かっておるわ!! お前達は確りとワシが逃げるまで時間を稼いでおれ!!」
「張超様!! 敵は西門、東門に集まってきております。そして、敵の本体が南門を塞ぐと思われますので、北門からお逃げください!!」
「北か…。仕方ない、兄貴の所に身を寄せるか…。」
「張超様!! 早く!!」
「分かっておるわ!!」
くそっ!! 折角ここまで来たというのに…天の御使いとか言うガキにやられるとは…!!
ふんっ!! 今に見ておれ…。 兄貴の所で兵を借りたら、直ぐにでも奪い返しに来てやるわ!!
……待てよ。奴らにこの城の宝を取られるのも癪だな…。
「張超様!! 何をしておられるのですか!!?」
「良いから手伝え!! この城の金を全部運ぶぞ!!」
「そんなっ!! そんなことをしていては、敵がやって来ます!! それに、逃げるのに邪魔になるのは必至!!」
「戯言は良いからさっさと手伝うのじゃ!! この金はワシの物じゃ…。奴らなぞに…渡すものか!!」
~聖side~
数刻後の広陵城内。
「この城の宝が無い??」
「はい。どうやら、金目のものは全て持って出て行ったようです。」
「強欲な奴なんだな、張超って。」
「単純に頭が悪いんじゃないのかい?」
「あははっ、奏さんそれ正解!!」
「奏お姉さまも雅お姉さまも、いくら本当のことでも、言ったら可哀想だよ♪」
「紫熹…。あなたが一番酷いですよ…。」
「お頭!! 城内の制圧完了しやしたぜ!!」
「よしっ。 勇、お疲れ様。 それじゃあ、各自にこれからすることを伝える。まず、偉空と紫熹はこの城にて、ここ広陵の生産高や税金を確認。これには、後から来る三人にも手伝ってもらうから、急いで取り掛かってくれ。」
「「はい。(は~い♪)」」
「奏と勇は兵の編成。今回の戦でどれくらいの被害があったか確認後、その遺族に配慮してやってくれ。」
「「おう!!」」
「一刀と朱熹は城下に行き、広陵の町の町長さんに、事情を説明しに行って来てくれ。」
「「了解!!(分かりました。)」
「雅は、俺と一緒に来て、この戦の結果を聞きに行くぞ。」
「はいは~い!!」
「では、各自仕事に移ってくれ!!」
さて、城の方はこれで何とかなるだろう…。後は、奴がどうなったか…だね…。
~張超side~
「え~い!!早くせんか!!」
「そうは言われましても…これでも飛ばしております故…。」
「早くせねば、奴らが来てしまうだろうが!!」
……あと少しだ。あと少し進めば、州境にたどり着く。
徐州にさえ入ってしまえば、奴らも手出しは出来まい…。
「急げ!! 州境は直ぐそこだぞ!!」
「張超様!! あれを!!」
「んっ!? あれは、関所か!! ふふふっ、ははは!!! やったぞ、ワシは逃げ切った!!」
「おいっ!! そこの一団よ、止まれ!! 一体何事だ!!」
「徐州に居る兄の張邈を訪ねて、弟の張超が会いに来た。さっさと通してもらおうか!!」
「むっ…。証明出来る物は持っているか!?」
「今は持ってない。」
「では、通すことは出来ん。お引取りを…。」
「くそっ…。おいっ!!」
「はっ!! どうぞ、これを…。」
手渡すのは銀一枚。今で言う賄賂を渡す。
「……。」
「通って良いかの??」
「……けるな……。」
「はっ??」
「ふざけるな!! 貴様のような輩が安穏と生きて居るから、この世は官匪が横行するのだ!! さっさと消えろ!!」
「この、小娘が!! 言いたいことを言いおって!! おいっ!!こうなったら強行突破だ!!」
「「「おうっ!!!」」」
護衛の兵達が切りかかるが…。
「……ふっ!!!」
一瞬の内に全てが倒される。
「な…何だと…。このような奴が何故門兵を…。」
「それは、私がお願いしたからよ。」
「っ!! 貴様は…孫堅!!!」
「観念なさい、張超。あなたの計画なんて端からお見通し。もうどこにも逃げ場は無いわ。」
「く…くそう…ワシの…ワシの夢が…。」
「あんたの夢なんてたかが知れてる…。 乱世を生き抜くつもりなら、もっと尊大で崇高な大志を抱かないと…。あんたには、その大志を抱く資格すらなかった…。だから、あんたはここで死ぬのよ…。」
「む…無念…。」
こうして、張超は孫堅軍に捕まり、その場で謀反による反逆罪で処刑されたのだった。
「さて、そろそろ聖たちが来る頃ね…。思春、ご苦労様。」
「いえ、勿体無きお言葉です。」
「それにしても、あなたもあんな風に怒るのね?」
「……私は、あやつらと対して変わらぬ者なのかもしれません…。」
「元が水賊だから??」
「はい…。」
「関係ないわよ…。今のあなたがそうでないなら…。」
「…ありがとうございます。」
「いいえ…。 芽衣ちゃん、聖たちはどのくらいで来そう??」
「そうですね~…。後一刻ほどで来ると思われますが~…。」
「そう、じゃあ、準備しておきましょうか…。」
~聖side~
「蓮音様!! お久しぶりです。」
「聖!! 元気にしてたか!?」
「はい、おかげ様で…。芽衣も伝令ご苦労様。」
「はい。無事に張超を捕らえる事が出来ました。」
「聖。張超の首はそなたに譲る。好きにするが良い。」
「はい。」
「後、張超が持っていた宝があるんだけど、これもあなたが持って行きなさい。」
「いえっ、全て貰うわけにはいきません。今回の捕り物は、蓮音様の協力があったからこそ出来たもの。ならば、その見返りに、半分を持っていって戴かなければ、私の気がすみません。」
「…そう。じゃあ、ありがたく貰っていくわね…。」
「あの、蓮音様。そちらの方は??」
「あぁ…。彼女は甘寧。我が軍の頼れる武官よ。」
「初めまして、甘寧さん。俺は徳種聖です。」
「……甘興覇だ。」
「張超を捕まえたのは彼女よ。」
「そうですか…。ご協力感謝します。」
「……蓮音様に頼まれたからしたまでだ…。」
「それでも、ありがとう…。」
頭を下げ、真摯な態度で感謝の意を示す。
「……ふん。」
甘寧さんは踵を返して行ってしまった。
「……嫌われちゃいましたかね??」
「違うわ。彼女はちょっと、人付き合いが下手なだけよ。」
「いつか仲良くなりたいものですね…。」
「出来るわよ。聖なら♪」
にこりと微笑む蓮音様の笑顔はやはり綺麗で、正直ドキッとさせられる。
「……だと良いんですけどね…。 じゃあ、俺達は帰ります。広陵の城は俺たちが貰っても??」
「えぇ。好きに使ってくれて構わないわ。」
「ありがとうございます。これでようやく拠点が出来ましたよ…。」
「でも、あの街は大変よ?? 今までが酷かったから復興に時間掛かるし…。」
「任せてください。直ぐに寿春並みに発展させて見せますよ。」
「ふふふっ。期待してるわね。」
「ひーちゃん、まだ~??」
「あぁ、待たせたな。じゃあ、帰ろうか。」
「ん?? 聖、その子は??」
「この子は姜維。天水出身で、五胡との間に生まれた子だそうです。」
「どうも、孫堅さん。」
「よろしくね、姜維。私は孫堅よ。」
「……孫堅さんは、私を見てなんとも思わないの…??」
「そうね…。漢民族にはない綺麗さを持った可愛い女の子ってことぐらいかな…?」
「……。ふふふっ。孫堅さん、私の真名は雅です。」
「良いの??真名を貰っちゃって…。」
「はい。」
「そう…。私は蓮音よ。改めて、よろしくね、雅。」
「よろしくお願いします。蓮音さん。」
雅がこんなに嬉しそうな顔をしているのを見るのは、あの時以来かもしれない…。
「嬉しそうだな、雅。」
「勿論!! 私のことを、五胡とか関係無しに見てくれたもん♪」
「そんなの当たり前じゃない。出身とかそんなもの気にすることなんてないわ。」
「……蓮音さんみたいな人は少ないのが現実かな…。ここに来るまでに、既に幾度か迫害を受けてるし…。」
「そう…。 大変だったわね。」
「…良いの。今はこうして、ひ~ちゃんの傍に入れるんだもん♪」
そう言って俺の腕に飛びつく雅。
急な衝撃を受け止めてやれば、雅は先ほどに負けないくらいの笑顔を俺に見せてくれる。
「あらあら。お熱いのね。」
「でへへ~…。」
「おいおい…蓮音様の言う通り、腕に頬を擦り付けたって暑いだけだろ?」
「「……。」」
「??」
「はぁ…。大変ね?」
「良いの♪ こういうところも可愛いんだから!!」
「??????」
なんかよく分からないが、雅と蓮音様が二人して笑っているし……まぁ、良いか。
今回のことで、雅と蓮音様が仲良くなってくれてよかった…。
雅の仲間になってくれる人は少ないからな…。貴重な一人が孫呉の英雄なら文句なしだ。
「さぁ、帰ろうか雅!!」
「うん!! 蓮音さん、またね~。」
「またね、雅。今度はもっとお話聞かせてね?」
「うん!!」
こうして俺達は、張超の首を持って広陵城に戻r…。
「……私は??(グスッ)」
「「あっ…。」」
「今、『あっ…。』って言った~!! 本当に忘れてたんですね…。(グスン)」
「忘れてないから!! 芽衣が今回頑張ってくれたのは俺も知ってるから!! だから泣かないで!! ……ね!?」
「うわ~~~~ん!!!!!!!」
「あ~ぁ…。ひーちゃんが泣かした~。」
「ごめんって!! お願いだから泣き止んで…。」
その後しばらく、芽衣を宥めるのに時間がかかる聖なのであった。
後書きです。
広陵攻略完了ですね。
いや~……今話は時間掛かった……。
と言うのも、主な原因は前話より登場の太史慈さん……。
なにか特徴を……と思った作者は、自分が博多の人じゃないのに博多弁を選択(博多弁って女の子が言ってると可愛く聞こえるとTVで聞いたのを参考に……。)
それが災いとなって書きづらい……。
一応、翻訳サイトを使いながらの翻訳ですが……明らかにおかしな翻訳が出るところもあって直すのに必死です…。
もし、読者の中に博多弁が分かる方で『ここの言い方おかしい。』と言うところがありましたら、訂正後の文章と共にコメント戴けると嬉しいです。
本文中の鉄線は、現代で言うピアノ線と受け取ってくれるとありがたいです。
また、久々に蓮音さんも登場させました。
今回の広陵攻略戦は、やはりこの方に占めて貰おうと思っていたので、そこにどうやって繋げるかが鍵でしたが……どうにか自然に繋げれたかと思います。
蓮音さんだけに限らず孫家全体に言える事ですが、全員本編の蓮音さんの様に、雅を見たところで何も言わないでしょうね…。
何か、孫家ってそういう所寛容な気が自分の中ではあるんですが、どうなんでしょう……。
次回は日曜日が忙しいので、月曜日に上げたいと思います。
今回は芽衣をオチに使いましたが……あれやられたら絶対怒りますよね……。
えっ??聖さん、何ですか??
あれからしばらく芽衣が口をきいてくれなかった??
まぁ、あんな事すれば当然ですよね……。でもどうせ慰めてあげたんでしょ? ……閨で。
あっ!!ちょっ!!!! そっちは刃がある方だって!!!! 暴力反対!!!暴力反対!!!!!
長々と後書き書いてすいませんでした……。
………次回をお楽しみに。
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どうも、作者のkikkomanです。
広陵攻略戦(後編)の投稿です。
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