とある町に、とある娼婦がいた。容姿はそこそこの美しさを持っていた。それゆえに、娼婦としてはそれなりの人気を誇っていた。
彼女は何物にも心を開かない。買われた時だって、相手にとって理想的な女性を「演じる」ことはあっても、本当に相手を想うことなどない。
彼女の生い立ちがそうさせるのか、それとも仕事としてのプロ根性なのか、それは分からないは、一つだけ言えることは、彼女の心は冷たく冷え切っているということだ。
そんな彼女の前に現れたのは、とある金持ちの男だった。
ある夜、客の一人が彼女に暴力を働いていた。こういう客も珍しくはなく、酷ければ金を踏み倒すこともいとわない、そんな客だ。彼女はもう慣れたように「ああ、またこの手合いか」と思うだけだった。
「早く終わらないかな。早く終わって次の客を探さないと……」
そんなことをふと思った瞬間だった。今まで暴力をふるっていた男が、いきなり殴っていた手を止めたのである。何が起こったのか、彼女はそう思い顔を男の後ろの方に向けた。
そこには全身黒ずくめのちょっとおかしい恰好をしているコスプレ男が立っていた。顔はマスクをかぶっており、よく分からない。
「その手を放すんだ」
コスプレ男はハスキーな低音ボイスでそう言った。
すると私に暴力をふるっていた男がコスプレ男を脅すように言った。
「ああん? なんだお前? 変な恰好しやがって。そんなに怪我してえのか?」
しかし男に動じる気配はない。むしろニヤッと笑ったような気がした。
「警告はしたぞ」
次の瞬間、コスプレ男はあっと言う間に距離を詰めて、男に重い一撃をくらわせていた。悶え苦しむその男に、コスプレ男は容赦なく殴りつける。
やがて暴力男は動かなくなり、コスプレ男は娼婦を一瞥して去って行ってしまった。
娼婦は何が起こったのか分からず、ただそこにへたり込むだけしかできなかった。すると、遠くの方からパトカーのサイレン音が聞こえてきたので、あわててその場から立ち去ることにした。
娼婦がコスプレ男に抱いた印象は「狂ってる」ということだった。あの変なコスプレにあの変な声、どこからどう見ても正常な人間がやっていることとは思えない。
それと同時に、彼女に一つの感情を与えた。それは愛という感情だった。
ただただ、彼がいとおしくて、彼のことをより知りたいと感じた。
「あははは、あんな狂ってる人間なのだから、そんな人間にお似合いなのは私のような狂った人間だけなのよ。うふふふ、さあ、覚悟なさい、私の心に火をつけたその意味を」
コスプレ男のことは調べれば簡単に情報が入った。
なんでも、この町の犯罪者に制裁を加える、なぞの男だそうだ。基本的に法では裁けない人間に対して、その制裁を行っているようだが、やはりその行為は方から外れた行為であるために警察に追われている立場らしい。
ただ、彼を支持する人間も少なくなく、いくつかの新聞は彼を擁護、あるいは味方にするものもあった。
けれども、彼女を満足させるような情報を得ることなどできなかった。
それでも彼女はあきらめることはなかった。
「うふふ、きっとあなたにたどり着いて見せるわ。だって私はあなたを愛する猫なのですから」
その日、彼女は猫を身に宿した。
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お題:情熱的な娼婦