前回までの仮面ライダーサカビト。
代々木悠貴は悪の科学者に洗脳・改造され、“仮面ライダー”を殺害してしまう。
その後、紆余曲折を経て代々木は改造人間サカビトを名乗り、V3と激闘を繰り広げるが、圧倒的なV3の力と技の前に敗北を喫する。
時と場所は移り行き、1975年…栄光の七人ライダーがデルザー軍団を打倒し、ネオショッカーが現れるまでの空白の出来事。
七人ライダーの内、一号、ライダーマン、アマゾン、ストロンガーは魔の国に残るデルザー残党との交渉の為に旅に出る。
その前に立ちはだかったのは、かつてアマゾンが倒したはずの暗黒組織、再生ガランダー軍団。
立ち向かうべく日本に残っていた二号、V3、Xとの戦いが始まった…!
怪人たちの薄い自我は、再生されたことによって反射的な闘争本能だけが残されていた。
しかし、その彼らにも目の前の三体の改造人間は自分たちとは明確に異なっていることだけは理解できていた。
動かされる者と動き続ける者、白と黒、正義と悪、破壊者とそれを破壊する破壊者。
空港は、仮面ライダーにとっても再生ガランダーにとっても戦いやすい場ではない。
戦場は水が下へと流れるように自然に移り、戦場は切り立った採石場。人ならざる者のチカラが激突する。
「V3ィッ、きりもみっ・キーィック!」
V3は、アマゾンの大切断やストロンガーの電キックのような代名詞的な技を持たない。
それは技がないわけではなく、逆に大切断や電キックに匹敵する強力な技が多すぎるためだ。
V3きりもみキックもそのひとつで、V3反転キックやV3フル回転キックなどと並び、多彩な蹴り技の中でも使用頻度の高いフィニッシュブロー。
再生トゲアリ獣人はそのキックを受けて悶絶…が、爆発せず、苦しみながらも攻撃態勢を解かない。
「気をつけろV3ッ! こいつらは…」
「ええ、アマゾンが…どうしてキックで仕留めなかったのか、わかりましたよ」
アマゾンライダーには他のライダーと同じくアマゾンキックという蹴り技が存在するが、使用機会は極端に少ない。
その理由がこれだった。
ガランダーの獣人はその溢れる獣性と柔軟性によるタフネスに支えられ、その耐衝撃能力はV3のキックに耐え切るだけのものがあった。
打撃技を主体とするV3にとっては戦いやすい相手ではないが、それでもV3は狼狽せずに独特の指を立てるポーズを決める。
「…ふん、そうでなければ面白くない、といったところだな」
「頼もしい弟だぜ、お前はよ」
相性の悪さを物ともせずに構えるV3に、二号は背中を預けて嘆息ひとつ。
そして視線は五番目の兄弟、Xライダーへと向けられていた。彼はひとりで大将格である第三のゼロ大帝と戦っている。
ゼロ大帝の杖とXライダーのライドルホイップがぶつかり合う。
「やるな。このゼロ大帝と一騎討ちとは。そんなバカはアマゾンライダーだけだと思っていたがな」
ゼロ大帝の言葉には取り合わず、Xライダーはライドルを棒状に変化させるスイッチを押す。
「ライドル、ロングポォールッ!」
長柄の杖を持つゼロ大帝に対抗するために、Xもホイップから長柄のロングポールで間合いを取る。
槍や杖というにも長すぎる。棒高跳びをする棒のような長さと形状だ。
「長ければ勝てるというものではない、そんなもので――」
「勝ってやろう。いくぞゼロ大帝ッ! ライドル風車ぁ…」
銀色の風が吹いた。
メタリックライダー、Xのライドルが風を巻き起こし、採石場の岩々を砕いて濛々と煙を上げる。
間髪入れず、構えたゼロ大帝の腹部を打ち抜くように銀の衝撃が襲った。
「…っぐ、うううう?」
静かで、それでいて猛々しいXライダーの次の攻撃。
気迫一発、Xライダーは背後に火柱が上がるほどの気炎を上げ、その技名を叫ぶ。
「真空ゥ…地獄車ァぁっ!」
一気に間合いを潰して自らの四肢をゼロ大帝の四肢に結ぶように互いに動きを封じ、そのまま転がるようにXライダーが跳び、ゼロ大帝の頭部から着地する。
その衝撃を利用して同じ方向に跳んで着地。その衝撃を利用して同じ方向に跳んで着地。その衝撃を利用して同じ方向に跳んで着地。
その衝撃を利用して同じ方向に跳んで着地。その衝撃を利用して同じ方向に跳んで着地。その衝撃を利用して同じ方向に跳んで着地…。
終わりなく続く煉獄の如き連続攻撃。
「ぬうぁああああああああっっ!?」
真空地獄車は、Xライダーの体内に流れるマーキュリーパワーが続く限り止まらない。
敵は足掻くこともできず、ただ断末魔を上げ続けることしかできない。それは真空中で悪の魂を断罪する閻魔の裁き。
真空地獄車。神敬介と先輩ライダーの血の絆が生み出した最終奥義。
「…今だッ!」
Xライダーは遠心力で加速したゼロ大帝を空中に投げ捨てる。
空中で身動きの取れないゼロ大帝を地獄へたたき落とす終末の一撃が向かう。
「エェックス・キィック!」
己の名を冠すXキック。
渾身の一撃を受け、力尽きたのかゼロ大帝は地面に投げ出され、ビクンビクンと痙攣している。
未だかつてこの技に耐えた者は居ない。無比の威力を持つ真空地獄車だがそれだけに消耗も激しい。
膝を折るXライダー、その背後に迫る再生ガマ獣人。
「…ライドルホイップっ!」
ガマ獣人の肉体は、振り向きざまに振りぬかれたライドルホイップによって上下に両断されている。
ゼロ大帝を倒しても気は抜かずに次の敵を打ち倒す、Xライダーの戦闘に対する意識はライダーの中でも飛びぬけて高い。
「エックスライダー! 気を抜くな! まだ…!」
「ええ、わかっています!」
V3の言葉にXライダーは力強く応える。再生ガマ獣人の傷口からは粘液のようなものが滲み出し、両断された上半身と下半身が合体している。
これこそがガマ獣人の特殊能力のひとつであり、蝦蟇油のような体液によって鋭利な切断ではダメージを受けない。
「エックス・パァンチッ!」
復活した瞬間、自らの油にまみれてスローになった獣人の胴体を叩き割るような拳、その衝撃は再生ガマ獣人の油に火をつけ、爆散させるだけの破壊力を持っていた。
銀の戦士、Xライダーは次の敵を探すべく、意識を戦場に向けたが――その判断がいけなかった。
「違うぞ! Xライダー! ゼロ大帝は死んでいない!」
V3の言葉ほ届いたが、時既に遅し。
会心のエックスパンチを打ったばかりで無防備なXライダーの全身を電撃が焼いた。
「っっ!? ァあっ?」
「ふふはぁ! 甘いぞ、エックスラァイダー!」
その電撃の大本、その発射先を辿れば、ゼロ大帝。
先ほど真空地獄車で葬ったはずの男は、自らの策略の成功の喜びを仮面越しに表現している。
「バカな…! 確かに手応えは…!」
Xライダーは先ほど地面に叩き付けた怪人、自分が真空地獄車を叩き込んだゼロ大帝へと目を配る。
そこには確かに怪人が倒れていた。だがゼロ大帝ではない。それは全身が土色のイボだらけのゼロ大帝とは似ても似つかない両生類の獣人。
三人ライダーは知る由もないが、その獣人の名前は再生サンショウウオ獣人。アマゾンと最後に戦った獣人であり、その姿を自由に変化させる能力を駆使する獣人だった。
「キサマ…部下を自分に変装させて…身代わりにしたのか…ッ!」
「我ながらいい作戦だ。やはりジューシャたちに立案させるよりもこちらの方が――」
「た、大帝…助け…けてく…」
流石というべきか、無残というべきか、再生サンショウウオ獣人は真空地獄車の絶大な破壊力の前に一命を取り留めていた。
身動きできなくなり、ゼロ大帝に懇願する以外にできることがないスクラップのような体で。
「助けてくださ…私は…」
呼吸もままならなくなってきた再生サンショウウオ獣人に向け、ゼロ大帝は無造作に杖を向ける。
「たぃ帝…ぇっ」
「今私は、Xライダーと喋っている。邪魔をするな」
杖から放たれた雷撃は再生サンショウウオ獣人を消し炭に転じた。
周囲に異臭を撒き散らして、再生サンショウウオ獣人は仲間に…いや、仲間だと信じていた男に殺された。
「…キサマ…! 部下をなんだと思っているッ!?」
「…?
ああ。もう一度再生させるときの手間のことか?
あれを再生させるぐらいなら別の獣人を作ったほうが早い。姿を変える程度の能力のヤツはもう要らん」
「…ッ!」
Xライダーは、感情を表に出すタイプではない。
冷静沈着に仲間を守り、手段を選ばずに敵を倒す鋼鉄の精神力を持つ勇士。
そのXライダーも、ゼロ大帝の態度には、正義の怒りが燃え上がった。
「ライドロォープッ!」
Xライダーはライドルを鉄製の荒縄・ライドルロープへ変形。
鞭のように器用に扱い、ゼロ大帝に叩きつける。
だが、ゼロ大帝も負けてはいない。自分のマントを脱ぎ、それをロープに被せるようにして威力を消し…。
「…なんだとっ!」
消えたのは威力だけではなった。
消えた。
ゼロ大帝そのものが消えた。
仮面ライダーは総じて広い視野を持ち、マント一枚程度の目隠しで見逃すはずが無い。
だが、現実としてゼロ大帝の姿は消えたのだ。
「私がなぜゼロ大帝と呼ばれるか、お教えしよう…!
私はマントを脱げば、その姿をゼロにすることができる…キサマの鋭敏なセンサーでも捉えられないほど完全になぁぁああっ!」
その言葉を受け、Xライダー体の動きが止まった。
恐怖からではない。背後からの雷撃攻撃の直撃。
機械的に、物理的に、Xの戦士としての機能を揺るがすダメージ。
「敬介っ! 動け!」
V3は激を飛ばすだけで無数の獣人に阻まれて助けに行けない。
二号とのタッグアタックで再生獣人も大分減っているはずだが、それでもまだ多くいる。
その数は六体、その全てをV3ひとりで立ち向かっている…ならば、相棒たる二号はどこにいるのか?
「死ね! 仮面ライダー五号ぉおおおおっ!」
「お前が死ねぇェッ!」
声のする場所に向けて跳び蹴り。放ったのはもちろん仮面ライダー二号の一文字隼人。
再生怪人をV3に託してXの援護に回っている。
「…ほお、惜しいな。あと二十センチ、惜しい惜しい」
「風見ッ! 雑魚掃除は任せる! 私は…敬介の代わりに大帝殿を地獄までエスコートだ!」
風見志郎=V3の“任せろ!”という言葉を受け、二号ライダーの赤い拳に力が入った。
戦場は静かになっていた。
もちろん、V3と生き残りの再生獣人たちとの戦いによる雄叫びが混ざり合い、静寂とは程遠い。
だが、二号にとっては全て雑音。その戦いはV3に任せた以上、自分はゼロ大帝の気配を探る。
この能力が完璧であるはずがない。完璧な能力ならばアマゾンと戦った二体のゼロ大帝は
どこかに穴があり、そしてそれはかつて戦ったアマゾンライダーならば軽々と看破できるはずの急所。
「…私の能力には弱点がある、そう考えているな? ラァイダ二号…」
「ああ、ちょいとばかりネタ晴らししてくれないか?」
「よかろう! 私の位置を探るには獣並の嗅覚か、探索用センサーがあれば問題ない!」
二号ライダーの軽口に、こちらもあっさりと応えるゼロ大帝。
「七号のカブトキャッチャーか、アマゾンライダーの嗅覚、私の位置を察知するのはキサマの弟分たちならばなんとでもできるなァ!」
「…ワルイな」
二号が素早く放ったパンチは的確に空を切る。やたらに良い音とゼロ大帝そっくりの呻き声が続いた。
「…ゼロ大帝大明神さまよ」
「ぐぅ、ううう…!」
「そんな長台詞喋ったらストロンガーとかアマゾンじゃなくても…居場所は分かると思うんですがね」
二号の戯言めいた挑発に、何も言い返さないという事実が、ゼロ大帝の今の攻撃に対する怒りが知れる。
だが、二号ライダーはもう遅い、と朗々と声を上げる。
「もう無駄だ。お前の位置は…もう見逃したりはしない!」
二号ライダーの言葉に、神敬介…大きなダメージから変身が解除されたXライダーはニヤリと口角を上げる。
「俺は生身の内から空手と柔道をやってきた。一撃でも殴れば…そのままお前の気配を読むなんてのはカンタンなんだよ」
ゼロ大帝は何も云わない。
半信半疑だから。二号に位置を突き止められることを恐れているから。
「今、左に動いたな。三歩…もちろん、お前さんから見て、な」
ちょうどそのとき、数メートル先でドクキノコ獣人の攻撃を避け、V3はダブルアタックで撃破した。
爆風が二号のマフラーを踊らせる。
「また動いたな! 右に五歩、後ろに退がった! お? なんだ、今度は…また後ろ? 逃げる気かい?」
二号の言葉に対する反論とばかりに攻撃が始まった。
電撃が放射状に迸る。その電撃の枝の根の部分――二号でなくてもわかる。この電撃の先にゼロ大帝は居る。
「お前はゼロというお前の名前の意味は知っていても…どうやら私の名前の意味を知らないようだな」
一文字隼人…仮面ライダー二号は走る。吹き荒れる電撃の中をすり抜け、発生源へと。
「私は仮面ライダー二号っ! そう、私は…ひとりではないっ!」
飛行能力とも見紛う、飛蝗の跳躍力による大ジャンプ。
そこから繰り出される必殺技、かつて小さな友人:五郎のために、戦友:滝とともに作り上げた必殺技。
空中で二号の体が卍を描き、電撃を弾く友情の一撃が炸裂する。
「ライダァアアアっっ! 万字っ、キィイイック!」
不可視のゼロ大帝への不可避の一撃。
V3が最後の再生獣人をレッドボーンパワーを加えたチョップで倒したのと、全く同時だった。
切り立った崖の上から見下ろす二体の怪人が居た。
「なるほど…あれが仮面ライダーか。スエズ運河から来た甲斐もあったというもの…」
そういったのはアブの改造人間であるアブンガー。
彼は獣人ではない。当然ゲドンでもガランダーでもなく、仮面ライダーたちにとっても未知の勢力、ネオショッカーの怪人の一人。
傍らにいるもう一体の怪人:黄金ジャガーは不愉快そうに得意の槍を一閃する。
「気に入らんな。いくら旧式の怪人とはいっても捨石に使うなんぞ…」
「戦いの基本は情報収集でしょう。ヤツらに
今日のところは引き上げよう。それでいいだろう? 将軍?」
「…まあ、いいだろう。俺としてもキサマの仕切りで戦うつもりもない」
黄金ジャガーはサハラ、アブンガーはスエズ運河、二体の怪人はそれぞれに戻っていく。彼らが仮面ライダーと相対するのは暫くの後。八号と呼ばれる戦士を待つこととなる。
To Be Continued
http://www.tinami.com/view/532278
はい、オリジナル二次設定とか。
アマゾンキック>
モモンガ獣人はよっぽど貧弱だったということで。ムササビだっけ?どっちでもいいけど。
これは独自解釈だけど、獣人たちの切り裂かないと死なないっていう設定は結構気に入ってます。
二号がゼロ大帝の位置探知>
編集と尺の都合でいつの間にか無くなってたので。
本当に気配を読んでたわけじゃなくて、殴った時に二号は、焼き殺されたサンショウウオ怪人の肉片を付着させていました。
ゼロ大帝の不可視になる能力は完璧ではなく、マントを脱がないと使えません。そのため、小さい目印が有れば二号のセンサーで見えた、ということ。
本文で解説すべきなんだけど、本当に気配で読んだって解釈でも別に良いなぁ、コレ。
エックスキック>
本来は真空地獄車時には“エックスキック”とは云わない。
ただ、スピリッツでのシーンがあまりにカッコよく、かつ小説という媒体でも掛け声が欲しかったので云っています。
ゼロ大帝>
影武者が複数居たって設定はもちろんオリジナル。
また、マントを脱いで姿を消す、その姿からゼロ大帝、ってのは石ノ森先生のマンガ版から。
アブンガーと黄金ジャガー>
そもそも面識あるのか、こいつらは? 原作では出番が多くないのでほぼオリジナル。
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全仮面ライダー映像作品を同じ世界観として扱い、サカビトを中心に各々の謎を独自に解釈していく。
サカビト=代々木悠貴は改造人間であるが、仮面ライダーではない。
仮面ライダーを倒すために悪の科学者によって拉致・改造され、子供を庇った仮面ライダーを殺害してしまった一般人だ。
人々から英雄を奪った罪を贖い、子供たちの笑顔を守るため、サカビトは今日も戦うのだ。