No.513221

魏エンドアフター~失ウモノ~

かにぱんさん

(゜レ゜)

2012-11-29 01:35:58 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:6770   閲覧ユーザー数:5169

周瑜さんがこちらへ来てはや数日。

雪蓮を連れ戻しに来たらしいが既に日が回ってるわけで。

何度か二人が言い合いをしているのを見かけるが、

周瑜さんが怒鳴り、雪蓮がそれを聞き流すというループ。

周瑜さんも周瑜さんで本気で怒っているわけではなさそうだ。

本気だったら馬に縛り付けてでも連れ帰る人だろうし。

それに二人ともそんなやり取りをどこか楽しんでる節がある。

いや国が忙しいってのは本当なんだろうけど。

というか一国に国の重臣が集まっていていいのだろうか。

まぁ三国の王も集結しちゃってる状態なんだけど。

……つーかいつもの事ながら何この書類の山。

何かもう明らかに俺が勝手に決めちゃまずいだろって書類まであるし。

信頼してくれてるといえばいいのかもしれないけど……

仕事を俺に丸投げなんてしてないよね?

ないよね?

……考えるのはやめよう。

いつもの事だからね。

考えるだけやる気がなくなるからね。

それよりも明花が言っていた事が頭から離れない。

光が弱いという言葉の意味は一体なんなのだろうか。

「病気なのかな」──明花はそう言った。

しかし周瑜さんが来てから数日経つがそんな気配は見えない。

食事だって普通にするし自国から持ってきたであろう仕事(書類の山)の数々もこなしている。

顔色だって特別悪いわけでもなさそうだし、何よりそういった変化があれば雪蓮が真っ先に気づいてるはずだ。

でも明花が嘘なんてつくはずないし……ん~~~~。

よし、華陀に聞こう。

何か見るだけで病気を見抜ける的な事言ってたし。

って言っても華陀は今居ないんだよなぁ。

遠方の村で流行ってる病気を見に行ってるとかなんとか。

まぁいつも神掛かったタイミングで居るから常に居るみたいに感じてたけど。

──とか考えてたら重要書類に意味不明な事を書き綴ってる。

……やべぇ。

 

 

 

 

 

 

 

「だ、誰か!誰か居ませんか!?」

 

一刀「!?」

 

修正に奮闘していると廊下から悲鳴のような声が響き渡った。

何事かと思い部屋を飛び出し、声のするほうへ向かいその部屋の中へ入ると──

 

一刀「なっ!?」

 

目に飛び込んで来たのは苦しそうに咳き込み蹲る周瑜さん、それを支えながら助けを呼ぶ侍女。

 

そして、

 

──夥しい量の血

 

すぐに周瑜さんへ駆け寄り、侍女に問いかける

 

一刀「何が起きたんだ!?」

 

「わ、わかりません!

 周瑜様の御部屋の中から苦しそうに咳き込む声が聞こえたので様子を伺いに来たらすでにもう……!」

 

周瑜「ゲホッ!ゲホッ!……ッ!はっ、はぁ……っ!ゲホ!」

 

その間に更に吐血する。

この異常事態に頭が混乱する。

 

一刀「周瑜さんは俺が見てるから医者を呼んできてくれ!早く!」

 

「は、はい!!」

 

走り去る侍女を尻目に原因を探る。

一瞬毒を盛られたのかと考えたが、すぐに明花の言葉を思い出した。

 

 

 

 

 

──病気なのかな──

 

 

 

 

 

とにかく蹲っている周瑜さんを支えようと触れた瞬間、

黒い影のようなものが渦を巻くように身体を覆っているのが見えた。

 

一刀「な、なんだ!?」

 

その黒渦が周瑜さんの氣、つまり生命の源を侵食しているようだった

氣の流れを押し止めるかのように、逆流するかのように蝕んでいく。

 

一刀「クソッ!」

 

素人考えに、とにかく周瑜さんの氣の流れを強くしようと

本来の流れに沿うように自分の氣で周瑜さんの氣を誘導する。

一瞬激痛が走るかもしれないと思ったが、放出さえしなければ使用に問題はないようだった

そのまま黒渦を押し返すように氣の流れを強く、強く押し流す

若干抑える事が出来たものの黒渦の勢いは収まらない。

 

 

 

 

一刀「ハァ、ハァ……!」

 

なぜ自分でもそうしたのかは分からないが、

俺は黒渦の中心部へ手を当て、黒渦自体を抑え込もうとした

渦を逆に巻くように意識を集中し、抑え込む。

すると──

 

 

ズズッ──と、一瞬自分の手に黒渦が侵食しているように見えた

 

一刀「っ……!?こ、のォォォ……!!!」

 

それを阻むように全神経を集中させ、氣で押し返し、抑え込む。

その甲斐あってか、段々と渦は収まっていき、周瑜さんの呼吸も整ってくる。

しばらく続けると渦が消え、黒い影のみになった。

集中が途切れ、その場で崩れるように座り込む

 

一刀「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

渦が消えたと同時に周瑜さんの呼吸が完全に整い、

疲弊しきったのか、俺にもたれ掛かり意識を失った。

目前の危機を乗り切った安堵感により、意識がクリアになっていく

 

あの影が──あの渦が病なのか?

……あれが見えるってことなのか?

両手を見ると、ぶるぶると震えている。

 

一刀「はは……冗談きっついな」

 

そしてすぐに侍女が呼んだ医者と、

城内に居た華琳達が集まり、応急処置を施しその場は落ち着いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、目を覚ます。

あたりに明かりはなく、目を凝らしてもよく見えない。

まだ深夜のようだ

なんとなく目が冴えているので部屋を出る。

渡り廊下へ出ると月明かりと共に夜空一面の星が輝いている。

いつもの事ながらこの光景には圧倒される。

時代が進んだ日本、特に都会なんかではまず見られない。

 

一刀「……そういえば鍛錬するの忘れてたな」

 

あんな事があったせいか、すっかり頭から抜けていたようだ。

毎日続けている事が一日でも抜けるとなんとなく気持ち悪い。

そう思い部屋へ刀を取りに行き、いつもの場所へ行く。

ふと、そういえばここに隣接している二階の部屋は周瑜さんが使っている部屋だと思い見上げる。

 

一刀「え」

 

思わず声が出た。

 

冥琳「…………」

 

今日、あれだけの発作を起こした人が窓を開け遠くを眺めている。

 

一刀「ちょ、何やってるんですか!」

 

絶対安静と医者に言われていたはずの本人がそこに居る。

 

周瑜「ん?あぁ、北郷殿か。

   いやなに、綺麗な夜空だと思ってな」

 

呑気にそんな事を言いながらまた遠くを見つめる。

 

一刀「や、綺麗とかじゃなくてちゃんと寝てないと!」

 

周瑜「昼間からずっと寝ていたせいで目が冴えているんだ。

   眠れずに悶々としているよりこうしているほうが余程有意義ではないか?」

 

いや、有意義とかそういう問題ではない

 

周瑜「それよりも北郷殿には礼を言わねばならないな」

 

一刀「え?」

 

周瑜「私を助けてくれたんだろう?

   ありがとう」

 

無我夢中すぎて何かしてあげたとかそんな事考えてる余裕なんてなかった。

 

一刀「あんなに苦しんでる人が居たら誰でも必死になりますよ」

 

目を伏せながらふふっと笑う。

どんな仕草でも上品に見えるなこの人は。

 

周瑜「で、北郷殿はこんな夜更けにどうしてここへ?」

 

一刀「いつもこの時間にここで軽く鍛錬してるんですよ。

   朝汗臭くなりますけど」

 

夜中に風呂へ入る訳にも行かないので近くの川で水を浴びたりする。

死ぬほど寒いけど仕方ない。

 

周瑜「ふむ、大会の時から北郷殿の剣術には興味があった。

   私の知っている限りこの世界では見たことの無いものだからな。

   拝見しても?」

 

既に窓際に椅子を持ってきたのか、窓枠へ肘を掛けながら問う。

絶対ダメって言っても見るだろこの人。

 

一刀「まぁ……つまらないと思うけどそれでもよければ」

 

 

そのまま鍛錬に取り組んだ数時間の間、周瑜さんはなんとも言えない表情で見続けた。

 

 

 

 

 

そんな夜が数日続いたある日、いつものように鍛錬をしていると周瑜さんが口を開いた。

 

周瑜「北郷殿は雪蓮に随分と気に入られているようだな」

 

額を伝って顔に流れる汗を拭う

 

一刀「なんででしょうね。

   俺自身よくわかりませんけど」

 

周瑜「ふふ、そういう所も気に入る要因なのかもしれんな」

 

意味深な笑みをこぼす。

 

一刀「好きと言ってくれるのは嬉しいけど、

   俺は、ふっ!、魏の皆が居てくれるから、っ!、

   ちょっと困りますね」

 

素振りをしながら会話を交わす。

 

周瑜「何を言うか。

   英雄色を好むという言葉もある。

   それに星はここの者ではなかろう」

 

一刀「あ~、あの子はですね。

   ゴリ押しで蜀の皆さんを納得(?)させた上にずっと俺と一緒にいたから、

   根負けというかなんと言うか」

 

本音は違う。

星は真っ直ぐな好意をぶつけて来て、その上命がけで俺の大切なものを守ってくれたから。

そんな事されたら誰だって惚れる。

しかしそんな事は恥ずかしくて言えない。

だから適当にはぐらかした。

 

周瑜「また面白い言葉を使う。

   なんとなく意味は分かるがな。

   それにしても……ふむ、押せばなんとかなるのか。

   今も結構な押しだと思うが」

 

一人で顎に手を添えぶつぶつと呟く。

1階分離れているので内容は聞き取れない。

 

周瑜「まぁ、北郷殿が雪蓮を貰ってくれるというのであれば、

   私も安心して逝けるのだがな」

 

そう言って微笑む周瑜さんの表情は、

不安や悲しみなんてものはなくて、ただひたすらに優しいだけだった。

 

一刀「縁起でもないこと言わないでくださいよ」

 

周瑜「そうだな……邪魔して悪かった。

   続けてくれ」

 

夜の静かな時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鍛錬を終えて部屋に戻ろうとしたところで、書庫から光が漏れている事に気づいた。

もう日も落ちている時間帯なので誰も居ないであろうと思っていたが、誰がこんな時間まで?

そんな疑問を抱きつつ部屋へ入る。

窓際に並んでいる机の一番奥に雪蓮が居た。

脇には大量の書物が置いてある。

いつもの能天気な雰囲気ではなく真剣に何かを調べているようだ。

その表情がどこか切羽詰っているように見えるのは気のせいだろうか。

何を調べているのかは分からないが、

何か手伝えればと思い雪蓮の近くへ寄るが全くこちらに気づかない。

 

一刀「雪蓮?」

 

声を掛けるとビクッと反応し、こちらへ顔を向ける。

 

雪蓮「……あら、一刀。何か用?」

 

どこか冷たく言い放たれた感じがするのは

思うような成果が得られていないからであろうか。

 

一刀「いや、用っていうか」

 

そんな雪蓮の反応に少し気まずくなり目線を外した先には読み終わったであろう大量の書物が転がっている。

よく見ると全て医学書のようだ。

 

一刀「いつからここに?」

 

雪蓮「さぁ。少なくともあたしが来た時は外はまだ明るかった気がするわ」

 

そう言うと雪蓮はまた広げられた書物に目を落とす。

その表情はやはり暗い。

 

一刀「何か調べてるなら手伝おうか?」

 

その問いかけに答えは無いが、雪蓮を一人にはできず一つ席を空けた場所に座る。

 

 

 

 

 

 

雪蓮「多分ね」

 

少しの間。

雪蓮の呟きが静寂を破る。

 

雪蓮「多分、もう無理なの」

 

何の事かはわからないが、雪蓮の表情、声のトーン、

雰囲気全てが、それは雪蓮にとってとても大事な事なのだと伝える。

 

雪蓮「冥琳はね、病気なの。

   それも命に関わるほどのね」

 

その言葉に衝撃を受けるが、黙って雪蓮の言葉に耳を傾ける。

 

雪蓮「結構前から症状は出てたんだ。

   そうね、3年前には既に発症していたのかしら。

   それが1年ほど前からああいう発作が出初めて……

   もちろん華陀に見てもらったわ。

   他の医者にもね。

   でも華陀ですら治療法が分からない。

   ……いいえ、治療できる隙が無いと言っていた。

   もう既に全身に病が広がっていたらしいわ。

   正直こうして今でも生きている事自体が奇跡と言える状態なのよ冥琳は。

   原因は分からないけど。

   華陀も驚いていたわ」

 

そこまで話すと雪蓮は両手で顔を覆い、はぁ~と大きな溜め息を吐く。

 

雪蓮「このまま快復に向かってくれれば。

   そう祈っていたんだけど……数ヶ月前にまた発作を起こしたの。

   血を吐いて、身体もすごく冷たくて、ずっと震えていて──」

 

震える声を抑えるように、深呼吸する

 

雪蓮「正直、覚悟したわ。

   冥琳の死を。

   その時は華陀がなんとか抑えてくれたんだけど……

   その時にね、言われたの。

   もう、一年も保たないと」

 

そして自嘲ともとれるような笑みをこぼしながら

 

雪蓮「冥琳も、もういいって。

   自分は十分生きたからって。

   あたしと一緒に平和の一端に触れる事ができたから。

   国のために散っていった英雄達の許へ行くんだって──」

 

ぎゅっと拳を握り、唇をかみ締め搾り出すような声で呟いた。

 

雪蓮「そんな事言われたって──はいそうですかって納得できるわけないじゃない……っ!」

 

一刀「雪蓮……」

 

雪蓮「あたしは……!あたしはこれからも冥琳と一緒にこの時代の先を見ていきたい!

   冥琳と一緒に笑いあっていきたい!

   支えあっていきたい……!」

 

ぽろぽろと涙を零しながら必死に訴える。

 

雪蓮「こんな……!こんなに大切なのにあたしは……っ!何も──!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぎゅっと、雪蓮を後ろから抱きしめる

 

一刀「わかったよ雪蓮」

 

雪蓮「か……かず、と……!あたし……っ」

 

一刀「あぁ、わかってる」

 

雪蓮「っ……くっ……うっ……!」

 

一刀「わかってるから。

   ずっと一緒に居たいんだよな。

   好きで好きで……どうしようもないくらい大好きだから

   失いたくないんだよな」

 

気持ちの強さがひしひしと伝わってくる。

雪蓮の周瑜さんへ注ぐ愛情の深さは言葉なんて軽いものでは言い表せないだろう。

その逆も、周瑜さんが雪蓮へ注ぐ愛情もとても深い。

だからここまで苦しんでいるんだ。

その後も、声を殺しながら泣き続ける雪蓮を抱きしめながら俺は考えていた。

この先にある未来を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思い切り泣いて少し落ち着きを取り戻した雪蓮を部屋へ送り届け、俺は中庭に出た。

 

一刀「貂蝉、いるんだろ」

 

なんとなく、そんな気がしただけ。

でもなぜか居ると確信していた。

 

貂蝉「んふ。気配もない私に気づいてくれるなんてご主人様ったらもう。

   ついに私と繋がる時が来たのかしrrrrっら♪」

 

一刀「一生無いから安心して。

   それよりも周瑜さんの病気の事だけど、俺の知ってる正史と時期が違う。

   いや、発症時期は被っているけど……これは全く別のものなのか?」

 

貂蝉「そうねぇ、もうこの世界は一人で歩き出していて正史とは異なってしまっているから。

   周瑜ちゃんの病気は正史とは別のものよん。

   ご主人様が歴史を改変した事が原因とは言い切れないけれど

   それがトリガーとなっている事は確かね」

 

……真面目な話をしているはずなのにコイツが話すだけで場の空気が歪みねぇことになる。

でもこうして俺に気を使わずにはっきりと言ってくれるのはありがたい。

 

貂蝉「そして期間が延びている分、

   病気の症状はそれに比例して重くなっていると考えていいわ」

 

一刀「……そうか」

 

貂蝉「救いたいの?」

 

一刀「そりゃあね」

 

貂蝉「……リスクが大きすぎる上に治る確率は限りなく低いわ。

   それでもやるの?」

 

まるで俺が何をしようとしているのかを知っているような口調で聞いてくる。

 

一刀「あぁ」

 

貂蝉「そ。

   ……それで、ご主人様は私に何をお望みなのかしらん?」

 

一刀「さっきの事を聞きたかったのと華陀を呼び戻してほしいんだ」

 

貂蝉「んふふ♪御意♪」

 

一刀「無理言って悪いな」

 

貂蝉「私からご主人様へ注ぐ愛だと思えば、何も問題はナッスィングよん♪」

 

一刀「問題しかねぇわ」

 

貂蝉「いいの。障害が大きければ大きいほどそれを乗り越えた時、

   二人の愛は強く固くしなやかに!そして強靭になって結ばれるのよん♪」

 

一刀「その障害を乗り越える日は一生来ないと言い切れる」

 

俺の発した言葉は届いていないようで、頬を押さえながらクネクネしている。

ちょー殴りてー。

こいつの頭では愛=筋肉とでもなってるんだろうか。

だとしたら確かにとんでもない程の愛を持ってるとは思うが。

 

 

しばらくクネクネした後、ぞわっとするようなウィンクをかましながら夜空へ跳躍する貂蝉。

もう飛行してると言っていいかもしれない。

貂蝉が去った後もしばらく月を眺め、溜め息をひとつ吐きながら思う。

また、華琳達を怒らせてしまうかもしれないと。

 

 

でも、華琳だってこうするだろ?

……どんなに怖くてもさ。


 
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