蓮華「では、よろしく頼む」
星「…………」
一刀「…………」
夜、いつものように地味に鍛錬をしているところに訪問者。
そしてよろしく頼まれた。
一刀「……何が?」
星に目配せするも、頭を左右に振り肩を竦める。
流石の星もいきなりよろしく頼まれては理解できないようだ。
蓮華「?、私に稽古をつけてくれるのだろう?」
一刀「え?」
星に目配せするも、頭を左右に振り肩を竦める。
その場に居る三人の頭の上に「?」が浮かんで見える。
蓮華「雪蓮姉さんに北郷が稽古をつけてくれるように話をつけたからと言われたのだが……」
思わず二度見した。
星に目配せす(ry
結論から言おう。
一刀「初耳です」
蓮華「……薄々そんな気はしていた。……全く」
はぁ、とため息をつく。
わかる。雪蓮に対してその溜息はすごくわかる。
おかげで俺は何度か死に掛けた。
蓮華「では私は戻るとしよう。邪魔をしてすまない」
本当に申し訳なさそうな顔でその場を去ろうとする。
うーん、せっかく来てくれたんだしこのまま帰ってもらうのもなぁ。
言われぬ罪悪感が……
一刀「あーちょっと待って」
蓮華「どうした?」
一刀「聞いてなかったとはいえせっかく来てくれたんだし
俺が教えられるとは思えないけど見ていくだけなら──」
んー?何て言えばいいんだ?
すごく上から目線みたいな言い方になってないか?
一刀「えーっとですね」
いい言葉が見つからず頭を捻って考えている、と
星「まぁせっかくだ。
一刀も別に嫌がっておられるわけでもなかろう。
汗を流して行ってはいかがか?蓮華殿」
ナイスフォロー星!
ナイッセー!!
蓮華「……そうか。
ではせっかくそう言ってもらえたのだ。
よろしく頼む」
一刀「あ、はいこちらこそ」
思わずぺこりと頭を下げる。
蓮華「……ふふっ。私が教えを乞おうというのに、なぜ貴方が頭を下げるの?」
俺の行動がおかしかったのか、軽く笑みを漏らす。
心なしか口調も砕けてる気がする。
いやー、だって
一刀「ねぇ?」
星「いきなり振られても困ります」
ですよねー
星「はぁ。
来るもの拒まず。
ま、それが一刀の良いところでもあるのですが」
はぁ、ともう一度溜め息を吐いていつもの定位置へ向かう。
なんか不機嫌?
というか思ったんだけど俺の──というかじいちゃんの剣術って刀を使うこと前提なんだよね。
孫権さんが持ってるのって……うん、雪蓮の剣だね。
南海覇王だね。
そうだね、プロテインだね。
古いねごめんね。
一刀「うーん、俺が教えられるのは『これ』を使うことが前提なんだけど──」
孫権さんに桜炎と摩天楼を見せる。
初めてのものに興味があるのかぺたぺたと触っている。
……なんかかわいいな。
蓮華「……ずいぶんと軽いのね。
よくこれで姉さまの一撃を受け止められるわね」
一刀「受け止めるっていうか加速しきる前に止めてるだけだよ。
受け流したりね。
雪蓮の攻撃なんてまともに受けたら腕が千切れるよ」
蓮華「……加速?」
うーん、口では説明し難いんだよなぁ。
実際これもじいちゃんに叩き込まれたから既に癖みたいなもんだし……
一刀「えーっと、腕を振りきった時に受け止めるのと振り切る前に受け止めるのではこっちに掛かる負担がかなり違うんだ。
で、相手が振り切る前に止めなきゃいけない訳なんだけど、
そうすると相手よりも速さで勝ってないと駄目なわけで」
蓮華「なるほど……」
とは言うものの実感はあまりないらしい。
一刀「うーん……じゃあ俺に切りかかってみてくれる?
聞くよりも感じたほうがわかりやすいだろうから」
蓮華「い、いいのか?」
一刀「百聞は一見にしかずってね。
もちろんそこの模擬刀使ってね。
俺死ぬから」
何本か持ってきていた模擬刀を手に構える。
構えは整っているけど刀を使うにはいささか無骨だ。
一刀「二回受け止めるから思い切り振りぬいちゃってくれ」
蓮華「わかった」
確か雪蓮が言うには孫権さんの腕力はそれほどなかったはず。
……でも怖いから全力で受け止めよう。
この世界の人間のスペックで腕力がないって言われても信用できない。
蓮華「ハァッ!」
とか考えてるうちに掛け声と共に鋭い一歩を踏み込み刀を振り下ろしてくる。
それを一番相手の力が乗る位置で受け止めた。
一刀「…………」
蓮華「ではもう一度」
一刀「ごめん、ちょっと待って」
蓮華「?」
そのまま孫権さんの元を離れ、星の座っている場所へ移動。
一刀「え?なにあれ超痛いんですけど何が力がないだよ手首取れたかと思ったぞついてるよね?ちゃんとついてるよね?」
星の目の前で屈みこみ両手は抑えられないので腹部で包む。
普段、というか氣を使えてた頃は氣を循環させることによってある程度身体強化はできていた。
しかし今はない。
そして真正面から受け止め、まさに力と力が単純にぶつかり合った。
それに耐え切れるはずもなく
星「一気に喋りきりましたな。
まったく、無茶をしなさるから」
屈んでいる俺の傍へ寄り、腹部に包んである俺の両手を引っこ抜き擦ってくれる。
だって……力がないって言ってたんだもん……
一刀「イタイヨー……」
星「はいはい」
呆れ口調で返事をする星の顔は何やら嬉しそう。
俺が苦しんでるのに。
そのまま1~2分ほど擦ってもらってから
一刀「待たせてごめんね、じゃあもう一回やろうか」
何事もなかったかのように涼しい顔をして再び構える。
蓮華「あ、あぁ。汗がすごいようだが大丈夫か?」
一刀「大丈夫だ、問題ない」
星「問題しかないでしょう」
星の突っ込みはスルーして、まだ痺れるけどこれ以上待たせるのも申し訳ない。
蓮華「では──ハァッ!」
さっきよりも鋭さを増した踏み込みと共に刀を振り下ろす。
今度は相手の力が最も乗らない、加速する前に受け止める。
蓮華「っ!」
ふぅ。
うん、OKOK。
振り下ろす前に止めたのにこの衝撃はいかがなものかとも思うけど。
蓮華「な、なるほど。
こちらに伝わる衝撃も先ほどとは段違いに軽いな。
それにこう……モヤモヤと」
多分振り切れず力を出し切れないイライラを感じたのだろう。
それが狙いでもある。
そうして熱くなり大振りを放ってくれれば隙ができるから。
一刀「まぁ力があって速さもある人のは受け流すしかないんだけどね」
星とか霞とかすごくやりづらい。
あんなでかい得物使ってるのに超速い。
蓮華「この日本刀というものは奥が深いのだな……ただ受けたり攻撃したりでは駄目なのか」
本当なら試合をして実践してあげたいんだけど、今やったら多分死ぬ。
一刀「まぁこうして鍛錬はしてるけど
今の俺にできることは最低限身体を動かす事くらいだからね」
蓮華「そうなのか。
……ではここで見ていてもいいだろうか?」
一刀「それはいいんだけど……退屈じゃない?」
俺が身体動かしてるの見てるだけだし。
蓮華「そんな事はないわ。
ここで気づいたことや学んだ事を思春との稽古で意識するようにするから」
先ほどの事が余程大発見だったのか、食い入るように見つめてくる。
いやあの、正直やりづらい。
「蓮華様」
視線に耐えながら身体を動かしていると暗闇から突然声が聞こえる。
蓮華「あら思春。どうしたの?」
突然声をかけられたというのにそれに動じず当たり前かのように返答する。
思春「そろそろ部屋へお戻りになられたほうがよろしいかと。
これ以上は明日に響きます」
蓮華「明日に響くって……私達は政務や警邏をすこし手伝っているだけじゃない」
思春「お戻りになられたほうがよろしいかと」
蓮華「い、いえ。だからね、思春」
思春「…………」
そのやりとりを見てると不意に甘寧さんがこちらを見る。
思春「……………………」
見てる。
めっちゃ見てる。
見てるというよりも睨んでる。
身体に穴でもあきそうなくらい睨んでる。
これはあれか。
俺がやめれば戻るよって事か。
……それだけだよね?敵意なんてないよね?
一刀「お、俺も明日は早くから書類仕事あるからこれで切り上げるよ」
蓮華「そう……それなら仕方ないわね」
ふぅ、と息を吐く。
思春「…………」
……え?なんでまだ睨んでるの?
お礼を言い部屋に戻る孫権さんの後に続く甘寧さん。
──と、不意にこちらを振り返り
思春「貴様、蓮華様に不埒な真似は──」
一刀「してませんよ!?」
そう言う事か……どれだけあいつらの発言が俺の印象を壊してくれたのかってことが痛いほどによくわかる。
……全部事実なんだけどっ!
心の中では開き直るも、項垂れる。
星「一刀」
うなだれている俺の元へやってくる。
慰めてくれるのか、星
星「一刀が変態だという事は百も承知です。ご心配なさらずに」
一刀「星に言われたくないよ!」
期待した俺が馬鹿だった。
星の追い討ちを受け、心身ともに疲弊してから早くも夜が明けた。
俺の心は傷だらけ。
しかし俺の息子はバベルの塔よろしく天に向かってそびえている。
一刀「……お前はホントにいつも元気だなぁ」
ご起立していらっしゃる息子に朝一で語りかける俺はもう駄目かもしれない。
と、そこへ視線を感じる。
侍女「…………」
一刀「…………」
…………。
パタン、と無言で部屋を出て行く侍女。
本格的に俺はもう駄目かもしれない。
豆腐メンタルの俺には厳しすぎる現実だった。
雪蓮「か~ずと♪」
ドバーン!!と扉を破壊する勢いで雪蓮が入ってきた。
一刀「うおおびっくりした!?な、なに!?」
ガバッと思い切り布団を下半身に被せる。
雪蓮「昨日はありがと♪
なんだかんだちゃんと面倒見てくれるから一刀って好きよ♪」
俺の記憶が正しければ一方的に押し付けられたといっても過言ではない状況だったんだけど。
一刀「孫権さん全然非力じゃないじゃないか。
手無くなったかと思ったよ」
雪蓮「そう?あたしの記憶が正しければ岩を破壊しきれてなかったような──」
一刀「普通できないよ」
やっぱり雪蓮の言う事を鵜呑みにするのはやめよう。
この人はどこかずれてる。
というかこの世界の人は。
雪蓮「ところで今の侍女、すご~く形容し難い表情してたけど何かあったの?」
一刀「……いや、何も」
雪蓮「……何で布団から出ないの?」
一刀「理由はないです」
未だ衰えず天へ向かって聳え立つ我が息子。
いつまで自己主張してるつもりだ。
雪蓮「まぁいいわ。それよりもお腹空いたし早く朝食食べましょ♪」
ニコッっと笑いながら俺の腕を引っ張る
一刀「ま、待って!待ってください!まだ息子が!」
雪蓮「息子?一刀に息子なんていたの?」
そんな真面目に聞き返されても!
一刀「いやあの……はい、すぐ行くから先に行っていてもらえませんか」
雪蓮「えーなんでー?一緒にいこうよー」
ぐいぐいと俺の手を引っ張る
一刀「あちょ、まって!いやああああ」
必死の抵抗も虚しく布団から引きずり出される。
雪蓮「一体何をそんなに嫌がって──」
俺の身体のある一点を見て、雪蓮の言葉は止まった。
雪蓮「はは~ん。なーるほどね」
何がなるほどなのかは知らないが、にやにやしながら呟く。
……なにこの羞恥プレイ。
一刀「生理現象です。
仕方ないんです。
俺の意思で制御できるものではないんです」
矢継ぎ早に言葉を発するも雪蓮はそれを『ふ~ん、ほぉ~』とにやにやしながらジロジロ見てくる。
もう嫌……。
雪蓮「ねぇねぇ」
一刀「なんですか」
雪蓮「あたしが処理し──」
一刀「結構です」
華琳「……どうしたの?」
一刀「……なんでもないです」
朝食の席に着いた瞬間、華琳が何かを感じ取った。
相変わらず鋭い。
華琳「雪蓮も」
雪蓮「なんでもないですよーだ」
断ったのがそんなに気に障ったのかご機嫌斜め。
風「…………」
……なんかもう何があってこうなったのかとか分かってそうな人がいるんですが。
すごく見てるんですが。
風「ふむふむ、ほほー」
一人で納得するのはやめてもらえませんか
風「据え膳食わぬはなんとやらと言いますが。
なかなかの忠誠心ですね~お兄さん」
一刀「だから何で何も言ってないのにわかるんだよ!」
風「風にわからないことなんてないのですよ~」
こえぇわ。
風「まぁ本当は偶然見てただけなのですがー」
最初からそう言いなさい。
一刀「というか見てたなら来なさいよあなた」
つまるところ俺の受けた羞恥プレイも見てたって事だよね
風「そうは言いますがお兄さん、
あのまま見ていれば面白い事になりそうだなーと思ってたのですが
……奇跡に奇跡が重なって
更に偶然と、お兄さんの小指の先程の理性が上手く混ざってすごく普通になってしまいました。
どうしてくれるんですか」
すげぇ失礼な事を言われた上に怒られたんだけど。
風「まぁ今日はほんのちょっぴり機嫌がいいので許してあげます」
そして勝手に許された。
風「ちなみに星ちゃんと稟ちゃんも見てました」
一刀「朝から人の部屋の前で何やってんだ……」
風「それは風の科白なのです。
お兄さんこそ朝から何をしてるんですか。
あぁナニをしてたんですね」
その表現をやめなさい。
つかしてないよっ。
華琳「ふぅん」
あ、ほら。
覇王様がまたご機嫌斜めに──
華琳「珍しいわね。来るもの拒まずの貴方が断るなんて」
あれ、予想外の言葉。
いやそれよりも来る者拒まずって。
一刀「俺にだって節操はあるんです」
風「どのナニが言うのですか。
あ、間違えました。
どの口が言うのですか」
星「ぶはっ!けほっ!けほっ!」
隣に座っていた星が吹いた。
星「いや失礼。
けほっ!──どのナニが言うの、とは。
的を得すぎていて私としたことがはしたない姿を晒してしまった」
くっくと笑いを堪えながらいつもの口調で話す。
星のツボは未だによくわからない。
只のオヤジギャグなんですけど。
……あぁ、だから君ら人一倍仲がいいのね。
果たしてこれはどちらがどちらに似てしまったのか。
それとも二人揃って最初からオヤジだったのか。
そしてこの二人のせいで稟は何リットルの血液を鼻から噴出したのか。
……どうでもいいけど朝からそれも食事の場で下ネタはやめよう。
風「原因はお兄さんですよ」
一刀「なんでだよ」
朝食を済ませたのでとりあえず警邏。
……どうでもいいけど雪蓮達はいつまでここにいるんだろう。
明花をつれてどこかへ行ったが。
別に迷惑って訳ではないんだけど自国は大丈夫なんだろうか。
……いや、大丈夫じゃないだろうね。
だって使いが来たもんね。
雪蓮を帰すようにと伝言で。
それのためだけに遠征させられる兵には同情する。
対して雪蓮は「あーはいはいそのうちね」
みたいな感じで返してたような……。
本当に一国の王だったのかと問いたくなる。
というか雪蓮はこっちに来て何をしてるんだ?
只遊びまわっているかと思えば書庫から書物をどっさり持っていったり
華陀と二人で真剣に話し込んでいたりとよくわからない行動をしてる。
……謎だ。
そんな事を考えて歩いていると
「おい」
一刀「ん?……あ」
雪蓮「~♪」
俺が城へ戻ると中庭で雪蓮が機嫌良さそうに酒を飲んでいる。
今更だけど昼間から酒って。
まぁ霞もそうだけど。
雪蓮「あ♪かーずー……とー……」
俺の姿を確認した雪蓮がこちらへ近寄りながら声をかけてくるが段々勢いがなくなる。
そして額には冷や汗だろうか。
汗が滲み出ている。
「ふ、ふふふふふふ。い~い身分だなぁ雪蓮。
自国の事は全て私に放りなげてお前は真昼間から酒とは」
俺の背後で怒りに身を震わせながらも冷静に言葉を続ける。
「何度も何度も戻るようにと伝えても何かと適当な理由をつけては全て流し、真昼間から酒とは」
大事なことなので二回言いましたね。
雪蓮「め、冥琳……」
先程まで鼻歌まじりに駆け寄ってきた姿はどこへやら。
完全におびえている。
冥琳「この……っ!馬鹿者がああああああああ!!!」
現在俺の目の前に展開されている光景。
雪蓮が正座、その目の前に周瑜さんが仁王立ち。
本当に王と家臣の姿なのだろうか。
立場が完全に逆転している。
冥琳「言い訳があるのなら聞こう」
先程は激情に任せて怒鳴り散らしたかと思えば今はものすごく冷静に言葉を発している。
しかし俺には見える。
その後ろに燃え盛る怒りの炎。
こういう怒り方する人が一番怖いと思う。
秋蘭とかね。
周瑜さんにネチネチと嫌味を言われ続けている雪蓮。
既に戦意喪失。
遠目で見てる分にもちょっと胃がキリキリしてくる。
……南無。
雪蓮に合掌、冥福を祈っていると
くいくいっ
袖を引っ張られる。
一刀「ん?」
視線を横にやると明花が俺の袖を引っ張っている。
しかしその視線は雪蓮と周瑜さんに注がれている。
一刀「どうした?」
明花「うん……父さま、あの黒い髪の人」
喋っている最中も明花の視線は外れることは無く
明花「……病気なのかな?」
……一瞬、言葉が理解できなかったが明花は構わず言葉を続けた。
明花「光がね。他の人たちよりもずっとずっと弱いの。
……すぐにでも消えちゃいそうなくらい」
一刀「え……」
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