No.512742

SAO~菖蒲の瞳~ 第十四話

bambambooさん

十四話目更新です。

さて、面倒臭い依頼を受けて(半ば脅迫されて)しまったアヤメ君。

無事、依頼達成できるのか!?

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2012-11-27 15:41:32 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1286   閲覧ユーザー数:1238

 

第十四話 ~ 菖蒲と忍者と忍の心 ~

 

 

【アヤメside】

 

―――リゴーン…リゴーン…

 

頭に鳴り響く鐘の音。俺だけに聞こえる起床アラーム音。

 

アラームが鳴り終わったところで、パチッと目を開き起き上がる。

 

起床アラームは、設定して睡眠を取ると眠気を全く感じずに起きることが出来るというものだ。

 

朝が苦手な俺にとって、初めて使って起きたときの感動は今でも忘れられない。

 

現実での惰眠を貪るようなボーっとした時間も好きだが、今みたいにシャキッと起きるのも清々しく気持ちいいものだ。

 

現在時刻は早朝の四時。

 

アルゴとの集合時間より早めに起きた俺は、伸脚屈伸をしてからアキレス腱を伸ばす。

 

その後、足を肩幅よりやや広めに開き、両足の親指を真っ直ぐ前に向ける。

 

そのまま膝を開きながら腰をゆっくりと降ろしていき、太ももに僅かな痛みを感じたところで止める。

 

右腕を腰に添え、正面へ突き出す。

 

空手の騎馬立の構えである。

 

俺は自分の小柄な体型と淡泊で冷めた性格のせいで、年上の男子から《生意気なヤツ》認識されやすく、小さい頃から標的にされやすかった。

 

そんな俺を心配した両親が、五歳頃に空手に通わせたのだ。

 

最初は嫌々だったが、意外と性に合ったのと自分の目指していたモノと近しいモノを感じ、中学二年までは夢中でやっていた。

 

受験などの理由で前ほど頻繁には道場に通えなくなったが、今でも続けている。

 

今やっている正拳突きは習慣的なものであり、現実での感覚を無くさないようにするためでもある。

 

「――ッ! ふう…」

 

二百本を突き終えた俺は、ゆっくりと手をを下ろして脱力するように息をつく。

 

時計を確認すると、まだまだ余裕がある。

 

「そう言えば、アルゴのヤツどこ集合とか言ってなかったな……まあ、ロビーだろうけど」

 

俺は部屋に備え付けの洗面台で顔を洗う。

 

この体はデータのモノで老廃物は排出されず本来は洗う必要は無いのだが、気分的な問題だ。

 

サッパリしたところでジャージからいつもの装備へと着替え、鏡の前に立って身だしなみを整える。

 

特に深い意味はない。強いて言うなら日課だ。

 

「こんなもんだな。……それにしても、いつになったらカラーチェンジ出来るアイテムが手に入るのか……」

 

自分の黒眼を見てふと思う。

 

菖蒲色、結構気に入ってたんだよな……。

 

「まあ、そのうち手に入るだろう」

 

直ぐにその思考を中断して、再度ベッドに向かう。

 

少し、やることがあるのだ。

 

 

『そう言えばアヤ吉、キー坊たちとはパーティ組んだままなのカ?』

 

『まあそうだな』

 

『ネタにしてもいいカ?』

 

『いや。今日あたり解散する予定だから』

 

『つまんないナァ』

 

「いや、つまんないって……」

 

宿屋ロビーで予定通りに合流した俺とアルゴ。

 

そして現在、アルゴはウルバスの大通りをゆっくり歩き、俺は少し離れた所の屋根の上から周りの様子を観察し、忍者二人組が引っ掛かるのを待っていた。

 

アルゴの作戦はこのようなモノである。

 

①アルゴがウルバスの目立つところを練り歩き掛かるのを待つ。

 

②俺が掛かったのを確認したらアルゴにメールを送る。それをアルゴが確認したらフィールドに出て人目の付かないところに逃げる。俺もその後を追う。

 

③レッツ拷問タイム♪

 

という具合だ。恐ろしく荒削りな作戦である。

 

最後の拷問は俺に任せるとのコトだが、お前は俺に犯罪者(オレンジプレイヤー)になれとでも言うのか?

 

条件付けのデュエルに持ち込めば何とか出来るかもしれないが、それでもレベルに差が無いからかなり難しい。

 

厄介事は全部俺に押し付けやがったよこの鼠は。

 

大通りをのんびりと歩くアルゴを軽く睨みつける。

 

そしてするだけ無駄だと思い、周囲に怪しいヤツらがいないかと目を向けた。

 

「と言っても、仮にも忍者名乗ってるヤツがそう簡単に見つか…る…と……」

 

居た。灰色の布装備。顔を覆う同色のバンダナとマスク。《遠見》を発動させて見てみると、背中からシミターの柄を確認出来た。

 

そんな格好をしてるヤツが二人、路地裏から顔を覗かせていた。

 

「……馬鹿か」

 

思わず口からこぼれた。

 

『発見』

 

『分かったヨ』

 

簡潔な文章を打ち込み、アルゴに送信すると直ぐに返信が来た。そしてその直後、アルゴが走り出した。その後を慌てて似非忍者二人組が追い掛ける。

 

俺もそれに続く。

 

屋根の上を、それこそ忍者のように飛び移りながら三人のあとを追いかけていくと、俺を含む全員が敏捷値振りの構成(ビルド)のためあっという間にフィールドに出た。

 

「待つでござる!」

 

「今日こそ情報を売ってもらうでござるよ!」

 

「だかラ! いくら積まれても売らないって言ってるダロ!」

 

フィールドに出た途端、忍者二人組が揃って声を挙げた。

 

街中で声を挙げなかったコトを考えるに、二人が欲しい情報はあまり周りに漏らしたくないモノなのだろう。

 

と言うか、逃走者に自分の位置を自分たちから教えて、それでも忍者か……。

 

そんなやり取りを何回も繰り返しながら、俺たちはテーブルマウンテンの乱立する入り組んだ地形のフィールドに入って行った。

 

そこからは岩から岩へと飛び移ったり崖をよじ登ったりと、なかなか出来ないアクロバティックな鬼ごっこが繰り広げられた。

 

みんな身軽だな、と思いながら、三人よりも高い位置をキープしながら付いていく。

 

そんな鬼ごっこを十分くらい続けたとき、アルゴからメールが届いた。

 

『ここら辺でいいゾ』

 

「了解」

 

俺は右腰に付いているポーチをクリックして《スローイング・ナイフ》を一本取りだす。

 

それを握りながらナイフを投げる姿勢を取ると、ナイフが黄色のライトエフェクトを纏い、システムに従って投げ付ける。

 

投げ付けられたナイフは忍者の顔の真横を鋭角に通り過ぎ、進行を阻むかのように地面に突き刺さった。

 

「「なッ!?」」

 

驚いた忍者二人組は狙い通りその足を止めた。

 

その間にアルゴは走り去り、俺は岩から飛び降りて二人を遮るように地面に降り立った。

 

「貴様何奴ッ!」

 

「名を名乗れッ!」

 

アルゴを逃がされた恨みか、二人は睨みを利かせながら怒鳴り声を挙げる。

 

「名前を聞くときは、先ず自分から名乗るものだろ?」

 

「……それもそうでござるな。拙者、《風魔忍軍》のコタローと申す」

 

「同じく《風魔忍軍》のイスケでござる」

 

睨み返して言うと、二人は案外あっさりと名前を教えてくれた。

 

「……俺はアヤメ。まだ第一層ボス戦時のパーティは解散してないけど、一応ソロプレイヤーだ」

 

そう言うと、二人は怯んだかのように半歩後ろに下がった。

 

おそらく《ボス戦》と《ソロプレイヤー》という言葉に反応したのだろう。

 

第一層ボス戦のとき、参加したプレイヤー数は全部で四十四人。その中でソロプレイヤーは、俺、キリト、アスナの三人しかいなかった。

 

《ボス戦に参加した》というだけでもトップクラスの実力者になるというのに、その戦いで指揮を取り、ボスに止めを刺したのがソロプレイヤーだったのだから警戒して当たり前だ。

 

まあ、それはキリトで、俺は周りにいた雑魚の掃除しかしてないけど。

 

「そ、そのソロプレイヤーが何用か!」

 

さて、何と答えるべきか。

 

仮に「アルゴに頼まれた」と言ったとしよう。

 

そうすると、「そこまでして拙者たちに教えたくないのか!」とアルゴを逆恨みするかもしれない。逆に、「そこまでして教えたくないのでござるか……」と諦めてくれるかもしれない。

 

後者なら有り難いことこの上ないが、前者の場合はアルゴに申し訳なさすぎる。

 

情報の売買ならともかく、それ以外のコトで恨まれるのはさすがに可哀相だ。

 

では、「ただの通りすがり」と答えたとしよう。

 

問題外。アルゴから聞いた話じゃその執念は並みではないらしいから、第三者に注意されたところで諦めるわけがない。

 

そう悩んでいると、俺は今までの発想と全く違うウルトラCを思い付いた。

 

半分くらいは愚痴みたいなモノだが、忍者愛の深そうな二人にはきっと効果がある。……多分。

 

 

【アルゴside】

 

アヤメの助けでコタローとイスケを捲いた私は、ある程度距離をあけてからテーブルマウンテンの陰に入り込み身を隠した。

 

そこでメニューを開いて《隠蔽(ハイディング)》スキルを選択し、さらに《スキル強化オプション》である《透化(インビジブル)》を使った。

 

すると、私の体は装備も含めて半透明になり、視界に《隠れ率(ハイド・レート)》を示す【85%】という数字が現れた。

 

《隠れ率》とは、今背景にこれくらい溶け込んでいますよ、というのを表すモノだ。

 

それはともかく。私はそれらがしっかりと発動したのを確認して、後ろの絶壁を登った。

 

私だって鬼じゃない。依頼を受けてくれたアヤメの心配くらいはする。

 

「よっこいショ」

 

崖を登り終えた私は隠れ率が【70%】を下回らないように、でも極力速くアヤメたちがいるところに向かった。

 

「そ、そのソロプレイヤーが何用か!」

 

突然、そのような声が聞こえた。確かこの声はイスケだったかな?

 

声に若干の怯えが含まれていたので、状況的にはアヤメが有利なのだろう。

 

テーブルマウンテンンの淵から顔を覗かせると、アヤメの無事を確認出来た。

 

「よかった……ってヤバ」

 

そのコトに安心を覚え、思わず《素の自分》が出てきてしまった。

 

慌てて私は頬を叩いて《鼠》を取り戻す。

 

「俺はお前らの駄忍者っぷりを注意しに来たんだよ」

 

「「「……はあ?」」」

 

戻したところで、アヤメの訳のわからない理由にまた素が出た。

 

それは忍者二人も同じようで、私たち三人は同時に気の抜けたような声を出した。

 

「いいか、お前らは忍者を舐めている。と言うよりは、ゲーム、アニメ、漫画の影響を受け過ぎているんだ」

 

「「なに!?」」

 

「例えばだな、お前らは街中でもその装備をしていただろ? はっきり言って馬鹿かお前たちは。忍者が真っ昼間から、それも街中でそんな目立つ格好をすると思うか? 答えは否だ。忍者は《忍ぶ者》と書くんだから、白昼堂々『自分は忍者ですよ』と周りに明かすようなコトするはずがない。隠せよ、自分を。忍者の街中での格好はそこらのベターな格好でいいんだよ。……いや、NPC並みに地味でいいな」

 

「お…おお……」

 

「イヤ、感心するコトカ……?」

 

私はばれないように小声で忍者二人に突っ込みを入れた。

 

その後もアヤメは、尾行が何やら情報秘匿が何やらと《忍者とは何たるか》を熱弁した。

 

私にとっては非常にドーデモイイ話なのだが、忍者二人はいちいち感心したように頷いた。いつの間にか正座になっている。

 

私からしたら、絶対に自分より年上であろう男性二人に説教じみたコトをやってのけるアヤメの胆力に感心するよ……。

 

「でだ。お前らはどうして《鼠》を追い掛けていた訳だ?」

 

突然、アヤメが話の方向を変えた。

 

「はっ。拙者たちは自身を完成させるため、《体術》というエクストラスキルを会得したいのでござる」

 

と、コタローは頭を垂れてはっきりと発言した。

 

「バカ!」と叫びそうになった。これでアヤメも情報欲しがったら本末転倒じゃないか!

 

「なるほど。で、その情報を知ってるアルゴを追い掛け回していた、と」

 

「左様でござる」

 

「馬鹿かお前らは」

 

私が頭を抱えていると、アヤメの声のトーンが少し下がった。

 

「忍者の主な仕事は暗殺云々じゃなくて情報収集だ。なのに、自分たちで必死扱いて探そうともせず女性追い掛け回すとか……最低だな」

 

ほんの少し、ゾクリときた。

 

「「は…はっ!」」

 

「お前たちの忍道はまだ始まってすらいない。先ずは己の腕でその情報を見つけ出し、真の忍の道を歩むのだ」

 

「「御意ッ!!」」

 

アヤメが芝居掛かったセリフでそう指示(?)を出すと、忍者二人はすくっと立ち上がり、アヤメに一礼してから回れ右をして来た道を戻って行った。

 

「……ノリって大事だな」

 

「どちらかと言うとアイツらがバカなんだヨ。ところで、アヤ吉は忍者好き?」

 

崖から飛び降りて、アヤメの直ぐ側に降り立つ。

 

そのあとで隠蔽と透化を解除すると、アヤメは少しだけ驚いた様な声を挙げた。

 

「驚いた。こんな近くにいたのか。……恥ずかしながら、その通りだ」

 

「案外子供っぽいナ」

 

「煩い」

 

面白くなさそうな目をするアヤメを見て「ニシシ」と笑う。

 

「良い情報を入手したヨ」

 

「売ったら泣かす」

 

ちょっと顔が本気だった。

 

私は誤魔化すように、アヤメのあのよく分からない理由について気になったコトを尋ねてみた。

 

「なァ、アヤ吉。あのとき、何でオイラに頼まれたって言わなかったんダ?」

 

「ん? ああ。お前に頼まれたって言ったら、お前に変な恨みを向けるんじゃないか、と思ってな。さすがのお前も商売以外の恨みを受けるのはキツいだろ?」

 

「ふぅ~ン……」

 

そう言うわけか。

 

「まあ、アイツらに対する不満もあった……何してんだ?」

 

「アヤ吉の腕に抱き付いてるんだヨ」

 

ギュッ、とアヤメに抱き付く腕に力を込める。

 

「いや、それは分かるが……」

 

「優しい優しいアヤ吉に、オネーサンからのサービスだヨ」

 

そう言ってから、私はアヤ吉を引っ張るようにして歩き出した。

 

「ちょ、どこに行くんだ?」

 

「《体術》スキルを会得出来るところにダ」

 


 
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