No.513914

SAO~菖蒲の瞳~ 第十五話

bambambooさん

十五話目更新です。

十二月八日ごろに《Wii U》で《モンハンtryG HDバージョン》が発売されるそうですね。

それでふと思いましたけど、《アミュスフィア》でキリト君たちにモンハンやらせてみたくね?

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2012-12-01 14:32:10 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1695   閲覧ユーザー数:1622

 

第十五話 ~ ヒゲの理由 ~

 

 

【アヤメside】

 

「なあ、アルゴ」

 

俺の少し上を行くアルゴに声を掛けてみる。

 

「なんダ、アヤ吉?」

 

すると、アルゴは真っ直ぐ上を見ながら淡々とした声で返してきた。

 

「あとどれくらいだ?」

 

「もう少しダ」

 

「そうか」

 

最早何度目か分からないやり取りをしながら、俺とアルゴはここら一帯で最も大きい岩山の岩壁をよじ登る。

 

ふと横を見ると、第二層のサバンナのようなフィールドが一望できた。

 

アルゴにエクストラスキル《体術》を習得出来る場所に案内してやる、と言われ付いて来たはいいが、まさかこうなるとは思わなかった。

 

大小様々なテーブルマウンテンを越え、洞窟に潜り込み、その中にある地下水脈をウォータースライダーのように滑り、三度の戦闘を経て、今度ははこの巨大な岩壁を登る。

 

髑髏水晶を探したあの考古学者も真っ青な大冒険だ。

 

「なあ、アルゴ」

 

「なんダ、アヤ吉」

 

「どうしてあそこまで頑なに《体術》スキルの情報を売ろうとしなかったんだ?」

 

「そっちの情報は有料だヨ」

 

「……後払いはダメか?」

 

「先払いしかダメだナ」

 

「………」

 

そこからは始終無言でただひたすら岩壁を登り続け、五分程登ったときようやくゴールが見えた。

 

傾斜も緩やかになり、手を使わなくても登れるくらいになった。

 

「アルゴ」

 

俺はアルゴの近くに走り寄り、コルを手渡した。

 

「そんなに知りたいのカ? アヤ吉も物好きだナ」

 

「お前が売りたくない理由とか気になるからな」

 

アルゴは手渡されたコルを手品のように仕舞うと、いつものふてぶてしい笑みを潜めた。

 

「ふ~ン。まァ、簡単な話。オイラが恨まれるからだヨ」

 

肩を落として気怠そうに言うアルゴ。

 

何とも不思議な理由だった。

 

「エクストラスキルの情報を得られたんだから、感謝こそすれ恨むことは無いだろ?」

 

「それがそうもいかないんダ。習得するためのクエスト内容もあるケド、ちょっとした条件があってナ……」

 

アルゴは少し遠い目をして言った。

 

察するに、以前に一度やったコトがあるのだろう。

 

「その条件が、下手すると一生恨まれる原因になるんだヨ」

 

その情景を思い描いたのか、アルゴは小さな体を怯えるように震わせた。

 

コレ以上喋らせるのも酷だと思い、そこで無理やり会話を終わらせる。

 

「まあ、詳しくは自分で見て体験しろと」

 

「……そうだナ。そして、丁度到着ダ」

 

そう言われて周りを見回してみると、岸壁に囲また小空間の中に泉と一本の樹、そして小屋が一軒建っていた。

 

「いかにも『山籠もりしてます』って場所だな」

 

俺がそんな感想を抱いていると、アルゴは躊躇無くその小屋へと歩み寄り、勢いよく扉を開け放て小屋の中に入っていった。

 

俺も後に続いて小屋に入ると、中にはいくつかの家具と、筋骨隆々で長い髭をたくわえた初老の大男がいた。

 

大男の頭上には金色の【!】がある。クエスト開始点の証しだ。

 

「やるかやらないかはアヤ吉次第ダ」

 

アルゴは俺が大男まで一直線に行けるように、横に避けて言った。

 

「アルゴは、《体術》スキルはどんなスキルだと思う?」

 

俺の突然の問いに、アルゴは腕を組み難しい顔をして答えた。

 

「そうだナ。武器なしの素手で攻撃するためのスキル、って考えるのが普通だケド……」

 

「それは既に《格闘》スキルがある」

 

「そうなんだよナ~」

 

自分の知らない情報があるのが情報屋のプライドに障るのか、アルゴは気に喰わない様子だった。

 

「ハッキリさせるには、誰かに習得して貰うしか無いわけか」

 

俺のその発言に、アルゴは少しだけ顔を上げて尋ねてきた。

 

「誰かいいヤツいないカ?」

 

「お前」

 

「オイラはもう懲り懲りだヨ……」

 

既に知っているのだから、と思ってアルゴを推してみると、心底嫌そうな顔をして断られた。

 

「そう言うアヤ吉は?」

 

「お前の態度を見てやる気失せた」

 

「アヤ吉のいくじなし」

 

「なんとでも言え」

 

でも、ここまで来ると気になるしな……誰かいないか、こういうのに向いてそうなヤツ……。

 

「……あ、いた」

 

灯台下暗しとはこのコトか。

 

 

「ここがその《体術》スキルを習得出来る場所か?」

 

「そうなんだよな?」

 

「間違いないヨ」

 

俺が選んだ実験た……挑戦してくれそうな人物とは、真っ黒なコートを着た少年。第一層ボス戦にて大活躍をしたキリトだ。

 

提案したとき、アルゴも「ナイスアイディア!」と賛成してくれたので紛うど無き適任者である。

 

因みに、一緒にいたアスナとシリカはウルバスに置いてきている。

 

道中が過酷なため、アスナはともかくシリカのステータスじゃ厳しいと考えたからだ。

 

その代わり、今度二人に何か奢るコトになったのは仕方がないと思う。

 

「それにしても、アルゴがな……」

 

キリトは疑わしげな目でアルゴを見た。

 

「なんダ、キー坊」

 

「いや、別に」

 

しかし、アルゴは何とも無いようで相変わらずふてぶてしい笑顔で返した。

 

「アルゴがこの手のコトで嘘を付かないって知ってるだろ?」

 

「分かってるけどさ……」

 

どうにも釈然としないようだった。

 

その気持ちはよく分かる。

 

「アヤメはやってみたのか?」

 

「俺はもう素手で攻撃するスキルは《格闘》を持ってるからやってない」

 

「ああ、そうか」

 

「でも、それだとせっかくアルゴからタダ(・・)で貰った情報が勿体無いからキリトに教えたんだ」

 

「ふぅーん……ま、確かにアルゴからタダで情報貰うなんてそうないもんな」

 

俺が《タダ》を強調して言うと、折角だから、といった様子でキリトは頷き、小屋の中央にある畳で座禅を組んでいる大男の前へと歩み寄った。

 

「入門希望者か?」

 

大男はキリトを見て言った。

 

「そうだ」

 

「修行の道は険しいぞ?」

 

「望むところ」

 

短い問答を終えると、大男の頭上の【!】が【?】へと変化した。

 

クエストが受領されたのだ。

 

ちらりと横目でアルゴを見てみると、コレから何が起こるか分かっているからか、「二シシ」といやらしい笑みを浮かべていた。

 

「付いて来い」

 

大男にそう言われキリト共々連れてこられたのは、岩壁に囲まれた庭の端にある、高さ二メートル、差し渡し一メートル半はあろうかという巨大な岩の前だった。

 

これは、もしかして……。

 

「汝の修行はただ一つ。両の拳のみでこの岩を割るのだ」

 

だよな。

 

「………ちょ、ちょっとタンマ」

 

慌てた様子のキリトは、その巨大な岩を軽く叩いた。

 

そして、一瞬の絶望を見せたあと、見ていて哀れに感じる清々しい笑顔を俺たちに向けた。

 

「うん、ムリ」

 

……諦め早いな。

 

「どれぐらいの硬さなんだ?」

 

「圏内の建物一歩手前ダ」

 

「《破壊不能(イモータル)オブジェクト》の一歩手前……」

 

それはつまり、この世界で壊せるモノの限界硬度というコトだ。

 

……前言撤回。そりゃ諦めるな、うん。アルゴがやりたがらないのも頷ける。俺もやりたくない。

 

早々にクリアを諦めたキリトは、クエストをキャンセルをしようと大男に向き直った。

 

「この岩を割るまで、山を下りることは許さん。汝には、その証を立ててもらうぞ」

 

が、その直後、大男の右手が実に素晴らしい速度で閃き、いつの間にか取り出していた墨をたっぷりと含んだ太く立派な筆がキリトの顔面に《スバズバズバッ!》と炸裂した。

 

「おわああ!?」

 

「そのペイントは、この岩を割るまで消えることはない。それを誓いとし、精進するのだぞ」

 

キリトは情けない悲鳴を上げるが、時既に遅し。

 

筆の通った跡には、馴染み深い《三本ヒゲ》が残っていた。

 

そして、キリトの師匠となった大男は、無情にも弟子に背を向けて小屋へと帰って行った。

 

「ああ~……そう言うことか」

 

「オイラが売りたくない理由、分かったダロ?」

 

「そうだな、コレは恨まれるな。……ついでに、何で鼠のペイントを入れてるのかも検討がついた」

 

ほぼ破壊不可能の岩を割れと言われて、三本ヒゲを描かれる。

 

そんな無理難題をベータテスト時に押し付けられ、アルゴは《無理》と判断を下してクリアを諦めたが、ペイントはクリアしないと消えないらしいからそのままの格好で山を降りた。

 

そんなアルゴの様子を見たプレイヤーが、いつの間にかアルゴに《鼠》というあだ名付けて拡散。アルゴも後には引けなくなった、と言ったところだろう。

 

ペイントが消えないというのは事実で、さっきからキリトが一生懸命顔をハンカチで拭っているが落ちる気配は全くなかった。滲んでさえいない。

 

まあ、何はともあれ。

 

「ご愁傷様です」

 

「なん…だと…」

 

「ブッ!? にゃハハハ! にゃーハハハハハ!!」

 

俺が拝むように両手を合わせて言うと、キリトは悲嘆な顔をして両手を地面につき、アルゴは地面に突っ伏して吹き出すように爆笑しだした。

 

似たような姿勢なのに物凄い温度差を感じる。

 

「い、いやでも! もしかしたら目立っても格好いいデザインなら……」

 

「諦めろ、《キリえもん》」

 

最後の望みに縋るかのように顔を上げたキリトを、一言で切り捨てる。

 

「にゃハハハハハッ!! あ、アヤ吉は、オイラを殺す、気……にゃーハハハハハッ!!」

 

「お前は少し落ち着け。……あと、服をどうにかしろ……」

 

お腹を抱えて転げまわっているせいか、アルゴのレザーコートはかなり乱れていた。フードが取れて裾がめくれ上がり、思いのほか白い肌が―――――――

 

そこまで認識したとき、俺はすぐさまアルゴから視線を外して綺麗な《orz》の姿勢を取って項垂れるキリトに目を向けた。

 

「キリト」

 

その様子を見てさすがに哀れだと感じた俺は――こうなる原因を作ったのは俺だが――キリトに近付き、その肩に優しく手を置く。

 

それに気付いたキリトは顔を上げて俺を見た。

 

俺は出来る限り優しく勇気づけるような声で言った。

 

「このヒゲはクリアすれば取れるんだ。多分、やったはいいが途中で諦めたヤツの末路があそこで転げ回ってる《鼠》なんだ」

 

「アヤ吉…その通りだケド、さすがに酷いゾ……?」

 

ようやくツボから脱出したらしいアルゴが息と服装を整えながら言った。

 

「それに、このクエストをクリア出来ればこの世界初の《体術スキル習得者》になれるんだ。名誉なコトだと思わないか?」

 

ポツリと、キリトは「ああ」と答えた。

 

「だったら頑張れ。ここで落ち込んでいたらいつまで経ってもその三本ヒゲは取れないんだ」

 

「そうだな……!」

 

キリトはすくっと立ち上がり、岩へと向き直った。

 

「因みに、瓦割りや板割り、バット折りは《割れないとき》が一番痛いんだ。だから、一番痛い痛みを味わいたくなかったら思いっきりその拳を叩きつけて一撃でヤる。その《岩割り》も、それくらいの気概を持って挑戦するコトが大切だと思うぞ」

 

「忍押ッ!」

 

キリトはさっきまでと打って変わって、景気の良い掛け声を上げたあと、右腕を腰溜めに構えて真っ直ぐ岩に突き出した。

 

その後、キリトが山を降りてきたのはそれから三日後だった。

 

俺は暇を見つけてはこっそり様子を窺いに行ったが、休み無く拳を岩に叩きつける姿は涙ぐましいものがあったと言っておこう。

 

そんなキリトには内緒だが、通常、瓦割りは《熨斗瓦(のしがわら)》という用途上《割って使う瓦》を使用、板割りとバット折りは元々壊れやすい専用の物を使用するため、言うほど気概が必要なわけでもなかったりする。

 

ぶっちゃけると、平均的な成人男性なら結構簡単に割れるのだ。

 


 
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