No.511235

干し柿

offeredさん

ほう

2012-11-23 00:42:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:560   閲覧ユーザー数:559

 

「皆、今日はアレを食べに行くわよ!」

「どうした、アレって何だ?」

「ほら、あたしたち皆で準備したでしょ」

「ああ、もう出来たのか」

「そう、昨日鶴屋さんから連絡があったのよ!ああ、楽しみね!」

 

 ハルヒはうっとりとした表情で目を閉じ、口内を満たすであろう甘味を想像しているようだ。

準備をして一月近く待ちぼうけを食らったせいもあるのか、口の端からは涎が光るのが見えた。

 

「ハルヒ、涎が出てるぞ」

「ふぁっ!? 良いじゃない、あたしだって涎が出る事もあるわよ!」

「そうだな」

「何よ、その余裕」

「いや、かわ……いくないなと思ってな」

「まあいいわ。 今日は許してあげる。」

「はいはい、今日は甘味に感謝だな」

「そういうこと」

 

 俺たちは朝比奈さん、古泉と合流し、鶴屋邸へと向かった。

道中にバスから見える風景は既に枯れ木色になっていた。

 

「もうすっかり冬になったわね」

「寒くて困っちゃいますね」

「それにしても、冬ごもりの準備でよく食べた割には太らないな」

「……美味しい物を適切に食べれば問題ない」

「はは、それは努力の賜でしょう、例えば好きな異性が居れば……」

「ハルヒは好きな人いるのか?」

「いないわよ。 あたしは健康体を維持する為には努力を惜しまないだけ、わかる?」

「お前にとっては俺も古泉もジャガイモ同然だろうな」

「……ジャガイモ……バター焼きもいい。……これからの季節は焼き芋が楽しみ」

「全く、あなたは鈍いというよりも無頓着ですね」

 

 そういえば朝比奈さんはベストな栄養の配分だな、豊穣の女神といったところか。

こう見比べると……ハルヒと長門は燃費が悪いな。

 

「キョン、どこ見てるのよ」

「しかし、あの丸みは反則だな……しかしどれも甲乙 」

「死ねっ!」

 

 目から火花が散るような衝撃を受け頭を押さえる……ハルヒの奴、本気だったな。

 

「ほら馬鹿キョン、もうすぐ降りるわよ」

 

 鶴屋邸の軒先には暗橙色になった柿がぶら下がっている。

 

「本当はもうしまっても良いんだけどさっ、冬の風物詩を見ないのも寂しいからねっ!」

「楽しみね」

「みくるっ! お茶入れるから手伝って。 キョン君達は柿をお盆に取っててくれるかなっ!」

「あ、はぁい」

「分かりました」

 

 おおよそ畳一枚分のスペースに吊られている干し柿を一つ手に取ってみる。

暗燈色になったそれの表面には皺が寄り、全体に白く粉を吹いている。

市販の物と比べると若干くすんだ色に見えるな。

 

「……市販の柿は殺菌と防かびの為に硫黄で燻蒸する。……そのとき発色も良くなる」

「へえ、有希詳しいのね」

「あのな、お前も知っておくべきだと思うが」

「いいの、そういうことはあんたがやるのよ。 あたしは食べる係」

「働きたくない者は食べるべきではない、ってな。 座ってたら寒いままだからな」

「分かったわ、皆でやった方が早いしね」

「まあまあ、下準備の時は頑張っていましたからね」

「いいのよ古泉君。 ちゃっちゃと終わらせるわよ」

 

 流石に三人でやると早いものだ、ほんの10分でお盆いっぱいに干し柿の山ができ、

タイミング良く朝比奈さんと鶴屋さんが戻ってきた。

 

「待たせたねっ! 今熱いお茶を煎れるよ」

「この小皿に柿を取って下さいね」

 

 小皿を受け取るときに朝比奈さんの手に触れてしまい、一瞬見つめ合う。

ああ、ここに来て良かった。

 

「ごめんキョン。 お湯がはねたわ」

「熱っ、滴を飛ばすな! いつの間にお茶係になったんだよ!」

「まずは少し温度を下げるのよ。 あとはみくるちゃん、お願いね」

「あ、はぁい」

 

 俺たちは日の当たる縁側に座ってお茶をすすり、干し柿をかじる。

噛む度に控えめな甘さが口いっぱいになる……誰かもこれくらい控えめだと助かるのだが。

 

「キョン、何か言った?」

「いえ何も」

 

終わり

 


 
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