恋愛物語だった筈なんだよね
僕は昨日生まれ変わったばかりの身に過ぎない。可笑しい事考え方に違いないけど、これは今の僕の世界感だ。
昨日与えられたチャンスを切っ掛けにして、新しい人生への道を全力で駆けることを決心した。子共の頃から好きだと思ってきたのに、彼女に自分の気持ちを伝える勇気がなかった。だからこそ幼馴染のゆみちゃんに告白されたら、どうして彼女と僕気の持ちが同類だったことを無視したのかと落ち込んだ。
ゆみちゃんに「ごめんなさい」などと言われるシーンを想像するだけで・・・ううん、彼女の唇が「ごめんなさい」の「ご」の形を作ることさえが怖かったからだろう。
そう、今まで臆病だったんだ。そして、隠し続けてきた気持ちを黙った罪の償いとして責任を取らなきゃ。彼女が僕と同じ立場に置かれていたこと気付いてあげられなかったから。
秋葉原で買い物して、rj電車に乗ろうとしたところで、電車から降りてきた学生が多くて、ビックリした。暗治大学の授業が終わったんじゃないかと思って、ゆみちゃんを待たせるわけにはいけなかったから、慌てて今にもう扉が閉まりそうな電車に乗り込んだ。
夕闇をじっくり迫っていく紅い空の下でコーヒー之水駅へのぼる道路。その楽器の店だらけの道路を黒く染まる学生達の姿を見てうっとりしてしまった。それとも電車の窓に映した彼等のイメージが自分の顔と重なり自分の幻想にうっとりしてしまったのかも。
一瞬そう思った。
次の一瞬は学生の群れの中でその道路を遡った。ゆみちゃんを探した。
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大学の前で待ち合わせる予定だった。
学生の群れがちらちらと消え去っていった頃、一人ぼっちになった僕の影がそこにあった。
へとへとと走ってくる誰かの足音を後ろに聞こえた。突然、熱い体が僕の背中に倒れるような感触がした。ゆみちゃんが遅れそうになって夢中に走ってきたんだ。
振り返れば、顔が真っ赤になって話せなくなると思ったか、ゆみちゃんのはあはあを言う姿をみるのが恥かしかったか、体が凍った。
自分の足元へちらりと見た。僕達の影が一つになっていた。だから、彼女のことがどんなに大事で、大切で、愛しく思っているを叫んだ。好きだと叫んだ。
ゆみちゃんが僕の背中を抱きしめてくれた・・・やっと伝えた。
ずっと前から夢で見ていたシーンよりも美しい光景だろう。ゆみちゃんの美しい手が・・・男
の手なのかよ。
「自分の物語を少女マンガ臭い展開で終わらせる気かよ、このクズ恋愛キャラめええ」
ガラスが厳しい現実にぶつかり、ひびが入ってしまったような感じ。
「ちょっと、自分の人生が「今」生きているくせに、過去形をつかわないでよ、馬鹿」
なにこれ
だれこの外人みたいな不良
「言いたいことはあれば、言え。ナレーションで聞こえるからうんざりだぜ」
だ、だれこの怪しいおじいさん
「同感だわ。会長は怪しいわね」
右に冗談めいたな口調なのに全く笑わない女性。
左に怪しいおじいさん、そして
「後ろから抱きしめているホモ外人っていうなよ。はああ、コイツは納得できなさそうやつだぜ。会長どうする」
ゆみちゃんはどうしたんだ
誰か助けて
「ほら坊主、驚かせたからびびってるのも当然だぞ」
「だ・か・ら、アタシは最初から他のアプローチを進めたんでしょう。でも、アホ名探偵さんが勝手に走り出して困ったまねをしてくれたわね」
「アンさんのツンデレレベルが最近、結構アップしたなあ。なあ、会長」
「坊主こそ、もっと不良っぽくなったんだろう。っていうか先に台詞は何んだ。日本に着いたから日本風のキャラクターの個性の真似をするつもりかい」
わけわからないこといっているおじいさんが笑っている・・・
「カンタンな話だぜ。俺達は昔探偵小説の登場人物だったってわけだ。でも自分のキャラクター性に飽きて、自由になろうとしたんだ。そして自分のことくらい自分で決めようと決めたら、探偵小説であった俺達の世界が消えた」
セクトかも・・・
「セクトじゃないぞ。坊主の話は全て真実だ。でもアンちゃんはわしらと違ってね、作家だったんだぞ。驚くだろう。フィクションを執筆していた者の正体が実際には人物だったとはなあ。まさにメタ探偵諸説に聞こえるだろう」
メタ何・・・
「アタシも結局同じく人物だと気がついたら手遅れだったわ。この二人の邪魔者がそっとしてくれなかったのよ。」
「アンさんがさあ、俺の世界を作った小説家なんだぜ。 ねえ、ちょっと反応してくれえ」
「名探偵さん、不良のロールプレイはこれまでにしていただけるわけにはいかないでしょうか。この子は話の先が見えないのも当たり前でしょう。アタシも長い間目を塞いでたから、彼が今どんなようなことを感じているか分かっているわ」
「俺もだぜ。だから早く気付いて欲しいんだ」
外国人みたいな男子の声が突然低くなった・・いたい
「だから、もう過去形を使うのは禁止だぜ。」
「本題に入ろう。まあ、先ず弟子の無様な真似をお詫びしておくぞ。わしは会長だ」
「アタシはアン・ランです、よろしく」
「そして、俺には名前がないから好きに呼べばいい」
詐欺か ううん違う感じがする 彼等が僕の頭の中を読めるんだ
「つまり、君は何ものだろうね」
「直ぐ分かるでしょう」
「自分が俺らと同じ存在だと」
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『フィクション逃避』の続きなんですが、前作の要旨も含まれてますので、『フィクション逃避」を読んでいない方にも是非読んでいただきたいんです。
また、自分の書いたものにどんな価値を与えばいいか分からないので、悪いコメントでも喜んでいただきます。