No.505728

真・恋姫†夢想@リリカルなのは とある家族の出会い物語 『蒔編~烈火より真紅へ~』

狭乃 狼さん

うちの家族の出会い物語り、今度は蒔でございます。

タイトルのとおり、今回はなのはとのクロス。

鬱展開も多分に含みますので、特に、シグナムとアギトのファンの方、閲覧の際にはくれぐれもお覚悟の程を。

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2012-11-08 12:50:48 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:4329   閲覧ユーザー数:3783

 とある家族の出会い物語 『蒔編~烈火より真紅へ~』

 

 

 

 「……む……ぅ」

 

 俺専用観測空間、ユグドラシル内。メイン居住スペースであるヴァルハラの中の、各種作業ラボ。室内に所狭しと様々な機械郡の乱立する中、俺は一人、一つの巨大なモニターの前にいる。

 

 「……で、どうなん狼君?……なんとか、なりそうか?」

 

 そんな俺に背後から声をかけてくる、関西弁丸出しな女性の声。不安げな感情の込められている彼女のその声に、俺は心苦しくも、今しがた出たばかりの結論を言わざるを得なかった。

 

 「……」

 「っ……!そ、そうか……狼君でも、駄目、なんか……」

 「……すまん、力になれなくて……“はやて”」

 

 静かに首を振った俺の反応、それを見て力無くうなだれるのは、茶色のセミロングの髪をした、蒼いスーツに白いストッキングの眩しい、一人の成熟した女性。胸元に、十字のペンダントをかけた彼女の名は、『八神はやて』。

 そう。『魔法少女リリカルなのは』、そして、『魔法戦記リリカルなのは』でおなじみ、夜天の王、八神はやて、だ。ちなみに、今の彼女は『Force』の時代からさらに一年後の彼女である。

 

 「ううん。気にせんでええよ。狼君はようやってくれたよ。……ま、運命やったんやろな。この子も含め、家の騎士たちは夜天の書とともに気の長い年月を過ごしてきたわけやし、そろそろ、休む時期に来とったんやろ……あ、あれ?なんで、涙なんて……」

 「はやて……」

 「……ごめん。ちっとだけ、ちっとだけ、泣いて、ええ、かな……?」

 「……ああ」

 

 そっと。声を殺し、震える彼女の肩を抱きしめ、俺は自分の胸に顔をうずめて泣いているはやてのことを、そのまま抱きしめた。そしてそのまま、視線だけを背後のカプセルに向け、そこに浮かぶ“彼女たち”をじっと見る。

 赤い髪。端正な顔立ち。閉じられたままの今の双眸も、どこか凛々しさを感じさせるのは、『烈火の将』と呼ばれ、はやてとともに十数年に渡ってかの世界で活躍してきたヴォルケンリッターの一人にして、『シグナム』、そう、“生前”は呼ばれていた女性、だ。 

 そしてもう一人、実際には目に見えているわけではないが、カプセルに眠るシグナムの“中”には、もう一人、いる。その彼女は、カプセル下のスクリーンに、今、その状態が表示されている。

 小さな妖精に見える、こちらもまた赤い髪をした、背中にニ枚の小さな羽根を持つ、『烈火の剣精』こと、古代ベルカのユニゾンデバイス、『アギト』。その彼女が、シグナムとのユニゾン、つまりは合体状態を保ったまま、シグナムの中にいる。

 そんな、カプセル内に居る二人の今の現状を大雑把に言うと、確かに、生物としては一応、生きてはいる。しかし、その目が開かれることは、もはや自由に活動することは、二度と、無い。なぜなら二人とも、本来その身にあるべき魂が、もはやその内に内包されていないから。

 なぜ、二人がこうなったか。それは、今からほんの数日前、俺が珍しく、なのは世界に直接行った、その日に起こったんだ……。

 

 

 

 

 ミッドチルダ、時空管理局、本局内。海上警備部、司令室。

 

 「失礼します。柾騎輝狼三等陸佐。ただいま出頭しました、八神司令」

 「ああ、ご苦労さん、狼君。ごめんな?長期休暇中なのに急に呼び出したりして」

 

 室内に入り、敬礼をした俺に対して、そんな風に砕けた笑顔で声をかけてくれる、この部屋の主であるところの海上警備部司令、八神はやて。そして、そんな彼女の机の前に、彼女の守護騎士、ヴォルケンリッター四人(三人のと一匹?)が、勢ぞろいしていた。もちろん、ユニゾンデバイスの二人、リィンフォースⅡとアギトも、はやての机の上にちょんと立っている。

 なお、先ほど名乗った名前は、このなのは世界で俺が、外史管理者狭乃狼が名乗る、この世界での名前で、「マサキ・キロウ」と読む。ちなみに、肩書きとしては時空管理局本局、地上本部陸士部隊所属の、三等陸佐に、今はなっている。

 

 「いえ。緊急とあれば仕方の無いことです。にしても、ヴォルケンリッター勢ぞろい、ですか。いったい何が?」

 「ああそれ何やけどな。まあその前に、や。言葉遣い、いつも通りでええよ?堅苦しい喋り方は似合わんで?」

 「……そうかな?」

 「ああ、似合わんな」

 「似合わねーな」

 「似合わないですね」

 「似合わんぞ、狼」 

 「似合わないです」

 「似合わねーぞー」

 

 全員そろって、んな、連呼しなくてもいいじゃんかよう……いじめか?新手のいじめなのか?

 

 「……へいへい、分かりましたよ。んで?俺をわざわざ呼ぶってことは、特務でもおっつかない事でも起きたのか?なのはやフェイトたちは?」

 「高町とテスタロッサは、別件で長期出張中でな。他の面子もヴォルフラムで出張っている。手が空いているのは私たちだけだ」

 

 俺の質問に答えるのは、はやての守護騎士の一人、烈火の将シグナム。少し前に起こったエクリプス事件では、一度重症を負って生死の境をさまよったこともあったが、今ではすっかり元気になっている。ちなみに、今でもフッケバイン一家を追っかけているそうで、普段は次元世界のあちこちを飛び回っている。

 ちなみに、ヴォルフラムってのは、はやての指揮する、特務六課所属の特務艦のことである。

 

 「トーマたちも居るには居るけどよ。あいつらにはちっとばかし、荷が重い仕事なんでな。かといって、あたしらだけじゃあ手に余りそうなんだよ」

 「そういうわけで、私たちの隠し玉である狼君と、『フェンリル』隊のみんなに協力してもらおう思てな。休暇中に悪いとは思ったけど、特別手当も出るから、頼まれてくれへんかな?」

 「そりゃまあ、俺たちに出来る事なら」

 

 赤、というよりはオレンジに近い色の髪を三つ編みに結った、見てくれはどう見ても子供にしか見えない、シグナム同様はやての守護騎士である『鉄槌の騎士』ヴィータが、腕を組んでため息混じり言った後、その彼女に続いたはやての依頼に、俺は快くそれを承諾する。

 

 「ほな早速で悪いけど、狼君達はわたしと一緒に出張ってな」

 「了解」

 「主はやて、どうか、お気をつけて」

 「ああ、ありがとうな、シグナム。そっちも十分に気をつけてや。何しろ相手は、正体不明のロストロギアを所持してるらしいから」

 「第一級危険物指定ロストロギア、通称『S・B』。正式な名称、および能力は不明。所有者は広域指名手配中のテロ組織、『U・S』……何の略なんだ、これ?」

 

 俺用のインテリジェントデバイス、『キバ』に送られてきた、今回の事件のデータを見ていた俺が、何気なしにそう呟くと、はやてがそれに答えを返してきた。

 

 「残念ながら、その組織の正しい名称、不明なんよ。構成人員とかもな。けど、時々管理外世界に現れては、様々な破壊活動を手当たりしだいに行ってるんよ。今回はちょっと特殊なソースから情報を得てな?事前に連中の来そうな所を二箇所にまで絞り込めたんよ」

 「なるほど。で、その両方に人員を割いて、同時に見張ろうとしたけど人手が足りないから、俺たちにお呼びがかかったってわけだ」

 「そういうことや。それじゃあみんな、きばって行くで!」

 

 そして、俺ははやて、そしてリィンと一緒に、第十六管理外世界へ赴くことになった。……え?シャマル先生とザフィーラの紹介はどうしたって?

 はやての守護騎士、『湖の騎士』こと、天災料理人シャマル先生。

 同じく守護騎士、『盾の守護獣』こと、八神家のほぼペットと化しているザフィーラ。

 以上、紹介終わり。

 

 「ちょっ?!私達の紹介それだけですか!?てか、天災料理人って酷いですー!」

 「誰がペットだ誰が!」

 

 地の文に突っ込まないように。それにどっちも的を射てるんだから文句言われる筋合いはないっ。じゃ、とっととお仕事行きましょうかーw

 

 

 

 「……しかし、本当に久しぶりだな。この世界でお前と会うのも」

 「せやね。元気そうで何よりやよ。あ、もちろんみんなも、な」

 「ですね。はやてさんもお元気そうで何より」

 「……まあそれはいいのだが……はやて殿?」

 「ん?なに、命ちゃん」

 「……妾の胸、もみながら言うのはやめてくれんか」

 「ええやないの~。別に減るもんやなし。スキンシップやスキンシップ、な?」

 「……そう言いつつ、どさまぎに私のまで揉むのも止めてください……」

 「うんっ、輝里ちゃんのいけず~」

 「っとに変わらんな、お前は……狼、お前、なんでこんなおっぱい好き狸に惚れたんだ?」

 「……」

 

 地上本局陸士377部隊、通称『フェンリル隊』所属の大型トレーラー内にて、はやてとうちの隊の女性陣があれやこれやで盛り上がっているのを遠巻きに見ていた俺に、副長である彼女、ユン=ファションがジト目を向けつつ聞いてくる。 

 いやまあ、ね?揉み魔として今はある種有名なはやてだけど、子供のころはここまでおっぱい魔人じゃなかったんだけどなあ。仲良くなった女性陣の胸を、事あるごとに揉みしだく様になったのって、いつからだっけな?

 ああそうそう。ちなみに、まあ勘のいい人はもう分かってるとは思うけど、ユンとはつまり、うちの嫁の華雄こと雲である。晴れて丙級の管理者試験に受かった彼女は、俺と同行することを前提条件に、こうして恋姫世界以外の外史の中にも渡れるようになっている。ちなみに、姿は華雄だった頃と変化はなし。着ているのが例の水着みたいな戦装束ではなく、陸士の制服になってるぐらいだ。ちなみに、バリアジャケットとデバイスもちゃんと持ってるが、それはまた後でご紹介する。

 なお、フェンリル隊の構成員だが。隊長がこの俺、柾騎輝狼三等陸佐。副長がユン=ファション一等陸尉。そしてメンバーは、東乃輝里二等陸尉と、皇命二等陸尉、南結二等陸尉、である。

 まあ要するに、うちの一家でこの世界に存在することになる時のために存在する、その為だけにこの外史に組み込んだチームである。管理者権限の第一項、『甲級管理者、およびそれに追従する者は、何時如何なる外史にも、その存在を置くことが出来る』を使ってだ。

 

 「……なあなあみんな?うち、この人とは初めて会うたけど、どういう人なん?おとはんとはどういう」

 「あ、そっか。結はまだはやてさんとあったこと無かったっけ。……父さんの、もう一人の、奥さん、だよ」

 「……は?」

 「ああ、結は管理者法第七項を知らんかったか?親父殿たちのような甲級の管理者というのはな、外史の登場人物、その中の誰でも、何人でも、自らの伴侶に出来るのだ」

 「……じゅ、重婚とちゃうん、それ?」

 「まあ、リアルなら確かに犯罪だろうがな。これはあくまで外史でのこと。だからって、誰でも彼でも良いって分けでもないし、中には一人しか絶対嫁は持たん!という奴もいるし」

 「……フケツや……」

 「結?」

 

 あれ?この、結から立ち上るおどろおどろしい気配は、まさか……。

 

 「フケツ!フケツよ!この変態エロエロ親父!そ、そんな何人でもお嫁さんもらうだなんて、ハーレムね?目指してんのはそれなのね?!いやー!こんな倫理の欠片もない男なんかと一緒に居たら空気妊娠するー!ここから出してー!」

 「あらら。結の奥底に眠ってる桂花が出てきちゃった」

 「なるほど。こやつの中のアレが出てくるのは、男のそういう面に過剰に反応したときなわけだな」

 「……あー、結ちゃん、やったっけ?そないに酷く言わんといたげて。わたしも全部承知の上で、みんなと仲良うしとんやから。……それに」

 「……それに?」

 「狼君の第一夫人はわたしやからね♪ほかの女の二人や三人ぐらい許容できる器量は見せとかないとな。うん。わたしってええ本妻やねー」

 「ほほう……言ってくれるじゃないか、はやて。誰が誰の本妻だと?」

 

 ……やべ。

 

 「あ、おれちょっと先行して偵察行ってくるわ。じゃ!」

 「ちょっ!父さん?!」

 「……逃げよったな」

 「……逃げたわね」

 

 なんとでも言ってくれー。どうせまた後で、O☆HA☆NA☆SHIされるのは分かりきってるしさー。それまでの間ぐらい、現実逃避させてくれってーの。ただでさえ、女所帯の中の男って肩身が狭いんだしさ……。

 

 

 

 と。道中はそんなこんなで、久しぶりの家族団欒(?)をすごした俺たち。けど、それは、俺たちが件の現場に到着したとき、ヴィータからの緊急通信で知らされたんだ……。

 

 

 「さあて、と。こっちは当たりか外れか。さて、どっち」

 「あ、ちょっと待って狼君。なんや、ヴィータから次元通信が入ってる。って、緊急コール?もしかして向こうが当たりやったかな?」

 

 目的の次元世界に到着し、この管理世界の支局から目的のポイントに移動してきた俺たちは、トレーラーから降りて早速、周囲の観測体制を整えるために、準備を始めようとした。けど突然、俺たちの一番最後にトレーラーから降りたはやてが、そんな俺たちに待ったをかけた。

 もう一つの目的地点である、第181管理世界に向かった筈のヴィータから、なにやら緊急通信が送られてきたらしく、中空にホロスクリーンを出して受信許可のスイッチを押した。その瞬間、映し出されたのはヴィータの顔のアップ。けどその顔は、焦りと悲しみに彩れていた。

 

 「はやて!すぐこっちに来てよ!し、シグナムが、シグナムが……っ!」

 「ちょ、ヴィータどないしたん!?シグナムがどうしたんや?!」

 「シグナムが、シグナムがあたしを庇って、敵に……っ!うわあああああああっ!?」

 「ヴィータ!?ちょっとヴィータ?!」

 

 突然。それは途切れてしまった。最後にスクリーンに映し出されたのは、突然横合いから吹き飛ばされたヴィータの、バリアジャケット装備の時はいつも被っている帽子、それが粉々になって吹き飛ばされていく様だった。

 

 「くそっ!向こうが当たりか!はやて!すぐにでもあっちの世界に」

 「……無理や。あっちの世界に今から行くんは、個人転送しか手段が無い……っ。けどそれも、時間がかかりすぎる……っ!」

 「具体的にはどれほど?」

 『計算が出来た。最短ルートの転送パターンを使っても、およそ10800秒だ』

 「キバ……さんきゅ。つまりは約三時間、か」

 

 俺のデバイス、剣型インテリジェントデバイスであるところの、キバ(まあぶっちゃけ、普段左腕にしてる牙を、デバイス形態に変えているだけ)が、次元転送のための最短時間を即座に割り出してくれた。しかしそれでも、目的地に着くには三時間もかかってしまう。

 次元航行船の手元に無い俺たちには、現状、転送ポートのある支局に戻るか、この場ですぐ、個人転送魔法を使うしか次元渡航の手段が無い。現在地点から支局に戻るのにかかる時間は、三十分。それだけでも、すでに手遅れとなっていることは、火を見るより明らかだ。

 

 「……シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、アギト……このままじゃ、このままじゃ皆が……っ!」

 「……どうする、狼」

 「……はやて、俺に掴まれ」

 「狼、くん……?」

 「“管理者モード”を一時的に使って、緊急ジャンプをする。ただし、この場合連れて行けるのは一人だけだから、他の皆はトレーラーでポートに戻って、そこから応援と医療班を連れてあっちに来てくれ」

 「……ええ、の?」

 「場合が場合だ。ほら、急ぐぞ!」

 「う、うん!」

 

 涙をぬぐい、俺の腕にしがみつくはやて。その体が、小刻みに震えているのが、俺の腕を通して感じ取れる。その彼女を反対の腕でやさしく包み込み、俺は自分の頭上と足元、二箇所同時にベルカ式の三角形の魔方陣を展開する。

 

 「じゃあ行くぞ。……管理者権限、第三項の一条。管理者能力の外史内での緊急発動を申請……承認確認。術式展開……座標チェック……指定空間にアクセス……ジャンプ」

 

 ……頼む、間に合っててくれよ……っ! 

 

 

 

 転移を終了し、俺たちが最初に見たもの。

 それは、あたり一面に広がる、直径数十メートル以上の広さのクレーター、だった。周囲はまるで、はじめから何も無かったかのように静まり返り、周辺からは一切の動体反応が検出されない。

 

 「……うそ、や……」

 「……また、間に合わなかった、のか……っ!」

 「シグナム……っ!ヴィータ……っ!シャマルっ……!ザフィーラっ……!アギト……っ!みんな、みんな返事してや!こんな、こんな冗談、わたし嫌いやで!?」

 「はやて……」

 『……狼。熱源反応を感知した。全部で三つ。魔力パターンから推測して、ヴィータ一尉、シャマル医師、ザフィーラの可能性92%』

 『え』

 

 キバのその声に、俺とはやてはすぐさま、その反応あった方へと移動する。そこには、瓦礫の中に出来た隙間に、重なるようにして倒れているヴィータたちと。

 

 「シグ……ナ、ム……?」

 「アギト……?」

 

 そのヴィータたちを守るようにして、その瓦礫の前に仁王立ち状態で居た、シグナムの姿、だった。それと、彼女の中からは、ユニゾンしているのであろうアギトの存在も感じられた。だが。

 

 「……そんな、まさか……」

 「狼くん……?」

 「……シグナム達から、魂が、消えて、る……?」

 「……え?」

 

 古代ベルカの時代に生み出され、ほんの数年前まで眠っていただけのアギトは、生物としての肉体というのをちゃんと持っている。もちろん、シグナムだって、その身体こそ元はプログラムであろうとも、現実に実体化し、世界にきちんと存在している以上、それは間違いなく、一個としての生命である。

 故に、生命体の摂理として、その根幹を成す魂、それは必ず存在し、二人という個を形作っているのだ。けれど、この俺の目には、管理者としての俺のこの目には、二人の内に内包されているはずの魂が、どこにも、見えなかった。

 

 『バカな!アギトはともかく、如何に本人の強い願いで限りなく人に近づいた身体になっているとはいえ、シグナムはその根本は“プログラム”の実体化した存在だぞ?それを形成、固着している魂無しに、その存在を保てるわけが』

 「そういう問題じゃない!いや、確かにそれも不可解だけど、この場合問題なのは……っ」

 「……魂が、無い……?それはつまり、シグナムが、死ん……だ?アギ……ト、も……?うそ、やろ?……な、なあ狼くん?それ、いつもの冗談、なんやろ……?」

 

 シグナムの前に力なく座り込んでいたはやてが、俺の方を、虚ろな色に染まったその瞳で振り返ってくる。涙は出ていない。いや、出ないのだろう。……あまりな、この想像だに出来ない、信じることの出来ない、今の現状を理解したくないあまりに。

 そんなはやてを見た俺は、少しだけ、思考を巡らせた後、牙へとそれを命令した。

 

 

 「……キバ。いやさ牙。雲たちに、通信を。……俺は今から、はやてと、シグナムたちを連れて、ユグドラシルに戻ると。後で迎えに来るから、それまで、ヴィータたちのことを頼む、と」

 『……何をする気だ』

 「あと、向こうに居る“あいつ”に、ユミルの聖水とユグドラシルの葉を、それぞれ用意しておいてくれるよう、連絡を入れてくれ」

 

 ……正直、今、ユグドラシルに戻るのは避けたいとこではある。特に、はやてを連れてなら尚更、だ。けど、処置をするなら、早いうちに越したことは無い。もっとも最悪の場合、彼女を抜きには、あの手も使えないから、な。

 それに、あいつをはやてに会わせるのも、まだ時期尚早だと思っていたけど、こうなった以上は仕方ない。……もしもの場合、あいつには、はやてを支えてもらわにゃ……な。

 

 『……蘇生の処置でもする気か?しかしあれは』

 「いいから早くしろ!……はやて」

 「……」

 「……はやて、お前もユグドラシルに一緒に来い。可能性はわずかだが……シグナムたち、何とか助けられないか、やってみる」

 「っ!ほんま?ほんまにシグナムたち、助けられ……っ!」

 「……可能性は、ビッグバンの起きるより低いけど、な。……何もせずに、可能性をゼロのままにするより、何億倍もマシだ」

 「う、うん」

 

 そうして、牙の奴が通信を終えたところで、俺たちはその場から立ち去った。もちろん、何故かユニゾン状態を保ったままで居る、シグナムとアギトを連れて。

 そして、ユグドラシルに戻った俺たちは、慌しくラボに駆け込み、シグナムの身体を何時もの調整ポッドに入れた。

 そして話は冒頭に戻る。

 

 

 

 「ユミルの聖水と、ユグドラシルの葉から抽出したエキス、それらの混じった洋液、その中で、なんとか身体は維持できた。……けど、やっぱり、失われた魂は……」

 

 本物の神様ならともかく、消滅した魂を復活させることなんぞ、やっぱり土台無理な話だった。しかし、どうして魂だけが消滅したんだ?あそこで遭遇したであろうテロリスト、その連中が持っていたロストロギアの力、なんだろうか。

 

 「……狼君。もう、ええよ。ほんと、ありがとうな?……その想いだけで、私はもう十分や……ふふ。でもホンマ、何年ぶりやろね?こうして狼君の胸の中で泣いたのって。……前は確か、リィンフォースの時やったっけかな?」

 「……ああ、そうだ、な……」

 「あ、ちょっとお手洗い貸してな?顔、ちょっと洗ってくるわ」

 

 そう言って、そそくさと、顔を隠しながら部屋を出て行くはやて。その彼女と入れ替わりに、というか、はやてがここから出て行くのを待っていたのであろうその人物が、静かに俺の所に近づいてきた。

 

 「……マイ・マイスター」

 「……お前さんか。すまんな、せっかくあれこれ用意してくれたのに、全部、駄目になっちまった。……お前さんの“姉妹”も、助けられなかった」

 「いえ、お気になさらず。……将も……いえ、シグナムも、今まで永い時を過ごして来たのです。最期は皆を、ヴィータやシャマル、ザフィーラたちを守って逝けたのですから、彼女も本望でしょう」

 「……そう、だといいけど、な……」

 

 真っ白にほぼ近い髪をしたその人物の言葉に、俺はほんの少しだけ、気分が楽になった……気がする。そこに。

 

 「あれ狼君?その子、誰?」

 「っ!?」

 「はやて……何時の間に」

 「いや、たった今やけど……なに?まさか新しい嫁とか言わへんやろね?わたしや華雄はんの知らん間に、新しい女に手え出すとはいい度胸やん……ふっふっふ」

 「いやいやいや!思いっきり勘違いですから!……彼女はな、輝里達と同じ、俺の娘の一人、だよ」

 「はい、あるj……いえ、八神はやて嬢。始めまして。マイスター狼の五番目の娘にあたります、名は『美咲(みさき)・ヒルドル・風羽(かざは)』と、申します」

 「美咲、ちゃん、か……なあ、どっかで会うたこと無い?なんか、初めて会う気がせえへんのやけど」

 

 銀に近い白髪の彼女、美咲の自己紹介を受けたはやてが、彼女の顔を真っ直ぐに見ながら、自分の記憶を探っている。美咲の赤い瞳とその顔立ち、そしてその身にまとう雰囲気に、以前、何処かで見たような気がすると、そう言いながら。

 

 「そ、それは」

 「ん~……ああ、そっか。似てるんや、雰囲気があの子に、アインスに」

 『っ!』

 

 はやてのその言葉に、思わずドキッとした俺と美咲。何故ならそれは、はやての言った事は、思い切りその的を射ていたからだ。

 アインス。

 それは、はやての最初のパートナーで、かつて闇の書と呼ばれた夜天の書、その管制人格だった、もう一人のヴォルケンリッターと言っていい存在。

 幸運の追い風、祝福のエール、『リィンフォース』。その最初の名を与えられた、はやてにとって、全ての始まりのきっかけとなった、今でもかけがえの無い存在の事だ。

 

 「……えっと、な。はやて、実はその、な」

 「マイスター狼、いえ、とうさま。……その話は、また、別の機会に。それより今は、シグナムたちのことの方が」

 「あ、ああ、そうだな。……なあはやて?シグナムとアギトの、この身体のことなんだが」

 「うん……やっぱりちゃんと、二人とも弔ってあげんと、な。せめてそれぐらいのことはきちんとしてあげんと、二人ともうかばれんやろし。ユニゾンしたまんまってのが、ちっとあれやけど」

 「……それなんだけど、な。実は今な。あそこにある『揺りかご』の中にな?とある魂が眠っているんだが」

 「とある魂?あ、もしかして、狼君の新しい娘?」

 「まあな。順番的には三番目になるか。目覚める順番が、色々な事情が重なって後回しになってるけど、れっきとした俺の三女になる存在なんだが……実は、な。その子、魂を構築してるデータの7割が、その……シグナム、なんだわ」

 「……へ?」

 

 

 そう。実を言うと、今現在揺りかごの中で目覚めの時を待っている、ヴァルキュリアーズの三番目、No(トレース)は、ヘルヘイムでの魂魄精製段階で、基幹部分のデータにシグナムの各種データを使ったのだ。

 実の所、初めて一から完全な人工魂魄を創るのは、流石に不安要素が多かったので、できる限り安定した状態で誕生させられるようにと、既に存在する人物をモデルにその基本データを設定して、魂魄の構築を行なったのだ。そしてそのモデルとしたのが、何を隠そうシグナムだったのである。

 ただし。

 

 「……ただし、その時モデルにしたシグナムのデータは、あるルートから手に入れた、はやて……お前さんと、出会って間もない頃の、彼女のものなんだ」

 「……えと。じゃあ、この子は」

 「目が覚めた後、こいつには、闇の書事件以降の、ここ十数年の記憶は、無い。ただ」

 「……脳にはその記憶がおそらくそのまま残っているはず。ですが、それによって、蒔がかえって混乱するかもしれません」

 「つまり、蒔ちゃんの魂が持ってる記憶と、シグナムの身体が持ってる記憶、その双方が上手く溶け合わなかったら」

 「……最悪、人格の崩壊すら、おきかねません」

 

 脳に蓄積される記憶と、魂の方に蓄積される記憶。本来であれば、人はその死を持って身体の方の記憶は一切洗い流されるもの。対して、魂のほうに蓄積された記憶は、未来永劫に渡り、その深遠に深く記憶される。現実においても、時折前世の記憶を持って生まれる子供がいるのは、その為だ。

 しかし。

 本来ならそうして交わるはずのない、如何に同一人物の持っていた記憶であっても、突然そういった複数の情報が一つに混ざれば、纏まりきらず、脳と魂のその両方に、甚大な混乱をもたらす可能性もある。

 

 「……はやて嬢、もし、もしも、ですが。……蒔が、今のシグナムの身体に入り、新しい存在としての人生を過ごして行くこと、それを貴女が認められるのであれば」

 「……シグナムを、蒔として生まれ変わらせることが可能だ。ただその場合」

 「その場合?」

 「……脳のほうにインプットされている情報、つまり、ここ十数年の記憶はすべて、洗い流さないといけない。シグナムの中にいるアギトも、分離はおそらくもう出来ないだろうから、そのまま、一つの身体に混ざり合うことになる。……はやて、後は、君の判断しだいだ。夜天の主として、シグナムたちの家族として、決断……してくれ」

 「……」

 

 はやてがその結果を出すまで、俺たちはラボから出ていることにした。一人でゆっくり、シグナムたちと話して欲しいから。

 

 

 

 そして。

 

 

 

 「蒔や~ん?どっかお出かけか~?」

 「ああ、結。なに、親父の使いでミッドに、な。八神家に届けものだ」

 「ほうか~……もうそんな時期やねんな……(ぼそ)」

 「ん?何かいったか?」

 「んにゃ、なんでもあらへんよ。ほな気をつけてな~。お土産よろしゅう~」

 

 あれから一年が過ぎた。結論から言えば、はやては蒔が蒔として生きることを認めてくれた。そこにはさまざまな葛藤があっただろう。アギトも結局、分離手段を手を尽くして模索してみたが、やはりユニゾンを解除することは出来なかった。今、かつてシグナムとアギトと、それぞれに単独で存在していた二人は、『(マキ)・ゲイルス・ケルグ・北深(キタミ)』として、俺の新しい娘、ヴァルキュリアーズのNo(トレース)として、その日々を送っている。

 そして今日は、ちょうどあれから一年経った、記念日だ。そして、同時にシグナムとアギトだった二人の命日でもある。だから、俺は蒔に一人で、ミッドの八神家に用事を頼んだ。はやてたちにも、前もって了承済みだ。多分今頃、蒔がくるのを今か今かと待ち受けているだろう。

 不安だったヴィータやシャマル、ザフィーラにリィンⅡという、はやての他の家族たちのあの時の反応も、紆余曲折こそあったが、今ではすっかり、蒔の存在を受け入れてくれている。ちなみに、蒔の方もそれは同様である。

 最初のうちこそ、なんだか自分を見られているようで見られていない、そんな風に言っていた彼女だったが、時が経つに連れ、それもまた、彼女の中で自己消化出来た様である。今はもう、何のわだかまりもなく、八神家の面々とも交われるようになっていた。

 ちなみに、彼女の薄かった赤っぽい髪の色は、今では完全に、真紅と言って良い色になっている。おそらく、溶け込んだアギトの因子が、自己主張のように出てきたのだろうと思う。なお普段は服で隠れて見えないが、蒔の背中には二枚の羽の形をした痣というかタトゥーのようなものがある。それもまた、アギトの影響なんだろう。

 

 「……なんとか、丸く収まったみたいで、良かった……かな?」

 「そう、ですね……主はやても、騎士たちも、みな、穏やかに過ごしているようですから……」

 「……お前も、あそこに“もう一度”、混ざりたいとは思わないのか?」

 「……混ざりたくない、と言えば、嘘になりますか。ですが、今の私は、マイスター狼の娘、ヴァルキュリアーズのNo(クインク)、美咲・ヒルドル・風羽、です。……祝福の風ではもう、ありませんから」

 「……そっか」

 

 そこで、俺たちの会話はぷつりと途切れた。後は、目の前のモニターに映し出される光景を、ミッドチルダ市内にある、八神家のその様子をただじっと見詰め続ける。何も知らずにそこにやって来た蒔を、はやてたちがクラッカーを盛大に鳴らして迎え、困惑する彼女を皆で囲み、やがて、幸せそうに同じ時を同じ空間で過ごし始める、そんな光景を。

 そして俺には、それが幻視できていた。

 

 シグナムとアギト。

 

 その、今は一つの存在に交じり合った二人が、皆と笑顔でいるその光景が……。 

 

 ~エンド~

 

 

 よ、予想以上に長くなったぜw

 

 と言うわけで、うちの家族の出会い物語り、その蒔編のお送りでした。

 

 まさかトータルで文字数、12000文字オーバーまで行こうとは(汗;

 

 今回ははやてたち、リリカルなのはのメンバー登場の、久しぶりなクロスもののお話となりました。一応、世界的には恋姫世界との繋がりもありますので、タグにもそうはつけておきました。

 

 華雄も出てますしねw

 

 さて、お話の中でも思いっきり伏線張りまくりました、美咲。

 

 次は彼女の誕生の様子をお届けする気でおります。

 

 もちろんその前に、仲帝記と北朝伝はやっておいてから、ですがねw

 

 それでは皆さん、また、次の作品でお会いしましょう。

 

 再見~w


 
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