No.501942

遊戯王GX †青い4人のアカデミア物語† その8

赫鎌さん

誤字脱字報告、感想等お待ちしております。

2012-10-30 00:02:42 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1195   閲覧ユーザー数:1179

 

 

「……ふむ」

「これはまた……」

「因果なことで……」

 

 試験は進み、最後の一組のデュエルを残すのみとなった。

 最後のデュエルの一人は特待生の藤原優介であり、ここまでは彼らの読み通りだった。

 そしてその相手というのが──。

 

「よろしくおねがいします!」

「うん、よろしく」

 

 元気よく挨拶する相手生徒。優介も同じように挨拶を返した。

 

「「「……本当に女子生徒が相手とは」」」

 

 ──まさか、と言っていた女子生徒だった。

 根拠はあったものの、今日これまでの試験での前例はない。

 故にないだろうと高をくくっていたところ、この結果である。

 

「まあ優介なら大丈夫だろう」

「……いや、その点はいいんだが」

「なんか気になることでもあるの?」

「……圧勝して相手が傷つかないかどうか、がな」

「「…………ああ」」

 

 後ろでそのような会話がされているとはつゆ知らず。優介は考えていた。

 

「(……どうする、まさか本当に女子が相手なんて思っていなかった)」

 

 適当に実技担当の教師の誰かが相手をするんじゃないかと思っていたため、心の準備はまだできていなかった。

 しかしそれを悟られたくもなく、表面上は余裕の表情で隠している。

 

「(どうするか。適度に手加減するべきか、それとも全力で相手をするべきか……)」

 

 そう思ったところで、ここにきた最初の日のデュエルを思い出した。

 ケイとデュエルするよりも前の、島にきてからの最初のデュエル。優介はがっかりしていた。

 理由はレベルの低さだった。

 特待生だから、という理由で喧嘩を売られるようにデュエルの相手をしたが、その内容はお粗末の一言に尽きる。

 使い方のなっていない魔法、意味のない罠、攻撃することしかできないモンスター。

 戦術も戦略も、何もないデッキということだけは覚えている。しかしそれ以外はほとんど記憶に残らない相手だった。

 その後に現れたケイ、吹雪、亮と付き合っていくうちに、それの限りでないことは理解している。しかしその限りである生徒もいることも事実である。

 話は戻るが、優介は今回の相手が以前のようにがっかりした相手と同レベルではないことを願っていた。

 

「(特待生、という立場を考えると、かなり腕が立つ相手というのはまず間違いない。学校側としても、学費免除の体制を取っているのだし成績が下がられても困るはずだ)」

 

 優介は決して思い上がっているわけではなく、ただ純然たる事実を確認するかのように考えた。

 世界規模でもない一大会とはいえ、優勝者である優介は自分の腕に相当の自信を持っている。そこから考え、それを基準にしていた。

 

「(……ま、考えてもしかたのないことか。デュエルを始めれば嫌でもわかることだし、な)」

 

 そう考え、そこで一度意識を切り替えた。

 

「俺は藤原優介。お手柔らかに」

「ご丁寧にどうも。私は龍剛院真理です。始めましょう」

 

 互いのデュエルディスクがステージとリンクする。

 デュエルディスクに4000のライフが表示された。

 

「「デュエル!!」」

 

藤原優介 LIFE4000

龍剛院真理 LIFE4000

 

「先攻は私がもらいます。ドロー!」

 

 特に異論はないのか、優介は何も言わない。

 

「まずは『竜の尖兵』(ATK1700)を攻撃表示で召喚! そして効果を発動! 手札のドラゴン族を捨て、その枚数分攻撃力を300ポイントアップします。私は二枚のドラゴンを捨て、攻撃力を600ポイントアップです!」

 

『竜の尖兵』ATK1700 → 2300

 

「そしてカードを二枚伏せて、ターンエンド!」

 

 一連の動作を見て優介は素直に感心した。

 

「(へぇ……ただアカデミアに入っただけ、てわけじゃなさそうだね)」

 

 最初から攻撃力2300のモンスターを出すこと自体は珍しくもない。が、この時優介が注目したのは墓地に送ったモンスターだった。

 墓地は互いに公開情報となっているため確認することができる。が、優介はしない。その方が楽しめるからだ、とは本人の談である。

 そのため、遠目に見たカードの色から判断するしか無かった。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 さっき龍剛院が墓地に捨てたのは、通常モンスターと効果モンスターの二枚。どちらがどんなモンスターかまでは見分けられなかったが、それだけで十分だった。

 

「(『竜の尖兵』には、俺のカード効果で墓地に送られた時に墓地のドラゴン族通常モンスターを蘇生させる効果がある。それを見越しての発動か?)」

 

 普通、墓地に送るカードにこだわりを持つ生徒は少ない。それは少なからず、墓地を軽視する傾向があるためだった。

 それを龍剛院はしていない。それが優介の、彼女への評価を上げる一手だった。

 考えを止めた優介は、魔法・罠ゾーンにカードを置いた。

 

「永続魔法『神の居城-ヴァルハラ』を発動。このカードは自分の場にモンスターが存在しない時、天使を一体特殊召喚することができる。俺は『勝利の導き手フレイヤ』(ATK100)を召喚する」

 

 フィールドに絢爛な神殿が現れ、優介のフィールドを支配する。

 神殿からはチアリーダーのような格好をした天使が現れた。

 

「更に永続魔法『コート・オブ・ジャスティス』を発動。自分の場に星一の天使がいるとき、手札の天使を特殊召喚できる。効果により『光神テテュス』(ATK2400)を召喚する」

 

 次いで現れたのは、一対の白い羽を持つ天使。眼前の尖兵を睨みつけるその姿は、か弱い天使のイメージとはかけ離れている。

 

「そして『光神機-閃空』(ATK1000)を通常召喚する。そしてフレイヤの効果は、自分の場の天使の攻撃力・守備力を400ポイントアップさせる」

 

『勝利の導き手フレイヤ』ATK100 → 400

『光神テテュス』ATK2400 → 2800

『光神機-閃空』ATK1000 → 1400

 

「後攻一ターン目から、こんなに……!」

「バトル! 『光神テテュス』(ATK2800)で『竜の尖兵』(ATK2300)を攻撃!」

 

 優介がそう命じると、テテュスが合わせる手の中にエネルギーが集まっていく。

 こぶし大ほどになった光は目の前の尖兵へと投げられ、一気にはじけ飛んだ。

 

「くっ……!」

 

龍剛院真理 LIFE4000 → 3500

 

 先制攻撃を決めたのは優介だった。

 

「さらにフレイヤ、閃空の二体で攻撃!」

 

 命じられた二体は龍剛院に肉薄し、打撃を打ち込まんとする。

 

「そうはさせない! 永続罠『正統なる血統』発動! 墓地の通常モンスターを特殊召喚する! きなさい『カース・オブ・ドラゴン』(ATK2000)!!」

「(ほー……またレアなモンスターを……)」

 

 全身が骨のドラゴンを見て、優介の抱いた感想はそれだけだった。

 かつて決闘者王国(デュエリストキングダム)において、武藤遊戯が好んで使用したモンスターである。一般流通しているもののプレミア度が高く、実際に使用する人は少ない。

 

「ではバトルは中断。カードを一枚伏せてエンドフェイズに移行。この瞬間『光神機-閃光』は自分の効果で破壊される。ターンエンドだ」

 

 先制攻撃を決めた優介に対し、周囲から賞賛の声が上がる。

 気が悪くなるものでもないので甘んじて聞いていた優介だったが、しばらくしてその顔色は変わった。

 

『いいぞ藤原ー! よくやったー!』

『ざまあみやがれ、この野郎!!』

 

 ――龍剛院真理への、批難の声によって。

 

「……私のターン、ドロー! 魔法カード『馬の骨の対価』を発動! 場の通常モンスター、『カース・オブ・ドラゴン』を墓地に送り、二枚ドローします! そして対象モンスターがいなくなった『正統なる血統』は破壊されます」

 

 批判の中、カードをプレイする。

 効果により二枚引き、手札のカードと見比べてから加え、セットカードを操作した。

 

「永続罠『蘇りし魂』発動! 墓地の通常モンスターを守備表示で蘇生させる! 戻りなさい、『カース・オブ・ドラゴン』(DEF1500)!!」

 

 再度召喚される骨の竜。しかし先程とは違い、大きく広げていた翼は折りたたまれている。

 

「私は……『融合』を発動!」

 

 融合を発動、と聞いた瞬間、生徒たちがざわついた。

 これに一番反応したのは、後ろで見ていた三人だった。

 

「……なあ、なんだと思う?」

 

 最初に口を開いたのはケイだった。

 

「融合と聞いた途端に、空気が張り詰めた感じになっているんだが……」

「そういえば、僕聞いたことあるなぁ」

 

 確か、と前置きして吹雪が話し始めた。

 

「入学してしばらく経った頃、ドローパンで当てたカードを使って勝ちまくってる女子がいるって噂が……」

「それが彼女だ、と?」

「さあ? でもこの反応見る限りそうなんじゃないかな。負ける方にとっては面白く無いだろうし、『ああ、またか……』みたいな考えもあるだろうさ」

 

 たった一枚で、今まで勝てていた相手に負ける。デュエルをしていればそう珍しいことではない。

 しかしそれが何度も続けば、面白くないという考えが芽生えるのもまた自然と言える。

 静観していた亮が、会話に加わった。

 

「それで、そのカードはなんだ? 感じたところ、融合モンスターだと思うが」

「えーとね……確か――」

 

「私は、場の『カース・オブ・ドラゴン』と手札の『暗黒騎士ガイア』を融合! 『竜騎士ガイア』(ATK2600)を融合召喚します!!」

 

 融合召喚されたのは骨の竜にまたがった騎士。それを見た生徒たちから、張り詰めた空気が霧散した。

 

「攻撃力は2600……フレイヤは他に天使が存在するとき、攻撃対象にすることはできない。攻撃できるのはテテュスだけだけど、攻撃力は足りない」

「……私は、カードをセットして、ターンエンド!」

「(ま、そうなるよね)」

 

 このターンで攻めて来ないことに対して、優介は納得した。

 テテュスの効果を知らないはずはない、と優介は考えたが、今攻めるよりは守りを固め、返しのターンで攻め入るのが得策だという結論に達した。

 

「俺のターン、ドロー! この時、『光神テテュス』の効果を発動! ドローしたカードが天使族だった場合、更にドローできる。ドローカードは天使族の『光神機-桜花』、追加で、一枚ドロー!」

 

 その後二枚追加ドローしたあと、ドローフェイズは終了した。

 

「『コート・オブ・ジャスティス』の効果で、『光神機-桜花』(ATK2400 → 2800)を特殊召喚。バトル! 『光神テテュス』(ATK2800)で『竜騎士ガイア』(ATK2600)を攻撃!」

 

 再び、合わせた手の間にエネルギーを貯めるテテュス。しかし。

 

「させない! 速攻魔法『突進』発動! 『竜騎士ガイア』の攻撃力を700アップさせる! 迎撃しなさい、スパイラル・シェイパー!!」

 

『竜騎士ガイア』ATK2600 → 3300

 

 放出されたエネルギーに対し、槍を突き出して切り裂く。

 そのままテテュスへと突進し、串刺しにして破壊した。

 

藤原優介 LIFE4000 → 3500

 

 龍剛院の反撃は、奇しくも互いのライフが並ぶ結果となった。

 

「……『突進』じゃこれ以上追撃はできない。迂闊だったかな。俺は墓地の天使二体を除外して『神聖なる魂(ホーリシャイン・ソウル)』(ATK2000)を特殊召喚する。そしてフレイヤの効果で攻撃力はアップする」

 

『神聖なる魂』ATK2000 → 2400

 

「最後に『コーリング・ノヴァ』(DEF700 → 1100)を守備表示で召喚して、ターンエンド! そしてこの瞬間、『竜騎士ガイア』の攻撃力は元に戻る」

 

『竜騎士ガイア』ATK3300 → 2600

 

 モンスターを一体破壊されたものの、それに見合う以上のモンスターの展開をした優介。いたるところから『流石特待生……』や『これであいつも負けたな』等の声が聞こえる。

 

「私のターン、ドロー! 『強欲な壺』を発動! カードを二枚ドローします!」

 

 ゼロの手札から二枚になり、優介は警戒した。

 アカデミアにきてからというもの、よく知る三人とのデュエルでは『強欲な壺』のドローで幾度と無く戦況が変わったことを覚えていた。

 

「……よし!」

 

 龍剛院の表情が変わった。

 

「魔法カード『苦渋の選択』を発動! デッキから五枚選び、相手がその中から一枚を選択し、そのカードを手札に加え、それ以外を墓地へ送ります。私が選ぶのは、この五枚!」

 

 『ミンゲイドラゴン』『神竜 ラグナロク』『ドラゴン・アイス』『ボマー・ドラゴン』『ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-』。

 龍剛院が選んだのは、いずれもモンスターカードだった。

 

「(……また)」

 

 ざわつく生徒たちをBGMに、優介はため息をついた。

 理由は知らないが特定条件に反応する周囲は、優介の機嫌を著しく損なうものだった。

 

「……俺は、『ミンゲイドラゴン』を選ぶ」

 

 優介が五枚の中から選んだのは、ドラゴン族専用のダブルコストモンスターだった。

 手札も少なく攻撃力の一番低いそのカードは脅威になりにくかった。

 

「では『ミンゲイドラゴン』を手札に加え、他のモンスターを墓地に捨てます」

 

 捨てられたモンスターよりはまだマシか、と思う優介。

 しかし次の龍剛院の一手で、顔色が変わることになる。

 

「私は……ッ! 魔法カード『龍の鏡』発動!!」

「なッ!?」

「お?」

「ありゃ?」

「ん?」

 

 優介の叫びに続くように、後ろで声がした。

 

「……あー思い出した」

「なんだ吹雪」

「さっき言いかけたんだけど、彼女が使う融合モンスターは――」

「『竜の鏡』の効果! 墓地からドラゴン族融合モンスターに使用するカードを除外して、融合召喚します! 私は――」

 

 龍剛院の墓地から、五枚のカードが取り除かれる。

 

「『カース・オブ・ドラゴン』、『竜の尖兵』、『レアメタル・ドラゴン』、『ドラゴン・アイス』、『神竜 ラグナロク』を除外! 五体のドラゴンを除外して――」

 

 フィールドに現れた鏡に五体のドラゴンが吸収される。

 その様子を見て、更に騒ぐ周囲の生徒たち。

 そのことが、優介の機嫌を更に逆撫でていく。

 吸収されたドラゴンは鏡の中で溶け、混ざり、姿を成す。

 そして鏡より姿を見せ、フィールドを力強く踏みしめた。

 

「――確か、ドラゴン族最強のモンスターだったんだよね」

 

 

「――――『F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)』(ATK5000)、融合召喚!!」

 

 

『『『『『ギュオオオオオオォオオォォオォォォオオオォッッッ!!!!!』』』』』

 

 

 炎、水、地、風、闇の五本の首。

 繋がる胴はどのドラゴンよりも強靭で大きく。

 巨大な足はドラゴンの首が数本まとまったものよりも太い。

 薙ぎ払うように暴れまわる尾は縦横無尽にフィールドを暴れまわっている。

 

「攻撃力5000……中々、倒し甲斐のあるモンスターが出てきたね……」

 

 冷静に場を見定める優介だが、周囲は逆に錯乱していた。

 様々なところから阿鼻叫喚の声が上がり、耳を澄ませ声を拾うと『ついに出やがった!』や『またあいつが!』といった声が聞こえる。

 酷いものでは『さっさと倒せ!』や『負けちまえクソ野郎!』といった、罵声まで混じっていた。

 

「(……嗚呼、頭が痛い)」

 

 チラリ、と周囲を見る優介。

 耳だけではわからないが、よく見れば騒いでいるのはブルーの男子が大半だった。少数のところではブルー女子もいた。

 

「(負けた腹いせに、アンチ、フーリガンを気取っているだけ、てところだな)」

 

 そこまで考え、優介は思考をやめた。

 これ以上下衆な輩について頭を使うのは得策じゃないという考えのもとの結論だが、周囲はそれに反し収まらない。

 

「……ッ。『F・G・D』(ATK5000)で『光神機-桜花』(ATK2800)に攻撃!」

 

 炎の首は荒ぶる火炎を。

 水の首は迸る激流を。

 地の首は高密度のエネルギー波を。

 風の首は荒れ狂う嵐を。

 そして闇の首は闇のように暗い黒炎を放出した。

 それぞれのエネルギーは互いに干渉し、反発し、やがては極光となり、敵へ向かって推進する。

 

「――エンド・オブ・ブラスト!!」

 

 極光は一瞬で『光神機-桜花』に届き、存在を消失させた。

 余波が優介を襲う。

 

「グ……がっ……!!」

 

藤原優介 LIFE3500 → 1500

 

「……ほ、『神聖なる魂』の効果! 相手のバトルフェイズ時、相手モンスターの攻撃力は200ポイントダウンする!」

 

『F・G・D』ATK5000 → 4800

『竜騎士ガイア』ATK2600 → 2400

 

 攻撃力が減少していたことにより、僅か200だがライフを多く保つことができた優介。

 しかし代償はあまりに大きく、圧倒的戦力差を思い知らされただけとなった。

 

「『竜騎士ガイア』(ATK2400)で『神聖なる魂』(ATK2400)に攻撃! スパイラル・シェイパー!!」

「迎撃しろ! ボルテージ・タックル!!」

 

 槍を突き出し突進する竜騎士に対し、身を捻り躱す獣。

 最後は互いに正面からぶつかり、破壊された。

 

「私は『ミンゲイドラゴン』(DEF200)を召喚して、ターンエンドです!」

「ぐ……俺のターン、ドロー!」

 

 ドローしたカードを見て、優介は迷わずプレイした。

 

「『強欲な壺』を発動! カードを二枚ドロー! 更に『天使の施し』を発動! 三枚ドローし、二枚捨てる!」

 

 二回、計五枚のドロー。しかし優介の表情はすぐれない。

 

「(……駄目だ。まだこない)」

 

 狙っているカードがあるのだろう。しかしそのカードがこないようで、未だ苦い顔をしている。

 

「……俺は、カードを一枚伏せて、モンスターを全て守備表示に変更! ターンエンド!」

 

 このエンド宣言に、今度は周囲からブーイングががなりたてられた。

 耳を塞ぎたくなる衝動に駆られながらもこらえる優介だが、逃避気味に対戦相手である龍剛院を見ると、思わず目を疑った。

 

「(あれは……涙? 泣いているの、か?)」

 

 うつむき気味に顔を伏せられているため、直に目元を確認することははばかられる、

 しかし頬を伝った一筋の雫。それは絶対に涙だったと、優介は確信した。

 そして同時に、考えを改めた。

 今目の前の人物は、アカデミアの生徒や対戦相手であるという前に、一人の女性、女の子であると。

 

「……私の、ターン!」

 

 それでもカードを引くのは意地だろうか。

 未だに騒ぎ立てる周囲の生徒のことなど、もはや優介の頭にはない。

 今はただ、何故彼女はカードを引き続けるかだけが、彼の脳内を支配しているのだから。

 

「速攻魔法『禁じられた聖杯』発動! 対象モンスターの攻撃力を400ポイント上げ、効果を無効にします! 私は、『勝利の導き手フレイヤ』を選択します!」

 

 フレイヤの効果は、攻撃対象にされない効果。それが無効にされた今、守るすべはない。

 

「『F・G・D』(ATK5000)で『勝利の導き手フレイヤ』(DEF100)に攻撃! エンド・オブ・ブラスト!!」

 

 先程と同様に、五本の光線は交わり極光となってフレイヤを襲う。

 瞬く間もなく、極光はフレイヤを消滅させた。

 

「グゥ……! しかし、守備表示のためダメージはない!」

「……ターン……エンドです!」

 

 絞りだすような声で、エンド宣言をする龍剛院。優介には、それが悲痛な叫びのように聞こえた。

 

「(……なんで、そんなに辛そうな顔をしているんだ? どうして、そんなに悲しそうなんだ?)」

 

 一度考え始めたら、疑問は泉のように湧き上がる。

 

「(周りの声のせいか? 彼らが、君を責め立てるからか?)」

 

 しかしいずれも答えは出ない。

 

「(何故? 何故? 何故? 何故? 何故? 何故なんだ!?)」

 

 思考のループにはまってしまった優介は微動だにせず、一見すれば状況を打破しようと考えているようにも見える。

 しかしドローをしていないので、このままでは試合にならないと判断した監督官が声をかけようとした時だった。

 

「ゆううぇうぅぅすけええぇええええぇぇぇぇ!!!!!」

「へぁい!?」

 

 突然の大声に、変な声を出す優介。

 発言元を探すと、それは真後ろからだった。

 

「デュエルは終わってない! ぼさっとしてないで、集中しろおおおおぉぉ!!!!」

 

 気がつけば、声はケイのものだけだった。他の誰も、びっくりしたせいか騒ぎ立てることもない。

 いつの間にか、先程までの耳障りな批難も鳴りを潜めていた。

 

「(……そうだ、今はデュエル中だ!)」

 

 パァン、と顔を叩く。力が入りすぎたようで、やや痛みが尾を引いている。

 頭は完全にリセットされたのか、目付きが変わった。

 

「(疑問も、何も、全部! こいつを倒してからだ!)」

 

 鋭い視線をぶつける先には、巨大な五本首の竜。

 ――このターンで決める。

 そう覚悟を決めて、ドローした。

 

(――ター、マスター! 私をお使いください!)

 

「…………ッ!」

 

 ドローしたカード、それはモンスター。

 しかしそのモンスターカードこそ、優介が今まで望んでいた一枚だった。

 

「俺は、『コーリング・ノヴァ』(ATK1400)を攻撃表示に変更!」

「「「はぁぁっ!!?」」」

 

 F・G・Dを相手に、たかだか攻撃力1400のモンスターを攻撃表示に。その意図がわからないのは生徒のみならず、教師の中にも声を上げるものがいた。

 

「『コーリング・ノヴァ』(ATK1400)で、『F・G・D』(ATK5000)に攻撃!!」

「!? ふぁ、『F・G・D』の攻撃力は5000です! 自滅する気ですか!?」

 

 対戦相手である龍剛院にまで言われる優介。相手を気にするなんて、と思う反面、その優しさも感じていた。

 このバトルでただの自滅なら、自分が勝てる。それなのに相手を心配するのは、優しさがあってこそだろう、と。

 しかし、優介は手札のカードを使用した。

 

「俺の手札にある『オネスト』を墓地に送り効果発動! 自分の光属性モンスターは、バトルする相手モンスターの攻撃力分、攻撃力を上げる! よって攻撃力は、『F・G・D』の攻撃力を加え――」

 

『コーリング・ノヴァ』ATK1400 → 6400

「「「6400!!?」」」

 

 攻撃力6400。これだけで、十分驚くべき数値であるが、優介は今一度自分に問いた。

 このまま戦うか、と。

 ――NO

 このまま終われるのか、と。

 ――NO!

 このまま……自分に、彼女に負けるのか、と!

 ――NO!! NO!! NO!!!

 

「俺は、罠カード『光の召集』を発動! 手札を全て捨て、同じ枚数だけ墓地から光属性モンスターを手札に加える! 俺の手札は一枚! 当然戻すのは、『オネスト』!! そして再び、『オネスト』の効果を発動する!!」

 

 コーリング・ノヴァの羽根が一際大きく輝くと、みるみるうちに巨大化していく。

 七色に輝く羽根は巨大化を続け、やがて止まった。

 その大きさは、『F・G・D』を包み込むほど巨大なものとなっていた。

 

『コーリング・ノヴァ』ATK6400 → 11400

 

「攻撃力……11400……?」

 

 呆然と、巨大羽根の中心に繋がる『コーリング・ノヴァ』を見上げる龍剛院。

 そして、天使の攻撃が始まる。

 

「『F・G・D』を攻撃。――オネスティ・フラッシュ!!」

 

 輝いていた羽根は更に輝きを増し、一面を白の世界に染め上げる。

 光に飲まれないよう抵抗するドラゴンは、光を受けたところから浄化され、粒子となって消えていく。

 首も。

 身体も。

 羽根も。

 尾も。

 そして全てが粒子となって消えると、天使は輝くのをやめた。

 

龍剛院真理 LIFE3500 → 0

 

「…………」

「…………」

 

 互いに喋らない。

 ソリッド・ヴィジョンは消え、フィールド上には二人がいるだけ。

 周囲の生徒も、教師も、ケイ達三人もだれも喋らない。

 

「…………あ」

 

 最初に沈黙を破ったのは、優介とこの試合をしていた、龍剛院真理だった。

 

「あ…………ありがとうございました!」

 

 そう挨拶だけすると、龍剛院は体育館から逃げるように立ち去った。

 優介が止めようとしたが、その声が出る前に、姿は見えなくなった。

 しかし、最後に一度だけ顔を上げたときに見えた、あの顔。

 

「(……笑ってた)」

 

 彼女はもう、泣いてなどいなかった。

 

 

 

 

 試験終了後、四人はいつの間にか彼らの集合場所となってしまっているケイの部屋へと集まった。

 テーブルを囲むそれぞれが手に持っているのは、各々の持ち寄ったジュースの入ったコップである。

 

「……えーコホン。では記念すべき、第一回月一試験の突破を祝して、カンパーイ!!」

「「「カンパーイ!!」」」

 

 吹雪の音頭と共に、軽い宴会状態へと突入した。

 

「いやあ一時期はどうなることかと思ったけど、無事終わって良かったよ!」

「少なくとも俺の努力は無駄じゃなかったようだな」

「二人だけだからな。徹夜していたのは」

「ていうか日頃からノート取っていれば筆記は間に合ったんじゃ……」

「はーい藤原! 今日は説教はなし! 楽しもうよ!」

「楽しむ? よし、ならばここは俺の作った名字トランプで勝負といこうじゃないか」

「いやデュエルしろよ君たち」

「ていうか名字トランプってなんぞ!?」

「遅いぞ吹雪! 俺は佐藤・鈴木のツーペアだ」

「待ったケイ! 趣旨がよく分からないのにいつの間にポーカーが始まっているんだい!?」

「甘いよケイ、俺は山田と二ノ宮のフルハウスだ!」

「藤原、君もか!? ていうか文字に関連性がまるで見つからないんだけど!?」

「何をしているんだお前たち……」

「あ、亮。君はまだまとも……」

「俺は長嶋のフォーカードだ!」

「じゃなかったあああ!! 既にこっちも毒されていたあああ!!」

「ほら天上院、お前の手札だ」

「わけがわからな……てか全部バラバラかよ!?」

「上原・遠藤・大塚・加藤・木村のストレートフラッシュだと? 初めてにしてはやるな」

「なら俺は清水のファイブカードで勝負!」

「甘いぞ藤原! 青木・長嶋・山本・二ノ宮・鈴木のロイヤルストレートフラッシュだ!」

「そのカードの連続性がさっぱり見えないんですけどぉ!?」

 

 ブルー寮の夜は更けていく……。

 

「疲れた……」

「流石に、な……」

「いや君たちの名字トランプとかのせいだよ……」

「……」

「どうした藤原。悩み事か?」

「いや、そういうのでもないんだけどさ……」

「昼間の女子のことか?」

「……まあそう言えないこともないかな」

「え、なになに!? 僕のレーダーがビンビンに反応してるんだけど?」

「吹雪、お前は黙っていろ」

「なんだ優介、惚れたか」

「ケイ、君も黙れ」

 

……更けていく。

 

 

To be continued…

 


 
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