No.500723

真・恋姫†無双~だけど涙が出ちゃう男の娘だもん~[第38話]

愛感謝さん

無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。

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2012-10-27 00:06:16 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3728   閲覧ユーザー数:3020

真・恋姫†無双~だけど涙が出ちゃう男の()だもん~

 

[第38話]

 

 

公孫瓚に新しい概念を伝えた日を入れて5日間、ボクたちは最後の休息を取っている同じ場所に滞在し続けました。

賊征伐にも向かわずに何故かような事に至っているのかと云うと、敵情視察と情報収集に(おもむ)かせている周泰が戻って来ていないからです。

冀州・広宗は、この場から目と鼻の先にある。であるのにもかかわらず何故か戻って来ていない、連絡も寄越してこない。

周泰ほどの人物が賊に後れを取るとは考えられませんので、命が失われるような危険に遭っていると云った(たぐい)の心配はしていませんでした。

ですが、心配はしていなくとも気がかりである事には違いがありません。

そこで、もう暫く待っていた方が良いのではないかとか、もうそろそろ帰って来るだろうとか考えてそのままにしていたら、いつのまにか悪戯(いたずら)に時を浪費するだけに成ってしまったと云う訳です

でも、さすがに5日目の夜になっても何の連絡も寄越さないと云うのは変だと思い、ボクは周泰の安否と今後の指針を確認する為に天幕へ他の将軍たちを呼ぶ事にしたのでした。

 

 

「さて、みんな集まってくれたようだね?」

 

指令所用の天幕内に招集させた将軍たちが(そろ)ったのを確認して、ボクは皆と向かい合って話しかけていきました。

 

「刹那様。この時刻に一斉招集とは、何かあったのですか?」

 

魏延が皆の感じている疑問を代弁するかのように問いかけてきました。

 

「うん。実はね、明命が偵察(ていさつ)から戻って来てないんだ。それに何の連絡も寄越してこない。彼女の事だから何か理由があるとは思うんだけど、その事を誰か聞いていないか確かめようと思って集まって貰ったんだ」

 

魏延が意外だと云わんばかりの顔つきで問いかけてきます。

 

「明命が……ですか?」

「うん、そうなんだ。まあ、明命ほどの手練(てだれ)が賊に後れを取るとは考えられないから、それほど心配はしてないんだけどね」

「なるほど。それもそうですね」

「え~と。それで、誰か詳しい事を聞いてないかな? もしくは明命に何かを頼んでいたりとかしている?」

 

ボクは魏延の疑問に答えた後、将軍たちに向かって問いかけていきました。

でも、将軍たちは一様に首を横に軽く振って知らない事を表すだけです。

視線を呂蒙(りょもう)に合わせて目で問いかけましたが、彼女は他の将軍たちと同じように首を横に振るだけでした。

 

「ふむ……。誰も知らない、頼み事もしていない……と」

 

ボクは周泰が誰にも詳細を告げていない事を(つぶや)くように確認します。

しかし、このままこの場で悪戯に時を労費していても(らち)が明きませんでした。

いずれにせよ、周泰には広宗の地に居る黄巾党の敵情視察に向かわせたのです。

だから、周泰がこちらへ戻ってくるか、それとも軍を彼女へ近づけるかの違いでしかありませんでした。

 

「朱里、このまま悪戯に時を浪費する訳にもいかないと思うんだ。全軍を進軍させるのは、明命の到着を待ってからと待たずに行うの、どちらが良いかな?」

 

ボクは今後の指針を決めるべく諸葛亮へ助言を求めます。

諸葛亮は下顎(したあご)に片手を添えて顔を(うつむ)かせて色々考えた後、それらをボクや皆に向けて告げてきました。

 

「そう……ですね。黄巾党との決戦に向けて諸侯の軍勢も広宗に到着しているはずですから、それに遅れをとらないように全軍を進軍させた方が良いと思います。それに明命さんとは広宗の地か、その道中で会えると思えますから大丈夫でしょう」

 

ボクは諸葛亮の献策を聞き、その後に呂蒙・郭嘉(かくか)程昱(ていいく)に目で問いかけていきます。

それを受けて軍師である彼女たちは、諸葛亮と同意見である事を示すように(うなず)きました。

 

「そう……。分かった。では明朝、準備が整ったら全軍を広宗へ向けて出発させよう。その(むね)を劉軍ならびに公孫軍へ伝令を放つ、それで良いね?」

 

ボクは結論付けた事を、将軍たちを見回しながら告げました。

将軍たちは一様に頷き、受諾した事を示します。

 

「では明朝から、そのように行動して行こう。夜に集まって貰って悪かったね。それでは、これで解―」

「失礼します!」

 

ボクが解散の言葉を告げて会議を終了させようとすると、大きくはないが耳に残る凛とした声が天幕内に響き渡りました。

その声に驚き、ボクを含めた全員が出入り口に身体を向けて注目します。

そうすると、そこには会議の議題にあがっていた周泰が居て、彼女は真剣な顔持ちでボクの方へ歩み寄って来ていました。

 

「明命?! 貴女(あなた)、いったい今まで何を―」

「ごめん亞莎(あーしぇ)。今は、それどころじゃないの」

 

脇を通り抜けようとする周泰に、呂蒙は心配していた気持ちの裏返しに(きつ)い言い方で詰問しました。

でも周泰は、そんな呂蒙の言葉を一刀のもとに(さえぎ)ってボクの方へ歩み寄ってきます。

そんな彼女の態度を見て、ボクは容易ならざる事態が起こっていると判断しました。

 

「どうしたの? 明命。何か深刻な事態でも起こった?」

「はい。実は―」

 

真剣は顔持ちの周泰に問いかけると、彼女はボクの耳に口を寄せて小声で用件を告げてきました。

ボクは顔を俯かせながら周泰の報告に耳を(かたむ)かせます。

 

「―です」

「なっ?!」

 

周泰の報告を受けて、ボクは思わず目を()いて絶句してしまいました。

彼女の報告内容が、あまりに突拍子も無かったからです。

驚いて周泰の顔を見たのですが、彼女の顔は真剣そのもの。

だから、報告内容が真実であると受け取らざるを得ませんでした。

ボクは暫く自分を落ち着かせてから、報告内容を吟味して確かめるように周泰へ問いかけていきます。

 

「この陣営に……連れて来ているの?」

「はい。別の天幕に見張りを付けて隔離(かくり)しています」

「ここまで来るの、誰にも見られていない?」

「恐らくは大丈夫だと思います。昼間は行動を(ひか)えて、夜間に動くようにしていましたから」

「そう……。なら一応、安心して良いかな……」

 

ボクは持ち込まれた案件が他の諸侯に知られる事を危惧し、その辺りの事を周泰に問いかけました。

この事が露見したら、ボクたちは下手をすると反逆者にされかねないと思ったからです。

でも周泰の機転のおかげで、その危険性は限りなく無いに等しく、回避出来ている事を知って安堵感を持ちました。

 

「若。さきほどから何を話しておいでなのか、我らにも詳細を話してくれませぬかな? 二人の様子から、ただならぬ事が起こっているのは察せられますが」

 

ボクと周泰が話しをしていると、厳顔が皆を代表するように疑問を問いかけてきました。

 

「あー、ごめん桔梗。ちょっと事態を把握するのに戸惑ってしまってね。今から詳細を話すよ」

 

ボクは一拍おいて皆を見回してから、周泰から告げられた内容を話していきます。

 

「まずは驚かずに聞いて欲しい。実は今現在、……黄巾党首領である張角・張宝・張梁の3人が、この陣営に居るそうだ。明命が敵情視察に広宗の都市へ赴いた際に、投降したいと申し出て来たそうでね」

 

ボクが周泰から打ち明けられた案件を将軍たちに告げると、みんな一様に目を剝いて驚きの声を上げます。

でも、さすがに軍師たちは事の重大性に気付いて、すかさず今後の身の振り方や算段を考え出しているようでした。

 

「明命。今に至る経緯を皆に話してくれるかい?」

「はい」

 

これからの行動指針を決めるべく、周泰には詳細を皆に話して貰う事にしました。

それによると、周泰が広宗の都市へ赴いた際、まずは今回の情報収集で諜報活動は最後となる為、密偵を撤収させる事を最優先事項にしたそうです。

撤収理由は、近日中に華陽軍本隊が到着して黄巾党と決戦に及ぶため、城内に味方を潜ませているのは危険だと判断した為だ。

その為、いままで潜ませていた密偵たちの撤収と、それらが持ち帰ってくる情報の収集が今回の周泰の任務であった。

密偵たちと合流するまでは遠目で情報収集をしていたそうですが、 (つな)ぎを夜の闇夜に紛れさせて都市に送り込み、何とか発見されずに少しずつ合流できたらしい。

何名かの密偵と合流して人数確認と持ち帰った情報を収集していると、最後の密偵が不審人物を伴って会いに来た。

その者たちの姿は一般的な黄巾党の兵士の格好をしていて、一見では誰だか分らないように変装している。

不審人物を伴って来訪して来た密偵を周泰が疑念に思って詳細を確認してみると、その不審人物たちは黄巾党の首領である張角たちである事を告げられた。

服装が一般的な兵士の格好である事を確認すると、変装しないと周りにいる連中が群がって来て身動きが出来ないからだと聞かされる。

周泰は、これらの行為に対して密偵の仕事の範囲を逸脱しているとし、何より敵に同情して本分を忘れて居ると叱責した。

だが密偵は、広宗の内部事情の詳細を話して仕方のない仕儀であったと訴えだす。

広宗では兵糧攻めが効いている為に張角たちの糧食すら事欠くありさまで、その為に近日中にも逃走を図る計画が為されていたらしいのである。

その密偵は張角たちの側近くに仕えて居て、定期連絡の際に隠し持って行った食料や外部情報などをそれとなく渡す事で信頼を得ていたらしい。

だから、逃走を図る張角たちの動向をいち早く気付いた時に、官軍に捕まったりすれば斬首に違いないとか、有望な諸侯に投降して助命を嘆願した方が良いとか助言したそうだ。

密偵の助言を考慮した張角たちが逃走を決心する際、華陽軍と云う一部の官軍のみが賊の命を助けて改心させていると云う風聞を聞き知っていたらしいので、指名手配犯のまま逃走して生き延びる確率を低くするよりも、投降して助命を嘆願する事で生き残る確率を上げた方が良いと決断したらしい。

張角たちには、周泰らの事を密偵たちと共に投降を希望している仲間であると告げてあり、本当の身分などは告げていなかったそうだ。

周泰は密偵の話しを聞いて本当の身分を明かしても良いか迷ったが、隠し通せるものでも無いと判断して自身が華陽軍の将軍である事を張角たちに告げる。

張角たちは信頼していた密偵に騙されたと疑念の声を上げたが、処遇の保障は周泰の一存では決められないが華陽軍本隊と合流するまでの命の保証はすると告げたところ、渋々ながらも納得して沈黙した。

その後、張角たちや密偵たちを用意してあった逃走用の服装に着替えさせ、そのまま華陽軍の陣営に向かって行軍して来たそうです。

また、事が事だけに伝令を単独で先行させて捕縛される危険を犯すよりも、(まと)まって行動したほうが機密保全の観点から安全であると判断した。

さらに他の諸公に事態が露見しないように留意し、昼間は行動を控えて夜間の行軍をした為に本隊との合流が遅れてしまったと云う事らしい。

 

 

「そう……。説明ありがとう、明命。夜間に行動して来たのは良い判断だったと思う。今回の事態が(おおやけ)になると、最悪ボクたちは逆賊にされかねないからね。大乱の首謀者を討ち取らずに(かくま)ったとか言われてさ」

 

ボクが労いの言葉を周泰に告げると、彼女はホッとしたように一息つきました。

連絡を取らずに独断で動いて来た事を多少、周泰自身も気にしていたのかも知れません。

 

「まあ、密偵の処遇については後で考えよう。してしまった事に、今更あれこれ言っても仕方がないしね」

「はい……」

 

周泰は自分の部下の逸脱した行為に責任を感じて、少し気落ちしているようでした。

ともすれば、華陽軍全体に危機が訪れていたかも知れないからです。

ボクは、そんな彼女の肩を軽く叩いて元気を出すように(うなが)しました。

 

「でも……、まさか賊を捕虜にする策の効果が、こんな形で波及して表れて来るなんてね。正直な話し、あの時はこんな事態になるとは考えもしなかったよ。ボクはただ、無用な血を流したく無かっただけだったのに」

 

ボクは() 州・長社での、皇甫嵩たちと捕虜の処遇を(めぐ)って(いさか)いを起こした日の事を振り返りつつ、溜め息をつきたくなるような気分で将軍たちへ語りかけるように話していきました。

 

「でも、張角たちは仮にも今回の大乱の首謀者だ。そう簡単に投降を許す訳にもいかないと思う。かといって、投降して来て助命を嘆願する者たちを無碍(むげ)にする訳にもいかない、と云うのもまた事実。それでは、今までのボクたちの為して来た事を否定しかねないからね。だから、張角たちをどうするかは詳細な話しを聞いてから決めようと思うんだけど、それで良いかな?」

 

ボクは自分の意見を将軍たちに告げて同意を求めます。

皆も意見を決めかねていて情報を求めているのか、頭を上下させて同意を示してくれました。

 

「うん。……じゃあ、明命。張角たちを、この場に連れて来てくれるかな? どんな人物たちなのか、確かめさせて貰うから」

「はい」

 

ボクは周泰に顔を向けて張角たちを連れてくるようにと告げました。

周泰は張角たちを連れて来るべく一礼して天幕から出て行きます。

そんな彼女を見送った後、将軍たちに目配せをして取り調べる空間を設けさせながら、ボクたちは張角たちがやって来るのを待つ事にしました。

 

 

 

「ずいぶんと時間がかかったみたいだね? 何かあっ……た…の…?」

 

天幕内にやって来た周泰に問いかける疑問の声を、ボクは途中で途切れさせるように発音してしまいます。

理由は、周泰が連れて来た張角一行にありました。

ヒゲを生やした老人たちだと勝手に思い込んでいたのですが、天幕に入室して来た人物たちはボクと同い年くらいの可愛いお嬢さん達だったからです。

それに彼女たちが着用している服装です。ヘソ丸出しの、ほとんど水着と言って良いような格好だったからでした。

張角たちとボクが対面できるような場所に空間を設け、その空間の両脇を華陽軍の将軍たちに控えさせて準備を整わせる。

その後、ボクは椅子に座りながら周泰が張角たちを伴ってやって来ると思っていたのですが、何故か予想に反して暫く時をかけなければイケませんでした。

だから、疑問に思って周泰に問いかけたのですが、入室して来た張角たちを見て驚き、ボクは言葉を詰まらせてしまったのです。

そうして言葉を詰まらせていると、周泰が申し訳なさそうに発言してきました。

 

「すみません刹那様。この者たちに、どうしても衣服を変えたいと言われて時がかかってしまいました」

「えっ? 衣服?」

「はい。逃走用の衣服のままで刹那様に会うのはイヤだと言われたんです」

「あっ? ああっ! そういう事……。あー、うん。まあ、女の子なら仕方がない……のかな?」

 

周泰が遅れた理由を述べてくれたのですが、最初ボクは何を言われたのか理解できませんでした。

ですがその後、次第に何を言われたのかを理解して『自分たちの命がかかっている状況で、なにやってんの?』とか思わないでも無かったのですが、そこはそれ、お年頃の女の子特有な思考であるとボクは好意的に自分を納得させます。

 

(それにしても、このお嬢さんたちが本当に張角一行なのでしょうかね?)

 

ボクはそう思い、張角たちと(おぼ)しき一行を凝視してしまいました。

目の前に3人で並んで居る真中のピンク色をした長髪の女性が、満面の笑顔でボクを凝視して見詰めています。

そんな彼女を見て、ボクは胸元の二房(ふたふさ)の桃の実が大きいんだなぁとか云う感想を、ちょっと抱いてしまいました。

向かって左側にいる水色の髪を片方のみに結いあげて、未来記憶にあるシングルテール? サイドポニー? みたいな髪型にしている女性は、(きつ)い眼光でボクを射抜くように見ています。

シングルテールの女性の桃の実は、真ん中のお嬢さんに比べると、ちょっと、いや大分(だいぶ)? 残念なんだなぁと云う感想を抱きました。

この女性は、きっと年が若いからこれからの人なのでしょう。うん、がんばれ! 明るい未来が君を待っている! ……かもしれない。

最後に向かって右側に居る短髪の女性は、うちの呂蒙・郭嘉と同じにメガネをかけていて、どこか家庭教師風なんだなぁと云う感想をボクに抱かせます。

この女性の胸元には、他の2人の桃の実を足して2で割ったような感じで可もなく不可もない、そんな普通の桃の実がありました。

 

(しかし、何でしょうね? このヘソを出して見せつけているような服装は。こんな服が彼女たちの正装とでも言うんですかねぇ?)

 

ボクは最後に時間をかけてまで着替えたと云う彼女たちの服装を見て、そのように感想を抱きました。

 

「ちょっと、アンタ! さっきから、どこ見ているのよ?! イヤらしいわね!」

「え? ボク?」

 

言葉をかけるでもなく凝視しているボクに、左側に居る緊い目をしてボクを睨んでいるシングルテールの女性が、(しび)れを切らしたのか目尻を更に吊り上げて発言してきました。

ボクは驚いて自分を指さしながら、そんな彼女に視線を合わせて見てみます。

すると、文句を言って来た彼女の顔は怒気が(にじ)み出て居て、さらに両腕で自身の胸をボクから見えないように隠していました。

 

「いや、その……。ボクは別に……何も?」

「うそ! 絶対わたし達の胸を見比べていたでしょう?! イヤらしい!」

「イヤ。ソンナコト、ナイデスジョ? ホントデスジョ?」

「絶対うそ! これだから男ってイヤなのよ! 胸ばっかり見るんだからっ!」

 

ボクは、ちょっと(まず)ったなと思いつつ急いで否定したのですが、怒っているシングルテールの女性は聞き入れてくれませんでした。

さらに彼女だけでは無く、華陽軍の将軍たちからも呆れたような疑いの目を向けられてしまって、ボクは背中で冷や汗を流しながらカタコト言葉で否定せざるを得なくなってしまいます。

とくに諸葛亮が厳しい目でボクを見ていました。

羞恥心なのか怒りの為なのかは良く分からないのですが、桜色に赤らめた (ほお)を膨らませながら無言でボクを睨みつけて責めているんです。

次点で程昱でした。彼女の顔は満面の笑顔であるのにもかかわらず、何故か目が笑っていない。

さらに程昱の口からは、「フッフッフッ……」とか言う悪寒を感じさせるような冷笑が漏れ出ている。

ボクは、そんな彼女たちの態度を見て思い知らざるを得ませんでした。

お年頃の女性にとって胸の話題は禁句であり、まして大小を見比べたりするのは(もっ)ての外であると。

 

世の中の、ボクと同い年くらいの青春まっさかりな男性諸君。

素敵な女性の胸元に、つい目が向いてしまう時もあるかも知れません。

でも、そういう時は、どうか気を付けて下さいね?

いくら否定しても聞く耳もってくれませんからぁ!

 

 

 

怒り心頭なシングルテールの女性を、長髪と短髪の女性がアヤして何とか場を整わせていました。

『これから助命嘆願しようとしているのに、なに喧嘩売っているの?』とか (いさ)められているようです。

それを受けて自分の立場を思い出したのか、シングルテールの女性は次第に怒りを鎮めていきました。

 

(ふむ……。女性にとって胸の良し悪しは命よりも重し、と云ったところなんでしょうか? 勉強になりますねぇ。これからは、ちょっと気を付けましょう)

 

ボクは懲りもせずに、そのような感想を抱きながら今後に留意する事にして、これでやっと落ち着いて話しが出来ると安堵を感じます。

そして、これ以上この話題が続くとボクの方もただでは済まないと云う事で、喧嘩両成敗ってな感じでシングルテールの女性の無礼は問わない事に決めました。

 

「あー、それで? 誰が、どなたさんなのかな? 自己紹介してもらえると助かるんだけど」

 

ボクは (せき)払いをして男にとって(つら)い空間に終止符を打ち、それから目前に居る3人に向かって話しかけていきました。

そうすると、真ん中の長髪の女性が元気一杯に自己紹介を始めてくれます。

それを受けてボクは、彼女たちが本当に黄巾の乱を起こした張角たちである事を理解せざるを得なくなりました。

真ん中に居る長髪の女性が張角で、3人姉妹の長女らしい。

向かって左側のボクを睨みつけているシングルテールの女性が張宝で次女。

最後の右側に居る短髪の女性が張梁で三女だそうでした。

 

「あっ! わたしの事は『天和(てんほう)』ちゃんって、そう呼んで下さいねぇー♪」

 

張角は、語尾に『♪』マークを付けるような気軽さで自己紹介を締め(くく)ってくれました。

しかしボクは、そんな彼女の態度より告げられた名前に違和感を覚えます。

 

(てんほう? どういう事でしょうか? ただ、名前の呼び方が似ていただけ?)

 

天和(てんほう)』と云うのは張角の真名らしいのですが、それが黄巾党の討伐理由である『天公(てんこう)』と自称していると云われている名称の呼び方と、酷似している事に疑念を抱いたのでした。

もし遠くから聞くだけだったとしたら、不遜な名称を自称していると聞き違っても可笑しくはないと思ったのです。

ですが、そんな情報は朝廷からは言うに及ばず、今迄どこからも知らされていませんでした。

 

(でも、まさか……。でも、もしそうなら、他の2人も似たような真名と云う事なのでしょうか?)

 

疑念を抱いたボクは、それを確かめるべく張角に問いかけようと思いました。

 

「え~と。天和ちゃん、だっけ? それ真名らしいんだけど、ボクが呼んでも良いのかな?」

「はい、良いですよー。わたしは皆に、そう呼んで貰っていますからぁ」

「あー、そう……。まあ、君が良いって言うんなら、それで良いんだけどね」

「はい」

 

元気よく真名を呼ぶ事を了承する張角に、ボクは自分が抱いている疑問を問いかけていきました。

そうすると、張宝の真名が『地和(ちーほう)』で、張梁の真名が『人和(れんほう)』である事が判明します。

さらに3人が3人共、不特定多数の人物に真名を呼ばれる事に忌避感が無いように見受けられました。

 

(天和に地和。それに人和とは……ね)

 

ボクはそう思い、自分の当たって欲しくない予想が当たってしまった事を理解せざるを得ませんでした。

朝廷の黄巾党討伐理由の一つに、首領である張角たちが自称していると報告された『天公・地公・人公』があります。

それらの名称は『天子』であるところの皇帝を頂く漢王朝にとっては無視できないものであり、その為に張角たちは生死を問わない討伐対象になっていました。

ですが、もしその討伐理由が間違いであったなら?

もし、そうであったのなら、ボクたちが張角たちを討伐する前提が崩れてしまうのです。

しかし朝廷内では、張角たちが不遜な名称を自称しているのを見過ごせば皇帝の権威に傷が付く、それは即ち漢王朝の威信の低下を招くと、そのようにまことしやかに(ささや)かれていました。

それに対して誰も反論せず、それが本当かどうかと云う事よりも、そう云うものだと決め付けられている風潮なのです。

それは正体不明の誰かに、そのように考えるよう誘導されているだけなのでしょうか?

 

ボクたち華陽軍以外の官軍は、賊を捕虜になどせずに問答無用で討伐している。

賊を捕虜になどすれば、その分の糧食を用意しなければならないからです。

そんな余裕は今の官軍にはありません。だから、それを回避する為には、賊を討伐して行った方が効率的でした。

ですが、その為に重要な情報も取れない。いや、取れたとしても黙殺してしまうでしょう。

何故なら、朝廷から送られてくる情報の方が重要視されてしまうし、そんなものは言い逃れる為の賊の戯言だと一蹴されてしまうからです。

そして、渡って来る情報が制限されてしまっていたら、その情報を信じて疑わないまま従って行くしかありません。

そうやって、次第に真実は闇に(ほうむ)られて行く。

 

賊を捕虜にした事で分かった事なのですが、彼らには2つの系統が存在していました。

一つは、どこにでも居そうな人を人とも思わない、そんな典型的なケダモノのような賊たち。

このような典型的な賊たちからは容易に情報も取得できるのですが、張角たちの人物像が年老いた老人や中年の男だとか年頃の娘だとか聞かされる始末で、証言に一貫性が無くて信憑性に欠けていました。

もう一つは、堅い結束を誇って情報を一切漏らさず、まるで何かを守っているかのような賊たちだったのです。

堅い結束を誇る賊たちからは何も聞き出せず、他の賊から聴取した証言の裏付けすら取れませんでした。

その為に首領である張角たちの人物像を確証もって把握する事が出来ず、情報が撹乱されていると判断した龐統(ほうとう)は密偵を絶えず送り続けるしかなかった。

でももし、張角たちが不遜な名称を自称していなかったら?

堅い結束を誇る賊たちの理由が、そんな無実である張角たちを守る為だったとしたら?

もしそうであったのなら、ボクたちは正体不明の誰かに踊らされて居るだけの、とんだ道化に成ってしまうのではないでしょうか。

 

ですが、ここまで黄巾党による乱の規模が大きくなってしまった以上、漢王朝としては仮に間違いであったとしても認める事は無いでしょう。

それをしてしまっては、それこそ王朝の威信が傷ついて事態の収拾が着けられなくなってしまうからです。

まして、権力を私物化して権勢を誇っている今の朝廷の中核を担っている為政者たちが、自分たちの過ちを認めて取り消すとは考えられません。

権力の魅力に(とら)われている存在たち。つまり権力と自分とを同一視してしまっている存在たちは、保持している権力を失う事を怖れ、それを(おびや)かす存在を排斥する事で永続化を謀ってくるからです。

 

龐統が情報撹乱だと判断し、ボクたちがそうだと決め込んでいた現象と、張角たちが投降して来た事態と何らかの関係があるのでしょうか?

張角たちは不遜な名称を自称しておらず、朝廷の調べ方が不十分だったのでしょうか?

もしくは、何者かが暗躍して権力の増強を謀る為に情報を握り潰し、合法的に何かを()み消そうとしているのでしょうか?

それとも、権力を掌握する為に黄巾の乱そのものが、誰かの創り出した茶番に過ぎないのでしょうか?

考えが思い浮かんでは消えて行く、ボクの頭の中では幾つもの疑念が目まぐるしく駆け(めぐ)っていました。

 

(ですが、もしそうなら……。いや、しかし……。……うん?)

 

いくら考えても答えを導き出せずに居ると、ふと情報が足りていない事に気が付きました。

張角たちと関係しているのなら、彼女たちから確認を取れば良いだけだと思い(いた)ったのです。

足りない情報で決断を下すなどをしては、それこそ正体不明の誰かの思惑に乗ってしまい一大事になるところでした。

しかし、もし朝廷内で権力を保持している誰かにとって不都合な事実を揉み消す為に、故意に情報を出し()しみされて選んだ情報のみを渡されているのだとしたら、ボクたちが真実を知るのは余りに危険でした。

今のボクたちの勢力基盤では王朝を敵に回すには心もとなく、孤立無援になって討伐されてしまう可能性があるからです。

だから、ここは慎重に事を運んで行かなければイケません。

ボクはそう思い、張角たちに視線を合わせて問いかけていこうと思いました。

 

 

(さて、誰に聞きましょうか? ちゃんと説明してくれる人が良いですね)

 

そう思いながら、ボクは向かって左側にいる怒りん坊の張宝を抜かして、真ん中の張角と左側にいる張梁の2人の娘を見比べて行きました。

正体不明の何者かに踊らされているのか? それとも、ただの偶然の一致なのか? それらの確証を得ていく為に。

 

 

ボクは暗闇の中で蜘蛛(くも)の糸のような細い縄を(つな)渡りしている、そんな暗澹(あんたん)たる緊張感をその身に感じていました。


 
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