No.495512

真・恋姫†無双~だけど涙が出ちゃう男の娘だもん~[第37話]

愛感謝さん

無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。

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2012-10-13 00:03:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3436   閲覧ユーザー数:3086

真・恋姫†無双~だけど涙が出ちゃう男の()だもん~

 

[第37話]

 

 

「ふぅ~……」

「……(シクシク)」

 

ボクは男女の愛の営みを一戦いたした後みたいな(くつろ)ぐ格好で、天幕のダブつく布に上半身を預けて寝転がりながら(ひと)仕事やり遂げた満足感を感じて(えつ)(ひた)っていました。

ボクの教育的指導[うめぼしorグリコ(頭の両側のコメカミを、中指を(とが)らせた両手の握りコブシで(はさ)みながらグリグリすること)]で涙を流している公孫(さん)は、横で女の子座りをしながら時折ぶり返してくるであろうコメカミの痛みを両手の指でモミほぐしたりしています。

趙雲は、そんなボクたちを呆れた表情で見ながら脇に(ひか)えていました。

 

「ぐすんっ……。なんで私が、こんな目に遭わなきゃイケないんだ。伝え聞いた風聞を、そのまま言っただけじゃないか……」

 

涙目な公孫瓚が、何やらブツブツ文句を言っているのが漏れ聞こえて来ます。

でも、寛大な心の持ち主であるボクは、そんな彼女の失言を聞かなかった事にしてあげました。

だって、ボク自身が変態趣向の仙女でない事を彼女が心の底から理解するまで教育的指導を行った後でもありますし、これ以上痛めつけるのは(こく)と云うものだからです。

ボクって優しいですよね?

我ながら、自分の器量の大きさに()()れとしてしまいますよ。

 

「でもさ、白蓮(ぱいれん)。一人で頑張って居られるのも今の内だけだと思うよ? もっと高い地位に就けば、どうしたって目が届かなく成るんだからさ」

 

ボクは天幕の布から上半身を持ち上げて視線を合わせ、公孫瓚に真面目な話しだと告げて言いました。

 

「……分かっているんだ。そんな事は……さ」

 

まだ少し涙目だった公孫瓚はボクの言葉を受けて真面目な顔付きになり、どこか自嘲(じちょう)するような感じで返答してきました。

 

「なら、なんで探し出して招聘(しょうへい)しないんだい? 幽州近郊にだって優秀な人材は居るだろうに」 

 

顔の表情に(かげ)りを見せている公孫瓚に、ボクは自分の感じている疑問を聞いてみる事にします。

そんなボクに、彼女は仕方がないと言わんばかりの表情を顔に浮かべて話してきました。

 

「幽州は田舎(いなか)で何も無い所なんだ。それに、私にはコレといった決め手が無い。そんなんだから優秀な人材は他の諸公の所に行ってしまうし、運良く客将として働いてくれても最後には皆どこかへ去ってしまうのさ。だから、一人で頑張っているんだ」

 

諦めたような物言いをする公孫瓚の言葉を受け、側にいる趙雲は自分の事を言われたように感じたのか苦笑いを顔に浮かべました。

公孫瓚としては、いずれ趙雲を始めとした客将には正規の将軍になって貰いたかったのかも知れません。

でも、人との出会いは一方が望んだだけでは成立し得ない。それぞれの心の内に、それぞれの望みを持っているから。

趙雲たちにとって、公孫瓚は自身の心の琴線に触れる存在ではなかったと云う事なのでしょう。

誰が悪いという訳でもありません。ただ単に、(えん)がなかったとしか言いようが無いからです。

でもボクは、聞いていた公孫瓚の話す内容に少し違和感を覚えました。

彼女が話す言葉の内容の節々(ふしぶし)から、表面的には優秀な配下を望みながらも心の底では望んでいないのでは無いかと云う感じを受け取ったからです。

それは自分の心を守る為に始めから失敗する事を想定し、うまく行かなかった時の言い訳を用意していると云った後ろ向きな感じでした。

 

「白蓮は本当に人材を求めているのかい? ボクには、そう見えないんだけど」

 

ボクがいま感じている感情が友情なのか、それとも同情なのかは分かりません。

でも、少しでも公孫瓚の助けに成ればと思って、自分が気付いている事を伝えてみようと思いました。

 

(ひど)いことを言うんだな、刹那は……」

 

公孫瓚は話す言葉の語尾をか細くさせながら、ボクの物言いに傷付いた顔を向けてきました。

 

「ボクが思うに、白蓮は始めから諦めていないか? 君の言葉の節々から、そう感じるんだけど」

「そんな事はない! 私は、いつだって渇望(かつぼう)してきた! 状況を変えたくて、ずっと頑張って来たんだ!」

 

公孫瓚は、ボクの言葉が心外だと言わんばかりに声を荒だてて即座に否定してきました。

ボクは、そんな彼女を静かに見詰めながら言葉を続けます。

 

「そうかい? では君は、その身に感じられているのかい? 自分自身が、優秀な人材たちが仕えるに足る存在だとさ」

「そっ、それは―」

「そう在って欲しいと望む事よりも、そうで在ると感じている事の方が優先されるんだよ? 何故ならそれは、自分で自分をそういう存在だと 見做(みな)して信じていると云う事だからね。今の自分は、どのような存在か? その思い定めている君自身の“信念”が、いま感じている感覚へ如実(にょじつ)に表れているのさ。例え君自身が、その感じている感覚を否定したいと思っていたとしてもね」

 

公孫瓚はボクの言葉を否定しようとしましたが、否定しきれない自分を感じたのか二の句が続かないようでした。

ボクは、そんな彼女に言葉を続けます。

 

「君が幾ら優秀な人材たちを表面的に渇望して居たとしても、その思いを心の底で受け入れていない以上、望みが(かな)う事はないよ。だって、自分で自分の思いを否定して相殺(そうさい)してしまっているのだからね」

 

ボクの告げた言葉を受けて、公孫瓚は苦しげな表情を浮かべた顔を下に(うつむ)かせて身体を小刻みに震わせていきます。

いままで彼女は、自分の所に人材が集まらない理由を能力や立地条件などの所為(せい)にしていました。

でもボクが、問題の本質は外的要因にあるのでは無くて自身の思いにあると告げた為、彼女は自分への言い訳が出来なくなったからなのでしょう。

たしかに、外的要因も少なからず影響する事もあるかも知れません。

自分の出生・能力・容姿・性格・立地条件・財産など、条件を()げていったら切りがありませんが。

けれど、例えどんな条件下に在ろうとも、全ての起点は自身の思いが始まりにあると思うのです。

何故なら、ある出来事を自分でどのように思い見定めるかで自身の現実が決まるし、それらの条件であったとしても“在るだけ”の存在だと見做すことが出来るからです。

公孫瓚が否定的な思いを通してしか現実を見定められない現状では、次々に同じような現実が彼女の目につくように成らざるを得ない。

例え目に見える原因と思われる存在を消す事で一時の心の安寧(あんねい)を得られたとしても、自己否定・現状否定の思いと一体に成っている限り、その思いが定める現実へと彼女を(いざな)ってしまうからです。

 

「君自身が(おのれ)を優秀な人材が仕えるに足る存在だと見做(みな)していなければ、例え誰かが仕えてくれたとしても直ぐに別れるようになる。何故なら君にとって、それは在るべき姿では無いと云う事だから」

 

公孫瓚とボクの任地である幽州と益州は、距離が離れすぎていて何かあった時に手助けする事が容易ではありません。

例えボクが彼女を助けたいと思っていたとしても、助けることが出来ない事もあると思うのです。

だからボクは、少しでも彼女が気付いてくれるようにと話しを続けました。

それが公孫瓚の“力”となり、これからの彼女の人生に役立てて欲しかったからです。

 

「白蓮は星たちが客将をしていた時、いつか彼女たちが居なくなるのではないかと云う恐れを感じ続けていなかった?」

「それは……」

「でもさ。星たちが本当に居なくなった時に悲しかっただろうけど、同時にどこか安堵感も感じていなかったかな? これが本当の自分の在るべき姿なんだって、心のどこかで納得しているような感じがさ」

 

公孫瓚は言葉を返すことは無く、黙ってボクの言ったことを反芻(はんすう)しているようでした。

 

「自信過剰な人物よりは余程好感が持てる事だけれど、自信が欠如し過ぎているのも考えようだよ? 今の白蓮は、自己価値を低く置き過ぎていると思う。そんな状態では、君の望みが叶うわけが無い」

 

「……」

 

「もちろん、そのように感じたからと云って君の望みが必ずしも叶うとは限らない。望む事が自分以外の存在に(かか)わる事なら尚更(なおさら)にね。けれど、自分の方で拒絶して受け入れる準備をしていなければ、好機が来たとしても生かせないとボクは思う」

 

ボクが言っている事は、公孫瓚にとって(こく)な内容である事は理解していました。

でも、今その事に気付かなければ、彼女の人生はこれからも同じ状態がずっと続いてしまうのです。

それは(すなわ)ち、彼女はこれからの乱世を生き抜いていく事が出来ず、他の諸公に滅ぼされるがままに成ってしまう事を意味する。

だからボクは、あえて公孫瓚が今まで目を背けていた事実を告げていったのでした。

 

「じゃあ、どうすれば良い?! これ以上、私に何をしろと言うんだ?!」

 

公孫瓚は、まるで幼子のように目に涙を浮かべながら悲痛な叫び声を上げて詰問してきました。

これまで方法が分からず一人で頑張ってきた彼女には、ボクの言葉は心に突き刺さる刀剣のように感じられたのかも知れません。

だからボクは、そんな公孫瓚を優しく労わるように話しかけていきました。

 

「自信の無い人に自信を持てと言っても、言われた方は(つら)いだけだろう。今迄だって頑張って来ているのに、これ以上何をすれば良いのかと問いたい白蓮の気持ちも良く分かる。だから、いきなり頑張る必要は無いよ。まずは、今の自分を受け入れる事から始めよう。自分の良いところも悪いところも全て、あるがままの自分を受け入れてみないか?」

 

そう言ったボクの言葉を受けた公孫瓚は、いままで考えた事も無いような事を言われた為か困惑した表情を顔に浮かべてきました。

ボクはそんな彼女を見て、それも仕方がない事だと思います。

何故なら、今の彼女もまた多くの人々と同じように、自分が何をしているのかが分っていない存在だと思うからでした。

悲しい事ですが、新しい概念を知らず自己を見詰める事が出来ない多くの人々は、自分が選択している思いと自分自身とを同一視している事に気が付けていません。

そして、その思いを通してしか現実を見定める事が出来ない機能不全の状態に(おちい)ってしまっているのです。

でも何故、そうなってしまうのでしょう?

それをボクは、多くの人々が今の自分が選択している思いと本当の自分自身とを分けて見詰める事が出来ない、同一の存在だと見做して疑いもしないと云った事が原因だと思っていました。

でも人は、思いそのものではありません。

もし自分が思いそのものであったのなら、いま自分が何を思っているのかが気付けないからです。

そして人は、感情そのものでもありません。

もし自分が感情そのものであったのなら、いま自分が何を感じているのかが気付けないからです。

人は自分が選択している思いや感情そのものでは無く、それらを静かに見詰める存在こそが“人の本質”なのだとボクは思っていました。

だからこそ人は、どのように思うかを自分で統御して選択することで、自身の現実を創っていける事が可能になるのだと思うのです。

 

多くの人々は自分の置かれている状況を変えんが為に、自分の思いを変える事よりも状況の方を自分の都合の良いように変えたがる。

まるで、今迄の自分が創ってしまった現実を無かった事にする為に、それを補填(ほてん)する何かを得なければならないと云った脅迫観念に踊らされて居るかのように。

しかし悲しいかな、状況は自分の都合の良いようには早々動いてくれません。

だから多くの人々は、望みが叶わない事に失望して自分が無力な存在なのだと云う思いを強めていってしまう。

その思いを強めていってしまうがゆえに、本当に自分が望んでいる事からさえ離れていってしまうと云う悪循環を形成しているのです。

悪循環を断ち切って好循環にする為には、どこかで方向転換をする必要がある。

その為には、土台となる今の自分自身や置かれている状況を“あるがまま”に受け入れる事からしか始める方法が無いのです。

今の自分自身や置かれている状況を自分で創り出したと云う事を受け入れない限り、その思いが永続的に自分自身に付きまとって方向転換をする事が出来ないからです。

 

自分の容姿・能力・財産・地位といった要因を持つことで(おご)り高ぶっている存在や、それらが無いと(なげ)いて自信を無くしている存在たちは、どちらもその思いゆえに世界の均衡(きんこう)を崩しています。

多くの場合は公孫瓚のように自信が欠如している為に、否定的な想念を世界に()き散らして均衡をネガティブ側へと(かたむ)かせている。

自分が何をしているのかが分らない多くの人々、つまり眠って居るかのように目覚めていない人々は、自分の選択している思いと一体となっていて気付けないから対処のしようがありません。

だから、世界に撒き散らされているネガティブな想念を無自覚に採用してしまい、それを更にネガティブ性を強めた想念として世界へと 蔓延(まんえん)させ続けてしまう。

有史以来の人の歴史は、その悲しい連鎖をずっと繰り返して来ました。

その悲しい連鎖を食い止めて変更する為には、一人一人が自分自身を見詰めて受け入れて行くしか方法が無いのです。

だからこそ、ボクは新しい概念を人々に伝える事で気付いて目覚めて貰い、その目覚めた人々を増やす事で世界の均衡を保てるようにしていました。

 

自分の選択している思いや感情に気付く事が出来る目覚めた人々、即ち“覚醒”した人々は、目覚めているがゆえに世界に撒き散らされている想念に影響されません。

仮にされてしまったとしても、その状態の“あるがまま”の自分自身を見詰める事が出来るから次第に影響されなくなっていきます。

そして影響されなくなった人々は、望む思いを自分で選択できる為に行動を少しずつ変化させて行く。

だから覚醒した人々が多くなれば、それだけ未だ目覚めていない人々に多くの気付く機会をもたらすようになる。

そうすれば、それぞれが自分自身を(かえり)みて少しずつでも人生を改善していき、それぞれの気付きの度合いに応じた結果を受け取れると云う好循環が形成されて行くのです。

そしてそれは、大きなウネリとなって世界へと広がって行き、より世界の均衡を保つ事へと繋がって行くとボクは思っていました。

 

自分を無力な存在と決めつけ、それを(なげ)き悲しむ思いと一体となっている今の公孫瓚が、ボクの真意を理解して新しい概念を実践してくれるかどうかは分りません。

それは彼女の権利であって、ボクにどうこう出来る事では無いからです。

それでも、ボクは彼女に伝えられるだけ伝えてみようと思いました。

伝えた事を()かすかどうかは、伝えた相手次第なのだと思うからです。

 

 

「あるがままの自分を受け入れるって、どういう事なんだ?」

 

公孫瓚は、自分の抱く疑問を問いかけてきました。

だからボクは、そんな彼女に新しい概念を伝えていきます。

 

出来事は、ただそこに“在るだけ”の中立の存在である事。

それを“良い事”や“嫌な事”にしてしまうのは、自分の見解や感想といった“思い”が先にあって、そうなってしまう事。

もし自分の感じ方を統御したいのなら、頭で何も決めつける事をせずに身体の感覚を感じて見詰めるという方法がある事。

そして“事実”と“感情”を一つのモノと誤認している“思い”を、“隙間(すきま)”を創ることで分ける事。

事実は自分以外のモノだから変えられないので、感情を味わって受け入れる事。

人は現実を自分の“思い”を通してしか見定める事が出来ないから、人それぞれ別の思う現実を生きている事。

抱いている思いは現実を見定めるだけで無く、動機となって人の取る行動も決めてしまう事。

などを話していきました。

 

ボクは公孫瓚が新しい概念を理解するまで暫く間を置いて、それから彼女に話しかけていきます。

 

「この概念が白蓮の事とどう関係するのかと言うと、今の君の抱いている自己否定や現状否定をする思いを受け入れない限り、その思いを通してしか現実を見定める事が出来ないと云う事なんだよ。そして否定的にしか見えない以上、次々に否定的な現実が君にもたらされてしまう。だから、それを変える為には、どこかで方向転換をする必要があるんだ。それは、ありのままの今の自分を受け入れる事からしか始められないんだよ」

 

説明を聞いても、公孫瓚は今一つ()に落とせていないようでした。

ボクは彼女に詳しく理解して貰う為に、さらに言葉を続けます。

 

「そうだね……。じゃあ、ボクが感じる今の君の状態から話して行こうか」

「私の状態?」

「うん。さっき言っただろう? 『そう在って欲しいと望む事よりも、そうで在ると感じている事の方が優先される』ってさ」

「あっ、ああ」

 

ボクから何を言われるか分らない為なのか、公孫瓚は少し身体を強張らせながら返答してきました。

 

「まず始めに言って置きたいのは、白蓮の事を本当に理解できるのは白蓮自身しか居ないと云う事なんだ。だから、ボクが言う事で受け入れたくない事は採用しなくたって良い。けれどもし、何か君の心の琴線に触れる事があったのなら、これからの君の人生に役立てて欲しいのさ。それを踏まえた上で聴いていて欲しいんだけど、良いかな?」

 

公孫瓚は、ボクの言葉を黙って(うなず)いて同意を示してくれました。

ボクは彼女の同意を受けて話していきます。

 

「自分を否定する人達と云うのは、たいがい他の存在と今の自分を比較して落ち込んでいるだけなんだよ」

「比較?」

「そう、比較。自分の頭で勝手に創った理想とする自分自身か、それとも自分が望んでいる状態を持っていると思われる他者とかとね」

 

公孫瓚は、ボクの話しを黙って聞いてくれていました。

 

「例えば『主君とは、かくあるべし』とか理想の主君像を自分で勝手に思い(えが)いて、その理想像と今の自分を比較したりする。もしくは、自分が中々出来ない事を容易(たやす)く為してしまう他者と今の自分を比べて、それが出来ないからと自分を無力な存在だと見做してしまうのさ」

 

ボクの言葉に心当たりがあるのか、公孫瓚は口端を少しヒク付かせました。

 

「自分の理想像を思い描いたり、自分に出来ない事が出来る他者を参考にして努力する事は良い事だとボクも思う。違いがあるからこそ気付け、人は自分の為したい事が分るのだからね。でもさ、そこで多くの人達は、どちらが優秀で、どちらが劣っているのかと云う優劣論を用いて比較する事が当たり前だと思っているんだよ。ただ単に、それぞれの個性に違いがあると云うだけなのに」

 

公孫瓚は黙ってボクの話しを聞き続けてくれています。

 

「もちろん、そう云った考え方をボクは否定しない。出来れば少しでも優秀な自分で在りたいとは思うからね。でもさ、今の自分と理想とする自分を比較すれば、どうやったって勝てる訳が無いんだから落ち込むのは当たり前だと思うんだよ」

 

「まあ、そうかも知れないな」

 

公孫瓚は消極的な同意を示してくれました。

 

「だけど多くの人々は、自分の抱く思いを見詰められないから疑問にも思わない。だから『何故いまの自分は、こう思う事を選択しているのだろうか?』と云った問いかけを自身にする事も無い。そして『蟷螂(とうろう)(おの)』のような事を繰り返して今の自分自身を否定し続け、どんどん無力感を強めていってしまうんだ」

 

「……」

 

「今の自分を否定して無力感を強めていけば当然、自己価値を低く置くようになる。そしてそれは、今の自分の在り方だと感じる信念になって、それからの自分の行動や現実を見定める事に影響を(およ)ぼすように成るのさ」

 

「ふむ……」

 

ボクの言葉を受けて、公孫瓚は下顎(したあご)に片手を添えて考え込みました。

彼女なりに理解するように努めてくれているのかも知れません。

 

「だからさ。自分以外の存在と今の自分を比較する所までは良いんだけど、その事を今の自分と優劣を決める為にあると思うのか、それとも個性の違いがある事を確認する為にあると見做すかは自分で選択できる事なんだよ。それは単に、人と自分に違いがあると云う事実にしか過ぎないのだからね」

 

「う~ん、刹那の言っている事は分かる。でもそれって、こじつけじゃないのか?」

 

公孫瓚は、ボクの言葉に否定的な発言を返してきました。

ボクは、そんな彼女に『我が意を得たり』と云った感じで微笑しながら返答していきます。

 

「うん、そうだね。確かに、こじつけだとボクも思うよ」

「はあぁー?!」

 

公孫瓚は自分の否定する言葉をボクが同意するとは思っていなかったようで、『?』と云う疑問符が彼女の頭の上に浮かんでいるような困惑する声を大きく上げてきました。

 

「誰もが当たり前に思っているから違和感を覚えないのかも知れないけど、比較する事で優劣を決めている事だって個性の違いと見做すと事と同様に“こじつけ”なんだよ? だって、どちらも自分の見解と云った思い方に過ぎないのだからね。優劣を決める為に否定的にしか見てはイケませんって、誰かが定めている訳じゃないだろう?」

 

「まあ。それは、そうだろうけど……」

 

公孫瓚は、返答する言葉の語尾をか細くしながら同意を示しました。

 

「もちろん、自分以外の存在と今の自分を比較する事で奮起してヤル気を出すと云った方法もあるから、優劣を決める方法を一概には否定しない。でもさ、否定的にしか見る事が出来ないから採用するのか、それとも違いがあるだけと見做した上で採用するのかとでは意味合いが違ってしまうと思うんだよ」

 

「うん。それは分かる」

 

「優劣を決める方法を選択する事が自分の幸せに繋がると思うのなら、それをそのまま採用すれば良い。でも、もしそうで無いのなら、その思いを採用しなくたって良いんだ。その上で、新たに自身にとっての幸せに繋がる思いを自分で決めていけば良い。誰かが制限を掛けている訳じゃ無い、自分自身が制限を掛けているだけなんだよ」

 

ボクの真意を理解してくれたのか、少しずつ公孫瓚の表情に生気が蘇っているように感じられました

そんな彼女に、ボクは結論付けるように話していきます。

 

「これまでの白蓮は、自分自身を追い込んで行くだけだった。勝てる訳のない頭の中で創り上げた理想像と今の自分を比較して、不甲斐無い自分だと嘆き悲しむ思いを (かさ)ね続ける事でね。そして、その事に気付けずに居たから、どんどん自分を否定して自己価値を低くして行った。それが今迄の君の在り方だったんだ。だから、その在り方を感じて、それに応じた現実が展開されて行った」

 

ボクの断定するような物言いに、公孫瓚は自嘲ぎみに小さく頭を上下させて同意を示しました。

 

「今迄の在り方が白蓮の幸せに繋がると思うなら、それを選択し続ければ良い。でも、もしそうで無いと思うのなら、在り方を君自身で選択し直せば良いだけなんだ。誰に気()ねする必要もない。自分の人生をどうするかを決めるのは、自身の権利に他ならないんだから。

 だけど、時に目覚めていない多くの人々は、役割を(にな)うようにと君に強要してくる事もあるかも知れない。自分の思っている主君像を白蓮に重ねて、その理想像と違うと非難するといった具合に。でも、それを受け入れるかどうかも、君自身で選択できる事なんだよ」

 

ボクは、そのまま言葉を続けます。

 

「ただ、その事で生じる全ての結果は、自身で受け取る覚悟はする必要がある。誰かの理想像を拒否する事で、その誰かが自分の元から去ってしまう事だってあるだろうからね。だから、自分の責任に置いて『どう在りたいのか?』、その事を良く考えて大切にして欲しいんだ。誰の(ため)でもない、大切な自分自身の為に」

 

ボクは、いま自分に言える限りの言葉を公孫瓚に伝え話しました。

言葉が足らずに伝えられない事もあったかも知れませんが、それでも精一杯の想いを伝えたつもりです。

今後どのような在り方を望むのか、それは彼女自身が決めること。それはボクが関知する事では無いし、して良い事でもありません。

だからボクは、これから定めていく公孫瓚の在り方がどんなものであれ、少しでも彼女の幸せに繋がって行くものであって欲しいと願わずには居られませんでした。

 

 

「刹那は……さ。刹那の陣営にいる星や他の将軍、自分より優秀だと思える者たちが仕えるに足る存在だと、そんな風に自分自身を見做しているのか?」

 

暫くの間、天幕内に静寂さが訪れていましたが、それを打ち消すように公孫瓚が躊躇(ためら)いがちに問いかけてきました。

ボクは、そんな彼女に自分の素直な思いを話していきます。

 

「正直に言えば、ボクも自分自身を彼女たちが仕えてくれるに足る存在だと見做しているとは言い難い。そもそも、何でボクに仕えてくれているのか、その理由すら分かっていないしね」

 

「そっ、そうか。やっぱり、刹那も自信がある訳じゃ無いのか……」

 

自分に自信が持てていない公孫瓚は、ボクが自信を持っているから趙雲たちを配下に出来ているのだと思っていたみたいです。

でも、それをボクが否定した為に彼女は少し失望してしまったようでした。

 

「ボクが常に気にかけている事は、自分自身に意識を向けて『どう在りたいのか?』と云う事を問いかけ続ける事と、自分の望みを実現していく手助けをしてくれている彼女たちに対して信頼と感謝を忘れないようにしている事だけだよ」

 

「信頼と……感謝?」

 

公孫瓚が意表を突かれたような表情で問いかけてきました。

いままで彼女は、そういう風には考えていなかったようです。

ボクは、そんな公孫瓚を見るともなしに答えていきました。

 

「うん、そう。ボクには誇れるほどの知力も武力もありはしないし、ボクの望みは(ひと)りで叶えられる(たぐい)のものでもない。それでも為し遂げたい事が、実現したい想いがボクにはある。だから、それを助けてくれる人達に信頼と感謝だけは忘れないようにしているのさ」

 

「……」

 

「それにね、ボクにだって実現出来るという自信があるから、やっている訳じゃないんだ。ただ、それが実現するかどうかを不安に思う感情に(とら)われて居ないから、なんとかやって行けているだけなのさ。例え不安に思う時、恐怖に(さいな)まれてしまう時があったとしても、その(たび)に不安や恐怖を感じている“あるがまま”の自分自身を見詰めて受け入れて行く事が出来るから」

 

「そう…か。それが刹那の……在り方ということか……」

 

ボクは素直に、あるがままの自分の気持ちを公孫瓚に話しました。

それを受けた事で抱いていた疑問に答えが見いだせたのか、公孫瓚は自分に向かって確認するかのように(つぶや)きます。

ボクはそのまま口を(つぐ)んで、彼女が自分なりの答えを腑に落として行くのを待つ事にしました。

 

 

 

暫くの間、黙ってボクの話した内容を吟味していた公孫瓚は、おもむろに顔を上げて趙雲へと視線を合わせます。

 

「なあ……星。星が私に……その、仕えてくれずに去ってしまった理由は、今でも良く分からないんだ。それなりに良い関係を私達は築けていたと思うからさ。だけど刹那の話しを聞いて、なんで星が刹那に仕えるに至ったのかは少し分かったような気がするんだ。それが星の望みに、為し遂げたい事に繋がって行くからなんだろう?」

 

公孫瓚は、自分の気持ちに整理をつけるかのように趙雲へ向けて話しかけていきました。

趙雲に意味深な事を話しかける公孫瓚の表情は、今迄のような自信無さげな感じでは無く、どこか吹っ切れた晴れ晴れとした感じが見受けられます。

そんな公孫瓚に趙雲は黙して語らず、どこか優しげな表情の顔に浮かべる口元の微笑をもって答えている。

言葉を語らずとも通じ合う、そんな彼女たちをボクは黙って見ているしかありませんでした。

でも、今の公孫瓚の表情を見る限りでは、ボクが彼女に伝えた事は無駄(むだ)にはならないと思える。

だからボクは、そのまま時が流れるに任せる事にしました。

今この時この場所の偶然とも云えるボクたちの 邂逅(かいこう)が、これからの公孫瓚にとって良い転機になるようにと意宣(いの)りを込めて。

 

 

そして、先の見えない暗闇の時代に生きる全ての人々が目覚めて覚醒し、それぞれの人生をそれぞれが心安らかに過ごして生きていける、そんな光り輝く時代の到来(とうらい)に想いを()せて。

 

 


 
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