No.498622

【小説】しあわせの魔法使いシイナ『空を泳ぐ魚』

YO2さん

普通の女の子・綾と、魔法使いの女の子・シイナは仲良し同士。
何事もマイペースなシイナを心配して、綾はいつもやきもき。
でも、シイナは綾に笑顔をくれる素敵な魔法使いなんです。

2012-10-21 13:34:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:563   閲覧ユーザー数:563

 

綾の住む「央野区」は、普通の街と少し違っています。

 

街の中央には「魔法学園」があり、街には魔法使いが住んでいます。

綾の家にホームステイしているシイナも、そんな魔法使いの一人です。

 

今日は日曜日。

綾はお昼ごはんのホットケーキを焼いています。

ホットケーキの甘い香りが、ふんわりとあたりにただよいます。

 

こがね色の焼きかげんを見つつ、綾はフライパンの上のホットケーキを上手に放り上げて裏返します。

一枚目をお皿にのせて、さあ二枚目にとりかかろうと綾は思いました。

 

その時、お皿の上のホットケーキのそばに、ゆらゆらゆれる赤いものを見つけました。

『何かしら?』綾は目をこらしてよく見ました。

 

それは、小さな赤い魚でした。

魚が空中をひらひらと泳いで、ホットケーキをつついています。

綾は、せっかく作ったお昼ごはんがつつかれては困るなあ、と思いましたが、この魚はお腹がすいているのかも、と思い直して、魚がホットケーキをつつく様子をしばらく見つめていました。

 

 

けなげにホットケーキをつつく魚を見ているうちに、綾はだんだん魚がかわいく思えてきました。

「好きなだけお食べ」綾は魚にそう言いました。

 

「ふぁ~、よく寝た」

シイナが二階から、あくびをしながら階段をおりてキッチンにやってきました。

「おや、何か小さいのがいる」シイナは魚を見て言いました。

 

「ねえシイナ、この魚はなんなの?」綾がシイナに聞きました。

「この子はね、空を泳ぐ魚だよ」シイナが答えました。

 

「空を泳ぐ魚?」

「そう。普通の魚は海や川を泳ぐけど、この魚たちは空を泳げる魚なの」

「ふうん、不思議ねえ」

 

「綾ちゃんのホットケーキの匂いにつられてやってきたんだね」シイナが笑って言いました。

そう言っているうちに、空中を泳ぐ魚が次々と綾の家の窓から入ってきました。

金色の魚、銀色の魚、ブルーの魚、ピンクの魚、黄色の魚、しま模様の魚、水玉の魚、透き通った魚まで、大きなのも小さなのも中くらいのも、数えきれないくらいたくさん入ってきました。

 

「あらら、こりゃ大変」

二人はあっという間に、魚の群れに囲まれてしまいました。

 

「このままじゃお昼ごはんが食べられないわ」綾が言いました。

「私にまかせて!」

シイナはホットケーキをお皿ごと持ち上げました。

 

そのまま、玄関から外にでます。

魚たちはシイナの持つホットケーキの匂いにつられて、シイナの後をぞろぞろついて行きます。

 

外に出たシイナは、ホットケーキを勢いよく空に放り投げます。

ホットケーキはそのまま空高く舞い上がりました。

「さあ、お行き!」シイナは言いました。

すると魚たちは、一斉にホットケーキを目がけて空へ飛び立っていきました。

 

そして、その先を見ると、空を泳ぐ魚たちがたくさん群れを作って泳いでいました。

まるで夜空に浮かぶ天の川のように、青空の一角を魚たちの群れが横切っていました。

 

綾も玄関から出てきて、見上げました。

「わあ…すごい…」綾は某然とつぶやきました。

 

「見て、綾ちゃん」シイナが西の空を指差しました。

すると、街並みの向こうからやってくるのは、巨大な空を泳ぐクジラでした。

「うわぁ…」

クジラが綾の家の上を通り過ぎるとき、クジラの影に家がすっぽりと包まれてしまいました。

 

クジラが通り過ぎると魚たちの群れもまばらになりました。

「行ったみたいだね」

「そうね、一時はどうなるかと思ったわ」

 

「お昼ごはん食べよう、綾ちゃん」

シイナはそう言って、綾と一緒に家に入りました。

 

「あれ?」シイナが首をかしげました。

キッチンに目をやると、最初に来た赤い魚が一匹、まだ残っていました。

 

「よっぽどこの家が気に入ったんだね」シイナが言いました。

「まあ、一匹くらいいいかな」

綾とシイナと魚の三人で、お昼ごはんにホットケーキを食べました。

 

赤い魚は、その後もときどき綾の家に来てごはんを食べるようになりました。

魚が来る日には綾はちょっとだけ、いつもよりごはんの時間が楽しく感じられるのでした。

 

―END―

 


 
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