オズの魔法使いに出てくるブリキの木こりは「心」を欲しがった。
ブリキで出来た冷たい身体。その上「心」もなくただ樹を切るだけの無機質な自分に嫌気がさしていた。
それでも樹を切ってる間は忘れられた。だから夢中になって切っていた・・・・
雨が降っている事すら気付かずに。
今思えば、ヤケになって起こした自傷行為なのだと思う。
雨が降り、空が晴れ、日光が射せばブリキで出来た身体は簡単に錆びて動かなくなる。
鳥が肩に止まってはさえずり、また雨が降り、晴れる。その繰り返し。
このままいけば自分は誰にも知られずに朽ち果てるだろう。
ブリキはそれでもいいと思ってた。
ただ、樹を切るだけの存在の自分。
誰にも知られずこのまま動かなくなるのならそれでも・・・・
――――そんな時、小径から歌が聞こえる。
女の子特有の甲高い声。森の隙間からふわふわとしたスカートが見え隠れしている。
それに続く、カカシとライオン。
女の子、カカシ、ライオン。魔法の国であるここでも見られない光景だった。
そんな少女にブリキは興味が沸いた。
「アナタはここで何をしているの?」
「見ての通りさ。錆びてる。だから、動けない」
「動きたいと思わないの?」
「思うに決まってるだろ?「心」も無く動けもしなきゃただの鉄の固まりだからね。でも動くには油がいるんだよ。僕ブリキだから」
「油はどこにあるの?」
「そこにある」
「自分で差せばいいじゃない?」
「それが出来るならとうにやってるさ。さっきも云ったろ?動けないって」
ブリキの自分は錆びてしまえば、「誰か」に油を差して貰わねば動けない。
でもこんな所でずっと一緒にいてくれる人なんて誰もいなかった。
初めも頃はいたのかもしれない。一緒に歌を歌ったり、踊ったり、ソイツが油を差してくれたり喧嘩をしたり仲直りしたり。
でも遠大に生きる自分に誰もが自分を置いていってしまった。
追い掛ける事も出来ないブリキの身体。
もしかしたら自分を置いていった彼らは「心」がない自分に愛想をつかしたのかもしれない。
くるくると表情を変える少女の名前はドロシーと云った。
「アナタも一緒にオズへ行かない?「心」が手に入るかもしれないわよ?」
カカシやライオンも各々の願いを叶える為にオズへ向かっていると云った。
「頭脳」が欲しいカカシ
「勇気」が欲しいライオン
そして・・・
「私は「カンサス」へ帰りたいの・・・・」ドロシーの「帰郷」
不安そうなそれでも前を向いて、希望に向かって進むドロシーにブリキは太陽みたい眩しいなって思った事を覚えてる。
太陽は空にあるのに・・・まるで彼女も太陽みたいに眩しい。
それから四人で一緒に色々な旅をした。
巨人の出てくる街や大鷲が襲ってくる谷。
欲しい物は違うけど行く場所は皆一緒。
ドロシーは爪や牙、鉄の身体を持っていないのに、彼女はなんだか自分よりよっぽど強い気がした。
「ドロシーは強いね。そんな気がする」
「あら?アナタの方がよっぽど強いわよ?私にはアナタみたいに頑丈な身体じゃないもの」
「・・・「そんな気」とか云っても僕は「心」がないから違うかもしれない」
「その為に私達はオズへ行くのよ。明日も頑張りましょう?」
「ああ」
焚き火に照らせて微笑む彼女はやっぱり太陽みたいだった。
因みにカカシは燃えるから近づきたくないと云って焚き火の番はブリキになった。
皆と一緒に旅をするうちに、ブリキの中で胸の中で不思議な感覚に襲われる時があった。
カカシやライオンといる時とは違う。ドロシーの時にだけそれはなった。
彼女が笑った時や楽しそうな所を見るとまるで胸の中にある蝋燭に火が灯ったみたいに温かくなった。
慌てて自分の胸を開けてみたけれどそこには何もなくて、驚いたドロシーが笑いながら
「どうしたの?」って云ってる姿を見たら余計に火が揺らいだような気がした。
だからブリキはライオンに聞いてみた。
「ドロシーを見ているとここがあったかくなるんだ」って。
ライオンは少し困った顔をしていた。
「ブリキくん・・・それは・・・きっと・・・」
「恋」だと思うよ。
そう、ライオンは云いたかった。
でも自分は「勇気」が無いからブリキに云えなかった。
もし違ってたら?仮にそうでもブリキの「恋」が破れてしまったら?
そう思うとライオンはブリキに告げる事が出来なかった。
「ライオンくん?」
「・・・ごめん。「勇気」がないから俺云えないや・・・ごめんなブリキくん」
「いいよ。話を聞いてくれてありがとう」
「本当にごめん」
俺に勇気が無くて。
ライオンはこの感覚に見当が付いてるみたいだった。
でも、彼は自分には「勇気」が無いからと教えては貰えなかった。
けど、分かっていてあえて教えない。というのもまた「勇気」なんじゃないないかな?ってブリキは思った。
「ライオンくんは優しいからね・・・」
そう云ってカカシはブリキの話を目を細めながら聞いていた。
「色々考えてキミを傷つけたく無かったんじゃないのかな?」
やっぱり「頭脳」があるライオンは違うね。
羨ましいよ。
カカシは呟きながら寂しげに微笑んだ。
「ブリキくん。単刀直入に云うよ。それは・・・「恋」じゃないかな?」
「恋?」
「そうさ、僕やライオンくんにとは違う気持ちがドロシーにはするんだろ?」
カカシが云ったようにドロシーに対しては確かに何か違う。
でも・・・
「恋」って「心」のある人がするものじゃないかい?でも僕には「心」なんて無いんだよ」
胸の鉄を開きブリキはカカシに見せてやった。
「心」がない僕は「恋」なんてしないよ」
けれどそれならば、この気持ちはなんなんだろう?
自分には「心」なんてないのに・・・・
「・・・難しいね」
カカシはブリキのそれは確かに「恋」だと思うけど、「心」無いというブリキはそれが「恋」じゃないって思ってる。
「心」なんて無くても「恋」なんて出来ると云ってしまえれば簡単だけど。
「心」のない「恋」ってなんだろうと?ともカカシは思う。
そして、どうしてライオンくんがブリキに告げられないかも納得がいった。
「ごめんねブリキくん。僕に「頭脳」があればキミに納得がいく答えが出せるのだろうけど・・・僕には「頭脳」がないから答えられないんだ」
そう云って笑うカカシの顔を見ているとブリキは胸の奥の炎に風が吹くような気がした。
ブリキの木こりは「心」を欲しがった。
そして「心」を手に入れる旅の途中、知らず知らずのうちにドロシーに恋をした。
けれど自分には「心」がないからこの気持ちはなんだろうって思う。
「恋」だなんてブリキは思わなかった。
だって「恋」は「心」がある人がするものだから。
でもブリキのソレはどう見ても「恋」のそれで・・・
けれどブリキはこれは「恋」じゃないって思ってる。
カカシやライオンも大切な仲間なのに。もちろんドロシーだって。
でも、ドロシーを思う気持ちは他の2人へと向ける感情とは違うなって思うブリキ。
オズに行けば総て決着がつく!この気持ちもなにかも・・・・・!
そう願いブリキはオズへと向かうのだった。
オズへの到着。ドロシーとの別れ。という事実から目を背けながら。
いや、実際は分かっていたのかもしれない。
ただ、認めたくなかった。愛おしい彼女の願いとか別の感情が自分に渦巻いてる事など。
こんな気持ちになるのなら・・・・
ずっとあの暗い森の中、ひっそりと錆びていれば良かった。
そんな感情に雁字搦めになるのを恐れていたのかも知れない。
自分の中にこんなドス黒い気持ちがあるなんて認めたくなった。
「心」は温かくて優しいものだってずっと思ってた。
だからブリキは「心」を欲しがった。
だって今まで会った人たちは皆優しかったから。
「どうしてそんなに「優しいんだい?」と聞いた事があった」
そしたら皆笑って「心があるからさ」と云った。
だからブリキも「心」が欲しかった。
そうすれば自分も彼らのように「優しく」なれるのではないかと思った。
けれど・・・・
オズに着いて待っていたのは、仲間との、ドロシーとの別れ。
引き裂かれそうだった。壊れそうだった。
でも血も出ないし、割れる音もしない。
それでも確かにナニカが自分の中で痛かった。
ブリキは「心」を欲しがった。
優しくて温かいものだって思っていた「心」
確かに手に入れた「心」は温かかったブリキにとって初めての感覚だった。
それと同時に冷たくなって真っ黒にもなった。
「心」ってなんだろう・・・・・・・・?
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オズの魔法使い。
もしブリキがドロシーに恋をしたら?
童話シリーズ:1(の予定)
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