(朝・山城国・三条大橋の温泉宿『麻呂眉屋(まろまゆや)』・男子部屋)
さらわれたレン以外の全員が男子部屋に集まり、1枚の文書を囲んでいた。
***
家康軍へ告ぐ
レンは頂いた。
しかし“降伏勧告”や“取引”はしない。
お前らのそして我らの予定通り、伏見城戦は行わせて貰う。
そちらが来なければどうなるかは、知っての通りだ。
せっかくの大勝負、面白い余興を用意して待っているぞ
仙狐
***
学歩:やられた・・・
升太:寝込みを襲われる事を考えて、ミクの水晶玉に見張りをさせていたはずだが・・・
ミク:反応があったら私から必ず皆さんに連絡できるようにしてましたミク。でも昨晩は1回も霊力反応がなかったミク・・・
海斗:仙狐ということは、あの“狐の番人”の事だ。何かの術をかけて、気配を消したな
学歩:ここに来たのに拙者たちに一切手を加えないで、レンだけをさらう、ということは、“我々の戦力の要を欠く策“と考えて、間違いないだろう。しかし、何で”さらった“んだ?。ここに来たのなら我々全員を殺せば、それで簡単に済んでしまう事のはず。あげくに、“降伏勧告”や“取引”をしないなど、戦術から考えて、おかしい点だらけだ
ミキ:それなんだけど、嫌な予感がする一文が書いてあるのよね。“面白い余興を用意して待っている”っての
メイコ:忍びの経験から、正直、悪い想像しか出てこないんだけど、とにかく無事を祈るしかないわ
テト、てと:。゚(゚´Д`゚)゚。
“テト”も“てと”も悲しくて泣いていたのだが、一番泣いているはずの“リン”は泣かずに気丈に振る舞っていた。
学歩:・・・リン、泣いてもいいんだぞ。一番近い間柄の君の悲しさは、計っても計りきれないと思っている
リン:・・・いえ、この、レンがいない戦、残った私が頑張らなければ、戦う前に負けが決まります。泣いてたらレンに怒られます
升太:強くなったな、リン
ミク:リンちゃん・・・
学歩:とにかく今日の戦は、向こうも“確定”を前提にしている。行かなければどうなるかは、言うまでもない。宿の人に握り飯を作ってもらって、移動中に食べて朝食を済ませよう。絶対に負けられない戦いだ。不安な気持ちはとりあえず片隅に置き、戦に専念しよう。皆、いいか?
全員:了解!
こうして学歩は宿の人に頼んで握り飯を多めに作ってもらい、各自に持たせてから準備して、宿を出て、伏見城城門前に向かうことにした。
ちなみに仙狐は、レンの所持品である“巫女服”と“天叢雲剣”の保管場所を探さなかったため、盗み忘れていた。一行は一応のため、それらを風呂敷に包んで、戦に持っていくことにした。
(伏見城城門前)
両軍共に準備は整っていた。
秀吉軍の兵力である“200の魔物兵”が門の前に立ちはだかっていた。秀吉は伏見城の天守閣の見晴台で、戦況を見つめていた。現場指揮の任は仙狐がついていた。何故か、番人の残り、安倍晴明と芦屋道満はいなかった。
対して、家康軍はヘリをアイドリング状態で着地させ、ミクとリンを後方に配置し、真ん中に司令塔の学歩、前面に残りの仲間を配置していた。
学歩:遂にここまで来たな・・・
升太:先の戦で俺達が負け帰った、因縁の場所・・・
海斗:今度は勝たせて貰う。いや、勝たなければ行けない!
メイコ:兵力も戦力も絶対的に不利。条件最悪だけど・・・絶対に勝つ!
ミキ:ところで、あの問題の門番だけど、見る限りで、安倍晴明と芦屋道満がいないね
学歩:レンを奪った事による絶対的な戦力差を確信して先陣に置かなかったのか、理由はわからないが、とりあえず、少しは安心した。仙狐は司令官扱いか。なら、昨日の策を修正しよう。とにかく、番人戦に向けてリンとヘリを温存し、我々で向こうの兵を倒しまくって、戦力差を埋めていこう
全員:了解!
仙狐と秀吉は、何故か大きな拡声器を持っていた。秀吉がとりあえず勝ち誇った顔で、何かを叫んだ。
秀吉:家康軍の諸君! 伏見城へようこそ! まずは逃げずにちゃんと戦に来た事を誉めておこう!
学歩も負けずに大声で叫んだ。
学歩:それはどうも! とりあえずここでは二度目の戦だが、今度こそ勝たせて貰う!
秀吉:攻撃の要が不在でもか!?
升太:おまえらがさらっていったんだろうが! 全く持って、とことん卑怯だな!!
秀吉:戦に卑怯もへったくれもあるか!! 勝てばいいのだ!
学歩:ところで、そっちの要の“安倍晴明”と“芦屋道満”がいないが、こちらをとことん舐めているのか!?
秀吉:知るか!! 土壇場に来て、上官から移動命令があったんじゃ!!
学歩:(秀吉の策ではなかったのか)
秀吉:まぁ、それでも勝つけどな!! それに、こちらはおまえらに“余興”まで用意してやっているのだ! 楽しみに待っているがよいわ!
ミキ:なんの“余興“なのよ!
秀吉:それは今は言えんな~! まぁ余興を楽しめるのは、とりあえず、この200の兵を倒した後だ!
升太:(一体、余興ってなんなんだ!)
秀吉:雑談はここまでだ! では、戦を始めようぞ! 全軍、突撃!!!!!!!!
学歩:こちらも前衛、突撃!
と、そのとき、家康軍の後方にいたリンが素早く飛び上がり、前衛の前に着地し、お祓い棒を構えて、叫んだ!
リン:爆炎術! 溶岩噴火!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!!
秀吉軍の200の兵の中心の地面が真っ赤な溶岩色に変わり、次の瞬間、その場を中心に溶岩が吹き出し、爆炎を伴って、爆発した!次々に蒸発していく秀吉の兵!
兵達:ぎょえーーーーーー!!!!!!
秀吉、仙狐:!!!!
術の効果が切れ、通常の地面に戻ったのだが、軽く見積もっても“半分以上”の兵が消滅してしまった。
学歩:リン! 君は番人戦の要なんだぞ! 霊力を減らしてしまったら・・・
リン:・・・この術の力の源は“人間の怒り”です。勾玉で増幅したから、霊力は使い切ってないです。これから勾玉の力で霊力を回復します。兵は半分位減らせたと思います。後を頼みます
リンは歩いて後方へ移動し、ミクの隣でしゃがんで瞑想し始めた。
ミキ:リンちゃん、本当はもの凄く怒ってたんだ・・・
学歩:と、とにかく兵は残り100を切った! 前衛! 再度突撃ぃ!!!!
升太:うぉぉぉぉ!!!! 霊力全開! 千手掌!!!!!
升太の見えないパンチの連続で、前衛の兵が次々に空高く吹き飛ばされて、地面に叩き付けられて消滅していった!
ミキ:リンちゃんに負けないよ! 霊力全開! アホ毛大飛翔!!!
ミキの声に呼応し、投げたアホ毛が巨大化して、ブーメランのように回転し、同じく前衛の兵を両断していった!!
海斗、メイコ:霊力全開!! 幻影手裏剣!!
二人が超高速で投げた数多くの手裏剣は、“霊力で増幅された気の塊”を多数作りながら、多数の兵を貫通していき、滅していった!
テト:Ψ(`皿´;)Ψ
テトは手に持った状態で、死神の鎌を振り回し、霊力で作った“かまいたち”を連続発射し、兵を切り刻んでいった!
学歩:よし! いいぞ! 一般兵はこれだけでなんとかなる! ネル! 君たちのヘリは、ある意味“切り札”。向こうの“余興”が新戦力である事は間違いない! 君たちは“それ”が出てくるまで待機していてくれ!
ネル:了解! こっちも武器の霊力を溜めておく!
こうした戦いが5分ほど続いた後、なんと、秀吉軍の200の兵は全て消滅してしまった!。勿論、家康軍の面々は全員、生き残っていた。しかし、
テト以外の前衛全員:はぁ・・はぁ・・
テト:(´・ω・`;)
全員、霊力と体力を大量に使って、疲れてしまっていた。霊力、体力の回復の手段、ミクの回復術を受けるために、学歩の後ろに移動した。そして、ヘリが前衛に移動した。
学歩:秀吉!!!! 自慢の200の兵力、この程度か! 約束通り、全部倒してやったぞ! さっさと“余興”とやらを出したらどうだ!
秀吉:(ぐぬぬ、こんな短時間で兵を失うとは・・・まぁいい。“疲れさせる”事が目的だ)
学歩:どうした!!!!
秀吉:まだ“余興”はお預けだ! こちらにはまだ切り札がある。こいつが倒せるかなぁ?
仙狐:戦車、出撃!!
ゴゴゴゴゴ・・・・ン
ブォーーーー!!!!
仙狐の声と共に、伏見城の城門が開き、通常の“キャタピラ戦車”ではなく、大きなドーナツのような形の物を下部に備えた戦車が、浮いた形で移動してきた。
学歩:な、なんだ! あのカラクリは!
ネル:あんなものまであったなんて! みんな! あれは“ホバー戦車”だ! 通常は金属のわっかを回して移動する“キャタピラ戦車”だが、あいつは空気を下部に飛ばして移動する“ホバリング”タイプの戦車!
学歩:と、とにかく、新手なんだな!
ネル:こいつの相手は私たちがする! 他は後方に移動し、霊力壁を作って回復に専念していて!
ギュンギュンギュン・・・バラバラバラバラ!!!!
遂にヘリの出撃となり、第2戦は“ヘリvsホバータンク”となった!
ブオーーーー!!!!
バラバラバラ!!!!
ホバータンク内AI:ピピ・・・・ピピ・・・・
秀吉:おい! 仙狐! 本当にヘリ相手に大丈夫なのか?
仙狐:ヘリはある意味、驚異の兵力。貴方とめぐみ様が賀茂保憲のプランを過大に評価してヘリを手放したツケが、今、回ってきたと思って下さいよ! あの戦車は本来、“人間の兵力にとどめを刺す”兵器。それをヘリ撃破に使うのです
秀吉:ぐぬぬ、すまぬ。だが、これでヘリを取り除けるのだな! いいぞ! いけ!
操縦桿を握っているネルの手に、汗がにじんでいた。
ネル:相手はホバータンクか・・・。キャタピラなら霊力マキビシ弾の“絨毯爆撃(じゅうたんばくげき)“で片づけようと思ったけど、浮いているならだめだ。ある意味、ホバー系は一番やっかいだ・・・
ハク:弱点とかあるの?
ネル:うーん。まず未来のカラクリを操れるのは、たぶん私たちしかいないから、相手は、“A.I.”の自動操縦ね。だから、AIが仕込んであるはずの“操縦席”の“ハッチ”を集中攻撃して、頭を破壊して止めるしかないわね
ハク:あの戦車、砲身が真上にも向けるタイプだから、攻撃範囲には気をつけなくちゃね
ネル:普通の戦車なら、真上はデッドアングルなのに・・・。まぁいいわ。とにかく“操縦席ハッチ”へのピンポイント攻撃が出来る範囲で旋回しながら攻撃しよう! 武器は・・・あ、これがいいや。対戦車砲、残りの武器の“霊力パンツァーファウスト”。相手のホバー移動の“慣性移動”を予測して、強力な一発一発を正確に叩き込んで、沈黙させる!
ホバータンク内AI:ピピ・・・ピ!!
ドン!
ホバータンクがまず一発、主砲を打ってきた!
ネル:なんの!
ギューーーン!
ネルはヘリを高速上昇させて、主砲弾をかわした。
ネル:これでも喰らえ!
ドシュ!
ヘリの下部の砲身から、霊力の塊が大型の対戦車砲の形になった“霊力パンツァーファウスト”が発射された!
ドゴン!!
霊力パンツァーファウストの弾は、ホバー故に主砲を打った時に生じる“反動慣性移動”を止めるために後方へエアーを送ったため、一定時間“止まった”状態になった戦車の操縦席ハッチに見事命中した! ハッチは少しひしゃげた状態になった。
ネル:ビンゴ! 同じ機械制御でも、こちとら人間の姿をしているんだ! 戦車操縦専門で作られた“単純AI”で勝てると思うな!
ハク:次弾装填します!
秀吉は正直焦っていた。ヘリを手放したことを、今頃後悔していたのだ。
秀吉:仙狐! だ、大丈夫なのか?
仙狐:あの戦車の武装は、あれだけではないです。AIはおそらく“ヘリの挙動”を測るために、無駄弾一発を撃ったのでしょう。これからが“AIの本気”です
ホバータンク内AI:ピピ・・・・ピ!
ガチャン!
ネル:何! あいつの“主武器”は、主砲じゃない!!
ホバー戦車の中央からせり上がったのは、“ホーミングミサイルランチャー”だった!
ホバータンク内AI:テッキイチ、セッテイカンリョウ、ミサイルシャシュツ!!
バシュバシュバシュバシュ!!!!!
ランチャーボックスに装填されていたホーミングミサイルの全弾が発射され、ヘリを追尾しながら飛んでいた!
ネル:やばい! パンツァーファウスト収納! バルカンでたたき落とす!
ヘリの下部砲身が収納され、バルカン用の砲身が現れ、霊力バルカンの用意が整った。ミサイルとの相対位置、約10m。
ネル:いけーーーー!!!!
ガガガガガガガガガガ!!!!!!
ガガン! ガガン! ガガン!
ハク:3機撃墜!・・・だめ! 1つが後ろにまわりこんだ!
ネル:ちっくしょう!!
ドガンッ!!!!!
ネル:うわぁぁぁぁ!!!!
てと:Σ(゚Д゚;
ハク:こ、後部ハッチ周辺に被弾! 影響が“後部回転翼”に出始めてます!
ネル:くぅ・・・・ヘリはここまでか・・・。全員、脱出用意! ヘリは自動操縦のまま・・・タンクに突貫する!
ハク:悔しいけど、“無駄死に”はしないわ!
てと:(`・ω・´)
ネル:全員、緊急脱出!
ヘリの操縦席にある全てのハッチが開放され、通信装置の水晶玉を抱えたネルと、なにやら色々入った風呂敷と“てと“を抱えたハクがパラシュートで脱出し、ヘリは自動操縦状態でホバータンクに突っ込んでいった!
バラバラバラバラ!
ホバータンク内AI:ピピ!
ドン!・・・・ドガン!!
ヘリに主砲は見事に当たっているのだが、スピードが乗った状態だったため“軌道”を変えるまでには至らなかった。そして・・・
ガガガガガガガ・・・・・・・ズズーーーーーン!!!!!
ヘリはタンクの操縦席ハッチを中心にして衝突し、ホバータンク内AIは勿論沈黙したのでタンク自体も走行不可能になった。爆発はヘリもタンクもしなかった。両方のAIが瞬時に“戦場に被害を残さないため”と判断し、衝突角度などを調整していたのだった。
地上に降りることが出来たネルは感慨深く、その2機の残骸を見つめていた。
ネル:さよなら、相棒・・・
複雑な顔つきをしていたのは、秀吉だった。ヘリは撃破できたが、戦車を失うことになってしまったからだ。
秀吉:うむむ・・・ヘリの事は解決できたが、あの戦車は惜しかった
仙狐:いえ、これでいいです。ヘリが無くなり、人間の面々がまだ疲労から回復していなければいいのです。我々にはこの状況を想定して用意した“最後の兵器”がありますから
秀吉:では、そろそろ“舞台を開幕”しようかのう
学歩:3人とも大丈夫か!?
ネル:はい。相棒はやられちゃったけど、中にあった“貴重品”と水晶玉は持ち出しました
学歩:貴重品?
ハク:はい。一応のため、回収して置いたんです。役小角だったロボット本体とタグ、それと、賀茂保憲だったロボット本体とタグを
ネル:もしかすると直せるかも知れないからね
学歩:これで向こうは、おそらく“余興”とか言っていた“切り札”だけだ。しかし、こちらも、まだ回復が十分でない面々
学歩は思考を切り替えて、秀吉の方へ向かって叫んだ!
学歩:秀吉! 戦車は破壊できたぞ! 次はどうせ“切り札の余興”なんだろうが! そろそろお披露目してもいいのではないか!?
しかし、秀吉は、ニマニマ笑っていた。
学歩:何がおかしい!
秀吉:いや、なに、これからの展開を想像すると、面白くてな。では、お望み通り、こちらの切り札、“余興”、を出すとするかの
仙狐:出撃だ、“黒武者”!
ギギーーーーー
門がきしむ音をたてて開き、その中央から、黒い仮面、黒い鎧を来た“武者”が現れ、学歩達の方向へ歩いてきた。
学歩:あ? 切り札が“武者”一人だと? 舐められたものだな! みんな! この中で体力が全快なのは私だけだ! 相手は武者一人! 対人戦なら自信がある! 私がまず斬り込んで、相手の正体を掴んでくる! 出来るなら撃破してこようぞ!
学歩はやる気マンマンで飛び出し、真っ直ぐに黒武者の方へ走り込み、手前で止まると同時に剣を抜き、居合い切りのように黒武者の仮面を真っ二つに切り裂いた!
カラン・・・
家康軍全員の顔が硬直してしまった。
子供より少し高い身長、黄色い髪、そして、“よく知っている顔”、違うのは漆黒の鎧を着て、兜を着けていること、そして目が真っ赤であること・・・
リン:レ・・・・レン・・・・
学歩:な・・・なん・・・だと・・・・
レン:一撃必殺
グサ!
学歩:ぐほぉ!
黒武者=レンは、持っていた漆黒の刀で、学歩の腹を突き刺した! 血の海となった地面に倒れ込む学歩・・・
レン:対象、戦闘不能。次へ進む
升太:な・・・なんだと・・・最後は・・・レンだと・・・
海斗:しかも術で俺達の敵になっている。やつら、これを余興と・・・
メイコ:「同士討ち」・・・・。あ・・・・あいつら・・・・最低よ!!!!!!
ミキ:で・・・・できない・・・・レンなんて、斬れるわけないじゃないの!!!!!
ネル:あ、あんなヤツの部下だった事、一生恥ようぞ!
ハク:そ・・そんな事って・・
テト、てと:(((( ;゚д゚)))
ようやっと声が出るようになったものの、名前しか呼べない状態が続いていたのは、やはりリンだった。
リン:レ・・・・レーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!
秀吉:ひゃっひゃっひゃ! これこそ我が編み出した最終兵器! お主らには斬れまい! 素晴らしい余興だとは思わないか!
仙狐:命令通りさらってきて洗脳したが言うことを聞かないから、コントロール装置まで装着させて無理矢理やったことに、ほんの少しの“羞恥心”もないとは・・・。洗脳が巧くいかないから“別案に変えよう”と進言したのに、全く聞く耳を持たない。共犯とはいえ、情けない・・・・
レンの攻撃に“躊躇”(ちゅうちょ)はなかった。
レン:次対象補足。名称・・・“升太”
レンを見るために、思わずミクの防御壁の外に飛び出していた升太に向かって、レンはダッシュで近づいてきた。
升太:!!!!
レン:笑止千万
ズバッ!
升太:うごぉ・・・・・レ・・・ン・・・
レンは何の迷いもなく、升太を斬り捨ててしまった。真っ赤な地面に倒れ込む升太。
レン:対象、戦闘不能。次対象補足。分析・・・防御壁内の複数標的。対象・・・“ミク、ミキ、テト、てと、ネル、ハク、海斗、メイコ”・・・そして“リン”。
リン:レ・・・ン・・・お願い! 正気に戻って!
レン:これより防御壁破壊に移動。霊力出力最大
ブーーーーーーーン!!!!!
レンの漆黒の刀の刀身を包む“黒いモヤ”が更に大きくなっていき、刀身が壁に叩き付けられた時の音と、入っていくヒビが大きくなっていった。
ガキン!!! ガキン!!!
リン:レーーーン!!!! お願い!!!!
ミク:壁の出力を・・・・これ以上上げられないミク
ミキ:ば、万事休す・・・・
海斗:ど、どのみち、攻撃できない・・・。死期が早まっただけなのか・・・
メイコ:なんとか方法は・・・・
ネル:きゃぁぁぁあああ!
テト、てと:(×△×)
ハク:もうだめぇーーーー!!!!
コロン
ハクの横にあった風呂敷包みから、2つの人形とドッグタグが転がって地面に落ちた。「Type:Prima」の人形は真上に顔だった部分を向け、腹にドッグタグが乗っかった形になり、そのすぐ横に「Type:LEON」の人形本体が並ぶようになった。
そして「Type:Prima」のドッグタグは、その本体の人形の中に吸い込まれていった。
「Type:Prima」人形本体:・・・・「自己機動停止処理」解除。隣接同種本体を使い、修復処理開始
「Type:Prima」の人形から触手が飛びだし、「Type:LEON」の本体を解体していき、破損、故障、焼けこげたパーツを交換していき、次々と“元のまま”の姿に戻っていった。
リン:キャアアアアア!!!!!
ガキンガキン!!!!!
レン:防御壁出力30%。予定破壊時間3分
ガキンガキン!!!!!
レンの斬りつける腕は全く止まらなかった。次々に破られていく防御壁。
「Type:Prima」人形本体:修復完了。変形対象、前回を継続。変形開始
「Type:Prima」の人形本体が、“あの人物”にどんどん変形していった。
リン:レ・・・ン・・・もう・・・だめなのね・・・
???:変形終了。これより“本体の意志”の通りに行動する。防御壁脱出!!
バシュ!!!!
何かが、今にも崩れ落ちそうな防御壁を飛び出していき、レンの後ろに着地し、レンに向かって声をかけた。
???:お前の相手は私だ
ガキン!・・・・・・
レンは刀を振る腕を止め、後ろを振り向いた。
レン:分析・・・矛盾発生・・・対象人物・・・消滅確定人物「役小角」
役小角:それはレンの“思いこみ“の情報だ。それしか情報の出所を持たないお前は”情報戦“ですでに負けだ
リン:え・・・・え!!!!!
ネル:エンちゃんが・・・・生き返った!!!!
レン:役小角・・・役小角・・・理解不能
役小角:私は、適度の故障シークエンスと「自己機動“停止”処理」を行っただけだ。こんな事もあろうかと思ってな。賀茂保憲のボディが残っていて助かった
ブーーーーン!
役小角は自らの左手に、光の剣“タケミカヅチ”を作り、身構えた。
役小角:レン・・・いや、洗脳されたレンよ。まずはお前の“太刀筋”を再確認させてもらう!
ブン!
ガキン! ギギギギギ!
レンも“攻撃に対して瞬時に反応する”という意味で、漆黒の剣でタケミカヅチを受け止めた。さすがのパワーである。
役小角:ほぉ、その漆黒の剣の刀身は、我が光の剣に相対する“闇の剣”というわけか。剣術そのものの反応はなかなかだ。だが私が見たいのは“太刀筋”だ。今のような“防御の構え”ではない
ブン!
役小角は体を斜めにして、漆黒の剣の軌跡と考えられる線からはずれ、光の剣を一度引っ込めて、体制を立て直した。
レン:目的変更。攻撃対象を駆逐する
役小角:かかってこい!
ガキン! ガキン! ガキン!
レンはかなりのパワーを使って、力業で剣を振り下ろしてきた。
役小角:・・・・・レンの全てを掌握できているわけではないな。あくまで洗脳。右手の盾を使えない、そして、太刀筋は“私と戦った時のレンの物”ではない。ということは、陰陽術による完全精神掌握には失敗したな。つまり深く眠らせた状態で、“外部制御装置”を使って“無理矢理”コントロールしている
レン:対象、破壊、対象、破壊
役小角:どこだ? 制御パーツは? 外傷がない以上、埋め込まれている可能性はない・・・
ガキン!・・・・ズズッ
役小角の攻撃が頭部の兜にヒットした時、レンの反応が変わった。
レン:制御装置、半挿入状態。これより位置修復
レンは右手でずれた兜を直した。
レン:修復完了。
役小角:・・・なるほど。古典的な方法を取ったか。制御装置は“兜”だ!
役小角は剣を戻し、自らの“右手拳”に陰陽術をかけて威力を増幅させた。
役小角:レン! 歯ぁ食いしばれ!!!!
バゴン!!!!
役小角はレンの顔を左から思いっきり殴りつけた!
レン:うごぉ!!!!
その衝撃で、押さえていた兜の紐は引きちぎれ、そのまま兜はレンの頭部からはずれて、右向こうへ吹っ飛んでいった!!
レン:ごふ・・・・・・・・・う・・・・・・・・・う・・・・・・・・・あ・・・・・・・・
役小角:どうやら元に戻ったようだな
レン:あ・・・・・あれ・・・・・ここは・・・・・え?・・・・なんで役小角がここにいるんだ? 死んだのか、俺?
役小角:私は死なん。というか復活したのだ。お前については洗脳が解けただけだ。まぁ、かなりの被害が出た後だがな
学歩:う・・・・・
升太:ごふ・・・・
レンは、崩れかけた防御壁とその面々、周りで倒れている学歩と升太を見、左手に握られた“漆黒の剣”とそれについていた“血”を見て、状況を把握したようだった。体が震え出す。
役小角:そういうことだ。どういういきさつかわからんが、お前は秀吉側に連れていかれ、秀吉達とあの兜によって強制洗脳され、自らの仲間をその刃で斬り裂いた。そして“大事な人”を含めた残りがいた“防御壁”を後少しで破壊し、中の面々を手に掛ける寸前だったのだ。私が“停止状態”から復旧して、なんとかおまえを正気に戻せたから良かったが。やったことは見たとおり“そういう事”なのだ
レン:お・・・・・俺は・・・・・どうすれば・・・・・
役小角:とりあえず残りの面々には、重傷の学歩と升太を確保して回復させる。私とお前は仙狐をまず片づける。その後、あの城に逃げ込んだ猿退治でもするか
秀吉はその光景を見て、すぐに伏見城の内部に逃げ込んでしまっていた。仙狐は陰陽術で50の兵を作り、力押しでボロボロの相手を倒すために、こっちに向かっていた。
ミクがレンの所に何かを持ってやってきた。
ミク:戻って良かったミク・・・。はい、これは貴方の持ち物ミクよ?
ミクはレンに“天叢雲剣”を手渡した。
レン:あの・・・リンは・・・
ミク:貴方が直った安堵感とコレまでの恐怖感が一気に襲ってきて、気絶してるミク。リンと学歩と升太の事は大丈夫だから、レンは役小角さんの言われた事に専念してくださいミク
レンはしみじみと、右手の“漆黒の剣”と、渡されて刀身を出した“天叢雲剣”を並べて眺めてから、漆黒の剣を放り投げて、天叢雲剣で破壊した。
レン:禍々しい剣・・・消えろ
役小角:どうやらこの場には“晴明”と“道満”はいないようだ。残る敵はあいつらだけ。レン、全力で行くぞ!
レン:はい!
こうして、役小角とレンの師弟コンビによる、残党掃討作戦が開始された。
役小角:50の魔物兵か。邪魔だな。召還! 餓鬼50! 牛頭鬼! 馬頭鬼!
50匹の餓鬼:キシャー!
牛頭鬼:リハビリだ! 暴れてやるぜ!
馬頭鬼:今回は活躍させて貰いますよ!
役小角:お前らはあのザコ兵を片づけてくれ。私とレンは司令塔を叩く!
役小角とレンは、召還した鬼達が作ってくれた“道”を通り、一直線に“仙狐”に向かっていった。
役小角:邪魔だ!
レン:消えろ!
二人も前方の邪魔な兵を切り捨てて・・・そして、遂に仙狐と対峙することになった。
仙狐:役小角・・・・あんたが復活しなければ・・・勝てたのに・・・
役小角:世の中、自分の思い通りになったら、つまらんものだよ。それに“私をまだ必要とする世界がある”と判断したから、自己停止が解除されたのだ。こんな嬉しいことはない、そういうことだ
レン:今思い出したよ・・・。洗脳前に最後に残った“リン”の顔・・・。考えてみたら“リン本人よりずっと色っぽかった”。自分ながら情けない・・・
仙狐は、用意していた“日本刀”を抜き、レン達に向かって構えた。
仙狐:こんな策につきあわされたとはいえ、今更、命乞いするつもりはない。剣を抜け! 我とて番人の一人。“どうするべきか”位、心得ている!
ビーーーン!
ビーーーン!
役小角とレンはそれぞれの刀身を作り、しっかと構えた。
仙狐:勝負だ!!!!
役小角:最後だ!
レン:消えろ!
3人が一点に集まった!
カキーーーーーーーーン!
そして、3人はまた離れていった。
カラン・・・・
「Type:SWEET・ANN」と彫られたドッグタグがレンの足下に転がってきた。
仙狐:み・・・・・・・・見事・・・・・・・だ・・・・・・・
役小角:悪い上司を貰ってしまったな。成仏しろ
バタッ シューーーーーーーン、ブスブスブス・・・・・コロン
賀茂保憲のように見事に役小角とレンの刀身によって斬り捨てられた仙狐は、ロボットの状態に戻り、煙を出して壊れて転がり、その生涯を終えた。
役小角:さて、兵も全部片づいたようだ。城に逃げ込んだ“秀吉”はどうするか? こちらを攻撃してくる様子は見られないが・・・!
レンは城に向かって剣を構え、刀身が“300m”はあるであろう、巨大な光の刃を作っていた。
役小角:レン・・・
レン:これは“人間の怒り”が霊力の元になった刀身。俺は・・・・あいつを絶対に許さない!
役小角:・・・・城ごと斬るか。まぁいいだろう。秀吉も、あの城も、見たくないだろうからな。全てを一太刀にぶつけろ
レン:伏見城と秀吉・・・・俺の前から・・・消えて無くなれ!!!!!!!!!
ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!
ズガンズガンズガン!!! バラバラバラバラバラ!!! ズズーーーーーーーン!!!!
レンの巨大な一太刀は、門、城の周り、城本体、全てを真っ二つにし、そして支えの柱を失ったため、城そのものも完全崩壊してしまった。
ヒューーーーーン、カラン
レンの足下に、「Type:Prototype Big-AL」と彫られたドッグタグが飛んできて転がった。レンはそれに目線を向けたが、それを踏みつけて、頷いた役小角と一緒に、リン達の場所に帰っていった。
(続く)
CAST
巫女・鏡音リン:鏡音リン
巫女(?)・鏡音レン:鏡音レン
巫女・初音御貢(ミク):初音ミク
拳の升太:墓火炉 升太
アホ毛のミキ:miki
人形のテト:重音テト
懐刀の侍・神威学歩:神威がくぽ
忍者・海斗:KAITO
くノ一・女威虎(メイコ):MEIKO
めぐみ:???
陰陽師“役小角”:Prima
門番“仙狐”:SWEET・ANN
カラクリのネル:亞北ネル
深酒のハク:弱音ハク
人形の“てと”:重音テト
魔太閤秀吉:Prototype Big-AL
その他:エキストラの皆さん
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○ボーカロイド小説シリーズ第9作目の” 戦国慕歌路絵巻 風雲!鏡音伝“シリーズの第8話です。
○巫女の鏡音姉弟(?)が主役の擬似タイムスリップジュブナイルです♪
○メインは和風の妖怪とか陰陽師とか出てくる、バトル物でもあります。
☆伏見城決戦編です。イベントが多く、切れなかったため、かなり長いです。すみませんです。
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