No.494940

SAO~菖蒲の瞳~ 第五話

bambambooさん

五話目更新です。

私は一応、時間軸通りに進めていくつもりなので今回は第一層のボス攻略の話になります。

まだ会議だけども。

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2012-10-11 13:44:36 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1594   閲覧ユーザー数:1476

 

第五話 ~ 第一層攻略会議・1 ~

 

 

【アヤメside】

 

茅場晶彦からこのゲームの真相を告げられてから一ヶ月がたった。

 

そして、この世界から出られないと悟ったときのプレイヤーたちの様子は、狂乱の一言に尽きた。

 

――と、シリカから聞いた。

 

シリカはまだはじまりの街におり、最初の一週間程はほぼ毎日そういう人を見掛けたそうだ。

 

今では落ち着きを取り戻し、どうするかをそれぞれ考えて行動を始めたらしい。

 

その結果、四つのグループが出来た。

 

一つは、全体の約半数である茅場晶彦の言葉を信じず助けを待つ者。

 

二つ目は、全体の三割を占め、協力して前向きにサバイバルをしていこう、という集団。

 

彼らは後に《軍》と呼ばれるようになった。

 

三つ目は、推定人数千人の、無計画な浪費でコルを使い果たすが、モンスターと戦って稼ぐ気も起こさず、食い詰めたバカやろうども。

 

こいつらは最終的に軍に吸収されていったが、中には協調性が欠片もなく、悪事に手を染める奴らもいた。

 

そして最後の四つ目は、ぶっちゃけその他大勢だ。

 

軍に所属せず《ギルド》と呼ばれる小規模集団で攻略を目指す者、《商人クラス》を選択した者、そして、俺のような単独で行動する《ソロプレイヤー》などが挙げられる。

 

そんなプレイヤーたちだが、プレイ開始から一ヶ月が経過した今、死者は二千人に及んでいる。

 

そのうちの半分以上の死因は自殺であった。

 

いくら待っても助けが来ないことに絶望し、もう二度とここから出ることは叶わないと考え、生きる意味がない、と思い至った者たちの選択がそれだった。

 

そしてその考えは、俺たち攻略組にとっては十分過ぎるショックであった。

 

それと同時に、前線に出ている責任感からか、必ず攻略してみせる、と決意をより強くすることにもなった。

 

諦めなければ攻略出来たかもしれない。

 

何年か後には外の本物の空気を吸えたかもしれない。

 

それなのに、こんな下らないことで命を投げ出すなど、なんて勿体無いことなんだろうか。

 

本当にバカだ……。

 

そこに《本物の体》と《本物の命》が存在するのなら、それはもうすでに現実だ。

 

そして現実ならば、これはもう一つの人生なんだ。

 

人生なら、楽しまなきゃ損。

 

死ぬことに怯え、戦々恐々と過ごすことは絶対にしてはない。

 

そんなの、生きながら死んでいるようなものだ。

 

俺は《死ぬまで人生(ゲーム)を楽しもう》と思う。

 

死ぬつもりはさらさら無いが。

 

 

ゲーム開始から一ヶ月と一週間が過ぎた頃、あるプレイヤー集団が第一層迷宮区のボスの部屋を発見した。

 

そして直ぐに、第一層攻略会議が開かれることとなった。

 

場所は第一層迷宮区のすぐ前にある《トールバーナ》という街の噴水広場。

 

トールバーナも、はじまりの街と同じ石畳の中世的街並みの場所だった。

 

「回復アイテム……装備耐久値……」

 

現在俺は、その噴水広場に向かいながらメニューを開いて所持品や装備一式の最終確認をしている。

 

「……問題なし。初めてのボス戦か……楽しみだ」

 

閉じながらそう呟いた。

 

俺が広場に到着したとき、既にプレイヤーたちが集まっていた。

 

広場全体を見渡す。

 

おそらく、あの真ん中に立っているの男が今回の会議を催したディアベルだろう。

 

他のプレイヤーたちは、数人のグループで集まって談笑しているようだった。

 

そんな中に、グールプを作らずに一人でいるプレイヤーが二人いた。

 

一人は黒髪の少年で、もう一人はフードを目深に被った少女だ。

 

少女が一人でいることに少し驚きながら、俺は近くにあった石で出来た長椅子に腰掛ける。

 

ちょうどそのときだった。

 

「ではこれより、第一層攻略会議を始める!」

 

中央に立つ男性が声を挙げた。

 

広場の空気が引き締まる。

 

「まずは自己紹介かな。俺の名前はティアベル。気持ち的に騎士(ナイト)やってまーす!」

 

場を和ませるためか、わざとふざけたような口調で言った。

 

効果は覿面(てきめん)だったようで、苦笑や愉快げな笑いが聞こえてきた。

 

因みに、SAOの中にはRPGでお馴染みの職業といったものは存在しない。

 

「俺たちのパーティは今日、ここ第一層の迷宮区最上階でボスの部屋を発見した」

 

一転して、真剣な声で語り出すティアベル。

 

「もし俺たちがこの層のボスを倒すことが出来たら、はじまりの街のみんなに《力を合わせれば攻略することが可能なんだ》ということが証明できる。それに、このゲームに囚われた全員に勇気を与えることも出来る。初めてのボス戦に恐怖があるかもしれないけど、それでも来てくれたみんなには本当に感謝している。ありがとう」

 

そこで一旦区切りをいれると、周りから拍手が溢れた。

 

中には、「いいぞー!」と歓声を挙げたり指笛を吹いている人もいる。

 

さすがに恥ずかしいのか、ティアベルは一つ咳払いをして続けた。

 

「それじゃ、会議の前に先ずは六人くらいでパーティを作ってくれ」

 

と言われたが、周りは既にグループが出来ているようでソロの俺はあっという間にあぶれてしまった。

 

同類はいないかと探すと、さっきの少年と少女がパーティ登録しているのを見つけた。

 

俺はその二人に近付いた。

 

「すまないが、俺もパーティにいれてくれないか?」

 

そう声を掛けると、少年は驚いた感じで、少女はあまり興味が無いような感じでこちらを見た。

 

「俺も君たちみたいにあぶれちゃってな。組む奴がいないんだ」

 

「いや、別にあぶれたわけじゃ……」

 

「会議前、一人でいたのを見たが?」

 

「うっ…」

 

なんとなく初めて会った気がしないので、意味もなくちょっとしたイジワルを言ってみると、少年は目に見えて狼狽えた。

 

意外と楽しいかもしれない。

 

「まあ、構わないけど……」

 

そう言って少年はパーティ申請をしてきた。

 

俺は迷わずそれを申請すると、自分のHPバーの下にさらに二本、【KIRITO】と【ASUNA】と表記された新しいHPバーが出現した。

 

目の前の二人のものだ。

 

「ありがとう。短い間だけど、よろしくな」

 

「よろしく…」

 

「………」

 

少年は妙に緊張してるし、少女のはほとんどノーリアクションだった。

 

快く迎え入れる、とは程遠いな。

 

少年の方に関しては、十中八九、俺が悪いんだけど。

 

「一応、自己紹介する。俺はアヤメ。で、君たちはどっちがキリトでどっちがアスナだ?」

 

「……!?」

 

俺がそう何気なく尋ねると、少女はあからさまにこっちを警戒してきた。

 

「……どうして私の名前を知ってるの?」

 

「………」

 

「……はぁ」

 

ため息が出た。

 

隣の少年も呆れたような表情をしている。

 

「自分のHPバーの下。見てみな」

 

「?」

 

そう言われて、少女は視線を左斜め上に向ける。

 

すると、みるみるうちに顔が朱くなっていった。

 

「理解したか?」

 

「……ごめんなさい」

 

「ハハハ」

 

シュン、と小さくなる少女を見て、少年は小さく笑い声をあげた。

 

そんな少年を少女は睨み付ける。

 

フードのせいで正確には分からないけど、そんな雰囲気がした。

 

「じゃあ、改めて。俺の名前はアヤメ」

 

「…アスナです。よろしくお願いします」

 

先に少女の方が答えた。

 

まだ恥ずかしさがあるのか、声が小さかった。

 

「俺はキリトだ。改めて、よろしく頼むよ」

 

続いて少年の方が答える。

 

多少は緊張がとれたようだ。

 

「俺は二度目だが、よろしくな」

 

最初と比べると、幾分か空気が軽くなった。

 

アスナのボケ(?)のおかげか。

 

「…アヤメ、か…」

 

「なんだキリト?」

 

「あぁ、いや。なんでもない」

 

「そうか」

 

それにしてもキリトか。

 

俺に情報提供してくれたチャット友達もキリトってハンネなんだが……まさかな。いやでも、世間は意外と狭いとも言うし……。

 

「……まあいいか」

 

思考が泥沼にハマりそうになってきたので切り上げた。

 

「そろそろ組み終わったころか? それじゃ……」

 

「ちょう待ってんか!」

 

ティアベルが会議を進めようとしたとき、関西弁を喋る一人の男が広場中央に飛び出てきた。

 

「ワイはキバオウってゆうもんや。ボス戦の前に一つ言わせてもらいたいことがある」

 

「キバオウさん。君が言いたいことってもしかして、元ベータテスターたちのことか?」

 

「それや!」

 

キバオウはティアベルの言葉に大声で反応した。

 

その瞬間、ティアベルの表情がほんの一瞬引きつったようにみえた。

 

その様子にキバオウは気付くことはなく、自分の言いたいことを話し出した。

 

彼の言い分をまとめると、「ゲーム開始直後に俺たち素人を置いて姿を消し、二千人のプレイヤーを見殺しにしておいて、自分たちだけで内容の良いクエストを受注して能力を底上げしたのが許せない」といった感じだった。

 

簡略化すると、「俺たち見捨てて何甘い蜜啜ってんだよ! ふざけんじゃねえ、絶対許さねえからな!」だろうか。

 

キバオウのその言い分に、他のプレイヤーたちも賛同の意を示した。

 

チラリと、キリトとアスナの様子を窺ってみると、アスナの視線は寧ろ、キバオウの方に否をぶつけていた。

 

そしてキリトは、申し訳なさそうに俯いていた。

 

この様子から察するに、キリトは元ベータテスターなのだろう。

 

それはつまり、キリトは俺に情報提供してくれたチャット友達のキリトで間違いない、ということだ。

 

となると、ここでキリトを擁護するのは友達の務めか。

 

丁度いい。俺もアイツの意見には反対なんだ。

 

そうとなれば即実行。

 

「そいつは可笑しいんじゃないか?」

 

俺はその場でキバオウに届くように声を挙げた。

 

近くにいたキリトとアスナはもちろんだが、意外と声が響いたらしく会議に出席したプレイヤー全員が驚いた様子でこっちを見た。

 

が、直ぐにパーティの二人を除いた全員は険しい目つきに変わった。

 

耳を澄ませば、「あいつきっとベータテスト上がりだよ……」などと聞こえてきた。

 

「なんや? どこがおかしいや!」

 

キバオウは俺に向かって怒鳴り声をあげてきたが、俺は努めて冷静に返す。

 

「全部…とは言わないが、アンタの考えのほとんどだ」

 

「なんやと!? アンタどこのどいつや!」

 

「ソロプレイヤーのアヤメ。アンタの言う、ゲーム開始直後に別の場所で容量の良いクエストで甘い蜜を啜った、アンタと同じ素人だよ」

 


 
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