No.493623

SAO~菖蒲の瞳~ 第四話

bambambooさん

四話目更新です。

ようやくデスゲームに入ることができました。

後半はどうも駆け足になってしまったのが悔やまれます。

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2012-10-08 10:08:03 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1552   閲覧ユーザー数:1459

 

第四話 ~ デスゲーム ~

 

 

【アヤメside】

 

俺とシリカが転移した先は、中世的な街並みと巨大宮殿が目をひく、はじまりの街の中央広場だった。

 

周りを見れば、他の転移してきたプレイヤーたちが広場中に溢れかえっていた。

 

まだ次々と転移してくるものもいる。

 

おそらく、SAOにログインしたプレイヤー一万人全員がここに集まるのだろう。

 

「やっぱり、ゲームマスターからの謝罪でしょうか…?」

 

未だに俺の服の裾を握りしめているシリカが、こちらに顔を向けて確認するかのように聞いてきた。

 

「そうであって欲しいな…嫌な予感がする」

 

「…私も、そんな気がします」

 

俺の曖昧な解答に、シリカは曖昧な笑顔で返した。

 

「おいっ…上を見ろ!」

 

突然、プレイヤーの一人が叫んだ。

 

その声を聞いて、広場に集まっていたプレイヤー全員が上を見上げた。

 

「なに…あれ?」

 

見上げた先にあったのは、不気味な真紅の市松模様に染まった第二層の底だった。

 

よく目を凝らして見ると、つに二つの英文が交互に表示されている。

 

「【Warning】と、【System Announcement】か」

 

「って言うことは、運営からのアナウンスがあるんですね?」

 

「まあ、そうだな」

 

シリカはやっと裾から手を離し、その手を胸の前まで持って行って息をついた。

 

周りからも、肩の力を抜いてリラックスする気配が満ちてくる。

 

しかし俺は、あの不気味過ぎる真紅色を見て、不安を拭い去ることが出来なかった。

 

《良い予感》という言葉があまり使われないのは、それだけ外れることが多いからだと俺は思う。

 

だったらその逆で、よく使われる《嫌な予感》という言葉は、それだけ当たるということなのだろう。

 

結果から言ってしまえば、今回も例に漏れず、《嫌な予感》は当たった。

 

 

真紅のパターンの中央部から流れ出した、血液のような雫。

 

それがどろりと垂れ下がり、真紅のフードの付いたローブをまとった巨大な人の姿に変わった。

 

その巨大な人物は、自分のことを茅場晶彦(カヤバ アキヒコ)と名乗った。

 

驚愕に染まった俺たち。

 

しかし、そんな俺たちプレイヤーに構うことなく、それこそアナウンスのように、彼は淡々とこう告げた。

 

『ログアウトボタンが存在していないのは、不具合ではない。《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』と。

 

『この城の頂を極めるまで、ログアウトすることはできない』と。

 

そして『ヒットポイントがゼロになった瞬間。それは、諸君らの直接的な死を意味する』と、そう告げた。

 

それを聞いたとき、俺は意味が分からず、茫然とした。

 

しかし、それは一瞬のことだけだった。

 

「嘘…ですよね? そんなこと…出来るはず…無いですよね…?」

 

シリカが、今にも泣き出しそうな声で、俺にすがりついてきたからだ。

 

そんなシリカを見て、俺は冷静さを取り戻した。

 

どうやら俺は、周りが慌てると逆に冷静になれるタイプの人間らしい。

 

「……出来る」

 

こんな事言うのはどうかと思い躊躇したが、命が関わるとなるとはっきりさせた方がいい、と考え、静かに言った。

 

「…そ…んな…」

 

「シリカ!?」

 

床に座り込みそうになったシリカを、俺は慌てて支えた。

 

「ははは…。大丈夫です…。ちょっと驚いて、足に力が入らなくなっただけですから…」

 

そう言って、気丈に笑いながらシリカは俺から体を離し、ふらつきながらも自力で立った。

 

心なしか、顔色も悪い。

 

「ゆっくり深呼吸。心を落ち着けろ」

 

シリカは頷いて、ゆっくり深呼吸を始めた。

 

そんなシリカを見て、俺はこんな状況を作った元凶を睨み付けた。

 

しかし、茅場晶彦はそんな俺の様子など気にもせず、なお淡々と作業のように続けた。

 

『それでは最後に、諸君にとってこれが現実である証拠を見せよう。アイテムストレージに、私からのプレゼントがある。確認してくれ給え』

 

内心、ふざけるな、と思いつつ、言われた通りアイテムストレージを確認した。

 

ここで確認しなかった場合、コンソール操作やらを使って無理やりにでも現実を突きつけてくると考えたからだ。

 

「シリカ、大丈夫か?」

 

「はい…」

 

さっきよりかは幾分かマシになったのを確認し、改めてストレージを見ると、一番上に見慣れぬアイテムがあった。

 

「《手鏡》?」

 

不思議に思いつつ、俺はそれをオブジェクト化させ覗き込む。

 

鏡には自分の顔が映った。

 

すると、突然白い光が俺や周りのプレイヤーたちを包み込み、一瞬で消えた。

 

手鏡はと言うと、役目を終えたらしく、ポリゴンとなって砕け散った。

 

「何があったんだ?」

 

俺は顔を上げてシリカの方を見た。

 

そこには、シリカと同じ装備と髪型をした、中学生くらいの見たこともない少女がいた。

 

少女も俺の方を見て、驚愕の表情を浮かべている。

 

もしやと思い、俺は少女に声をかけた。

 

「……シリカ、か?」

 

「……じゃあ、あなたはアヤメさん、ですか?」

 

そこで俺は思い出した。

 

さっきの鏡に映った顔は、リアルの自分の顔だったことに。

 

「現実の顔に…現実の体…」

 

ぽつり、と呟く。

 

「…ここまで再現されちゃ、現実と認めざるを得ない、な…」

 

自然とそう思えた。

 

「でも…でも何で…」

 

『今、なぜ、と諸君は思っているだろう』

 

シリカを遮って、茅場晶彦は語り出した。

 

『私の目的は、この世界を創り出し、鑑賞する事だ』

 

不思議と俺は、このときの茅場晶彦に《夢見る子供》という印象を受けた。

 

『つまり、このときを持ってして、私の目的の全ては達成せしめられたのだ』

 

茅場晶彦の声が広場中に鳴り響き、しばしの沈黙を迎えた。

 

「…シリカ、走るぞ」

 

「え? …って、ちょっとアヤメさん!?」

 

そしてこの瞬間、俺は呆然としていたシリカの手を引いて、有無を言わさず走り出した。

 

人の間を縫うようにして広場の外へと向かう。

 

『……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。《これはゲームであっても、遊びではない》ということを肝に銘じておいてくれ。――諸君らの健闘を祈る』

 

おそらく、俺の背後ではあの真紅のローブ姿が音もなく消えていっているのだろう。

 

しかし俺は、振り向くことはせず、シリカの手を引いて広場を抜け出した。

 

俺は想像出来たのだ。

 

数十分という短い間に、茅場晶彦のための《囚人》へと変えられてしまった人たちが、次にどのように成るかを。

 

そして案の定、それは起こった。

 

悲鳴や怒号、絶叫に罵声。

 

人の持つ、負の感情の嵐だ。

 

「アヤメさん…」

 

後ろでシリカが何か言ったが、俺は構わず走りつづけた。

 

他のプレイヤーには悪いと思ったが、俺はどうしても、この少女にだけはあの空気に晒されて欲しくなかったのだ。

 

 

しばらく走り、俺ははじまりの街の外れのあたりで止まった。

 

そこで手を離し、シリカに向き直る。

 

シリカは、少し不安そうな顔をしていた。

 

「すまなかった。突然引っ張り出して」

 

とにかく、先ずは謝った。

 

「い、いえ大丈夫ですよ」

 

俺が突然頭を下げたから、シリカは慌てたような口調でそう言った。

 

「それに、謝るのは私の方ですよ。またご迷惑おかけしてすみません」

 

「いや、俺が勝手にやったことだから気にするな」

 

そう言うと、シリカは何かを思い出したかのように少しだけ柔らかい表情になった。

 

「ちょっと前に、似たようなやり取りをしましたよね?」

 

「……確かに、したかもな」

 

そのときと比べたら、何もかもが変わったけどな。

 

「……あの、ありがとうございました。アヤメさん、私をあの中に残したくなかったんですよね?」

 

あの中、と言うのは、悲鳴や罵声の飛び交う広場のことだろう。

 

「あの中にいたら私、もしかしたら立ち直れなかったかもしれません。……本当に、ありがとうございました」

 

「………」

 

誠心誠意、心の底から感謝するシリカに向かって、気にするな、とは言ってはいけない気がした。

 

代わりに俺は、これからのことを聞いた。

 

「シリカは、これからどうするつもりだ?」

 

「えっと…」

 

口ごもるシリカ。

 

「怖いか?」

 

そう聞くとシリカは、はい…、と申し訳なさそうに頷いた。

 

「本当なら、私も攻略のお手伝いをするべきなんでしょうけど……」

 

「無理する必要はない。怖いのは仕方がない」

 

シリカは戦闘自体にまだ恐怖心を持っている。

 

それに加え、今度は命まで懸かっているとなると、そのプレッシャーと恐怖心は並のもではないだろう。

 

そんな状態で、無理に戦闘をしても無駄死にするだけだ。

 

「……はい。ありがとうございます」

 

顔を俯かせ、悔しそうに言う。

 

「シリカは感謝してばっかりだな」

 

俺はそんなシリカを元気付けるため、少し茶化すような口調で言った。

 

すると、シリカは俺にとって予想外のことを尋ねてきた。

 

「どうして、アヤメさんは私にそんなに親切にしてくれるんですか?」

 

俺は言葉に詰まった。

 

それは俺も少し不思議に感じていたことだった。

 

気まぐれにしては助けすぎな気がするのだ。

 

「どうして……」

 

俺は、シリカを始めて見たときの、ぎこちないながらも、一生懸命頑張る姿を思い出した。

 

そしてその姿が、誰かに重なった。

 

「ああ…そう言うことか」

 

俺が一人で納得していると、シリカは首を傾げてこちらを見て来た。

 

「似てるんだ。シリカは俺の妹に似てる。だからほっとけないんだ」

 

そう言うと、シリカは思わず、といった感じで噴き出した。

 

「す、すみません。とてもマンガみたいな理由で、つい…」

 

「……俺もそう思った」

 

本当、なんてベタベタな理由だよ。

 

あまりの下らなさに、自分で自分を笑ってしまう。

 

そんな風に思いながらシリカを見ると、シリカは顔をほんのり朱くしてこちらを見つめていた。

 

「……俺の顔に何か付いてるか?」

 

「な、何でも無いですよ!? そそ、それよりアヤメさんはどうするんですか?」

 

「俺か? 俺は攻略に参加する」

 

「え!? 大丈夫なんですか?」

 

「妹に《行ってきます》って言ったからな。言ったからには、帰らなくちゃいけない」

 

「でも…」

 

「実は、今日は俺の誕生日なんだ。そしてこのゲームは、妹がプレゼントしてくれたものなんだ」

 

そんなゲームの中でもし俺が死んでしまったら、涼は自分が俺を殺したと思いこむかもしれない。

 

何より、悲しむだろう。

 

「妹を悲しませないためにも、俺は絶対に死なない」

 

死ぬ訳には、いかない。

 

心配そうなシリカの頭を、落ち着かせるように優しく撫でる。

 

今更だけど、俺、シリカとそんなに身長変わらないんだな……。

 

「それじゃ、今度こそお別れだ」

 

俺はメニューを開き、シリカにフレンド申請をした。

 

「…? あの、これは?」

 

「フレンド申請。フレンド登録すると、迷宮区に入ってない限りは連絡のやり取りができる。まあ、メールみたいなものだ」

 

「そうなんですか」

 

「承諾するなOKボタンを押してくれ。嫌なら断ってくれて構わない」

 

「断るわけないじゃないですか」

 

シリカは、ボソッ、と呟いたあとOKボタンを押した。

 

メニューのフレンドの一番上にシリカの名前が表記された。

 

「これで完了。困ったことがあったらいつでも連絡を来れ」

 

「は…はい。わかりました」

 

何故か緊張した様子で答えるシリカ。

 

そんなシリカの様子を疑問に思いつつ、俺は半歩後ろに下がって、シリカに一時(いっとき)の別れを告げた。

 

「じゃあなシリカ。またいつか」

 

「はい! 頑張って下さいね、アヤメさん!」

 

今までで一番の笑顔で言うシリカ。

 

死ねない理由が一つ出来た。

 

「さて。行くか」

 

決意を新たに、俺はフィールドへ向けて歩み出した。

 


 
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