まえがき コメントありがとうございます。今回は愛紗の拠点と思わせて鈴々の拠点です。原作をプレイした身としては、長坂での鈴々がイケメンすぎて鼻血出そうになりました。元気っ子は書いてて俺も頑張ろう。と思わせてくれるのでいいですね。それではごゆっくりしていってください。
「鈴々、起きろ。」
「にゅ、愛紗―、まだ眠いのだー。」
「ご主人様と出かけるのではなかったのか?」
「そうなのだ!」
まったく、世話の焼ける・・・。そうは言いながらも愛紗の表情は仕方ないという姉のものだった。
「では、私は鍛錬してくるからご主人様たちを起こしに行ってくれ。」
「分かったのだ。でもどこにいるのだ?」
「星たちの部屋だ。」
「了解なのだ!」
鈴々は返事と同時に部屋を出て行った。もう少し落ち着いて行動できないものだろうか・・・。いや、出来ているならこんな心配はしていないな。軽く溜め息をついて鍛錬場へ足を進めた。
・・・。
「やっと出れたー。」
二人を起こさないで抜け出すのに十分かかった。鍛錬を始めようと思ってからなんだかんだでまだ始めてなかったからな。今日からやろう。東鍛錬場に着いた一刀はタオルを端に置き、聖桜を鞘から抜くと正面に構えて静止する。目を閉じ、精神を集中させ気を高めていく。そこに丁度到着した愛紗は彼のその姿を見て釘付けになり動けなくなっていた。
「あれがご主人様の本当の姿・・・。綺麗・・・。」
ここからでもご主人様の気の高まりを感じる。だが緊張感はない。微かな優しさのような温かかみを帯びているようにも思える。そよ風が吹き、木の葉が一枚一刀の目の前に舞い落ちる。木の葉が彼の眼前に辿りついた瞬間、その姿を消した。それと同時に強烈な風が
あたりを襲った。
「ふぅ、旋風はもう少し範囲を広めた方がいいな。」
一度ご主人様の嵐を遠目に見たことはあるがやはり気を用いた技だったのか。・・・今度教えてもらおう。そんなことを考えていると、ご主人様がこちらを振り向いた。
「愛紗、そんなところにいないでこっちに来れば?」
どうやら気付かれていたようだ。こちらを見る素振りはなかったはずだけど・・・。とりあえずご主人様の隣まで足を進めた。
「いつから気付かれていたのですか?」
「こっちに近づいてきて立ち止まったところあたりから。」
「最初から気付かれていたのですね。」
「足音は聞き逃さないようにしてるからね。それと、おはよう。愛紗。」
「あ、おはようございます。ご主人様。」
「愛紗も鍛錬?」
「はい、日課なので。」
「じゃあ、近くで見ていたいんだけど、良いかな?」
「はい。」
愛紗が鍛錬を始めた頃、その頃の鈴々は部屋に入り一刀の姿を探していた。
・・・
「あれ、お兄ちゃんがいないのだ。」
寝ているはずの一刀がいないのでどこにいないかと探し回っていたらその足音に清羅と星が目を覚ました。
「なんだ?朝から騒々しい・・・。」
「ん、んーっ。ん?どうして鈴々ちゃんがここに?」
「あ、起きたのだ。おはようなのだ。」
「あぁ、おはよう。」
「おはよう、鈴々ちゃん。ところでここで何を?」
「お兄ちゃんを起こしに行くように愛紗に言われたのだ。けど、お兄ちゃんがいないのだ。」
二人は部屋を見渡すと確かに一刀がいないことに気付く。
「あら?昨日は確かに隣に寝ていたはずなんだけど。」
「そうだな、私たちが挟んでいたから抜け出るときに気付くはずなのだが。」
三人で朝から一刀がすることを考えた結果、朝食を作っているか鍛錬をしているということとなった。
「じゃあ厨房に行ってくるのだ!」
鈴々はそう言うと部屋を出て行った。厨房に行ってくると言ったときの嬉しそうな顔をしていたのは鈴々だからといえば説明はいらないだろう。
「私たちは着替えたら庭に向かいましょう。」
「うむ。了解した。」
・・・。
「お兄ちゃーん!!」
「あ、鈴々ちゃん。おはよ~。」
「おはようございます。鈴々ちゃん。」
朝から鈴々ちゃんが厨房に来るのは珍しいですね。お腹空いているのでしょうか?あたりをキョロキョロしているところを見るに食べ物を探しているのでしょう。
「朝ご飯はもうすぐ出来ますのでもう少し待っててくださいね。」
「お腹も空いてるけど違うのだ!」
「ん?違うの?」
「お兄ちゃんを探してるのだ。」
「ご主人様?私は見てないよ?」
「一刀さんなら朝早くから東鍛錬場で鍛錬すると言ってましたよ?おそらくまだいるのではないでしょうか。愛紗さんも同じところを使う様子でしたので、一緒にいると思いますよ。」
「分かったのだ。ありがとうなのだ。」
そう言うと駆け足で行ってしまいました。朝から元気ですね。
「鈴々ちゃん、いつも元気だよね~。」
「私から見れば桃香さんもいつも元気ですよ?」
「鈴々ちゃんほどではないよ~。」
「ふふっ。そうですね。では、残りの料理も作り終えちゃいましょう♪」
「うん♪」
二人でご飯を作るといつもより早く仕上がるからいいですね。桃香さんはちょっと不器用なところがありますが、料理を続けていけば美味しく作れるようになりますね。今日は初めてらしいので、少し失敗してしまったのですが。今度からは大丈夫だと思います。きっと・・・。
・・・。
「うん。やっぱり何度見ても愛紗の槍を振るう姿は絵になるね。むしろ絵にして部屋に飾りたいくらい。」
「そんなそんな、ご主人様に比べれば私など・・・。というか、私の絵を部屋に飾っても何も面白くないでしょう?」
「そんなことないよ?愛紗は可愛いし、槍を振るう姿は綺麗だから絵にしてもその美しさは色あせないんじゃないかなって思ってるんだけど。美髪公っていう立派な二つ名もあるしね。」
「な、何をご冗談を!私がその、か、可愛いなど!可愛いというのは恋やセキトのことをいうのです!」
愛紗が顔を真っ赤にして反論してくる。そんなことないんだけどなー。
「確かに恋やセキトも可愛いけど愛紗も充分可愛いよ。こうやって頬を赤らめてたり照れ屋さんだったりね。それと、たまに見せてくれる笑顔とか俺もドキッてするもん。だからもっと自信を持って。」
「~~~~~//////。」
う~。ご主人様のお言葉は私には刺激が強すぎる。こうやって頭を撫でてくださっているときもそうだが、距離が近い!そして心臓に悪い!
「ぜ、善処します///。」
「うん♪」
納得した表情で手を離したご主人様だが、離れてもまだ体の火照りが取れない。ご主人様と出かける前からこの調子では体がいくつあっても足りないぞ・・・。とりあえず朝食を食べて落ち着こう。
ドドドドドドドドドドドドド。
ん?城の方から地鳴りが聞こえて・・・こちらに近づいてくる!?
「ご主人様!お下がりください!」
「大丈夫だよ。あれは・・・、ほら、見えた。」
「鈴々・・・、あやつはもう少し落ち着いて来れんのか。」
「おにいちゃーん!愛紗~!」
鈴々こちらに手をぶんぶんと振りながらこちらに凄い勢いで向かってくる。いつもながら清々しいくらいに真っ直ぐ突き進んでくるな。さて、あれをどうやって止めようかな・・・。そう考えているうちにも距離はどんどん近くなってくる。そして、俺に向かって勢いを殺さずに飛び込んできた。体重は軽いにしてもあの勢いからの飛び込みはアメフト選手もビックリな威力だ。思わず後退してしまったよ。
「おはようなのだ!お兄ちゃん!」
「あぁ、おはよう。鈴々。」
「愛紗、お兄ちゃん起きてるのだ。」
「そうだな、見れば分かる。それよりご主人様、大丈夫ですか?結構な勢いでしたので。」
「少し後退したのが幸いしたよ。鈴々、飛び込んでくるのは良いからもう少しゆっくりにしてくれ。」
「分かったのだ。それよりお腹空いたのだ!」
鈴々の言葉を聞いていたかのように俺と愛紗の腹の虫が鳴った。思わずお互いに顔を見合わせてしまう。それを聞いていた鈴々は、
「にゃはは。」
と笑いながら俺たちの手を取り朝食が準備されているであろう庭まで歩き出した。
・・・。
「あ、みなさん、お疲れ様です。」
「お疲れ様~。」
「鈴々、お腹ぺこぺこなのだ~。」
「俺も配膳手伝うよ。」
「鈴々も食べるのは手伝ってからだぞ?」
「いえいえ、みなさんは座っていてください。桃香さんも座っていて構いませんよ?」
「私も作ったんだから手伝うよ。」
「お、桃香も料理作ったのか?」
「うん。ほら、この前に月ちゃんから料理を教えてもらう約束してたでしょ?だから、教えてもらいながら作ったの。」
そういえば二人で約束してたな。俺には教えてもらうことは出来ないからとかなんとかで。どれもいつもと変わらない月の料理ばっかりに見えるんだけど・・・。・・・・・。あった。一つだけ明らかに失敗作だという雰囲気を醸し出しているものが一つ俺の視界に入った。
「桃香様はどれをお作りになったのですか?」
「そ、その~。ちょっと、ちょっとだよ。失敗しちゃったんだけどね。これ・・・。」
「・・・。」
どうやら愛紗も言葉を失っているようだ。月も苦笑いを隠しきれないでいる。皿の真っ黒な小さい何かがたくさん転がっている。これはいったい・・・。
「お姉ちゃん、その真っ黒の塊は何に使うのだ?」
「うっ!!」
鈴々容赦ないな。悪気がない分質が悪い。いや、俺も気になるけど真っ黒の塊呼ばわりはないだろう・・・。
「そのね、炒飯なの。」
「炒飯・・・。」
.なるほど、この小さな何かはご飯だったのか・・・。月が俺に耳打ちで油を入れすぎて少して揚げ物みたいになってしまったらしい。
「けど、ご主人様のために頑張ったんだよ。」
「・・・うん。食べるよ。」
皿に盛ってもらって席に着きスプーンで焦げ炒飯を掬う。しゃりっ。これはまた見事に焦げたな。俺も始めてでここまではならなかったよ・・・。意を決して口の中へ放り込んだ。
がりっ。がりっ。ねちゃ。
外側は焦げてるんだけど中身は水気を含んで食感が想像以上に良くない。しかも苦いし・・・。
「桃香、よく頑張ったね。」
「うん。」
「けど、最初のうちはもっと月に教えてもらいながらやってね。その方が上達も早いはずだから。」
「分かった。」
「一刀さん、お茶です。どうぞ。」
「ありがとう。」
お茶を飲んで一息ついた。けど残りも食べないと失礼だよな。俺は一気に口の中に掻きこむ。うぷっ。これが桃香の料理じゃなかったら真っ先に吐き出すんだけどそうはいかない。少し涙目になりながらも飲み込みお茶を一気に胃に流し込んだ。はぁ、鍛錬より体力を使った気がする・・・。それから月の料理に舌鼓を打ちつつ談笑を楽しんだ。それから朝食を終え、俺は愛紗の隣に座った。
「愛紗、もうそろそろ出ようかと思うんだけど、どうかな?」
「あ、そのことなのですが・・・。」
「鈴々も行くのだ!」
「ん?俺は良いけどいきなりどうしたの?」
「昨日私が部屋で今日のことを考えていたのですが、それが口に出ていたようで。それで起きた鈴々もいつの間にか行くことになっていました。」
「まぁ、俺は全然気にしないよ。それに、最近は鈴々とも遊んでなかったからな。」
「そうなのだ!だから早く行くのだー!」
鈴々が席を立ったと思った途端、俺と愛紗の手を取り街に向かって走りだした。危うく転びそうになったぞ。それは愛紗も同じようで少し冷や汗をかいていた。
「おい、鈴々!ご主人様が怪我をしたらどうする!」
「にゃははは!」
この様子だと鈴々の耳に愛紗の言葉は入っていないな。出かけるのが楽しみで有頂天になってるんだろう。
「桃香、月、行ってきまーす!片づけ手伝えなくてごめんなーー!」
「みんなー、気を付けてね~。」
「いってらっしゃーい。」
二人が手を振って見送りをしてくれていることに俺も空いている手で彼女たちに手を振りかえした。やがて二人の姿は見えなくなっていった。
・・・。
「さて、お片付けが終わったらもう一度作ってみましょう。始めは私が言うとおりに作っていってください。」
「うん。度々ごめんね~。」
「いえいえ、私も始めから上手だった訳ではありませんので。それに、誰かに物事を教えるのって楽しいなって思ってますから一緒に頑張りましょうね。」
「こちらこそ!」
私たちは厨房にお皿を運んでいる途中も料理のこととか他愛無いお話を続けているうちに厨房に到着しました。そして、お皿を戻し終えた私たちは早速料理作りに入りたいのですが一つ桃香さんに質問があるので投げかけてみましょう。
「桃香さんはどのような料理を作りたいですか?」
「ご主人様が好きな料理!」
「その中で特に作ってみたいものとかはありますか?」
「うーん。というか、ご主人様の好きな料理を知らないかも・・・。月ちゃんは何か知ってる?」
「そうですね、ご主人様がいた世界のお味噌汁が好きだと言ってましたよ。けど大体は朝食に出されるものらしいので、お夜食で食べてもらえそうなもの・・・。」
そこから二人で考えた結果、一刀さんに聞かないと分かりませんね。ということになって戻ってきてから聞いてみることにしました。あとは一刀さんはどこが良いとかこんなことをしてあげたいとか、一刀さんの話でお茶をすることになりました。ご本人に聞かれたら恥ずかしさで倒れそうになりますね、きっと。・・・想像したら恥ずかしくなってきちゃいました。へぅ・・・//。
・・・。
見送られてからすぐの一刀と愛紗は未だに鈴々に引っ張られていた。
「なぁ、愛紗。俺たちはいつまで引っ張られてるんだろうな。」
「とりあえず、街に到着するまでと考えておいた方が良いでしょう。」
うーん、このまま引っ張られるだけってのも面白味がないよなー。どうせ三人いるんだし・・・。そうだ!
「鈴々、ちょっと止まってくれないか?」
「うにゃ?どうしたのだ?」
「三人で街に着くまでのちょっとした遊びをしようと思って。」
「ご主人様!?突然何を・・・。」
とりあえず鈴々が静止したところで一つの遊びを提示してみることにした。
「俺たちで駆けっこしないか?」
「やるやる!やるのだー!」
「駆けっこ・・・ですか。」
「うん。街の端に美味しいラーメン屋あるの知ってる?」
「知ってるのだ。」
「警邏で回っていたのである程度は知ってます。」
「そこのお店の壁に触った人が勝ちね。」
俺は平等になるように地に線を引くとそこに並ぶように促した。鈴々はやる気満々で、愛紗は付き合ってやろう、といった感じだ。俺も愛紗の隣に並んだ。
「イー、アル、サンのサンって俺が言ったら走り出す。いいね?」
「分かったのだ!」
「分かりました。」
二人がそう答えると同時に走る姿勢に入った。俺も体勢を少し前かがみにさせる。
「イー、アル、サン!!」
俺たちは三人で一気に走り出した。少し様子見で力を抜いていよう。そんなことを考えていたら・・・はやっ!開始五秒で一気に差が出来た。これは本気を出さないとな。俺も一気に足に力を入れ加速していく。すぐさま愛紗たちを追い抜くと次は彼女たちが度胆を抜かれたようだ。
「流石はご主人様!私も負けてられるな!!」
「鈴々だって負けないのだー!!」
これからおよそ一分の間俺たちのデッドヒートが続いた。
・・・。
「おらおら、さっきまでの威勢はどこにいったんやー!」
ったく、うちがこうやって久しぶりの休みに街に出てきてみれば恐喝現場に出くわすなんて。ついてないわ~。買った酒がまずくなるわ~。せっかく一刀と吞もう思うて良い気分で帰っとったのに・・・。
「アニキ、どうしやすか?あいつ、只者じゃないですぜ!」
「俺たちは三人いるんだ!女一人に怯むんだねえ!オラ、デブ行け!」
「ウス!」
デブが一人突っ込んでくる。よし、三人とも絞めてスッキリしよう。
「今のウチは機嫌悪いんや!!加減出来んでー!!!」
飛龍偃月刀に手を掛けた瞬間、
「げふぅっ!!!??」
目の前のデブが宙を舞いながら吹っ飛んで行った。・・・何が起きたんや?
「おい、鈴々、今のは人ではなかったか?」
「あんなデブのおっちゃんが道の真ん中で立ってるのがいけないのだ!それに、悪い人の匂いがしたから無問題なのだ!」
「酷い言いようだ・・・。」
「一刀、それに愛紗たちも!あんたら何しとるん!?」
霞がこちらに駆け寄ってくる。そういえば朝食の時いなかったな。
「俺たちは駆けっこしてた。」
「か、駆けっこか。いい年の大人が何しとんの?」
「いやー、普通に三人で来ても良かったんだけどさ。それなら何か競争とかしてたら面白いよなー。って思って。」
「なるほどな。うちも入れて四人で誰がいっちゃん速いかを決めるのも面白そうやな~。」
「ところで霞は何してたの?警邏?」
「ちゃうちゃう。今日入った老酒を受け取りに行ってたんや。今日の晩にでも呑もう思うてな~。」
「おい!何デブをぶっ飛ばして涼しい顔してんだ!」
そういえばさっき鈴々が誰か突き飛ばしたな。俺は言葉を発した男の方を振り返ると見覚えのある顔だということに気付いた。
「こいつら、ここの店主を脅してたんや。それでうちが懲らしめようとしたときに一刀たちが来たって訳や。」
「なるほど・・・。」
視線をあたりに移すと初老の男が一人おどおどしながらこちらを見ていた。
「お爺ちゃん、安心して。俺たちがあいつらをとっちめるから。」
「あぁ、御使い様、ありがとうございます。」
「うん。」
そう言い長身の男を見やる。やはりどこかで・・・。隣で槍を構えてる愛紗は苦虫を噛み潰したような表情をしている。すると男は愛紗の顔を見て、にたりと汚い笑みを浮かべた。
「よく見れば俺の奴隷予定の姉ちゃんだなぁ。久しぶりぃ。」
「あのときに息の根を止めておけば・・・。」
愛紗が今にも飛び出していこうとするのを俺は手で制する。
「ご主人様!何故止めるのですか!」
「ここは俺が行くから、そこで見てて。」
「っ!はい・・・。」
今のご主人様は一体・・・。声の質からもいつもの優しげな雰囲気がどこからも感じられない。それよりもご主人様から感じる異常なほどの殺気。戦場でもこれほどの圧力は感じなかった。ご主人様は黙って木偶の棒の方に歩を進めている。
「よぉ、兄ちゃん。あのときは世話になったなぁ。」
「・・・。」
「だんまりかぁ?何か言えよオラァ!!」
男から拳がご主人様の顔目掛けて飛んでくるがその拳は彼の右手で止められた。ご主人様はその手を掴んだまま男の目を見て話始めた。
「あのとき逃がしてやった恩を忘れたか?」
「はぁ?あれは俺らを逃がしたお前が馬鹿なんだよ。恩を受けた覚えは真っ平ねぇ・・・よ!」
次は右足が蹴りが繰り出されたがそれがご主人様に届くことはなかった。男は掴まれていた拳を握り潰され痛みで悶え地にうずくまっている。ご主人様は男を何も言わずただ見下ろしていた。
「ぐっ、ば、ばけものが・・・。」
「俺の愛紗を奴隷呼ばわりしやがったやつには、俺が化け物になってでもそいつを殺す必要がある。二度と彼女にそんな言葉を聞かせたくなかったんだがな。お前が口を開く前に殺しておけばこんなことにはならなかった。謝るなら今のうちだぞ?」
「てめぇみたいなガキに謝る義理はねぇ。」
「そうか。」
聖桜を抜き、振り下ろそうとしたとき、チビが投げた砂が目に入り一瞬だけ怯んでしまった。
「ざまぁねぇなー。死ねぇぇーーー!!!」
やばい、この位置からでは届かない!絶体絶命の危機に緊張が走る。だが突っ込んでいく男の表情がにやけ顔から驚愕の表情に変わり、彼の物だった首が地に落ちた。
「・・・羽虫は・・・死ね。」
ご主人様の窮地を救ったのは城の方から走ってきた恋だった。返り血で顔や服が赤く塗れている。その姿は正に鬼神、飛将軍の名に相応しい姿を見せつけていた。
「その声、恋か?」
「一刀、大丈夫?」
「大丈夫だよ。あとで目を洗えばすぐ良くなるから。」
「くそっ!よくも兄貴をやりやがったな!」
チビがこちらに突っ込んでくる音が聞こえる。しかしその足音は一つの衝撃音を最後に聞こえなくなった。
「悪い奴には容赦しないのだ!けど、殺しはしないのだ!一度捕まって、自分のやってきたことを反省して街の役に立って見せろなのだ!それでも向かってくるなら鈴々が何度でもぶっ飛ばしてやるのだ!!」
「く、くそ・・・ぐふっ。」
その言葉を残してチビはその場に崩れ去ったようだ。とりあえずはこれで一安心だな。
「華雄隊、あの者を拘束しろ!そして、デブと共に牢屋に放り込んでおけ!」
「御意!!」
騒ぎを聞き駆け付けた華雄と華雄隊の兵の人々が気を失っているチビとデブを城へ引きずっていく。既に息のない男は城の外へと運ばれていった。華雄隊の兵たちがいなくなると周りにいた町人たちから歓声が上がった。
「よくやってくれた!」
「ありがとうございます。これで安心して生活できます。」
聞くところによれば大分悪さをしていたらしく、結構困っている者も多かったらしい。あの男は恋が殺してしまったから少し後味が悪いが・・・。しかしあそこで恋が来てなかったら俺が危なかったからな。・・・あとで小さい墓でも作ってやろう。そんなことを考えているとさきほどおどおどしていた老人がこちらに声を掛けてきた。
「ありがとうございます。もしよろしければうちで目を洗って行ってくだされ。」
「いいの?」
「はい。というか、目の前にあるラーメン屋がうちですので。さぁさぁ、悪くならぬうちにどうぞ。」
「分かった。ありがとう。」
俺は愛紗と霞の肩を借りてラーメン屋へ向かった。
「ふぅ、すっきりした。」
「違和感などは残っていませんか?」
「うん。もう大丈夫。」
水をもらい顔を洗ってすっきりしたところで店の中を見渡してみる。良く見れば探してたラーメン屋じゃないか。丁度いい、お腹も減ったしここで食べて行こう。
「おじちゃん。水をもらっておいてなんだけど、ラーメン注文していい?さっきの騒動でお腹減っちゃって。」
「鈴々も食べるのだ!
「では私も一杯もらおうかな。」
「恋も・・・。」
「うちは金持ってきてなかったんや・・・。一刀、一杯だけ奢ってくれへん?」
「いいよ。」
そういうと店主は御使い様。と言って俺に呼びかけてきた。
「今日は私のお礼ということでお代はいただきません。そちらの張遼様がいなければ私も
あの者たちに金を持って行かれるところでしたので。」
「けど、うちには二人相当食べる人がいるよ?」
「構いませんよ。お客様に食べていただくのが私の喜びですから。」
「そうですか。では、ご厚意に甘えさせてもらおうかな。」
「はい。」
それから五人でラーメンを美味しくいただいた。店主は恋と鈴々の食べる量を見て始めは目を丸くしながらも美味しそうに食べていただいて嬉しい限りです。と微笑んでいた。二人の食べる姿に他のお客さんもどんどんつられていき、終いには行列が出来ていた。店主も忙しそうに厨房と客間を行き来している。・・・今度作り方教えてもらおう。
「それにしても鈴々、さっきのチビに言った言葉をとても良かったよ。殺さずに復帰させようとするのは理想的だからね。」
すると鈴々は箸を置いてこちらに視線を移した。
「殺してしまったらそこまでなのだ。反省して良いやつになったら街の繁栄にもつながるのだ。というか、反省するまでぶっとばすのだ。にゃはは。」
「そこまでぶっとばす必要はないけど、偉い偉い。」
「にゃ~、気持ちいいのだ~。もっと撫ででなのだ~。」
食事中だが鈴々の頭を撫でてやる。擽ったそうにしながらも目を細めてにゃはは~。と笑っていた。反省するまでぶっ飛ばす・・・か。俺も今度からそうしよう。一刀がそんなことを考えていたが、ぶっ飛ばす前に気あたりで相手が逃げてしまうのでそれを実行に移すことはなかったそうな。
・・・。
「おっちゃん、美味しかったよ。また来させてもらうね。」
俺はポケットに入れていたお金を店主の懐に気付かれないように入れる。お礼の紙と一緒に。おっちゃんは気付かなかったようでこちらにお辞儀をしてくれた。
「はい。御使い様たち、今度は董卓様たちもお連れしていらしてください。また腕を振るって作らせていただきます。」
「ありがとう。あと、俺は北郷一刀だから一刀ってよんでくれれば嬉しいかな。」
「承知しました。一刀様。またのご来店をお待ちしております。」
俺たちは店主に一礼して店を出た。
「これからみんなはどうするの?俺と愛紗は街を回るけど。」
「うちと鈴々は兵の指導と鍛錬や。」
「そうだったのだ!忘れてたのだ・・・。」
「そこは忘れてはいかんだろ。」
「恋は、ねねとセキトたちとお昼寝。」
「そっか。鈴々、遊べなくてごめんな。」
「いいのだ。お兄ちゃんが夜、部屋に来てくれれば無問題なのだ!」
「そうだね。この埋め合わせはまた日を改めてするから楽しみに取っておいて。」
「分かったのだ。約束なのだ。」
俺と鈴々が指切りすると、皆それぞれの場所に向かって歩き出した。
・・・。
「なんや、えらいご機嫌やな?」
「さっき、お兄ちゃんに褒められて頭撫でてもらったのだ。」
頬あこうして嬉しそうに笑っとる姿見たらこっちもなんか心の中がほっこりしてくるで。今日は酒が美味く吞めそうや。
「そうか。ならうちも撫でたるでー♪」
「にゃはは。そこは頭じゃなくては脇腹なのだ!それにただ擽ってるだけなのだ!ずるいのだ!にゃははははは。」
その時の鈴々の表情はいつにも増して明るく、霞に擽られながらも楽しそうに笑っていた。その笑顔は街の人々にも伝わり、洛陽は笑顔の絶えない街へと変わっていった。人々は彼女の笑顔を『日輪の少女の笑顔』と称して長く語り継がれるものへとなった。
あとがき 読んでいただきありがとうございます。拠点:鈴々はどうだったでしょうか。鈴々は常に笑顔の印象が根強い子ですね。三人の義妹ということもありいつも元気で甘えん坊でちょっぴり抜けている彼女。その彼女の笑顔が仲間たちを支えているところもあるを私は考えています。戦においてはその場の状況判断力の高さ、義を重んじる桃香の義妹をいうこともあってか他人を大切にしながらもその人物をより良い方へと導いてゆける。そういうことが出来る子だと思います。少し出番が少なかったのはご了承ください。これからもこの元気っ子を温かい目で見守っていただけると幸いです。それでは次回 拠点:愛紗 素直になれない自分、武人として・家臣として・・・一人の女として でお会いしましょう。
Tweet |
|
|
23
|
2
|
追加するフォルダを選択
何でもござれの一刀が蜀√から桃香たちと共に大陸の平和に向けて頑張っていく笑いあり涙あり、恋もバトルもあるよSSです。