No.493381 いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生したたかBさん 2012-10-07 20:35:40 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:7558 閲覧ユーザー数:6780 |
第七十三話 あれが愛情なら俺はいらない
俺のお見舞いに来てくれた皆は「一度家に戻る」と言って俺の部屋を出ていった。
…一度?
また来るの?
そんなことを考えながら俺もまたすぐに眠りにつく。
「で、目が覚めたらこれだよ!」
何故か、プレシアが俺をベッドに縛りつけている。
アリシアは金色の花と蝶の模様の刺繍の入った緑の着物を着ていた。…だが、何故絶妙な感じで着くずれを起こしている?
まるで襲い掛かられた後のような…。
…読めたぞ!
アリシアが俺に悪戯をしようとしたが、慣れない着物で転んで俺の上に倒れた。
その時にプレシアがそれを見た。
倒れた衝撃でアリシアの着ていた着物が着くずれを起こした。
そして、プレシアが暴走したわけですな。
そのような仮説にたどり着いた俺はアリシアの方を見る。というか睨む。
弁護を求む!
「…むぅ、お兄ちゃんが何を言いたいのかはなんとなくわかるよ」
おう、言ってやれ!
「悪戯しようとしたけど失敗して、着くずれを起こしてお母さんにしばかれるなら、もっと色っぽく脱げ!だね!」
違う!
どうして最後だけ違うの!
それは弁護ではなく、追い打ちだ!
「
何故に英語?!
待って!待ってくださいプレシア様!
その手に持った
だから、その振りかざしたその右手を下ろして!じゃなかった!振り降ろさないで!
アッ―――――――――。
タカをしばいてからしばらくすると、フェイトとアルフが可愛らしい着物をつけてやって来た。
フェイトはアリシアとは色違い赤い着物でやって来た。
正直、鼻血が出るかと思ったわ…。
「プレシア…。鼻血が出ているよ」
訂正。いつの間にか零していたらしいわね…。
ふきふき。と。
アリシアと並ぶと本当に可愛いもんだから自然と零れてしまう。
子犬フォームにペット用の着物をつけたアルフに注意される。
この子は確か狼だったような…?
「お母さん。お兄ちゃんが再起動したよ~」
「アリシア?再起動ってどういうこと?」
あら、タカも起きたようね。それじゃあ行くとしますか。
と、思ったら未だに外に出る準備がなっていないタカは手をあげて私に意見してくる。
「…プレシア。俺、今日は大事を取って寝ていたいんだけど…」
「全てにおいて、私の優先順位は娘たちのお願いよ」
「そりゃあ。そう、だろう。けど…」
アリシアがタカの手を引き、フェイトが彼の額に手を当てながら様子を見ている。
同世代の男の子なら鼻の下が伸びてもおかしくないんだろうけど、タカは未だにふてくされている。
これも彼の精神が大人だからかしら?
ただ、私の娘たちにここまでされているのに鼻の下を伸ばさないのもしゃくね。
まあ、伸ばしたら伸ばしたで…。
「…っ」
「…おおう、何故か寒気が。風邪がぶり返したか?」
おっといけない。
つい、ついサドっ気が出てしまったわ。フェイトも何事かと当たりをきょろきょろと見渡しているし。
私が向けたのはタカであって、貴女ではないのよ。
そこに一ミリの誤差はないわ。
だが、それは安易に高志に百パーセントのサドっ気を当てているという事になる。
「お兄ちゃんが行かないなら私も行かない」
アリシアは頬を膨らませてタカを見上げている。
それはいけないわっ。
アリシアにはフェイトと一緒に近くの神社で行われているこの国独自のイベント。初詣。
出店も回って初日の出を見て、おみくじを引いたり、鐘をつくなど、他にもいろいろなイベントを体験してほしいのに…。
「…タカ」
血反吐を吐いてでもついてきなさい。
「っ。
私と彼は以心伝心。
というよりもまた私のサドっ気に当てられたのかしら?
フェイトも彼と一緒に私に敬礼しているし…。
「では、私は外着に着替えてくるので!」
全力で部屋に戻ったタカはドタンバタンと部屋の中で騒がしくしながら着替えを行っているのだろう。
「…なあ、プレシア。あんた。やっぱり変わったよ。だけどさ、もう少しあいつに優しくしてやったらどうだ?」
アルフがため息をつきながらタカの部屋の扉を見て言う。
「あいつは私達の恩人だよ。もう少しくらい優しくしてあげても…」
「それをあの子が望むのならね」
「え?」
確かに、彼は偶発的にとはいえ、アリシアを助け、私を助けた。
闇の書の事件ではフェイト達を助けたと言ってもいい。
だけど彼はアサキムに狙われている。そして、それに巻き込んでしまったことに後ろめたさを感じている。
それについて謝られたこともあった。
その時に私に要求したことは一つ。
「フェイトやアリシアを連れて、いつでも見捨てて逃げてもいいようにしてほしい」という事。
正直格好つけすぎだ。
ガンレオンの整備も未だにまともに出来ないのに。
それでも彼は私達の事を考えていた。だから言ってやった。
「あなたが死ねばスフィアで生きているアリシアも死ぬかもしれない。だから、アリシアの為に私は逃げない。だから、あなたはアリシアの為に生きなさい」と。
彼に下手な慰めは逆効果だ。
なら、その逆で叱咤激励だ。
彼は称賛される事になれていない。何か心の枷のようなものが無いと自分の意志も貫けない。
彼の枷はきっと彼の『前の世界』の家族だろう。
そこへの未練があったから彼はアサキムとの戦いも心折れずに戦えた。
だけど、闇の書事件を終えて彼の心の枷は『テスタロッサの家族』に変わった。それは前の枷に比べたらあまりにも弱い。
出来ることならアリシアの傍にずっといて欲しいのだけれど、そこは母親心。
彼は正直言って地味すぎる。うちのアリシアの伴侶にしてはあまりにも貧層過ぎる。
命の恩人に向かって思う事じゃないかもしれないけど彼自身もそう言っていたから問題ないだろう。
「いっそ、このまま私好みに教育。いえ、調教しようかしら?」
「いやいや。調教じゃなくて教育にしてあげなよ。あいつをどうするつもりだい?」
あら?いつの間にか声に出ていたようだ。
考えをまとめる。
あの子にはいつもの通り。その
いつもの通りの家族の交流こそ彼が欲している。
私にいつもしばかれる家族の交流…?
アリシアやフェイトに悪影響を与えないかしら?
まあ、少しは彼への接し方も考えてはみるとしよう。
体が子供に戻った所為か家族を欲する欲求が強くなっている。それはこれまでの彼の行動を見ていればわかる事だ。
「外出準備完了であります!」
「…あら、もういいの。それじゃあ行きましょうか」
「イエスマム!」
黒のジーパンに白い厚手のジャンパーを着たタカがやって来たのでアルフも私との話し合いを打ち切る。
まあ、アルフの信頼を得るにはまだまだ時間はかかりそうだけど…。
「…あんたは本当に親馬鹿だな」
「否定はしないわ」
アリシアやフェイト。アルフには聞こえないように高志は愚痴を言ってくる。
親馬鹿ね。いつかフェイトに対してもそう呼ばれたいわ。
「…うう。その愛情のかけらでもいいから俺にも分けてくれよ」
「あら、分けてないかしら?」
私はからかうつもりで彼を見下ろす。
タカは十歳くらいの身長なので、女性としては背の高い私だと見下ろす形になる。
「…うっ」
加えて精神が二十一歳。いや、ここの世界での滞在期間も足すと二十二歳か。
そして、年上の美人好き。
私のからかいに顔を赤らめて視線を逸らす。
…地味な風体だけどタカは面白い。だから、アリシアも魅かれているのかしらね?
「…あ、あれが愛情なら俺はいらない」
「またまた」
「いや本当マジでいらないからね!」
「本当は嬉しいくせに…」
「俺はマゾじゃないよ!」
私のからかいにタカは叫ぶように否定するけど…。
「それは。…ないわ」
私は真顔で答える。
「ごめん。タカシ…。私も否定できないや」
「お兄ちゃんはMだよ」
アルフはタカから目を逸らし、アリシアは満面の笑顔で。
「え、えーと。えむだ、よ?」
フェイトは意味が分からないながらも私達に合わせて高志に言ったのがトドメだった。
「皆なんか嫌いだ!」
タカは涙を流しながら私達の輪から離れるように走り出した。
ごめんなさいタカ。あなたの為ならいくらでもガンレオンを調整する。
だけど…。
あなたを見ているといじりたくなるの。
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第七十三話 あれが愛情なら俺はいらない