No.49292

おとなの時間

xx凛さん

九時を告げる時計が鳴る。
 ――おやすみなさい
ここからはおとなの時間。

2008-12-30 12:16:55 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:792   閲覧ユーザー数:771

九時を告げる時計が鳴る。

 

 

 

おやすみなさい

 

 

 

もうここからは、おとなの時間

 

僕達こどもはおやすみなさい

 

僕達こどもを寝かしつけて、

 

おとな達は何処へ行く?

 

 

明かりの付いた居間からは、

 

楽しいおとなの談笑の声

 

だからって、無闇にそこへは行けないんだ

 

飛び出せば、布団の中に逆戻り

 

 

 

早く、おとなになりたい。

 

 

 

おとなになるまで待てないよ

 

少しくらいは良いはずさ

 

僕達こどもが覗いても

 

さぁ、手を取り合って、覗きに行こう

 

おとなの時間を

 

 

 

 

 

パジャマ姿で何処へ行く?

 

こどもが夜に何処へ行く?

 

そう、老人は僕らに尋ねた

 

 

僕達は、おとなの時間を覗きに行くんだ

 

 

僕らは得意げに言う

 

 

ほう、そうかい

 

と、老人はそう言って僕らを見つめた

 

楽しくなんて、ないかもよ

 

老人は言った

 

だから、僕らは言ったんだ

 

 

覗いて見なきゃ、分からない

 

 

声をそろえてそう言うと、

 

足をそろえて暗い、暗い森に入って行く

 

 

僕らは絶対振り向かない

 

 

老人が、まだ何か言いたそうだったけど、

 

気にしなかった

 

 

 

 

 

途中、きつねが立っていた

 

 

こども達、飴はいらないかい?

 

 

きつねはそう、尋ねてきた

 

きつねはたくさんの飴を持っていた

 

僕らはお腹は減っていた

 

けれど、きつねの飴は何故か気色悪くて

 

気分が悪くなって吐き気がした

 

 

いらないよ

 

だから僕らはそう言って

 

手を振りきつねとお別れさ

 

 

 

 

 

途中、うさぎが立っていた

 

 

こども達、付いて来ないかい?

 

楽しいことが、たくさんあるよ

 

 

うさぎはそう、尋ねてきた

 

うさぎはとても楽しそうに笑っていた

 

僕らは楽しいことが大好きだった

 

けれど、うさぎの笑顔は何故か奇妙で

 

僕らは寒くなり、身震いをした

 

 

いかないよ

 

だから僕らはそう言って

 

手を振りうさぎとお別れさ

 

 

 

 

 

途中、おおかみが立っていた

 

 

こども達、遊ばないかい?

 

 

おおかみはそう、尋ねてきた

 

おおかみはたくさんの遊び道具を持っていた

 

僕らはそれで、たくさん遊びたかった

 

けれど、おおかみの遊具は何故か生臭くて

 

足を切って泣いた思い出を蘇らせた

 

 

いらないよ

 

だから僕らはそう言って

 

手を振りおおかみとお別れさ

 

 

 

 

 

けれど、おおかみは豹変し、

 

僕らの腕を掴んできた

 

その力はとても強くて

 

全然振りほどくことなんて出来ない

 

 

僕らは泣いて、おとなの名を呼んだ

 

その時、おおかみの顔が歪んで、

 

おとなの顔と重なった

 

 

 

 

何故か

 

 

 

 

 

どうしたの?坊や

 

 

おかあさんが僕を見ていた

 

そこは僕の布団の上

 

ああ、夢だったんだ

 

僕はほっとすると、また布団にもぐりこんだ

 

あの老人の言ったとおり、おとなはそんなに良いものじゃない

 

 

僕の腕には青いあざがあった

 

まるで、誰かにつかまれたみたい

 

今日した、けんかのかな?

 

と僕は思った。こどもにしては大きな手痕だけど

 

 

もう一眠りしよう

 

僕はそう言って、目を閉じた

 

外が明るく、何故か煩い

 

 

 

 

 

何故か

 

 

 

 

 

 

 

―――まだ、知らなくて良い事も有るんだよ、こども達

 

 

 

 

 

 

おやすみなさい

 

 

 

 

 

 


 
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