「一日目」
ウムヴァルツェングという世界の中央にあるリュウロン大陸の最南端の国エーデル・ブルーメ王国。その首都の郊外にひとつの店――というには外観は100人が見たら80人は小屋と言う――があり、看板には「モンド旅の商店」と書かれていた。
その店の中に少し恰幅が良い黒い口髭が生えた中年の男が黙々と剣を磨いていた。男の名は、モンド・キュルーズこの店の店主である。
ギィっというドアが開く音が鳴った。店に入ってきたのは、腰に剣を差し、大きなリュックサックを背負ったまだあどけなさが残る青年だった。
「ごめんくださーい」
「はいはい、何でしょう? 」
モンドは作り笑いをして青年に尋ねた。
「何をお探しで?」
青年は回復薬の入ったビンを指差す。
「あの回復薬を20ビン下さい」
少し静寂が流れた。この時モンドは顔に出さずに頭を抱えた。
(あ~、めんどくさい客が来たな~。1ビン、150ペリーの回復薬を20ビンだとぉ。そんなに仕入れてねぇつうの。まだ16もいかないこんな奴が……待てよもしかしたら金持ちかも)
彼は、少し期待を膨らまして再び青年に聞いた。
「坊ちゃん。一体いくらお持ちで?」
「4200ペリーです」
彼の期待はあっという間に萎れた。
(ただの初心者かよ……よく見れば装備も初期のスタンダート装備だし……)
彼が少しため息をしたので青年は尋ねた。
「どうしたのですか?」
「坊ちゃん、なんでそんなに回復薬が必要なんだい?」
「次の町まで少し遠いしから体力を温存するために多く溜めておきたいんです」
するとモンドはカウンターから出て青年の横の棚に立ち、ある物を手にした。
「それだったらこの先、毒や麻痺系の技を使ってくるモンスターが出てくるからこの麻痺消しと解毒剤を先に買った方がですよ」
モンドは、店の商品である解毒薬と大きな葉っぱを青年に見せた。
「――あの、解毒剤はいいんですけど、その葉っぱ『パリアークスの葉』ですよね。僕、麻痺消しの薬の方がいいんですが……」
パリアークスとは、麻痺消しの薬の元となる木で葉っぱを患部に巻き治すものであるが、最近ではこの木の成分だけを抽出、味付けをした麻痺治しが主流である。
「いえいえ坊ちゃん、値段と使い勝手さならこっちのほうがいいんですよ。たしかに麻痺治し薬はすぐ効果が出ますがパリアの葉なら5枚100ペリーとお得ですよ」
麻痺治し薬はすぐに全ての麻痺を治すが一瓶丸ごと飲まなければならなく値段は80ペリーである。一方、葉の方は麻痺した部分に葉を一枚巻きつけて数秒待たないと完治しないが、実際に旅をすると全身麻痺を起こすようなモンスターはそうそういない。特に、この先に出てくるモンスターは主に足を狙ってくる。
しかし、旅を経験しない一般人または初心者の人は使い勝手が良くすぐに効きやすい麻痺治し薬の方を買ってしまうのだ。
「う~ん。けど教師からは麻痺治し薬を推奨しましたし……」
青年は旅の初心者の例に多い言葉がさっそく出たので、モンドはますます呆れた。
旅人になるためにはまず旅人センターという訓練校へと2~3年通う。そこを出た人の多くすなわち旅の初心者は、センターの教師推奨アイテムを持つ傾向があるのだ。中には親類・友人関係の旅人が教えもっと効率のいいアイテムを教える場合もあるのだが彼の場合は典型的な初心者だ。
「坊ちゃん、旅人初心者かい?」
モンドが聞くとフリンツは、「はい、今日なったばかりです。よくわかりましたね」彼は爛々とした目をしていたがモンドは不安な目をした。
「はぁ~しゃあねぇ。お前さん名前は?」
フリンツは、モンドが口調を変えてきたので驚いたがすぐに返事をした。
「フリンツ、フリンツ・クルデネルト15歳です。」
モンドは店の戸を引き、ドアにかけていた小さな看板を『close』にひっくり返してフリンツに話した。
「フリンツと言ったか?お前さんにセンターのお偉い教師さんも知らない旅の常識を少し教えてやる。付いて来い」
フリンツはモンドの言葉に圧倒されボーっとしていたが、すぐに我に返り店主の背中を追いかけた。
店を出て、モンドが先頭に立ってしばらく二人が歩いていくと橙色の毛の犬型モンスターに出くわした。
「バッツウルフか。お前さんちょっとやってみろ」
モンドは後ろに下がり、フリンツにバッツウルフの相手をさせた。
「グルルル」とバッツウルフがフリンツに威嚇したが、彼はそれをもろともせずバッツウルフに向けて剣を構える。
バゥっとバッツウルフが再び吠えた後、フリンツに飛び掛ったが、フリンツはそれを難なくと右にへと避ける。フリンツは、バッツウルフがこちらに振り向く前にフリンツは剣を振り下ろし、横わき腹を切る。
バッツウルフは、キャインと可愛い声を出した後、体勢を崩した。しかし、わき腹を切っただけでは致命傷には至らなかったが、バッツウルフはふらふらと立っている状態だった。
フリンツは剣を構え再びバッツウルフに切りかかったが、バッツウルフはそれを避け、キャインキャインと鳴き声をあげて草むらの中へと逃げてしまった。
「くそっ」
「惜しかったな。けど剣の振り方はよかったぞ」
「これでも旅人を夢見てましたから剣の振り方は猛特訓しましたよ」
フリンツは少し得意げに言い、剣を鞘にしまう。
「ところでお前さん、能力はどれくらいだ?」
「ちょっと待っててください」
フリンツはリュックの脇にぶら下げていた機械――『サモンサーチャー』という自分の能力を数値表示できる機械――を手に取り、それを自分の腕にスライドさせた。
「え~と、筋力は28、防御は31、素早さが41です」
「ほう、素早さが高いな。ならスピード系統の剣を持った方がいいな。軽いからパワーはないが連続で剣の攻撃を繰り出せる」
「ご忠告ありがとうございます。じゃあ、次の町で……」
「待った。俺の店で買え、初心者レベルで扱えるいい剣をうちは仕入れているんだ」
「じゃあ、そうします」
フリンツはリュックを下ろし、草むらに座る。
「ところで、センターの教師が知らないことって何ですか?教師達はみんな元旅人だから経験者のはずですけど」
フリンツが問うとモンドは彼の横に座り話した。
「センターの奴らは確かに元旅人だぞ、だがほとんどの奴は一流の奴やかなり経験をつんだ奴じゃない。途中で旅人を止めた中途半端な奴らが教師をしているんだ」
モンドの放った言葉にフリンツは驚愕した。
「ほ、ホントですか?!」
「ああ、実際に俺が何人かの教師にいくつか質問したが、初歩の初歩しか知らなんだ」
モンドは両腕を広げ頭を振る。
「何でそんな人をセンターの運営はそんな人達を雇ったんでしょうか?」
「そりゃ、一流の旅人を雇ったら高い給料請求されるだろ。教師達のほとんどは旅人辞めた後に就いた職業より金がもらえるから就いたんだ、尊敬もされるしな」
フリンツが体育座りをして落ち込んでいるのを見てモンドは、彼がセンターを卒業したことを擁護する。
「まあ、そう落ち込むなって。センターの教師の中には一流の元旅人だっているし、センターを卒業できたんなら基礎の基礎はできてるはずだ」
モンドがフリンツを慰めていた時、ガサッと草むらから音がして二人は立ち上がりモンドは両方に刃の付いた斧をフリンツは剣を取り出し構えた。
草むらから現れたのはさっきと同じバッツウルフであったが横腹に傷跡がないのでフリンツと戦った奴ではなかった。
「またあいつか。こんどこそ」
「ちょっと待て。……何匹かいるぞ」
モンドが確認すると、周りの草むらから7~8匹ほどのバッツウルフが出てきた。
「そ、そんなバカな!バッツウルフは、単独で行動する生物なのに……」
フリンツは驚愕したがモンドは落ち着いていた。
「おそらく集団系の奴もいたんだろうな」
モンドは動じることなく淡々と答える。
「なんで、そんなに落ち着いているんですか!?集団のバッツウルフの対応の仕方わからないんですよ!」
フリンツが問うとモンドは、「バカ野郎、旅をしていくと対処の仕方がわからない奴や亜種がごろごろいるんだ。こんな時は落ち着いて相手の弱点を見つけて倒すんだ。これは旅の常識だぞ」
「わ、わかりました」
モンドは、周囲のバッツウルフ達を見渡すと、一匹の顔に何本かの傷があり体が大きいバッツウルフがいたのを見つけた。それがこの集団をまとめているリーダーだと判断したがまだ確証がないため
もう少し様子を見ることにした。
すると、大きいバッツウルフがバウッと吠えると他のバッツウルフ達がモンド達を取り囲もうとしたためモンドはあれがリーダーだと確証を持った。
「モンドさん、あの大きい奴が指揮を取ってます!」
「よし、そいつさえやればこいつらはバラバラだ。フリンツ一気にやれ、俺は他の奴らをやる」
「はい!!」
フリンツがリーダーのバッツウルフに向かって行くと、モンドはフリンツを追うバッツウルフ達を相手する。
モンドはフリンツに飛び掛ろうとした一匹を横になぎ払う。
仲間の一匹がやられたのがわかったのか、フリンツに向かって行った他の三匹がモンドの方へと方向を変え、その内の二匹がモンドの顔に向かって飛び掛った。モンドは、顔に向かってきた二匹を両方とも右に避ける。
「うりゃー!!」
二匹のバッツウルフが地面に着地する寸前でモンドは二匹を纏めて斧で吹き飛ばす。残った一匹は足に喰らい付こうと駆けたが、モンドは仁王立ちしたまま斧を振り下ろしそのバッツウルフを倒した。
「あらかた片付いたかな」
モンドは辺りを見回すと、モンドの周囲には4匹の少し遠くの方では3匹のバッツウルフが倒れていた。
「あいつ……なかなかやる様じゃねぇか」モンドはフリンツの戦果に関心する。
モンドは、フリンツがどこにいるのか見渡すと高い草むらから開けた所でフリンツはバッツウルフのリーダーと戦っていて、双方とも傷を負っていた。
モンドは、近くにある石ころを手に取った。
(これをあのリーダーにぶつけて気を逸らすことができるが……)モンドはフリンツを助けるか、それとも彼を信じるか迷っていた。
彼が出した答えは……石を捨て、彼を信じることにした。
モンドは、フリンツ達の様子を見るとフリンツは先に仕掛け側面を狙おうと走るが、モンドはリーダーがそれを見抜いていることに気づく。
「ちっ、動きが読まれている。やっぱ俺が――」モンドが呟いた瞬間、フリンツはリーダーの側面ではなく正面へと切り替えて走っていた。
リーダーは、側面でなく正面から来たので戸惑った。
完璧にフェイントが決まった。
「でああ!!」フリンツは下から剣を切り上げリーダーを吹き飛ばし、続けて二度胸を切る。
そのままリーダーは地面に落ちて動かなかった。
モンドは、フリンツに近づき、「よくやったな!」と肩を叩きフリンツを褒めた。
「はい!ありがとうございます!!」
集団のバッツウルフを倒した後、店に帰って、フリンツはモンドから傷薬をつけて貰い、バリアークスの葉や毒消し、回復薬を5:5:10の割合で購入した。
また、剣を持っていた『スタンダートソード』から軽く剣の攻撃力ががスピード系の剣より強い『パーミスブレイド』にへと下取りした。
「今日はありがとうございます。傷の手当てもしてもらって」
「まあ、これから徐々に経験を積んで旅人を続けていけよ」
「はい。では、さようなら」
フリンツは深く礼をしてドアに手をかけようとした。
「あっ、ちょっと待て」
「はい?」
モンドがフリンツを引き止め彼に近づくと手を出した。
「……えっと何ですかこの手?」
「さっきお前につけた傷薬の代金忘れるところだった」
「あ、あれただじゃないんですか!?」
「当たり前だ。共闘戦闘代金請求されないだけでも有り難いと思え」
フリンツは抵抗したが結局支払うことにした。
「まいどあり~」
モンドは、フリンツを見送ると店に入り商品の整理をする。たとえ店の見た目が悪くても次の客が来るときに良い品が出せるように。
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なのはの更新が止まって申し訳ございません。
その代わりといっては何ですが、告知していた新作です。
こちらは続き物としてやりますが、不定期連載とさせていただきます。