No.488326 IS-インフィニット・ストラトス- きゅー組物語 112012-09-25 03:24:54 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1133 閲覧ユーザー数:1097 |
医務室に入ると、不良少女が上半身を起こした状態で俺たちを待っていた。
「“
まずは教頭が声をかける。
「………あぁ。そうだ。」
「………事の顛末は、9組の先生方から聞いています。内容を口頭で伝えますから、確認しなさい。」
教頭が、事の顛末を彼女に伝える。
「………以上で、間違っていませんか?」
「………あ、あぁ。間違ってない。」
教頭が俺たちから聞いた話を不良少女に伝えた所、彼女はきょとんとした顔でそう答えた。
その後教頭が不良少女に幾つか質問し
「私からは以上です………では、私は職員室に戻りますので。ロジーナ先生、春告先生。何かあったら連絡を下さい。何も無いようであれば、お二人とも寮へ戻られてください。」
と、俺たちに行って医務室から去って行った。
いや、何だこれ。何を話せば良いんだ?
「………河山さん、だっけ?」
「………おい、“ニャンコ”。」
「ぐっ………」
「こらぁ、出雲先生だ。い・ず・も先生!!!」
ロジーナが生徒を睨みながら、強い語気で言い放つ。いや、ロジーナさん。ここで彼女が臍を曲げたら俺たち終わりなの、分かってますか???
「………出雲先生。」
「………えっと、何かな、河山さん?」
「竜華だ。竜華で良い。」
「………は?」
いきなりそう言われ、とっさに情けない疑問の言葉を彼女にかえしてしまった。
「………呼び方。竜華。」
これは、竜華と呼べ。という事で良いのだろうか?
「………えっと、竜華サン?」
取りあえず、そう呼んでみると
「何で、私はお咎め無しなんだ?」
訳の分からない質問をされた。
「………は?」
「だから、何で退学にも停学にもなって無いのかって聞いてんの!!」
「「はい?」」
彼女の言い放った言葉に、ロジーナと二人で間抜けな声をあげた。
………竜華の話を聞くところによると、彼女は彼女で運が無い人間らしい。
………エリートの父親と良い所出身の母親が居て、蝶よ花よと育てられたのが彼女
“河山 竜華”
である。
しかし、彼女の両親が離婚したことから彼女の不運が始まったらしい。
九年前の女性雇用優遇法可決のあおりを受けて、父親がリストラ。その後、両親が離婚。
離婚した母親が再婚したは良い物の、再婚相手の父親もまたリストラされる。理由は、改正された女性雇用優遇法。
良家出身のプライドが邪魔をして、一般的な経済感覚が身に付かなかった母親。
そんな母親の感覚を責め立てる新しい父親。
二人の間には、喧嘩が絶えなかったという。
その結果、一人のお嬢様が金髪ロンスカの不良少女に大変身である。
そんな不良娘が、エリート養成学校に入学してしまった。
………教師陣は、腫れものを扱うように彼女に接していたという。
結果………
「ヤニ吸って停学、喧嘩して停学。なのに教師に喧嘩売って何のお咎めも無しってどういう事だよ!?」
彼女は今まで教師から怒られる事無く、淡々と事務処理の様に処分を告げられていたらしい。
「………何なの?お前ドMさんなの??変態さんなの???」
ロジーナが、ジト目で竜華に聞く。
「ちっげーよ!!!誰がドMで変態だコラぁ!!!」
………あ、ひょっとして。いや、まさか………流石にそんな………
「………お前どんだけ良い子ちゃんなんだよ!!!………あー、もうめんどくさい。春告、後頼む。アタシ帰る。」
ロジーナ、心底面倒臭そうに医務室から出ようとする。
「ちょっ!!!ロジーナ!!!!まt」
ガラガラと、これまたやる気のない音をBGMにロジーナは去って行った。
「んで、春告センセー。説明、してくれんだよな?」
「………はぁー。竜華、お前ね、もうお仕置きは終わってるの。分かる??」
俺は、確認するように竜華に訪ねた。
「………は?」
………案の定かよ。
「ロジーナに気絶するほどブン回された。お仕置きはそれでおしまいなの。これ以上お前に罰を与えようもんなら、それは唯の暴力なの。俺たちホントに首になっちゃうの。」
「………???」
竜華はまだ理解していないようだ。………頭痛くなってきた。
「………ひょっとしてこれまで、教師に怒られた事無いの??」
「………今まで、封筒に入った書類に停学とか書いてあっただけだけど?」
「どうなってんだよ教育現場ぁ………」
本格的に頭が痛くなってきた。
………これは後日教頭から聞いてやっと分かった事だが、竜華のこんな状態もISの弊害の一つらしい。
女性雇用優遇法などの女性を優遇する法律で、女性の社会進出率は飛躍的に高まった。
だが、そこでは歪みも発生していた。殆ど無秩序に雇用の機会を拡大した結果、あらゆる業界に“新しい人間”が一気に増えてしまったのだ。そこで、何が起こったか?
それまでのノウハウの消失である。
新しい人間を入れる為に、様々な職場がそれまで仕事をしていた人間の首を切った。一般企業は法令順守による法人税優遇のため、公的機関は日の丸親方の命令によって。最終的にそのノウハウが失われなかったのは、皮肉にも比較的簡単にノウハウが受け継がれてゆく肉体労働がメインの一部業界だけとなったのだ。
教育現場も、またしかり。教育機関における生徒の指導さえも前例などノウハウの消失により事務的なものとなって行った。
新法可決から8年の歳月は生徒の怒り方も、教育現場から奪ってしまったのだ。
「生徒を殴るのは野蛮な教師。その行きついた先が、怒り方の分からない教師と怒られても分からない生徒。若い世代の職員だらけのこの学院は、そんな社会の最前線なんですよ。」
教頭は、そう締めくくっていた。
「あのな、竜華。お前、まだ9組の事………いや、ISで人を助けようって連中の事馬鹿にしようと思うか?」
「いや………もう、そんな気はない。ISは結構怖いものだってのも、身を以て知った。それを人助けのために使おうっていう、あんたらがどんな奴なのかも分かった。それを馬鹿にした私が間違ってたのも、今なら分かる。」
「………そういうのを、反省って言うんだ。教師が生徒を怒るのはな、生徒を痛めつける為じゃなくて反省させる為なんだよ。お前は考え方を改めた。だから、これで俺たちの指導は終わり。」
そう告げると、彼女は黙りこんだ。
「………。」
「どうした、竜華?」
「………なぁ、さっき私を診てくれた奴から聞いたんだけどさ。」
セレナからか。
「なんだ?」
「あんたら、この学園を首になるかも知れないのにあんな事したんだよな?」
「………まぁ、そうだな。」
当事者のロジーナは失念していた様だが。
「自分たちの立場がヤバいってのに、何であんな事したんだ??」
「………そりゃお前、俺たちが国連職員で『教師だから』。だよ。」
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