No.484944

混沌王は異界の力を求める 8

布津さん

第8話 反省会

2012-09-16 23:48:34 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:9950   閲覧ユーザー数:9617

「何を考えている」

 

「ん?」

 

新人フォワード達が、人修羅の呼び出した仲魔達に蹂躙…もとい訓練されている頃、人修羅は地上に降りたなのはと新人達の様子を眺めていた。

 

「何で俺に訓練の指導を頼んだ? 先日の事もあるし、あいつ等と俺はそんなに親しい関係じゃない、むしろ最悪の印象付けをしただろう、あいつ等も困るんじゃないか?」

 

無論ご立派様の件である。

 

「大丈夫だよ、皆立ち直るのは早いし、わたし達ももう誰も気にしてないと思うよ?」

 

「…メンタル強いな、お前等」

 

「それにまだ会ったばかりなんだから、仲が良くないのは当たり前、人修羅さんとだってゆっくりと仲良くなっていけば良いよ」

 

微笑み言うなのはの言葉に、人修羅はなのはに聞こえぬ小さな声で

 

「…だといいがな」

 

と言った。

 

「何か言った?」

 

「いや別に。まぁいい理由はわかった、だが何で俺達に頼んだ? お前のやっている訓練法だけでもあいつ等は、間違いなく強くなる。俺達が余計なことをしたら、伸びるものも伸びなくなるぞ」

 

「人修羅さん、もしかして嫌だった?」

 

「そういう訳じゃない、人に何かを教えるのは好きだしな、ただ気になっただけだ、何故余分なことを挟むのかってな」

 

人修羅の声に、余分じゃないよ、となのはが言う。

 

「皆伸び代も柔軟性もあるし、色んな事を経験させたほうが絶対良くなるから」

 

それに、となのはは続ける。

 

「シグナムとスルトさんの試合のときから思ってたんだけどね、人修羅さん達って妙に戦いなれてるよね、まるでどこかの戦場に居たみたいに」

 

機動六課の連中にはボルテクス界のことやアマラ宇宙のことは話していない。

 

「この前の人修羅さんとレリックの事で交渉したときも、人修羅さん、俺達と敵対してる奴が居るって、言ってたよね」

 

なのはの言葉に、人修羅は戦場から眼を離し、なのはのほうを向く。その眼は一切の光を宿していなかった。

 

「人修羅さんたちは他の世界で何してたの?」

 

「貴様には関係ない」

 

無表情に放たれた人修羅の言葉に、なのはの言葉と動きが止まった。

 

「…悪い、今はあんた等には話せない」

 

だが、すぐに人修羅は表情を取り戻すと、なのはから眼を離した。

 

「…それは、時間がたてば話してもらえるってこと…かな?」

 

動きを止めていたなのはだったが、人修羅の困ったような表情を見ると、すぐに言葉を作った。

 

「機会があればな」

 

そして両者の言葉が止まった、自然とその場には沈黙が下りる、響く音はビルの倒壊する音と龍の飛翔の音しかない。

 

「あー…」

 

何か言おうと人修羅が口を開いたそのとき、訓練場から僅かながら経が聞こえてきた。

 

「…お経?」

 

なのはにも聞こえたようで、疑問の表情を作っていた。

 

「仲魔の一人の気合の声みたいなものだ、気にするな」

 

「お経が、気合……え?」

 

なのはが疑問の表情を向けるが人修羅は気にしないことにした、なのはも訝しげな視線を向けはするが、それ以上気にしないことにしたらしい。

 

(主よ…)

 

そのとき人修羅の脳内に今訓練場に居るはずのオーディンの声が響いた。

 

(主よ、我が相対者の疲労が限界に近い、ここらで止めとしたいのだが)

 

オーディンの声に続いて他の悪魔達も、次々に声を響かせた。

 

(そうですね、女性との追い駆けっこは楽しいものですが、お相手がこうもフラフラではさすがに…)

 

(我ノ相手ハ…既ニ…限界ダ……動キニモ…声ニモ…張リガ無イ……)

 

(うむ、こちらの相対者は既に精神が擦り切れる寸前、そろそろ止めねば自棄を起こす)

 

案外持ったなぁ、と人修羅は思った以上に粘ったフォワード陣を心の中で賞賛した。正直三分持つと思っていなかったが、既に時間は倍の六分を経過している。

 

仲魔の声に、ひとつ頷いた人修羅は、なのはに言った。

 

「仲魔たちがそろそろ終わらせようと言ってきているが構わないか?」

 

「ん?あー、もう六分もたっちゃったのか、時間がたつの早いね、解ったじゃあお願い」

 

「ああ」

 

なのはから終了の許可を得た人修羅は言った、大声で

 

「やれぇ!!」

 

攻撃の命令を

 

「えぇっ!?」

 

なのはが驚愕の視線で人修羅を見たが彼は無視した。

 

そのとき戦場の一角で、黄金の光が周囲の建物全てを巻き込み爆音をもって炸裂したのをなのはと人修羅は見た。おそらくメルキセデクの『ゴットハンド』だろうと人修羅は辺りをつけた。

そして別方向ではオーディンの『真理の雷』が雷鳴と雷光を響かせ、だいそうじょうの『煩悩即菩提』が朱の花を咲かせていた。

 

「オ゙オ゙ォォォォォォォォ!!」

 

そして最後に天を舞っていたセトが、一際高く白龍の上空へ舞い上がると、真下のキャロとフリードを『妬みの暴圧』で地上に叩き落すのを見た。

 

(セデク、こちらは抜かりなく終了した、そちらはどうだ)

 

(ええ、問題ありません彼女の肌に傷は一つとして、ありません)

 

(いやそうではなくてな、ちゃんと気絶しているのか?)

 

(…え? あっはい! 大丈夫ですよ! はい!! 問題ないです!)

 

訓練場の何処かで鈍い音がしたが、瓦礫が落ちたのだろうと人修羅は自分を納得させた。

 

(お前等、そいつ等を連れてそのままこっちに戻って来い)

 

(了解した、我が主…セト早く降りてこい、貴様、我の眼前に龍を落とすとは良い度胸だ)

 

(ソコニ居ル…オ前ガ……悪イ…)

 

(あの…早く行きませんか?)

 

(ワシは疲れた…)

 

こいつ等仲良いなと、着陸を始めたセトを見ていた人修羅は視線をなのはに向けた。

 

「終わったってさ、すぐに戻って来るよう…なんだその呆けた顔は」

 

「え…、あの…終了の合図出すんじゃなかったの?」

 

「だから、あいつらに気絶させて、戻ってくるように言ったんだが?」

 

「…普通は終了、とか終わり、とか言うんじゃないのかな…?」

 

「俺は訓練でも身内が負けるのは嫌いだ」

 

「………」

 

なのはが妙な目で人修羅を睨んだが、自身の行いの何が悪いのか解っていない人修羅は、首を傾げるばかりだった。

『常世の祈り』

 

だいそうじょうの唱えた術ととも、に先ほどのなのはの訓練を受けていた頃よりボロボロになって気絶していた新人フォワード+αが目を覚ました。

 

「あれ…いったい?」

 

「はい! せいれ~つ」

 

まだ意識もはっきりせず、眼の焦点もあっていなかった新人達がなのはが手を鳴らしながら声を出したとたんに、一瞬で意識を覚醒させると、素早く立ち上がり整列した、小さくなったフリードまで同じことをしているのをなのはの背後で見た人修羅は

 

(これ一種の洗脳だろ)

 

と頭の隅で一瞬考えた。

 

「さて、今日は皆見事に撃破されちゃったけど…どうかな?」

 

なのはの疑の問いに、スバルが答えた。

 

「はい…正直、凄い怖かったです……」

 

だんだん尻切れに小さくなっていくスバルの言葉に、左に立つキャロも無言で同意した。

 

「そっか…でも、次にやるときは流石に自重してくれるみたいだから、次は頑張るようにね」

 

ハイッと声を合わせる新人達。自重するつもりなど針の先ほども無いが。新人達の応答になのはは、よし、とひとつ言葉を作ると、背後の人修羅達に顔を向けた。

 

「人修羅さんたちは皆に何か、言うことはあるかな?」

 

なのはの言葉に人修羅は顎で仲魔たちに前に出るよう指示した。人修羅の指示に四人の悪魔は同時に主へ一礼を行うと、若干恐怖の表情を浮かべている新人フォワードたちの下へ歩を進めた。

 

「ふむ…そうですねぇ、月並みの感想でしかありませんが、全体的に判断力不足でしょうか」

 

鋼の大天使が顎に手を置きながら言った。

 

「我はそれ以前に、技不足かと思うのだがな」

 

神槍を携えた魔神が石突で床を叩きながら言う。

 

「んー、でも私はこのメンバー相手によく六分も持ちこたえたと、思いますけど」

 

漆黒の髪を(くるぶし)ほどまで伸ばした少女が、同じく漆黒の長衣をはためかせながら言った。

 

「ふむ、個人的には少々精神がもろすぎると思うのだがな…」

 

だいそうじょうが僧衣の裾を揺らしながら言う。

 

…。

 

…。

 

…。

 

………。

 

「いやちょっと待ってくださいよ」

 

思わずティアナは疲れを忘れて突っ込みを入れた。

 

「おや、汝どうかなされたか?ワシ等に不審なことでも?」

 

「いやあのですね…」

 

「だいそうじょう、恐らく貴方の『煩悩即菩提』の混乱が残っているんですよ、ちゃんと『常世の祈り』範囲に入れました?」

 

「莫迦を言いなさるな、抜かりは無いわ」

 

「そうじゃなくてですね!!」

 

ティアナは目の前で漫才を始めようとしていた、だいそうじょうとメルキセデクへ再び突っ込んだ。先ほどまで疲労困憊だった娘のものとは思えぬ、張りのある声だった。

 

「その()っ! いったい誰ですか!?」

 

ズビシッという擬音が付きそうな動作で、ティアナは悪魔達の中にナチュラルに紛れ込んでいた黒髪の少女を指差した。

 

「ええっ!? 私…が、何か…?」

 

疑問と惑いを混ぜた表情で少女が首をかしげた。その右隣でメルキセデクが再び

 

「だいそうじょう、やはり貴方の『煩悩即菩提』の混乱が残っているんですよ、ちゃんと『常世の祈り』範囲に入れました?」

 

「莫迦を言い「その流れはもういいですから!」

 

まったく同じ流れになりかけていた、話をティアナが強制的に遮断した。

 

「その娘は一体全体何処から連れてきたんですか!? あのセトとかいう黒いドラゴンはどこにいったんですか!?」

 

ティアナの言葉に、メルキセデクにだいそうじょう、オーディンに人修羅までもが同時に腕を組み、首を三十度ほど傾け、七秒ほど停止したが

 

「ああ」

 

と、異口同音に声を発した。

 

「セトセト、ちょっと元に戻れ」

 

人修羅が少女に向かって手で何かを持ち上げるような動作をした。

 

「了解、です」

 

笑顔で頷いた少女の姿が徐々に色を失い、黒一色に染まっていく。

 

「え…な、何?」

 

「大丈夫だよ、わたしもさっき始めて見たときは驚いたけど、よく考えたらユーノ君の逆バージョンなんだよね」

 

黒色で体と髪の境目すらわからなくなった少女を前にして、エリオが緊の表情を作るが、なのははそれを笑顔で(なだ)めた。

 

「まぁ、私たちは姿形(すがたかたち)はあまり気にしませんからねぇ」

 

そして、黒一色となった少女のシルエットが徐々に膨らみ、大龍のものへと変わった。

 

「コレデ…良イカ…」

 

「ああ、極めて良好だセト、もういいぞ。まぁそういうことだ」

 

「…どういう事なんでしょうか?」

 

「普段のセトのあの体躯だと、ここでは中々に不都合だったんでな、戦闘時にはあの姿に戻るがな。それにあんた達も黒龍よりもあの姿のほうが好感だろ?」

 

「まぁ、そうですけど…」

 

いまいち納得のいかない表情を作っていたティアナに、スバルが後ろから肩へ手を置いた。

 

「スバル…?」

 

「ティア、前人修羅さんが言ってたでしょ、悪魔は人間と(ことわり)が違うって、そういうことなんだよ」

 

「………」

 

スバルの言葉にティアナは表情を消し、元の配置へ無言で戻った。

 

「で、え…っと、何の話をしてたんでしたっけ?」

 

「我等からの指摘」

 

「ああ、そうでしたねセトの所為ですっかり忘れてました」

 

「私の所為じゃないでしょうが」

 

再び小さくなったセトが頬を膨らます。

 

「本来なら軍神として説義を一時間ほど聞かせてやりたかったが…」

 

オーディンがため息をひとつ付いた。

 

「そうじゃな、この空気で説法をするほどワシ等も(たわ)けではない」

 

「もういいですね、戻りましょう」

 

言うと、四人の悪魔は勝手に教えたわけでもない人修羅に当てられている機動六課本部の部屋へ向かってしまった。

 

「悪いな」

 

主人修羅も一言それだけ言うと、行ってしまった。残されたなのは達はしばらくその場に無表情で佇んでいたが

 

「それじゃ、今日の早朝訓練は終わりっ!皆、午後も頑張ろうね」

 

ハイッと新人達は声を合わせて応答した。機動六課の面々は悪魔に対する処置を、戦闘以外でも徐々に学習し始めているらしい。


 
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