真・恋姫無双 ifストーリー
蜀√ 桜咲く時季に 第46話
【道中、馬上にて、その2】
《桃香視点》
「えへへ。今日は私からだね!よろしくね、ご主人様」
馬の準備をするご主人様にお願いしますと頭を下げる。
「今日の最初は桃香からか。それじゃ、桃香。手を出して」
「うん!」
馬に乗って手を差し出してくるご主人様の手を取ろうとしたその時だった。
「ち、ちょっと待ったーーーーっ!」
「わわっ!びっくりした。急にどうしたの白蓮ちゃん」
背後から大きな声で呼び止められて、少し驚いちゃいました。
「どうしたの?じゃないだろ!?今日は
「あれ?そうだっけ?……あみだくじやった?」
私は自分の記憶をさかのぼって思い返してみるけど、白蓮ちゃんがあみだくじをしている所を見た覚えが無いような気がして聞き返してみた。
「やったよ!桃香の横に居ただろ!何忘れてるんだよ!」
「あ、あはは……ごめんね、ぱいぱいちゃん」
「だ、だから都合が悪くなる度に、真名を間違えるな~~~っ!」
「ふえ~ん。ごめんなさ~~~い!」
《白蓮視点》
「まったく、桃香と来たら……」
北郷の馬に乗せて貰いながらさっきの桃香の事について文句を言う。
「まあ、桃香も悪気があったわけじゃないんだし。許してあげてくれよ」
「真名を間違えることが悪気が無いと?」
「えっと……と、桃香らしいじゃないか、あは、あははは」
笑って誤魔化そうとする北郷。
「それに、北郷、お前も忘れてたよな?私の番だって事」
「あ、あははは……ごめんなさい」
「別にいいさ。私の影が薄いのは今に始まったことじゃないからな……はぁ」
少し自虐が入ってしまい、自ら落ち込んでしまった。
「ほ、ほら、でも白蓮にも良いところはあるだろ!?」
「そ、そうだよな。例えば、どんなところだ?」
「え?そ、そうだな……」
北郷は顎に手を当てて考え始めた。
「う~ん……」
「……もう良いぞ。どうせ、無いんだろ?」
「そ、そんなことは無いぞ!い、今ここまえ出掛かってるんだ!」
「そうまでしないと私の良い所は出ないのか!?」
北郷の言葉に思わず突っ込んでしまった。
「っ!そ、そうだ!お人よしな所、とか」
「……それって良いことなのか?」
「もちろんだよ。白蓮の厚意のおかげで、俺たちはこうしていられるんだからさ」
「そ、そうか?そう言ってもらえると悪い気はしないな」
北郷に言われると少し照れくさいな。
「で、でも、お前の方がお人よしだと思うぞ」
「え?そうかな?」
「ああ、確実にな」
「う~ん。自分ではそうは思ってないんだけどな」
「月や詠。馬一族に袁家である美羽を助けてる時点で、十分お前はお人よしだと思うぞ」
「あ、あはは」
苦笑いを浮かべ笑う北郷。本当に自覚してないんだよな、こいつは……まあ、私みたいに利益も考えないで人助けが出来るところはホント、凄いと思うよ。
北郷が助ける理由はいたって単純だ。私もその理由を聞いて呆れたが、桃香以外にも同じ理由で人を助ける人が居たことに少なからず驚いていた。
『知り合いだから』
『困っている人は放っておけない』
それに加え、北郷は『女の子だし』が追加されるんだけど、まあ、今はそれはいいだろう。
私は、北郷が桃香の下へ来てくれた事に感謝していた。
桃香の理想は確かに夢物語だと私も思う。だけど、それを実現しようとあいつはいつも一生懸命だ。
でも、いくら現実にしようとがんばっても力が無ければそれこそ、夢物語で終わってしまう。
だけどそこへ、北郷が桃香の前に現れてくれた。最初は北郷の存在を疑っていたんだけどな。
でも、しばらくあいつの人隣を見ていて気づいたことがあった。
それは、桃香や村人みんなが北郷と居るといつも笑顔で居るということだ。実際、これは凄いことだと思う。
本当なら、慕われては居ても君主の前で笑うなんてことは無い。それが失礼に当たるからだ。だけど北郷の回りは違った。
どんな時でも、あいつの周りは笑顔で溢れていた。
「ホント、お前って変わった奴だよな」
「ええ?そりゃないだろ。これでも一般常識はあるんだけど」
「それって、お前の世界の一般常識だろ?」
「そ、そうだけど……そんなに変か?」
思わず口篭り、聞き返してくる北郷。
「ああ、私から見ればな」
「そ、そっか~」
北郷は肩を落としうな垂れた。
「まあ、お前は今のままでいいと思うぞ。そんなお前だからこそ、桃香はお前の事を好きになったんだろうからな」
「えっ!き、気づいてたのか?」
「はぁ~。お前なぁ、私と桃香は私塾が一緒だったんだぞ?子供の頃から知ってるんだから、分からないわけないだろ」
「そ、そうか……そうだよな」
「それに、桃香は直ぐに態度に出るからな。初めて北郷を見たときから分かってたぞ」
「そ、そんな前から……」
「なんでそこで落ち込むんだ?」
「いや……俺、全然気づかなくて、桃香に告白されるまでわからなかったからさ」
「……」
な、なるほど……北郷は本当に色恋事には鈍いんだな。星に聞いてはいたがここまでとは……
「ま、まあ、それもいいんじゃないか?女の方から告白されるって言うのもいいと思うぞ」
落ち込む北郷を元気つける。
「ありがとうな、白蓮。本当は白蓮を励まそうとしてたのに、逆に励まされちゃうなんてな」
「気にするな。私も好きでもないやつの事なんか励まそうとは思わないから、な……っ!」
「え?」
「ち、違うぞ!わ、私の好きは……そ、そう!友としてだ!決して男女間での好きではないぞ!」
ああ、私は何を言っているんだ!これじゃ、お前の事が好きだと言っているようなものじゃないか!
「そっか、友人としてか。ちょっとびっくりしちゃったよ」
「あ、ああ!そうなんだ!……へ?」
あ、あれ?本当にそのままの意味で受け取ったのか?
北郷の態度に私は逆に呆然としてしまった。
「うん。これからも良い友人で居ような白蓮」
「あ、ああ。そうだな……はは、ははははは……はぁ」
私は自分の思いを誤魔化してしまったことに深いため息を吐いた。
《桃香視点》
「私の番だね!」
私は意気揚々とご主人様の下へと向かった。
「あ、白連ちゃんだ。お~い!」
前から白連ちゃんが歩いてきたから大きく手を振った。
「ああ、桃香か……」
「?どうかしたの、白連ちゃん。元気無いよ?」
「ああ、気にしないでくれ。自分の馬鹿さ加減に呆れているだけだから。はぁ~」
「そ、そうなの?」
「ああ……桃香」
「な、なに?」
「正直に話すって凄いことなんだな。お前を見直したよ」
「え?あ、ありがとう?」
白連ちゃんの言っている意味がわからず、語尾が上がっちゃった。
「それじゃあな、北郷と楽しんできてくれ」
「う、うん……」
白連ちゃんはそう言うと肩を落として歩いて行っちゃった。
「何があったんだろう?ご主人様に聞いてみようかな」
私は小走りでご主人様の下へ向かった。
「ご主人様~」
「お、来たね。今度は順番間違えなかったね」
「あれは忘れて下さい!」
「わかったわかった。それにしても、なんで順番を間違えたんだ?」
「だって早くご主人様と一緒の馬に乗りたかったから……って、もう!何言わせるんですか、ご主人様ぁ~!恥ずかしいじゃないですか」
「あはは、ごめんごめん」
「む~っ!」
からかうご主人様に頬を膨らませて睨みつける。
「はは、ほら、可愛い顔が台無しだぞ?」
「もう、ご主人様はすぐそうやって誤魔化そうとするんですから~」
ご主人様は馬の上から私の頭を撫でて誤魔化してきました。
「誤魔化してなんかいないよ。桃香が可愛いのは本当の事だよ」
「うぅ……改まって言われると、照れちゃうよ」
「はは、それじゃ、桃香。行こうか」
「はい!」
差し出してくるご主人様の手を取り、馬に乗った。
「えへへ~♪」
私のすぐ背後にご主人様が居ることに、自然と笑みがこぼれてきちゃった。
「ご機嫌だね」
「はい!すごく待ち遠しかったですから!」
「そっか」
私の答えに嬉しそうにほほ笑むご主人様。ご主人様の笑ってる顔好きなんだよね。
「あ、そうだ!ご主人様に聞こうと思ってたことがあったんだ!」
「ん?なに?」
「実はね、さっき白連ちゃんとすれ違ったんだけど……」
私はその時の事をご主人様に説明した。
「そう言えば、途中から元気が無かったな」
「やっぱり……ご主人様、何か言ったんじゃないですか?」
「え、俺!?」
「そうですよ。だってその時はご主人様と白連ちゃんの二人だけだったんですよね?だったら、ご主人様に原因があると私は思うな」
「う~ん。そうは言ってもな……世間話みたいなことを話してただけだしな。あとはこれからも友達で居ようなって話をしてたくらいだし」
「ち、ちょっと待ってご主人様。友達で居ようってどういうことかな?」
「ああ、白連が友人として好きだって言ってくれたから、俺もそうだよって言ったんだけど」
「……」
それだ……それ以外考えられないよね。もう……ご主人様ってホント、鈍感だよね。それって白連ちゃんが恥ずかしくなって誤魔化したってことなのに。
「……はぁ~。まあ、ご主人様だもんね。仕方ないか」
「な、なに?」
私も自分が苦労したことを思い出して、ご主人様だからと納得する。
「ねえ、ご主人様。一つ聞くけど、白連ちゃんの事、大事に思ってるんだよね?」
「え?そりゃ、もちろん。大切な仲間だしね」
「う~ん、そういうことじゃないんだけど……今はそれでいいかな」
ここで私が白連ちゃんの代わりに聞くのは簡単だけど、それじゃ、白連ちゃんの為にならないもんね。
「??」
「いいの、こっちの話だから」
首を傾げるご主人様に私は傾けた首を戻した。
「ねえねえ、ご主人様。ご主人様はどんな女性が好みなんですか?」
「え?そうだな~」
話を変えるためにご主人様の好みを聞いてみることにした。私みたいな女性だったらいいな、なんて……きゃ~~~♪
自分で言って恥ずかしくなり心の中で叫んじゃった。
「やっぱり、菫見たいな大人しい女性かな~」
「……」
「いへへへへっ!?」
ご主人様の答えに無言でご主人様の頬を抓った。
「なんでそこで菫さんが出てくるんですか!?」
「え?あ、いや。もちろん、桃香見たいな女の子も好きだぞ!」
「ふんだ。もう遅いですよ~だ!」
ぷいっと前を向いてご主人様から視線をそらす。
「ご、ごめん。桃香、謝るから許してくれないかな?」
「……」
「う、う~ん……困ったな……」
「……許して欲しいですか?」
「ああ、許してくれるならどんなことでもするよ」
(ぴくっ!)
「……どんなことでも?」
「あ、ああ、どんなことでも」
どんなことでも……つまり、何でもいいって事だよね……
「……はぅ!」
「と、桃香?」
「へ!?あ、ううん!なんでもないよ!」
どんなことでもという言葉に思わず想像してしまう声を漏らしちゃった。
はぅ~、私ってエッチな子かも……で、でもでも!それは、ご主人様だからで、ご主人様じゃなければあんなこと、想像なんて……あわわわわっ!わ、私ひとりで何言ってるんだろう!?
「そ、それじゃ……してくれたら、許してあげます」
「ええぇぇええっ!?」
ご主人様に耳打ちして小声で話すと、ご主人様は声を上げて驚いた。
「わわっ!こ、声が大きいよ、ご主人様!」
「ご、ごめん。でも、桃香からそんな事を言われるとは思わなかったからさ」
「だめ、ですか?」
「ダメじゃないけど。どうしても?」
「……(こくん)し、してくれないと許しません!」
恥ずかしくなりつつも、強気でご主人様に言いました。
「今すぐじゃなくてもいいんだよね?」
「い、今すぐはちょっと……やっぱり、落ち着いた時にゆっくりと……って、何言わせるんですか、ご主人様!」
「ご、ごめん……それじゃ、成都について、政策が落ち着いてからでもいいかな?」
「は、はい……えと、それで大丈夫です」
「う、うん……」
「……」
話が纏まったら急に恥ずかしくなり、お互い無言になっちゃいました。
「「あ、あのっ!」」
気まずくなり、話を変えようとご主人様に話しかけようとしたら、ご主人様も私に話しかけてきた。
「な、なに?」
「ご、ご主人様からどうぞ?」
「いやいや、桃香からどうぞ」
「……」
「……」
お互い譲り合い、そしてまた沈黙。
あぅ……ど、どうしよう~
話す機会を見失っちゃったよ。
「ふははははっ!雪蓮だぞ~~♪」
「にょは~~~~~っ!こ、こっちに来る出ない!な、七乃助けてたも!」
「あぁん♪孫策さんを真似た太史慈さんに怯える美羽様、可愛いです~♪」
「「……ぷっ」」
「「あははははっ!」」
美羽ちゃんを追いかける優未さんを見て思わず、二人して笑っちゃいました。
「ぬおおっ!ぬ、主様、笑ってないで助けてたもぉ~!」
「わはっはっ!首を切り落としてやろうかしら~♪」
「ぴーーーーーーっ!!」
「あはははは……優未。あまり、美羽をからかい過ぎないでくれよ」
「わかってるよ~♪でも、反応が面白くて♪」
「にょわ~~~~っ!そ、孫策、怖いのじゃ~~~~っ!」
優未さんは逃げる美羽ちゃんを追いかけて行っちゃいました。
「あはは、元気ですね。二人とも」
「ああ。でも、後で美羽を慰めないとな」
「ですね……ご主人様」
「ん?」
「交代まで寄りかかってても良いですか?」
「いいよ」
笑顔で頷くと私を抱き寄せてきた。
(なでなで)
「……えへへ♪」
ご主人様の胸に頭を乗せると、ご主人様は私の頭を撫でてくれた。
そして、次の人の番まで私はご主人様に撫でて貰いながら色々なお話をしました。
《蒲公英視点》
「というわけで、ここに居るぞ~♪」
ご主人様の前で元気良く片手を上げて名乗りを上げる。
「な、なにが、というわけ、なんだ?」
「ん~。一回は言っておかないとだめかな~って思って♪」
「そ、そっか」
「あっ!私、ご主人様の後ろが良いなっ!」
「別にいいけど……なんで?」
「それは秘密だよ、ご主人様♪」
「??」
「いいからいいから♪それじゃ、乗るよ」
「あ、ああ」
たんぽぽの勢いに押されて、ご主人様はただ頷くことしか出来てなかった。
「んしょっと……それじゃ、ご主人様、しゅっぱーつ!」
「了解……はっ!」
ご主人様は軽く馬の腹を蹴り、馬を歩かせた。
「本当に後ろでいいのか?」
「うん」
ご主人様はたんぽぽを疑うことなく馬を歩かせてた。
そろそろ、いいかな?……えい♪
(ぷに)
「っ!?」
たんぽぽがご主人様の背中に抱きつくとご主人様は驚いたのか少しだけ肩を震わせた。
あはは!ご主人様、今、びくってした。面白~い♪
「えっと……蒲公英?」
「ん?なに?ご主人様?」
「い、いや……な、なんでもないよ」
ご主人様、顔があっか~い。ちょっと胸を押し当てただけなのに、可愛い♪もっと押し付けちゃえ!
(ぷに、ぷに)
「ぅ……」
あはは♪我慢してるご主人様、可愛い!
たんぽぽは何度も何度もご主人様の背中に胸を押し付けた。
お姉様や菫おば様みたいに、全然胸なんか無いけど、それでもご主人様がこうやって反応してくれるのが、すごく嬉しかった。
「あ、あのさ、蒲公英。やっぱり、前に来ないかな?」
「え~。なんで?」
「えっと……ほ、ほら、後ろだと、俺の背中のせいで前の景色が見えないだろ?」
「そんなこと無いよ?後ろからでも景色は見えるよ」
「え、いや……そのね?」
ご主人様の要望をさらりとかわす。
素直に胸が当たってるからって言えば良いのに、ご主人様って恥ずかしがり屋だよね♪
「う、後ろだと蒲公英が振り落とされて無いか危険だしさ」
「それなら、ぎゅっと抱きついてれば平気だよね?」
「そ、それはダメだよ!」
「なんで?」
たんぽぽの言葉にご主人様は少し言葉を強めた。それでもたんぽぽは知らない振りをして聞き返した。
「うぅ……あ、あの、お願いだから。前に来てくれないかな?」
「もう、仕方ないな~」
等々、ご主人様が懇願してきたからたんぽぽはここで止めてあげることにした。それに、沢山ご主人様に主張も出来たしね。
「んっしょっと……これでいい?ご主人様」
「ああ、ありがとう。助かったよ……」
「んふふ~。何が助かったのかな、ご主人様?」
「えっ!い、いや!何でもないよ!」
「ふ~ん」
たんぽぽはにやにや笑いながらご主人様の話を聞いていた。
「あ、そうだ!ねえねえ、ご主人様」
「え?何?」
「ご主人様って誰が好きなの?」
「みんな大好きだよ。大切な仲間だからね」
「もう!そういう事じゃなくて!」
「?」
ご主人様は本当に意味が分かってないらしくて、首を傾げてるし。
「だから~、そういう意味の好きじゃなくて」
「なくて?」
「愛している人ってこと」
「あ、愛してる人!?」
「そんなに驚くこと?」
「い、いや。まさか、蒲公英の口からそんな言葉を言われるとは思ってなかったから」
「たんぽぽだって、胸は小さいけどこれでも女の子なんだからね。それくらい言うよ~」
「いや、胸は関係ないと思うけど……」
「そんな事より、どうなの?やっぱり、順当に桃香様?それとも……愛紗とか?あ!意表をついて菫おば様とか!」
「い、いや……別にこの人、って言うのは……強いて言うなら、やっぱり、皆、なんだよな」
「はぁ~~~~」
うん、やっぱり、ご主人様だよね。こういうところが。
「そんなに長く溜息吐かなくても」
「吐きたくもなるよ~。ご主人様、鈍感だし、色々とさ~」
「そ、そんなに鈍感かな?」
「鈍感も鈍感!ここだけの話だけどさ……みんな、ご主人様の事、好きだと思うよ。たんぽぽ」
「……まさか、そんなことある訳ないだろ?」
「はぁ~、これだから鈍感だっていうんだよ」
「いや、桃香や愛紗は分かってるけど……詠やねねはどう見ても俺の事敵視してるだろ」
「ん~、ねねは多分そうだと思うけど……」
詠は違うと思うんだよな~。確かに、一番は月なのかもしれないけどさ、なんて言うか、好きだから素直になれない、みたいな所がある気がするんだよね。
「兎に角!ご主人様はもう少し自覚した方がいいよ。そうしないと、いつか誰かを気づ付けちゃうよ!」
ご主人様の鼻先に指を当てて強く言った。
「わ、わかりました」
「分かればよろしい……さてと!それじゃ、このお話はこれでお終いね」
満足したたんぽぽはご主人様にもたれ掛かるようにして座り直した。
「……ご主人様」
「ん?」
「もしもだけど……もしもの話だよ?その……胸の小さい人に告白されたらご主人様はどうする?」
「え?なんで胸の小さい子限定?」
「いいから、答えてよぉ」
「ん~。別に胸の大きさで好き嫌いを決めてるわけじゃないからな~」
「ホント?」
「ああ。だってそれって外見だけで判断してるってことだろ?それって女の子に失礼じゃないか。俺はそんな最低な男が居たら許せないな」
「~~っ!」
え?え?何今の!一瞬、ご主人様が凄くかっこよく見えちゃったよ。
たんぽぽはご主人様の言葉になぜか胸が高鳴り、戸惑っちゃった。
「ん?どうかしたのか、蒲公英」
「えっ!?な、なんでもない、よ?」
「でも、顔が赤いぞ?かぜでもひいてるのか?」
(ぴとっ)
「ひゃうっ!」
「え?」
「あ、な、なんでもないよ!ご主人様の手がちょっと冷たかったから驚いただけだから!で、でもたんぽぽは風なんて引いてないから全然気にしないでいいよ!」
「?ならいいけど……具合が悪くなったら直ぐに言うんだぞ?」
「うん、わかったよ、ご主人様」
ご主人様に心配されちゃった……なんだろ、凄く嬉しいよ。心配されて嬉しいってたんぽぽ変なのかな?
たんぽぽは、自分の気持ちに驚きながらもその後、ご主人様と他愛ない会話を楽しんで次の人に交代した。
《朱里視点》
「ご、ご主人しゃま、よろしくお願いしましゅ!……はわわ、かんじゃった」
「よ、よろしくおねがしましゅ!あわわ……かんじゃいました」
蒲公英さんに代わり、今度は私と雛里ちゃんの番になりました。
お互い、ご主人様にお願いしたけど、二人して噛んでしまい凄く恥ずかしくなりました。
「はは、そんなに緊張しなくてもいいよ。それじゃ、まずはどっちが先頭になる?」
私と雛里ちゃんは偶然にも順番が隣同士になり、二人で乗ろうと話し合った。このことはご主人様にも了承を得ていましたが、周りからは少し羨ましそうに見られていたと思います。
「しょ、しょれれは!……あぅ~……私からお願いします」
私も雛里ちゃんも緊張すると噛む癖が直らず、雛里ちゃんはまた噛んでしまっていました。
「はは、そんなに慌てなくても俺は逃げたりしないよ。さぁ、手を出して」
「あわわ……」
雛里ちゃんは照れながらも手を伸ばしてご主人様に馬の上に乗せて貰っていました。
「さあ、次は朱里だよ。おいで」
「は、はひっ!……よ、よろしくお願いします」
ご主人様に呼ばれて雛里ちゃんと同じようにご主人様に手を伸ばしました。
「よっと……」
「はわわ……ご主人様、力持ちですね」
「それほどじゃないよ。俺よりも鈴々や恋の方がずっと力があるぞ」
「でも、私たちの周りではご主人様以上に力持ちな男の人は居ませんから」
「はは、ありがとうな。そう言って貰えると嬉しいよ」
(なでなで)
「はわわ……」
別に慰めたわけではなく、本当の事を言っただけなのにご主人様にお礼を言われて頭を撫でて貰っちゃいました。
「♪~~」
撫でて貰えたことが嬉しく、私は少し上機嫌になってしまいました。
「いいな、朱里ちゃん」
「えへへ♪」
羨ましそうに見つめる雛里ちゃんには悪いけど、ご主人様に頭を撫でて貰えるのは譲れないから。
「そう言えば、先ほど蒲公英さんとすれ違ったんですけど、何かあったんですか?」
「え?何かって?」
「蒲公英さん、なんだか嬉しそうにしていましたけど」
「う~ん。ただ相談に乗っただけなんだけど」
「相談ですか?」
「ああ」
相談に乗って貰っただけであんなに嬉しくなるものなのでしょうか?
蒲公英さんのあの嬉しそうな表情は相当良い返答が貰えたと言う事でしょう……っ!まさか!
「朱里ちゃん」
「うん。わかってるよ、雛里ちゃん」
雛里ちゃんも気が付いたのか、私だけに聞こえる声で話しかけてきたから頷いた。
「あ、あの、ご主人様。差し障りが無いようでしたら、教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「え?う~ん。話してもいいのかな?……でも、なんで聞きたいんだ?」
やっぱり、そうきますよね。それは当たり前ですよね、なんと言っても人の秘密を聞くことになるんだから。
「不満などを聞き、それを改善するのも私たち軍師の仕事なんです。ダメでしょうか?」
「う~ん。別に不満とかの相談じゃなかったんだけど……まあ、いいのかな?でも、ここだけの話にしてくれよ?」
「は、はい!それで、蒲公英さんはなんと?」
「実は……胸の小さい人に告白されたら俺はどうするのかって蒲公英に相談されたんだ」
「はわわ!?」
「あわわ!?」
な、なんて大胆なんでしょう、蒲公英さん。胸の事をご主人様に聞くだなんて……
確かに、これは他言無用な相談ですね……私も雛里ちゃんも蒲公英さん以上に残念なのでその気持ちは痛いほど良く分かります。
「そ、それで……ご主人様はなんと答えたのですか?」
「胸の大きい、小さいで好き嫌いを決めて無いって言ったけど」
「「しょ、しょれは本当でしゅかっ!?」」
ご主人様の言葉に思わず雛里ちゃんとほぼ同時に同じ事をご主人様に聞き返していました。
「あ、ああ。本当だよ」
「はぅ~」
よ、よかった……胸の大きさで決めていないと言う事は、まだ私や雛里ちゃんにも好機があるということ。
桃香様や愛紗さんに胸では負けていますが、まだ勝てる見込みがあるって事!
「雛里ちゃん!」
「うん、朱里ちゃん」
「「がんばろうね!」」
お互い手を取り合い励ましあった。
「えっと……何をがんばるんだ?」
「はわわっ!」
「あわわっ!」
そ、そうでした!今はご主人様とご一緒でした!
「い、今の事は忘れてくだしゃ~~い!」
「忘れてくだしゃ~~い」
「ふ、二人がそう言うなら。聞かなかったことにするよ」
「ありがとうございます、ご主人様」
「別にお礼を言われるようなことじゃないと思うけど……聞かない方が良いんだよね?」
「はい。個人的なことなので」
聞き返してくるご主人様に対して私は頷いて答えた。
「わかった。まあ、取り合えず、がんばってね」
はぅ~。理由を知らないとは言え、ご主人様に応援されるとは思わなかったよ。
がんばる理由がご主人様を射止める為とは言えず。とても複雑な心境でした。
《雛里視点》
あわわ……ご主人様に頑張ってって言われてしまいました。
笑顔で応援してくれるご主人様に私は赤くなった顔を隠してしまいました。
「ん?そろそろ交代かな?それじゃ、朱里と雛里は座る位置を交代しようか」
「はぁ、ちょっと残念ですけど仕方ないですね」
「はは。それならまた今度、膝に座るか?」
う~ん。どうすればご主人様に好きだと伝えられるのかな……
「い、いいんでしゅか!?」
「まあ、その内にね」
やっぱり一人だと恥ずかしくて絶対何も言えなくなっちゃうよね。
「は、はい!是非に!」
「雛里もどうだ?」
「……」
やっぱり朱里ちゃんと一緒に……
「雛里ちゃん?」
「……」
うん、それが良いよね。ご主人様に受け入れてもらえたら、嬉しい気持ちは倍になるし、もし断られても朱里ちゃんと一緒なら悲しみも半分こできるよね。
「お~い。雛里、大丈夫?」
「っ!あわわ!な、なんでしゅか?」
「黙ってたから、気分でも悪いのかなって」
「気分でも悪いの?雛里ちゃん」
考え事をしていたせいでご主人様と朱里ちゃんに心配させちゃいました。
「い、いえ。大丈夫です」
「ならいいけど……気分が悪くなったらすぐ言うんだぞ?」
「はい。ありがとうございます、ご主人様」
やっぱり、ご主人様はとてもお優しいです。私なんかを心配してくださるなんて……
ご主人様の優しさに私は胸が熱くなるのが分かりました。
あわわ……ど、どうしよう。こんな状態で朱里ちゃんと場所を交代したら恥ずかしくてどうかなっちゃうよぉ。
「よし、それじゃ……よっと」
「あわわっ!ご、ご主人しゃま!?」
な、何が起きたんでしゅか!?き、急に視界が高くなっちゃいました~。
「はわわっ!雛里ちゃん、いいな~」
あわわ……朱里ちゃんが私の下に居るよ。
朱里ちゃんが私の目線の下に居たことで私がご主人様に持ち上げられているということがわかりました。
「これでよしっと……それじゃ、行こうか」
「は、はい」
朱里ちゃんと前後を交代してご主人様は馬を歩かせました。
「そう言えば、まだ次の目的地である楽成城の事を詳しく聞いてなかったな。どんな城なんだ?」
「楽成城ですか?」
そうだ……まだ、ご主人様にこの事を話していませんでした……
「……」
朱里ちゃんも少し困った顔を私に向けてきました。
「ん?どうしたんだ、二人とも?」
「その……とても言いにくい事なんですが……」
「言いにくい事?」
「はい。実は、この事をご主人様以外の方には説明していて」
私は少し言いにくかったけど、いつかは言わなければいけないことだと思い、今話すことにしました。
「えっ、それって俺にだけ教えて貰ってないってこと?」
「は、はい……」
「どうして俺だけ?」
「その……どう説明したら良いか分からなくて……」
「……どういうこと?」
「……実は、次のお城、楽成城の城主は……黄忠さんなんです」
「えっ……」
ご主人様は聞き覚えのある名前を聞いて、驚いていました。
無理もありません。ご主人様と黄忠さんは既に随分も前にお会いしているのですから。
「桃香や愛紗も……そのことを?」
「……はい」
桃香様と愛紗さんもこの話をした時、凄く驚き、困惑していました。
私たちも初めてこの事を斥候から聞いた時は驚きました。
でも、私も朱里ちゃんもご主人様と桃香様の夢を叶える為にどんな人たちが相手でも打ち払っていこうと決めた。
その人が例え、知り合いだったとしても……
「そっか……ありがとうな、二人とも」
「あわわっ!?」
「はわわっ!?」
ご主人様は私たちにお礼を言うと両手で抱きしめてきました。
「な、なんでお礼を言うのですか、ご主人様。私たちはご主人様に黙っていたんですよ?」
「だってそれは、俺の事を気遣ってくれたからだろ?」
「そ、それは……」
「でも大丈夫、俺は平気だから」
「ご主人様……」
『ではなぜ、そんな悲しい顔をするのですか?』
……なんて聞けない……聞いたらきっとご主人様をもっと苦しめてしまう。
ご主人様はとてもお優しい人です。どんなに悪い人たちでも救いの手を伸ばしてさしあげます。
だからこそ少しでもご主人様にはつらい思いをさせたくはありませんでした。
だからこそ、このことはご主人様には秘密にして最小限の被害で事を収めようと決めていました。
「そっか……紫苑が」
「……」
ご主人様は何かを考え始めたのか黙ってしまいました。
………………
…………
……
それからしばらく、ご主人様は前を向き、一言も話してくれませんでした。
「わーーーーーーーーっ!!」
「はわわっ!」
「あわわっ!」
暫くしてご主人様は行き成り大声を上げて叫びだしました。
「ど、どうしたんですか。ご主人様、急に大声を上げて」
「びっくりしました」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと考え事しててさ」
「考え事、ですか?」
「うん……でも、考えが纏まらなくてね。思わず叫んじゃったんだよ。でもそのおかげで吹っ切れたよ」
「吹っ切れた、ですか?」
「ああ」
ご主人様の目は何かを決心したような目をしていました。
「ご主人様、何を決心なさったのですか?」
「ん?まあ、色々とね」
「?」
ご主人様の答えに私も朱里ちゃんも顔を見合わせて首を傾げました。
「まあ、俺はもう大丈夫だってことだよ。心配かけたね、二人とも」
(なでなで)
「はわわっ!?」
(なでなで)
「あわわっ!?」
ご主人様は微笑むと順番に私たちの頭を撫でてきました。
あわわ、だ、ダメです。これ以上撫でられると……
「あわ、あわ、あわわ……ぶぷっ!」
「ひ、雛里ちゃん!?」
「雛里!?」
私はご主人様に頭を撫でられ、嬉しさと恥ずかしさでのぼせてしまい気を失ってしまいました。
《詠視点》
「……あの子どうしたのよ」
「えっと……あはは、なんだか気を失っちゃって」
「はぅ~~……」
「雛里ちゃん、しっかり」
苦笑いを浮かべ、へらへらする北郷と雛里を看病する朱里が居た。
「まさか……変なことしたわけじゃないでしょうね」
「ま、まさか!こんな時にそんなことする訳ないだろ!?」
「どうだか……ん?こんな時?……あんた、こんな時じゃなければ……」
「え?……っ!違う違う!こんな時じゃなくてもしないよ!」
「信じられないわよ!この変態太守!」
ボクは北郷を怒鳴りつけた。
「まったく……油断も隙もないんだから……」
「だからしないって」
「ふん。信じられないわよ」
そう……男なんて信用できないわよ。いつも自分の地位や名誉、命の事しか考えてないんだから。
……でも、こいつは、北郷は敵だったボクたちを信用してくれた。護るって言ってくれた……
それがどれだけの危険を伴うのかも分かってるはずなのに、こいつは平然と笑って言ったんだ。
まったく、どうかしてるわよね……北郷も桃香も……でも、そのおかげで月は笑顔を取り戻してくれた。
「……」
「ん?なに?」
北郷は見られていたことにがついて話しかけてきた。
「べ、別になんでもないわよ、ちゃんと前を向いてなさいよね!」
「はいはい」
「はいは一回!」
「は~い」
「伸ばすな!まったく……」
はぁ……本当にこいつらと一緒に居て大丈夫なのかしら、たまに心配になってくるのよね。こいつらの楽観的な考えが……
ホント、今まで生き残って来れたことが嘘みたいだわ。
だけど、そう思う反面、ちゃんとした実力を持っていることをボクは……ううん、全勢力が知っている。
黄巾党を一人で一瞬で倒し、天下の無双と言われてる恋とも互角に戦う……その名も天の御遣い、北郷一刀。
ボクはその報告を聞いた時、戦慄を覚えたのを今でも覚えてる。
だけど、蓋を開けてみれば……本当にこいつが?って言いたくなるほど、パッとしない男で落胆もした。
でも、そんな考えは直ぐに無くなった……その切っ掛けとなったのが恋との戦いだった。
北郷の戦いを見た時、ボクは北郷に対する評価を改めた。
まあ、改めたって言っても武だけだけどね。他は論外もいいところよ。
いつもヘラヘラしてるし、女性に甘いし、鈍感だし、でも、鈍感の癖に妙な所で気が利いてるし、女性にはモテるし、ボクに優しくするし……
って!何を言ってるのよ、ボクは!ありえないし!
最後に自分が言ったことに首を振りそれを否定した。
そ、そうよ!これは月がいけないんだから!ボクがあのバカの事を好きだと勘違いしてる月がいけないんだから!
北郷の事が好きなのはボクじゃなくて月の方で、ボクは全然!これっぽっちも!北郷の事なんか、好きじゃないんだから!
「俺、好きなんだよな」
「っ!?す、好き!?あ、あんた、行き成り何言いだすのよ!」
「え?だって、好きなんだから仕方ないだろ?」
「ば、ばか!何言いだすのよ!こんな時に!今がどんな時か分かってるんでしょうね!」
ちょ!な、、なんでボクこんなドキドキしてるのよ!ありえない!
ありえないわ!ボクがこいつの事を好きだなんてありえない!絶対ありえないんだから!
「ん~、逆に言えば、こんな時だからって考えもあるだろ?だって、いつ命を落とすか分からないんだから」
「そ、それはそうかもしれないけど……ダメダメ!絶対に認めないわよ!」
一瞬、肯定しそうになりかけたけど、首を横に振って考えを変えなかった。
「え~」
「え~、じゃないわよ!まったく、だれかれ構わずそんなこと言ってるんじゃないでしょうね」
「言うわけないだろ。詠にだけだよ」
「ちょ!」
へ?ぼ、ボクにだけ?そ、それって、そ、そう言う意味よね。はぁ?と、桃香どうするのよ!
もう自分の考えが纏まらず頭の中がごちゃごちゃになってきた。
「は~、飲みたいな~。月の淹れてくれたお茶」
「……へ?お、お茶?」
「うん。お茶」
「お茶……っ~~~~!」
(ごちん!)
「い、いてーーーっ!な、なんで!?」
ボクは勘違いしていたことに気が付いた。そして、自分が考えていたことに恥ずかしくなり、八つ当たりのように北郷を殴った。
「煩い!全部あんたがいけないんだから!」
「え?え?」
くっ!こ、このとぼけた顔が憎たらしい!
勘違いをしていたボクがいけないとは思うけど、こいつの顔を見ていると無性に腹立たしくなってくる。
「この!この!」
「ちょ!そ、そんなに暴れたら危ないって!落ちちゃうよ!」
「煩い!あんたなんか!あんたなんか!……え?」
馬に乗ってるから蹴れない代わりに何度も北郷の頭を叩いた。
そして、一瞬、体勢を崩したかと思うと目の前があいつの顔から真っ青な空になっていた。
ああ……ボク、落馬しちゃったんだ。
何故かその時、ボクは冷静に自分の状況を理解していた。
「あぶない!」
「……え?」
あいつは落馬しそうになっている僕の腕を掴み引き上げてきた。
そして、今度は逆に、青い空からあいつの顔が……え?ち、ちょっと?ち、近すぎじゃない!?
「……ん!?」
「んっ!?」
ち、ちち……
「ちょっとーーーーーー!何するのよこの変態!」
(ぼくっ!)
「ぐはっ!」
「はぁっ!はぁっ!しっっんじらんない!この変態!色情魔!」
ボクはあいつの顎目掛けて拳を振り上げた。
「ご、誤解だって、俺は詠を助けようと」
「うん!どうだか!もうボクは降りるわよ」
「え?」
「こんなやつと一緒に交代まで居られないわよ。止めて」
ボクは馬を止めるように言った。
「お、降ろしてあげようか?」
「ボクに触ったらまた顎に一発お見舞いするわよ」
「うぐっ……」
北郷を睨み付けて自力で降りる。
「それじゃぁね……」
馬を降り、北郷を見ることなく歩き出す。
「……」
しばらく歩き、誰も居ないことを確認して自分の唇を指でなぞった。
「……ボクの初めてだったのに……」
奪われた悔しさよりも、なぜかものすごく後悔していた。
「……何だって言うのよ。ボクは月だけ居ればいいんだから……あいつなんか居なくたって……ああもう!こんな気持ちになるのも全部あいつがいけないのよ!顎に一発だけじゃ、治まらないわよ!もっと殴っておけばよかった!……はぁ、月の所に戻ろ」
ボクは何度も地団駄を踏んで月のところへ戻っていった。
《雪華視点》
「ご主人様とまた一緒に乗馬……えへへ♪」
前に一度、蒲公英さんと遠乗りに行った時以来です。とはいったもののそんなに日にちは経っていませんが。
「ちょっと早くついちゃったなか?」
待ちきれなかったから、少し早くご主人様の下へ来てしまいました。
「あれ?ご主人様、お一人だけだ」
なぜかご主人様は一人で馬に乗っておいででした。
確か、私の前は詠さんでしたよね?どうしたのでしょうか。
「ご主人様、詠さんはどうしたんですか?」
「ああ、ちょっとね」
「?」
苦笑いを浮かべるご主人様。何かあったのでしょうか。
「まあ、雪華は気にしなくていいよ。さあ、おいで」
「っ!は、はい……よ、よろしくお願いします」
差し伸べてくる手を取り、私はご主人様の居る馬上へと抱き上げられた。
「……えへへ」
馬に乗せて貰いしばらくして、不意に笑みがこぼれてきました。
「ん?どうかした?」
「あ、いえ……またこうしてご主人様とご一緒できて嬉しかったもので」
「ははっ、雪華みたいな可愛い子に言われると嬉しいな」
「ふえ!?か、可愛いですか!?」
「ああ、可愛いぞ」
「ふぇ~~……そんな事言われると恥ずかしいです」
ご主人様に可愛いと言って頂き、嬉しさと恥ずかしさで頬が熱くなってきました。
ふぇ~~……ご、ご主人様に可愛いって言われちゃいました……えへへ、嬉しいな……
「あ、次のお城の攻略ですけど、どうするおつもりですか?」
「まあ、相手の出方次第だとは思うけど……きっと篭城してくるだろうな」
「そうですね……ただ、相手の兵数がまだ判明していませんし。状況次第では篭城も数日と持たない可能性が……ご主人様?」
篭城攻略を思案していた時、ご主人様は少し悲しい顔をしていました。
「あ……」
そ、そうでした、次のお城には……
前にご主人様抜きで会議があった時、次のお城に居る当主さんについて言われていたことを思い出しました。
「す、すみません、ご主人様……」
「え?なんで、雪華が謝るんだ?」
「だって、次のお城にはご主人様のお知り合いの方が……」
「ああ、そっか……雪華も朱里たちから話を聞いたんだったね」
「はい……ごめんなさい、無神経なことばかり言って……」
「雪華が謝ることじゃないよ」
「で、でも……ふえ」
私がまだ何か言いたそうにしていると、ご主人様は私の頭を撫でてきました。
「雪華は優しいね」
「ふぇ……そんなこと、ないです……」
「そんなことあるよ。だって、こうして俺の事を気にかけてくれてるじゃないか」
「そ、それは……」
いつもご主人様を見ているから……なんて、恥ずかしくて言えないです。
ご主人様は、私の命の恩人であり、師であり……そ、その、好きな人でもあります。
だからいつもご主人様の事を目で追ってしまいます。
そして、近くに居ない時は無意識に城内を歩き回り、ご主人様を探している自分が居ました。
一日ご主人様に会えないととても悲しくなります。
逆に、会えた時はすごく嬉しくなります。
でも、そのことはご主人様に言えません……だって、きっとご迷惑になりますから。
ご主人様の隣には、私なんかよりももっとふさわしい人が居ます。
だから、私はたまにでも良いからこうしてご主人様とお話しができればそれで充分なんです。
「や、優しくなんてありません。わ、私はただ……ご主人様の悲しい顔を見ると、自分も悲しくなるから」
「そうやって自分の事の様に人の気持ちが分かる雪華だから優しいんだよ」
「ふぇ…ち、違うのに……」
「……」
恥ずかしさのあまり、少し拗ねた態度をとってしまいましたが、それでもご主人様は微笑んでいました。
「実を言うとさ……あまり戦いたくないんだよね」
「えっと……黄忠さん、でしたか?どういうお知り合いなのですか?朱里先生は詳しく教えてくださいませんでした。ただ、ご主人様や桃香様のお知り合いだとしか」
「まあ、そうだろね……紫苑は……黄忠はまだ白蓮が幽州の領主だった時に出会ったんだ」
「……」
ご主人様は黄忠さんの真名を言って、慌てて言い直しました。
真名を交換するほど仲が良かったなんて……
「……っ」
少し、胸のあたりがチクリと痛くなりました……
しかし、痛みは一瞬で今は何ともありませんでした。
な、なんなのでしょうか、今の痛みは……
「当時、俺たちはまだ無名だった。そこで、桃香の知り合いでもあった白蓮の所で客将として働かせてもらおうって話になったんだ」
ご主人様は、私と出会う前の話を、黄忠さんとの出会いの話を聞かせてくれました。
「そんなことがあったんですね……」
「ああ、だから朱里たちから話を聞いた時はすごく衝撃を受けたよ。でも、だからと言って、ここまで来て引き返すわけにはいかない……俺たちを信じて着いて来てくれる民たちのこともあるしね」
ご主人様は笑って答えていましたが、どこかお辛そうでした。
「きっと……」
「ん?」
「きっと大丈夫です。朱里先生たちがきっと……いえ、絶対にご主人様を悲しませるようなことはしないと思います!」
『私が何とかして見せます』
その一言が私は言えなかった。私はまだまだ未熟で武では愛紗さんに、知では朱里先生に到底及びません。
私に力があれば……そうすれば、ご主人様をお助けできるかもしれないのに……
とても情けないです。ご主人様がお辛い時に力になれないのがとても悔しいです……
(ぎゅっ……)
私は悔しさのあまり自分の手を力強く握りしめた。
「……ホント、雪華は優しいね」
「ふえ?あ、あの、ご主人様?」
不意に、ご主人様は私を抱きしめてきました。
「今、自分にもっと力があれば、なんて思ってたでしょ」
「ふえっ!ど、どうしてそれを!?」
「何となくね……でも、そんなに急いで力を付けなくても良いんだよ」
「で、ですが、それではご主人様のお役にたてません」
「大丈夫、雪華はちゃんとみんなの役になっているよ。もちろん、俺の役にもね」
「それは……嘘です。ご主人様はお優しいですから私を気遣ってそう言っているだけです」
「嘘じゃないよ。だって、こうして雪華を抱きしめているととても安心できるんだ。暫くこうしててもいいかな?」
「ふぇ……は、はい……」
私は思わず、頷いてしまいました。
こ、これは一体、どういう状況なのでしょうか!
自分の置かれている状況に頭がついてこれず混乱していた。
「雪華。力や知恵だけが俺の役に立つってだけじゃないんだよ」
「ふえ?そ、それってどういう事ですか?だって力や知恵があればご主人様をお守りできるし他の方にも」
「確かに、役に立つね。それじゃ、力や知恵を使っていない月や詠は俺たちの役に立ってないのかな?」
「あっ……」
「そうだよ。月や詠は力や知恵じゃなく、家事で俺たちの生活を補助してくれてるんだ」
確かに、月さんや詠さんが家事全般をしてくれるおかげで私たちは戦に集中出来ています。力や知恵では無く、もっと身近なところで……
「わ、私も力や知恵だけでなく、その他のことでご主人様のお役に立てるのでしょうか?」
「もちろん。それに今まさに、雪華は俺の役になっているよ」
そうでした……今、私はご主人様に抱きしめられていたのでした。
「ふぇ……あ、あの……は、恥ずかしいですご主人様。誰かに見られてしまいます」
私だけ、ご主人様に抱きしめられていることがなんだか他の方々に悪い気がしてきます。
でも……出来ることなら、もう少しこのままご主人様に抱きしめられていたいです。
《菫視点》
「あらあら、仲睦まじいですね」
刻限が近づき、ご主人様の下へ向かうと、
正確には、ご主人様が一方的に抱き着いてる、でしたが。まあ、雪華さんも満更では無いようですが。
「ふえ!?あ、す、菫さん!」ふえ!?も、もうそんな時間でしゅか!?」
「あらあら、別にそんなに慌てなくても良いのよ?」
「い、いえ!す、直ぐに交代しますね!」
雪華さんは慌ててご主人様の馬から降りて服を正していました。
「ふふふ……ご主人様は優しくしてくださいましたか?」
「ふえ!?あ、あの、そ、その……し、しちゅれっ、失礼します!」
「あらあら」
雪華さんは慌てているせいもあり、噛みながらも言い直しお辞儀をしていってしまいました。
「ふふふ。可愛いですね、雪華さん」
「俺にはからかっているように島見えなかったよ」
「あらあら。からかうのも愛情表現の一つだとは思いませんか、ご主人様?」
「そう言われちゃうと、返す言葉が無いな……」
苦笑いを浮かべて同意をするご主人様。
「ふふ……では、乗せて頂けますか?」
「ああ」
「そうでした。
「え、う、後ろ?」
「はい……何か不都合でも?」
「う、う~ん……」
ご主人様はなぜかとても困った顔をしておいででした。
「ふふ……」
何となくご主人様が悩んでいる理由がわかったような気がしました。
「やっぱり、危険だよ、な……ごめん、前にして……って、えええ!?」
「ふふふ」
「い、いつの間に!?」
「それは……悩んでいる間にですわ、旦那様」
「っ!?」
「あらあら、どうかいたしましたか、旦那様?」
「い、いや……なんでも」
「ふふふ」
明らかに動揺するご主人様。その理由は分かっています。
………………
…………
……
『~~♪』
『あらあら、随分とご機嫌ですね、蒲公英』
蒲公英はご主人様との乗馬から戻ってくるととても嬉しそうに話しだしてきました。
『あのね!ご主人様ったら、たんぽぽの胸でもすっごく動揺してくれたんだよ!』
『な、何やってるんだよお前は!そんな恥ずかしい事!』
嬉しそうに話す蒲公英の横で、翠は顔を赤くして怒鳴っていました。
まったく……わが娘ながら、なんと初心なのでしょう。
『え~、だって、ご主人様の周りにはお姉様以上に胸が大きい人が居るんだよ。それくらい自己主張しないとご主人様に振り向いてもらえないよぉ』
『なっ!?』
『確かに、そうですわね』
『な、か、母様!?』
『翠ももっと自己主張しなくてはダメですよ』
………………
…………
……
「ふふふ♪」
「あ、あの……菫?」
「はい。如何いたしましたか、だ・ん・な・さ・ま♪」
(むにゅ~~っ)
「っ!?!?!?」
背中に胸を押し付けるとご主人様は背筋をピンっと伸ばして硬直してしまいました。
「あらあら♪これがお好きなのですね、旦那様♪」
(むにゅ、むにゅ、むぎゅ~~~~っ!)
「ち、ちょ!す、菫!?さ、さすがにそれは!」
何度も胸を押し付けるとご主人様はその度に、肩を震わせて硬直していました。
「あらあら、さすがにそれは……なんですか?」
「い、いや、だからね?む、胸が……」
「ふふふ。いやですわ、旦那様」
「え?」
「そんなに
「っ!?ち、ちがっ!」
「でしたら早く言ってくださればいくらでも触らせて差し上げますのに」
「ち、違うから!触りたいとか思ってないから!」
「あら。そうなのですか?では、なんでしょうか?」
ご主人様が何を言いたいのか分かっていながら
「だ、だから、その……ほら、菫も女性なんだからさ。わ、わかるだろ?」
「さぁ~、
「ええ~!?」
ふふ……困る仕草も可愛らしいですね。
「ふふ……そんなに
「き、気が付いてたの?」
「あたりまえですわ。少し、旦那様をからかってみたくなってしまって、申し訳ございません」
「心臓に悪いよ」
「あらあら、これしきの事で狼狽えていては、良き当主になれませんよ」
「いや。関係ないと思うけど……」
「そんなことありませんよ。いつ、どんな時に敵から色仕掛けを掛けられるか分からなのですよ」
「いや。俺みたいな、冴えない男に来るわけないよ」
「はぁ……」
ご主人様……もう少し、ご自身の事を自覚していただきたいですね。
「旦那様?あなた様は我々の主でこの大陸を統一しようとするお方なのですよ。それを歓迎する人も居れば、その逆に心良く思っていない人々もまた居るのです」
ご自身がそれだけ重要な人だということを
「それに、旦那様をかどわかす人々も沢山います」
「そうかな?別に言い寄ってくる人なんていないけどな」
「……」
いえ。実際は居るのでしょう。ですがそれをご主人様は利用されていると思っていないのです。
「少々言い辛いのですが……あの優未さんと言いましたか、あの方も旦那様を利用していると
「優未はそんな娘じゃないよ」
「仮にも優未さんがそうでないとして、その王、孫策さんはそうでしょうか?そして軍師の周瑜さんは?」
「菫は実際に会ったことが無いから疑うのもわかるけど、孫策も周瑜もそこまで悪い人たちじゃないよ」
「はぁ……」
分かっていましたが、ここまでお人好しとは思いませんでした。愛紗さんや朱里ちゃんたちの苦労もわかります。
「溜息吐かなくても」
「いえ。愛紗さんから聞いていて分かってはいたのですが、ここまでとは思いませんでしたので」
「え?」
「まあ、これも旦那様の良い所として
「いや、すっごく気になるんだけど……愛紗になんて言われたんだ?」
「ふふふ。それは秘密ですよ、だ・ん・な・様♪」
(むにゅ)
「ふぉ!?ち、ちょっと菫!?」
「ふふふ……これは愛紗さんや
「こ、交代まで!?無理無理!こ、こんなの交代までやられたらマジでやばいって!」
「そうでなければ罰になりませんでしょ?ふふふ」
(むにゅ……むにゅ)
「ち、ちょ!す、ストップ、ストップ!」
「ふふふ、天の世界の言葉は分かりませんよ、旦那様♪」
なんとなく意味は分かりましたが
「か、簡便してくれ~~~~~~っ!」
「ふふふ……さあさあ、交代の時間まで頑張ってくださいね、ご主人様」
《愛紗視点》
「……」
(そわそわ)
「も、もう少しだろうか……」
(そわそわ)
「ま、まだか?」
私は馬上で空を見ながらそわそわする。
不覚にも最後になってしまったがそれでも待っていればこうして番は回ってくるのだ
「も、もうそろそろか?」
私はこのやり取りを菫がご主人様の下へ向かってからもう何十回と繰り返していた。
「さ、さすがにもう良い頃合いだろう……」
日も大分高さを増していたそろそろ約束の刻限に近いはずだ。
私は馬を下り、ご主人様の下へ向かった。
「あらあら、愛紗さん」
「菫か……?なんだか妙に嬉しそうだな」
「ふふふ、そう見えますか?」
「ああ」
「ふふ、きっとそれは旦那……ご主人様のおかげですわ」
「……」
今、旦那と言わなかったか?私の聞き間違いか?
「どうかいたしましたか?」
「いや、何でもない。それはで私はご主人様の所へ向かう」
「ああ、愛紗さん」
横を通り過ぎようとした時、菫に呼び止められた。
「どうかしたか?」
「いえ……人生はこれからですよ、めげないでくださいね」
「?あ、ああ。いつもそう心がけているが」
「そうですか。それなら安心ですわね」
菫は少し言い辛そうにしていたが……何を言いたかったんだ?
「もういいか?私は行くぞ」
「ええ……愛紗さん」
「?」
見送る菫だったが、なぜかその表情は少し悲しそうだった。
だが、その答えは直ぐにわかることになると今の私には想像もつかなかった。
「お、お待たせしました、ご主人様」
「や、やあ、愛紗……」
ご主人様の下へ着くとなぜかご主人様は少しやつれておいででした。
「如何なさいましたか、ご主人様。少々お疲れの様に見受けられますが」
「そ、そう見える?」
「はい。菫と何かあったのですか?」
「い、いや。何でもないよ。うん……なんでも」
「は、はぁ」
否定されていたが、なぜかご主人様は遠くを憂いた表情で見つめていた。
「えっと……おいで愛紗」
「っ!は、はい!」
ご主人様に手を差し伸べられ、私は意気揚々とその手を取ろうした。
「報告します!次の目的地が見えてまいりました!」
「な、なにぃ!?そんな馬鹿な!」
「い、いえ。あと一里もしないうちに着きます」
「な、んだと……」
こ、これは一体どういう事だ?
私の番が来たとしても、目的地まではまだ時間があったはず……
「えっと……愛紗?すごく言い難いんだけど……一刻近く、愛紗が来るの遅れてたんだよ」
「……は?す、すみません、ご主人様。も、もう一度、もう一度言っていただけますか?」
「……愛紗は一刻近く遅く来たんだよ」
「……」
「…………」
「………………」
「な、なんですとーーーーーーーーーっ!?!?!?」
暫くの間の後、私は大声で叫んだ。
い、一刻もだと!?どういうことだ!私の時間が止まっていたとでもいうのか!?
いやいやいや!そんなことある訳が無い!時間が止まるなど非現実的すぎる!
「……はっ!」
そこで私は菫の言葉を思い出した。
『人生はこれからですよ、めげないでくださいね』
私はあの時、気付くべきだったのだ……菫の言った言葉の意味と表情を……
あの言葉は、この事を言っていたのか……
「ご主人様!なぜ、呼んで下さらなかったのですか!?」
「呼びに行こうとしたんだけど……色々とあって」
「色々とはなんですか!」
「えっと……」
言い淀むご主人様。一体なにが……まさか……
「……菫、ですか?」
「っ!」
「やはりそうなのですね!」
「い、いや違う!誤解だ!まだ菫とは何にも!」
「ま、まだ!?で、ではそのうちにと言う事ですか!」
「あわわわわ!そ、そういう意味でもなくて!」
「では、どういうことなのですか!きっちり説明してくださいご主人様!」
「だ、だからね?その……」
どう説明しようか考え始めるご主人様。
「もう、愛紗ちゃん!遅いよ。目的地はもうすぐ……?どうかしたの愛紗ちゃん?」
そこへ、桃香様が星と朱里たちを連れて現れた。
「ふむ……丁度、お楽しみだったというところですかな?」
「えぇえっ!?そ、そうなの!?愛紗ちゃんだけズルい!」
「どう見ても違うだろ!星!どこをどう見たらそう見えるのだ!」
「おや、違ったのか?残念」
「残念ではない!まったく……」
「それでそれで!ご主人様、愛紗ちゃんと何をしたの!?」
「えっと……今の話聞いてた?桃香」
「うん!ご主人様と愛紗ちゃんが人には言えないようなことをしてたんだよね!」
「……」
「……」
桃香様の言葉にこの場にいた全員の動きが止まった。
「い、いや。あれは星が愛紗をからかう為に言った嘘で俺と愛紗は何もしてないんだよ」
「……?……っ!えぇえ!?そ、そうだったの!?」
「先ほど私が星に説明していたのを聞いておいででしたか?」
「全然!」
いや、そこで胸を張って自慢げに言われても……
「~~~~っ!と、とにかく!目的地はもうすぐだからみんな集合だよ!わ、わかった!?」
桃香様は恥ずかしかったのかそれだけを良い残し、この場から離れて行ってしまいました。
「逃げたな」
「逃げましたね」
「逃げちゃいましたね」
「うむ、逃げましたな」
私たちは口々に呟いた。
「えっと、とりあえず皆と合流しよう。最終的な作戦を立てないとね」
「はい」
「ですな」
ご主人様の提案に頷く朱里と星。
「はぁ~……私とご主人様との二人っきりの乗馬が……」
だがここでずっと落ち込んでいるわけにもいかない……敵はすぐ目の前なのだから……
「……よし!お待ちくださいご主人様!」
私は気合を入れ直してご主人様の下へ駆けて行った……
《To be continued...》
ドドドドドドドドドッ!
愛紗「葉月はどこに行ったーーーーーーーーーーーーーっ!」
愛紗「くっ!ここにも居ないか!あいつを成敗しなくては腹の虫を治まらん!」
愛紗「見つけ次第、叩き斬ってくれる!どこに行った、葉月ーーーーーーーーーーーっ!」
ドドドドドドドドドッ!
葉月「……どうやら、上手く撒けたようですね。しばらくはここも安全でしょう。さてみなさん、今回は如何だったでしょうか?」
菫「あらあら、ちょっと愛紗さんには可哀相なことをしてしまったかしら?」
葉月「いえ。結構、あんな扱いですよ、私の書く愛紗は」
菫「あらあら」
葉月「あ、言い忘れてましたが、今日のゲストは菫です」
菫「あらあら、遅いご紹介ですね」
葉月「いや、まあ、色々と立て込んでいまして」
菫「そのようですね。それで、愛紗さんからは逃げ果せそうなのですか?」
葉月「まあ、無理でしょうね。何気に協力者が多いもので」
菫「ふふふ、でしょうね。みなさん、どんどん報告してくださいね」
葉月「菫までそんなこと言うんですか!?」
菫「はい♪だって折角の好機だったのですよ?それなのに胸を押し付けるだけで終わりだなんて少々酷くは無いですか、葉月さん?」
葉月「いや、進軍中にするのは流石にまずいでしょ」
菫「そうですか?」
葉月「そ、そうですかって……」
菫「別にお口でもか」
葉月「わー!わー!わーーーー!そ、それ以上はNGワードですよ!」
菫「あらあら、残念ですわね」
葉月「はぁ……まあ、それにしても、今回の事でわかったことがあります」
菫「あら、なんですか?」
葉月「それはですね……全キャラ書くのはもうこりごりです!」
菫「あらあら、残念ですわね。ちなみに理由はなんなのですか?」
葉月「簡単ですよ。全員分話を考えるのは大変なんです!」
菫「……」
葉月「えっと……そこで微笑みながら黙らないでくれますか?」
菫「あらあら、それはすみませんでした。ですが、人気投票を行い話を書いているではありませんか」
葉月「人数が違い過ぎますよ。5人と12人じゃ書く量が倍以上違うじゃないですか」
菫「確かにそうですわね。ですがそれをやって見せるのがあなたの使命ではないですか?」
葉月「いや、そんなことないですよ」
菫「使命、ですわよね?」
葉月「いや、だから」
菫「使命ですよね?」
葉月「……」
菫「ですよね?」
葉月「……はい」
菫「ふふふ、ではまた書いてくださいね。葉月さん」
葉月「笑顔で迫るなんて卑怯だ……」
菫「ふふふ♪さあさあ、そろそろお開きではありませんか?」
葉月「俺の話を無視した!?」
菫「何か言いましたか?」
葉月「い、いえ、なにも……え、えっとで、ではみなさん次回はいよいよ。やっとこさ紫苑が出てきます!お楽しみに!」
愛紗「葉月ーーーーっ!?見つけたぞーーーーーーーっ!」
葉月「ぎゃーーーーーーっ!は、般若がきたーーーーーー!?」
愛紗「待てーーーーーーっ!」
菫「あらあら、行ってしまいましたね。それでは
菫「ではみなさん。また次回お会いしましょう」
愛紗「貴様の首級頂くぞ!」
葉月「そんなことしたらもう話書けなくなるじゃないですか!」
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ふぅ、やっと全員分書き終わりました。
もうこりごりだ~~~~!
とまあ、愚痴はここまでにして本日は前回に引き続き、馬上んのお話になります。
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