◆ 第33話 とある梅雨の1日 ◆
梅雨に入ってから湿気でぬこの毛がカオス過ぎる件。
どうも、ご主人にブラシをかけてもらっているぬこです。
ぬこが二番目に苦手な時期がやってきたとニュースが報道してから、ブラシがけの時間が日に日に延びてきているのは気のせいではないです。
でも、匠(ご主人)の手にかかれば、なんということでしょう!
あんなにごわごわだったぬこの毛がこんなにもふさふさに!
「はい、できたよー」
(ありがとうございます、ご主人)
見て下さいよ、この仕上がり。
しかも、すごく気持ちいいんですよ、コレが。ぬこ、癖になっちゃう……。
もう、ご主人はトリマーとしてもやっていけるよ。
だが、他の奴にはやらせねぇです! 淫獣とか淫獣とか!
自分で毛づくろいしてな!
「それじゃあ、私は学校に行ってくるね」
(はい、いってらっしゃいです。今は晴れてますけど、午後から雨が降るかもしれないんでちゃんと傘は持っていって下さいね?)
「うん、ありがと。でも、みぃ君も雨が降る前に帰るんだよ? じゃないとお風呂だからね」
(……ジェントルなぬことしてはお風呂は遠慮した「いってきまーす!」って、聞くつもりないんですね、分かります)
ぬこが言い終わる前に元気に登校して行くご主人であった。
えっ? 何これ、フラグですか?
お風呂連行→恭也さんの攻撃→オーバーキル、みたいな。
……リセットボタンはどこですか? セーブ前まで戻りたいのですが。
ま、まぁ、雨が降る前に帰ればいいだけだよね!
そう(無理矢理)結論付け、いつものように翠屋に向かうぬこであった。
◆
という訳で、いつものお散歩タイムですよっと。
あ、描写がなくてもちゃんと働いてたんでご心配なく。
ぬこのお仕事の本番は夕方からなので、問題なしなのですよ。……たぶん。
それに久しぶりの晴れの日なんでお散歩ぐらいしたいのですよ、ぬこですから。
まぁ、言い訳はここら辺にしておくとして、いつかのように公園にいるじい様やばあ様に煮干をたかるために公園に向かっています。
散歩がついでみたいになってるけど、あそこのじい様達がくれる煮干は異常にうまいから致し方なし。
でも、どうして煮干を持ち歩いているんだろうね? おやつでしょうか。
骨粗しょう症とか怖いですもんね。
そんなどうでもいい事を考えつつ、公園に入っていくと「アイゼン!」とか「ラケーテンハンマー!!」とか聞き覚えのある声が響いてきた。
何事!? とか思って駆け寄ってみると、ヴィータがじい様、ばあ様方とゲートボールをしていた。デバイス振り回しながら……。
魔法を隠すつもりあるの? と小一時間問い詰めたい衝動に駆られたぬこは悪くないはず。
(何やってんですか……)
「ん?……げっ」
近づいて行って、声をかけると露骨に嫌そうな顔をされた。
ぬこなんか悪い事しましたか?
心当たりがなく戸惑っていると、ヴィータがこっちにすっ飛んできた。
「お、お前ぜーったいシグナム達に言うなよ!」
(はぁ、何をですか?)
いきなり捲し立てられても訳分からんとです。
説明を要求する。
「だから! あ、あたしがここでジーちゃん達と遊んでた事……」
(いや、別に言うつもりもなかったけど……なんで? はやて嬢とか知ったら喜ぶ気がするけど)
はやて嬢はこの人達の母親みたいになってる気がしないでもない。
この前も翠屋で会った時とか、ヴィータが料理手伝ってくれたんよーとか、ご主人を自慢するお母様や士郎さんそっくりだったし。
「うるさいっ。いいから黙ってればいいんだよッ!」
(はいはい、わかりましたよー。それよりいいんですか?)
「なにがだよ」
(さっきから念話じゃないからじい様達に微笑ましい目で見られてますけど)
「えっ……」
慌てて振り向いたヴィータであったが、時すでに時間切れ。
「ほっほっほ、仲がええのー」
「あらあら、みぃちゃんに話しかけちゃって……可愛らしいねぇ」
「爺さんや、ちゃんと撮れてるかい?」
「ばっちりじゃ、あとではやてちゃんに送ってやるとしよう」
「待て、鈴木の爺さん。こっちにも送ってくれんか」
「任せんしゃい」
コレはヒドイ……
じい様達のIT化が進んでいるようです。携帯使いこなしてやがります……。
対するヴィータというと、さっきから顔を真っ赤にしてプルプル震えております。
そんなヴィータを見たじい様たちは、またパシャリと携帯で撮っている。
「う、う、うがあぁぁぁぁッ! ぶっ壊してやるぅ!!」
涙目でデバイス片手にじい様達に向かっていくヴィータ。
逃げるじい様、ばあ様。
迫るヴィータ。
年寄りとは思えない動きである。そしてラグビー選手のごときパス回しで携帯を回している。
……ホントに何者だ? ここの老人達は。
~10分後~
其処にはスクラップとなった携帯の姿と肩で息をしてるヴィータの姿が……!
携帯を壊された鈴木のじい様はorzっている……にやにやしながら。
どうやら機種変前の別の携帯とすり替えて、それを破壊させてたみたいですね。
戦時中の経験が云々とか言ってるじい様方。
何度も言うが何者だよ……本当に海鳴市は魔窟ですね。
そして、空気の読めるぬこはその事をヴィータに伝えないのであった。
(……大丈夫ですか?)
「……なんで、あんなに動けるんだよ」
(さぁ?)
ぬこが知りたいぐらいである。
本当にどこにでもいるような人たちなんですけどねー。
「さて、それじゃあ続きをやろうかねぇ、ヴィータちゃん」
「へっ、今度こそあたしが勝つからな!」
「そのセリフを5回ぐらい聞いた気がするんだがねぇ。ボケちゃったのかねぇ?」
「ぐぬぬ……ッ」
どうやらゲートボールを再開するようだ。
話を聞く限りヴィータはフルボッコされてるみたいだけど。
まぁ、相手が例の魔女のばあ様だからしょうがないかも。
「ヴィータちゃんがんばっとくれー。あのばあさんに目に物見せてやんな!」
「わしは魔女に賭けるぞい」
「あたしもだよ」
「むむむ、ヴィータちゃんじゃ!」
「おぉ、博打じゃのう」
「ふぇふぇふぇ、分の悪いかけは嫌いじゃないからの」
こっちはこっちでなんか賭けが始まってるし……。
すげえバイタリティーだな。マジ半端ない。
果てしなく使い道を間違ってる気がしなくもないけども。
「海鳴最強の名を置いて行ってもらうからな!」
「小娘如きが名乗れるような軽い称号じゃないんだよ。出直してきな」
なんという頂上決戦。
煮干をつまみながらのんびり観戦するぬことの温度差がヒドイ。
斯くして、戦いの火蓋は切って落とされたのであった!
◆
(惜しかったですねー)
「そーだなー」
結局、善戦はしたもののあのばあ様にヴィータは勝つ事ができなかった。
海鳴の魔女の名は伊達ではなかったようです。
見ていて思ったのは、ゲートボールってこういう競技だったっけ?
どんな戦いだったかは、この言葉で推して知るべし。
で、現在ぬこたちは本を読みに行ったはやて嬢のお迎えに図書館に向かっているところなのである。
なぜぬこもいるのかというと、この後翠屋に行くそうなんでご一緒してさせてもらうことにしたのです。
このはやて嬢の迎えというのは、普段はシャマルさんやシグナムさんが行くらしいのだが、
最近はなにやらはやて嬢にお金を出させていては申し訳ないということで、どこか働けるところを探しにいっているそうだ。
ようやく、自分達がヒモだって事を自覚したらしいですね。
「そもそも、あたしまで働けって言うのが無理なんだよ……」
(……誰に言われたんです?)
「シグナム」
(……労働基準法という言葉をグーグル先生に教えてもらった方がいいのでは?)
「だよなー」
どうやら先ほどの口止めの件はこの事だったらしい。
まあ、クロノとかユーノの事を考えると魔法使ってる世界ってのは就業年齢が相当低いのかも。
向こうの労働基準法とかどうなってるんですかねぇ。給金で補うにしても、子供に大金を渡すわけにもいかないだろうに。
とか、そんな事を話している内に図書館に到着した。
(それじゃあ、ぬこはこの辺で待ってますんで)
「おぅ、行ってくる」
さて、暇を持て余すことになりました。
普通なら携帯弄くったり、音楽聞いたりして時間潰すんでしょうけど、こういう時ぬこだと不便です……。
むぅ、ここは他のにゃんこ達を見習ってゴロゴロしておくか。
……
…………
やっといてなんだけど、コレって何の意味があるんですかね? マーキング?
でもちょっと楽しくなってきた気がしないでもないです。
ごろごろ、ごろごろ。
「あれ……? みぃ君?」
(んむ?)
「どうしたの? こんな所で」
声がした方を向くとそこには我らが神ことすずか嬢が!
というか、それこっちのセリフだったりする。学校はどうしたのさ?
「ダメだよ? あんまり遠くに行ったら。なのはちゃんも心配しちゃうよ」
そ、それはそうなんですけども、ぬこにも付き合いというものがありましてですね……
あの、そのぅ……スイマセン……猛省します……。
何か、めっ! って感じに叱られましたよ。
「あ、ごめんね。別に怒ってるわけじゃないんだよ?」
しゅんとしたのが分かったのか、謝りながらぬこを撫でてくれるすずか嬢。
ぬふぅ、気持ちいいのです。何者にも抗うことのできないこの撫で撫で……!
まさに至高! すずか嬢の家のぬこたちが妬ま、げふん。羨ましい……
「みぃくーん、おまたせーって、あれ?」
「え?」
ぬこがすずか嬢の撫で撫でによってヘブン状態になっていたら、いつの間にかはやて嬢たちが来ていた。
「えと、こんにちは?」
「あ、こんにちは」
(お、おいっ、何なんだこの空気!)
(ぬこに言われても困る!)
微妙な空気が流れ始め、ヴィータから念話が飛んできた。
ぬこに文句言ったって、どうしようもないです。
ぬこだけかも分からんが、初対面で友達の友達に会う時ってちょっと気まずいですよね。
「あの、みぃ君知っとるん?」
「う、うん、友達の家の子だから……」
「なのはちゃんのこと?」
「うん。えと、はやてちゃん、かな?」
「うん! なのはちゃんから聞いとった?」
「今度紹介するねって言ってくれてたんだけど……会っちゃったね」
「ふふ、そやね。えーと……」
「あ、ごめんね。私、月村すずかって言います。よろしくね、はやてちゃん」
「うん、よろしくなーすずかちゃん」
こんな感じではやて嬢とすずか嬢がお友達になってる傍らで
(なぁ)
(なんです?)
(あたしら空気みたいだな)
(そうですねー。でも、しゃべれないぬこよりマシじゃないですか? 参加できるし)
(あの中に入って行けって? 無茶言うなよ。お前こそ話に出てきてるじゃねーか)
空気な1人と1匹は肩身の狭い思いをしながら念話で愚痴っているのであった。
◆
で、あの後空気になりながら不貞腐れていたぬこたちに気がついたはやて嬢はヴィータをすずか嬢に紹介して、
しばらくおしゃべりをしていたのですが(無論ぬこは空気のまま)どうやらすずか嬢も翠屋に向かうらしく、車で一緒に行く事になりました。
ノエルさんが迎えに来た時にはやて嬢が「ぶ、ブルジョアや……」とか言って戦慄していたのが印象的でした。
何ですずか嬢がこんな時間に図書館にいたのかというと、
今日は避難訓練の日だったそうで早めに帰れたんだそうで図書館に本を返しに来ていたんだそうです。
避難訓練……懐かしい響きです。おはしですね、分かります。
まぁ、そんなこんなで翠屋へと帰ってきたんですが、そこにはご主人とアリサ嬢が待っていました。
図らずも集合してしまいましたな。
「な、なんではやてちゃん達が?」
「さっき図書館で一緒になったんよー」
「うん、みぃ君と一緒にいたからそうじゃないかなって思って」
「そっかぁ……。あ、はやてちゃん、ヴィータちゃん、紹介するね。この子がアリサちゃん」
「なのはから聞いてるわ、よろしくね」
「うん、よろしくなー」
「……よろしく」
一通り挨拶をして、そのまま外でティータイムに突入。
ギガうまっ! ギガうまっ!! とか言いながら一心不乱でシュークリームを頬張るヴィータを皆が微笑ましく見守りつつ、新しいお友達と親交を深める4人なのであった。
・
・
・
・
と、ここで綺麗に終われば良かったんですが。
「さぁ、みぃくーんお風呂だよー」
(ま、待って! 別に雨とか降らなかったですよ!?)
「でも、結構汚れてるよね? 朝あんなに綺麗にしてあげたのに……」
(あ、そ、それは……)
しまったぁぁぁ! 暇だからってゴロゴロするんじゃなかったよ!!
「フフフ、それにね? さっきはやてちゃんからメールがあったんだけど」
(な、なんでしょうか……?)
嫌な予感がとめどない。
冷や汗が出てくるよ! ぬこなのに!
「一緒に写真がついててね、みぃ君が嬉しそうにすずかちゃんに撫でられてたの」
(…… お わ た ! )
「特別に選ばせてあげるね? お風呂に入ってからスターライトブレイカーか、スターライトブレイカーの後にお風呂か」
(……どちらにしろ両方受けるわけですか。ちなみに拒否k……ないですよねー)
「早くしないとスターライトブレイカー→お風呂→スターライトブレイカーにするよ?」
(ブレイカー後のお風呂がいいですぅ!)
最早、涙目の懇願だった。
そして、ずるずると外へと連れ出されるぬこ。
あはは、スターライトブレイカーで気絶してる間に洗われるなら、ぬこはきっと紳士のままでいられるんだ……。
1時間後ボロボロなのに綺麗なぬこを発見する恭也さんであったが、さすがにぬこが不憫だったのか追撃が加えられる事はなかった。
◆ あとがき ◆
読了感謝です。
雲の騎士、己がヒモという事実に気付く……!
ちなみに、ぬこの一番苦手な季節は夏。暑い、毛は抜ける、毛玉はできる。三重苦なのです。
では、誤字脱字などありましたらご報告をお願いします。
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