6話 人外の戦い
人より優れた者を天才という
ならば天才より優れたものは何と呼ばれるか?
答えは簡単
―――化物だ―――
本日何度目かという爆音。
着弾地点は土煙で視界を遮られ、攻撃を受けた者の安否を確かめることも出来ない。
否、元より皆がそろって確認するまでもないと思っていた。
黄金に輝く鎧を全身に纏った英霊アーチャーの放った多種多様の宝具は確かに標的に命中していた。
ただでさえ一撃必殺の破壊力を有した宝具をあれだけぶつけられたのだ、良くてバラバラ、悪くて塵になっているだろう。
「フン…所詮こんなものか。何の趣も無い最期だな。雑種などその程度よ。」
心底つまらなさそうに吐き捨てて、先程までイーターがいた地点から視線を逸らした時だった。
「おいおい、勝手に瞬殺ムードになっちゃうなって。」
あり得ない。聞こえる筈のない声がその場にいた者達全員に向けて発せられる。
まさかと思い視線を戻せば、宝具の着弾地点に傷一つついていないイーターの姿があった。
アーチャーは不愉快そうに目を細め、その他の者達は唖然とする。
確かに宝具は直撃していた筈、それは間違い無い。
ならば何故無傷なのか?
何かで防いだ様には見えなかった上に、避ける仕草さえ伺えなかった。
「貴様、何をした?」
「さぁ?何だろうな?」
「問うているのは我だ。貴様如きに聞き返す権利は無い。」
「さいですか。まぁ答えは簡単さ。」
アーチャーの傍若無人ぶりに再び嘆息しながらも、イーターは不敵な薄ら笑いを浮かべて答える。
「あんなチンケでちゃっちいガラクタで俺を殺せるかよ。もっとマシな玩具を用意する事をお勧めするぜ?」
その一言でアーチャーの表情が一気に険しくなる。
「貴様……王であるこの我を侮辱するかっ!図に乗るなよ雑種が!!」
怒りも露わに声を荒げる黄金の英霊。
その背後には先程よりもより多くの武器が展開されており、発射の号令を今か今かと待ち侘びている。
それにしても何という宝具の数なのだろうか。
後ろでマスター2名と偽物一名が驚愕のあまり言葉を失っているようだが気にしていられない。
意識を目の前の敵にのみ集中させる。
飛来して来るであろう凶悪な破壊力を持った武具の雨を凌ぎ切るビジョンを頭の中で何度も思い浮かべる。
「消え失せろ!忌々しい獣がぁ!!」
怒声を合図に降り注ぐ宝具。
それらに向かって右手を突き出す。
先程の様に黒炎に包まれた腕は形を変え、今度は六つの銃身が一つに束ねられたガトリングガンに変貌する。
「さぁて、ロックンロールの時間だぜ!」
六つの鉄パイプのような銃身から成るシリンダーが高速回転し、大量の光弾を高速で撃ち出す。
そして互いが放った攻撃は真っ向から衝突し、命中しては吹き飛びせめぎ合う。
物量と物量による弾幕合戦はアーチャーが展開した宝具を全て発射し終えた所で終結する。
「今のってガトリングガンだよな?!近代兵器の宝具なんて、あり得ないだろ!」
「流石はイレギュラーと言った所か、初っ端から得体のしれん真似をしてくれる。」
今日で何度目かという驚愕、夥しい量の宝具を使う弓兵に現代の軍事兵器型の宝具を乱射するイレギュラー。
そんな規格外中の規格外の戦いで落ち着いていられる者など恐らくライダーぐらいのものだろう。
「小癪な真似を。我が消えろと命じたならば無駄に足掻かず命を差し出さぬか。」
「やだよ。どんな理屈だよそれ?ちょっと君落ち着いて考えようよ。うん、そうしよう。」
問答無用と言わんばかりに宝具を展開するアーチャー。
イーターはやれやれと苦笑しつつ迎撃態勢を整える。
だが、再び弾幕合戦が始まる前にそれは現れた。
黒い鎧を黒い霧が覆った、影を固めて作った様な騎士が静かに佇んでいた。
その場にいた誰もがこう思った。
「あれはバーサーカーだ」と。
「制服王よ。あれには誘いをかけんのか?」
「誘おうにもな……ありゃぁのっけから交渉の余地がなさそうだわな。」
冗談混じりの問い掛けに、ライダーは肩を竦める。
バーサーカーは文字通り狂戦士のサーヴァント。
理性を失う代わりに能力を引き上げた存在であり、そんな相手に交渉を持ちかけるなど前提からして間違いである。
「どうやらあれも厄介な相手みたいね。」
「そのようです。それに五人で睨み合っていては迂闊に動けません。」
「セイバーとランサーの決闘から始まってえらい騒ぎになったもんだな!」
「元々お前が乱入したからこうなったんだろ!何他人事みたいに言ってんだよ!」
しれっとしたライダーの態度にすかさずウェイバーは突っ込むが、またもやデコピンで黙らされる。
事態が緊迫(?)としている中、静寂を破ったのはーーー
「誰の許しを得て我を見ている?この狂犬風情が……」
やはりアーチャーだった。
とは言え、元々バーサーカーがアーチャーを狙っていたから反応した様だが。
「せめて散り際で我を興じさせよ。雑種…!」
イーターに向けられていた宝具の内二つの剣と槍が、標的をバーサーカーに変え、同時に射出される。
風を切る甲高い音の後にバーサーカーのいた地点が大きく爆ぜ、砕けたアスファルトがまた土煙を上げた。
しかし、サーヴァント達の間にのみ衝撃が走った。
恐らくただの人間には到底視認出来なかっただろう。
だが、英霊達は見た。
バーサーカーが、飛来した剣を難なく掴み取り、続いて飛来した槍を叩き落す光景を。
「奴め、本当にバーサーカーか!?」
「狂化して理性を無くしておるというに、えらく芸達者な奴よのう。」
狂化しても尚その身に染み付いた武芸は既に神業の領域に達していた。
先程の動作とてほんの一秒にも満たない出来事だったのだ。
「その汚らわしい手で我が宝物に触れるとは……そこまで死に急ぐか、狗ッ!」
イーターに続いて現れた不快な存在に、アーチャーはこめかみに青筋を浮かばせて激怒する。
まずはお前からだと言わんばかりに宝具の群れがバーサーカーに向けられた。
「その小癪な手癖の悪さを持ってどこまで凌げるか……さぁ、見せてみよ!」
とうとう宝具が発射された。
黄金に輝く武器の数々が、標的の命を刈り取るべく殺到する。
だが、黒騎士は全く臆する事も無く先程の様に飛来した斧槍を受け止め、素早く振るう。
一振りで三つの爆発が起き、余波で地面が大きく抉れる。
続けて戦斧を受け止めて頭蓋に目掛けて飛んで来た槍を払う。
高速で回転しながらあらぬ方向に消えて行く槍を見送る事も無く、斧槍を地面に突き立てて、短めの刀身を持った片手剣に持ち帰ると同時に三日月型の刃の付いた大鎌を叩き落し、続いて斧の一撃で三叉矛を弾き返す。
その勢いは全く衰える事無く、撃ち出される宝具を切り払い、弾き返し、叩き落とす。
バーサーカーの動きに焦りや疲れは一切感じられない。
まるで作業の様な手つきで宝具を凌ぎ、そして唐突に両手に持った斧を投げ返した。
それらはアーチャーが立っていたポールを三等分に切断して彼方に消えて行く。
咄嗟にポールから飛び降りたアーチャーであったが、その表情は正しく怒髪天を衝くと言うに相応しいものだった。
「痴れ者が……天に仰ぎ見るべきこの我を同じ大地に立たせるかっ!その不敬は万死に値する。そこの雑種よ、最早肉片一つ残さぬぞ!!」
再度宝具を展開し、もう一度撃ち出すという所でアーチャーの動きが止まる。
「…貴様ごときの諌言で、王たる我の怒りを鎮めろと?大きく出たな、時臣……」
あらぬ方を見ながら不愉快極まりない様子で呟く。
恐らくマスターの制止が入ったのだろう。
主の言葉を持ってしても怒りの治まる気配の無いアーチャーは、宝具を空間の歪みの中に収納し、さぞ忌々しそうに鼻を鳴らして踵を返す。
「……命拾いしたな、狂犬。」
興味も失せた、というような傲岸不遜な横顔をバーサーカーに向けると、背後に居並ぶ四体の英霊をじろりと流し目で睥睨する。
「雑種共、次までに精々有象無象を間引いておけ。我と見えるのは真の英雄のみで良い。」
そう吐き捨ててアーチャーは金色の粒子になって消えて行く。
それを見たウェイバーが大きく息を吐き出した。
あんな光景を見せられて思わず呼吸を忘れてしまったのだ。
「ふむ…どうやらあの金ピカのマスターはサーヴァント程剛毅な質では無いらしいな。」
呑気に顎を撫でるライダーにウェイバーは何時また暴れ出すか分からないバーサーカーが残っている事にツッコミを入れようとするが、それを遮るようにライダーが言葉を紡ぐ。
「心配せんでもあれの相手は決まっておるようだぞ?」
「え?」
怪訝そうにバーサーカーに向き直ると、ギラギラした赤い目が真っ直ぐに何かを見つめているのが分かった。
新たな標的に向かって駆け出す黒騎士。
アーチャーが乗っていたポールの一部をひっ掴んで振り下ろした先にいたのは―――
「嘘ぉ!?Σ(゚д゚lll)」
すっかり空気になっていたイーターだった。
イーター戦わせる筈が全然戦ってないし、完全にバーサーカーが目立ってるし、どうしてこうなった( ´Д`)
そしてまさかの展開になっちゃいましたね。
まぁそこまで深い事情とかは期待しないで下さい、簡単な理由ですから。
次回はまさかのイーターvsバーサーカー
出番取られた上にいきなり襲われる勇希君、もうやめたげてよ~(´Д` )
今度こそは本当に戦うんでそこは期待してて下さい。
Tweet |
|
|
2
|
1
|
追加するフォルダを選択
結局イーターさんの戦闘描写いれられなかった……