5話 英雄達の凱歌
英雄とはどのような者を指すのか
英雄とは誰よりも強く
誰よりも恐ろしく
誰よりも化け物染みているものだ
「AAAALALALALALAie!!」
気合の入ったかけ声(?)みたいなものを上げながら、二頭の大牛が引く中世の戦車に乗ったこれまた大きな男が現れる。
突然の乱入にセイバーとランサーも戦闘を中止する。
「双方武器を収めよ!王の御前である!」
いや、王の御前ってお前…いきなり何様だよ?
ほら、他二名もあんぐりして馬鹿みたいな面してるし。
「余の名は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した!」
両手を大きく広げて盛大にドヤ顔を決める征服王。
かなりのビッグネームが現れた重要な場面の筈が、本人のぶっ飛びぶりで見事にぶち壊しだ。
「何しに来たんだ?あの馬鹿は……」
思わず呟かずにはいられない。
それ程に乱入して来た男の行動は理解不能だった。
俺が一人で嘆息していると、ライダーの側で、また声が上がる。
「何を……考えてやがりますかこの馬鹿はァァァァ!!」
叫んだのはライダーのマスターだろうか?
見るからに冴えない若造が自分の倍くらいはありそうな男に掴みかかろうとするがデコピンで一蹴される。
「ぐへっ」という一声と共にひっくり返るマスター。
何故だろうか、嫌に哀愁を感じるんだが……
そして何事も無かったかの様に話を続けるライダー。
本当に大物だな……別の意味で。
「お主等とは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが……矛を交えるより先にまず問うておくことがある。お主ら各々が聖杯に何を願うするかは知らぬが今一度己に問うがいい。その願望、天地を喰らう大望に比してもなお、まだ重いものであるかどうか」
演説の様に告げるライダーの言動に、その場にいる全員が疑問符を浮かべる。
「まぁなんだ、ひとつ我が軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか?さすれば余はお主らを朋友として遇し、世界を征する快悦を共に分かち合う所存でおる!」
信じられない一言を聞いた。
まさかいきなり真剣勝負に割り込んだ挙句に聖杯を諦めて手下になれと言いやがった。
これはもう呆れを通り越して感動出来る次元の身勝手だ。
馬鹿だ馬鹿だと思っていたがどうやらこいつは大物であると同時にどうしようもない大馬鹿野郎みたいだ。
まぁ悪い奴じゃなさそうなんだが…
とは言え、帰ってくる答えは当然の如く
「断る。」
「笑止。」
断わられてるし、しかも即答。
ランサーに至っては鼻で笑われる始末だ。
「待遇は要相談だが?」
と、親指と人差し指で輪っかを作り、お金のジェスチャーをする。
しかし、二人はほぼ同時に「くどい!!」と鋭く突っ張ねた。
申し出を断られ、ライダーは心底残念そうに目を伏せる。
マスターも呆れたと言うより諦めたような顔をしており、どうやらあっちもあっちで手を焼いているらしい。
「私も王の一人。他者に下る気は無い。」
「我が槍は主の為の物。配下が欲しければ他を当たれ。」
きっぱり言い切られ、ライダーも流石に引き下がる。
これで漸く話が進むと思った時だった。
「そうか、よりにもよって貴様か」
男の声が辺りに響く。
それが位置情報を知っていた俺には、声の主がランサーのマスターであるとすぐに理解出来た。
「何を血迷って私の聖遺物を盗み出したのかと思ってみれば……よもや私に成り代わり聖杯戦争に参加していようとはな。フフフ…まったく、裏切られた気分だよ。ウェイバー・ベルベット」
虫けらを蔑むような皮肉と嫌味に満ちた言い口に、ライダーのマスターが震え上がる。
どうやら知り合いみたいだが、とりあえず友好的な間柄って雰囲気じゃないな。
しっかし腹立つ野郎だなぁ。
姿も見せずにコソコソと高みの見物決め込んでる奴が好き放題言いやがって
( *`ω´)
他人事とは言えども、こんな小物野郎にいつまでも言わせっぱなしにしてられるほど俺は温厚じゃない。
意を決してランサーのマスターがいる方向に向けて右手を翳す。
その動作に連動する様にして右手が黒炎に包まる。
不定形な炎はすぐに霧散し、その中から金属質な物体が姿を露わにする。
それは鈍く黒光りする巨大な銃火機だった。
突き出たバレルの先端を標的に向けて照準を定める。
そして、ランサーのマスターがまた口を開こうとした瞬間、大口径の大砲が雷が轟く様な音を立てて真っ赤な光弾を吐き出した。
突然の轟音にその場にいた者が一斉に振り向くが、視線が追い付くよりも先に更なる爆音が鼓膜に叩きつけられる。
音の先には黒煙を上げる倉庫だった。
何が起きたのか?
皆が困惑している中、ただ一人だけが即座に動いた。
「マスター!!」
主の危機に反応したランサーが黒煙の中に飛び込んで行く。
その言動であの黒煙の中に先程の声の主がいるであろう事をその場の全員が理解する。
だが、次なる疑問が浮かび上がった。
「一体誰が倉庫を吹き飛ばしたのだろうか」
セイバーとライダーが周囲の気配を探る中、俺はそれまで隠れていた地点から飛び降りて一同の下に歩み出て行く。
「ありゃりゃ。ちょっち火加減を間違えたな。後始末が大変だこりゃ。」
他人事の様に発した一声に、四人の視線が一斉にこちらへ向けられる。
…っていうか皆して睨まないでよね。
これじゃぁ学校に遅刻して授業中に教室入って来た寝坊常習犯みたいじゃない。
「新手のサーヴァント……」
「はい。間違いなさそうです。ですが……」
「どうしたの?」
「気をつけて下さい。奴からは何か異質なモノを感じます。」
銀髪姉ちゃんを背後に庇いつつ、セイバーは片手で握った剣をこちらに向ける。
どうやら俺の人外性に薄々とだが気がついているらしい。
「まぁまぁ、そう警戒しなさんな。俺は物見がてら気に入らない奴を見つけてSA★TSU★GA★Iしただけだからよ。」
敵対の意思が無い事を伝えたかったのだが、現在進行形でめっさ睨まれてます。特にあの貧乳アホ毛金髪女に。
対して、ガタイの良いボディービルダーは興味深そうな顔でこちらを観察している。
「通りすがりに役目を掻っ攫われたわい。あの者には余が直々に喝を入れてやらねばならなかったのだが。」
「気にしなさんなって、俺が個人的に気に入らなかったから勝手にやっただけだし。」
ライダーとはフレンドリーに話せて良かったと内心ホッと溜め息をついていた時、まだモクモクと煙を上げる倉庫の中から人影が飛び出して来た。
ランサーとそれに抱えられたさっきの声の主だ。
あれ程の爆発だったのに目ぼしい傷が無いのは俺が意図的に直撃させなかったから。
この場で始末するのは容易いが、奴が死ねばそのサーヴァントであるランサーも消える。
あまつさえライダーに真剣勝負に水をさされた後に片っぽが勝手にくたばったりしたら目も当てられない。流石にそれはかわいそうだろう。
とは言え手足の一本は崩落でおじゃんになってるかと思ったんだが何かしたのかな?魔法でも使って身を守ったって所かな?
一人で納得していると、ランサーが険しい表情でこちらを睨みつけてくる。
「貴様…!我が主に手を出すとは許さんぞ!」
「まぁまぁ、大した怪我もしてないんだから別にいいじゃんか。そう怒るなって。」
「黙れ!如何なる理由があろうとも、我が主に牙を剥く者は須らく俺の敵だ!!」
おーおー熱いねぇ。
美しきかな忠誠心ってか?
まぁその忠誠を誓った相手があれじゃぁ世話ないけど。
ていうか接触して早々これかよ。皆一々殺気立ち過ぎでしょ?ちゃんとカルシウム取ってんの?
ライダーさんを見習おうよ君達。
「ま、確かにいきなりぶっ放したのはこっちの落ち度だったな。悪かった、。命まで取るつもりは無かったんだよ。」
割とこれはガチだったりするよ?
だからそんな親の仇を見る様な目で睨むな!俺泣いちゃうよ!?
「まぁ落ち着けランサーよ。この場で彼奴に睨みを効かせた所で不毛であろう?」
おぉ、ライダーさん…アンタは何て良い人なんだ。本気で感動したよ俺!(T ^ T)
馬鹿何て言っちゃってホントすんませんした!
「して、お主のクラスを未だに聞き及んでおらんのだが?」
おっと、これは失念していた。
まずは名乗りを上げなければ無礼に当ると言うものだ。
だけと良いのかな?言ったら多分滅茶苦茶驚かれると思うけど…
まぁその時はその時だ。
「お初にお目に掛かる。サーヴァント“イーター”だ。今後ともよろ(^-^)/」
「イーターって……まさか、イレギュラーサーヴァントだっていうのか!?」
「ん、そうらしいね」
「おぉ、これはまた思いもよらん奴が出たものだな。」
ライダーさん以外の人達は皆目を見開いて驚いている。
揃いも揃って馬鹿な顔してるし、見てて面白いな。
「ではイーターよ。お主は我が配下になる気は無いか?」
予想通りの勧誘。正直悪い話でもないとは思うんだが、いかんせん様々な事柄に対する情報が不足している。
ライダー陣営は両者共良い奴そうだけどだからって簡単に返事をするのはまずい。
それに、まだ雁夜とも合流出来ていない。
今の内から徒党を組んでは協力を申し出る際にいらない警戒を抱かれる恐れだってある。
「申し出はすんごく有難いんだけど、やんごとない事情ってのがあってね。すまんがそいつは無理だ。」
「そうか、滅多にお目にかかれん人材であったからな。手元に置いておくのも一興かと思ったのだが、仕方あるまい。」
さっきので学習したのか、ライダーは素直に引き下がった。
「しっかし、アンタも物好きだねぇ。こんな得体の知れないのまで勧誘するとは」
「何を言う。例え貴様が悪魔だろうが怪物だろうが征服王たる我は受け入れる度量を持って当然であろう!」
二カッと子供みたいに笑う大男を見て、俺は心底感心した。
こいつは確かに身勝手で無茶苦茶な野郎だが、同時に誰よりも己に正直で真っ直ぐな男なのだと。
「色良い返事を得られなかったのは誠に惜しい限りだが、ならば此度の戦争を尋常に興じようではないか!!だが、その前に…」
すぐさま気をとりなおしたと思えば急に言葉を止める。
一同も怪訝そうに顔を顰めた。
「まだ高みの見物を決め込んでいる者がおるであろうが!」
「ど、どういうことだよ?」
「これだけド派手に殺りあっていた所を盗み見ていたのが我々だけなどということはあるまい。英霊ともあろう豪傑達とそのマスターがコソコソと覗き見などと、この場で真っ向から打ち合ったセイバーとランサーを見習うがいい、英霊の名が聞いて呆れるとは思わないか?聖杯に招かれし英霊は今ここに集うがいい!それでも尚顔見せを怖じるような臆病者は征服王イスカンダルの侮辱を免れぬものと知れ!」
征服王の名に相応しい覇気の篭った熱弁が辺り一帯に響き渡る。
本当にこの場を盗み見ている英霊がいたのなら、このまま縮こまってるなんて事は無いだろう。(アサシンは話が別だが)
「この我を差し置いて“王”を称する不埒者が、一夜に二匹も沸くとはな」
大層な発言と共に現れたのは全身に金ピカの鎧を纏った若い男だった。
つうか何ぞあれ?装飾過多にも程があるだろ?見てて目が痛いよ、色んな意味で。
「随分な言いようではないか。ならば名乗るがいい、己を王の中の王と自負するのならば、よもや自身の名を憚ることなどすまいな?」
「問いを投げるか?雑種風情が、王たるこの我に向けて。万死に値するぞ。」
コイツは参った。とりつく島も無いって奴だ。
間違いなく友達少ないかわいそうな人だよあの人。親は一体どんな育て方してやがったんだ。
「しかし、知らんものは知らんものでなぁ。」
「我が拝謁の栄に浴して尚この面貌を知らぬと申すならばそのような無知蒙昧は生かしておく価値すらない。」
どんな理屈なんだか……ただでさえ身勝手なオッサンが現れて呆れ半分諦め半分のこの時に、更に自分勝手そうな奴が現れた。
流石にお腹一杯です。
すると、金ピカの背後の空間が、小石を投げ入れられて揺らめく水面の様に歪み始め、その中から剣やら槍やら斧やらが出現する。
もしかしてあれ全部使うのか?扱うの結構大変そうだな~。
何て呑気な事を考えていると、突然金ピカと視線が合った。
そして、何故だか知らないが怪訝そうに目を細められる。
「貴様、何だ?」
「へ?何だって…いきなり言われても返答に困っちゃうんですけど。」
「何故貴様の様な化物がいると問うているのだ。さっさと答えろ。」
一瞬ハッとした。セイバーとかは俺の人外性をそれなりに察知していたが、あくまで感じ取れたのは表面上のものだ。
だがあの金ピカはどうだろうか?恐らく奴は俺の本質を見抜いている。
人間と化物と妖怪と悪魔と神が混ざり合った人のカタチを持った混沌そのもの。
それを遠目に見ただけで見抜いたのか。大したもんだ。
だが、感心したのも束の間、金ピカが洒落にならない発言をする。
「貴様如き雑種が、“奴”と同じ粋に居座るな。消え失せろ。」
「……はい?( ̄◇ ̄;)」
まさかと思った次の瞬間、金ピカの背後に展開していた武器の数々が俺に向かって一斉に飛来した。
あとがき
結構強引なやり方でいきなりVSギルガメッシュです。
とはいえここで倒しちゃったりはしません。
ちなみにギルさんが攻撃して来た理由なんですけど、ギルさんの友達に
神の泥人形のエルキドゥとかいう人がいたらしくて
同じような人外であった両者に似通った点が幾つかあり、自分の唯一の盟友とそんじょそこらの奴が同格でいることが気に食わなかったからってことにしてあります。
まぁギルさんならやりそうでやんなさそうな行為ですよね。(多分)
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他勢力集結
戦闘は次回ですね