◆ 第31話 ぬことBCW ◆
どうも、今日も今日とて看板ぬことして働いてるぬこですよ。
ご主人の星光破壊光線であわや消し炭になりかけた事件から早一週間近く経ちました。
手加減してあの威力……あるぇ?
ご主人が練習してるのは魔法の制御だけだった気がするんだが、何で威力が上がってるんだろう?
ぬこが知らないところで練習でもしてるんじゃなかろうか……これ以上強くなってどうするんだろうかと思わなくもないです。
ぬこなんて魔力量とか全然増える気配すらないというのに……
おかしい、某野菜人的な法則で言えばぬこのパワーアップフラグとか乱立してるハズなんだけどなぁ……主にご主人のおかげで。
ま、それは置いておいて前回の後日談的な事を話しておくと
家に帰るとぬこはご主人に誠心誠意謝って何とか許してもらうことはできたんですが、
さすがにはやて嬢の事を話さないわけにいかなかったのでぼかしながら話したところ「私も会ってみたい!」だそうで……
まぁ、はやて嬢とご主人が会う事自体はぬこは賛成なんですけど、問題はシグナムさん達なんですよねー。
いや、実際問題があるのはこっちの方なのか?
ご主人がはやて嬢と会うことになると、自動的にシグナムさん達の事がリンディさん達に伝わる可能性が跳ね上がるだろうし……
シグナムさん達は言わなかったけど、たぶんジュエルシードとかと同じロストロギアみたいなもんだよね、闇の書って。
となると、はやて嬢たちが引き離されるということになると言う可能性も無きにしも非ずなわけで。
こっちが危ない人たちじゃないですよーって言っても、アースラ組はともかくその上となると分からないし。
そんな事が頭に浮かんだりしたので、一応ご主人には予定が分からないから今度訊いておきますねーとか言ってぼかしておいたんですが、どうしよう?
そもそもこんな頭脳労働をぬこのこんなちっちゃい脳みそにやらせるとか、無理ゲー過ぎるでしょ!
こういうのはユーノとかクロノの担当ですよ? このままだとぬこ禿ちゃうじゃない!
ぬこにだってストレス性円形脱毛症とかあるんだからね!
などと頭を抱えながら、地面をごろごろとしていたら
「……なにやっとるん?」
(んむ……?)
声をかけられた方を向くと、そこにはいつの間にかはやて嬢とシャマルさんが。
お買い物中みたいですね。
(はやて嬢にシャマルさんか、一週間振りですな)
「うん、今日はシュークリームを買いにきたんよ」
(そうですかー。あ、今日はサービス期間中でケーキが2割引なんでそっちもお勧めですよー)
「む、そうなんか。んー、シャマルはどっちがいいと思う?」
「えっ、私ですか? そうですねー……」
2割引……でも、せっかくシュークリームを楽しみにしてたヴィータちゃんが……
でもでも、ケーキだっておいしそうだし……とかぶつぶつ呟き始めるシャマルさん。
なんか一週間しか経ってないのにこのシャマルさんは一気に主婦っぽくなった気がするな。
(シャマルさんが所帯じみてきましたねぇ)
「そやろー。今日は昼食作ってくれるやって! コレはその材料なんよー」
(へぇ、シャマルさん料理できたんですか。まぁ、あの面子の中じゃ一番違和感がないですわな)
「でもシグナム当たりはサバイバル料理が似合いそうやない?」
(否定できないです。そのうち熊でも狩ってくるんじゃないんですか?)
「うわぁ……」
熊狩りの女、シグナム。実に嫌な通り名である。
どっかの蜂蜜好きの黄色い奴と争わなきゃいいんだけど。
さすがのシグナムさんでも勝ち目がないと思うよ)
「その話題はアカン!」
(……あれ? 口に出てました?)
「口って言うか念話やったけどな」
(念話ならば致し方なし。それよりも悩み過ぎて涙目になってるシャマルさんは放っといてもいいんですか?)
シャマルさんが こちらを たすけて ほしそうな かおでみている!
悩みすぎて最早涙目である。
「うぅ~はやてちゃーん」
「そこまで真剣に悩まなくてもええのに……」
(というか、両方買って半分ずつ味わうとかダメなんですか?)
「あ……も、もちろんそうしようと思ってましたよっ?」
(ダウト)
「シャマル、それは無理があるわぁ……」
「うぐっ」
なんというか残念な人だなぁ……
はやて嬢と一緒にしらーっとした目で見つめる。
ぬこなのにそんな目ができるかというツッコミは聞きませんっ!
「わ、私シュークリーム買ってきますね!」
居た堪れなくなったシャマルさんはそう言い残すと、その視線から逃げるように店内に入っていった。
なんともまぁ、こんなとこを見ているとぬこが必死こいて悩んでるのが馬鹿らしくなってくるなぁ……
「ふふっ」
(ん? どうかしました?)
「さっきもゆーとったけど、まだ一週間ぐらいしか経っとらんのに、シャマルもずいぶん変わったなーって思ってな」
(そうですねー)
「シャマルだけじゃなくてな、シグナムも、ヴィータも、ザフィーラだってそうや。最初はあんなによそよそしかったのに」
(いいことじゃないですか)
「うん、いいことや。今までひとりやったからな、本当に皆のありがたさがよく分かるわぁ」
(………)
ホントにシグナムさん達に良くしてもらってるんだろうね、コレは。
闇の書とやらが危険なものであっても、離れ離れにさせたくないですねぇ。
とは言うものの、完全にぬこだけじゃ手に余る問題だし………ん?
おおっ! ぬこだけじゃどうにもならない、つまり逆説的に他の人も巻き込めばいいじゃないって事だな!
ぬこ頭いい!天啓キタ!
具体的にはユーノとかユーノとか……それと、ユーノとか! 巻き込んでやればいいな。
別にぬこだけが考えてる事が不公平だとか、考えるのがめんどくさくなったとかそんな訳じゃないので悪しからず。
実際のところユーノも話せば分かってくれるだろうし。
それに、これで別にご主人とはやて嬢の接触で悩む必要もなくなるし、一石二鳥である!
早速はやて嬢に許可をもらう事にする。
(ところで、はやて嬢!)
「うわっ、なんやいきなり大声で……念話だけど」
(ウチのご主人がはやて嬢と会ってみたいって言ってるんですが構いませんね!?
ちなみに返事は【はい】【イエス】【ヤー】【ダー】からお願いします!)
「なんという一択……別にいいんやけど、みぃ君のご主人ってどんな人なん?」
(あれ?言ってませんでしたっけ?)
「うん。桃子さんや士郎さんじゃないんやろ?」
(お二人の一番下の娘さんですよーはやて嬢と同い年です)
などと、ご主人のことを軽く紹介しておくぬこであった。
ちなみにご主人が魔法使いじゃなく魔砲使いだとかそんな事は言ってません。
さすがに一級フラグ建築猫(死亡フラグに限る)のぬこであっても、こんな露骨なフラグは建てないです。
どの口が……とか言う人はご主人直々にバスターしてもらいます。
「お待たせしましたー」
(お疲れ様です。……妙に時間がかかりましたね)
「大方どのケーキにするか迷ってたんやろ」
「うぅ、だってどのケーキもおいしそうだったんですもの……」
(そりゃもちろんどれもおいしいです。いつも食べさせてもらってるぬこが言うんだから間違いなし)
「なんと羨ましい猫……みぃ君なんて太ってまえ」
(フハハ! これは翠屋で働いてる者の特権である! もっと妬んでもいいんですよ?)
「働いている……?」
(……ゴメンナサイ)
はやて嬢にじと目で見られました!
どう考えてもゴロゴロしたり、女の子達に弄ばれてるだけですね。
「このケーキを毎日……。うぅ、いいなぁ」
(ならシャマルさんもここで働いてみたらどうです? お母様がバイトが足りないから増やそうかしら、とか悩んでましたし)
「おおっ、という事は割引してもらえるかもな!」
真っ先に考えるのが、従業員割引ですか。
まあ別にいいですけど。実際にやってるし。
「ええ!? で、でも私達戸籍とかないですし……」
(お母様ならタイムラグなしで了承とか言いそうですけど)
「みぃ君、そこは同意するけど作品が違う。怪しいジャムが出てきそうや」
(ま、メタな話はさておき、どうします? 良ければぬこがご主人経由で伝えてもらうこともできますけど)
「も、もうちょっと考えさせてください。はやてちゃんのこともあるし……」
……まぁ、はやて嬢の補助は必要だとは思うけども。
ヴィータ嬢はともかく他三人がずっと家にいるというのは……
ご近所さんの目とか気にならないんだろうか?
幼女のヒモ……とか噂されてません?
「ぶー、心配してくれるのは嬉しいけど、そんな気ぃ遣わんでもええのに」
「ふふっ、まぁまぁ、それじゃあ帰ってお昼ご飯の用意をしましょうか。ヴィータちゃんもお腹空かせて待ってるでしょうし」
「そやねー。あっ、みぃ君も一緒に食べん? せっかくシャマルが作ってくれるんやし」
(いいんですか? ぬこの分まで……まぁ、猫まんまだけど)
「ドッグフードいいんなら、ザフィーラの分があるけど?」
(ぬこにドッグフードを食べさせようとしないでくださいな。まあ、そちらがよろしいんならご相伴に預かりますよ)
「勿論や! な、シャマル?」
「ええ、人数が多いほうが楽しい、ですよね?」
「うん!」
あれよあれよという内に、昼食は八神家でとることになったようです。
まぁ、とりあえずお母様に報告しておかないと……
「いってらっしゃい。いつも通り15時頃までには帰ってくるのよ?」
……はい、いってきます。
「なぁなぁ、みぃ君。桃子さんは魔法って使えるん?」
(いいえ。ていうか、念話すら使ってませんでしたよ、ぬこ)
「……すごいなぁ」
本当にお母様の意思疎通レベルはマジぱないです。
◆
というわけでやってきました八神家!
現在シャマルさんは昼食を作るために孤軍奮闘しているところです。
当初は、はやて嬢も手伝うと言っていたんですが、自分ひとりでやってみたいらしく断っていました。
まぁ、ご主人と会う日も決めなきゃだしちょうど良かったです。
シグナムさんにも知らせておいた方がいいだろうし。
どうでもいいけど、新聞読む姿が様になってますね、シグナムさん。
ともあれ、二人に声をかける。
(はやて嬢、シグナムさん、ちょっとお話があるんですが)
「ん?」
「なんだ?」
(さっき話してたウチのご主人と会ってもらう件なんですけど)
「あぁ、そう言えばそんなこといってたなぁ。なのはちゃんやったっけ?」
「待て、そのご主人とやらは魔導師だろう? 我々は……」
予想通りの難色ですね。
まあ、とりあえず最後まで聞いて欲しい。
(いやいや、ちゃんと分かってますよ。
でもですね、この街にいる限りはそちらさんとぬこだけじゃ誤魔化すのにも限界があると思うわけですよ。
いずれはご主人や管理局にもバレると思うわけです)
「む……」
(だからいろいろと問題が起きる前に知り合っておけば、フォローし合えると思うんですよ)
「それはそうだが……」
(それに、もしバレた時に皆さんがはやて嬢と平穏に暮らす事を望んでるっていう第三者の保証があった方がいいでしょ?)
「………」
(もしはやて嬢たちに不利益を被るような事をしたときにはぬこをどうしてもらっても構いません)
じっと目の前のシグナムさんを見つめる。
「……いいだろう」
「おいっ、シグナムッ!」
「ただし、何かあった際には……分かってるな」
(無論です)
「む~」
迷いなく言い切る。
どうやらシグナムさんは納得してくれたようである。
ヴィータ嬢は若干こっちを睨んできているが……
ま、まぁこれで気兼ねなくご主人と会ってもらえるということで!
(ということではやて嬢……って、アレ? どうしたんですか?)
「どうせ私は空気ですよー私のことほったらかしにしといて話進めるんやもんなー」
「あ、主はやて! そのような事は決して!」
「そうだよはやて! そんなこと言ったらさっきから一言も喋ってねぇザフィーラなんて……」
(……そういえば完全に犬と化してますね)
「…狼だ」
などと、拗ねてしまったはやて嬢やザフィーラさんをぬこたちが慰める作業が続いたのであった。
さっきまでのシリアスな空気はどこに行ったんですかねー。
シリアスが長続きしない事に定評のあるぬこなのであった。
◆
「ご飯ができましたよー」
ようやくはやて嬢の機嫌が良くなったところでちょうどご飯ができたようだ。
なんか無駄に疲れましたよ……
疲れたこっちとは違って機嫌よさそうに配膳していくシャマルさん。
やっぱり料理は好きなようだ。
さっき翠屋で働いてみないかって言ったときも「いいんですか!?」って顔してたし……
後でもう一回聞いてみることにしようかね。
「さぁ、初めてシャマルが作ってくれた料理や。味わって食べような」
メニューは一般的な和食のようだ。
見た目は完璧、においもいい感じだ。
まだ一週間程度しか経ってないのに和食が作れるようになるなんて……
ま、ぬことザフィーラさんは普通に猫まんまとドッグフードな訳ですが。
「んじゃ、いただきます」
『いただきます』
「………っ」
期待を込めた目でこちらを見るシャマルさんを横目で見つつ、はやて嬢の合唱で各自一斉に料理を口に運ぶ。
・
・
・
・
『ぶふぅぅぅーッ!!』
そして各自一斉に口から噴出された。
「え、えぇーーッ!? ど、どうしたんですか!?」
あまりに予想外な反応だったのだろう、シャマルさんが目を丸くして訊いてきた。
そしてそれはこっちのセリフなんだけど!
(な、な、なんなんですか……コレは!?)
「何って、その、見ての通りお料理ですけど……」
「しゃ、シャマル……あ、味見は……」
「しましたよ?」
おいしかったですよ? と、本当に不思議そうな顔ではやて嬢の顔を見るシャマルさん……
味覚がおかしいのか……? いや、それだとぬこの猫まんままでこんな風になるのはおかしくね?
ということは、味覚のレンジが広いかつ、壊滅的な料理センス……ッ!
「シャマル……料理、できるってゆーとらんかったっけ?」
「えと、はやてちゃんがあんまり簡単そうに作ってたから私にもできるかなーって……」
「……つまり?」
「作った事はありませんでした……」
料理が下手と言うことDEATHネ?
美由希さんを超える人がここに居た……
ちなみに味は甘味、辛味、苦味、渋味、雑味、すっぱさ、塩辛さ全てが同時に舌に直撃し、後味として渋味、苦味だけが永続的に残っている……そんな、感じです。
というか、見た目、においともに完璧なのに味だけこんなのとかタチ悪すぎだろ……
そもそも、猫まんまをどうやったらここまで、改悪できるのですか……?
「み、みぃ君、全身の毛が逆立っとるんだけど、大丈夫なん?」
(そういう、はやて嬢こそ、顔が真っ青な上、手が痙攣してます、けど?)
「だ、大丈夫や。シャマルの、主として、私は、全部、食べ……(ガクッ」
(は、はやて嬢ーーーッ!?)
「はやてちゃんッ!?」
箸を手に持ったまま目を回し、気絶してしまったはやて嬢。
慌てて駆け寄るシャマルさん(犯人)
というか、他の人達はえらい静かだけども……
(いきてるひと、いますか?)
『…………』
反応がないただの屍のようだ……
(ははっ、きれいな顔してるだろ……? 死んでるんだぜ、コレ)
「死んでません!」
はやて嬢に治療魔法をかけながらシャマルさんが言う。
こういうのにも治療魔法って使えるのね、魔法すげぇ。
「そ、それで、あなたは大丈夫なんですか……?」
(獅子舞でも踊れるように見えますか? それならぬこも安心ですだよ……)
こんなに毛が逆立って足がガクガクしてるのに、ネタに奔れるぬこはただ単に耐性が微妙にあるからに過ぎない。
ここは美由希さんに感謝すべきですか……?
でも、それもそろそろ限界を迎えそうである。
しかし、ぶっ倒れる前に、シャマルさんに言っておかなければならない事がある。
(シャマルさん……)
「は、はい?」
(翠屋のバイトの件はなかったことに……(バタッ)
「え、ど、どうしてッ!?」
この状況でどうしてとか……
ツッコミを入れる前にぬこの意識は暗転するのであった。
・
・
・
・
後日談、と言うか今回のオチ。
あの後、長い気絶から目を覚ましたぬこは皆の介抱をしていたシャマルさんに、今週の日曜辺りにご主人連れてきますと伝えてから翠屋に戻ったんですが。
予想以上にあのシャマルさん特製のBC兵器が強力すぎて世界が歪んで見えています。
そんな状態でもがんばって接客してたんですけど、学校から帰ってきたご主人の姿を見て緊張の糸が解けたのか、ぱたりと倒れてしまうのであった。
「み、みぃ君ッ!?」
慌てて駆け寄るご主人に
(最期にご主人に会えてよかったです……)
そう言い残して再び意識を失うぬこなのであった。
◆ あとがき ◆
読了感謝です。
BCW = Bio Chemical Weapons
シャマルさん、翠屋就職ならず。でも、しょうがないよね。
これも、メシマズの設定が付与されたあなたが悪いんです。原作では美味しくない、微妙ってレベルなのにね。
誤字脱字などありましたら、ご報告いただけるとありがたいです。
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